医学のあゆみ
Volume 222, Issue 2, 2007
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あゆみ 人体試料の研究・教育・医療での利用──その現状と問題点
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人由来試料の研究・教育・医療での利用──その現状と問題点
222巻2号(2007);View Description Hide Description手術や病理解剖,あるいは検査目的,健康な人からの寄贈などによって得られた貴重な人由来試料を医療・研究・教育の面で有効に利用していくことに対して昨今,従来なかった困難さが生じており,またこの利用をめぐるトラブルが多発している.当然なされるべき利用を円滑に進められるためにはどのような努力が必要であろうか.本特集の記事のすべてが,それぞれの立場からの解決を訴えているが,著者はとくに,“人由来試料の責任をもった管理”という面について,それがわが国では総じて甘いという現実があり,この甘さが現場において諸種のトラブルを生み出す原因になっていることを述べた.人由来試料の管理は,これを一般的な良識といった精神律のなかでとらえるのではなく,各病院の現場が今日的な倫理観に立脚した管理のための指針をもって運用することが必要である.また学会,行政などでは,各病院がその管理を適切に行うための土壌の形成に向けて努力することが望まれる. -
人体試料の研究供与──—わが国の活動
222巻2号(2007);View Description Hide Description新しい薬剤にしろ細胞療法のような新しい治療法にしろ,最終的には人体で実験することになる.いわゆる臨床研究である.もちろんその前に十分な動物実験が組まれる.しかし,動物と人類との間の種差による反応の違いは予知できない.しかし,生体に使う前に,正常な代謝活性のある新鮮人体試料を使えば,試験管内でもある程度の反応の違いがわかるはずである.では新鮮人体試料をどのようにして入手すればよいのか.現在国内での新鮮人体試料の提供はゼロに近く,ほとんどすべてがアメリカに依存している.そこで欧米と同様に移植の死体臓器提供のときに,研究用組織の提供を合わせて行うことができるか,法的倫理的に研究し,可能性を見出した. -
人体試料の利用──その倫理的側面
222巻2号(2007);View Description Hide Description多くの指針が提示されているが,人体試料の取扱いに関しては曖昧な点が多い.病理部門には生検や手術あるいは病理解剖から得られた臓器やパラフィンブロックなど膨大な人体試料が保管されているが,医療者でさえ,その実態を知らない.このような人体試料を教育・研究・精度管理に用いるには,すくなくとも検体由来者からの包括的同意を得たうえで,倫理審査を受けることが必要である.日本病理学会と外科関連学会協議会は連名で“患者の病理検体(生検・細胞診・手術標本)の取扱い指針”を公表した.人体試料の取扱いに関してはすべての医療者が認識を共有する必要がある.各医療機関が人体試料の管理・保管,利用目的,個人情報保護に関する院内ルールを設定し,それを公開して一般社会への説明責任を果たすことが現実的な対応である.“生命倫理”や“医の倫理”は時代や社会の変遷により変化するものであるがゆえに,たえず検証・評価を重ねる必要がある. -
わが国の移植医療における臓器・組織・細胞供給──その現状と今後
222巻2号(2007);View Description Hide Descriptionわが国の臓器移植における臓器提供は,心停止後提供,脳死後提供,生体ドナーからの提供がある.1997年に臓器移植に関する法律(臓器移植法)が施行され,わが国においても脳死臓器移植が可能となった.この2年前には,これまで各地にあった腎バンクを整理統合する形で臓器の斡旋機関として社団法人日本臓器移植ネットワークが設立された.しかし,脳死ドナー数は法施行後10年経過した2007年4月までで55ときわめて少ない.このため生体ドナーの占める割合が高く,医学的・倫理的・社会的問題を提起している.世界においても移植希望者に対し臓器提供者の相対的不足はますます深刻化していく傾向である.一方,骨髄・臍帯血移植は公的バンクによる造血幹細胞供給として行われている.現在は血縁者間移植より非血縁者間移植が上まわり,さらには末梢血幹細胞移植,HLA部分合致移植,HLA半合致血縁者間移植などが行われるようになって移植提供は多様化してきている. -
わが国におけるヒト研究資源バンクの現状と今後──JCRB(Japanese Collection of Research Bioresources)細胞バンク(厚生労働省)から
222巻2号(2007);View Description Hide Description -
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わが国における解剖の法的・倫理的問題点──医学の発展のために解剖が果たしうる役割と関連法規との乖離をどのように埋めるか
222巻2号(2007);View Description Hide Description解剖に関する法律としては1949(昭和24)年に制定された死体解剖保存法と,1983(昭和58)年に制定された,いわゆる献体法とがある.死体解剖保存法は解剖の目的を公衆衛生の向上と医学・歯学の教育または研究としているのに対して,献体法は献体の目的を医学・歯学の教育の向上としている.そうすると献体を用いた研究目的の解剖は法律上許されるのかどうかという問題が生じる.また,献体法が当初想定していた卒前教育の系統解剖のほか,主として中堅以上の外科系医師を対象とした卒後研修としての臨床解剖の重要性も認識されるようになってきた.この2つの類型の解剖の法的・倫理的根拠を,今日の日本の各種法令・ガイドラインに照らして考察してみた. -
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人体由来試料の研究利用──その法的側面
222巻2号(2007);View Description Hide Description“Human experiment is morally necessary,and necessarily immoral.”というパラドックスを解く鍵はただひとつ“被験者の承諾”にあるといわれてきたのは,丸のままの人間に対する実験のことであった.いま問題になっているのは,対象としては人由来試料というワンクッションおいたものである一方,承諾もまた包括的承諾というinformed consentに一呼吸おいたものになっている.そこにおける矛盾の解決には,いっそうの工夫を要するようである. -
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人体試料と法──適正な利用のためのルールづくり
222巻2号(2007);View Description Hide Description人体に由来する臓器,細胞,医療情報など,一括して人体試料とよばれるものについては,医学研究・教育・臨床での利用が重要であるが,他方で,それが由来する人(通常は患者)の保護という観点も欠かせない.その間のバランスをどのようにとるかは,わが国ばかりでなく世界的な課題でもある.わが国では伝統的に所有権概念を中心とする議論がなされ,イギリス・アメリカではむしろ人格権的な議論が中心となってきたが,いずれも最適な解答を見出せないでいる.いまや,所有権でもなく人格権でもなく,このような権利からスタートする抽象的な議論を止めて,人体の試料の種類とその利用法の区別を行い,それぞれについてどのような利用と濫用が考えられるかを考え,それぞれに適切なルールを工夫するという機能的・帰納的アプローチが必要である.
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フォーラム
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逆システム学の窓 Vol.6 肺がん検診は胸部CTによるべきか否か?──変わるがん検診,治療評価の考え方
222巻2号(2007);View Description Hide Description -
家族みんなのドタバタ留学記 in Melbourne 0.家族で留学!
222巻2号(2007);View Description Hide Description医学部卒業後,母校の衛生学教室に入室し14年目.2006年8月からWomen’s Healthと英語を学習するため家族4人でメルボルンへ.1年5カ月間の留学予定である.今回は連載開始にあたって,留学までの経緯を紹介する.
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連載
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- 医療情報のIT化と医療情報学──電子カルテとどう付き合うか
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8.医療情報システムの相互運用性(3)データ形式──HL7, HL7 CDA, DICOMで医療情報システムの標準化
222巻2号(2007);View Description Hide Description医療情報システムは,以前は業務範囲も小さく,1社ですべて揃えることが可能であった.しかし,画像システム,検査システム,薬剤システムなど,院内でも部門システムとの接続が必要となり,今後は他施設とのやり取りも必要となってくる.その際,それぞれの分野で優れたものを選んで接続したい.また,メーカーを代えても大事なデータが読めなくならないようにしなければならないし,接続のたびにインターフェイスを開発するのはむだ使いである.各種のIT機器がUSBでつながるように,デジタル音楽機器がMIDI規格でつながるように,医療情報システムを構成する各システム(オーダ,患者基本,検査結果,処方,画像,各種文書など)も標準化が必要である.本連載で紹介されている経済産業省の相互運用性事業,および厚生労働省の標準的電子カルテ推進事業でももちろん標準化が推奨されており,それは以下のものである.1患者基本,検査結果,処方など:HL7 v.2.5,2医用画像(放射線に限らず):DICOM,3各種文書(退院時サマリー,紹介状など):HL7 CDA.これらは国内で推奨されているだけでなく,国際規格ISOにもなっている.本稿では,これらについて例をあげて概説する.
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速報
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