医学のあゆみ
Volume 223, Issue 9, 2007
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12月第1土曜特集【難治性疼痛と闘う──研究と治療の最前線】
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- ■痛みを切る──根底にある分子メカニズム
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TRPチャネルと侵害刺激受容
223巻9号(2007);View Description Hide Description侵害刺激を受容する陽イオンチャネルの多くはTRPスーパーファミリーに属し,なかでもカプサイシンの受容体TRPV1とワサビの主成分アリルイソチオシアネートの受容体TRPA1は,複数の侵害刺激によって活性化する多刺激侵害刺激受容体として機能することが細胞レベルのみならず欠損マウスを用いた行動解析によって個体レベルでも明らかになっている.TRPV1とTRPA1の侵害刺激受容能はリン酸化を含めた種々の機構によって制御される.したがって,TRPV1とTRPA1の機能阻害薬は鎮痛薬として大きな効果を上げることが期待される.そのほか,TRPV2とメントールの受容体TRPM8も侵害刺激受容あるいは痛覚の軽減に関与することがわかっている. -
痛みの伝達におけるMAP kinaseの役割
223巻9号(2007);View Description Hide DescriptionMAP kinase(MAPK)は細胞増殖や分化など,さまざまな生命現象において重要な役割を果たし,哺乳類ではERK1/2,p38MAPK,JNK,およびERK5といったファミリー分子が存在する.近年,MAPKをはじめとする細胞内情報伝達経路の活性化が,痛みの発生やそれに伴う可塑的な変化(plasticity)に重要な役割を担っていることが明らかになってきた.MAPKの活性化は,蛋白質のリン酸化といった早期における神経系の可塑的変化に影響を及ぼし,中枢性感作や末梢性感作に関与する.また,遺伝子発現レベルでの制御といった,より長期における可塑的変化にも関与し,侵害受容ニューロンに発現する蛋白質,受容体の発現を調節する.さらに,疼痛発症における新しいプレーヤーとして注目されているミクログリアやアストロサイトなど,脊髄グリア細胞において活性化するMAPKは,神経損傷後のアロディニアの発現にとくに重要な役割を演じる. -
脱髄性神経因性疼痛におけるLPAの役割
223巻9号(2007);View Description Hide Description神経の障害に伴う慢性痛(神経因性疼痛)は抗炎症薬やモルヒネなどの薬剤に対して抵抗性を示し,有効な治療手段の確立されていない難治性疾患である.神経因性疼痛は知覚過敏症状に加え,触覚刺激が激しい灼熱痛として感じられるアロディニア現象という特徴的な症状を伴うことから,有髄線維における機能学的変化が推測される.著者らは独自に開発した疼痛関連行動解析法を駆使して,マウス神経因性疼痛モデルに特有の有髄線維機能亢進(過敏応答)をとらえることに成功した.さらに組織学的解析により,有髄線維において疼痛関連分子の発現変化と脱髄現象(髄を形成するミエリンの /離)を見出した.また近年には,脂質メディエーター,リゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid:LPA)がその脱髄現象と神経因性疼痛の発症機序を担うことを見出した.本稿ではこれらの研究成果を中心に,神経因性疼痛の分子機構研究の新展開を紹介する. -
神経因性疼痛におけるミクログリアとATP受容体の関与
223巻9号(2007);View Description Hide Description一次求心性の後根神経節(DRG)ニューロンは痛みを伝えるAδやC線維のほかに,触刺激を伝えるAβなどで構成されている.DRGニューロンからの痛みシグナルは脊髄後角の二次ニューロンにシナプス伝達され,さらに上位脳へと伝えられ,痛みとして認知される.触刺激はAβを介して一部が脊髄後角の介在ニューロンにも伝わり介在ニューロンからGABAなどの抑制性神経伝達物質の放出を促し,二次ニューロンの痛みシグナルを抑制するように働く.正常では触刺激が痛みとして感じられることはないが,神経疾患のひとつである“神経因性疼痛”では軽い触刺激も激痛を引き起こす.そのモーダルシフトのメカニズムは不明であった.本稿ではつぎの仮説を紹介する.神経因性疼痛発症モデルでは活性化型脊髄ミクログリアにP2X4受容体が過剰発現し,それを刺激すると,ミクログリアから脳由来神経栄養因子(BDNF)が放出され,そのBDNFが脊髄後角第1層の二次ニューロンの陰イオンポンプの発現を抑え,細胞内の陰イオン濃度を異常に高める.その結果,介在ニューロンから放出されたGABAが同じ二次ニューロンへ作用すると,その作用は抑制的ではなく逆に興奮的になり,脱分極を引き起こしてしまい,最終的に触刺激が痛みとなるアロディニア状態を呈する.また,他のP2プリン受容体の関与についても触れた.そのような受容体も含めて,ATP受容体が神経因性疼痛発症に深く関与することは明らかであり,そのようなサブタイプ特異的な阻害剤やミクログリア活性化の阻害剤が新規の神経因性疼痛治療薬となる可能性は確実に高まっていると考えられる.事実,抗うつ薬として用いられているパロキセチンは最強のP2X4受容体ブロッカーであり,神経因性疼痛発症モデルでも強いアロディニア抑制を示し,臨床でも神経因性疼痛の患者に著効を示した. -
慢性疼痛と神経栄養因子──炎症,神経障害における可塑的変化とBDNF
223巻9号(2007);View Description Hide Description感覚系のなかでも痛覚は,生体の防御システムとして,また警告システムとして重要な役割を果たしている.しかし,痛みが生体防御の役割を逸脱して,痛みそのものが治療の対象となることが経験される.これは慢性疼痛とよばれ,とくに神経損傷によるものはモルヒネが著効しないなど,治療に難渋することが多く難治性疼痛とよばれる.その発生機序には,末梢による感覚受容体の感作(すなわち弱い痛み刺激を強い痛みと感じる)や,中枢神経系における感覚回路の可塑的な変化が関与しているとされる.痛みはもっとも強いストレスであることから,免疫系への影響も強く,とくに癌性疼痛の場合,痛みの有無は予後において重要なファクターとなる.QOLが問われる現在,慢性疼痛をいかにコントロールするかは喫緊の課題であろう.最近の研究から慢性疼痛の発生に神経成長因子の関与がいわれ,神経再生との関連も考えられている.本稿では,慢性炎症や神経因性疼痛におけるBDNFの関与について概説したい. - ■痛みを知る──痛みの中枢回路
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慢性痛における下行性疼痛調節系と5HTの役割──下行性疼痛抑制・増強
223巻9号(2007);View Description Hide Descriptionヒトや動物の脳には痛みをコントロールするメカニズムが存在している.“運動競技中や戦闘中に被った損傷は,通常であれば耐えがたい痛みを生じる損傷であっても,損傷を受けた直後は比較的痛みを感じない”というよく知られた現象もこの下行性疼痛調節系の働きによるものである.しかし最近では,痛みを抑制するという働きのほかに,まったく逆の痛みを増強させるという働きをもつことが知られるようになった.炎症や神経の損傷による痛みが慢性化し治療に難渋することがあるが,そのような慢性痛の発症や維持にこの下行性疼痛調節系が関与しているのではないかと考えられている.下行性疼痛調節系において重要な働きをしているのが吻側延髄腹内側部(RVM)であるが,そこには5HTニューロンが分布し(約20%),脊髄後角に投射して痛みをコントロールしている.5HTは,鎮痛に働くのか,それとも痛みを強めるのか,というホットな議論はいまも続いている. -
痛みと情動──扁桃体およびその関連脳領域の役割
223巻9号(2007);View Description Hide Description痛みによる“好ましくない不快な情動”は私たちを病院へと赴かせる原動力であり,生体警告系としての痛みの生理的役割にとって非常に重要である.しかし,痛みが長期間持続する慢性疼痛では,痛みにより引き起こされる不安,嫌悪,抑うつ,恐怖などの不快情動は生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく,精神疾患あるいは情動障害の引き金ともなり,また,そのような精神状態が痛みをさらに悪化させるという悪循環をも生じさせる.これまで痛みの感覚的側面に関しては精力的に研究されその分子機構もしだいに明らかになりつつあるが,情動的側面に関する研究はいまだ緒についたばかりである.著者らは @桃体およびその関連脳領域である分界条床核に着目し,痛みの情動的側面の神経機構について研究を進めている.これまでの研究により,これら脳領域におけるグルタミン酸神経情報伝達あるいはノルアドレナリン神経情報伝達の亢進が,痛みによる嫌悪感や不安感の惹起に重要な役割を果たしていることが明らかとなった. -
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痛みシグナルによる情動障害と帯状回領域の変化
223巻9号(2007);View Description Hide Description痛みは,末梢から入力した疼痛情報が一次知覚神経を通り,脊髄を介して視床,大脳皮質へと伝達されることにより認知される.なかでも大脳皮質帯状回領域は不安や抑うつなどの情動行動をつかさどり,痛みの認知に重要な部位であることが近年明らかとなっている.このような慢性疼痛による疼痛関連領域の変化が,より複雑に疼痛反応を修飾し,痛みの慢性化ならびに情動障害を惹起している可能性が考えられる.最近著者らは,疼痛刺激を負荷させた齧歯類の帯状回領域において,アストロサイトが活性化される事実をつきとめた.さらに,このような疼痛刺 -
痛みは脳でどのようにして認知されるか──神経イメージング手法による痛覚認知メカニズムの解析
223巻9号(2007);View Description Hide Descriptionヒトの脳内痛覚認知機構の非侵襲的研究について,脳波,脳磁図と機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いたこれまでの研究を要約した.視床が活動したあとに,刺激対側の第一次感覚野に非常に微弱な活動がみられ,ついで両側半球の第二次感覚野と島に大きな活動がみられる.とくに島前部は痛覚認知に重要と考えられる.つぎに帯状回前部, @桃体付近に活動がみられ,これらの部位は痛覚認知の情動的な要素に関連していると考えられる.痛みには末梢神経のAδ線維を上行する鋭い痛み(first pain)と,無髄のC線維を上行する鈍い痛み(secondpain)の2種類がある.これらの脳内認知機構をfMRIを用いて詳細に検討したところ,帯状回前部の背側と島前部において,C線維刺激の場合に有意に活動が大きいことがわかりsecond pain認知がfirst pain認知よりも情動に関係が強いことを示唆する所見であった. - ■痛み各論Up to Date
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内臓痛メカニズムの基礎
223巻9号(2007);View Description Hide Description内臓の痛みは疾患に伴って頻繁にみられるが,そのメカニズムは体性痛とはさまざまな点で異なっている.内臓の知覚神経は脊髄内に広く投射しており,局在性が乏しく関連痛を伴う内臓痛の特徴にかかわっていると思われる.内臓の機械受容器は閾値の高さにかかわらず感作され,内臓痛覚過敏のメカニズムとして重要と思われる.内臓は異なった機能をもつ知覚神経によって二重の支配を受けている.内臓への機械刺激を活動電位に変換する分子やその調節機構,化学刺激に対する反応性や内因性の物質による感作機構の解明は内臓の疾患に伴う痛みのメカニズムを理解するうえで重要である.内臓の痛みや痛覚過敏には,NaV1.8,セロトニン,TRPV1,ASICs,ATPとその受容体,タキキニンなどの関与が報告されている.近年,原因となる病変が明らかでないにもかかわらず,内臓に由来する痛みや不快感を訴える機能性腹痛症候群が注目されている.この分野の研究のいっそうの進展が期待される. -
筋性疼痛のメカニズムはどこまでわかってきたか
223巻9号(2007);View Description Hide Description肩こり,腰痛,全身性で慢性の線維筋痛症など,筋性疼痛に悩む人は多い.筋性疼痛は関節を動かしたとき(運動時痛)や筋を圧迫したとき(圧痛)に生じるなどの機械痛覚過敏が特徴的である.また,痛みを訴える筋のなかにはしばしば硬い部分(硬結)があり,そのなかにとくに圧迫に敏感な点(圧痛点)がみられることも多く,その圧迫により放散痛が生じるなど,皮膚痛とは異なった特徴がある.機械痛覚過敏の機構を探るモデルとして著者らは,運動後に遅れて生じる遅発性筋痛モデルを作成し,筋痛み受容器の機械刺激に対する感受性が増大していることを示した.その発生には運動中から直後に生じるブラジキニンとプロスタグランジンが関与していることがわかったが,筋細径線維受容器に感作を生じている機構は未知である.このほか,顎関節症研究で話題となっているグルタミン酸,炎症部位でできる神経成長因子,線維筋痛症について最近の話題を紹介する. -
癌性疼痛のメカニズムと治療
223巻9号(2007);View Description Hide Description癌性疼痛の動物モデルは,悪性腫瘍細胞の増殖,浸潤,転移など癌の直接的原因による痛みの発生と増強のメカニズムを解析し,鎮痛薬などの薬物の薬理効果を評価するために応用される.癌性疼痛を抑制するには,オピオイドは多量を要し,シクロオキシゲナーゼは無効な例もある.癌性疼痛には,エンドセリンや神経成長因子,腫瘍壊死因子などの腫瘍組織による産生・遊離,腫瘍による神経障害,感覚信号の中枢神経系における入口である後角におけるニューロンの反応性の変化など,複数の要因が関与する.皮膚癌痛のモデルでは鎮痛量のモルヒネ投与により腫瘍の増殖と転移が抑制される.癌性疼痛の動物モデルを用いた研究により癌性疼痛に有効で副作用の少ない新規鎮痛薬の開発と適切な鎮痛薬の使用法の理解が進むことが期待される. -
CRPSの病態と治療
223巻9号(2007);View Description Hide Description複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは,かつて反射性交感神経性ジストロフィーあるいはカウザルギーとよばれた病態で,おもに四肢の外傷後に通常治癒する時期が過ぎても痛みが遷延し,浮腫,皮膚温の異常,発汗異常などの自律神経系障害,筋力低下,不随意運動,皮膚・筋・骨の萎縮などを伴う症候群のことをいう.明らかな神経損傷を伴わないものをtype(反射性交感神経性ジストロフィー),伴うものをtype(カウザルギー)と分類する.同じような外傷を負っても,なぜ一部の患者だけがこのような病態に陥るのかについてはいまだ明らかではない.受傷機転,遺伝的素因などが理由と考えられているが不明である.typeは神経障害性疼痛の病態と考えられ,動物モデルを用いて末梢神経,脊髄における病態生理が解明されてきた.一方,typeに関してはよい動物モデルがなく,ヒトでの研究がこの病態解明の進歩に寄与している.疾患概念そのものについてのコンセンサスもいまだ十分ではなく,静脈穿刺後の遷延性疼痛などにおいても同様の機序が考えられ,治療や補償の面で混乱があるのが現状である. -
帯状疱疹に関連する痛みの病態と治療──帯状疱疹後神経痛を中心に
223巻9号(2007);View Description Hide Description帯状疱疹後神経痛(PHN)はもっとも頻度の高い帯状疱疹の合併症であり,神経障害に起因する疼痛であり,しばしば難治性の慢性痛となる.しかも,PHNの病態は多様であり,末梢性の要素と中枢性の要素がさまざまに関与して,それぞれの症例や病期により多彩な病態を呈し,PHNに対するさまざまな治療の効果にはその病態による影響が大きい.中心となる薬物療法においては三環系抗うつ薬と抗痙攣薬のギャバペンチンの有用性が明らかとなっている.しかし,薬物療法の効果にも限界があり,インターベンション療法の位置づけも重要である.神経ブロック療法は厳密な比較試験が難しいこともあり,高いエビデンスは少ないが,PHNへの予防効果も含めて,けっして無視できない治療法である.脊髄刺激療法は奏功機序とPHNの病態との関連による要因から治療成績は大きく異なってくる.このように,PHNの治療においてもっとも重要なことは,病態に応じた治療法を適切に選択することである. - ■痛みと闘う──新しい治療薬・治療法
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N-acetyl-aspartyl-glutamate(NAAG)と鎮痛──あらたな作用機序による鎮痛薬の可能性
223巻9号(2007);View Description Hide DescriptionN−acetyl−aspartyl−glutamate(NAAG)は,脊椎動物の中枢神経系に大量に存在する神経伝達物質である.NAAG自身はグルタミン酸の代謝型受容体のひとつであるmGluR3の作動薬として働くが,glutamate carboxy−peptidase(GCP;NAALADase・NAAG peptidaseともよばれる)により分解されるとグルタミン酸とN−acetyl−aspartate(NAA)となる.したがって,NAAGはグルタミン酸の供給源にもなる.近年,GCP阻害薬により生体内のNAAG量を増加させることによるNAAGの侵害刺激伝達に対する効果の検討が行われている.GCP阻害薬である2−PMPA・ZJ34などを全身投与,炎症部への局所投与,髄腔内投与,脳室内投与すると,mGluR3を介した炎症性疼痛や神経因性疼痛に対する良好な鎮痛効果が得られる.動物実験ではGCP阻害薬による副作用はみられない.GCP阻害薬は,いままでの鎮痛薬とは異なる作用機序による鎮痛薬として期待される薬物である. -
カンナビノイドによる鎮痛の機序と治療への応用
223巻9号(2007);View Description Hide Descriptionマリファナは古代より鎮痛を生じる物質として知られており,現在でも一部の国では多発性硬化症などの神経疾患患者や,悪性腫瘍やAIDSによる終末期患者で,食欲の増進,痛みの軽減,筋痙攣の緩和などに合法的に使用されている.近年,CB1とCB2の2種類のカンナビノイドレセプターや内因性リガンドも同定され,内因性カンナビノイドシステムの中枢神経におけるシナプス伝達の調節メカニズムが知られるようになり,カンナビノイドレセプターをターゲットとした創薬によるあらたな鎮痛法・薬の開発が期待されている.本稿では,脊髄におけるカンナビノイドによる鎮痛の可能性について概説したい. -
反復的経頭蓋磁気刺激による難治性疼痛の治療──開頭術のいらない非侵襲的治療
223巻9号(2007);View Description Hide Description難治性疼痛の治療において大脳皮質運動野電気刺激療法の有効性が世界的に認められている.最近,被験者に苦痛を与えることなく局所の大脳皮質ニューロンを刺激できる反復的経頭蓋磁気刺激療法によって,電気刺激と同様の疼痛軽減効果が得られるとの報告がされている.しかし,いままでの報告は正確に大脳局所を経頭蓋磁気刺激したものではなく,著者らのナビゲーションガイドによる局所刺激の経験では一次運動野の刺激のみが有効であることが明らかになった.また,それも高頻度刺激のみが除痛効果があることを明らかにしたが,他の報告と同様,著者らの結果でも除痛効果は一時的であった.今後,本法を発展させることにより,難治性疼痛に対する非侵襲的治療を確立させることが可能となるかもしれない. - ■痛みと闘う──各科の取り組み
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MRスペクトロスコピーによる慢性疼痛患者の評価の試み
223巻9号(2007);View Description Hide Description慢性疼痛患者では,痛みの認知面・情動面に関与する前帯状回・前頭前野の機能的変化が深く関与していることが明らかにされている.慢性疼痛患者の診療においては,患者間で大きく異なる痛みの認知・情動的な側面を的確に評価することが重要である.MR(磁気共鳴)スペクトロスコピーはMRI装置を使って脳内の代謝物質を測定する方法である.なかでもプロトンMRスペクトロスコピー(1H−MRS)で得られるNAA(Nアスパラギン酸)は神経細胞内にしかないため,その値が局所脳神経機能の指標として臨床応用されている.1H−MRSを用いて前頭前野・前帯状回の局所脳神経機能を測定することによって,慢性疼痛の病態を評価する試みについて概説する.非侵襲的で身体に負担をかけない1H−MRSは治療方法の選択にも役立ち,慢性疼痛の新しい評価法になりうると考えられる.機能的脳画像診断法としてその利用の拡大が期待される. -
難治性疼痛とペインクリニック──麻酔科医の役割
223巻9号(2007);View Description Hide Description慢性痛に代表される難治性疼痛の治療に対して,ペインクリニックでは薬物療法と神経ブロック療法で対応している.しかし,慢性痛として完成した病態に対しては決め手になる治療手段がないのが現実である.いかにして難治な慢性痛にならないように予防するかが,もっとも重要な点である.したがって,痛みに対しては完璧な除痛治療を行うことが重要であり,痛みが遷延している場合には薬物療法だけでなく,神経ブロック療法を併用して,より積極的な除痛治療で対処する必要がある.長期にわたり難治な痛みに悩んでいる慢性痛患者は疼痛行動が問題になる.痛みは続いていても,より積極的な日常生活を送ることを目標にした“改革”が不可欠である.そのために,認知行動療法は有効であるが,現実にはなかなか実施できない.医療者は,患者に対して身体面と同時に精神心理面,社会生活面など多元的に痛みを評価し,無益な疼痛行動の抑制と,痛みの特性をよく認識させ,痛みに対する反発を軽減することが必須である. -
システム論的な見方による難治性疼痛の予防と治療
223巻9号(2007);View Description Hide Description難治性疼痛の診断と治療に際しては従来の原因−結果といった線形の見方から,多要因の関係性を重視した視点が必要になる.このような視点から難治性疼痛の現状,予防,治療について述べた.今後は予防的見地から研究と診療が必要になろう. - ■AYUMI Glossary of Terms
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