医学のあゆみ
Volume 223, Issue 11, 2007
Volumes & issues:
-
あゆみ Quantitative Biology──定量的生物学
-
-
-
コピー数多型と疾患──ゲノムの定量的評価による疾患解析
223巻11・12号(2007);View Description Hide Descriptionこれまで遺伝子は染色体ごとに1つずつコードされ,細胞当り2コピーもつと考えられてきた.しかし,ここ数年の研究でその数が2以外の数,1,3,4またはそれ以上といった現象が確認されている.このような遺伝子の数の違いはコピー数多型(copy number variation:CNV)とよばれ注目されている.疾患のリスク,さまざまな薬の治療応答性,副作用の違いといった個人の体質差を生み出す原因として,これまではSNP(一塩基置換多型)に代表される個人間の遺伝子の“配列の違い”がよく知られているが,近年見つかったCNVといわれる現象は遺伝子の“数の違い”であり,遺伝子をまるごと含むような数Kbp〜数Mbpの長さの大きな領域の数が個人間で異なるというものである. -
次世代シークエンサーとトランスクリプトーム──ネットワーク解明のためのハイスループットアプローチ
223巻11・12号(2007);View Description Hide Descriptionライフサイエンスの進歩の大きなステップであったヒトゲノム計画は,その30億の塩基対を解読するのに約30億ドルを投じ,13年の歳月をかけて行われた.その後,ヒトという種のゲノム配列はわかったが,病気のかかりやすさや,薬の効き具合,さらには個性などはゲノム配列の個人差が重要であることから“1,000ドルゲノム”と称し,1,000ドル(約十数万円)で読める技術・機器の開発が進められている.この機器が実現されることは,個人のゲノム解析のみならず,生体内での分子間相互作用のネットワーク解明に大きな一石を投じる技術革命になるとわれわれは期待している.ここではその一歩となる,現在利用可能な次世代シークエンサーを用いた著者らのネットワーク解明へのアプローチの一部を紹介するとともに,トランスクリプトームがこれまで考えられていたものとは違った“RNA大陸”であることの複雑さを理解いただければと思う. -
転写ネットワーク研究
223巻11・12号(2007);View Description Hide Description遺伝子の発現は転写因子によって時間的・空間的・量的に制御されており,細胞機能と密接に関与している.したがって,これら転写因子によるネットワークを解明することによって,生命現象の解明ならびにその破綻に基づく病態の解明が可能となる.近年,バイオインフォマティックスや遺伝子発現解析技術の進展ならびにゲノムワイドな転写因子結合部位の解析が可能となり,遺伝子発現にかかわる転写ネットワークの網羅的ならびに定量生物学的な解析が行われている.内分泌ホルモンであるステロイドの受容体はホルモン依存性の転写因子であり,その標的遺伝子ネットワークの解明は,生体ならびにさなざまな疾患に関与しているステロイドの作用機構を明らかにし,さらには革新的な創薬につながると考えられる. -
網羅的メチル化解析
223巻11・12号(2007);View Description Hide Descriptionメチル化DNA免疫沈降法とタイリングアレイ解析を組み合わせたMeDIP−chip法の登場により,1つの細胞のDNAメチル化状態をゲノム全体にわたって詳細に解析することが可能となった.ゲノムサイズの大きなヒトやマウスにも応用され,1 kb以下の解像度で高メチル化領域をマッピングすることができるようになった.この技術によって得られたさまざまな細胞におけるメチル化プロファイルは,発生・分化などの生理的現象から癌などの病態の解明に重要な役割を果たしていくことが期待される. -
シストローム解析
223巻11・12号(2007);View Description Hide Descriptionヒトをはじめさまざまな高等生物のゲノム配列が明らかになったために,それらを利用した解析方法が生まれ,大きな流れとなっている.ゲノムの配列を一定の間隔ごとに切り出して,まるでタイルのように貼り付けたような設計をもつタイリングアレイによって,ゲノムを取り巻く環境の情報をひとまとめに得ることが可能になった.たとえば,さまざまなDNA結合蛋白の結合領域をさまざまな細胞の状態で取得できる.このような情報はシストロームと名づけられ,あらたな解析手法が試行されている.さらに,次世代大量シーケンス法を用いてもシストロームを取得できるようになり,かつてのトランスクリプトームのようにデータ爆発の直前であると考えられている.本稿では,ゲノム配列の決定後に生まれたともいえる,シストローム解析の現状について述べたい. -
幹細胞とエピゲノムの蜜月
223巻11・12号(2007);View Description Hide Descriptionエピジェネティック制御はさまざまな細胞にその形質を刷り込むのに寄与する.この過程はゲノムDNAだけでなくヒストンの化学修飾によって媒介されることが,これらの化学修飾を触媒する酵素群の発見とそれらの機能欠損に基づく表現型の解析によって,近年急速に明らかになってきた.とりわけ,ショウジョウバエにおいてポリコム群およびトリソラックス群として分類されてきた機能的に拮抗する2つのエピジェネティック制御メカニズムは,哺乳類ではさまざまな組織幹細胞あるいは白血病などの腫瘍の幹細胞の維持に強いインパクトがあることが明らかにされ,その臨床的な立場からも注目を集めつつある.本稿では,とくにポリコム群に焦点をあて,胚性幹細胞(ES細胞)における機能発現メカニズムについてレビューする. -
転写ファクトリーのダイナミクス
223巻11・12号(2007);View Description Hide Description炎症性の刺激を与えると血管の細胞は,ケモカインや接着分子の遺伝子の転写を順次活性化し,mRNAを順次発現していく.こうした時系列の遺伝子発現はきわめて精密にコントロールされており,これを“オーケストレーション”という.解読されたゲノム配列をもとにつくられたタイリングアレイを用いて,著者らは時々刻々変わっていく染色体上の転写の観測に成功した.これまでのDNAのうえにRNAポリメラーゼの複合体ができるモデルと異なり,核のなかにポリメラーゼを固定した転写ファクトリーがあり,そこに活性化された遺伝子のDNAが動員されていく.定量的な解析の結果,1サイクルの転写で10分子程度のmRNAがつくられ,それが何サイクルか繰り返していく.転写ファクトリーでは複数の遺伝子が転写され,それが癌細胞における染色体転座にもかかわる.転写はこれまでの考えよりはるかに精密なメカニズムで厳密に制御されていると考えられるに至った.
-
-
フォーラム
-
-
-
-
家族みんなのドタバタ留学記 in Melbourne 12.オージー気質?
223巻11・12号(2007);View Description Hide Description医学部卒業後,母校の衛生学教室に入室し14年目.2006年8月からWomen’s Healthと英語を学習するため家族4人でメルボルンへ1年5カ月間の留学予定である.出会ったエピソードをもとにエッセイと,ちょっと役立つ(?)情報編に分けてご紹介. -
-
-
-
連載
-
- ファーマコビジランスをもっと身近に
-
8.欧米の規制当局における医薬品のリスクマネジメント戦略
223巻11・12号(2007);View Description Hide Descriptionヨーロッパ医薬品庁(European Medicines Agency:EMEA)では市販後の医薬品の安全性を確保するために,2005年にGuideline on Risk Management Systems for Medicinal Products for Human Useを公表した.一方でアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は,2005年に企業向けのガイダンスとして“Premarketing Risk Assessment”,“Development and Use of Risk Minimization Action Plans”,“GoodPharmacovigilance Practices and Pharmacoepidemiologic Assessment”を公表した.さらに,近年の新薬をめぐる安全性の問題から,FDAは急速に自らを改革しようとする動きも加わって,本年更新される処方せん薬ユーザーフィー法(Prescription Drug User Fee Act :PDUFA)にさまざまな安全対策が反映されようとしている.画期的な新薬を迅速に審査する機会が増えてきた昨今においては,安全対策には迅速さとダイナミズムが要求される.海外でのこのような動向は,日本での安全対策にもおおいに参考となり反映されるべきことが多い.ここでは欧米のリスクマネジメントの動向について解説する.
-
注目の領域
-
-