医学のあゆみ
Volume 223, Issue 13, 2007
Volumes & issues:
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12月第1土曜特集【Vascular Biology Update】
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- ■座談会
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- ■血管発生・新生の分子機序
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血管内皮細胞と血液分化
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管内皮,血液は,初期中胚葉から近縁の細胞系譜として密接にかかわりあいながら分化する.マウス遺伝学的手法から,血管内皮・血液共通の前駆細胞としてヘマンジオブラストの存在が確定されてきた.しかし,初期中胚葉はかなりの可塑性を有しており,血管・血液と違う筋肉系の系譜に分化した細胞も血管・血液の方向に運命転換しうる.従来内皮特異マーカーとされてきたVE−カドへリン陽性細胞に造血能が十分あることが示される一方で,かなり初期の卵黄 *の血液細胞はVE−カドへリン陽性細胞とは別に発生する知見も報告され,内皮−血液の発生過程の理解をより複雑にしている. -
ES細胞からの血管分化・多様化と血管再生
223巻13号(2007);View Description Hide Description胚性幹細胞(ES細胞)は再生医療への応用のみならず分化の基礎研究においても,不可欠な重要な役割を有する.著者らは血管構成細胞(内皮細胞および壁細胞)および心筋細胞の分化および血管構造の形成過程を再現できる新しいES細胞分化系を開発し,心血管系細胞の分化機構の解析を行ってきた.この分化系を用いることにより,血管細胞の起源,分化・多様化シグナルなどの血管発生・新生機構に関し,これまでにない包括的な解析が可能となるとともに,新しい血管再生治療の開発が期待される.これまでおよび最近のES細胞研究の流れも含め,ES細胞の血管分化再生研究,さらには再生医学研究における意義に関し概説する. -
動静脈発生の分子機構と血管増殖因子の役割
223巻13号(2007);View Description Hide Description生体には2種類の血管,すなわち動脈と静脈が存在するが,長い間その区別は解剖学的および生理学的な違いでのみなされていた.しかし近年,それぞれの血管を構成する細胞(血管内皮細胞や血管平滑筋細胞)が異なった独自の遺伝子発現パターンをとることがわかり,これをきっかけに動静脈の発生と分化にかかわる分子生物学的なメカニズムがつぎつぎと明らかとなってきている.血管の起源となる原始細胞は,血管が形成され血流が開始するさらに前からそれぞれ動脈および静脈のどちらになるかが運命付けられており,この決定付けには血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)とその下流で働くDelta−Notchシグナルが非常に重要な役割を果たしている.さらに,形成された胎生動静脈はEphrin−Ephシグナルなどの作用を介して相互に作用し,それぞれ成熟した動脈・静脈へと変化していく.このような分子メカニズムの解明は,血管移植や再生医学といった臨床応用の場においてもきわめて興味深いものである. -
造血幹/前駆細胞による血管新生の制御──造血幹細胞の血管新生におけるパラクライン制御と血管安定化誘導
223巻13号(2007);View Description Hide Descriptionもとより造血幹細胞と血管内皮細胞には,共通祖先細胞から発生するという共通性がある.また近年,種々の組織/臓器幹細胞の自己複製誘導や未分化性維持の生態学的適所として血管領域が利用されているということが報告されてきており,これらは血管ニッチとよばれている.もちろん造血幹細胞も例外ではなく,血管ニッチ領域での造血幹細胞の増殖は胎児期のみならず,成体骨髄内でも観察され,造血と血管は発生的および機能的に非常に近縁の関係にある.著者らは従来より造血幹細胞の血管形成における役割を詳細に検討してきており,造血幹細胞が血管新生誘導因子を放出して血管新生を促進する機能や,血管新生時の血管安定化を促進して血管透過性を抑制すること,さらに最近,造血幹細胞が血管壁細胞に分化して血管成熟化に関与することを明らかにしてきた.このような造血幹細胞の血管新生における機能は生理的血管新生ばかりではなく,病的血管新生にも関与しており,病態制御における造血幹細胞機能の制御の必要性が考えられるに至っている. -
マトリックスメタロプロテナーゼを起点とした血管新生制御機構──血管新生における骨髄由来細胞動員の意義
223巻13号(2007);View Description Hide Description著者らは,マトリックスメタロプロテナーゼ−9(MMP−9)の活性化と,これによってプロセシングされる造血因子Kit−ligandの,骨髄由来細胞の末梢血中への動員,骨髄組織再生過程における重要性について報告した.近年,生体内血管新生については,MMPの活性化が腫瘍増殖過程における血管新生因子の産生刺激(血管新生スイッチ)となること,ケモカインあるいは血管新生因子の濃度勾配およびMMPの活性化によって末梢血中へと動員される骨髄由来の各種細胞が,末梢組織中で血管新生因子あるいはケモカインの供給源あるいは“血管新生ニッチ(虚血ニッチ)”の構成細胞として機能することなどが報告されている.本稿では骨髄由来細胞の動員と組織再生との関連性の観点から,MMPを起点とした血管新生機構について概説し,著者らの最近の研究成果を中心に,血管新生・組織再生に関する最新の知見について紹介していきたい. -
マクロファージ浸潤による血管新生
223巻13号(2007);View Description Hide Description分化発生過程に,血管新生をはじめとする脈管系の構築は必須である.他方,糖尿病,眼科疾病,関節リウマチまた動脈硬化症など多くの炎症が関連する疾病に加え,癌においても血管新生は発症から進展に深く関与することが知られている.癌の“血管新生”のメカニズムを把握することにより癌の予防,診断,治療への貢献が期待できる.本稿では血管新生とマクロファージに焦点をあて,それらの癌への関与について最近の研究報告や著者らの研究成果をもとに考察していきたい.とくに,マクロファージが癌治療の新しい魅力ある標的となるかどうかについても言及したい. -
血管再生治療における骨格筋細胞の役割
223巻13号(2007);View Description Hide Description虚血性心疾患や重症下肢虚血に対するあらたな治療法として,単核球細胞移植による血管再生治療が臨床応用されている.単核球細胞は虚血組織に移植されると,一部は血管内皮や筋細胞へと分化し,また一部は血管増殖因子を分泌し,治療効果をもたらすものと考えられてきた.しかし最近,これらの機序に重大な不整合があることがわかってきた.このようななかで著者らは,被移植組織,ことに骨格筋細胞による血管増殖因子の産生というまったく新しい治療機序を発見した.単核球は移植されると骨格筋細胞に働きかけ,多様な増殖因子を高度かつ持続的に産生させ,長期にわたって血管再生効果を維持する.このメカニズムは心臓など他の臓器にもあてはまる可能性が高いうえ,従来の仮説が内包していた不整合を解消できるものでもある.今後,この知見が本治療の有用性と安全性をさらに高める足がかりになるものと期待される. -
血管内皮細胞の動静脈分化決定のメカニズム──転写因子Foxcによる転写調節
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管系は,個体発生のみならず成体のさまざまな機能や維持に必須な役割を果たす.血管系を構成する動脈と静脈の形成は,これまで血流などによる要因によって決定されると考えられていた.しかし近年の研究から,発生初期の血流の開始以前において,すでに動脈内皮と静脈内皮の遺伝子レベルでの区別がなされることが明らかになった.動脈内皮への分化はVEGFシグナルによるNotchシグナルの活性化によって誘導される.また,NotchシグナルはFoxc転写因子による転写制御を受ける.一方,核内オーファンレセプターCOUP−TFは動脈内皮の分化プログラムを抑制し,静脈内皮分化を促進する.本稿では著者らの研究成果を含めて,血管の発生における内皮細胞の動静脈分化の機序を概説し,今後の研究課題を述べる. -
血管形成に関与するケモカインシグナル──SDF-1/CXCL12-CXCR4に注目して
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管は共通の管腔構造を有し,初期発生より主としてVEGF,angiopoietin−1などの受容体チロシンキナーゼを用いるサイトカインにより制御されると考えられている.しかし近年,胃腸管の血管の形成には,細胞運動の制御と関係が深いケモカインファミリーのメンバーで造血制御に重要なCXCL12(SDF−1/PBSF)が特異的かつ必須の役割を果たすことが明らかとなった.大動脈の分枝である上腸間膜動脈から小腸に分布する血管の形成においては,隣接する上腸間膜動脈と原始血管叢が結合し,結合血管が伸長するという血管形成機構が存在し,CXCL12は上腸間膜動脈の血管内皮細胞に作用し,その結合血管の形成,動脈としての伸長を支持することが示唆された.最近,CXCL12の消化管以外の組織の血管形成における役割も明らかになりつつあり,成体の虚血後の血管再生過程における機能も注目されている. -
血管新生におけるMMPの役割
223巻13号(2007);View Description Hide Description細胞外マトリックス蛋白分解酵素は血管新生(angiogenesis)や血管形成(vasculogenesis)において重要な役割を果たしている.とくに血管基底膜の破壊,内皮細胞浸潤および管腔形成などの血管新生の一連のプロセスにおいて種々のプロテアーゼは主役を果たす.そして,それらの活性基の構造の違いからマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinases:MMP),アスパラギン酸プロテアーゼ(aspartic proteases),セリンプロテアーゼ(serine proteases),システインプロテアーゼ(cysteine proteases)の4群に分類されている.これらのうちでもMMPファミリー(とくにMMP−2,MMP−9,MT1−MMP)は血管再生および成熟において欠かせない存在である.MMPは血管新生関連因子やサイトカインの活性,解放や修飾を介して血管新生を促進する一方,血管新生因子の分解やマトリックス蛋白の分解により産生される抗血管新生物質を介して血管新生を抑制する.MMPは骨髄内皮前駆細胞(bone−marrow endothelial progenitor cells:EPCs)動員を介して血管形成も補強する.血管新生過程における個々のMMP特性を正確に把握することは,腫瘍や虚血性疾患の治療において必要に応じた血管新生抑制,あるいは刺激療法を行うにあたり,重要な意味をもつ. -
PTEN/PI3K経路による血管制御
223巻13号(2007);View Description Hide Description近年,血管成長因子であるVEGFファミリーとangiopoietinファミリー分子が血管新生の調節に重要であることが明らかとなった.これらの成長因子刺激によってPI3K(phosphoinositide 3−kinase)が活性化され,その後下流のAktをはじめとする細胞内シグナル伝達分子を活性化することが知られているが,個体レベルの血管内皮細胞におけるPI3K経路の役割は不明であった.著者らはPI3K経路を負に制御するPTEN(phosphataseand tensin homolog deleted -
リンパ管の発生制御に必須な分子Spred──SpredはVEGFR-3シグナルを負に制御する
223巻13号(2007);View Description Hide DescriptionSprouty/Spredファミリーは増殖因子によるERK経路活性化の負の制御因子であり,ショウジョウバエから哺乳類まで保存されている.Spredは哺乳類では3種類のホモログが知られており,Spred1/Spred2両欠損マウスはリンパ管と血管の分離異常により著明な出血・浮腫を認め,胎生12.5〜15.5日に死亡する.SpredはVEGF−C/VEGFR−3シグナルの生理的な負の制御因子として機能しており,リンパ管発生制御に必須の分子であることが示された. -
網膜血管新生の伸長方向を制御する分子メカニズム
223巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病網膜症や未熟児網膜症など網膜血管の閉塞をきたす疾患では,網膜内における虚血・低酸素を背景とした無秩序な血管新生がみられる.通常,こうした新生血管は網膜外に逸脱して伸長するため,網膜内の低酸素を改善しないばかりか,出血や網膜 /離など視機能の悪化を招く原因となりうる.一方,発生期網膜においても低酸素を背景とした血管新生が誘導されるが,ここでは有効な血流を網膜内に供給すべく整然と血管網が構築される.ヒト網膜症ではなぜ,発生期のように新生血管が網膜内に伸長しないのであろうか.本稿では,これまで新生仔マウス網膜をモデルに用いた研究により解明されてきた網膜血管発生の細胞・分子機序を紹介するとともに,こうした知見がヒト網膜症にみられる血管新生の病態を理解するうえで,いかに応用しうるかという展望について述べてみたい. - ■血管新生調節因子
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血管におけるTGF-βファミリーシグナル
223巻13号(2007);View Description Hide DescriptionTGF−βファミリーを構成するTGF−βとBMPは血管系の細胞に対して強力な影響を及ぼす.TGF−βに関してはまず細胞外基質に潜在型として貯蔵されるが,その活性化に関与する機構の異常がMarfan症候群や一部の高血圧の発生にかかわることが明らかにされつつある.TGF−βやBMPはまた,動脈硬化や冠動脈形成術後再狭窄においては内皮細胞,平滑筋細胞,免疫細胞などを介して重要な役割を果たしている.TGF−βファミリーの内皮細胞における受容体であるALK1やendoglinの変異は遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)を引き起こす.また,BMP型受容体(BMPR)の変異は原発性肺高血圧症(PPH)を起こす.これらの多彩な役割を踏まえ,効率的かつ副作用の少ないTGF−βシグナル制御の方法のひとつとして癌新生血管に対して一過性にTGF−β阻害剤を使用することにより漏出性を高めてナノ粒子抗癌剤の蓄積を増強する方法が考えられる. -
VEGFシグナルとneuropilin
223巻13号(2007);View Description Hide DescriptionVEGFはbFGFと並んで血管内皮細胞に対するもっとも強力な増殖因子であるばかりでなく,血管腔形成などの発生段階にもかかわる重要な因子である.VEGFのシグナルを伝えるもっとも重要な受容体であるVEGFR2には,neuropilinとよばれるco−receptorが存在し,強調してVEGFシグナルを伝える.VEGF,VEGFR2,neruopilinをそれぞれ欠損したマウスは重篤な血管発生異常をきたすことから,これらの分子の血管発生における重要性は明らかである.しかし,これらの分子間の相互作用やシグナルを伝える分子メカニズムは複雑で,いまだに不明な点が多い.血管新生は癌組織の増大にも重大な役割を担うことが明らかとなっており,VEGFシグナルの阻害剤は実際に抗癌剤としての応用が期待されている.そのため,VEGFシグナルの解析は臨床的にも重要である.本稿ではVEGFシグナルの最新の分子メカニズムをneuropilinとの分子連関の解析から解説する. -
血管新生因子としてのHGF──抗炎症作用を伴ったHGFの血管新生作用
223巻13号(2007);View Description Hide Description肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)は肝細胞分裂促進因子として発見されたが,さまざまな障害臓器での抗線維化・抗炎症・抗アポトーシス作用や血管新生作用を,著者らを含めた多くの施設が報告している.一方,1994年にタフツ大学(アメリカ)で血管新生作用のある内皮細胞増殖因子(vascular endothelialgrowth factor:VEGF)を用いた下肢虚血疾患への遺伝子治療が臨床応用され,治療的血管新生の歴史が幕を開けた.すでに血管新生作用の報告されていた線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)も含めて欧米で下肢虚血疾患への多施設二重盲検試験が盛んに行われたが,すべてにおいて効果が証明されなかった.そういったなか,下肢虚血疾患へのHGFを用いた遺伝子治療の多施設二重盲検試験は良好な結果が報告され,先進国初の遺伝子治療薬として期待されている. -
血管新生因子としてのスフィンゴシン-1-リン酸(S1P/EDG)受容体システム
223巻13号(2007);View Description Hide Descriptionスフィンゴシン−1−リン酸(S1P)は血液中に存在し,また局所においてさまざまな細胞から分泌されてパラクリン様式で作用することが示唆されている脂質性成長因子である.S1PはS1P1・S1P3受容体を介して血管内皮細胞に作用し,増殖・遊走促進,管腔形成促進作用を示す.一方,すくなくとも一部の内皮はS1P2受容体も発現し,この受容体はS1P1,S1P3とは逆に細胞遊走,管腔形成を抑制し,血管新生を抑制する可能性がある.生体レベルではおもに受容体ノックアウトマウスの研究から,S1P1は新生血管への血管平滑筋の集積を促進することにより血管成熟に関係していることが示されている.臨床的には抗S1P療法が腫瘍血管新生を抑制し腫瘍縮小効果をもつことが動物モデルで示されている.また,S1Pで前処理された骨髄幹細胞が虚血後血管新生を促進することが示されており,S1Pの局所投与によっても虚血後血管新生が促進される.このように,S1Pは血管病の新しい治療のターゲットとして期待される. -
血管細胞migrationの分子機序
223巻13号(2007);View Description Hide Description新しく血管が形成されるためには血管を構成する細胞がその場所に移動し,管腔構造を形成しなければならない.このような血管形態の形成において細胞運動は必須であり,全過程を通して厳密に制御されている.細胞運動の駆動力はアクチン細胞骨格の再編成により生み出される.再編成されたアクチンフィラメントが細胞膜を押し出す力や,アクチンフィラメントとミオシンの相互作用による収縮する力が細胞運動を引き起こす.血管細胞の運動を細胞外から制御する因子として,1 chemoattractant,2 ECM,3機械的な力の3つがあげられるが,これらの血管細胞運動を促すシグナルがインプットされると細胞のなかのシグナル伝達経路を介してアクチン細胞骨格の再編成というアウトプットが出され,最終的に細胞運動が惹起される.血管細胞運動は血管形成部位でのみ認められる現象であり,血管新生抑制のよい標的となりうる. -
アドレノメデュリンによる血管形成の調節──遺伝子操作動物における検討
223巻13号(2007);View Description Hide Descriptionアドレノメデュリン(AM)は血管をはじめ,全身の組織で広範に産生されるペプチドである.AMは当初,強力な血管拡張作用を有する降圧物質として注目されたが,それ以外にも多彩な生理作用が報告されている.著者らはAMノックアウトマウスが血管の発達異常により胎生致死であることから,AMが血管の発生自体に必須であることを明らかとした.さらに最近,著者らはAMの受容体活性調節因子RAMP2のノックアウトマウスを作成し,RAMP2単独欠損で血管における主要なAMシグナルが遮断されることを見出した.成体にAMを投与したときにも血管新生促進効果が確認されることから,将来的にAMの虚血性疾患などへの治療応用も期待される. -
アンジオポエチン様因子(Angptl)の血管新生調節作用とその他の役割
223巻13号(2007);View Description Hide Descriptionアンジオポエチン(Ang)ファミリーは,Tie2(tyrosine kinase with Ig and EGF homology domain 2)受容体と結合することにより,そのシグナルが血管内皮細胞において細胞の生存や遊走などの制御に重要な役割を果たすことが知られている.さらに最近では,リンパ管新生,造血幹細胞の未分化性維持に重要な役割を果たしていることも明らかにされてきた.一方,アンジオポエチンに構造上よく似た分子群として同定されたアンジオポエチン様因子(Angptl)ファミリーは,Tie2受容体およびそのファミリー分子であるTie1受容体との結合能はなく,その受容体は同定されていない.しかし近年の研究により,Ang同様Angptlも血管内皮細胞の生存や遊走などの制御にかかわっていることが明らかとなってきた.さらに,血管以外に皮膚表皮細胞,軟骨細胞などにも作用すること,さらには脂質・糖・エネルギー代謝にもかかわっていることがわかってきており,その生物学的作用の多面性が注目されている. - ■血管細胞:各論
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次世代のEPC治療──より効率のよいEPC治療を求めて
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管新生療法は虚血性疾患(虚血性心疾患や閉塞性下肢動脈硬化症など)に対して近年行われるようになってきた治療である.対象は従来の内科的治療や外科的治療では効果が得られない症例で,アプローチの方法には遺伝子,細胞,サイトカイン,薬剤などがある.血管新生療法が最初に行われたのは血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子の下肢虚血患者への投与であった.その後,血管内皮前駆細胞(EPC)が発見され,細胞移植による虚血改善効果が研究により明らかになった.細胞移植には胚性幹細胞と体性幹細胞による移植が考えられるが,前者は倫理的な問題,分化制御の管理の問題など臨床応用にはいぜん解決すべき点を含んでいる.一方,体性幹細胞については人体の多くの器官から分離が行われており,なかでも骨髄由来幹細胞については臨床応用がはじまっている.ただし純化された幹細胞の数には限りがあり,また年齢に伴う個々の細胞機能低下の可能性が指摘されている.そこでこれらを克服するため,遺伝子導入した細胞の移植や体外で培養増幅した細胞の移植が次世代の治療として検討されている. -
血管内皮が発現する血管新生制御因子としてのvasohibin──血管内皮が発現する血管新生抑制因子
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管新生は促進因子と抑制因子のバランスによって制御されると考えられている.これまでに数多くの促進因子や抑制因子が同定されてきたが,血管新生調節の全容はいまだ明らかとなっていない.とくに血管新生抑制因子に関して,これまでに報告されてきた血管新生抑制因子はおもに血管外が産生され,血管新生刺激とはかならずしも直接的に連動しておらず,血管新生のバリアとして作用するものが主体であった.著者らは血管新生促進因子の刺激を受けた血管内皮が血管新生のオートレギュレーションを担っている可能性を想定した.そこで,代表的な血管新生促進因子であるVEGFの刺激によって血管内皮細胞に発現誘導される遺伝子の網羅的解析を行い,VEGF誘導性で機能不明の分子のなかから生理活性を有する新規因子の単離・同定を試みた.その結果,血管内皮細胞が選択的に産生し,しかも自身に対して選択的に作用して血管新生を抑制する新規因子を発見し,vasohibinと命名した. -
血管平滑筋細胞の分化調節と動脈硬化
223巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化は生活習慣病を背景として進展し,先進国において主要な死因である冠動脈疾患を含む虚血性疾患の原因となる.動脈硬化においては多様な外的・内的なストレスに応じて引き起こされる慢性炎症に伴って血管壁の組織構築が改変されることが病態の本質といえる.この過程で,平滑筋細胞はその形質を変え,免疫細胞とともに組織再構築に主要な働きをする.この平滑筋細胞の変化をつかさどる遺伝子発現調節機構を理解することは動脈硬化の分子機構を解明するだけでなく,あらたな治療戦略の開発のためにも重要である. -
Notchシグナルによる平滑筋細胞分化
223巻13号(2007);View Description Hide DescriptionNotchシグナルは局所的な細胞間相互作用を通して細胞の運命(分化)を制御する機構で,近年ではあらゆる臓器・細胞の分化に重要な役割を担うことがわかってきた.Jagged1とNotch3の変異により生じるヒト遺伝性疾患のAlagille syndromeとCADASILは血管系の異常を呈し,血管平滑筋の異常がその病因であると考えられている.多くのNotchシグナル構成因子が血管平滑筋に発現しており,状況に応じて平滑筋分化を正にも負にも制御することがわかってきた. -
骨髄由来細胞の血管修復と病変形成への関与
223巻13号(2007);View Description Hide Description臓器にストレスや傷害が加わるとリモデリングや修復などによって応答する.従来このような反応は,局所の細胞の増殖・遊走そして死によって行われていると考えられていた.しかし最近の研究により,成人でもいろいろな臓器に多分化能をもった幹細胞が残存しており,傷害後の臓器修復に関与している可能性が報告された.臓器傷害により幹細胞は血中に動員され,遠隔臓器に定着し,対象臓器構成細胞に分化し,構造的・機能的修復に関与する.著者らは各種動脈硬化症モデルにおいて骨髄由来前駆細胞が傷害後の血管に定着し,内皮様細胞あるいは平滑筋様細胞に分化して血管修復と病変形成へ貢献することを報告した.本稿では,血管の修復と病変形成に関与する細胞の起源に関する最新の文献をオーバービューし,薬物溶出ステントの作用機序や問題点に関して臨床的な立場から考察する. -
BMPによって制御される転写因子Msx──血管壁の石灰化とのかかわりと機能
223巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化症は血管内膜肥厚(新生内膜)形成を初期病変とする活発な血管壁再構築(血管リモデリング)に起因する血管壁の閉塞性疾患で,血管内膜肥厚層の発達に伴い,血栓形成・脂質沈着・アテローム層が形成される.動脈硬化症の進展に伴い,石灰化を伴う動脈硬化巣もしばしば認められる.動脈硬化症と石灰化との関連は以前からよく知られており,病理学的解析から,急性心筋梗塞の病因となる冠動脈硬化病変において高い確率(約70%)で血管壁の石灰化が認められる.血管壁の石灰化には血管平滑筋細胞のアポトーシスおよび骨・軟骨細胞への分化が重要な役割を担うことが示唆されている.石灰化した血管壁には,骨分化および軟骨分化制御にかかわるサイトカイン(bone morphogenetic protein:BMP)や転写因子(Msxファミリー)の発現が認められることから,血管壁石灰化も通常の骨分化に類似したプロセスを経ると考えられる.本稿ではBMP/Msx転写因子経路を中心に,血管平滑筋細胞から骨細胞への異分化について概説する. -
- ■血管トーヌスの調節
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バゾプレシンによる血圧調節ネットワーク
223巻13号(2007);View Description Hide Description強力な血管収縮物質であるバゾプレシンは抗利尿ホルモンともよばれ,下垂体後葉から血中に放出されて腎尿細管での水再吸収にかかわるホルモンとして知られる.バゾプレシンあるいはバゾプレシン受容体作動薬はすでに治療薬として尿崩症,消化管出血,血友病などに使用され,ホルモン分泌障害時には検査薬としても利用されている.バゾプレシンによる新しい治療法としては心機能低下時に起こる低血圧に対しバゾプレシンが昇圧剤として効果的であるとの研究成果が報告され,心不全に伴う低ナトリウム血症や血管収縮によるRaynaud病の際にはバゾプレシン受容体を阻害する薬の臨床開発が進められている.3種類のバゾプレシン受容体(V1a,V1b,V2)のなかで生理機能に不明な点が多かったV1a受容体の遺伝子改変マウスの作出と解析により,この受容体を介した血圧調節のあらたな仕組みの一端が明らかとなった.これにより,より効果のある,副作用の少ない循環器病治療薬の開発が可能になると考えられる. -
血流による血管トーヌス調節因子P2X4
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管のトーヌスは血液中のホルモンや神経から分泌されるニューロトランスミッターなどの“化学的刺激”だけでなく,血液の流れ(血流)による“機械的刺激”であるずり応力(shear stress)によっても調節を受けている.運動などで血流が増加すると血管が拡張するが,これはずり応力が血管内面を覆っている内皮細胞を刺激して血管平滑筋を弛緩する一酸化窒素(NO)などの生理活性物質を放出させることに基づいている.最近,このずり応力による血管トーヌスの調節に内皮細胞膜に存在するATP作動性カチオンチャネルのP2X4が重要な役割を果たしていることが明らかになった.内皮細胞にずり応力が作用するとP2X4が活性化し,細胞外のCa2+の細胞内への流入が起こり,これがNOの産生を増加させる.P2X4を欠損させたマウスの内皮細胞ではずり応力によるCa2+反応が起こらずNOが産生されないため,組織の血管で血流増加による拡張反応が障害されるとともに血圧も高くなってくる. -
TRPCチャネルによる血管トーヌスの調整
223巻13号(2007);View Description Hide Descriptionカルシウム透過性カチオンチャネルであるTRP(transient receptor potential)チャネルは現在までに28個のアイソフォームが報告されている.血管内皮および血管平滑筋細胞ではこのうち,すくなくとも19個のアイソフォームが発現し,これらのチャネルは血管トーヌス,血管透過性,血管新生などさまざまな血管機能の制御を担っていると予想される.その多くは機能的役割が明らかにされていないが,近年,血管内皮・平滑筋に発現するTRPCチャネルの研究が盛んに行われており,その生理的役割が明らかにされつつ -
食塩感受性高血圧におけるNCX1の役割
223巻13号(2007);View Description Hide Description本態性高血圧患者の約4割は,食塩負荷で血圧が上昇する食塩感受性高血圧であるといわれている.食塩感受性高血圧患者では高食塩摂取によりNa+が体内に貯留し,体液量の増加により血圧が上昇すると考えられているが,この昇圧機序はかならずしも明確ではない.最近,選択的Na+/Ca2+交換体阻害薬(NCX阻害薬)および遺伝子改変マウスを用いた研究から,動脈平滑筋に発現する1型Na+/Ca2+交換体(NCX1)が食塩感受性高血圧の発症に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.興味深いことに,NCX1を介する昇圧機序には内因性Na+ポンプ抑制因子が関与する可能性が高いと考えられた.NCX阻害薬およびウアバイン拮抗薬は食塩感受性高血圧モデルに対して特異的な降圧作用を示すことから,新しいメカニズムの降圧薬として将来の臨床応用が期待される. -
KATPチャネルと血管攣縮
223巻13号(2007);View Description Hide DescriptionATP感受性K+(KATP)チャネルは,膜2回貫通型内向き整流K+チャネルであるKir6.1あるいはKir6.2の四量体ポア部分と,その調節蛋白であるスルホニルウレア受容体の四量体から構成される.Kir6.1あるいはKir6.2のノックアウト(KO)マウスの機能解析から,心血管系の細胞膜KATPチャネルの病態生理学的役割が明らかとなった.心筋細胞膜のKATPチャネルはKir6.2とSUR2Aから構成され,その活性化は虚血心筋保護に重要な役割を果たす.一方,血管平滑筋細胞膜のKATPチャネルはKir6.1と -
Rho/Rho-kinaseシグナルによる血管トーヌス調節
223巻13号(2007);View Description Hide Description平滑筋による血管トーヌスの調節は,細胞内Ca2+濃度の増減に伴い収縮の分子スイッチであるミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化レベルを増減させる経路と,Ca2+非依存性にMLCのリン酸化レベルを変化させCa2+感受性を増減させる経路の2つのバランスにより調節される.Rho/Rho−kinaseは後者の経路に関与し,Ca2+感受性を変化させることにより血管トーヌスの増減をもたらす.また,NO/cGMPシグナルはCa2+を低下させることに加え,Rho/Rho−kinaseシグナルと拮抗することによりCa2+感受性を低下させてトーヌスの減弱をもたらす.血管の病的過収縮や攣縮にはRho/Rho−kinaseの亢進あるいはNO/cGMPシグナルの低下などのシグナル伝達の破綻が原因として強く示唆されており,新しい治療ターゲットとなりうると考えられている. -
内皮由来過分極反応は内皮NO合成酵素系に依存する
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管内皮はプロスタサイクリン(PGI2),一酸化窒素(NO),内皮由来過分極因子(endothelium−derived hyperpolarizingfactor:EDHF)の3種類の内皮由来弛緩因子を産生・放出し,血管機能の恒常性を維持している.EDHFは,PGI2・NOに続く第三の因子として1988年にその存在が報告されて以来,現在までにその本体として数種類の物質や機序が提唱されている.これまでに著者らは血管内皮由来の過酸化水素(H2O2)がマウスおよびヒト腸間膜動脈,ブタ冠微小血管におけるEDHFの本体であることを報告し,EDHFとしてのH2O2の産生には,内皮Cu,Zn−superoxide dismutase(Cu,Zn−SOD)が重要な役割を果たしていることを明らかにした.さらに近年,生体内のすべてのNO合成酵素遺伝子の完全欠損マウスを用いて,EDHF/H2O2による弛緩反応がNO合成酵素系と密接に関与していることを見出した. -
新しい血管収縮分子coupling factor 6
223巻13号(2007);View Description Hide Description血管内皮は強力な血管拡張作用と抗動脈硬化作用を有する1層のバリアであり,内皮依存性弛緩因子(EDRF)がその役割を担う.EDRFにはプロスタサイクリン,一酸化窒素,内皮依存性過分極因子の3種類があり,coupling factor 6(CF6)はそれらすべての産生を阻害し,動脈硬化促進分子の発現を亢進させた.CF6は血管内皮細胞の表面に存在するATP合成酵素を受容体とし,細胞内酸性化により昇圧作用を発揮した.また,CF6の産生はredox−sensitive転写因子であるnuclear factor κ - ■既知分子の新しい側面
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VEGFレセプターの新しい役割──VEGFレセプター1の多彩な機能
223巻13号(2007);View Description Hide DescriptionVEGFとそのレセプター系には,1ヒトで5種類,その他を加えて7種類以上のVEGFリガンドファミリーとともに,2 3種類のレセプター(VEGFR−1,VEGFR−2,VEGFR−3)が関与する.VEGF−Aとその受容体VEGFR−1,VEGFR−2は血管の発生・新生に中心的な役割を果たし,一方,VEGF−C,−DとVEGFR−3はリンパ管の発生・新生を制御する.これらはよく知られた事実であるが,それに加えて最近,VEGFレセプター,とくにVEGFR−1が癌の悪性化などさまざまな病態に深くかかわることが明らかとなってきた.VEGFR−1には強い親和性をもつリガンド結合ドメインと,弱い酵素活性をもつチロシンキナーゼドメインが存在する.また,血管内皮細胞のみならず単球・マクロファージや胎盤の栄養細胞などにも発現しており,これらをもとに,骨髄再生,癌転移,リウマチ,妊娠中毒症などに関与する.本稿ではこれらを中心に紹介する. -
血管ホルモンとしてのナトリウム利尿ペプチド
223巻13号(2007);View Description Hide Descriptionナトリウム利尿ペプチド(NP)であるANPおよびBNPは心臓ホルモンとして,CNPは血管局所ホルモンとして,高血圧症の発症および血管合併症の進展において病態生理学的意義を有している.これまでNPの血管における作用として,レニン−アンジオテンシン系に拮抗する血管トーヌス抑制を中心に解析されてきた.近年,NPが血管リモデリングや血管再生に関与することが明らかとなっており,これら新しい知見に基づくNPの臨床応用が期待される. -
内皮型NO合成酵素のもつ裏の顔
223巻13号(2007);View Description Hide Description一酸化窒素(NO)は血管内皮細胞で内皮型NO合成酵素(eNOS)から産生されるが,動脈硬化病変形成において血管保護的に作用することが広く知られている.その一方で,eNOSは特定の条件下ではeNOSアンカップリングをきたし,スーパーオキシドを産生することによって血管を傷害し,動脈硬化病変形成を促進することが明らかとなってきた.機序としては,基質であるL−アルギニンや補酵素のテトラヒドロビオプテリン(BH4)の相対的な不足,シャペロン蛋白であるheat shock protein 90(hsp90)の低下,eNOSのリン酸化,脱リン酸化の関与などが知られている.eNOSアンカップリングを是正する方法としてBH4や抗酸化剤の投与などが検討されているが,結論には至っていない.本稿ではeNOSのもつ,eNOSアンカップリングという裏の顔について述べる. -
内皮細胞における甲状腺ホルモンの新しい作用機序
223巻13号(2007);View Description Hide Description甲状腺ホルモンは,甲状腺ホルモン受容体に結合して遺伝子発現を介する作用機序(genomic function)が明らかにされてきたが,近年では遺伝子発現を介さない作用(nongenomic function)が心筋細胞などで報告されている.血管内皮細胞においてはPI3−kinase/Akt/eNOS pathwayは一酸化窒素(NO)の主要合成経路であるが,insulin,IGF−以外にも,エストロゲンなどが受容体を介して弱いながらもこの経路を活性化し,心血管系に保護的に働く.ここではTRα1受容体が主に発現し,T3の結合によりPI3 kinaseのp85αサブユニットと会合し,Akt,eNOSのリン酸化と活性化を引き起こす.作用は30分以内の短時間で起こり,nongenomic functionである.脳においてもT3はAktの活性化を起こし,血圧を低下させ,脳血流を増加させるが,eNOS−/−マウスにおいては 効果が減弱し,内皮由来のNOが重要である.脳梗塞モデルでは,T3投与群では有意に梗塞容積が小さく神経障害も軽かったが,eNOS−/−マウスまたはTRα1−/−β−/−マウス,TR阻害剤またはPI3kinase阻害剤の投与でT3の効果は消失した. -
個体老化シグナルと血管の老化──インスリン/Akt
223巻13号(2007);View Description Hide Description加齢は心血管疾患の独立したリスクファクターであるが,老化がどのように有病率を増加させるのかについてはまだ明らかでない.老化のメカニズムについては諸説あるが,そのひとつが“細胞老化仮説”である.近年,動物モデルにより老化の分子メカニズムが明らかになり,老化や加齢に伴う疾患において細胞老化の重要性が示唆されている.たとえば,DNA修復にかかわるシグナルの障害は細胞老化を促進するが,ヒト,マウスにおいてその障害があると早老症の形質を示す.これまで代謝や増殖に重要な役割をもつと考えられていたインスリン/Aktシグナルは,その作用の低下によって,線虫,ハエ,マウスなどの個体寿命を延長することが明らかとなった.さらに最近,このシグナル経路はヒトの細胞寿命を調節し,血管老化の病態へ関与することが示唆されている. - ■血管傷害の分子機序
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メタボリック症候群と血管病の共通基盤──Adipokines
223巻13号(2007);View Description Hide Description肥満はインスリン抵抗性を基盤としてメタボリック症候群を惹起し,血管病発症・増悪の主因となっている.その分子機構として,肥満では脂肪細胞の肥大化に伴って善玉のadipokine,アディポネクチンが低下し,AMPKやPPARαの活性が低下してインスリン抵抗性が惹起されること,および血管壁においては脂質取込みの促進と炎症の惹起によって血管病が発症・増悪してくることが明らかとなってきている.インスリン抵抗性改善薬であるPPARγアゴニストは,アディポネクチン依存性・非依存性の両方の経路を介して抗血管病作用を発現する.今後,アディポネクチンあるいはその受容体AdipoRの増加薬,活性化薬が,原因に基づいた新規治療法として期待される. -
ケモカインと動脈硬化
223巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化巣における炎症の進展には単球・マクロファージの遊走と活性化がきわめて重要な役割を果たしており,この過程は細胞走化活性を有するサイトカインであるケモカインにより制御されている.著者らは,CCケモカインに属し,単球・マクロファージの強力な走化作用を有するmonocyte chemoattractant protein−1(MCP−1)のdominant negative inhibitorとして作用する変異型MCP−1(7ND)を用い,動脈硬化,血管傷害後新生内膜形成をはじめさまざまな血管病態において -
動脈硬化形成における骨髄RA系の役割
223巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化は血管壁における慢性炎症であり,アンジオテンシンはタイプ1(AT1)受容体を介して動脈硬化促進作用を発揮する.動脈硬化形成における組織レニン−アンジオテンシン(RA)系は,血管壁構成細胞である血管内皮細胞や血管平滑筋細胞を中心に解明されてきた.近年,骨髄造血系幹細胞の動脈硬化形成や血管傷害後内膜増生への関与が明らかとなり,骨髄RA系の役割が注目されている.著者らは,動脈硬化形成と密接に関連する単球・マクロファージ系前駆細胞の分化・増殖における骨髄RA系の役割に注目した.AT1受容体欠損マウスの骨 - ■疾患と血管形成
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- ■新しい研究
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生体内分子イメージング手法でみる血管新生・血管機能・細胞動態
223巻13号(2007);View Description Hide Description生活習慣病に伴う糖尿病・心血管疾患の病態形成には,組織の再構築(リモデリング)および血管機能の異常が重要であると考えられる.著者らは生体内分子イメージング手法を開発し,脂肪組織などの詳細な組織構築,微小循環内における細胞動態および血管機能を生体内で可視化することに成功した.本手法により,内臓肥満によって引き起こされる慢性炎症が脂肪組織内微小循環で血管内皮細胞・血小板・白血球の活性化と相互作用をもたらし,脂肪組織内に炎症性マクロファージが浸潤し,脂肪細胞分化・血管新生・脂肪細胞壊死が生じる過程を明らかにした.
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