医学のあゆみ
Volume 225, Issue 5, 2008
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【5月第1土曜特集】ここまでわかったパーキンソン病研究
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- 臨床および新しい治療戦略
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パーキンソン病の疫学研究
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病の有病率はわが国では人口10万当り約150人で,年間の新規発症は10万に当り10〜15人である.有病率は加齢とともに増加する.発症17年目以降,生存率が一般人口と比較して有意に低下する.共存症としてはうつと認知症が重要である.発症危険因子には農薬,殺虫剤,金属(鉛,銅,鉄,マンガン)の曝露,高カロリー摂取,高学歴などがあげられる.一方,防御因子として喫煙,コーヒー,カフェイン,食事中の不飽和脂肪酸,血清尿酸値などが注目されている. -
パーキンソン病の臨床診断および鑑別診断
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病(PD)は治療法がほぼ確立しつつある神経疾患のひとつである.的確な治療を行うには正確な臨床診断が必要である.PDの診断ではわが国では旧厚生省のPD病診断基準が使用されているが,近年,欧米ではUK brain bankのPD診断基準を用いていることが多い.旧厚生省の診断指針は症候を中心に,UKbankのほうは鑑別診断を主体とした診断指針である.本稿ではこれらを概説するとともに,パーキンソニズムを示す頻度の多い疾患群のうち続発性パーキンソニズムと,変性疾患に伴うパーキンソニズムをきたす病態の概要と鑑別点について述べた. -
“全身病”としてのパーキンソン病の病理─αシヌクレイン蓄積の進展様式とその意義
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病(PD)はLewy小体の出現を特徴とする全身病である.黒質はPDにおいてもっとも強く障害されるが,PD病変は脳幹や間脳のみならず,嗅球,大脳皮質,脊髄,末梢自律神経系に広範に及んでいる.Lewy小体は神経細胞変性のマーカーとみなしうる構造物であり,その主要構成成分はαシヌクレインである.PDではαシヌクレインの蓄積は迷走神経背側核と嗅球に最初に起こり,その後,脳幹では延髄から中脳へと上行性に進行し,大脳皮質では側頭葉内側部から大脳新皮質へと広がっていく.Lewy小体の好発部位である黒質や青斑核では神経細胞脱落が認められることから,Lewy小体は細胞死を誘導する“悪玉”とみなされてきた.しかし最近では,細胞障害性に作用しているのはαシヌクレインのオリゴマーであり,Lewy小体はこれらを無毒化するために生じた最終産物であるとの仮説が提唱されている. -
パーキンソン病の神経生理─パーキンソン症状と大脳基底核の役割
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は多様な臨床症状を示す原因不明の神経変性疾患である.PD患者の診療にあたって,その脳のなかの病態生理を理解することが重要なのはいうまでもない.大脳基底核からの出力を送る出力部は淡蒼球内節と黒質網様部の2つの部位から成り立ち,視床を介して大脳皮質(一次運動野,運動前野,補足運動野などの運動関連野),および脳幹・脊髄へ投射する.出力細胞はすべて抑制性である.入力部と出力部を複雑に結びつける介在部は,淡蒼球外節と視床下核という2つの部位から成り立つ.そのほかに,入力部の働きを調整する仕組みがあり,黒質緻密部にあるドパミン細胞がドパミンを媒介として行っている.このドパミン細胞が変性していくのがパーキンソン病である.このモデルのなかで,パーキンソン症状の代表である無動・動作緩慢,固縮,安静時振戦,姿勢反射障害について可能な範囲で,パーキンソン症状と大脳基底核の役割を概説してみた. -
パーキンソン病の画像診断の進歩─MRI, PET, SPECTによる測定
225巻5号(2008);View Description Hide Description脳の形態および機能画像法の進歩は著しく,パーキンソン病(PD)およびその関連疾患の病態研究に多くの情報をもたらしている.MRIによるvoxel-based morphometryでは,PDにおいて前頭葉に萎縮があることが示された.[18F]フロオロデオキシグルコースを用いたPETのデータを空間的共分散分析すると,淡蒼球と視床と橋で糖代謝が亢進しており,皮質運動野と関連領域で低下しているというPDに固有な糖代謝パターンをとらえることができる.PETによるアミロイドイメージングでは,Lewy小体型認知症では多くの症例で大脳皮質,線条体にアミロイド沈着があり,認知症を伴うPDでは2割程度の症例においてのみアミロイドの沈着があることが明らかとなった.PETによるアセチルコリンエステラーゼの活性の測定で,PDでは大脳皮質のコリン神経系機能の低下があることが明らかとなった. -
パーキンソン病の非運動症状
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は運動症状を特徴とする疾患であるが,非運動症状が認められる頻度は高い.非運動症状は多様で,精神症状,行動障害,睡眠障害,自律神経症状,消化器症状,感覚障害などが含まれ,出現頻度はさまざまで症候的にも個人差がある.パーキンソン病患者の生活の質を高めるためには運動症状の改善だけでなく非運動症状を的確に把握し,かつ適切に対処することが重要である.多様な非運動症状は,一般的なパーキンソン病評価尺度では評価できないことから,非運動症状を簡便にスクリーニングするための質問紙法も提案されている.さらに,嗅覚低下やレム睡眠行動障害(RBD)などの非運動症状は,パーキンソン病の運動症状の発症以前から出現していることも判明しており,非運動症状に注目することによってパーキンソン病を発症前に診断する試みもはじまりつつある. -
パーキンソン病薬物療法のメリット・デメリット
225巻5号(2008);View Description Hide DescriptionL-DOPAのメリットは,効果が高く,廉価で副作用の頻度が低いことである.一方,デメリットは半減期が1時間と短いために,wearing-off現象や不随意運動などの運動合併症が出現しやすいことである.ドパミンアゴニストのデメリットは,1錠当りの力価が弱く,浮腫,眠気,幻覚などの副作用の発現頻度は高いことであるが,メリットは半減期が長く穏やかに効果を示し,運動合併症の頻度が低いことである.現在のところ,ドパミンアゴニストには臨床的に有意な神経保護作用が証明されておらず,L-DOPAが疾患を進行させるという証拠もない.それぞれの薬剤の特性を理解し,目の前の患者にとって何が重要かをよく考え,その患者にもっとも適した薬剤の組合せを考えるべきである. -
パーキンソン病の在宅医療
225巻5号(2008);View Description Hide Description日本人のほとんどは終末期まで在宅ですごしたいと希望しているが,パーキンソン病のような,医療も介護も必要な身体障害を伴う難病患者が居宅ですごすためには,適切な在宅医療・看護・介護が必要であり,多専門職種による総合的なケアが求められる.その連携の要になるのが医師であり,実地医家としては医学的知識や技術は当然のこと,医療・介護・福祉の知識も必要で,なによりも大切なのはその人らしい生活の実現といった在宅医療のマインドである.しかし,その実現は困難を伴い,深遠な配慮と在宅医療ならではの知識や技術も必要であり,総合医療のようでありながら専門性の高い分野である.パーキンソン病も進行期になると通院困難から在宅医療が主となってくる.高齢化と療養病床削減に伴い,ますます在宅医療の役割が増大し,病院医師であっても在宅医療への理解が必須な時代である. -
パーキンソン病の定位・機能神経外科的治療─STN−DBSを中心に
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病に対する定位・機能神経外科的治療の中心は視床下核脳深部刺激療法(STN-DBS)である.手術適応選択,手術手技,術後の刺激および内服薬の調整が適切に行われた場合にはこの治療により,wearingoffの激しくなった症例のオフの状態をオンの状態まで“底上げ”して運動症状の日内変動を減らすことができる.また,抗パーキンソン病薬の“肩代り”をすることによって減薬を可能にし,副作用を減らすという効果も期待できる.ただし,ドパに反応しない歩行障害や姿勢反射障害・不安定性には高い効果が期待できないことが -
パーキンソン病の遺伝子治療
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は黒質や青斑核の選択的神経細胞死により特徴づけられる原因不明の神経変性疾患であり,現在はL-DOPAを主とした補充療法が主体である.そのため,症状の進行を抑制するための遺伝子治療や再生医療の重要な標的疾患と考えられていた.そしていよいよ,遺伝子治療が海外や日本で開始されるようになり,孤発性パーキンソン病の遺伝子治療プロトコールはすでに4種類の候補遺伝子をもとに進んでいる.さらに,著者らが進めている常染色体劣性遺伝性パーキンソン病に対するparkin遺伝子を用いたプロジェクトを紹介する. -
細胞移植によるパーキンソン病の治療
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病では胎児細胞の線条体への移植が欧米で臨床応用されており,種々の多能性細胞を使用した基礎研究も活発に行われている.胎児細胞移植の二重盲検試験では当初期待されたほどの効果は得られず不随意運動を生じたことが問題となった.技術的には改善の余地があるが,単に線条体内へドパミンを供給することを目的とするなら遺伝子治療のほうがより簡便である.今後は,線条体の神経細胞の脱落を伴うパーキンソン症候群も目標とした細胞移植研究の進展が望まれる. - 基礎研究と遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子
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パーキンソン病におけるミトコンドリア機能障害の意義
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionミトコンドリア障害は他の神経変性疾患と同様に,パーキンソン病の病態メカニズムにおいても重要な役割を担っていると考えられる.パーキンソン病患者の脳でミトコンドリア機能低下を示すデータが報告され,疫学的調査からミトコンドリア障害性をもつ農薬とパーキンソン病発病との関与が示唆されている.家族性パーキンソン病原因遺伝子産物についても,ミトコンドリアとのさまざまな接点が見出されてきている.いままでにパーキンソン病の病態には複数の因子の関与が考えられてきたが,ミトコンドリア障害はこれらの多くに共通する重要な経路のひとつであると考えられ,治療のターゲットとしても注目されてきている. -
PARK1およびPARK4─α−synuclein(SNCA)とパーキンソン病
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionα-synucleinは,家族性パーキンソン病PARK1およびPARK4の原因遺伝子(SNCA)産物であると同時に,孤発性パーキンソン病,Lewy小体型認知症を含むLewy小体病の病理学的特徴であるLewy小体や,多系統萎縮症におけるグリア細胞封入体の構成成分であり,synuclein蓄積症(シヌクレイノパチー)と包括されるこれらの疾患の病態生理にかかわる重要な分子として注目されている.α-synucleinは伸張したモノマーの状態から線維化構造に変化する過程で,オリゴマーからなるプロトフィブリルとよばれる膜傷害性と神経毒性を示す状態に変化すると考えられている.また,α-synucleinはユビキチン化,リン酸化,ニトロ化など,さまざまな翻訳後修飾や酸化的ストレスの影響を受けることが明らかにされ,シヌクレイノパチーの発症メカニズム解明に向け急速に研究が進んでいる. -
Parkin(PARK2)発見から10年を迎えて
225巻5号(2008);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は臨床,病理,遺伝学的研究により,均一な疾患ではなく,広範囲なスペクトラムを含む疾患群であることがわかってきた.とくに,この10年間の原因遺伝子の解明はめざましいものがあり,パーキンソン病の病態解明に大きく貢献してきた.単一の原因遺伝子をもつ家系としてPARK2の患者群は,臨床面からも基礎研究の面からももっとも研究の進んでいる分野である.一方でパーキンソン病の原因遺伝子が解明されるにつれ,共通の分子病態が推測されはじめている. -
Park5(UCH−L1)─UCH−L1とパーキンソン病
225巻5号(2008);View Description Hide DescriptionUCH-L1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1)は,不用な蛋白質の分解,品質管理を行うユビキチン・プロテアソームシステムにおいて,ユビキチンを供給するという重要な役割が推定されている脱ユビキチン化酵素である.神経系と精巣に限局して存在し,脳内の可溶性蛋白の1〜2%をも占める豊富な蛋白であるが,生体内での正確な基質および働きに関しては不明な点が多い.これまでの報告ではUCH-L1 I93M変異は家族性パーキンソン病PARK5の原因遺伝子であり,UCH-L1 S18Y多型にはパーキンソン病罹患率を下げる可能性があること,Lewy小体をはじめとする神経変性疾患の凝集体の構成成分であることなどが知られており,パーキンソン病の原因や発症機序を考えるうえで重要な遺伝子のひとつである. -
PINK1−linked Parkinson’s diseaseの最新知見
225巻5号(2008);View Description Hide DescriptionPINK1(PTEN-induced putative kinase 1)は常染色体劣性遺伝形式で発症するパーキンソン病(以下PD)の原因遺伝子で,臨床症状は若年発症である以外には孤発性のものと区別が難しい.PINK1は581個のアミノ酸をコードし,N末端にミトコンドリア移行シグナルと中央部にキナーゼドメインをもつ.変異はキナーゼドメインに集中しており,キナーゼ活性の異常が発症に関与していることが推測されている.PINK1は変性の過程ではparkinと同じ経路の上流に位置しミトコンドリア機能保護作用をもつとされている.しかし,ミトコンドリア以外の細胞質,ミクロソームに局在するPINK1の機能も注目されてきており,膜輸送に関連した他の機能をもつことも予想されている.孤発性PDは,ミトコンドリア障害との関与が示されていることから,孤発性PDの原因解明,治療開発にはPINK1のさらなる解明が重要である. -
抗酸化ストレス因子としてのPark7/DJ−1とパーキンソン病
225巻5号(2008);View Description Hide Description家族性パーキンソン病原因遺伝子Park7/DJ-1は最初新規癌遺伝子として発見された.DJ-1は自己酸化,転写調節,シャペロン,ミトコンドリア調節などを通じて抗ストレス機能を有し,その機能破綻は,家族性のみならず,大多数を占める弧発性パーキンソン病発症の一因となると考えられている.さらにDJ-1は,パーキンソン病以外の酸化ストレスが関与する神経変性疾患にも関与する可能性も高い.また,DJ-1とその低分子結合化合物はパーキンソン病治療薬としての可能性も存在する. -
PARK8:LRRK2─神経細胞死の機序解明への期待
225巻5号(2008);View Description Hide DescriptionPARK8は常染色体遺伝形式をとる遺伝性パーキンソン病である.その原因遺伝子として2004年,leucinerich repeat kinase 2(LRRK2)が同定されている.以来,LRRK2がどのような機能をもち,変異LRRK2がどのように神経細胞死にかかわっているのかについて,とくにそのキナーゼ機能を中心として研究が進んでいる.現状ではLRRK2の生理的基質も神経細胞内の機能についても未解決な部分が多いが,これまでの研究から神経細胞死のpathwayにキナーゼ活性が関与していることが推定されている.PARK8:LRRK2はLewy小体にとどまらず多様な病理所見を呈することから,LRRK2の機能とそれに続く神経細胞死のpathwayの理解が,パーキンソン病に限らず他の変性疾患の神経細胞死の機序の解明にもつながることが期待され,LRRK2の研究は非常に大きな意味をもつものといえる. -
PARK9(Kufor−Rakeb症候群):ATP13A2─リソソーム蛋白質ATP13A2変異による常染色体劣性遺伝若年性パーキンソニズム
225巻5号(2008);View Description Hide DescriptionPARK9は若年発症のL-DOPA反応性のパーキンソニズムを特徴とするが,そのほかに認知障害,錐体路症状,ミオクローヌスなど非常に多彩な神経障害を合併する.近年,同病で無機イオントランスポーターと推定され,リソソームに局在するP型ATPaseのひとつATP13A2が責任遺伝子として報告された.ATP13A2蛋白質の機能は現時点で不明であるが,PARK9では異常蛋白質の小胞体への蓄積という細胞内局在の変化が報告されており,小胞体への異常蛋白質の蓄積によるユビキチン・プロテアソーム系の異常か,またはリソソーム機能異常によるリソソーム・オートファジー系の異常が推定されている.PARK9の分子病態の理解は,パーキンソン病だけでなく他の神経変性疾患発症の分子病態理解にもつながると期待されており,本稿では同病の臨床神経学,臨床遺伝学および分子遺伝学的研究の成果について概説する. - AYUMI Glossary of Terms
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