Volume 225,
Issue 9,
2008
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【5月第5土曜特集】臨床ゲノム研究—成果と課題
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医学のあゆみ 225巻9号, 703-703 (2008);
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医学のあゆみ 225巻9号, 704-718 (2008);
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ゲノムワイド解析の技術と手法
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医学のあゆみ 225巻9号, 721-725 (2008);
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ヒトゲノム計画をはじめとする遺伝情報解析の成果として,データベースに蓄積された1,100万種類を超える単一塩基多型(SNP)のうち,数十万〜百万種類のSNPを同時にタイピングすることのできる手法が近年になって実用化された.著者らは最新のプラットフォームを用いてSNPタイピングを効率的に行うためのシステムを構築し,いくつかの多因子疾患を対象としてゲノムワイド関連分析を行っている.本稿ではゲノムワイドSNPタイピング技術の原理と概要について解説した後,日本人試料を用いたタイピングの結果を,いくつかの注意点や精度管理法を交えて紹介する.最後に,今後の課題および将来の展望についても触れたい.
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医学のあゆみ 225巻9号, 726-735 (2008);
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ヒトゲノム配列の解明と遺伝的多様性の研究の進展により,個人から膨大な(50万以上)遺伝子型情報が得られるようになった.多数の個人から膨大な多型情報を収集することにより,全ゲノム関連解析(GWAS)が行われるようになった.それにより多くの疾患の遺伝的原因が急速に解明されつつある.科学史上例をみない膨大なデータの解析のためには,遺伝学,統計学,計算科学などの知識と手法を集約した高度な技術が必要である.
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医学のあゆみ 225巻9号, 736-739 (2008);
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メンデルの独立の法則の例外である連鎖という現象を利用し,複数の座位の位置関係を解析する手法が連鎖解析である.メンデル型の形質の研究に適したパラメトリック連鎖解析と,複雑な形質(多因子形質)に適したノンパラメトリック連鎖解析がある.後者のほとんどは罹患同胞対解析である.いずれの手法にも,フィッシャーの発見した最尤法が用いられる.パラメトリック連鎖解析はメンデル型形質の確定にきわめて大きな役割を果たしており,多くの疾患の座位は確定されている.それに比べ,罹患同胞対解析の有用性は限定的である.
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医学のあゆみ 225巻9号, 740-745 (2008);
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通常,ヒトの細胞には両親から1コピーずつ継承した2コピーの遺伝子をもつと考えられてきた.コピー数多型(CNV)は,遺伝子をまるごと含むような数Kbpから数Mbpといった大きな領域において,個体によっては1コピー(消失),3コピーやそれ以上(重複)といったような数の変動がみられる多型である(図1).これまで知られているSNPなどの多型に加えて,疾患のリスク,薬剤応答性といった個人の体質差を生みだすあらたな一因として注目されている.また,生命科学に携わる多くの研究者の関心を引き,ヒトにとどまらずその他の霊長類,マウス,そしてさまざまな植物といった多様な種での存在も報告されている.本稿ではCNVの最近の知見,ヒトのもつ分布およびSNPとの関連性,疾患との関連解析例,新しい検出技術などを紹介していく.
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医学のあゆみ 225巻9号, 746-752 (2008);
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エピジェネティクスとは,遺伝子配列の変化を伴わずに遺伝子発現や染色体機能の制御を行う現象である.DNAメチル化,ヒストン修飾などのエピジェネティックな修飾は“細胞レベルの記憶”であり,受精卵から個体への発生・分化のプロセスにおける細胞の運命付けにおいてきわめて重要な役割を果たしている.一卵性双生児であっても罹患する疾患は生活習慣により大きく異なることが知られ,加齢,環境や食物など環境との相互作用によりもたらされるエピジェネティックな修飾が個体レベルの表現型に大きな影響を及ぼすと考えられる.タイリングアレイや高速シークエンサーなどのゲノム解析技術は,エピジェネティックな修飾の網羅的解析(エピゲノミクス)を可能とした.エピゲノム解析の現状について概説する.
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医学のあゆみ 225巻9号, 753-757 (2008);
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ゲノムプロジェクトの完了から5年がたって,サンガー法とは異なる原理に基づく新型のシークエンサーが登場してきた.これらのシークエンサーは従来のものより,100〜200倍の効率上昇とコスト低下を成し遂げ,ゲノム研究のさまざまな局面に使用されつつある.新型シークエンサーは,ゲノム研究だけでなく,広く今後の医学生物学研究にインパクトを与えるであろう.
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臨床ゲノム研究のための情報解析
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医学のあゆみ 225巻9号, 761-764 (2008);
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遺伝的関連解析で報告された遺伝子多型と表現型の関連については,他の研究機関による追試研究でその検証が行われることが多い.複数の研究機関で関連が確認されれば,結論の信頼性が増し,それらの結果を統合することで,その多型の遺伝的効果(たとえばオッズ比など)がより正確に推定できるであろう.しかし,関連解析の追試研究ではそれぞれの研究機関で異なる結果が得られることも多い.そういった場合,すべての研究機関において遺伝的効果が共通なのかを検討しなければならない.メタアナリシスは,結果の統合による遺伝的効果の推定と遺伝的効果の異質性の検討に有用な統計解析である.今後,遺伝的関連解析により報告された遺伝子多型についての追試研究と,これまでの結果をメタアナリシスにより検討した報告がますます重要となるであろう.
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医学のあゆみ 225巻9号, 765-769 (2008);
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ゲノム解読に引き続き,遺伝子の発現パターンの全体(トランスクリプトーム),細胞内の蛋白質の全体(プロテオーム),あるいは代謝物の総体(メタボローム)など,近年,細胞のなかに見出されるさまざまな種類の分子情報を総体として観測する手段が発展し,これら網羅的な分子情報(オミックス)を診断・治療に適応した新しい医学が,従来の医学に比べ発症・経過・予後の予測に優れ,個人に特化した医療をもたらし,疾患をシステムとして理解すると期待されている.しかしその確立のためには,対象とする疾患について多数の患者症例を集め,患者が示す症状や病理組織像・臨床検査値などの臨床情報と分子レベルでの病態オミックス情報の間にどのような関連性が潜んでいるかを究明する必要がある.東京医科歯科大学では癌を中心に,臨床・病理情報に加え広く網羅的分子情報を集めた臨床オミックスデータベースを構築し,新しい医学の知的基盤を提供しつつある.
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医学のあゆみ 225巻9号, 770-774 (2008);
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オミックスや遺伝子多型研究では,網羅的に計測した実験データを分析することでゲノム全体のなかから責任遺伝子の候補となるものを段階的に絞り込んでいく解析手法がとられる.しかし,数万ある遺伝子のなかから候補となるものを全体の1%にまで絞り込んだとしても,まだ数百個の候補が残ることになり,網羅的実験のデータだけで絞り込むには限界がある.このため,さらに候補を絞り込むためには文献など既存の知識データと照合する作業が不可欠になっている.著者らが開発した統合検索システムPosMed(Positional MEDLINE)は,絞り込まれた一群の遺伝子に対して文献を直接使った推論検索を実行し,機能的なキーワードに結びつけてランキングするため,通常のパスウェイデータベースではみつからないような関連性も網羅的に探索することができ,ポジショナルクローニングでの候補遺伝子選びや,多型研究でみつかった遺伝子およびバイオマーカーの機能解釈にも使うことができる.
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医学のあゆみ 225巻9号, 775-778 (2008);
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国際HapMapプロジェクトは,ヒトゲノム上の多様性のパタンを体系的・網羅的に調べあげ,疾患研究を加速するために発足した.日本・中国・ナイジェリア・アメリカの4集団270人の全ゲノム上の一塩基多型(SNP)の遺伝子型を高精度に決定することによって,ケース集団とコントロール集団との間で遺伝子型を比較する関連解析に必要なSNPを選び出したことにより,ゲノムワイド関連解析を現実化し急速に発展させた.また,将来的に疾患研究をより発展させる基盤となる組換えや自然選択,遺伝子機能,構造多型などの多様性を解析し,数々のあらたな知見を得ることに成功した.これらの公開データや知見,解析技術をもとに,いまやゲノムワイド関連解析および機能解析が急峻に進み,さまざまな疾患に関連する遺伝子や多型が発見されつつある.
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ゲノムワイド関連解析
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医学のあゆみ 225巻9号, 781-786 (2008);
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2002年に著者らが世界ではじめて一塩基多型(single nucleotide polymorphisms:SNPs)を用いた心筋梗塞のゲノムワイド関連解析を報告して以来,国際ハップマッププロジェクトによるハプロタイプ地図の構築や,SNPタイピング技術の進展といったインフラ整備に伴い,生活習慣病の関連遺伝子を同定するツールとしてゲノムワイド関連解析が全世界で進められ,あらたな疾患候補ゲノム領域がつぎつぎと報告されている.本稿では,著者らがこれまでに進めてきた心筋梗塞のゲノムワイド関連解析および,これを通して同定した心筋梗塞関連遺伝子について概説する.
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医学のあゆみ 225巻9号, 787-790 (2008);
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関節リウマチは関節滑膜を中心とする全身性の自己免疫現象と炎症を特徴とし,滑膜細胞の異常増殖と骨・軟骨破壊に至る原因不明の慢性疾患である.発症や病態の進展には複数の遺伝要因および環境要因が関連する,いわゆる多因子疾患のひとつであるとされている.遺伝要因に関しては主要組織適合遺伝子複合体HLAがもっとも寄与度は大きいとされているが,それ以外の非HLA領域の遺伝要因の検索は病態の解明と新しい治療法の開発に重要である.本稿では欧米とわが国のいくつかの関連遺伝子の現状について概説する.このようにして同定された疾患関連遺伝子は,病因や病態形成に一義的に関与していることが考えられることから,病態の詳細な解析や創薬,さらに将来的な個別医療の開発に重要な情報を提供すると期待されている.
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医学のあゆみ 225巻9号, 791-797 (2008);
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尋常性乾癬(以下,乾癬)は,炎症性角化症に分類される皮膚疾患である.双生児研究,罹患率の調査などの疫学データから遺伝性が疑われているが,遺伝子座異質性,環境要因,不完全な浸透率などが障壁となり,遺伝学的な解析による感受性遺伝子の同定はいまだ達成されていない.そこで著者らは,独自に開発したゲノムワイドな約3万個のマイクロサテライトマーカーを用いて感受性遺伝子を網羅的に同定する研究を進め,遺伝学的な解析はほぼ完了した.
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医学のあゆみ 225巻9号, 798-801 (2008);
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2型糖尿病の成因として,遺伝因子が関与することにはおそらく異論はないものと思われるが,多因子が関与すること,および肥満や生活習慣など種々の要因が複雑にかかわることから,その解明は困難な時期が長く続いてきた.最近になり,10番染色体のtranscription factor 7 like 2遺伝子(TCF7L2)と2型糖尿病との関連が報告され,欧米人においては過去に例をみない強力な疾患感受性遺伝子として注目されている.さらに2007年,欧米の複数のグループから2型糖尿病を対象としたゲノムワイド相関解析の結果があいついで報告された.いずれも300,000〜40,000SNPsを数千人の規模で解析しており,前述のTCF7L2領域を含む数カ所の有力な2型糖尿病関連遺伝子領域が同定されている.
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医学のあゆみ 225巻9号, 802-805 (2008);
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脳梗塞を含む生活習慣病は,複数の遺伝要因と環境要因が複雑に関与する多因子疾患と考えられている.脳梗塞に関する遺伝的要因の関与は示唆されているものの,その実態はいまだ明らかではない.これまでにゲノムワイド関連解析によりアイスランドからPDE4D,ALOX5AP遺伝子が,日本からはPRKCH,AGTRL1遺伝子が脳梗塞関連遺伝子として報告されている.現在,世界中でゲノムワイド関連解析が進行中であり,今後,脳梗塞の関連遺伝子がつぎつぎと同定され,脳梗塞に対するあらたな発症機序の解明や予防法の確立につながることが期待される.
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医学のあゆみ 225巻9号, 806-810 (2008);
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骨・関節には一般集団における罹患率の非常に高い疾患(common disease)が非常に多い.これらは多因子遺伝子病で,遺伝的要因(疾患感受性遺伝子)がその病因に関与する.骨・関節のcommon diseaseにおける疾患感受性遺伝子を同定するためのゲノムワイド関連解析の歴史と現状について概説する.また,著者らのグループで行った骨・関節の代表的common diseaseである変形性関節症の疾患感受性遺伝子CALM1の同定を例に,疾患感受性遺伝子/疾患感受性多型の同定の方法・過程と,その機能解析について述べる.
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医学のあゆみ 225巻9号, 811-814 (2008);
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肥満は糖尿病,高血圧,脂質代謝異常などの生活習慣病の重要なリスクファクターである.古くから肥満発症には遺伝素因が重要であることが知られている.近年,一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)の高速・大量タイピングの技術の進歩により,ゲノムワイドに肥満関連遺伝子の検索を行うことが可能になった.著者らは,SNPを用いてセクレトグラニン㈽(SCG3)とmyotubularin-related protein 9(MTMR9)が日本人において肥満発症に重要であることを見出した.また,白人で報告されたfat mass and obesity associatedgene(FTO)も日本人の肥満発症に関与していることを見出した.これら3個の遺伝子は食欲中枢の視床下部に発現しており,視床下部でのこれら遺伝子の作用が肥満発症に重要であると考えられる.
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医学のあゆみ 225巻9号, 815-820 (2008);
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複数の遺伝要因と環境要因とが疾患の発症や病態に関与していると考えられる“多因子疾患”において,その遺伝要因の探索が,全染色体を解析対象とした大規模なケースコントロール関連解析(GWAS)を用いて行われ,数多く報告されている.多因子疾患には糖尿病や高血圧などの生活習慣病として知られる疾患や,著者らが研究対象としている睡眠障害など,多くの疾患が含まれる.著者らは睡眠障害のなかでも比較的均質な病態を示す過眠症として知られるナルコレプシーについて,ゲノムワイドに設定された多数のマーカー(約23,000個のマイクロサテライトマーカーおよび50万個の一塩基多型:SNPs)をそれぞれ用いた2つのGWASを行うことで,遺伝要因の探索を行ってきた.その結果,あらたに複数のナルコレプシー関連遺伝子を見出したので,ここでまとめて報告する.
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医学のあゆみ 225巻9号, 821-826 (2008);
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同種造血幹細胞移植の治療効果(GVL)の主体をなすアロ免疫反応は同時に,重篤な移植合併症である移植片対宿主病(GVHD)の原因ともなっている.そこで,GVHDを予防しつつ強力な抗腫瘍効果(GVL)を誘導することは,造血幹細胞移植の主要な関心事である.一方,GVHDとGVLにかかわるアロ免疫はドナーまたはレシピエントの遺伝学的な背景(多型)によって強く影響を受けると考えられており,著者らは日本骨髄バンクのDNA試料を用いた全ゲノム関連解析の手法により,造血幹細胞移植の遺伝的背景を探索している.GVHDにおける関連解析が通常の解析と異なるのは,ドナーとレシピエントの遺伝子型の組合わせと疾患の発症の関連が解析される点であろう.現時点ではなお解析は完了していないが,本稿では研究の背景と現時点での解析状況について簡単に紹介したい.
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医学のあゆみ 225巻9号, 827-831 (2008);
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精神疾患の遺伝様式は多因子遺伝であり,遺伝子多型が易罹病性にかかわっていると予想されるため,ゲノムワイド関連解析の成果が期待されている.精神疾患のゲノムワイド関連解析はこれから本格的に発表されようとしている段階であるが,すでに発表されている双極性障害のデータからすると,個々の遺伝子多型の影響力は小さく,数千のサンプルでも結論は得られない可能性が高い.統合失調症,双極性障害,うつ病,注意欠陥・多動性障害などでゲノムワイド関連解析は多く実行に移されており,多くの集団を対象としたゲノムワイド関連解析の結果が精神疾患の遺伝要因の解明に役立つはずである.精神疾患では罹病の有無のみならず,脳形態やパーソナリティ,治療反応性など関連する表現型に対するゲノムワイド関連解析も進みつつあり,臨床に役立つゲノムデータの収集が進められている.
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稀少遺伝性疾患の遺伝子診断をめぐって
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医学のあゆみ 225巻9号, 835-839 (2008);
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近年,多くの遺伝性疾患の分子基盤がしだいに明らかにされ,遺伝子診断(遺伝学的検査)が可能となった.現在,もっとも一般的に使用されている全エクソンの直接シーケンシング法によって遺伝子診断を行う場合,検査の実施価格が高額となり,臨床応用はきわめて困難である.著者らは遺伝子の全エクソンを同時増幅し,1回の分析で変異の有無をスクリーニングするシステムとしてcondition-oriented primer pre-embeded reactorplate法(COPPERプレート法)を開発し,年間200〜300件の遺伝子診断を実施している.今後は,受益者負担の原則に従った,社会システムの樹立が必要である.医療特区制度の利用や,国内外の検査実施施設と検査依頼施設の“clearing house(仲介機関)”との連携が問題解決の手がかりとなるであろう.
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医学のあゆみ 225巻9号, 840-844 (2008);
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遺伝性疾患の遺伝子診断は,診断の確定,診療方針の決定,適切なフォローアップ,さらに遺伝カウンセリングにとって重要である.近年の遺伝子解析研究の進歩によって遺伝子診断が可能な疾患が急増しており,それらの臨床的有用性が確立されつつある.これまでわが国では,稀少遺伝性疾患の遺伝子検査については遺伝子解析研究を行う研究室が,その研究の一環として,遺伝学的検査の臨床サービスを無償で提供してきた.しかし,研究終了後は財政的・人的支援がないため臨床サービスを続けていくことが困難な状況におかれている.その一方,遺伝子検査のほとんどは健康保険の対象となっていないため,商業ベースでの検査提供はされていない.このため,稀少遺伝性疾患の遺伝子検査は存亡の危機にある.このような現状に鑑み,稀少遺伝性疾患に対する遺伝子診断ネットワークを構築するため,NPO法人“オーファンネット・ジャパン”が設立された.
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医学のあゆみ 225巻9号, 845-849 (2008);
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アレイCGH法は,高感度かつ高精度にゲノムのコピー数異常を検出することで染色体の欠失や重複を詳細に解析しうる技術であり,先天異常症の原因解明や診断に大きく寄与してきた.原因不明であった先天異常症のゲノム異常を検出するだけでなく,染色体核型異常をともなう症例のゲノム異常を解析して病態をより詳細に解明する例や,共通のゲノム異常をもつ新たな疾患概念を確立する例も報告されている.今後,アレイCGHは従来の染色体検査を補完・代替するツールとして必須の診断法となることが予想され,実際に臨床の現場においてもアレイCGH
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癌と遺伝学
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医学のあゆみ 225巻9号, 853-860 (2008);
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DNAマイクロアレイ解析技術により得られる腫瘍組織の遺伝子発現プロファイルには癌細胞に生じているシグナル経路の変異が反映されており,予後予測や治療法の選択に遺伝子発現解析に基づくバイオマーカーの開発が期待されている.癌細胞に生じた遺伝子変異は腫瘍特異的であることから,個別化医療実現のためのよい治療標的分子となりうる.予後予測については,乳癌ですでに化学療法の必要性の有無を予測する遺伝子発現検査が提唱され,大規模の臨床試験中である.治療法選択に関してはin vitro感受性試験による感受性予測で有望な結果もみられているが,予測signatureの抽出法,長期予後との相関などを検討していく必要がある.
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医学のあゆみ 225巻9号, 861-865 (2008);
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癌は1981年以来日本人の死亡原因の第一位を占め,その予防・診断・治療に関する研究が推進されている.多くの癌は多因子病であり,複数の遺伝要因と環境要因がその発症に関与し,効果的な予防法を確立するために遺伝背景の解明が待たれている.最近,急速に進んだ数十万SNPによる全ゲノム関連解析により大腸癌や乳癌,肺癌などで発症感受性遺伝子が同定された.再現実験や環境因子との交絡的な解析を進めることにより個々人の遺伝素因や生活習慣に基づいた効果的な予防法が確立可能となる.
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医学のあゆみ 225巻9号, 866-872 (2008);
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乳癌関連遺伝子に関する研究は急速に進んでいる.従来,HER2の遺伝子増幅はtrastuzumabの適応の決定に使用され,BRCA1/BRCA2の変異は乳癌発症のリスク評価に用いられてきた.今日では,これらの遺伝子は薬剤感受性との関連において注目されている.さらにTOP2Aなどの遺伝子が,薬剤使用の個別化との関連のなかで積極的に研究されている.また,pharmacogenomicsの観点から,CYP2D6やUGT1A1の遺伝子多型と薬物代謝に関する研究成果が,臨床的に応用されようとしている.一方,遺伝子発現に関する研究も活発である.複数の遺伝子から予後を予測するOncotype DXTMやMammaPrintは,化学療法適応決定の場面などで,すでに臨床応用されている.今後も,個別化医療の流れのなかで,遺伝子解析や遺伝子発現解析は不可欠な役割を果たしていくものと思われる.
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医学のあゆみ 225巻9号, 873-877 (2008);
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2003年に非小細胞肺癌ではEGFR遺伝子に変異が存在するものがあること,変異陽性の肺癌にはゲフィチニブが著効することが報告され,基礎研究,臨床研究の大きなインパクトとなった.EGFR遺伝子変異は,東洋人,女性,肺腺癌に多いこと,ゲフィチニブによるシグナル遮断が肺癌細胞死を引き起こすことは,肺癌の人種差,肺癌発生機構に関するあらたな疑問を投げかけている.EGFR遺伝子変異検査は保険適応され,日常臨床のなかに組み込まれつつある.ゲフィチニブとEGFR遺伝子変異は,基礎研究と臨床研究がたがいに情報を提供しながら進歩するという,トランスレーショナル研究のあらたな発展形となっている.
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医学のあゆみ 225巻9号, 878-882 (2008);
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現在でも消化器癌治療では手術治療のみが完治を期待できる唯一の標準治療であり,切除不能・再発癌については非観血的治療で完治する可能性はほとんどない.したがって,化学療法や放射線療法には緩和的医療の側面が強く,重篤な副作用を可及的に回避しつつ,効果にも期待できるような治療法に対する要求は強い.抗癌剤は,その治療域と毒性域が接近しているうえに,治療の副作用や効果の個体差が大きい.これまで化学療法は臨床比較試験によって得られたエビデンスに基づき施行され,体表面積や臓器機能などに応じた微調整以外に個別化の要素はほとんどなかった.しかし,近年急速に進歩した分子生物学的手法を用いて,さまざまな疾患についてその病因や治療に対する詳細な遺伝子解析が行われるようになると,癌化学療法においても薬剤の効果や副作用予測のための薬理遺伝学(pharmacogenetics)に大きな期待が寄せられるようになった.今後はエビデンスレベルの高いバイオマーカーをprospectiveに臨床試験に反映させていく必要があるが,分子標的薬剤の開発と相まって,将来的には遺伝子解析情報が化学療法の治療法決定の主軸となる可能性が高い.
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医学のあゆみ 225巻9号, 883-887 (2008);
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遺伝性腫瘍の原因遺伝子を同定し,その機能を明らかにすることは,遺伝性腫瘍だけでなく散発性腫瘍の発生メカニズムを理解し,その診断,治療,予防を行うためにも有用である.大腸に腫瘍を発生する家族性大腸腺腫症(FAP)とLynch症候群は,それぞれAPCとミスマッチ修復遺伝子群の異常によって起こる遺伝性疾患である.しかし,遺伝子異常がみつからない患者も多数存在し,検出できない遺伝的原因がゲノムのなかに隠れている可能性がある.これらの疾患ではどのような遺伝子異常がみつかってきたか,遺伝子異常がどのような表現型と相関するかを紹介する.
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ゲノム・遺伝と倫理
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医学のあゆみ 225巻9号, 891-894 (2008);
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近年,疾患関連遺伝子を探索するための研究手法として全ゲノム関連解析(GWAS)が注目されているが,GWASを行うには大規模なサンプル収集が必要になる.そこで英米の研究機関は各研究者の研究データを統合したデータベースを構築し,審査に合格した特定の研究者間でのみデータを共有する体制を整備することで,研究参加者のプライバシーに配慮しつつ,効率的にGWASを推進する体制を整備している.その有効性から,日本でもデータ共有を行うことが望ましいと考えられるが,さまざまな社会的・倫理的問題により現段階では慎重に行わざるをえない状況がある.将来のゲノム医療の発展のためにはまだまだ基礎研究が必要であるため,これらの問題を解決し,GWASに限らず,ヒトゲノム研究全体を強力に推進する体制を整備していく必要があるであろう.
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医学のあゆみ 225巻9号, 895-898 (2008);
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インフォームドコンセントは,自律性の確保の点から,医療・生命科学研究の際に考慮すべき重要な基本事項である.ヒトゲノム研究に関する倫理指針や遺伝医学関連学会による遺伝学的検査ガイドライン,また,ヒト胚の取扱いについての指針など,国や学会の指針にも記述されている.一方で,研究の進展とグローバル化が,インフォームドコンセントの取扱いについて手続き上の問題を生み出すこともある.国際機関ユネスコ(UNESCO)は,関連する国際宣言の採択やインフォームドコンセントの国際標準化に向けての報告書作成を通して,その国際標準化の普及に努めている.
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医学のあゆみ 225巻9号, 899-905 (2008);
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1990年代後半より遺伝学的検査の市場化,すなわちいわゆる“遺伝子検査”(「サイドメモ」参照)ビジネスという,医療を介さず直接一般市民(消費者)に検査を“販売”する業態が勃興してきた.肥満や疾病易罹患性などの体質や,親子(父子)鑑定を遺伝学的検査で明らかにするというサービスであるが,遺伝医学の専門家からは前者は科学的妥当性に乏しいだけでなく,遺伝カウンセリングどころか対面販売すらしない検査キットのネット販売には倫理的にも問題があり,後者は司法を介さず安易に行われるようになることによる,さまざまな法的・倫理的問題も指摘されている.これに対し業界は事業者団体を立ち上げ,自主基準を策定し運用を開始するなど,諸外国では認められない業界主導型での適正な事業展開の推進支援に努める姿勢を示しているが,アカデミアと業界との見解の隔たりは少なくない.国の対応としては,世界でも例外的でほぼ唯一と思われる経済産業分野の所掌官庁主導で適正な市場形成の振興支援が進むという傾向にあり,保健医療行政官庁が責任をもって規制を主導するという諸外国の手法とはかなり異なっている.遺伝差別や優生思想の発露を予防するための施策が急務となっている.
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医学のあゆみ 225巻9号, 906-909 (2008);
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薬剤の開発には多くの時間と費用がかかるが,その努力にもかかわらず予想外の有効性の低さ,副作用の発現で薬剤の開発がストップしたり,回収などのリスクを負うことがある.製薬企業にとってのリスクだけでなく,当然ながら患者の治療の機会を奪うことにもなる.このようなリスクを回避するために,治験期間中および製造販売後の予想外の有効性の低下,副作用の発現にそなえて,事前に生体試料を長期に保管し,遺伝子解析などを行えるように準備を行う“バンキング”が行われている.本稿では,生体試料のバンキングにおける現状と課題について述べる.
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ゲノム薬理学と個別化医療
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医学のあゆみ 225巻9号, 913-918 (2008);
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ゲノムの個人差である遺伝子多型が,医薬品の有効性および安全性に影響を及ぼす例が数多く報告されている.この分野の研究(ゲノム薬理学またはファーマコゲノミクス:PGx)は急速に進展しており,アメリカでは医薬品の副作用発現と相関する遺伝子多型の診断キットがすでにいくつか認可されている.わが国においても一部の多型マーカーは実用化の段階に至っている.本稿では,医薬品の副作用発現に関与する遺伝子多型の具体例を含めて安全性からみたPGxの最近の進展を紹介し,人種差の問題など,今後の課題について
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医学のあゆみ 225巻9号, 919-924 (2008);
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川崎富作博士が川崎病を新しい疾患として発表したのが1967年であるので,すでに40年が経過している.この間,2年ごとの全国的な疫学的調査により多くの知見が集積されてきた.基本的には自然治癒する疾患であるが,冠動脈瘤という重大な合併症がある.急性期治療としてアスピリン内服とγグロブリン療法が効果的であり,冠動脈瘤の発生も抑制するが,治療抵抗例もみられる.また,40年間にわたる精力的な研究にもかかわらず,原因となる病原体はいぜん不明のままである.一方,疫学的調査により,遺伝要因の大きいことが明らかになってきた.最近,著者らは人類遺伝学的手法により,川崎病への易罹患性に関与している感受性遺伝子のひとつを明らかにした.原因となる遺伝子多型が冠動脈瘤の発生および治療抵抗性に関与している可能性が示唆された.この知見を遺伝子型に基づいた初期治療の選択という個別化医療に応用できる可能性が開けた.
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医学のあゆみ 225巻9号, 925-930 (2008);
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関節リウマチ(RA)の治療薬の中心は抗リウマチ薬である.抗リウマチ薬の特徴のひとつとして,効果・副作用の発現に個体差が大きいことがあげられるが,このような薬効の個体差に遺伝子多型が関与していると考えられる.現在,もっとも重要な抗リウマチ薬であるmethotrexate(MTX)やsulfasalazine(SSZ),最近導入されたTNF阻害薬を中心にゲノム薬理学的検討が行われている.本稿ではMTXとMTHFR遺伝子多型,SSZとNAT2遺伝子多型との関連について紹介し,ゲノム情報と表現型の関連を臨床応用するために考慮すべき点について考えてみたい.
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医学のあゆみ 225巻9号, 931-935 (2008);
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ワルファリンはもっともよく使用される経口抗凝固薬であるが,維持用量における個人間変動が大きいため,個々の患者に適切な用量を設定することが難しい.本研究ではワルファリン感受性に関連する候補遺伝子VKORC1とCYP2C9について,828人のワルファリン投与患者をジェノタイピングした.2遺伝子のジェノタイプに基づくwarfarin-responsive indexを用いて患者を3つのグループに分類したところ,グループ間における維持用量の中央値の差は有意であった(index 0のグループ2.0 mg/day,index 1のグループ2.5 mg/day,index 2のグループ3.5 mg/day;p=4.4×10−13).すなわち,VKORC1とCYP2C9のジェノタイプの組合せはワルファリンの至適用量の予測に有用であり,患者にとってより安全で適切な優しいワルファリンのオーダーメイド投薬に適用できる可能性が示された.
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医学のあゆみ 225巻9号, 936-940 (2008);
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抗癌剤イリノテカンはトポイソメラーゼ阻害活性を有するカンプトテシンの誘導体であり,多くの癌種に広く用いられている.イリノテカンの重篤副作用である好中球減少症発現の原因として,UDPーグルクロン酸転移酵素UGT1A1の*28多型〔ー54_ー39 A(TA)6TAA>A(TA)7TAA〕が知られており,アメリカではすでに副作用回避のための診断キットが認可されている.わが国でも同様の動きがあるが,日本人を対象とする場合は,*28に加えて東アジア人で頻度が高い*6多型(211 G>A,Gly71Arg)を考慮する必要がある.著者らの研究においても,単剤での使用およびシスプラチンとの併用において*6および*28に依存したグレード3以上の好中球減少症の増加が示されている.すなわち,わが国においては*28に加えて,*6を好中球減少症発現リスクの指標とする必要がある.
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医学のあゆみ 225巻9号, 941-945 (2008);
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ヘリコバクターピロリ(H.pylori)の除菌療法は,胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)と抗生物質であるクラリスロマイシン,アモキシシリンによる3剤療法が主流である.この治療法の成否にはPPIの代謝酵素であるCYP2C19の遺伝子多型が関わり,代謝が速いタイプであるとPPIの効きが悪く除菌に失敗しやすいため,PPIの投与方法には工夫が必要である.また,クラリスロマイシン耐性のH.pyloriの場合にも除菌に失敗しやすく,抗生物質の選択,投与方法に工夫が必要である.CYP2C19多型もH.pyloriがクラリスロマイシンに耐性かどうかも遺伝子検査で判定可能であり,事前にこれらの遺伝子検査を行うことによって個別化されたH.pyloriの除菌療法が施行可能となり,高い除菌成功率を初期治療から達成できるのである.
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遺伝と環境
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医学のあゆみ 225巻9号, 949-953 (2008);
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かつては疾患の原因を遺伝要因と環境要因で説明してきたが,近年,多因子疾患にエピジェネティクスが関与する可能性が示唆されてきた.さらに,一卵性双生児間のエピジェネティックな違いや,胎児期・新生児期の環境がエピジェネティクスに影響を及ぼす例,そしてエピジェネティクスが次世代に伝達することも報告されてきた.エピジェネティクスは,疾患の原因として遺伝要因と環境要因に加えて考慮すべき第三の要因といえる.ヒトゲノム解析の成果を医学に生かすうえでも,エピジェネティクスの視点は重要である.
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医学のあゆみ 225巻9号, 954-959 (2008);
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近年,日本を含む複数の国々において停留精巣,尿道下裂,精子形成障害,精巣腫瘍の増加が報告され,これはおもに内分泌攪乱化学物質のエストロゲン受容体を介するエストロゲン様作用によると考えられている.著者らは,内分泌攪乱化学物質のエストロゲン様作用に対し高い遺伝的感受性を有する個体が雄性性機能低下を発症しやすいという作業仮説のもとに,男児外陰部異常症患者および精子形成障害患者において,エストロゲン受容体α遺伝子のハプロタイプ解析を行った.その結果,C末端側に約36 kbのハプロタイプブロックが存在し,特定ハプロタイプのホモ接合性が,尿道下裂に対しオッズ比13.75,停留精巣に対しオッズ比7.55という顕著な感受性を伴うことを見出した.この成績は,内分泌攪乱化学物質に対する個体感受性の存在を示唆するものである.
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臨床ゲノム学への各科の取組み
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医学のあゆみ 225巻9号, 963-969 (2008);
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母体と胎児の血液は胎盤関門によりたがいに混じり合わないと考えられていた.しかし,1997年にはじめて母体血中に胎児DNAが検出されたことをきっかけにして,採血した母体血を通じて胎児の遺伝情報を得ることが可能であることが示された1).以来10年間の研究により,母体の血漿中に流入している胎児・胎盤由来のcellーfree DNAは妊娠7週ごろから検出されることが明らかになり,胎児の性別診断,RhD型判定,染色体異常あるいは父親由来の遺伝子変異の検出などの出生前診断に用いられている2,3).一方,母体血漿中への胎児・胎盤由来cellーfree mRNA流入量は,妊娠高血圧症候群,癒着胎盤,双胎間輸血症候群などの妊娠合併症と関連していることが報告され,その定量化はabnormal placentationと関連する妊娠合併症を予測し管理するあらたな分子マーカーとして注目されている2,4,5).今後,マイクロアレイ技術を用いた母体血漿中cellfreemRNA量の網羅的な定量化により,胎児・胎盤機能の推定が可能になると期待される.
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医学のあゆみ 225巻9号, 971-974 (2008);
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不妊症や不育症の病因として遺伝学的な要因はもっとも重要であるといっても過言ではない.流・死産を繰り返して生児を獲得できない場合は不育症と称されるが,胎児を失う最大の理由は胎児自体の遺伝学的異常である.長足の進歩を遂げる不妊診療においても,受精後の胚生育に問題があったり着床後早期に淘汰される場合に対しての治療は困難であるが,その多くは胚の遺伝学的異常に起因している.近年,体外受精に導入された着床前診断は遺伝性疾患罹患児の出生を予防するだけでなく,これまで治療不可能としてとらえられていた,生殖医療における遺伝学的問題に対する解決手段となりうる可能性がある.
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医学のあゆみ 225巻9号, 975-980 (2008);
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難聴はさまざまな原因で生じるが,約1,000の出生当り1人が先天性の高度難聴で,そのうち約半数が遺伝性難聴とされている.遺伝性難聴は難聴以外の他の臨床症状(たとえば頭蓋,視器,皮膚,四肢骨格系などにみられる先天奇形)がみられる症候群性難聴と,難聴以外には他の臨床症状を示さない非症候群性難聴の2種類に分類される.多くの難聴症例は非症候群性難聴に属し,臨床的にも非症候群性難聴がより重要となる.遺伝性難聴は優性遺伝,劣性遺伝,X連鎖遺伝,母系遺伝に分類される.症候群性難聴はWaardenburg症候群,Usher症候群など,その症候群の発見者名で命名されていることが多い.非症候群性難聴はヒトゲノム機構で遺伝形式によって報告順に難聴遺伝子座が命名され,優性遺伝はDFNA,劣性遺伝はDFNB,X連鎖遺伝はDFNと記載される.たとえば,優性遺伝で最初に同定された難聴遺伝子座はDFNA1となる.すでに,40個以上の難聴遺伝子が同定されている.
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医学のあゆみ 225巻9号, 981-984 (2008);
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20年前には,ほとんどの遺伝性眼疾患は臨床所見,生化学,あるいは生理学的に読み取れる表現型をもとに分類されるにとどまっていたが,いまや多くの疾患が遺伝子や分子のレベルで記述されるようなった.角膜ジストロフィーや網膜色素変性などの単一遺伝子疾患に相当するおもなものの原因遺伝子はほぼ同定されている.一方,わが国の失明原因として,緑内障や加齢黄斑変性など加齢と関連した疾患の重みが大きくなっている.ゲノム研究は,環境要因・生活習慣が複雑にかかわっているこれらの疾患における遺伝のかかわりを解明しつつある.