医学のあゆみ
Volume 226, Issue 1, 2008
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【7月第1土曜特集】心筋症─基礎と臨床:Up to Date
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- 基礎研究の進歩
- 【心筋症の病因にせまる】
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心筋症の遺伝子異常
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋症はさまざまな病因による不均一な心筋疾患の総称であり,表現型より肥大型心筋症,拡張型心筋症,不整脈源性右室心筋症などに分類されてきた.心筋症の病因の解明に分子遺伝学的手法が導入され,1990年に肥大型心筋症の病因遺伝子が明らかにされてから,つぎつぎと病因遺伝子異常が明らかになってきている.本稿では,今日までに明らかにされた肥大型心筋症,不整脈源性右室心筋症,拡張型心筋症の遺伝的な病因について述べる. -
心筋炎と心筋症
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋炎の原因の多くはウイルス感染と考えられ,ウイルス性心筋炎が心筋症の原因のひとつであると考えられてきた.ウイルス性心筋炎によりびまん性に心筋細胞壊死が発生すると拡張型心筋症となり,心内膜下を中心に局所的な心筋傷害が発生すると拘束型心筋症となり,右室の心筋に傷害が限局すると不整脈源性右室心筋症様病態を呈すると考えられる.コクサッキーウイルス,アデノウイルスは小児の急性心筋炎の原因となることは明らかであるが,成人における心筋症の病因となっているとの直接的な証拠は十分ではない.C型肝炎ウイルス(HCV)は上記の心筋症のほか肥大型心筋症をきたす可能性も示唆されている.また,心筋症の発症にはウイルス側だけではなく宿主の免疫応答性の関与が示唆されている. -
心筋症における自己免疫機序
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋症の原因としてウイルス感染,遺伝子異常とともに自己免疫異常をあげることができる.細胞性免疫異常はおもに心筋炎に伴う心筋障害に関与する.これに対して拡張型心筋症患者の血清にはさまざまな抗心筋自己抗体が検出される.これらは心筋炎に伴う随伴現象と考えられてきたが,すくなくとも一部は心筋症の病態に関与することがわかってきた.そのなかでもβアドレナリン受容体に対する自己抗体はアゴニスト様作用を有し,遷延性心筋障害や致死的心室性不整脈の発生素地となることが明らかとなった.ムスカリンM2受容体に対する抗体は心房細動と関連する.Na-K-ATPaseに対する自己抗体は,致死的心室性不整脈による突然死と強く関連する.トロポニンIに対する自己抗体はL型カルシウム電流を増加させ,心筋障害の持続と関連する.このような知見を踏まえ,免疫吸着による自己抗体除去の臨床開発が進行中である. - 【心筋症の病理を理解する】
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心筋症の病理の包括的理解−心筋症の病理像はひとつではない
226巻1号(2008);View Description Hide Description従来の心筋症分類基盤は形態と機能との混合よりなる.拡張相肥大型心筋症の実在は肥大型・拡張型心筋症概念の独立性を揺がした.遺伝子型・表現型関連の不一致,異なった心筋症症例が同一遺伝型をもつ家系の存在は,現行臨床分類の成因論的崩壊を意味しよう.肥大型心筋症,拡張型心筋症はそれぞれ肥大・拡張というマクロ所見が診断根拠である.収縮要素である心筋細胞数の減少,収縮不全を生じる心筋変性,線維症の増加による収縮阻害などのいずれかの要因による収縮力の低下に対し,通常心内腔は拡張し,一回拍出量を維持する.異常物質の間質・心筋内蓄積は,みかけ上の心筋壁肥厚となる.心臓はLaPlaceの定理に則り,その機能を代償するように拡張・肥大する.したがって,多くの心筋障害因子が拡張型心筋症様の内腔拡張,肥大型心筋症に酷似する壁肥厚を生じさせうる.本稿では肥大型,拡張型,拘束型それぞれの病理について略述する. - 【心筋症の病態生理を理解する】
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心筋症の病態生理を理解する
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋症は病変の首座が心筋にある疾患群であり,その原因は多彩であるが,遺伝子異常を含め急速に原因の解明が進み,疾患概念や分類も大きく変わりつつある.心筋症は進行すると心筋の収縮能あるいは拡張能に異常を生じ,収縮不全型あるいは拡張不全型の心不全を発症することが多い.ながらく“心不全=収縮不全”と考えられてきたため,拡張不全は収縮不全に比べ,診断,治療ともに遅れている.一方,心房細動,血栓塞栓症,致死性不整脈などが前面に出てくる症例も少なくなく,個々の症例において的確に病態を把握することが大切である. - 臨床研究の進歩
- 【各病型を理解する】
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肥大型心筋症−Up to date
226巻1号(2008);View Description Hide Description肥大型心筋症(HCM)は500人に1人存在するとされ,けっしてまれな疾患ではない.病因としてはサルコメア遺伝子異常を中心とした原因遺伝子が明らかになってきたが,HCMの臨床像は無症状で生涯経過する例から突然死をきたす例まできわめて多彩で,しかも長期の経過中にその形態や病態が大きく変化する.そのことを念頭におき,生涯にわたる観察と適切な介入が重要である. -
拡張型心筋症−自己免疫応答との関連を中心に
226巻1号(2008);View Description Hide Description現在,慢性心不全治療において一定の治療効果を示す治療法としてβ遮断薬があげられる.しかし,この導入にもかかわらず,再入院を繰り返す難治例が後を絶たないのが実情である.ゆえに,不応性症例に対するあらたな治療目標の設定が必要な局面を迎えている.著者らは,慢性心不全,とくに拡張型心筋症患者における慢性難治例に対するあらたな治療法の確立を,心臓免疫の観点から試みている. -
不整脈源性右室心筋症
226巻1号(2008);View Description Hide Description不整脈源性右室心筋症(ARVC)は,右室の著明な拡大と心筋細胞の線維脂肪浸潤により右室の収縮拡張機能低下を生じる症候群で,しばしば致命的な心室頻拍を伴う.心室頻拍が初発症状となることも多く,とくに若年者や競技者における突然死の原因として重要である.終末期には両心不全へと進行し,治療抵抗性であることが多い.最近は植込み型除細動器の植込みや心筋焼灼術が積極的に行われる.不整脈治療の体系が大きく変化してきており,本症の診療基準,予後については今後,より詳細な検討が必要である. -
心Fabry病
226巻1号(2008);View Description Hide Description心Fabry病は,先天性スフィンゴ糖脂質代謝異常症のひとつで心障害をはじめとした多臓器障害を呈するFabry病のなかで,心障害のみを認める非典型的なFabry病である.心Fabry病では左室肥大,右室肥大,左室機能障害,不整脈を含む心電図異常を認め,進行性に増悪する心障害により心不全死,不整脈死をきたす.心Fabry病は原因不明の左室肥大を有する患者のなかに少なからず存在することが報告されているが,近年,本症に対する根本的治療法のひとつである酵素補充療法が開発され,わが国でも使用可能となっている.このため,原因不明の左室肥大を有する患者において本症を早期に鑑別することは,臨床的にきわめて有意義と思われる. -
タコツボ型心筋障害
226巻1号(2008);View Description Hide Descriptionタコツボ型心筋障害は1990年代にわが国で疾患概念が確立され,2000年代に入って広く世界中で認識されるようになった疾患単位である.急性心筋梗塞によく似た胸痛と心電図異常で発症し,左室心基部の過収縮と心尖部を中心とする広範な無収縮を呈し,急性期の冠動脈造影では異常を認めない.典型例は激しい情動ストレスを契機に胸部症状が現れる.原因は不明であるが,内因性カテコールアミンの瞬間的な過剰放出が発症の契機と考えられている. - 【心筋症診断の進歩】
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病歴,身体所見から心筋症にせまる
226巻1号(2008);View Description Hide Description遺伝子学やウイルス学における解析手法の進展に伴い,従来まったく異なる疾患単位と考えられていた拡張型心筋症と肥大型心筋症のすくなくとも一部は,共通した病因によって発生することが明らかにされてきている.一方,臨床において把握される両者の特徴には大差があり,治療方針も基本的には異なっている.本説においては両者の基本的な臨床像を概括するとともに,これまでに判明した病因との関係について言及する.また,身体所見の把握に際して重要な身体活動能力のベッドサイド評価法についても紹介したい. -
心筋症を心エコーで診断する
226巻1号(2008);View Description Hide Description拡張型心筋症では,著明かつ全体的な左室拡大と収縮低下が断層心エコー図を用いて観察できる.カラードプラ心エコーで,僧帽弁逆流が半数以上の症例にみられる.左室径から求めた左室短縮率は簡便な心機能の指標である.左室駆出率評価には二断面Simpson法による容量測定が必要である.一回拍出量も断層心エコー法により簡便に求められる.僧帽弁流入血流波形の弛緩遅延型は心不全が軽いことを意味し,左室機能低下がさらに進行すると左房圧が上昇し拘束型血流を呈する.Tei index増大例では予後が有意に悪い.肥大型心筋症では心エ -
心筋症を生化学マーカーで診断する
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋症の診断は問診からはじまり,画像検査などを含め複合的に行われる.近年の生化学的診断の進歩はめざましく,種々の新しい生化学マーカーのより簡易的な測定法が開発されて実臨床へ応用されている.いずれかの心筋症を特異的に診断しうる生化学マーカーはいまだないが,可能なかぎり早期に診断して発症後は病状の予後予測に役立つと思われる生化学マーカーに関して解説する.とくにナトリウム利尿ペプチドであるBNPは,心不全などの心筋にストレスがかかった病態で鋭敏に反応して上昇するが,肥大型心筋症では心不全の有無に関係なく上昇を呈するので,その病因・病態との関連が多くの論文で検討されている.また,BNPは迅速測定キットも開発され,今後,心筋症にとどまらず心疾患のスクリーニングツールとして,一般臨床に広く浸透すると思われる. - 【心筋症の合併症を理解する】
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心筋症と重症不整脈
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋症(CM)は心筋の脱落と線維化,肥大と錯綜配列などをきたし,心不全や不整脈の原因になる.不整脈による突然死の多くは持続性心室頻拍(VT)または心室細動(VF)による.その有効な対処法として植込み型除細動器(ICD)がある.したがって,不整脈死をどう回避するかは植込み型除細動器(ICD)をどう用いるかに密接に関係してくる.心房細動も心筋症で好発し,心機能を悪化させたり塞栓症をきたし生命予後を悪化させる点ではやっかいな不整脈であるが,ここでは心室性頻脈性不整脈を中心に述べる. - 【心筋症治療の新展開】
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肥大型心筋症の薬物療法の進歩─Na+チャネル遮断薬とHCMの予後
226巻1号(2008);View Description Hide Description突然死,心不全死および脳梗塞死は,肥大型心筋症の合併症として生命予後に密接にかかわっている.また,左室内圧較差が予後にかかわる重大な要因であることも明らかになっている.これまで認められてきた内服薬であるβ遮断薬やカルシウム拮抗薬はこれらの重篤な合併症の阻止には効果が乏しい.Na+チャネル遮断薬であるジソピラミドやシベンゾリンは,HCMの本質的な病態異常である左室内圧較差の軽減と左室拡張障害の改善に対し効果を発揮する.とくにシベンゾリンは心肥大の退縮効果のあることも示唆されている.これらの薬剤には肥大型心筋症(HCM)患者の予後を改善させる可能性が潜んでいるものと思われる. -
経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)で閉塞性肥大型心筋症(HOCM)を治療する
226巻1号(2008);View Description Hide Description肥大型心筋症(HCM)は遺伝性心疾患のなかでは最多であり,約半数に家族歴が認められ,日本における有病率は人口10万人当り17.3人,欧米では約200人とする報告がある1).閉塞性OCM(HOCM)は左室流出路狭窄を特徴とするHCMの一分類である.左室流出路の圧較差(LVOTG)は,収縮期における中隔心筋の突出と僧帽弁前尖の前方運動(systolic anterior movement:SAM)によって生じ,心不全・上室性および心室性不整脈・突然死を引き起こす.とくに突然死は罹患に気づかれていない無症状例でも起こしうる.MaronらはLVOTG 30 mmHg以上を有する症例の予後が有意に不良であったと報告している2).薬物療法としてはβ遮断薬,Ca拮抗薬,陰性変力作用を期待した抗不整脈薬が中心である.最近,非薬物療法として心房同期心室ペースメーカーや経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)が登場した. -
和温療法─心筋症治療における和温療法の意義
226巻1号(2008);View Description Hide Description1990年代より著者らが展開している和温療法は,60℃という心身ともに和ませる温度に設定したサウナ浴と直後の安静保温を主体としたものであり,心機能・末梢血管機能の改善,自律神経・体液因子の是正,心身のリラクゼーションなどの著明な有効性を有している.和温療法は血管拡張作用を有する一酸化窒素(NO)を介した心血管保護作用を有し,重症の心不全患者にも施行可能な応用範囲の広い治療法である.和温療法はこれからの心不全に対する治療戦略のひとつとしてきわめて有効な治療法であり,より多くの患者に積極的に取り入れていくべき治療法といえるであろう. -
両心室ペーシングで心筋症を治療する
226巻1号(2008);View Description Hide Description両心室ペーシングによる心臓再同期治療は,右室側心室中隔と心外膜側左室自由壁を強制的に電気刺激することにより,非対称的に左室が収縮する非同期性収縮を是正する治療法である.適応は,1適切な内科治療にもかかわらず,2 NYHAⅢ度またはⅣ度の心不全症状があり,3 QRS幅130 msec以上,4 EF35%以下の心不全患者とされているが,右室ペーシングによるwide QRS症例や,軽症候性心不全に対する適応拡大も検討されている.心臓再同期治療不応例(non-responder)が20〜30%に認められ,その予知・予防は検討課題である.最新鋭のデバイスを用いた心不全モニタリングは心不全診療の新しい局面であり,発展が期待できる. -
再生医療による心筋症治療−心筋症に対する細胞移植治療の戦略とあらたな課題
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋細胞は生後分裂増殖しないため,心筋症のような健常な心筋細胞が減少する病態では心不全になる.心筋再生治療,とくに細胞移植治療はもっとも研究が盛んな分野であり,虚血性心疾患患者に対する骨髄細胞や骨格筋芽細胞を用いた臨床試験が開始されている.しかし,心筋症に対する治療法としては,従来の骨髄細胞や骨格筋芽細胞を用いた治療法には限界がある.成体の心臓には心筋組織のもとになる心筋幹細胞が存在する.心筋内の幹細胞の効率のよい増殖分化誘導は心筋症治療の選択肢になりうる.ヒトES細胞は心筋細胞を容易に得ることができるが,臨床応用に向けてさらに検討されるべき点は多い.一方,近年報告されたiPS細胞はES細胞の問題点を解決し,いわばマイ万能細胞をつくることができる点で画期的であり,今後の動向が注目されるが,遺伝子異常による心筋症患者の自己幹細胞由来心筋細胞の機能について今後検証される必要がある. -
心臓移植・補助人工心臓で心筋症を治療する−末期心不全に対する究極の治療としての心臓移植・補助人工心臓治療の現状と将来展望
226巻1号(2008);View Description Hide Description心筋症例が内科的薬物治療に抵抗し患者が高度心不全に陥った場合,現時点では心臓移植が究極の治療手段と考えられている.わが国では1997年に臓器移植法が制定されて以後10年間の心臓移植数は52例にすぎず,欧米先進国に比較して極端に少ない.わが国の極端に心臓移植が制限された状況の下では末期的心筋症に対して心臓移植代替治療法が強く求められ,補助人工心臓治療に大きな期待が寄せられている.わが国で開発された植込型補助人工心臓であるEVAHEARTやDuraHeartは,臨床治験において70%以上の2年生存率を達成し,心臓移植へのブリッジデバイスのみならず自己心機能回復へのブリッジデバイスとして,さらに心臓移植を受け皿としない長期在宅治療(destination therapy)デバイスとして大きく期待されている.
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