医学のあゆみ
Volume 226, Issue 3, 2008
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あゆみ 皮膚悪性腫瘍−診療ガイドラインとトピックス
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ダーモスコピー−メラノーマの画期的診断法
226巻3号(2008);View Description Hide Descriptionダーモスコピーとは光の乱反射を防止したうえで,強い光線を照射しながら皮膚病変を10〜30倍程度に拡大して観察する非侵襲的診断法である.これによって肉眼的には認識できないさまざまな所見が明瞭に観察され,診断の情報量が飛躍的に増加する.メラノーマをはじめとする各種の色素性皮膚病変の診断・鑑別にきわめて有用な画期的な診断法である.とくに日本人のメラノーマの最好発部位である足底の色素性病変の診断確定に大きな威力を発揮する.足底・手掌では皮表の溝と丘が平行線状に走行するが,良性の母斑はダーモスコピーにて,主としてこの溝の部分に一致する平行線状の色素沈着を示す(parallel furrow pattern).これに対し同部のメラノーマ早期病変は,丘の部分に一致する帯状の色素沈着を示す(parallel ridge pattern).後者の所見のメラノーマに関する特異度は99%,感度は86%と高く,早期検出にきわめて有用である. -
悪性黒色腫原発巣の取扱い−生検の可否と術前診断のあり方
226巻3号(2008);View Description Hide Description悪性黒色腫の重要な予後因子は原発巣のtumor thicknessである.これを測定するため,全切除生検(excisionalbiopsy)が行われることが増えてきている.また,excisional biopsyが不可能または非常に困難である場合に部分生検(incisional biopsy)を行っても局所再発率,センチネルリンパ節転移陽性率が上昇したり5年生存率が低下したりするというエビデンスはない.ただし,頭頸部領域原発の悪性黒色腫についてはincisionalbiopsyが生存率を低下させる因子になるとも報告されており,慎重な対応が必要である. -
メラノーマ原発巣の切除範囲−納得のいく手術のために
226巻3号(2008);View Description Hide Descriptionかつて悪性黒色腫の手術といえば,切除マージンを3 cmから,ときに5 cm以上とった,整容面で満足度の低いものが主流であった.しかし,切除マージンを大きくとればそれだけ再発・転移の予防につながるというデータはその後提出されず,切除マージンは年々縮小される傾向にある.予後にもっとも大きな影響を及ぼす因子は原発腫瘍の厚さ(tumor thickness)であり,tumor thicknessに応じて切除マージンを設定することが望ましい.日本のガイドラインとして推奨される原発巣の切除マージンを示した. -
メラノーマにおけるセンチネルリンパ節生検の適応と意義
226巻3号(2008);View Description Hide Descriptionセンチネルリンパ節とは原発巣から最初に転移を起こすリンパ節であり,このリンパ節に転移がなければ他のリンパ節にも転移はないという概念である.センチネルリンパ節生検(SLNB)の意義はセンチネルリンパ節における転移の有無が重要な独立した予後因子になることと,潜在的なリンパ節転移の診断による早期の根治的リンパ節郭清が予後の改善に寄与する可能性があるという2点である.国内外のおもなガイドラインでは,SLNBの適応をT1b以上(原発巣の厚さが1 mm以下で潰瘍を伴うかClarkレベル㈿以上)から原発巣の厚さが4 mmまでとしている. -
進行期メラノーマの治療
226巻3号(2008);View Description Hide Descriptionメラノーマは転移を生じやすく,化学療法放射線療法に抵抗性で,悪性度の高い腫瘍として知られている.病期Ⅳの進行期メラノーマの5年生存率は欧米でもわが国でも12〜13%で,きわめて予後不良といえる.2007年公開された皮膚悪性腫瘍ガイドラインでは,進行期メラノーマの治療に関して6項目のクリニカルクエスチョンが設定されている.残念ながら遠隔転移の切除と緩和的放射線療法が推奨度Bである以外,その他の化学療法などは推奨度がC1〜C2と低く,エビデンスのある治療法がほとんどないことを物語っている.悪性度が高く,とくに進行期Ⅳ期では病勢のスピードがきわめて速いこの疾患に関して,既存のそして比較的新しい治療法を概説し,問題点を考察したい. -
有棘細胞癌(へん平上皮癌)と基底細胞癌の外科療法−リスク分類と切除範囲
226巻3号(2008);View Description Hide Description有棘細胞癌(SCC)と基底細胞癌(BCC)は非黒色腫皮膚癌(NMSC)の代表格であり,わが国では高齢者を中心に増加傾向にある.治療の第一選択は外科療法であるが,それにさきだって,臨床および病理組織学的所見に基づいたリスク評価が必要となる.切除範囲の設定に際しては,両疾患ともに露出部に好発するため,根治性のみならず正常組織の犠牲を最小限にする配慮も求められる.本邦で公開された皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにおいては,手術以外の治療法についてもエビデンスの検索・評価がなされている.高齢患者の増加に伴って,今後はこれら非外科療法の需要が高まっていくことも予想される. -
乳房外Paget病の臨床的特徴と切除範囲
226巻3号(2008);View Description Hide Description他の上皮系腫瘍とは異なる乳房外Paget病の臨床的特徴を示し,切除範囲を中心に具体的な手術治療の方向性を概説した.本来表皮内癌であり,比較的長い期間in situとして拡大するが,やがて基底膜を破って微小浸潤(microinvasion)がみられて進行例に至る(Paget癌).加えて,他の上皮系腫瘍とは異なり,1.原発巣が多中心性に発生する,2.内臓癌のPaget現象との鑑別が問題となる症例,3.治療に抵抗性の急速進行型も含まれる.Paget病に対する手術治療を組み立てる場合,これらの疾患特異性も念頭において適応を判断する必要がある.いまのところ本疾患のTNM病期分類が確定していないので,TとNの扱いについてコンセンサスが得られている範囲で記載した.基本的な考え方のうえに,具体的な手術手順と注意事項を追記した. -
Mohs micrographic surgery−考え方と手技の実際
226巻3号(2008);View Description Hide Description皮膚悪性腫瘍は,いかに初回治療で確実に切除できるかが一番のポイントである.不確実な治療により再発を繰り返すことで,癌細胞の不規則な浸潤が予測範囲外に生じてしまうことをもっとも避けなければいけない.また,体表に生じるからこそ重視しなければならない整容的な面もある.つまり周囲の組織をなるべく温存しつつ,癌組織の取り残しがないように治療できるのが理想である.これらを解決するために欧米では,Mohs micrographic surgery(MMS)が発展してきた.一方,わが国ではこの手法はいまだ一般的ではない.そこで本稿では,このMMSの一般的事項や特色,そして治療の実際について具体例を用いて解説するとともに,今後の展望に関しての私見を述べる. -
メラノーマ幹細胞と分子標的治療薬−メラノーマの治癒をめざして
226巻3号(2008);View Description Hide Description癌の発生・進展や治療抵抗性の鍵となっている“癌幹細胞”の存在が近年話題となっている.メラノーマにおいても癌幹細胞の存在を示唆する報告があいついでおり,CD20,nestin,nodal,ABCB5などがそのマーカー分子として同定されている.メラノーマ幹細胞の生存と増殖にはRASシグナルが必須と考えられており,それを阻害する分子標的治療薬の開発が進んでいる.
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フォーラム
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- 書評
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- 日本の第三内科2
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- 病理診断科標榜への期待 3
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TOPICS
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- 癌・腫瘍学
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- 感染症内科学
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- 内分泌・代謝学
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連載
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- 定位放射線治療──最新動向14
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放射線治療の医療経済評価−価値に見合った評価がなされているか
226巻3号(2008);View Description Hide Description本稿では放射線治療の医療経済評価というテーマで,価値や対価という概念の整理とともに診療技術の経済評価の考え方の解説を最初に行い,さらに放射線治療の医療経済評価の例として医療保険財源に対する影響分析を行った.その結果,放射線治療は専門医の配置など適切な体制のもとで提供されることによりその能力が最大限発揮され,結果として地域の総医療費を適正化する可能性を秘めていることが明らかとなった.定位放射線治療を中心に当該領域のさらなる普及が期待されるなか,社会的な経済価値を論じることはその発展の礎としても重要といえる.今後,放射線治療の現行の報酬評価の妥当性の検証も含め,本稿のような医療経済的な研究を引き続き進めていくことが期待される.