医学のあゆみ
Volume 227, Issue 5, 2008
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【11月第1土曜特集】最新免疫研究Update─免疫システム研究から免疫疾患の病態制御・治療へ
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- 自己応答性の制御と自己免疫疾患治療
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制御性T細胞の機能調節と治療への応用−基礎研究の成果と今後の展望
227巻5号(2008);View Description Hide Description制御性T細胞は免疫制御に特化したCD4+T細胞であり,自己免疫病・アレルギー疾患・炎症性腸疾患の発症抑制に必要な生理的機構である.これまでの基礎研究によって,制御性T細胞の量・機能を調節することによって腫瘍免疫の効率的な誘導や,移植臓器に対する寛容成立を誘導できることが示されている.これらの基礎研究に基づき,制御性T細胞を利用した免疫制御法確立のための臨床研究が最近急速に進んでいる.本稿では,これまでの制御性T細胞に関する基礎研究の成果を概観することで,制御性T細胞による免疫制御の特殊性を描き出すとともに現在の研究における問題点を浮き彫りにし,そこから明らかになる臨床応用のために必要な準備としての基礎・臨床研究について概説することをめざす. -
Foxp3+Tregによる自己免疫制御
227巻5号(2008);View Description Hide Description免疫系には免疫抑制機能に特化した制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)とよばれるT細胞サブセットが内在し,さまざまな免疫担当細胞を負に制御することで自己免疫寛容の確立・維持に必須の役割を担っている.転写因子Foxp3はTreg特異的に発現してその発生・分化と抑制機能を制御する“マスター遺伝子”として働く.そして,Foxp3遺伝子変異はTregの分化・機能異常により致死的な自己免疫疾患を惹起する.近年,Foxp3発現の誘導機構およびFoxp3による遺伝子発現制御機構の研究が進み,Tregの発生・分化,抑制のメカニズムが徐々に明らかにされつつある. -
セマフォリンと多発性硬化症
227巻5号(2008);View Description Hide Description多発性硬化症(MS;「サイドメモ1」参照)は中枢神経系の代表的な炎症性脱髄疾患として知られ,若年期に発症した後,長期にわたって再発・寛解を繰り返しながら増悪する,厚生労働省特定疾患にも指定されている難病である.その病因としては自己免疫機序,とりわけヘルパーT細胞の異常が関与していると考えられているが,いまだ多発性硬化症に対して有効な根本的治療法は存在していない.一方,セマフォリン分子群は従来,神経ガイダンス因子とされてきた分子群であるが,ここ数年の著者らの研究により生体内で起こる種々の免疫反応への関与が明らかとなるとともに,セマフォリンをターゲットにした多発性硬化症を含む自己免疫疾患治療への試みがなされている. -
関節リウマチの疾患関連遺伝子
227巻5号(2008);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)は関節滑膜を中心とする自己免疫現象と炎症を特徴とし,滑膜細胞の異常増殖から骨・軟骨破壊に至る原因不明の慢性疾患である.関節病変だけでなく肺・血管などの全身の臓器が侵されることもある.発症や病態の進展には,複数の遺伝要因および環境要因が関連する,いわゆる多因子疾患のひとつであると考えられている.疾患や病態の原因を解明することは,新しい治療法の開発やテーラーメイド医療など,よりよい診療のために重要なことであるが,免疫が関与する疾患の場合,ヒトの免疫学の方法論が十分でなく,解析は容易ではない.最近になり,種々の方法の発展から主として遺伝疾患で解析されてきた疾患に関連する遺伝子解析が,多因子疾患でも可能となりつつある.このような情報はヒトの疾患からの直接の情報であり,疾患の理解と今後の診療に非常に有用である.ここではRAについて最近の進展,考え方を概説する. - 粘膜免疫制御
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粘膜免疫制御による免疫疾患治療−アレルギーからワクチンまで
227巻5号(2008);View Description Hide Description生体の表面のほとんどを覆う粘膜面は病原体に対する防御の第一線であると同時に,消化吸収や呼吸を通して生命維持に必要なものを取り込み,常在細菌と共生をはかるため,外界に対する寛容も獲得しなければならない.そこで構築され作動しているのが,きわめてユニークな粘膜免疫システムである.このシステムの構築を理解し利用することで,これまでのものとはまったく異なる予防・治療戦略が可能となる.アレルギー性疾患では既存の抗ヒスタミン剤などの対症療法ではなく,サイトカインや脂質メディエーター,制御性T細胞(Treg)などを標的とした新しい粘膜免疫療法が視野に入っている.また,これまで開発が困難であった,効率的に粘膜面における免疫応答を誘導できる,粘膜を介して接種する“飲む・吸う”粘膜ワクチンも,抗原取込み細胞であるM細胞や“MucoRice”とよばれるコメワクチン抗原発現システムなどを活用することで,新世代のワクチンとして実現可能となりつつある. -
腸管粘膜におけるTH17細胞の分化誘導機構
227巻5号(2008);View Description Hide Description腸管粘膜は非常に複雑な免疫系を形成していて,まだまだ未解明な部分が多く残されている.IL(インターロイキン)-17産生性のヘルパーT細胞(TH17細胞)が炎症性腸疾患を含むさまざまな自己免疫疾患とかかわっていることが明らかとなってきた.そして,TH17細胞が定常状態において腸管粘膜固有層に存在することも明らかになってきた.粘膜固有層に存在する樹状細胞のなかに腸内常在菌由来のAdenosine-5′-triphosphate(ATP)依存的にTH17細胞を誘導するユニークなサブセットが存在していることが明らかとなり,炎症性腸疾患の病態に関与している可能性も示唆された. -
腸管粘膜樹状細胞によるIgAクラススイッチ制御−腸内常在菌の役割
227巻5号(2008);View Description Hide Description生理的条件下,IgAは生体内でもっとも多く生産される免疫グロブリンであり,そのほとんどは粘膜面において分泌型IgAとして生産される.しかし,なぜIgAクラススイッチが粘膜関連リンパ組織(MALT)で効率的に誘導されるのか,またその生産はどのような機構によって維持されるのかなど,いぜんとして不明な点が多い.近年,IgAクラススイッチ誘導には粘膜樹状細胞(DC)が重要であることや,腸内常在菌が粘膜DCに特化した機能を付与することが報告され,粘膜免疫系におけるDCの役割が明らかにされつつある. - がん
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癌の免疫監視−白血病自然発症モデルの研究から
227巻5号(2008);View Description Hide Description癌に対する免疫監視機構は,免疫学のもっとも古くて新しい課題のひとつである.これまでの多くの研究は,自然発癌過程に免疫監視機構が一定の役割を果たしていることを示している.しかし,その実体にはまだ不明な点が多く,その解析のためには適切な実験モデルが必要とされる.著者らは,独自の白血病自然発症モデルマウスを用いて白血病と宿主獲得免疫系との相互作用について研究を進めている.本稿では最近の研究結果に基づき,新しい考え方を紹介したい. -
免疫系ヒト化マウスモデルを用いた白血病幹細胞研究
227巻5号(2008);View Description Hide Descriptionヒトの造血・免疫系を実験動物であるマウスに再構築する“免疫系ヒト化マウス”は,これまでマウスを用いて明らかとされてきたさまざまな免疫学や幹細胞生物学に関する知見がヒトのシステムにおいてどこまで類似しているかをin vivoで検証する有用な研究ツールである.さらにヒト化マウス研究は,ヒトの造血器疾患,免疫疾患をマウス体内に再現することで,免疫・血液システムの疾患理解と,よりよい治療法の開発へと応用されることが期待される.創薬や新しい医療の創出の基盤となるヒト化マウス研究の近年の進歩を概説する. -
抗体カクテル療法によるがん治療
227巻5号(2008);View Description Hide Description抗腫瘍抗体はがん治療における分子標的薬剤として非常に有用であり,すでに臨床で成果をあげている.一方で,免疫担当細胞上の機能分子を標的とした抗体を用いて抗腫瘍免疫反応を活性化させる治療法も試みられているが,副作用の報告があり,臨床応用には及んでいない.ここでは癌細胞に細胞死を誘導する抗体と,免疫活性化を促す補助刺激分子受容体に対する抗体を併用した抗体カクテル療法の有効性について記述し,さらに他の細胞死誘導療法と免疫活性化療法の可能性についても述べる. - アレルギー制御
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メモリーTh2細胞を標的としたアレルギー性気道炎症の制御−メモリーTh2細胞とアレルギー性炎症
227巻5号(2008);View Description Hide Description抗原の排除後,エフェクターCD4T(Th)細胞の大部分は退縮期(contraction phase)において死滅するが,ごく一部の細胞はエフェクター期(effector phase)に獲得した性質を維持しながらメモリーTh細胞へと分化して長期間生存し,つぎの免疫反応に備えている1).メモリーTh細胞はさまざまな疾患の病態に深くかかわっていると考えられているが,その分化・機能維持については不明な点が多い.そこで著者らはメモリーTh2細胞モデルに解析を行い,その機能・生存維持の分子機構の一端を明らかにした.また,メモリーTh2細胞がアレルギー疾患治療の標的細胞になりうる可能性も見出した.本稿ではメモリーTh2細胞数・機能維持の分子機構を概説するとともに,メモリーTh2細胞を標的としたアレルギー性気道炎症制御について述べる. -
慢性アレルギー炎症ならびにアナフィラキシーにおける好塩基球のあらたな役割
227巻5号(2008);View Description Hide Description好塩基球は末梢血白血球のわずか0.5%を占めるにすぎない最少血球細胞で,マスト細胞(肥満細胞)といくつかの類似点があるため,これまで“血中循環型マスト細胞”とよばれるなど,マスト細胞の陰に隠れた脇役としてほとんど注目されることはなかった.マスト細胞に比べ好塩基球の機能解析が遅々として進まなかったのは,細胞数が極端に少ないことや解析に適切な細胞株が存在しないことに加え,好塩基球のみを欠損するモデル動物がいないことが原因である.著者らは好塩基球を選択的に除去できるモノクローナル抗体をあらたに樹立し,これを用いて好塩基球がIgEではなくIgGを介する全身性アナフィラキシーに寄与していることを証明し,さらに,好塩基球がマスト細胞非依存的に慢性皮膚アレルギー炎症を引き起こすことを明らかにした.このように,好塩基球は生体内においてマスト細胞とは異なるユニークかつ重要な役割を担っている. -
IL-18で誘導されるユニークなアレルギー性炎症−実験的気管支喘息とアトピー性皮膚炎
227巻5号(2008);View Description Hide DescriptionIL-18は発見当初,その強力なIFN-γ誘導活性が注目された.IFN-γはIgE産生を抑制することから,IL-18のアレルギー疾患への治療応用が期待された.ところが,IL-18がIFN-γの産生を誘導するのはIL-12が共存した場合に限られることが判明した.さらに,IL-18がIL-2の共存下でNKT細胞を刺激してIL-4,IL-5,IL-13などのTh2サイトカインの産生を誘導することもわかってきた.また,IL-18には,IL-3の共存下で肥満細胞あるいは好塩基球を直接刺激して,IL-4,IL-13などのTh2サイトカインの産生を誘導する作用のあることもわかってきた.とくに,IL-18を皮膚ケラチノサイトに過剰発現させたマウスではアトピー性皮膚炎が発症した.最近,IL-18の重要な機能があらたにみつかった.IL-18はTh1細胞を刺激して,IFN-γの産生を増強するだけでなく,IL-3,IL-9,IL-13の産生も誘導する.著者らは,IFN-γとIL-13を同時に産生するTh1細胞をSuper Th1細胞とよんでいる.Super Th1細胞は,IgEの関与しない気管支喘息あるいはアトピー性皮膚炎を発症させる. -
CD4陽性T細胞におけるIL-21産生制御機構
227巻5号(2008);View Description Hide Description最近,IL-21は自己免疫疾患への関与が示唆されているIL-17産生CD4陽性T細胞(Th17細胞)から産生され,その自己増殖因子として機能することが報告された.一方,著者らは細胞内IL-21染色法を開発しCD4陽性T細胞におけるIL-21産生制御機構を解析した結果,IL-17とIL-21の産生制御機構が異なることを明らかにし,Th17細胞とIL-21産生CD4陽性T細胞は異なる細胞分画である可能性を示唆した.今後,IL-21産生CD4陽性T細胞と自己免疫疾患やアレルギー性疾患との関係が明らかになることが期待される. -
サイトカインシグナルによるヘルパーT細胞の分化制御−Th17とiTregを中心に
227巻5号(2008);View Description Hide DescriptionヘルパーT細胞には,正の応答を起こすエフェクターT細胞と,積極的に負の応答を促す抑制性T細胞(Treg)が存在し,これらの分化および増幅はサイトカインの刺激により厳密に制御される.エフェクターT細胞としてTh1およびTh2細胞が古くから知られていたが,近年,あらたなエフェクターT細胞としてTh17細胞が発見され,自己免疫疾患,細菌感染,腫瘍促進に重要であることが明らかになった.Th17の分化誘導にはIL-6やIL-23によって活性化されるSTAT3が必須の役割を果たすが,インターフェロンγ(IFN-γ)やIL-4によって活性化されるSTAT1やSTAT6は抑制的に働く.TGF-βはTh17を誘導するほかナイーブT細胞をFoxp3陽性Tregに転換する. - 感染症
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DNAワクチンのあらたな免疫学的作用機序
227巻5号(2008);View Description Hide DescriptionDNAワクチンは優れた特徴をもつ新しいタイプのワクチンで,感染症だけでなく癌やAlzheimer病など,免疫システムが関与するあらゆる疾患の予防や治療に大きな可能性をもっている.効果的で,かつ安全なDNAワクチンの開発にはその作用機序の詳細な理解が不可欠であるが,最近,DNAワクチンによる免疫誘導に,細胞内でDNAを認識する自然免疫機構が必須であることが明らかとなり,DNAワクチンの理解が一歩前進した. -
ペア型レセプターPILRαと単純ヘルペスウイルス感染
227巻5号(2008);View Description Hide Description単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus type 1:HSV-1)の感染には,エンベロープ蛋白質であるglycoprotein D(gD)がHVEMやNectinなどの細胞表面分子と会合することが重要な機能を担っている.一方,必須エンベロープ蛋白質のひとつであるglycoprotein B(gB)がHSVの感染の際にどのような分子と会合しHSVの感染に関与するかは明らかでなかった.今回,抑制化ペア型レセプターの一種であるPILRαがgBと会合し,HSV-1のウイルス受容体として細胞への感染に関与していることが明らかになった.さらに,HSV-1の細胞への感染の成立にはgDと結合するウイルス受容体だけではなく,gD,gBそれぞれに結合するウイルス受容体の両方が必要であることが判明した. -
樹状細胞における核酸系免疫アジュバント認識機構とその病理的意義
227巻5号(2008);View Description Hide Description自然免疫と獲得免疫を担う樹状細胞は,Toll様受容体(TLR)に代表されるパターン認識受容体(PRR)によって病原微生物由来の成分を認識し,種々のサイトカインを産生することで生体防御に貢献している.外来抗原成分のなかでも核酸アジュバントは,炎症性サイトカインばかりでなく,抗ウイルス免疫応答に必須の㈵型インターフェロン(interferon:IFN)を誘導させることができる.しかし,この認識機構は全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患の病態形成にも関与することが示唆されている.今回,樹状細胞サブセットにおける核酸アジュバントの認識機構とその病理的意義について解説する. - 免疫研究の新戦略
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人工リンパ節の構築と応用−あらたな免疫賦活・制御装置の開発に向けて
227巻5号(2008);View Description Hide Descriptionリンパ節はリンパ球が抗原提示細胞から抗原情報を受け取り抗原特異的な獲得免疫反応を惹起するための重要な場所であり,病原微生物や癌細胞を排除して生体を防御するために必須の組織である.さらに,一度その脅威に遭遇するとその情報は免疫学的に記憶され,2度目の同じ脅威に対して速やかに強力な免疫反応が誘導する.この免疫メモリーの形成と二次免疫反応の場の中心もリンパ節などの二次免疫組織である.著者らは世界ではじめて,自然のリンパ節と類似の構造をもち,強力な免疫機能を発揮できる移植可能な人工のリンパ節様組織の構築に成功した.著者らの試みはまだ未熟であるが,将来さらなる改良と工夫が加えられ,ヒト免疫系の修復,強化,再生など臨床応用にも直接的に発展する可能性もある.人工リンパ節(組織)があらたな免疫賦活装置として,重症感染症,免疫不全症,癌などの治療への応用される日がくることを期待している. -
ES細胞およびiPS細胞を用いた免疫療法−ES細胞およびiPS細胞由来の樹状細胞およびマクロファージによる新規医療技術
227巻5号(2008);View Description Hide Description著者らは数年前より,ES細胞から樹状細胞への分化誘導法の開発,およびES細胞由来の樹状細胞による免疫制御についての基礎研究を行ってきた.最近のiPS細胞作製法という画期的な技術の開発により,任意の個体の体細胞から多能性幹細胞を作製することが可能となった.著者らは,iPS細胞は各種の再生医療のための細胞ソースとしてのみならず,細胞治療に用いるための樹状細胞およびマクロファージを作製するための材料として非常に有用であると考えている.本稿では著者らの,多能性幹細胞由来の樹状細胞およびマクロファージを用いたさまざまな疾患の治療法に関する研究について紹介する.
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