医学のあゆみ
Volume 227, Issue 11, 2008
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あゆみ 生理活性ペプチド研究の新展開−機能解析から治療応用まで
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新規視床下部ペプチドNERPによる水・電解質代謝調節
227巻11号(2008);View Description Hide Description新たな生理活性ペプチドの発見は生体の未知な情報伝達・制御機構の発見につながり,疾患の成因に即した診断法や治療法の開発,調節機構に基づく生体内物質を活用した創薬へと展開できる.しかし,その発見はきわめて困難であり,オーファンGPCRのリガンド探索をはじめ種々の方法が試みられているが,効率的同定からはほど遠い状況にある.国立循環器病センターの佐々木,南野らは,組織・細胞が産生するペプチドの一斉解析(ペプチドーム解析)を行い,内在するペプチド総体をカタログ化した後,その中より構造特徴などに基づき生理活性ペプチド候補を見出す方法を開発してきた.本法をヒト甲状腺髄様癌培養細胞株に適用した結果,もっとも有望と考えられた2種のペプチドがNERP(neuroendocrine regulatory peptide)である1).NERPはラット視床下部の視索上核でバゾプレシン(AVP)と同一の貯蔵顆粒に局在し,AVP分泌を抑制する生理作用を有していた.NERPの構造機能解析から,NERPの生理活性の発現にC末端のアミド化が必須であった.本稿では,新たな生理活性ペプチドであるNERPの局在や水・電解質代謝調節作用に関して得られた知見を紹介する. -
GLP-1による糖尿病治療のあらたな展開
227巻11号(2008);View Description Hide Description糖尿病の治療薬として,インクレチン関連薬が登場しようとしている.インクレチンは食事摂取に伴い消化管から分泌され,インスリン分泌を促進する因子の総称であり,その実体は上部小腸K細胞からのGIPと下部小腸L細胞からのGLP-1である.これらは膵β細胞への作用のみならず膵外作用も有しており,糖尿病の治療に応用されている.DPP-㈿に抵抗性のGLP-1受容体作動薬によるGLP-1シグナルの活性化,あるいはDPP-㈿活性を抑制するDPP-㈿阻害薬によるGLP-1シグナルならびにGIPシグナルの活性化によって,血糖コントロールの改善が期待できるのみならず,膵β細胞数を増加させる可能性もあり,インスリン分泌障害が主体の日本人糖尿病の治療薬として大きな期待が寄せられている. -
Adrenomedullinによる循環器疾患への展開医療
227巻11号(2008);View Description Hide Descriptionアドレノメデュリン(AM)は副腎髄質,血管壁のみならず,肺,心臓,腎などの組織に分布し,血管拡張作用,利尿,ナトリウム利尿作用,強心作用などの多くの生理活性を有する.各種循環器疾患でその産生が亢進することから,AMは循環調節因子として重要な働きを担っていると考えられる.AMは血行動態改善作用のみならず,心筋や内皮細胞のアポトーシス抑制,血管新生,リンパ管再生,骨髄細胞の動員作用を介して,虚血の是正・組織再生に働くことがわかってきた.これら多彩な生理作用は既存の薬剤では得られない効果を達成できる可能性があり,心不全,急性心筋梗塞,肺高血圧,リンパ浮腫などの難治性循環器疾患に対するあらたな治療薬として期待される. -
統合失調症関連因子とPACAP
227巻11号(2008);View Description Hide Description統合失調症の発症病態の分子基盤の解明にあらたな展開がもたらされている.たとえば最近,代謝型グルタミン酸受容体(mGluR2/3)アゴニストの新規治療薬としての有用性を示す知見とともに,その作用点としてのmGluR2/3,5-HT2ARのヘテロ二量体の関与が明らかになった.また,統合失調症脆弱遺伝子として見出されたDisrupted-In-Schizophrenia 1(DISC1)の機能に迫る研究も急激に進みつつある.神経ペプチドの一種であるpituitary adenylate cyclase-acti -
CNPによる骨伸長促進作用と臨床応用
227巻11号(2008);View Description Hide Descriptionナトリウム利尿ペプチドファミリーのうち,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)と脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は循環器系における重要な調節ホルモンとして知られてきたが,最近,C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)がきわめて強力な骨伸長促進因子であることが遺伝子改変動物を用いて明らかとなった.CNPおよびその受容体guanylyl cyclase-B(GC-B)のみならず,その周辺分子の骨伸長における意義も証明され,広くCNP-GC-B系の内軟骨性骨化による骨伸長調節作用の全貌が明らかとなりつつある.一方で,骨伸長障害を主徴とする先天性疾患-骨系統疾患の解析から,ヒトの骨伸長におけるCNP-GC-B系の生理的意義も証明され,今後,骨系統疾患に対するCNP-GC-B系賦活化の臨床応用が期待される. -
グレリンの展開医療研究
227巻11号(2008);View Description Hide Descriptionグレリンはおもに胃で産生され,視床下部を介した摂食亢進や成長ホルモン分泌促進など多彩な生理作用を有するペプチドである.消化管が内分泌臓器として機能しているというあらたな概念の登場や,食欲に関する末梢から中枢への情報伝達経路が明らかになったという点で,グレリンの発見は大きなインパクトを与えた.機能解析が進むにつれてグレリンの臨床応用や治療適応疾患の拡大が期待されている.グレリン研究は,わが国で発見された新規生理活性物質をわが国の研究者たちが中心となって臨床応用を進め,展開医療をめざしているという点でも特筆すべきである. -
ネスファチン-1による摂食・代謝調節
227巻11号(2008);View Description Hide Description摂食行動の変化と相関して視床下部におけるネスファチンの発現が変動し,ネスファチンおよびネスファチン-1の腹腔内や皮下などの末梢投与とともに第三脳室内への投与により動物の摂食行動が抑制される.ネスファチン-1による摂食抑制機構には,中枢においてレプチン系とは独立したメラノコルチン系が関与することが推察される.最近の研究成果では,視床下部におけるニューロペプチドY(NPY),オキシトシンやメラニン凝集ホルモン(MCH)の変動が関与する可能性も示唆される. -
抗菌ペプチドdefensinのあらたな機能と病態生理学的意義─Defensinは抗菌活性を超えて免疫反応の制御にも寄与しているのか
227巻11号(2008);View Description Hide DescriptionDefensin(ディフェンシン)は哺乳類の代表的な抗菌ペプチドであり,その抗菌活性により自然免疫のエフェクター因子として機能している.加えて,defensinは炎症細胞の遊走やサイトカイン分泌の促進に働き,免疫反応全体の制御因子としても機能している.臨床との関連においては,アトピー性皮膚炎の病巣部の易感染性にdefensinの減少が関与しているとの報告もある.一方,defensinの多彩な機能や自身の細胞傷害性を考慮すると,多くの炎症性疾患の発症に逆に過剰なdefensinが関与していることも予想される.本稿ではin vitroの抗菌活性研究を超えたdefensin研究のあらたな展開の一部を紹介したい. -
キスペプチン(メタスチン)による繁殖機能制御とその応用
227巻11号(2008);View Description Hide Descriptionキスペプチン(kisspeptin)という神経ペプチドが注目されている.性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn-RH)の分泌をつかさどるこの神経ペプチドの発見によって,Gn-RHのパルス状分泌とサージ状分泌という2つの分泌モードや,エストロゲンによるフィードバック作用の機序といった,これまでブラックボックスであった生殖機能制御にかかわる脳内メカニズムが明らかにされようとしている.また,キスペプチンの生理活性を担うC末端,10個のアミノ酸は,魚類から哺乳類まで種を越えて高度に保存されており,末梢投与によっても生
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フォーラム
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- 逆システム学の窓21
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道に倒れている人をみたら救命処置をするべきか?−“作為責任”と“不作為責任”
227巻11号(2008);View Description Hide Description道に倒れている人をみたら医師は救命処置をすべきだろうか? この場合に,見て見ぬ振りをして通り過ぎれば“不作為責任”が問われる.だが,救命処置が適切でなかった場合には“作為責任”が問われる.今日の裁判では,立証困難な“不作為責任”より容易に立証できる“作為責任”のほうが重いことを知っておかねばならない.予防接種をめぐる歴史をみると,かつては社会的には行政(または医師)が,社会防衛に熱心でないことが“不作為責任”だと非難された.だが,裁判で予防接種に伴う副作用情報が開示されていなかったことが明らかとなり,予防接種を行って副作用が生まれた場合に行政(または医師)が,“作為責任”を負うこととなった.作為責任を重視する判決をうけて日本の行政は大転換した.この変化のはらむ問題を東大の手塚洋輔博士の論文が指摘している.一見,この論理は筋が通っているようにみえて,予防接種を受けていない若者に麻疹の流行と学校,大学閉鎖をもたらした.“作為責任”を一方的に強調すると,救急医療で少しでも懸念ある場合は拒否が最良の選択となりかねない危険をはらむ.“作為責任論”の意味とその落とし穴を手塚博士の議論をもとに考えてみたい. - 医療関連死問題をかんがえる12
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 膠原病・リウマチ学
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- 皮膚科学
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連載
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- 医師のための臨床統計学3
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検査データの解釈−ベイズ統計学入門
227巻11号(2008);View Description Hide Description“疾患あり”群中で検査が陽性となる割合が感度,“疾患なし”群中で陰性となる割合が特異度である.閾値を変化させたときに,これらの変化を図示するROC曲線は,検査特性のよさの評価,最適閾値の決定に利用される.関心対象事象の生起あるいはパラメータの曖昧さをそのまま確率分布として表現し,その事前分布をデータにより事後分布に変換させ,事後分布に基づいて推測を行う立場がベイズ流の統計学である.臨床統計学や疫学でのベイズ統計の活用がいまや盛んである.