医学のあゆみ
Volume 227, Issue 12, 2008
Volumes & issues:
-
あゆみ Brugada症候群−臨床と研究の最新動向
-
-
- 【機序と成因】
-
Brugada症候群の分子生物学的・薬理学的機序と遺伝子診断
227巻12・13号(2008);View Description Hide DescriptionBrugada症候群は右側胸部誘導のST上昇を特徴とする心室細動で,日本を含めた東洋人の罹患率が高く,中年男性の突然死の原因として知られる致死性不整脈である.3型先天性QT延長症候群とともに心筋NaチャネルSCN5Aを原因遺伝子とする心筋Naチャネル病のひとつであるが,それぞれの心筋Naチャネル病は完全に独立した疾患ではなく,臨床像にオーバーラップがみられる.Brugada症候群には最近,あらたに5つの原因遺伝子が同定された.本稿ではBrugada症候群の遺伝子変異と,オーバーラップ症候群に関する最近の知見を総説する. -
Brugada症候群の細胞学的・組織学的成因
227巻12・13号(2008);View Description Hide DescriptionBrugada症候群は特異的なST上昇,夜間の心室細動発作をきたす遺伝性疾患である.遺伝子変異や,そのほか環境因子により心筋イオン電流が変化し,右室心外膜側心筋の活動電位の変化が起こり,心内膜面との活動電位の電位差から,その特異的な波形が生じる.Brugada症候群でみられる心筋イオンチャネルの変化としては活動電位第1相での外向き電流の増加(一過性外向きK電流),または内向き電流減少(NaおよびCa電流)が起こる.このため心外膜側活動電位での第1相ノッチが増大し,この時相で心内膜から心外膜に向かう貫壁性電位差が発生し,心電図でST上昇が起こると考えられている.また,第1相ノッチが深くなることで活動電位長が著明に変化し,右室流出路心外膜側心筋内で活動電位長の延長した部位と短縮した部位が混在し,その電位差からphase 2 reentryが発生し,心室性不整脈をきたす. -
後天性(二次性)Brugada症候群の機序と成因
227巻12・13号(2008);View Description Hide DescriptionBrugada症候群は心電図上,右側胸部誘導のcoved型あるいはsaddle-back型とよばれる特徴的なST上昇を示し,心室細動やときに心室頻拍といった致死性不整脈を主徴とする心疾患である.近年ではその遺伝子変異も含め,疾患の成因や心電図学的特徴の機序が明らかとされつつある.右室心外膜細胞における外向き電流の増大や内向き電流の減少といったイオン電流系を修飾する薬物や状況ではBrugada様心電図を示すこともあり,いわゆる後天性QT延長症候群になぞらえて,後天性(二次性)Brugada症候群とよばれる.薬剤ではNaチャネル遮断薬,Caチャネル遮断薬,β遮断薬,抗うつ薬などが,また急性虚血,電解質異常,発熱,低体温,物理的圧迫などのさまざまな状況でBrugada様心電図が誘発されることが報告されている. - 【診断】
-
Brugada症候群の診断基準−心電図診断と負荷試験
227巻12・13号(2008);View Description Hide DescriptionBrugada症候群の診断基準においてもっとも重要なのは12誘導心電図記録であり,V1〜V3誘導においてcoved型およびsaddle-back型の特徴的なST上昇波形を示し,Type 1,2,3に分類されている.とくに,自然発生するtype 1(coved型,J≧0.2 mV)は臨床的に心室細動および突然死の発生に密接に関連していることが示されている.一方,type 2,3は薬物負荷試験や運動負荷試験および経口糖負荷試験,高位肋間記録心電図などの検査を用いて,ST上昇の程度や波形変化を評価し,type 1への移行を検討する.さらに,心電図所見に加え,症状および家族歴について評価することにより本疾患が診断され,治療方針が決定される.この点,わが国においてはBrugada症候群の自動解析による心電図診断基準が確立され,スクリーニングが可能となり,本疾患の早期発見に有用とされている. -
Brugada症候群の非侵襲的診断の進め方
227巻12・13号(2008);View Description Hide Description疫学調査により,わが国ではBrugada型心電図変化を示す患者が多いことがわかり,予後良好な患者とそうでない患者を区別するための有効な診断法が模索されている.その1つの方法として心臓電気生理検査による心室細動の誘発が重視されているが,これ以外にも有用な診断法がいくつかある.最近,心電図の自然変動がリスク因子としてクローズアップされている.それには迷走神経活動の亢進が関与するため,満腹テストなどのユニークな検査法も考案されている.心室late potentials(LP)を評価する加算平均心電図や,T波変動解析,心拍変動解析も有用な検査法といえる.画像診断は他の疾患との鑑別で有用であるが,Brugada症候群のリスク評価にも有用とする報告もだされている.本稿ではまずBrugada症候群の病態の考え方を整理し,つぎに非侵襲的診断の進め方について,最近のトピックを紹介しながら解説する. -
Brugada症候群診断のガイドラインとリスクの階層化
227巻12・13号(2008);View Description Hide Description第2回のconsensus conference(2005)は,Brugada症候群の診断基準を自然経過またはⅠ群抗不整脈薬を使用した状態でtype 1(coved型)の心電図が右胸部誘導の1つ以上に認められることに加えて,1.多形性心室頻拍または心室細動が記録されている,2. 45歳以下の突然死の家族歴がある,3.家族にtype 1の心電図がある,4.多形性心室頻拍または心室細動が電気生理検査で誘発される,5.失神や夜間の瀕死期呼吸を認める,のうち1つ以上を満たすものとした1).Brugada症候群のリスクの階層化を考える場合,心停止や心室細動,失神の既往がある有症候例か,心電図異常がみられるが症状のない無症候例かを考える.これは有症候例の予後は一般的に不良で,無症候群は一部を除いて予後が良好と考えられるからである.しかし,少数であっても若年から中年男性に心臓突然死が生じることの社会的影響は小さくなく,無症候例のなかからハイリスク症例をいかにして判別するかは重要な課題といえる.Brugada症候群の心臓突然死をもっとも確実に予防するのは植込み型除細動器(ICD)であり,リスクの階層化によって効果的なICD治療を行うことが望まれる.本稿では,Brugada症候群のリスクの階層化について,近年発表された日本循環器病学会(2005〜2006年合同研究班)のガイドラインとともに述べる2).Brugada症候群,リスク評 - 【治療】
-
Brugada症候群に対する薬物治療−内服治療や心室細動storm時の対応
227巻12・13号(2008);View Description Hide DescriptionBrugada症候群に対する薬物治療は,1. 慢性期における植込み型除細動器(ICD)作動の予防と,2. electricalstormに対する急性期治療である.いずれの薬物治療もVFの発生予防であり,ICDを植え込んだうえでの補助療法と考えられる.理論的には一過性外向きK電流(Ito)ブロッカーであるが,純粋なItoブロッカーは存在しないため,1.に対してはキニジン,シロスタゾール,ベプリジル,ジゾピラミドが有効であるとされている.一般的な抗不整脈薬であるアミオダロン,β遮断薬,クラス㈵c抗不整脈薬,プロカインアミドは無効,あるいは禁忌である.2.に対する急性期治療として,イソプロテレノールや高容量キニジンが有効であるとされている. -
Brugada症候群に対する非薬物治療の効果と限界
227巻12・13号(2008);View Description Hide Description本稿では,まずわが国で発表された最新のBrugada症候群に対する治療ガイドラインを解説し,とくに植込み型除細動器(ICD)の適応や有効性を再確認する.また,ICDの適応後に生じる問題点,とくにelectricalstormや不適切作動への対応についても論じることとする.さらに,ICDに備わったモニター機能を使った病態の解明や根治的治療法の可能性と限界についても考察する.
-
-
フォーラム
-
- 切手・医学史をちこち84
-
- 医療関連死問題をかんがえる13
-
医療関連死問題解決のカギ−根治療法か,対症療法か?
227巻12・13号(2008);View Description Hide Description1999年の都立広尾病院事件以来,医学界において異状死届け出や,医療関連死の死因究明制度についての議論が盛んになり,最近は医療安全調査委員会(医療版事故調)の設置が法案化される段階になった.しかし,ここにきてさまざまな混乱が発生している.この混乱から脱する糸口はなかなかみあたらないが,以下,それを見出すうえで,参考になればと思うことを法医学の立場から述べさせていただく. - 書評
-
-
-
-
TOPICS
-
- 免疫学
-
- 耳鼻咽喉科学
-
- 臨床検査医学
-
-
連載
-
- 医師のための臨床統計学4
-
評価の信頼性と妥当性
227巻12・13号(2008);View Description Hide Description同一の評価者が再現性高く評価を行うかどうかが“評価者内信頼性”,異なる評価者間の評価が一致するかどうかが“評価者間信頼性”である.これらの信頼性は,カテゴリカルデータの場合にはκ係数,連続データの場合には級内相関係数で評価される.臨床検査結果が施設を問わず正確で精密に報告されるような品質管理プロセスを標準化とよぶが,多施設共同の疫学・臨床研究においては,評価尺度の信頼性確保と検査の標準化が必須となる.