Volume 228,
Issue 1,
2009
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【1月第1土曜特集】アトピー性皮膚炎
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医学のあゆみ 228巻1号, 1-1 (2009);
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疫学・病態生理Update
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医学のあゆみ 228巻1号, 5-13 (2009);
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アトピー性皮膚炎は遺伝的要因と環境要因の双方により発症するとされる.近年の有症率の増加には生活の近代化・西洋化が深く関与していると考えられており,さまざまな環境要因が検索されている.アトピー性皮膚炎は世界的に増加しているといわれるが,日本を含め,先進国の一部での増加は止まった,あるいは減少に転じたとする報告もある.日本および世界各国でのアトピー性皮膚炎の有症率,罹患率,過去数十年での有症率の変遷,長期予後,危険因子について述べる.
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医学のあゆみ 228巻1号, 15-19 (2009);
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アトピー性皮膚炎の病因は免疫学的異常に加え,バリア機能の異常,遺伝的背景などさまざまなものが複合している.バリア機能の低下は皮膚の保水能の低下,抗原への曝露を引き起こす.近年,アトピー性皮膚炎患者では無疹部でも角層細胞間脂質のひとつで,皮膚のバリア機能を担うセラミドが減少していることがわかってきた.一方で,皮膚をそう破することは直接バリアを破壊し皮膚炎を悪化させる要因となる.保湿剤によりバリア機能を補い,そう破をコントロールすることは皮疹の予防につながる.アトピー性皮膚炎の治療においてはバリア機能障害の側面にも注目し,保湿やメンタルケアを含めた総合的なスキンケアを行っていく必要がある.
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医学のあゆみ 228巻1号, 20-24 (2009);
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アトピー性皮膚炎の病態にはバリア機能異常と免疫異常がある.現在のところ,どちらが一義的な意義を有するかについては明らかではない.アトピー性皮膚炎にみられる免疫異常は多彩であるが,主として,1 Thelper type(Th)1/Th2バランス異常,2 IgE産生,について多くの研究がなされてきた.アトピー性皮膚炎はTh2優位な疾患に位置づけられていたが,Th1も同時に活性化していることから,Th2疾患というほど単純ではないことが認識されてきた.また,IgE産生はアトピー性皮膚炎がアレルギー疾患であることを示す重要な免疫異常であるが,近年IgE産生は皮膚バリア機能異常の結果にすぎないという考えも提唱されている.アトピー性皮膚炎における免疫異常についてはいまだ不明な点も多く,今後さらなる解析が必要である.
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医学のあゆみ 228巻1号, 25-30 (2009);
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アトピー性皮膚炎のかゆみは,抗ヒスタミン薬抵抗性のかゆみである.この原因としてヒスタミン以外のケミカルメディエーター,神経線維の表皮内侵入,そして末梢組織(表皮ケラチノサイト)におけるオピオイド発現異常が考えられる.アトピー性皮膚炎における神経線維の表皮内侵入はNGF,amphiregulin,geratinaseの発現亢進,神経反発因子セマフォリン3 Aの表皮内発現低下により惹起されている.アトピー性皮膚炎ケラチノサイトでは,ダイノルフィンの合成低下とκ-レセプターの発現低下によりμ-オピオイド系がκ-オピオイド系より優位になっているためにかゆみが生じている可能性がある.これらがアトピー性皮膚炎のかゆみを難治性にしているものと思われる.これら表皮内神経分布異常とオピオイド発現の異常は,かゆみ抑制作用のあるPUVA療法により正常化される.本稿ではアトピー性皮膚炎のかゆみが,なぜ抗ヒスタミン薬により制御されないのかに焦点をあて考察した.
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医学のあゆみ 228巻1号, 31-37 (2009);
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アトピー性皮膚炎(AD)において,汗は長らく悪化因子として考えられてきた.しかし,ADは皮膚の乾燥により特徴づけられる疾患であることを考えると,皮膚の水分を保つ因子として汗は重要な役割を担っているはずである.それがいままで無視されてきた背景には,医者,患者ともに,汗は悪化因子であるという常識にあまりに強く縛られすぎた点があげられる.しかも水分量の測定に関して,日常生活ではほとんどありえないような安静状態での測定値に固執しすぎていたこともその要因のひとつである.実際,AD患者では温熱負荷に対する発汗反応は著明に低下している.汗は皮膚の乾燥を防ぎ皮膚温を保つだけでなく,病原菌に対する抗菌作用を有するペプチドを含んでおり,ADではその量的低下により病原菌が定着している可能性が示唆されるようになってきた.現代人のライフスタイルは発汗機能を低下させ,ADをますます増加させている可能性がある.
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診断Update
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医学のあゆみ 228巻1号, 41-46 (2009);
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アトピー性皮膚炎(AD)の病勢血中マーカーには血清IgE,末梢血好酸球数,血清LDH値,血清TARC値などがある.これらは短期間の治療により皮疹が軽快するのに伴い変動するなど,短期的な病勢マーカーとして優れている.一方,血清IgE値は長期的な病勢マーカーであり,皮膚炎の長期的推移に伴い変動し,ADのグローバルな指標として重症度の判定に有用である.また,近年かゆみのマーカーとして血漿BDNF,サブスタンスPやIL-31などが報告されている.このような血中マーカーは皮膚炎の重症度を反映し,同時に診療におけるコミュニケーションの手段として用いることが可能である.
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医学のあゆみ 228巻1号, 47-60 (2009);
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現代社会においてアレルギー疾患の頻度は高く,厚生労働省のリウマチ・アレルギー情報センターのHPにも,日本人の3人に1人は何らかのアレルギーを有するとある.それらのアレルギー疾患のひとつであるアトピー性皮膚炎は,皮膚科を受診する原因の1〜2割を占めるきわめてありふれた疾患である.すなわち,アトピー性皮膚炎を正しく診断し,その病態を的確に把握したうえで適切な治療を施すことは,皮膚科専門医のみならずすべての臨床医にとってすべからく重要なことである.
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医学のあゆみ 228巻1号, 61-66 (2009);
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アトピー性皮膚炎に伴う眼合併症をアトピー眼症という.アトピー眼症には白内障,網膜 /離,円錐角膜などがよく知られている.しかし,それ以外にもAD患者特有な眼障害が多数存在する(アトピー性角結膜炎,両眼性角膜ヘルペス,閉瞼障害など).アトピー眼症の明確な発症メカニズムは不明であるが,大きな原因のひとつに患者自身の痒みのための自傷行為がある.ゆえに,アトピー眼症の発症を予防するにはアトピー眼瞼炎を十分治療することが大切になる.アトピー眼瞼炎の治療の基本は皮膚バリアー機能の維持・止痒・清潔である.それでもよくならないときはステロイド軟膏やタクロリムス軟膏を使用する.アトピー眼瞼炎の治療で痒みをコントロールできれば,眼叩打行動が抑制され,アトピー眼症の発症を抑制できる.アトピー眼症の発症予防・治療には皮膚科医と眼科医の協力が必要である.
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医学のあゆみ 228巻1号, 67-72 (2009);
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小児の食物アレルギー(FA)の大多数は乳児のアトピー性皮膚炎(AD)として発症するが,すべての乳児のADにFAが関与しているわけではない.乳児のFAとADが合併していることが多い事実は疑う余地はないが,FAによりADの湿疹が誘発されるかどうかに関しては以前より日本だけではなく世界的にも皮膚科医と小児アレルギー専門医の間で議論があり,現在も結論に至ってはいない.厚生労働科学研究班において作成された『食物アレルギーの診療の手引き2005』では,皮膚科医と小児科医が討議してそれらを“食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎”よぶことにし,対応方法を示したことは画期的なことであった.それらの多くが生後3カ月以内にそう痒の強い顔面の湿疹として発症し,ADへの対応(スキンケアとステロイド外用療法)をしても改善しないケースや繰り返す場合には原因食物の関与を調べる必要がある.診断は,乳児においても皮膚テストやIgECAPRASTを参考にしたうえで食物除去試験,可能なら負荷試験(経母乳も含む)により行う.多抗原の感作例では専門施設に早期に紹介すべきである.離乳食の開始後には,投与食物アレルゲン量の増加でそれらの多くは即時型症状を呈するようになる.離乳食開始後の即時型FAによる健康被害を回避するためにも,離乳食開始前の診断が重要である.
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治療Update
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医学のあゆみ 228巻1号, 75-79 (2009);
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日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎の診断基準,重症度分類,治療ガイドラインを統合したものとして,2008年にアトピー性皮膚炎診療ガイドラインが策定された.診断には,1 そう痒,2特徴的皮疹と分布,3慢性・反復性経過の3基本項目を満たす必要がある.重症度分類は3つの皮疹の要素(1紅斑・急性期の丘疹,2湿潤・痂皮,3慢性期の丘疹・結節・苔癬化)を5つの身体部位(頭頸,前体幹,後体幹,上肢,下肢)のもっとも重症な部分で評価し,別に皮疹の面積も5部位で評価し,両者を合計して行う.治療において皮膚の炎症に対してはステロイド外用薬やタクロリムス軟膏による外用療法を主とし,生理学的機能異常に対しては保湿・保護剤外用などを含むスキンケアを行い, <痒に対しては抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬を補助療法として併用し,悪化因子を可能なかぎり除去することを基本とする.
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医学のあゆみ 228巻1号, 80-86 (2009);
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2008年の日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは,EBMに基づいたステロイド外用薬の使い方がきめ細かに解説されている.副作用に関する誤解のためステロイド忌避が流行した背景を踏まえ,その正しい理解を広めるべく,副作用に関しても注意深い記載がなされている.外用指導のコツとしてコンプライアンスを高めるための工夫を述べ,FTU(finger tip unit)による外用量の遵守も強調されている.後半ではコンプライアンス向上のためになされるステロイド外用薬の混合調製のピットフォールについて概説し,O/W型の乳剤性基剤の問題,希釈混合の問題,ジェネリックの問題などを取り上げてみた.ステロイド外用薬を中心としたアトピー性皮膚炎の標準治療が,ますます普及していくことを切望する.
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医学のあゆみ 228巻1号, 87-93 (2009);
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移植免疫抑制薬(プログラフ)としては発売後15年,アトピー性皮膚炎(AD)治療薬として外用化された成人用0.1%軟膏が発売後9年,小児用0.03%軟膏も5年を経過しようとしているタクロリムス軟膏(プロトピック)は,ADに対する抗炎症薬物療法としては単独療法でも,またステロイド外用薬と組み合わせて使用しても,いずれも有用であることが示されている.両者を二本柱とした薬物療法が,小児を含めたAD治療のグローバルスタンダードとなった今,日本皮膚科学会の“2008年版AD診療ガイドライン”でもアップデートな言及がなされ,厚生労働科学研究班による“AD治療ガイドライン”(2005)でも一般医向けに情報発信が行われている.ここではタクロリムス軟膏のADにおける作用機序,そして最新のエビデンスを踏まえて,その適正な使用法について解説したい.
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医学のあゆみ 228巻1号, 94-97 (2009);
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アトピー性皮膚炎治療における保湿剤の重要性は広く内外のガイドラインでも明記されており,合理的治療法であることに異論はない.保湿剤にはさまざまな種類があり,それぞれ特徴が異なるので,患者の年齢,皮膚症状,生活環境,嗜好などを考慮したうえで選択していくことが望ましい.尿素製剤は刺激感がでることがあり,とくに乳幼児では避けたほうが無難である.塗り心地の面からは,ワセリンは少々べたつき,ヘパリン類似物質が使いやすい.機能面でセラミド含有製剤は優れるが,保険適応がない.剤型については乳液タイプのものはのびがよく使用が簡便であるが,水分含有量が多いため短時間で乾燥して効果が弱いという欠点がある.夏は乳液タイプを,乾燥がめだつ冬期はクリーム基剤のものを選ぶなどの工夫をするとよいが,使用感には個人差があるので,患者の感想,好みに応じて処方するのがよいであろう.
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医学のあゆみ 228巻1号, 98-102 (2009);
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アトピー性皮膚炎のほとんどは従来からのステロイド外用剤を主体とした標準治療でコントロールできるが,一部の難治例や重症例に対して十分な効果をもつあらたな治療法が求められている.なかでもシクロスポリン内服療法は早くから開発が進められ,その有用性は多くのエビデンスから明らかとなっている.アトピー性皮膚炎におけるシクロスポリン内服療法はこれまで60カ国以上で承認されており,わが国でも2008年10月についに保険適応が承認された.シクロスポリン内服療法はおもに急性増悪の危機を乗りきる目的に適すると考えられ,3 mg/kg/dayの初期用量で8〜12週以内の投与が望ましいと考えられる.副作用としての腎機能障害や高血圧などには十分に注意をする必要があり,不必要な症例への安易な投与や漫然とした長期投与は避けるべきである.長期投与が余儀なくされる例においても間欠投与を主体に考えるべきである.
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医学のあゆみ 228巻1号, 103-108 (2009);
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アトピー性皮膚炎に対し漢方療法を用いる際にも,現代西洋医学的なアトピー性皮膚炎に対する正しい認識と的確な診断は不可欠である.現代西洋医学的な診断に,漢方で重視する生活習慣や環境に対する配慮を加え,必要に応じて漢方製剤を用いる.湿疹に対する基本方剤である消風散は消炎作用を有する苦参・石膏・知母・甘草・乾地黄に,止痒作用をもつ荊芥・防風・牛蒡子・蝉退,利水作用の蒼朮・木通,滋潤の当帰・地黄・胡麻から構成されている.実際の治療においては,炎症や湿潤の程度,合併する内的要因を考慮し,生薬の加減を行うために個別に異なる方剤を用いる.そのため,個々の方剤の有用性の検討は困難を極めるが,各症例が有する病態と悪化因子を考慮し,サブグループに分けて検証すべきと考える.現代西洋医学的治療のみでは改善のみられない難治例で気虚とよばれる生体防御機能低下を伴う群に対する補中益気湯の併用効果について,著者らは多施設共同二重盲検法で有用性を明らかにした.
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医学のあゆみ 228巻1号, 109-114 (2009);
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心身症としてのアトピー性皮膚炎には大きく分けて3つの病態がある.1つ目は心理社会的要因がアトピー性皮膚炎の症状に影響を及ぼしている場合であり,2つ目はアトピー性皮膚炎の皮膚症状があるために精神的な症状を生じている場合である.3つ目はアトピー性皮膚炎のケアがうまくいかない場合である.この3つの病態は同一症例に複数存在することが多い.これらに対応するには皮膚科的な評価と精神的な評価が必要となる.QOLや心身症的側面の簡便な評価法としては,PSS-ADやSkindex,DLQIなどがある.これらは一般の皮膚科医でも評価に役立つ.治療は病態に応じて多少異なるが,患者の話をよく聴き,治療に対する選択性を示して不安を取り除くことが基本となる.そこに精神症状がみられる場合は,向精神薬を併用したり心理療法を行ったりする.アトピー性皮膚炎患者の心身症の病態は初期のうちに一般皮膚科医が対応するのが望ましい.
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医学のあゆみ 228巻1号, 115-119 (2009);
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最近,日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインが改訂されたが,EBM重視の現代にあって本ガイドラインもエビデンスに裏打ちされたものとなっている.本稿ではエビデンス活用に必要なEBMの基本概念を概説する.治療法選択に関してはまずエビデンスの質のレベルに注目し,レベルの高い薬剤から選択する.つぎに治療法の効能,効果,効率,効用の4側面,有益性と有害性の2極のバランスを評価する.適用にあたっては,エビデンス,医師の技能,患者の価値観・好み,保健資源の4要素を勘案する.