医学のあゆみ
Volume 228, Issue 6, 2009
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【2月第1土曜特集】最新・疲労の科学−日本発:抗疲労・抗過労への提言
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- 疲労の科学とメカニズム
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疲労とは?−−疲労の統計,疲労の科学で何をつきとめなければならないか?
228巻6号(2009);View Description Hide Description疲労は身体・精神活動により活動低下あるいは活動能力・能率の低下状態であり,近年,さまざまな生体計測により定量化も進められてきた.ここでは疲労とは何か? 最新の疲労研究について触れるとともに,わが国における疲労の統計を紹介し,“疲労の科学”が解くべき問題について整理する.6カ月以上続く“慢性疲労”が多いことに注目したい.また,世界の疲労研究の動向や疲労研究の出口としてのグローバルな展開についても簡単に触れる. -
疲労のメカニズム−−これまでの仮説と現在の仮説
228巻6号(2009);View Description Hide Description疲労の分子神経メカニズムについては,近年かなり研究が進んでおり,本特集においても後につづく項に詳細な解説がある.ここでは以前からの仮説のうち,乳酸疲労原因物質説が間違っていることを指摘し,つぎにトリプトファンやアミノ酸説の整理をし,サイトカイン説と酸素ラジカル 酸化蛋白説,修復エネルギー低下説についてまとめたい. -
中枢性疲労の動物モデルと睡眠誘導メカニズム
228巻6号(2009);View Description Hide Description疲労はその原因から,1長時間の精神ストレス曝露や精神作業などによる中枢性疲労,2筋肉運動による肉体疲労,3感染症罹患時などの免疫反応を起因とする感染(免疫学的)疲労,などに分類できる.中枢性疲労の多くは,過剰な中枢神経興奮が直接の引き金となってもたらされるものと考えられる.本稿ではラットを用いた中枢性疲労モデルとして,ラット大脳皮質に人工的な脱分極波(Spreading depression)を惹起したモデルや,脳内自己刺激行動を長時間持続させて自発的な神経過剰興奮状態を再現したモデルを紹介する.そして中枢神経の過剰興奮がニューロンでのシクロオキシゲナーゼ2(COX2)の発現を誘導して大量のプロスタグランディンを産生し,徐波睡眠を誘導することを示す.中枢神経はその興奮に応じて深い睡眠を惹起し,自らを休息状態におくことによって機能を回復・維持しているものと思われる. -
過労モデル動物を用いた研究からわかってきた疲労のメカニズム
228巻6号(2009);View Description Hide Description現代社会において過労が蔓延している.過労モデル動物を用いた研究から,過労のメカニズムがしだいに明らかになってきた.急性の疲労やストレスによる活性酸素の産生により細胞や細胞内の蛋白質の部品などが損傷し,その損傷がシグナルとなり免疫系サイトカインが増加,その結果,代謝・情報伝達系に異常が起こる.傷んだ細胞部品を修復するには通常の細胞活動に必要な量以上のエネルギー・物質が要求されるにもかかわらず,疲労状態では利用可能なエネルギー・物質が少ないため細胞修復が進まず,代謝・情報伝達系異常がますます増悪し,過労・慢性疲労に陥ると考えられる. -
免疫学的疲労モデルにおける疲労の分子神経メカニズム
228巻6号(2009);View Description Hide Descriptionウイルス感染モデルに用いられる合成二重鎖RNAのpoly I:C(3 mg/kg)を,ラットの腹腔内に投与すると,ホームケージ内の回転かごの回転数が約1週間にわたり20 30%増加した.視床下部および大脳皮質のインターフェロンα(IFN α)のmRNAがpoly I:C投与の翌日および7日目も増加していた.一方,IFN αが増加していた部位と一致してセロトニン(5 HT)トランスポーターの発現が増加していた.Poly I:Cによる疲労モデルでは脳内の5 HT濃度が低下し,疲労が5 HT1Aアゴニストおよび選択的5 HT再取込み阻害剤で抑制されたことなどから,免疫学的疲労における脳内5 HT系の関与が明らかになった.また,poly I:Cによって視床下部を中心にマイクログリアの著明な活性化がみられたことから,サイトカイン産生や疲労の発現とマイクログリアとの関連が示唆された. -
ヒト脳疲労
228巻6号(2009);View Description Hide Description疲労研究において,非侵襲的にヒトの脳機能を探るイメージング手法が大きな威力を発揮している.著者らはこれらの手法を用いて疲労の神経メカニズムを解明してきた.疲労に伴って惹起される抑制システムや意欲,疲労感に関連する神経基盤も明らかになってきた.さらに,疲労関連因子のなかで,慢性疲労の病態として抑制システムの関与が推測されてきており,疲労克服への道筋が開かれつつある. -
睡眠障害と疲労−−睡眠不足がもたらす脳への危険性
228巻6号(2009);View Description Hide Description情報化社会のなかで不夜城化した現代,日常生活における昼夜のリズムが失われ,小・中学生も含め多くの人びとの間で睡眠不足が蔓延化してきている.睡眠は,身体の疲労,とくに脳の疲労回復にとってきわめて重要な生理現象である.眠りたいと欲する本能的欲求である眠気は,脳が自らのために発する疲労の警告信号のひとつにほかならない.睡眠不足はわれわれの身体にどのような影響を与えるのであろうか.睡眠不足は単に昼間の眠気を招くだけでなく,疲労を蓄積させることで仕事の作業能率を低下させ,交通事故や産業事故の遠因ともなっている.さらに,睡眠不足が慢性化すると無気力感,うつ病,自律神経失調症などの心身症を招く危険性さえある.本稿ではまず,生理現象としての睡眠の特徴について概説し,睡眠不足が脳の代謝や認知機能に及ぼす影響について最近の知見を紹介しながら,疲労回復機構としての睡眠の役割について考察する. - 疲労の計測
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質問票法による疲労の評価
228巻6号(2009);View Description Hide Description日本人の約60%が「疲労している」と回答し,そのうち約7割は6カ月以上の期間の疲労を訴えている1).疲労状態に陥ると,注意や集中力の低下や仕事効率の低下が認められる.また,疲れているという感覚がないと休みなく働き続けてしまい,疲弊し,ひいては過労死を迎えてしまうと考えられており,その経済損失は1兆2千億円/年(2005年文部科学省科学技術振興調整費調べ)ともいわれている.疲労の早期発見・早期予防・早期対処は,疾病予防の意味でも日本経済活性化や医療費削減の観点からも重要であり,“疲労”を評価する方法の確立が急務である.本稿では質問票を用いた疲労の評価方法についての文献的考察と,各国で使用されている質問票の一部の紹介を行い,つぎに著者らのグループで開発した質問票を紹介し,最後に質問票法を用いた疲労研究の今後について述べたい. -
疲労の生理学的計測:行動量評価
228巻6号(2009);View Description Hide Description慢性疲労病態は,疲労感と疲労関連症状という主観的な指標と活動のdisabilityによって判断されている.そのため,周囲に詐病ととらえられたり,医療機関としてもその重症度の指標となるものがなく医療的介入に苦慮しているのが現状である.本稿では,大阪市立大学疲労クリニカルセンターで得られた知見とともに先行研究を紹介し,活動量から睡眠覚醒リズムの検討を行うことで客観的に疲労状態の一側面をとらえることが可能であることを示す.とくに,日中の活動量低下と睡眠覚醒リズムの変調は,多くの研究で共通してみられる所見である.また,非線形解析を用いて得られるあらたな指標が,より深い疲労病態理解に有用である可能性を示した.これまでに活動量時系列データの非線形性の検討では,とくにフラクタル性を示す指標の検討がなされており,慢性疲労病態では日中の活動においてフラクタル性=生体としての環境適応性が低下していることが報告されている. -
疲労の生理学的計測:加速度脈波
228巻6号(2009);View Description Hide Description簡便で非侵襲的な加速度脈波検査で慢性疲労症候群患者の疲労を,visual analogue scale(VAS)により軽快群,中等症群,重症群に分け,健常人群と年代ごとに比較した.a波波高の減少,waveform index Aの減少,a a間隔変動係数の減少と自律神経機能解析から副交感神経機能(HF帯域パワー値)低下と相対的交感神経系機能亢進(LF/HF)が疲労感と関連していた.さらに,これは疲労をきたす他疾患でも同様の変化を認め,疲労の客観的評価に有用と考えられた. -
疲労による作業能率低下の解析
228巻6号(2009);View Description Hide Description疲労により作業能率は低下するが,実験的に再現することは容易でなかった.しかし最近の研究から,作業能率低下を引き起こす疲労負荷課題として,2つ以上のことに注意を向けることを要する注意配分課題が適することがわかってきた.また,疲労と意欲は表裏一体の関係にあり,疲労による作業能率低下の神経メカニズムの解明には,意欲の神経基盤の検討を要する.作業能率低下の背景に潜む1疲労,2意欲,および3注意配分機能の三体問題を解く鍵は,非侵襲的脳機能イメージング計測を用いた疲労科学研究により導かれつつある. -
疲労の生化学的バイオマーカー(血液,尿)
228巻6号(2009);View Description Hide Description健常人における疲労は,一般に身体あるいは精神に負荷を与えられたときにみられる作業効率の低下であり,休息欲求と不快感を伴った状態としてとらえることができる.ゆえに,疲労のバイオマーカーとしては作業効率の低下が第1の指標となり,疲労感の自覚症状もひとつの指標となる.さらに,疲労の発現や強度と深い関連を有する生化学的バイオマーカーも,その疲労発現のメカニズムの解明や定性・定量化において重要である.生化学的バイオマーカーにおいては,96名の健常人に4時間の身体作業負荷および精神作業負荷を実施した結果,8 イソプラスタンや8 ヒドロキシデオキシグアノシン(8 OHdG)などの酸化ストレスマーカー,バニリルマンデル酸(VMA)やホモバニリン酸(HVA)などのカテコールアミン代謝物,TGF β,白血球(好中球)などが,疲労および疲労感と関連深いことが示された. -
疲労のバイオマーカー:唾液中ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)
228巻6号(2009);View Description Hide Description唾液検査は採取が簡単で,日々の生活のうえで疲労をチェックする方法として有用な検査手段を提供してくれる可能性がある.しかし,現在行われている検査では短期的なストレスを測定することは可能であるが,ストレスの蓄積の結果生じる疲労を測定することはできない.著者らは疲れるとヘルペスがでるというよく知られた現象をヒントに,唾液中に再活性化するヒトヘルペスウイルス6(HHV 6)を定量することによる疲労測定法を開発した.この方法は労働による疲労を客観的に測定できるだけでなく,抗癌剤の副作用による疲労を測定することも可能である.また,なぜ疲労によってHHV 6が再活性化するかという研究から,疲労の正体にアプローチすることも可能である. - 疲労の臨床
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慢性疲労症候群の診療の実際−−診断指針と検査,治療
228巻6号(2009);View Description Hide Description慢性疲労症候群(CFS)とは,これまで健康に生活していた人が対人的・物理的・化学的・生物学的な複合ストレスがきっかけとなり,ある日突然原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ,それ以降強度の疲労感とともに微熱,頭痛,脱力感や,思考力の障害,抑うつなどの精神神経症状などが長期にわたって続くため,健全な社会生活が送れなくなるという疾患である.慢性疲労病態の診断には,まず明らかな疲労の原因があるかどうか,病歴の聴取と基本的検査で確認をする.そのなかで疲労の原因となりうる現存疾患があればその治療を行う.明確な原因が特定できなければ症状項目がどれほど該当するかについて確認を行い,CFSかそれ以外の慢性疲労病態かを判断する.治療は,漢方やビタミン類,セロトニン選択的再取込み阻害剤などの向精神薬を中心とした内服治療と,認知行動療法,段階的運動療法を適切に行うことが重要である. -
慢性疲労症候群はどこまでわかったか?
228巻6号(2009);View Description Hide Description慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)とは,健康に生活していた人が風邪などに罹患したことがきっかけとなり,それ以降,原因不明の強い全身倦怠感,微熱,頭痛,筋肉痛,精神・神経症状などが長期に続いて健全な社会生活が送れなくなるという病態であり,CDC(アメリカ疾病対策センター)により1988年に提唱された比較的新しい疾患概念である.その病因としては,これまでウイルス感染症説,内分泌異常説,免疫異常説,代謝異常説,自律神経失調説など,さまざまな学説が報告されてきた.著者らは1991年より厚生省CFS研究班を組織してCFSの病因・病態の解明をめざした臨床研究を進めてきたところ,CFS患者にみられる種々の異常は独立して存在しているのではなく,たがいに関連してカスケードを形成していることに気づいた.そこで,“疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその制御に関する研究”(文部科学省:生活者ニーズ対応研究,研究提案者:渡辺恭良,倉恒弘彦)のなかでCFSに陥るメカニズム(仮説)を提唱し,多くの共同研究者とともに包括的な疲労研究を進めてきたところ,これまでは雲をつかむような存在であったCFSの病因,病態がかなり明らかになってきている.そこで,本稿ではCFS患者にみられる代表的な異常をいくつか紹介し,その異常がどのように関連し慢性疲労に結びついているのかについて紹介したい. -
ストレス関連疾患と慢性疲労症候群
228巻6号(2009);View Description Hide Description現代日本は,高度情報化社会,経済不況,核家族化など複数のストレス因子が相まって,うつ病,不安障害,心身症などのストレス関連疾患が急増している.ストレス関連疾患では疲労を伴っていることが多い.また,慢性疲労を主訴に受診してくる患者もみられる.疲労感や倦怠感を主訴として心療内科を受診する患者の多くはうつ病を合併していたり,多くの医療機関を受診していたり,医療不信を抱いていたりと,その背景には多様な心理社会的背景が認められることが少なくない.また患者の多くは,一般内科での治療では改善せずに紹介されてくる場合が多いため,疲労にかかわると推察される準備因子,誘発因子,持続因子および増悪因子などの心理社会的要因を含めた病態を考慮して治療を行うことが重要である.治療法も多岐にわたり,効果も一様ではない.そのため,症例ごとに最適な非薬物療法や薬物療法の組合せを治療計画に取り入れていく必要がある.慢性疲労症候群の心療内科における治療の特徴は,どのような心理社会的要因が病態に関与しているかを考慮して,身体的側面および心理的側面の両面を全人的に診ている点である.慢性疲労症候群に対する,より効果的な治療法や予防法を探っていくことは,それに付随するさまざまな身体症状および精神症状の発症を防止する意味でも重要である. -
透析患者の疲労−−その実態,病態と治療の可能性
228巻6号(2009);View Description Hide Description疲労は長期透析患者に頻繁に認められる症状のひとつで,患者のQOLに深く影響する.現在まで疲労を検出または定量化するよい方法がなく,透析医療スタッフが早期に疲労症状を検出し,それに対応するのが困難な状況である.さらに,疲労症状の背後には,種々の疾患,たとえばうつ病,甲状腺機能低下症,尿毒症(不十分な透析),貧血,睡眠障害などが存在する可能性があり,種々の疾患を発見するきっかけになることも多い.著者らは疲労に関連した64項目問診票を用いて1,122名の透析患者を対象とした疲労調査を実施し,うちデータ欠損のない322名を対象に透析患者の疲労度の実態を健常人および慢性疲労症候群患者と比較検討した.透析患者には健常人の総疲労得点の平均+2標準偏差以上の高度疲労患者が38.3%存在した.透析患者の総疲労得点は性別・年齢にかかわらず,透析日のほうが非透析日に比べて有意に高度であった.また,高度疲労を示す145名の透析患者の疲労の特性を因子分析により解析し,298名の慢性疲労症候群患者と比較した結果,透析患者では不安・抑うつ,痛み,過労感,自律神経症状が慢性疲労症候群患者より有意に高度であった.このように,透析患者の疲労に影響する因子は慢性疲労症候群と明らかに異なると考えられる.本稿では透析患者の疲労の実態,その病態・病因に関する最近の知見を紹介し,その制御の可能性について述べたい. -
疲労と精神医学−−精神科領域における慢性疲労の診断と評価
228巻6号(2009);View Description Hide Descriptionうつ病をはじめとする精神障害において慢性疲労を訴える患者が増加している.さらに,慢性疲労症候群や癌患者が慢性疲労を訴える場合に,うつ病が併存する場合も少なくない.このように慢性的な疲労の背景に精神障害の存在を念頭におき,併存する精神障害を正確に診断し適切な治療を行うことで,精神障害の改善と患者のQOLの向上が可能となる.薬物による治療法としてはSSRIやSNRIのほかに,今後はブプロピオンなどのドパミン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬が注目されると考えられる. -
東洋医学と疲労−皮膚科学領域より
228巻6号(2009);View Description Hide Description東洋医学において疲労はさまざまな角度から検討されてきており,対処法にも薬物療法のみならず,食事や運動,睡眠などの生活指導や呼吸法に至るまで種々のものがある.本稿では東洋医学のなかから漢方に焦点をあて,漢方における疲労対策の概略と補中益気湯(ほちゅうえっきとう)をはじめとする代表的な漢方方剤を構成生薬の薬理作用に注目しつつ解説した.つぎに,疲労が皮膚に及ぼす影響と皮膚科学領域からみた疲労に対して補中益気湯がどのように働くかを明らかにした著者らの研究成果を紹介した. -
小児型慢性疲労症候群と不登校
228巻6号(2009);View Description Hide Description不登校児童・生徒の大半が10時間前後の長い睡眠を必要とし,朝,定刻に起床できず昼まで眠る昼夜逆転傾向の睡眠覚醒リズムを示す.起床しても午前中のだるさや気分不良のため学校社会始動時間までに心身活動の準備を整えることができない.また,睡眠時間に反比例した睡眠質低下のため疲労が回復せず,目が覚めると同時に疲労感を訴えるほどである.集中力・持久力・認知力が低下し,勉強は手につかず,奇妙なだるさを抱えて1日中自宅ですごす状態になる.奇妙なことに「なぜ登校できない」のか自らも理解できず“自己矛盾状態”にある.生命力低下ともいうべきこの状態が長期化(3カ月以上)すると約60%が国際診断基準により“小児慢性疲労症候群:CCFS”と診断される.残り40%も非定形的CCFS,あるいはCCFS様疾患と診断されるので,“不登校”は“CCFS”とほぼ同義語であり,中枢神経疲労に伴う生命維持機能低下状態と理解できる. - 抗疲労・抗過労食薬環境空間開発
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抗疲労環境空間開発プロジェクト
228巻6号(2009);View Description Hide Description抗疲労は,医薬品や食品,および食品成分・サプリメントのように身体・脳に直接働いて達成される健康医学も重要であるが,われわれを取り巻く環境・空間をどのように疲労軽減・回復のために改善していくか,また,理学療法機器や生活空間の工夫による抗疲労・癒し効果をどのように科学的に進めていくかが,今後の人間生活の質を決定していき,ひいては広く職場・学校などを含めた社会環境改善につながる道である.疲労度がさまざまな計測システムにより客観的・定量的にとらえられるようになってきたので,このような観点におけるさまざまな取組みがすでに進められている.本稿では,最近の取組みについて概括して述べる. -
抗疲労食薬開発プロジェクト
228巻6号(2009);View Description Hide Description日本を代表する7大学,19社の企業などで構成された産官学連携“疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト”(2003 )において世界初の抗疲労食薬の開発が進められている.抗疲労食品とは,健常人に対し身体あるいは精神に負荷を与えられたときにみられる作業効率の低下ならびに休息欲求と不快感を伴った状態を軽減する食品を指す.栄養不足や飢餓状態の疲労においては栄養価の高い食品が抗疲労食品となるが,栄養過剰傾向にある日本人においては,疲労の発現に酸化ストレスが大きくかかわっていることから,イミダゾールジペプチドなど,酸 -
疲労モデル動物を用いた食薬成分の効能評価−−フルスルチアミンの感染疲労回復促進効果を中心に
228巻6号(2009);View Description Hide Description疲労はその原因から,1筋肉運動負荷により引き起こされる肉体疲労,2精神作業負荷による中枢疲労,3感染症罹患時などの免疫反応を起因とする感染疲労,4いくつかの疲労要因が重なった複合疲労,などに分類できる.近年,これらの疲労原因に対応したさまざまな疲労動物モデルが考案され,食品や医薬品成分の疲労緩和・回復促進効果(抗疲労効果)が検証しはじめられている.ここでは,合成二本鎖RNAであるPoly I:Cをラット腹腔内へ投与して擬似ウイルス感染状態を作成した感染疲労動物モデルを用い,ビタミンB1誘導体であるフルスルチアミン(Thiamine tetrahydrofurfuryl disulfide)の抗疲労効果をみた例を中心に紹介する.本感染疲労モデルラットにおいて,一過性の発熱(24時間以内に解熱)と数日にわたる行動量の低下が引き起こされるが,フルスルチアミンを5日前より投与した動物群では発熱は抑制されないものの,行動量の回復が促進することがわかった. -
抗疲労臨床評価ガイドラインの作成−−抗疲労でも特定保健用食品用でも日本初の臨床評価ガイドラインの概要
228巻6号(2009);View Description Hide Description2008年に日本疲労学会により作成された『病的疲労を伴わない健常者を対象とする肉体疲労に対する特定保健用食品の臨床評価ガイドライン』について解説する.各被験者の体力に応じた身体作業負荷を一定時間与えることによって生じる肉体疲労に対し,特定保健用食品の摂取により身体的パフォーマンスと疲労感がプラセボ摂取時の場合とどの程度相違するかを測定することで抗疲労効果を評価した.身体的パフォーマンス評価には10秒間ハイパワーテストかPhysical Working Capacity(PWC)テストを,疲労感の評価にはVisual AnalogueScale(VAS)を用い,いずれかを主要評価項目または副次評価項目とした.その他の評価項目には疲労バイオマーカーを設定し,副次評価項目とともに,主要評価項目で示された抗疲労効果の補完や効果発現機序の類推のために使用した. -
産業疲労特定検診
228巻6号(2009);View Description Hide Description最近では,過重労働者に対して職場の所属長とともに産業医による面談が行われるようになってきた.これは社会問題ともなっている過労死を予防するとともに,最近あらたに問題となってきたうつ病や不安神経症,パニック障害などのメンタルヘルス障害などに対しても早期に対応することをおもな目的としている.しかし,実際の診療の現場では問診票を用いて残業時間と主観的な臨床症状の把握を行っているにすぎず,職場環境ストレスによる労働者の心身の変化を正確にとらえることはできていないのが現状である.そこで,企業の長時間の時間外労働者に対しての過重労働・メンタルヘルス対策として行われている検診に着目し,著者らが提唱してきたいくつかのバイオマーカーを用いて長時間の時間外労働者の疲労状況を客観的に把握し,精神的・身体的疲労を把握する問診票と組み合わせて過重労働に伴う臨床病態の変化を早期に把握する産業疲労特定検診事業を提案したところ,2008年3月,経済産業省の新連携事業として認定され,予防医療を目的とした産業疲労・ストレス検診事業を開始することができた.本稿では産業疲労特定検診の目的,内容,期待される成果などについて紹介する. - 付録 抗疲労臨床評価ガイドライン
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