医学のあゆみ
Volume 229, Issue 11, 2009
Volumes & issues:
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あゆみ 細胞内ウイルスセンサー − ウイルス感染認識機構をさぐる
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ウイルス核酸の認識と抗ウイルス自然免疫反応
229巻11号(2009);View Description Hide Description免疫反応は,標的となる物質が自己か非自己か,これを見分けることで制御されている.自然免疫ではウイルス核酸が非自己物質として認識される.ウイルスの核酸は通常われわれがもたない特徴ある構造や局在を示し,これが免疫反応を惹起するきっかけとなる.近年,ウイルス由来のRNAを認識するファミリー分子RIGI like recepto(r RLR)による抗ウイルス自然免疫反応の解明が精力的になされている.本稿では,これまでに明らかとなったRLRの機能およびRLRにより誘導されるインターフェロンの作用機構について概説する -
ウイルス核酸認識の構造生物学
229巻11号(2009);View Description Hide Description生体への異物の侵入は,さまざまなレセプターが異物の構成成分を認識することにより感知され,細胞防御が誘導される.RIG I like recepto(r RLR)とよばれる一群のレセプターはウイルスのRNAを認識する因子である.RLRはシグナルカスケードを活性化することでI型インターフェロンなどのサイトカインを誘導する因子であり,初期の細胞防御や獲得免疫の誘導を行う.本稿では,RLRの構造生物学的手法を用いた機能解明のうち,RIG IのC末端側ドメインに焦点を当て研究報告を行う. -
C型肝炎ウイルス感染を認識する肝細胞の自然免疫機構
229巻11号(2009);View Description Hide DescriptionC型肝炎ウイルス(HCV)感染症はヒト免疫不全ウイルス(HIV)と並んで,公衆衛生上もっとも深刻な感染症のひとつである.HCVは一度感染すると非常に高い確率で慢性感染化して慢性肝炎を引き起こす.慢性肝炎は15 40年の経過で肝硬変(肝不全)へと移行し,さらに肝硬変患者は年5%の確率で肝細胞癌を発症する1).HCVが慢性感染する機序としては,1.宿主のHCVに対する免疫反応が不十分でウイルスを除去できない,または,2. HCVが宿主の免疫反応から逃れるメカニズムをもっている,などが考えられる.宿主のHCVに対する免疫反応は感染肝細胞によるウイルス感染の認識と,それによって活性化されるシグナル伝達機構によって引き起こされる.RIG (I retinoic acid inducible gene I)は細胞質に局在するRNAヘリカーゼで,RNAウイルスゲノムを認識する自然免疫機構における細胞内ウイルスセンサーとして機能している.RIG IはHCVゲノム内のuridineまたはadenosineリッチな領域を選択的に認識し,細胞内自然免疫シグナル伝達経路を活性化する.さらに,HCV以外の他のRNAウイルスゲノム内にもRIG Iによって認識される同様な領域があり,RIG Iによるウイルス感染認識機構にある一定の法則があることが明らかになってきた.本稿では,C型肝炎ウイルス感染を宿主肝細胞のRIG Iがいかに認識するかに焦点をあてて解説する. -
ポリオウイルス病原性と自然免疫−ポリオウイルスと自然免疫の戦い
229巻11号(2009);View Description Hide Descriptionポリオウイルスは急性灰白髄炎(小児麻痺)の原因ウイルスである.本来,ヒトを宿主として脊髄前角の運動神経細胞などをおもな標的として増殖し,これらの細胞を破壊することにより四肢の麻痺を生じることが特徴である.効果的なワクチンが開発・使用されたことにより根絶も近づいてきているが,ポリオウイルス感染によってなぜこのような病態を生じるのかは長らく不明であった.最近ヒトポリオウイルスレセプターを発現するトランスジェニックマウスを用いて遺伝学的な研究が可能になったことにより,神経系選択的な増殖などにはウイルス感染時の宿主側のIFN応答が非常に大きく関係することが明らかになってきている.本稿では,細胞内でのポリオウイルスの感染とセンサーによる検知の仕組み,ならびに個体レベルでのウイルスの組織特異的感染とIFN応答の関係の2点を概説する. -
LGP2による抗ウイルス自然免疫の制御−正か負か?
229巻11号(2009);View Description Hide DescriptionLGP2(laboratory of genetics and physiology 2)は2001年,Cuiらにより乳腺の癌発生に関与する遺伝子を同定する目的で,signal transducers and activators of transcription(STAT)5 and 3 locusに存在する新規遺伝子として同定された1).当時は構造上,DExD/H box RNAヘリカーゼとして認識されていたものの,米山らにretinoic acid inducible gene (I RIG I)がウイルス由来RNAの細胞内センサーと同定されるまでは,機能予想がまったくなされていなかった2).RIG Iの同定後,LGP2はmelanoma differentiation associated gene 5(MDA5)3)と同様にRIG I like recepto(r RLR)ファミリーとして位置づけられ,RNAウイルスの認識における制御因子として考えられはじめた.構造上,RIG I/MDA5と比べ,活性化ドメインを含まないことから,抗ウイルス自然免疫の抑制因子として考えられたが,ウイルスによっては正の制御因子として働き,LGP2を含むRLRシグナルはより複雑に制御されていることが考えられている.今回は,現在明らかになっているLGP2研究の現状,これからの展望について述べてみたい.
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フォーラム
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TOPICS
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- 再生医学
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- 糖尿病・内分泌代謝学
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- 耳鼻咽喉科学
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- 皮膚科学
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連載
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- がん診療連携拠点病院にみる工夫− レベルアップをめざして4
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がん患者のトータル・ケアをめざして−聖路加国際病院における取組み
229巻11号(2009);View Description Hide Description聖路加国際病院は創立から100年以上の間,あらゆる職種,全職員の専門性を結集して優れた医療を提供しようと努力してきた.がんに関してもそのコンセプトはなんら変わらず,たんにがんの根治的な治療だけではなく,支持療法,緩和ケア,救急医療,さらにはがん患者の精神,福祉,家庭環境などを包括的に考慮する医療,“がん患者のトータル・ケア”をめざしている.がん診療連携拠点病院として,その機能をいっそう強化しようと努力する試みを紹介したい.