医学のあゆみ
Volume 230, Issue 4, 2009
Volumes & issues:
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あゆみ “ミッドカイン” − 機能解析から臨床応用へ
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- 総論
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ミッドカインの生物機能と作用機序
230巻4号(2009);View Description Hide Descriptionミッドカイン(MK)はプレイオトロフィンとわずか2つでユニークな成長因子ファミリーを形成する.MKの生物学的機能は,とくに癌,神経・心臓,炎症ならびに血圧の4つの分野で重要である.それを支える生物活性として,抗アポトーシス・細胞遊走能・炎症性サイトカイン誘導・血管新生などがあげられる.これらは癌の発生進展や炎症性疾患の成立を後押しする.一方,MKの抗アポトーシス能や血管新生能はまた,脳梗塞や心筋梗塞の周囲組織での細胞の生存を助けると考えられる.したがって癌や炎症性疾患にMKのノックダウンが有効であるように,脳梗塞や心筋梗塞にはMKの補充療法が有効であると期待される.MKの受容体はLRPやALKをはじめ複数の候補をあげることができるが,いぜんとして未解明の部分が大きく残っている.その作用機序の完全な解明に今後の期待が寄せられる. - 各論:ミッドカインの臨床応用
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ミッドカインを標的とした治療の可能性−癌・神経・炎症・心血管病のあらたな治療へ
230巻4号(2009);View Description Hide Description成長因子のひとつであるミッドカインは,発生以外に発癌・炎症・神経疾患などでの関与が確認されてきており,バイオマーカーとしてばかりでなく,あらたな治療戦略としてミッドカインを標的とした治療の臨床応用が期待されている.ミッドカインは病態あるいは臓器の違いにより臓器傷害性に働く場合と臓器保護的に働く場合があり,臨床応用においては抗ミッドカイン療法とミッドカイン補充療法とを状況により使い分ける必要がある.ミッドカインの受容体および細胞内の情報伝達機構の今後の研究により,これらの点が明らかになれば,さらに臨床応用の時期が早まると考えられる. -
癌とミッドカイン
230巻4号(2009);View Description Hide Description癌患者の血清中のミッドカイン値は多くの症例で上昇しており,ミッドカインは腫瘍マーカーとして有用であると思われる.ミッドカイン値は早期癌の患者でも上昇することがあること,また予後の悪い患者で高値を示すことが多いことから,新規の腫瘍マーカーとしての有用性が高いと思われる.一方,ミッドカインは癌細胞の生存と移動を促進し,血管新生を促し,癌の進展に関与するため,ミッドカインを標的としたアンチセンス治療,ミッドカイン遺伝子プロモーターを使った標的治療などの可能性が報告されている.本稿ではミッドカインを分子標的とする癌の診断と治療について,最近の話題を紹介する. -
神経系におけるミッドカインの働き−神経疾患の治療に寄与できるかどうかの検討
230巻4号(2009);View Description Hide Descriptionミッドカインは神経栄養因子活性をもつ成長因子として発見された.その後,ラット実験的脳梗塞周囲虚血巣で急性期に発現が認められたことから,神経栄養因子として実際に投与し,神経障害を軽減できるのではないかと考えられた.スナネズミ前脳虚血により海馬CA1神経細胞は脱落するが,その脱落を側脳室直前投与で抑制できた.また,虚血再開通モデルでも側脳室直前投与で脳梗塞体積を縮小できた.アデノウイルスにマウスMK cDNAを挿入した遺伝子治療でも脳梗塞で有効であった.坐骨神経損傷では脊髄前角運動神経細胞で損傷急性期と3週後にMK mRNAとMK蛋白が認められ,坐骨神経軸索にも対応して認められた.受容体がSchwann細胞に認められ,軸索 Schwann細胞のクロストークに関係しないか検討中である.MKは神経終末にも存在し,アセチルコリン受容体のclusteringに影響している.シナプスの強化保持にも関与しているのではないかと考えられた. -
心血管イベントとミッドカイン
230巻4号(2009);View Description Hide Descriptionヘパリン結合性成長蛋白ミッドカイン(MK)と心血管疾患との関係を各種動物実験モデルで検討した.虚血性心筋障害では,急性期においてMKのもつ抗アポトーシス作用による障害抑制効果が示された.慢性期ではMK投与により心筋梗塞領域周囲の血管新生が促進され,心機能低下の予防効果が認められた.血管新生は下肢虚血モデルにおいてもMK投与により亢進し,虚血下肢の壊死・切断の予防効果が認められた.MKの心筋保護作用については,非虚血性の慢性心筋障害に対しても有効な治療効果が認められた.血管狭窄に関してはMKによる新生内膜肥厚の亢進を認め,MKが動脈硬化や血管拡張術後再狭窄に深く関与していることが示された.MKを利用した心筋保護,血管新生,血管狭窄予防などを目的とした治療法の開発が期待される. -
炎症性疾患とミッドカイン−炎症細胞移動のメカニズム:各種腎障害,膠原病,血管狭窄の動物モデルを通じて
230巻4号(2009);View Description Hide Description虚血や薬剤によって引き起こされる急性腎障害(尿細管質障害),糖尿病性腎症による慢性腎障害,膠原病(関節リウマチ)や血管の新生内膜形成など,さまざまな炎症性疾患に対してミッドカインがどのように病態形成に関与するかを動物モデルで確認した.ミッドカインは,炎症部位へのマクロファージや好中球などの白血球移動を直接的に促進させ,また,炎症細胞を移動させる機能をもつケモカインの発現を増加させることで間接的に炎症細胞の移動を促進させた.ミッドカイン遺伝子欠損マウスを用いた解析では,局所への炎症細胞数は減少し,これらの疾患の症状を軽減させることも確認された.治療あるいは予防効果を確認するために,ミッドカインに対するアンチオリゴセンスDNAにより局所的にミッドカインの発現を減少させることで,炎症細胞の浸潤や障害の程度が軽減した. -
急性腎障害とミッドカイン−鋭敏な急性腎障害マーカーとしての尿中ミッドカイン
230巻4号(2009);View Description Hide Description近年,心血管術後やICU管理下の患者のみならず入院患者全般で,これまで問題としなかったわずかな血清クレアチニンレベルの上昇が患者死亡に大きく寄与することが認識され,急性腎不全(acute renal failure:ARF)から急性腎障害(acute kidney injury:AKI)へのパラダイムシフトをきたした.AKIの急激な腎機能の低下は尿細管上皮細胞の先行した機能的・構造的障害に起因していることが明らかとなり,より早期に腎障害を診断して治療することの重要性が強調されている.しかし,血清クレアチニン値の上昇に基づく現在のAKI診断では診断時点ですでに治療介入のタイミングを逸していることが多く,より鋭敏なバイオマーカーの開発が急務となっている.ミッドカインはおもに腎虚血障害時に近位尿細管での発現亢進がみられ,AKIの鑑別診断,早期診断に有用なバイオマーカーとして期待される. -
高血圧・新規RAS活性化物質としてのミッドカイン−ミッドカインを介した肺・腎クロストーク
230巻4号(2009);View Description Hide Description慢性腎障害において高血圧はよく合併するが,腎障害と高血圧発症の詳細なメカニズムの解明はまだなされていない.成長因子のひとつであるミッドカインは発生,発癌,炎症などでの関与が研究されてきたが,新規RAS活性化物質として,生活習慣病のひとつである高血圧の発症に重要であることが確認された.慢性腎臓病では心腎臓器連関が注目されているが,ミッドカインを介した“肺・腎クロストーク”の重要性が明らかになり,あらたな疾患概念が提案され,またミッドカインを標的にした高血圧および慢性腎臓病のあらたな治療戦略が展開される可能性がでてきた. -
血中・尿中ミッドカイン測定系
230巻4号(2009);View Description Hide Description体液中のミッドカイン(MK)が測定可能となればMKの生理機能の解明にヒントが得られるのでは.そのような考えのもとに著者らはMK測定系の開発に取り組んだ.MKファミリー(MKとpleiotrophinで構成)ではその蛋白質のアミノ酸配列は種を超えて広く保存されている.そのためか,MK抗原をウサギに免疫し,ポリクローナル抗体の作製を試みたが,なかなか抗体価の高いポリクローナル抗体は得られなかった.そこで,当時まだ一般的でなかったニワトリに免疫することで突破口を求めた.幸運にもニワトリMK抗体はあたかもモノクローナル抗体のように作用した.さらに,One step EIAに組み上げることで2時間以内に測定作業を終了可能とすることができた.こうして完成したヒトMK EIAは,癌をはじめ多くの疾患とMKとの関係を定量的に考察できる道具となった.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち91
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TOPICS
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- 免疫学
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- 形成外科学
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連載
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- 医師のための臨床統計学18
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統計的推測の基礎(8)推定論1
230巻4号(2009);View Description Hide Description未知パラメータを推定するためのデータの関数が推定量であり,その統計的性質を測る評価基準が正確性と精密性そして頑健性である.有限サンプルで期待値が真値に一致する(バイアスがない)ことが不偏性であり,サンプルサイズ無限大で推定量が真値に確率収束することが一致性である.精密性は通常は分散で評価され,平均2乗誤差はバイアスの2乗と分散の和で定義される.不偏な推定量のなかで分散最小となるものが一様最小分散不偏推定量であり,分散の下限はFisher情報量の逆数で与えられる.
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注目の領域
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「院内事故調査委員会」についての論点と考え方
230巻4号(2009);View Description Hide Description院内事故調査委員会は法と医療の矛盾が表れる場所である.このため,ときに委員会そのものが,二次的紛争を惹起する.本来,院内事故調査委員会は,当該病院内部の医療事故や有害事象についての科学的認識をめぐる自律性の確立と機能の向上を理念とすべきである.考え方の基本を,過去の規範の実現をめざす法ではなく,実情の認識に基づき自ら学習して知識や技術を進歩させて問題に対応する医療に置くべきである.自らの拠って立つ基盤が確立されると,外部からの働きかけへの対応が安定し,院内事故調査委員会をめぐる混乱の解消につながる.本稿では,院内事故調査委員会をめぐって実際に生じた問題を踏まえつつ,論点と考え方を整理した.今後も,想定されていない新たな問題が生じる可能性がある.院内事故調査委員会の活動は,実情をしっかり踏まえて,結果として社会にもたらす影響を,社会の多数の構成員にとって好ましいものにすることをめざすべきである.
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