医学のあゆみ
Volume 230, Issue 6, 2009
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あゆみ ファーマコゲノミクス 個別化医療と薬剤感受性
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医薬品開発においてゲノム薬理学の利用を促進するための審査当局側の最近の取組み
230巻6・7号(2009);View Description Hide Descriptionゲノム薬理学(phamacogenomics)の医薬品開発への応用については近年,いくつかの成果が得られつつあるが,より現実化させるためには治験における当該技術の利用を促進し,得られたエビデンスを具体的に添付文書などに反映していく必要があり,規制当局との連携が必要と考えられる.本稿では承認審査を行う立場から,ゲノム薬理学に関連する最近の取組みを紹介し,今後の展望について私見を述べることとしたい. -
Personal genome時代の到来
230巻6・7号(2009);View Description Hide Description今日の“個の医療(personalized medicine)”は,2001年のヒトゲノム解析の成功がそれを後押しし,アメリカの医薬品食品局(FDA)は速やかに薬の評価にその成果を導入すべく,5年をかけて関係する諸団体と協議を進め,Pharmacogenomics oriented Guidanceを導入してきた.新薬の開発における医薬品と診断(Rx/Dx)の同時開発を基本として,疾患のゲノム情報(おもに遺伝子多型:SNPs)に基づく層別化を推奨している.この究極のゴールには,ヒトそれぞれの遺伝子情報(Personal genome)がある.NIH(NHGRI)はそれに呼応してHuman Genome Sequencingを1,000ドルで可能にすべく,そのための技術開発を提案してきた.2009年,もうすでに数万ドルでそれが可能という段階に到達している. -
薬物トランスポーターのファーマコゲノミクス 基礎研究から臨床応用への新展開
230巻6・7号(2009);View Description Hide DescriptionヒトゲノムDNA塩基配列解析が完了し,それに伴い個々の遺伝子多型に基づく個別化医療の実現が期待されている.とくに,薬物の標的・薬物代謝酵素,薬物トランスポーターなどの遺伝子多型を調べて薬の副作用や体内動態,薬理効果および副作用の可能性を予測することは,個別化医療の実現において必須条件である.これまで著者らは,薬物輸送に関与するヒトABCトランスポーターの一塩基多型(SNP)変異体を培養細胞にひとつひとつ発現させて機能解析を行い,臨床上重要と思われるSNPを選択してきた.そして高速かつ簡便な遺伝子多型診断技術を開発し,臨床現場で薬物トランスポーターおよび薬物代謝酵素のSNPを調べて個別化医療に応用する段階に突入した.ヒトABCトランスポーターABCB1(P-/MDR1)をひとつの例として,薬物トランスポーターのファーマコゲノミクスにおける基礎研究から臨床研究への進展プロセスを紹介する. -
感染症における個別化医療の現状と展望―薬物耐性遺伝子と抗菌薬
230巻6・7号(2009);View Description Hide Description感染症における抗菌薬耐性の機序に遺伝子レベルの変化があり,それらの解析も進み,病原微生物の抗菌薬耐性の有無を遺伝子検査で判定できる場合がある.しかし実臨床の現場では,耐性の有無の判定に関しては遺伝子検査ではなく培養法による感受性試験がほとんどである.ただし,ヘリコバクターピロリ(H.pylori)感染に関しては,クラリスロマイシン耐性遺伝子検査に基づく個別化療法の成果が報告されはじめており,感染症領域におけるゲノミクスの応用に関しては今後の発展が期待される. -
精神科領域の個別化医療の現状と今後
230巻6・7号(2009);View Description Hide Description近年,わが国において高頻度に認められるうつ病をはじめとする精神疾患は,患者の健康のみならず社会全体に大きな負担をもたらしているのは周知の事実である.あらたな治療薬の登場により各精神疾患における薬物療法は大きく進歩したが,どの疾患にも,適切な用量および投与期間においても良好な治療反応が得られない患者や副作用の発現する患者の数は少なくない.客観的評価指標の乏しい精神科領域において,あらかじめ治療反応が予測でき,早期症状改善につながるあらたな指標の獲得は重要である.近年このような反応性の個体差においては,遺伝学的要因が何らかの役割を果たしているであろうとの仮説に基づき,薬理遺伝学的手法は個別化適正治療に重要なツールであると大きく注目され,盛んに研究されている.本稿ではうつ病,統合失調症,てんかんの薬理遺伝研究の現状を概説し,今後の個別化医療を展望する. -
循環器疾患の薬物治療におけるゲノム薬理学の現状
230巻6・7号(2009);View Description Hide Description科学的に洗練された薬物適正使用を可能とするためには,大規模臨床試験により集団から得られたエビデンスを個々の患者に適用する必要があり,ファーマコゲノミクス研究が果たす役割は大きい.近年,クロピドグレル有効性とCYP2C19,ワルファリン投与量とCYP2C9およびVKORC1,心不全治療におけるβ遮断薬反応性とβ1アドレナリン受容体,スタチン誘発性横紋筋融解症とSLCO1B1など,遺伝子多型により薬物反応性・副作用発現の個人差が予測可能であるという報告があいついでいる.今後,個々の薬物治療に関して,遺伝子型情報の有用性をprospectiveに検証する必要がある. -
ファーマコゲノミクス検査:From bench to bedside 検査システムの開発と標準化
230巻6・7号(2009);View Description Hide Description薬物反応性の個体差に影響する遺伝子多様性に関する研究の成果は,薬物の治療反応性や副作用の指標となるファーマコゲノミクス(pharmacogenomics:PGx)検査の開発と実用化(from bench to bedside)をもたらした.一方,PGx検査の開発から実用化,および適正な利用と普及においてさまざまな課題があり,とくに精度保証または標準化の取組みが急務となっている.PGx検査システムの開発は,標準化の視点から分析的妥当性,とくに測定前プロセス(検体品質管理)の重要性を認識し,臨床的妥当性および臨床的有用性を視野におく必要がある.その成果として,有用な検査システムの実用化を促進するとともに,適正利用と普及につながると考えられる.
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フォーラム
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TOPICS
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- 癌・腫瘍学
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- 神経精神医学
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- 感染症内科学
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連載
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- がん診療連携拠点病院にみる工夫 レベルアップをめざして9
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外来化学療法室から緩和病棟,地域医療機関までのスムーズな連携をめざして 東京女子医科大学がんセンターの試み
230巻6・7号(2009);View Description Hide Descriptionがん患者やその家族の希望は多様で,画一的な対応では患者側の満足が得られないことが多い.東京女子医科大学では診断から看取りまでの切れ目のないがん医療の提供をめざし,全学的組織としてがんセンターを設立した.今後がん医療には,医師のみならず看護師・薬剤師・臨床心理士・ケースワーカー・栄養士など,さまざまな分野の専門職種が組織横断的にがん患者をサポートする,いわゆるチーム医療の導入が不可欠である.さらに,年々増加する一方のがん患者に高いレベルのがん医療を提供しつづけるためには,地域連携の確立にも積極的に取り組んでいかなければならない.