医学のあゆみ
Volume 230, Issue 10, 2009
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【9月第1土曜特集】消化管癌Update ─ 研究・診断・治療・予防の進歩
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- 消化管癌発生メカニズム
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消化器癌におけるゲノム異常研究の現況─単一遺伝子変異から全ゲノム包括的変異解析への道
230巻10号(2009);View Description Hide Description癌のゲノム異常についての研究は,1. 染色体レベル変異,2. 増幅・欠失・転座・逆位,3. 点突然変異解析,がこれまで独立して進んできたが,近年これらを統合した包括的解析が志向されるようになってきた.また,機能的には単一遺伝子変異解析から遺伝子ファミリー解析に向かい,さらに全発現遺伝子を対象とした包括的変異解析へと進んできた.1人の癌患者組織には70個ほどの遺伝子変異が蓄積されていること,そのなかには癌化を積極的に推進する15個程度の遺伝子が存在し,それらは各種機能的パスウェイを破綻させる原因であることがわかってきた.さらに,発癌に至る遺伝子変異蓄積の系時的な変化についても概要がわかりはじめている. -
DNAメチル化と消化器癌
230巻10号(2009);View Description Hide DescriptionDNAメチル化はヒストン修飾と関連し,エピジェネティックな遺伝子発現調節の重要な機構である.DNAメチル化が起こる分子機構に関しては不明な点が多いが,H.pyloriによる慢性炎症やEBウイルスなどの感染の関与が示唆される.DNAメチル化による癌関連遺伝子の不活化は消化器癌におけるWNTやRasシグナルの活性化を介して細胞増殖や抗癌剤耐性を引き起こす.また,マイクロRNAのメチル化による不活化は癌遺伝子の活性化を引き起こす.DNAメチル化の異常はランダムに起こるのではなく,メチル化の制御機構が破綻して起こると考えられる.DNAメチル化は癌特異的な変化であり,便や胃洗浄液からのDNAメチル化検出は新しい癌の分子マーカーとして期待される. -
miRNAと消化器がん
230巻10号(2009);View Description Hide Descriptionがんは,さまざまな要因で誘発される遺伝子発現の質的および量的変化が蓄積することで誘発される.最近,がんの発生・成立過程における遺伝子発現の転写後制御,あるいは翻訳制御機構の重要性が指摘されてきた.microRNA(miRNA)は約22塩基からなる機能性non coding RNAで,3′非翻訳領域に自身の配列と部分相補的な配列を有するmRNAと相互作用して,標的mRNAの分解促進あるいは翻訳抑制を介して,遺伝子発現の転写後制御に関与する.miRNAの発現は高い臓器特異性およびがん組織特異性を示し,標的配列に相同性のある複数の遺伝子群を標的とすることで,細胞増殖や細胞周期に対して強い作用を及ぼすことから,がんに特異性の高い,より有効な治療薬への応用が期待される.同時に,血液等の体液中に存在するがん特異的なmiRNAを定量的に評価することにより,特異性の高いがんの早期診断薬としての可能性も期待される. -
炎症と発癌
230巻10号(2009);View Description Hide Description消化器癌では“炎症”が発癌の母地になることが知られている.一方,発癌にはさまざまなジェネティック,エピジェネティックな変化が誘導されるが,その誘導機序は不明である.著者らは,炎症や感染によってNF-κBが活性化され,その結果,遺伝子編集酵素AIDが発現し,それがさまざまな遺伝子変異や染色体不安定性を誘導して発癌に関与することを明らかにした.一方,“炎症”は同時にメチル化などエピジェネティックな変化も誘発する.これらに加えて“炎症”はmicroRNAの動態にも影響を及ぼす可能性があり,これら三者が相互に関連しあって発癌に関与するものと考えられる. -
腸管上皮幹細胞と大腸癌幹細胞─研究最前線
230巻10号(2009);View Description Hide Description生体内で非常に速い細胞回転を有する特異な組織である腸管上皮細胞のホメオスタシス維持機構の全容がしだいに明らかになりつつある.古くからホメオスタシス解明の大きな鍵であった腸管上皮幹細胞に関しての研究の進歩がめざましく,ホメオスタシス維持におけるWntシグナルの重要性の理解を背景にして,巧みな遺伝子操作技術と新規の腸管上皮初代培養法による腸管上皮幹細胞の極めて明確な存在証明がなされ,あらたな幹細胞のマーカー分子が示された.また,近年の幹細胞研究の進歩がもたらした癌幹細胞の概念が,さまざまな固形腫瘍のみならず,大腸癌でも展開されはじめており,異種移植実験による大腸癌幹細胞の存在証明・分子マーカー同定の報告がみられたり,癌幹細胞と正常幹細胞の関係性に関する非常に興味深い報告も出るなど進歩が著しい領域である.本稿では,腸管上皮幹細胞・大腸癌幹細胞に関する研究の最前線を総括して紹介する. - 消化管癌診断
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消化管癌の分子生物学的診断の現況
230巻10号(2009);View Description Hide Description病理診断は,良悪性の鑑別から腫瘍の確定診断,予後因子,治療への指針に関与する.ときに炎症性疾患の診断や炎症の程度も診断する.これらの病理診断の形態変化を知るうえでの基礎となるのが遺伝子異常への理解である.遺伝子異常は蛋白異常をもって生体に反映される.日常では免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC)が一般的である.本稿では消化管癌である食道癌,胃癌,大腸癌,潰瘍性大腸炎関連腫瘍について,免疫組織学的診断を中心にHE染色と対比し,概説するが,免疫組織化学が有効であった具体例として,潰瘍性大腸炎における癌化高危険群絞り込みの方法として,非腫瘍粘膜におけるエストロゲンレセプター(ER)のメチル化の維持に関係するDNA methyltransferase 1(DNMT 1)の高発現がIBD cancerの拾い上げに応用可能な例を示す. -
消化器癌の内視鏡診断─消化器癌診断における拡大・画像強調内視鏡の今日,そして未来
230巻10号(2009);View Description Hide Description現在,消化器癌の内視鏡診断に関するランダム化前向き研究が欧米およびわが国を中心に積極的に行われ,科学的に優れたエビデンスがつぎつぎと報告されている.また2008年には,内視鏡診断学の用語を体系化したproposalがわが国から『Endoscopy』誌に報告された.本稿では拡大内視鏡および画像強調内視鏡に焦点を絞り,現在の消化器癌の内視鏡診断学の科学的根拠をreviewするとともに,今後の展望について述べたい. -
ダブルバルーン内視鏡(DBE)による小腸腫瘍の診断
230巻10号(2009);View Description Hide Description従来,深部小腸の内視鏡像は術中内視鏡あるいはプッシュ式内視鏡のみでしか得られず,小腸腫瘍性病変に関する内視鏡の形態診断学は確立していなかった.しかし,ダブルバルーン内視鏡(DBE)の登場により全小腸観察が可能となり,小腸腫瘍性病変の内視鏡像に関しても,小病変を含めたさまざまな症例が集積されることでその特徴が明らかになってきた.DBEによる小腸腫瘍性病変の診断は粘膜下腫瘍の割合が高いため生検で確定診断がつかないことも多く,病変の表面性状,色調,硬さ,超音波内視鏡像などから総合的に診断する必要がある. - 消化管癌治療
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消化管癌に対する内視鏡治療の適応と進歩
230巻10号(2009);View Description Hide Description外科的治療がなされた早期消化管癌の詳細な検討からリンパ節転移の可能性のきわめて低くなる条件が明らかとなり,早期消化管癌に対する内視鏡治療は適応拡大の方向に向かっている.内視鏡治療は内視鏡的粘膜切除術(EMR)が長く中心であったが,病変が大きくなり分割切除となると詳細な組織病理学的検討が不十分となる.近年,内視鏡的粘膜下層 /離術(ESD)の手法が開発され,サイズにかかわらず病変の一括切除が可能となった.ESDは胃,食道においてはすでに保険収載されている.大腸においても標準化に向けて検討がなされている.今後はカプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡(DBE)の登場で,小腸における早期癌の発見だけでなく,DBEによる小腸の内視鏡治療も増加していくことが推測される.また,DBEは手技的に難易度の高い大腸ESDにも有用である. -
消化器癌治療へのNOTESの適応と限界
230巻10号(2009);View Description Hide DescriptionNOTESの臨床報告例を中心にreviewし,NOTES臨床応用の現状をまとめ,現時点での適応と限界について考察した.NOTESの臨床応用は2004年にRaoとReddyらが行った経胃的虫垂切除術が最初で,2007年から本格的に行われるようになった.これまでに論文報告されているNOTESによる臨床応用は,腹腔内観察,胆 *摘出術,虫垂切除術,胃局所切除術,PEG再造設時のレスキュー,内視鏡的全層縫合術,S状結腸切除術,腎摘出術である.わが国ではNOTES関連手技を含め17例の臨床応用がNOTES研究会に登録されている.大部分の臨床応用例は腹腔鏡鉗子の補助を利用したHybrid NOTESで行われ,合併症の頻度は低いものの通常の腹腔鏡手術に比べて手術時間は1 2時間長い.十分にNOTES研究やトレーニングを行った先進施設が症例を選択して臨床応用しているのが現状である.しかし,新しい機器・技術開発は着実に進んでおり,今後の展開が注目される. -
消化器癌腹腔鏡手術の最新トピックス
230巻10号(2009);View Description Hide Description2000年代になり,消化器癌に対する腹腔鏡手術が急速に普及してきた.標準的な外科治療として位置づけるには,ランダム化比較試験(RCT)による高いエビデンスが望まれる.消化器癌では腹腔鏡手術と開腹手術のRCTは大腸癌で数多くみられ,結腸では腹腔鏡手術の有用性が証明されてきている.また,胃癌でも小規模ながらRCTが行われており,早期胃癌では低侵襲性と腫瘍学的な同等性が期待されている.外科手術のRCTの結果は外科医・患者に有益な情報を提供するが,研究デザインによってはその解釈には注意を要する. -
食道癌の外科的治療の変遷と集学的治療
230巻10号(2009);View Description Hide Description食道癌は消化管癌のなかでもっとも難治性の癌である.外科的切除においては,上縦隔,頸部の反回神経周囲を中心とした徹底したリンパ節郭清のほか,頭頸部癌の合併,食道内癌多発,上皮内伸展などに留意した術前精査,治療方針の決定が重要である.当教室で行われた食道切除1,000例を振り返ると治療成績は徐々に向上し,現在では50%以上の症例で手術により根治が得られるようになった.一方,食道癌は化学療法,放射線にも感受性が高い.術後補助療法はリンパ節転移陽性例に再発予防効果を認めた(JCOG9204).さらに無作為比較試験(JCOG9907)の結果を受け,今後,術前化学療法が標準的治療になる可能性が高い.近年,切除可能な食道癌に対しても根治的化学放射線療法が行われ,その成績が手術に匹敵するとの報告もあるが,再発や遺残に対して行われるサルベージ(salvage)手術や晩期毒性の面で課題を残している. -
大腸癌の外科治療・集学的治療
230巻10号(2009);View Description Hide Description大腸癌に対する癌化学療法は,オキサリプラチン,イリノテカンなどの新規抗癌剤や,ベバシズマブ,セツキシマブなどの分子標的薬の開発により奏効率は向上し,切除不能大腸癌の生存期間中央値はほぼ2年に達する.これら薬剤を外科手術と組み合わせる集学的治療法も,欧米での無作為化試験からあらたなエビデンスが創出されている.術後補助化学療法としてステージIIIの進行大腸癌症例では,オキサリプラチンを用いた補助化学療法が有意に無再発生存率・全生存率を向上させることが明らかになった.また,肝転移巣切除の際の術前・術後化学療法が有効であることも明らかになった.今後,外科治療と癌化学療法を組み合わせる集学的治療は,適応や分子標的薬との組合せなど,さらなるエビデンスを構築していくことが重要であると考える. -
胃癌の標準的化学療法(一,二次治療) ─新規抗癌剤の評価を中心に
230巻10号(2009);View Description Hide Description切除不能または再発胃癌に対する化学療法は新規薬剤の登場により生存期間の延長が示され,フルオロウラシルに対して経口薬であるS 1やカペシタビンの非劣性,シスプラチンに対するオキサリプラチンの非劣性が示されている.現時点で世界的にコンセンサスの得られている標準的なレジメンは,フッ化ピリミジン+プラチナ(+エピルビシンまたはドセタキセル)の2剤または3剤併用療法である.これらをリファレンスアームとして分子標的薬の上乗せを検証する臨床試験が進められている.HER 2陽性胃癌を対象として化学療法とトラスツズマブの併用を検証したToGA試験では,トラスツズマブ併用群において有意な生存期間の延長が示された.胃癌においてはじめて分子標的薬の有効性が示されたとともに,胃癌においても個別化治療の時代の幕開けを告げるエポックメイキングな結果となった.新規薬剤の速やかな評価には世界規模での臨床試験が必要である. -
大腸癌の分子標的療法
230巻10号(2009);View Description Hide DescriptionFOLFOX,FOLFIRIに代表される大腸癌の化学療法は今世紀に入り急速な進歩を遂げた.この延長線上に開発された分子標的治療薬は,近年の欧米の大規模な臨床試験によってその有効性,抗腫瘍作用における“上乗せ効果”が証明され,切除不能,再発大腸癌のグローバルな標準治療として認知されるようになってきた.わが国でも2006年にbevacizumab(アバスチン),2008年にcetuximab(アービタックス)が認可され,一般臨床で広く用いられるようになってきた.しかし一方で,これらの分子標的治療薬は,特異的な有害事象も多く認められること,“上乗せ効果”は“驚くほど”の差異ではないこと,また特定の集団にのみに認められること,さらにきわめてコスト高であること,などが報告されており,これらの情報を正確に把握したうえで実際の治療にあたる必要があると思われる.“品格”のある癌治療が望まれる. -
GISTの分子標的治療
230巻10号(2009);View Description Hide Description消化管間質腫瘍(GIST)はいま,もっとも注目される疾患である.それは分子生物学の進歩からGISTの腫瘍化機序が明らかとなり,その腫瘍化に密接に関連する分子を標的とした分子標的治療薬が驚異的な臨床効果を示すことが明らかにされたからである.GISTのKITには遺伝子変異があり,変異KITはリガンド刺激なしに自己リン酸化,自己増殖能を獲得していることが明らかにされた.BCR ABL融合蛋白キナーゼを標的として開発されたイマチニブが,チロシンキナーゼであるKIT活性も強く抑制することが明らかとなり,アメリカ,ヨーロッパ,わが国で臨床試験が進行し,高い臨床効果と安全性が確認され,わが国でも保険承認が得られている.早期に臨床試験が開始されたB2222試験の6年間の長期生存率は50%以上であり,有効な治療法がなかったGIST患者にとって大きな福音である.イマチニブの抗腫瘍効果はKIT変異に依存し,その解析は重要な予測因子となる.2年目以降に腫瘍が増大する耐性GISTの出現も明らかになってきたが,耐性克服薬としてのスニチニブの有効性が確認されている. - 消化管癌予防
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ヘリコバクター・ピロリ除菌による胃癌予防
230巻10号(2009);View Description Hide Descriptionヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)の感染した胃粘膜は持続性の炎症細胞浸潤があり,胃粘膜萎縮や腸上皮化生を伴っていることから,胃癌の発生しやすい母地ができていると考えられる.実験動物を使用した成績や疫学的研究からも,H.pylori感染と胃癌のかかわりが明らかになってきた.除菌により胃癌の発生が予防できるかどうかに大きな関心が集まっていたが,わが国からの大規模臨床試験により,除菌による胃癌の発生の予防効果が明らかにされた.この結果をどのように医療政策に生かして胃癌を撲滅させていくかがこれからの課題であろう -
大腸がんスクリーニングの現状と課題
230巻10号(2009);View Description Hide Description大腸がん検診は,便潜血検査(FOBT)の有効性が複数のランダム化比較試験などで確立しており,わが国の免疫法便潜血検査によるスクリーニング法が感度が高く食事制限もいらないことから,世界的にも標準法となりつつある.つぎは大腸がん死亡率減少の実現が目標であり,海外で行われているorganized screeningが唯一エビデンスのある検診体制である.その骨子は,有効性を前提に,品質保証(quality assurance:QA)の手法で徹底的に精度管理して行うというものである.精度管理上の大腸がん検診の問題点は,精検受診率が低いことをはじめ,精度管理水準が低いことである.最近の検診実施体制の評価指標の作成や,検診達成度の評価指標であるプロセス指標の数値目標の設定など,わが国ではこれまで欠如していたQAの導入により大腸がん検診の質の向上が期待される.FOBT以外の検診法にはきちんとしたエビデンスはまだなく,今後,その有効性評価研究が求められる. -
肥満と消化管癌のリスク
230巻10号(2009);View Description Hide Description最近の疫学調査の成績を中心に,肥満が消化管癌に与える影響について概説する.わが国では食生活をはじめとする生活習慣の欧米化により肥満者が増加しているが,多くの報告をみると,肥満は大腸癌,食道腺癌,胃噴門部癌の有意な危険因子であることはほぼ間違いない事実と考えられる.よって肥満を是正することは,これら消化管癌の発症を予防することにつながる可能性がある.しかし,これまで報告された疫学研究の多くは欧米の成績であり,わが国における肥満と消化管癌の関係についてその詳細を把握するには,さらなる研究成果の蓄積が必要である. - 最新の規約・ガイドライン情報
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食道癌診断・治療ガイドラインを考察する
230巻10号(2009);View Description Hide Description2007年,食道癌診断・治療ガイドライン第2版が出版されている.診断については癌の進行度診断(深達度,リンパ節転移,臓器転移),病巣特性,全身状態の評価を加え,患者の同意を得て治療方針が決定される.治療については内視鏡的治療(EMR,ESD・他),外科治療(占居部選別),術前治療,術後治療,化学療法,放射線療法,化学放射線治療について方向性が示された.治療後の経過観察,再発時の治療,緩和医療,食道癌治療のアルゴリズムも記載された.食道癌のガイドラインも医学の進歩に合わせて改訂が必要で,エビデンスレベルの低い事項については学会でのコンセンサスが重要である.RCTがすべて正しいエビデンスとはいえず,また,外国のものがそのまま日本のエビデンスとはならないし,ガイドラインは研究的治療を規制するものではない.治療方針の決定がもっとも難しく,かつ,重要である. -
胃癌取扱い規約と胃癌治療ガイドラインの改定に向けての動向
230巻10号(2009);View Description Hide DescriptionTNM分類の改定に合わせて胃癌取扱い規約の改定作業が進められている.基本的には,N因子を解剖学的な局在から転移個数により決定することや深達度をより細かくするなど,基本的にはTNM分類に歩み寄る方向で検討が進められている.また,ガイドライン的な部分を規約から胃癌治療ガイドラインに移行することが決定され,ガイドライン3版の改定作業も同時に進められている.今後,規約は10年に1回程度の見直しで十分であるが,ガイドラインについては出版物に限らず,Web上で最新の知見をもとにした改定が行われるようになると考えられる. -
大腸癌取扱い規約と大腸癌治療ガイドライン
230巻10号(2009);View Description Hide Description大腸癌取扱い規約は大腸癌を診断・治療する際に,その所見を記載する方法を定めたものである.これまでに版を重ね,2006年に第7版が発行された.第7版のおもな特徴としては,これまでのものと比較し,国際標準であるTNM分類に近いものとなったことである.たとえば,それまでリンパ節転移の程度は転移陽性リンパ節の部位のみで決まっていたが,転移個数も加味されるようになった.一方,大腸癌治療ガイドラインは2005年にはじめて出版された.医師用2005年版では,大腸癌治療の際の標準的な治療法や術後サーベイランス法について述べられている.今後,大腸癌治療の進歩とともに随時改訂される予定である. -
GIST診療ガイドライン─ガイドラインに則したGISTの診断と治療指針
230巻10号(2009);View Description Hide Description消化管間質腫瘍(GIST)は,KITという細胞膜蛋白質を発現する消化管の筋肉層に発生する腫瘍である.術前,生検による診断は難しく,術後の病理診断ではじめてGISTと診断されることが多い.原則,悪性の肉腫と考えられ,診断がつけば治療の対象である.治療の第一選択は外科切除で,切除不能・再発時には分子標的治療薬イマチニブの投与が勧められる.イマチニブは約8割の進行GISTに有効で,その予後を画期的に改善したが,治療の継続とともに耐性が起こる.イマチニブ耐性GISTに対しては,スニチニブを含めた集学的治療が必要である.これら新しい診断や治療法の確立に伴い,一般医療者向けの診療ガイドラインが提示されている.本稿では,ガイドラインに基づいた最新のGISTの診断と治療を紹介する.
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