医学のあゆみ

病理学的に急性尿細管壊死の組織像を示すAKIにおいて，間質への炎症細胞浸潤は組織障害進展および修復を考えるうえで重要な因子である．虚血障害に伴うAKIでは，好中球，マクロファージあるいはリンパ球といった炎症細胞浸潤が，一定の時系列に従って浸潤する．これらの炎症細胞にはそれぞれ特徴的なサブセットの存在が示唆されており，経時的な病態変化を理解するうえで重要である．また，これら炎症細胞浸潤は細胞内シグナル伝達およびケモカイン・サイトカイン発現といったメディエーターの経時的反応により制御されている．このような一連の“炎症カスケード”の詳細を知ることは病態解明だけでなく，診断や治療を考えるうえでも重要である．

急性腎不全（ARF）は，尿量低下あるいは急速な血清クレアチニン濃度の上昇が生じる結果としての病態としてとらえることができる．それに対して急性腎障害（AKI）は尿量減少や血清クレアチニン上昇の徴候が出現する前に生じる腎（とくに尿細管上皮細胞）の形態，機能障害を定義した新しい疾患のとらえ方である．その原因は細胞障害と虚血障害に大きく大別される．その病態を腎微小循環からの面からみると，細胞障害は尿細管上皮細胞に障害が生じ，その結果として尿細管周囲毛細血管障害が起因される．また，虚血障害は尿細管上皮を栄養する尿細管周囲毛細血管の微小循環障害によって生じる．すなわち，尿細管周囲毛細血管微小循環障害は，急性腎不全の前に生じるAKIの病態を直接にすばやく反映する．著者らは腎微小循環をリアルタイムに観察定量化するシステムを開発し，とくにAKIの責任血管である尿細管周囲毛細血管血流のイメージングの面からその病態を解析報告している．本稿では，虚血によって生じるAKIにおける尿細管周囲毛細血管血流障害について述べる．

腎は，ミトコンドリア（mt）が脳に次いで豊富な臓器である．また，その形態が脳と腎では異なることが示唆されてきた．これはおそらく，たがいの臓器のおかれているレドックス環境が異なることから，mtでの活性酸素種（ROS）産生やそれに対する防御のメカニズムが異なるためではないかと想定される．また，慢性疾患との関連では，血管内皮細胞のmtへの閾値より低い刺激が加わり続けることで，臓器特異的または病態特有なmtの機能変化が生じ，細胞内シグナル伝達系の変化や，細胞死の状況が異なってくる．本稿では，mtにおける酸化ストレスのハンドリング，急性腎障害を中心とした病態とその制御の可能性について，近年解明されてきた知見をもとに概説する．

急性腎傷害（AKI）の原因となる疾患・病態は単一ではなく，さまざまな因子が複雑に絡みあって発症・進展する．AKIの原因を鑑別することは治療の選択および予後の推定には必須であり，腎生検は，その原因や腎機能低下にかかわる病態の把握，腎傷害の病期や重症度，予後の推定に有用な検査法となる．とくに血管性や糸球体性のAKIや間質性腎炎によるAKIでは治療に著効する症例も多く，積極的な腎生検による診断を行う．AKIの主要な成因である急性尿細管傷害（ATI）の場合は全身状態が悪く腎生検を行えないことも多いが，原因が不明確で，予想される臨床経過と異なる場合や予後の推定のために腎生検を行う場合もある．腎生検の所見と，各症例の背景となる病態，詳細な臨床経過・臨床所見を統合して迅速に的確な診断を行い，治療に反映させる必要がある．

急性腎障害（AKI）は重症患者に多く発生する合併症であるにもかかわらず，つい最近までコンセンサスの得られた診断基準が存在せず，他の臓器障害や症候群に比べ研究・治療が遅れていた．そんななか，2004年にAcute Dialysis Quality InitiativeによりAKIの診断基準としてRIFLE criteria（Risk，Injury，Failure，Loss，Endstagekidney disease）が発表された．また，その3年後にはAcute Kidney Injury Networkにより，わずかなクレアチニンの上昇も予後と関連することを示した研究結果を踏まえ，RIFLE criteriaを改良したAKIN criteriaが作成された．今後，これらの診断基準を使用した臨床研究，とくに多施設研究が行われ，AKIの予防法や予後を改善する早期治療法が発見され，臨床応用につながることが期待されている．

急性腎障害（AKI）に対する新しいバイオマーカーの開発意義は，できるかぎり早期に発症リスクを精度よく診断すると同時に，ICUにおける限られた医療資源やマンパワーを効率よく集約的治療に振り分けることにある．複数の尿バイオマーカーを組合せ＝パネル化することにより，効率的なAKI診断治療ガイドラインを確立し，医療経済学的にもその有用性を実証する必要がある．各バイオマーカー候補には，尿中安定性，正常範囲の規定，日内変動，性差，共存物質や加齢による影響が調べられているかなど，測定系として高い標準化達成度が求められる．

間葉系幹細胞（MSC）と急性腎障害（AKI）に関しては多くの研究がなされている．とくに動物のAKIモデルに対して，外因性MSCを投与すると腎障害が劇的に軽減することがあいついで報告され，腎再生医療の分野ではMSCが大きな注目を集めている．その作用機序に関しては，1. MSCが腎構成細胞に分化するという直接作用説と，2. 腎保護作用のある因子を分泌するという間接作用説とが提唱されている．米国ではMSCをAKI予防目的で投与する臨床試験がすでに開始されている．今後のさらなる発展が期待される．

臨床におけるヒト急性腎障害（AKI）の病態は非常に複雑であり，時間的・空間的に異なる局面から複数の要因が病態形成に関与している．それに対して培養細胞やAKI動物モデルを用いた基礎研究が精力的に行われているが，AKIの全体像はいまだ完全には捉えられておらず，血液浄化療法以外の画期的なAKI治療法は臨床応用されるに至っていない．AKI動物モデルはこの数十年で確立された感があるが，ヒトAKIの複雑性を再現すべくさらなる改良が必要であろう．培養細胞や単純な動物モデルもAKIにおける新たな病態を解明する際には有用である．複数のAKIモデルを用いて多方面からの検討を行うことで，画期的なAKI治療戦略が生みだされることを期待したい．

地域がん診療連携拠点病院は，2007年4月に施行された“がん対策基本法”の目標である“がんで死亡する人の20％減少”を実現させるための核として活動することを期待されている．拠点病院としての指定要件では，1. 診療体制，2. 研修体制，3. 情報提供体制を整備することが明記されている1）．指定された病院がすべて条件を満たしているわけではなく，多くの施設ではがん診療連携拠点病院の整備指針を参考に体制を整えているのが現状である．本稿では当院の現状と取組みの一部を提示する．