医学のあゆみ
Volume 231, Issue 4, 2009
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あゆみ 最新のCOPD治療 − 大規模臨床試験の結果から
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COPD治療薬の大規模臨床試験− overview
231巻4号(2009);View Description Hide DescriptionCOPDの臨床試験のエンドポイントは,当初は気管支拡張効果から自覚症状や運動耐容能,QOLの改善であったが,その後,急性増悪の抑制効果が示され,近年は,それらに加えて呼吸機能の経年的低下抑制や死亡率の抑制までをもめざすものとなってきた.最近報告されたUPLIFT試験とTORCH試験という2つの大規模臨床試験の結果を中心に,これまで行われた臨床試験の流れと,その結果の解釈および注意点について総括した. -
COPDにおける早期治療介入の有用性を示したチオトロピウムの長期大規模臨床試験− UPLIFT Study
231巻4号(2009);View Description Hide Description2008年に発表された長期大規模臨床試験,UPLIFTや2009年5月に開催されたアメリカ胸部学会で発表されたUPLIFTのサブ解析の結果から,COPDを早期に発見し,禁煙やチオトロピウムを中心とする薬物療法による積極的な早期治療介入を行うことによりCOPDの自然歴を変え,COPDの進展を予防できる可能性がでてきた.COPDの管理目標のなかで,薬物療法のエビデンスとして労作時呼吸困難の緩和,運動能力の改善,QOLの向上,増悪の頻度や重症化の予防効果が認められていた.UPLIFTの発表後では従来のエビデンスに死亡率の減少効果が示され,さらに中等症のCOPDでは病状の進行を予防できる可能性や,心不全などの心循環系疾患などの併存症の予防効果も示された.COPDにはUPLIFTで証明されたように,作用と副作用に注意しながらチオトロピウムのような長時間作動型気管支拡張薬をしっかりとベースに使い,他の薬剤を上乗せしていく薬物治療による積極的な早期介入の有用性が明らかとなったと考えられる. -
サルメテロール/フルチカゾン配合剤の大規模臨床試験− TORCH試験などの結果
231巻4号(2009);View Description Hide Description近年,長時間作用性β2刺激薬(LABA)/吸入ステロイド(ICS)の配合剤がCOPDにも用いられるようになり,さまざまな効果が報告されている.本稿では,サルメテロール(SAL)/フルチカゾン(FP)配合剤(SFC)のCOPD治療における位置づけについて述べる. -
吸入ステロイドはCOPD治療に必要か−効果的な症例は?
231巻4号(2009);View Description Hide DescriptionCOPDの薬物治療で望まれるのは,COPDの基本病態である肺局所の炎症を改善し気流閉塞の進行を抑制すること,さらに近年強調されている全身性の炎症とCOPDの併存症の進行を抑制し改善することである.そして治療の安全性と継続性が確保されることである.吸入ステロイド(ICS)は気管支喘息の根本的病態である気道炎症を改善し,治療の第一選択薬である.一方,COPDでは炎症の性質が異なり,気管支喘息ほど効果は期待できない.しかし,臨床試験の症例背景の詳細な解析や層別解析の成績,気管支喘息の要素を合併したCOPDに対する効果,などを検討することによって,ICSのCOPDに対する効果と適応症例が明らかになってくる. -
COPD治療にβ2刺激薬をいかに使用すべきか
231巻4号(2009);View Description Hide Descriptionβ2刺激薬は気管支拡張作用だけでなく,好中球性の気道炎症に対する抗炎症効果もあり,増悪を予防する.これらの効果は吸入ステロイドとの併用により増強される.また,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)との併用,さらにLAMAに加えて吸入ステロイド薬との併用による3剤にて呼吸機能のさらなる改善のみならず,入院を要する増悪を減らし,QOLを改善させることが示されている.以上より長時間作用性β2刺激薬は,長期管理薬として症状に合わせてLAMAや吸入ステロイドと併用して使用する.一方,短時間作用性β2刺激薬は,労作を行う前にassist useとして使用することによって息切れやQOLを改善させることから,増悪時や安定期の呼吸困難の回避に使用されるのが妥当と考えられる. -
COPD治療における去痰薬の意義
231巻4号(2009);View Description Hide DescriptionCOPD患者の管理においては,安定期の病態をリハビリテーションを含む内科的治療により最大限に改善させることと同時に,増悪を抑制することが重要である.COPD患者を対象とした大規模臨床試験において増悪抑制という観点で統計学的に有意差を示しているのは,古くは閉塞性換気障害が重症のCOPD患者における吸入ステロイド薬である.最近の臨床試験において増悪抑制が示されたのは,1. 2007年のTORCH Study(吸入ステロイド薬+長時間作用型吸入β2刺激薬),2. 2008年のUPLIFT Study(長時間作用型吸入抗コリン薬),3. 2008年のPEACE Study(喀痰調節薬カルボシステイン)である.喀痰調節薬であるカルボシステインは,去痰作用のみにより増悪抑制に有用であったのではなく,抗炎症作用・抗オキシダント作用という,去痰作用を超えた作用機序によりCOPDの増悪抑制に有用であったと推定される. -
COPD臨床試験解釈の注意点−結果をどう臨床に生かすのか?
231巻4号(2009);View Description Hide Description近年,COPD治療に用いられる薬物の改良,すなわち薬効の長時間作用型化,吸入デバイス改良,配合剤化などがなされた.こうした薬剤の進歩に伴い,COPDに対する薬物介入の大規模試験もこの10年で盛んに行われ,長時間作用型気管支拡張薬(抗コリン薬およびβ2刺激薬)が症状の大きな改善効果を示すとともに,増悪頻度を抑制することが明らかとなった.吸入ステロイドも重症以上の患者で増悪を抑制し,長時間作用型β2刺激薬/吸入ステロイド配合薬や長時間作用型抗コリン薬はCOPD患者の死亡率も低下させる可能性まで示した.こういった大規模試験の結果はCOPD患者への積極的医療介入のよび水となり,これまでのCOPDの過小診断・治療は改善されつつある.しかし,大規模試験の多くはプラセボ比較試験であり,実際の医療状況(real world)を反映しない可能性もある.また,試験以前の治療歴も結果に影響すると考えられる.こういった点を加味しながら大規模試験の結果を臨床に反映していく姿勢が重要である.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち94
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- 逆システム学の窓28
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チェルノブイリ原発事故から甲状腺癌の発症を学ぶ−エビデンス探索20年の歴史を辿る
231巻4号(2009);View Description Hide Description“エビデンス”という言葉が臨床研究で用いられる.だがチェルノブイリ原発事故が甲状腺癌を増加させるというコンセンサスをつくるのに20年かかった歴史は忘れてはいけない.チェルノブイリの健康被害の研究に国際的に関わられた長崎大学名誉教授の長滝重信先生に,その20年の歴史と教訓をお聞きした. 第一は,安易な“エビデンス”論への疑問である.アメリカ型の多数例を集めるメガスタディを行ってもエビデンスとはならず,その地域における疾患の全体を長年をかけて網羅的に把握することのみがコンセンサスを得るエビデンス発見法であったことである. 第二は,ある原因での疾患の発症は特定の時間経過でのみあらわれ,すぐ消えていくため,注意深い観察が必要である.我々の想像を上回る長い時間の経過が関わり,対策の求められているその瞬間には「エビデンスはない」ということがしばしば起こる事である. 逆システム学の見方でいえば,「統計より症例報告」という法則が重要である.多数例の軽微な変化より,極端なしかし端的な特徴をもつ少数例を現場でつかむことが,同時代の患者のために役立つ情報をもたらす可能性が強い.エビデンスがないということは,証明不能を語るだけで,因果関係の否定ではない.エビデンスを確立するには多数例の長い時間が必要であるため,短期においてはある地域に従来みられない特殊な患者が現れた時に即時に対応することが重要である,例えばベラルーシに1991年,肺転移を伴う小児の甲状腺乳頭癌が次から次とみられた.これらの患者から次第にRETプロトオンコジーンの変異が見つかったということが,実はチェルノブイリ事故と甲状腺癌をつなぐ“同時性”をもったエビデンスであり,甲状腺発癌のダイナミズムを教えてくれるサインだったのである. - グローバル化時代の漢方3
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 薬理学・毒性学
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- 腎臓内科学
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連載
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- 医師のための臨床統計学21
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統計的推測の基礎(11)推定論4
231巻4号(2009);View Description Hide Description反応変数の観測値とその予測値間の残差平方和を最小とするようにモデルパラメータを推定する方法が最小2乗法である.誤差が独立同一の正規分布に従う場合には,最小2乗法は算術平均の一般化であり,最尤法に一致する.データをn(オブザベーションの数)×p(変数の数)の行列と考えると,最小2乗法はn次元空間でのピタゴラスの定理として幾何学的に理解でき,また式の数が過剰で不能な線型方程式と理解することも可能である.正規線形モデルは医学統計で頻用されるロジスティック回帰,ポアソン回帰などを含む一般化線形モデルに拡張される.