医学のあゆみ
Volume 231, Issue 7, 2009
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あゆみ 新しい糖尿病治療 − インクレチン療法の可能性をさぐる
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インクレチンの概念と研究の歴史− GIPとGLP-1の発見から糖尿病治療への臨床応用に至るまで
231巻7号(2009);View Description Hide Description2型糖尿病に対するあらたな治療戦略として,インクレチンとよばれる消化管ホルモンが注目されている.インクレチンは食事摂取に伴い消化管から分泌され,膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンの総称で,1906年にその概念が提唱され,今日に至るまでGIPとGLP 1の2つのホルモンがインクレチンとして機能することが確認されている.GIPとGLP 1は血糖依存的にインスリン分泌を促進するため,低血糖のリスクが低く,安全に高血糖を是正することが可能である.さらに,GIPやGLP 1は2型糖尿病患者で減少した膵β細胞数を増加させインスリン分泌能を回復させる可能性も秘めている.とくにインスリン分泌障害を主体とするわが国の2型糖尿病患者では,他民族と比較してインクレチンの働きを利用した薬剤,すなわちインクレチン関連薬の奏効する例が多く,今後,わが国の2型糖尿病治療を革新するものと確信する. -
インクレチン分泌機構
231巻7号(2009);View Description Hide Description非常に古くから知られ長年にわたって研究されてきたインクレチンであるが,その分泌機構が分子レベルで解明されてきたのは最近になってからである.これまでに,膵β細胞と共通した分子機構を有する可能性が報告されていた.その背景には両者に共通して発現する転写因子による分子機構制御の存在が示唆される.しかし他方で,腸管上皮で管腔側という“外界”に面するという点では膵内分泌細胞と大きく異なる.この腸管内分泌細胞ならではの環境に即したインクレチン分泌機構の存在が近年つぎつぎと明らかとされてきている.とくにこの1,2年の研究の進歩には特筆すべきものがある.本稿ではこれらの最近の知見とともに,膵内分泌(β)細胞との相同性と相違性の観点から,腸管内分泌細胞とそのインクレチン分泌機構についてを概説した. -
糖尿病治療薬のあらたな標的としてのcAMPセンサーEpac2
231巻7号(2009);View Description Hide Description糖尿病治療に用いられるさまざまな血糖降下薬のなかで,インスリン分泌を刺激するスルホニル尿素(SU)薬がもっとも広く使用されている.これまでSU薬の標的分子として,膵β細胞膜上に存在するSU受容体(SUR1)が唯一知られていた.最近著者らは,膵β細胞内でcAMPによって活性化されるEpac2と結合する分子を探索していたところ,偶然にSU薬がEpac2と結合することを発見し,さらにEpac2欠損マウスではSU薬によるインスリン分泌作用や血糖降下作用が明らかに減弱することを見出した.これらの研究から,Epac2がSU薬のあらたな標的であることが明らかとなった. -
インクレチンのインスリン抵抗性改善作用
231巻7号(2009);View Description Hide Descriptionインクレチン物質であるGLP 1とGIPは,一般にはインスリン分泌促進作用を介し血糖降下作用を有するとされる.GLP 1の主作用はインスリン分泌促進によるとされるが,同じインスリン濃度に保ってもグルカゴン分泌抑制や腸管運動抑制効果により血糖は抑制され,インスリン抵抗性が改善しているように観察できる.一方,グルカゴンを一定にして考えると,生理的にはGLP 1が直接に膵外作用としてインスリン感受性を変化させる可能性は低い.長期において,中枢への食欲抑制作用によりインスリン抵抗性を改善する可能性がある.GIPはグルカゴン分泌抑制作用がなく,2型糖尿病患者に直接投与しても逆に血糖は上昇する.GIPは肥満を助長させるため,逆に作用を抑制することでインスリン抵抗性改善が期待できるかもしれない.GLP 1アナログ製剤やDPP 4阻害薬により,インスリン抵抗性改善が観察される. -
インクレチンの多彩な膵外作用
231巻7号(2009);View Description Hide Descriptionもともと食後のインスリン分泌を促進する消化管因子と考えられたGIPとGLP 1は,膵外にもその受容体があり,膵外作用を発揮する.GIPは脂肪・カルシウムといった栄養素を蓄積させる作用があるが,GLP 1は食欲抑制,心筋保護などの作用がある.GIPの膵外作用は生理的な濃度で発揮されるが,GLP 1の膵外作用は高濃度が必要で現時点では薬理作用と考えられる.2種類のインクレチン,膵作用と膵外作用,生理作用と薬理作用をおさえることで,インクレチン薬の薬効が理解できる. -
糖尿病治療におけるインクレチン療法の可能性−臨床応用の概略
231巻7号(2009);View Description Hide Descriptionインクレチン関連薬にはGLP 1作動薬(インクレチンミメティク)とDPP IV(dipeptidyl peptidase IV)阻害薬(インクレチンエンハンサー)がある.2型糖尿病患者のほとんどがこれらの薬剤のよい適応となると考えられる.インクレチン関連薬の特徴は,既存の薬物では限界のあった低血糖リスク,体重増加,食後高血糖,食事摂取量の増加などを抑えることができることであり,GLP 1作動薬は膵β細胞の保護・再生が期待できる.前糖尿病状態や糖尿病発症初期の患者に使用することで,2型糖尿病の発症予防や病態進展の遅延に寄与することが考えられる.国内では現在開発中あるいは承認申請中であるが,海外ではすでに一部の製剤が上市され,臨床成績が蓄積されている段階である.これらインクレチン関連薬は,今後の糖尿病の治療戦略を変貌させる可能性を秘めた抗糖尿病薬である. -
インクレチンミメティックス:GLP-1受容体作動薬
231巻7号(2009);View Description Hide Descriptionインクレチン関連薬にはGLP 1受容体作動薬およびDPP 4阻害薬が存在する.GLP 1受容体作動薬は糖尿病治療において従来から知られている“インクレチン作用”に加え,グルカゴン分泌抑制作用,膵β細胞に対するアポトーシス抑制作用,肝におけるグルコース産生抑制作用,脂肪,骨格筋細胞におけるグルコース取込み促進作用,さらには動物実験のみでしか証明されていないが,β細胞増殖促進,分化・新生誘導作用など,マルチポテンシャルな作用を有しており,あらたな糖尿病治療薬として期待されている.もっとも開発が進み,すでに海外で承認されているGLP 1受容体作動薬にはエクセナチドおよびリラグルチドがあり,わが国でも申請中である.これらの登場で糖尿病治療はあらたな時代を迎えるといっても過言ではない. -
インクレチンエンハンサー:DPP-4阻害薬
231巻7号(2009);View Description Hide Descriptionブドウ糖反応性のインスリン分泌を促進することで知られているインクレチンを利用したあらたな糖尿病治療が,まもなく日本でも開始可能となる.インクレチンは摂食時に分泌される腸管ホルモンであり,インスリン分泌促進作用をもつのみならず,膵β細胞の増殖や新生の促進,グルカゴン分泌の抑制,中枢を介した食欲の抑制など,血糖値を下げるために有利な作用をもっている.しかし,DPP 4という酵素の働きによって生体内で数分のうちに活性が消失してしまい,その作用は持続しない.欧米で,DPP 4作用を抑制してインクレチンの作用を持続させ血糖値を改善させる内服可能な糖尿病治療薬としてDPP 4阻害薬が開発され,臨床に用いられている.2型糖尿病治療において単独投与のみならず,メトホルミンやチアゾリジン誘導体との併用でも有効性が確認されており,新しいジャンルの糖尿病治療薬として期待されている.
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- がん診療連携拠点病院にみる工夫− レベルアップをめざして13
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大阪府立成人病センターにおけるがん拠点病院としての取組み
231巻7号(2009);View Description Hide Description2008年3月に示された“がん診療連携拠点病院の整備に関する指針”における診療体制のなかで,「5大がん及びその他各医療機関が専門とするがんについて,手術,放射線療法及び化学療法を効果的に組み合わせた集学的治療及び緩和ケアを提供する体制を有するとともに,各学会の診療ガイドラインに準ずる標準的治療等がん患者の状態に応じた適切な治療を提供すること」と表記されている1).標準的治療を提供することは医療者として当然のことであるが,新規薬剤が続々と承認されているなかで,これらの薬剤を効果的かつ安全に一般臨床に迅速に取り入れていなければ標準的治療を提供しているとはいえず,また,そのためには医療関係者の不断の努力が必要である.さらに,情報化社会にあって患者のニーズは多様化しており,さまざまな人生観をもつ患者に対して一律に標準的治療では対応できない場面が多いことも事実である.そういう場面でこそ,さまざまな職種のサポートが必要であり,チーム医療の重要性は増す.当センターの体制はいまなお不十分ではあるが,がん拠点病院としての現状と各職員の努力の過程を示したい.
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速報
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