医学のあゆみ
Volume 232, Issue 3, 2010
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あゆみ 歯周医学(Periodontal Medicine) − 歯周病と全身疾患
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総論─歯周病と全身疾患
232巻3号(2010);View Description Hide Description歯周病は歯周ポケット内の細菌バイオフィルムが原因となって発症する慢性炎症性疾患であることから,その病態は歯周病原菌の持続的感染とそれに対する生体防御とのバランスにより決定される.そのため,歯周病原菌に対する生体防御機能を減弱させるような全身疾患を有する患者では,歯周病の発症や進行のリスクが高くなると以前より考えられてきた.一方,歯周病原菌と宿主の免疫・炎症反応との相互作用が解明されるに従い,歯周病が種々の全身疾患のリスク因子のひとつとなり,全身の健康を脅かす可能性が示唆されている.近年,歯周病と全身との相互関係を双方向的に解明する歯周医学(Periodontal Medicine)とよばれる新しい学問領野が創出され,今後のこの分野におけるさらなるエビデンスの集積が期待されている. -
歯周病と糖尿病
232巻3号(2010);View Description Hide Description近年,糖尿病の合併症として歯周病の病態がしだいに解明されてきた.また,内臓脂肪蓄積 炎症論を軸としたメタボリック・シンドロームに対する病態解明が進み,歯周病は糖尿病単独の合併症というよりも,肥満が密接に関連したメタボリック・シンドロームの合併症としてとらえられるようになった.また,逆に歯周病が軽微な慢性炎症として,糖尿病やメタボリック・シンドロームの病態に影響を及ぼすことが明らかにされつつある.歯周病が糖尿病の病態を修飾する機序について,炎症論を軸として著者らの研究を中心に述べる.著者らは,糖尿病患者における歯周病感染がインスリン抵抗性の亢進,CRPの上昇,頸動脈の内膜中膜複合体の肥厚あるいはアルブミン尿に関係することを明らかにした.これらはいずれも虚血性心疾患に対する危険因子であり,歯周病が動脈硬化の進行促進因子となる可能性を示すものである.これらの知見を踏まえ,今後の歯周医学の展望について論じる. -
歯周病と早産・低体重児出産−歯周病が及ぼす影響はどのくらいあるか
232巻3号(2010);View Description Hide Description厚生労働省の平成17年度歯科疾患実態調査結果によると,妊娠可能年齢の女性の7 8割が歯周病であり,そのうち10 20%は歯周組織の破壊が進んだ“重度歯周炎”に罹患していると報告されている.歯周病は細菌感染症であり,中等度から重度歯周炎患者の歯周ポケット壁の表面積を合計すると55 72 cm2になるといわれている.このような広い範囲に慢性炎症が続いていることからも,歯周病が全身に何らかの影響を及ぼす可能性が指摘されている.そのような状況のなかで,歯周病が早産・低体重児出産に影響する可能性が近年の研究報告により明らかにされつつある.疫学研究からは関連性を支持する報告が多く,歯周治療によって早産・低体重児出産率が改善されることも明らかになっている.本稿では現在までに明らかにされた歯周病と早産・低体重児出産の関連性について,代表的な報告を踏まえながら概説する. -
歯周病が心血管系疾患に及ぼす影響
232巻3号(2010);View Description Hide Description動脈硬化症をおもな原因とする心筋梗塞や狭心症などの心血管系疾患は,わが国における死因の第二位を占める.動脈硬化症の主要な危険因子は脂質代謝異常と考えられてきたが,近年,慢性炎症が病変の発症進行にきわめて重要な影響を及ぼしていることが明らかになってきた.この慢性炎症性変化を誘導するのが感染症であり,Chlamydia pneumoniae,Helicobacter pylori,Cytomegarovirusなどに加えて,歯周病原細菌Porphyromonasgingivalis,Aggregatibacter actinomycetemcomitansが関与すると考えられている.これまでの報告によれば歯周疾患は,コホート研究,横断研究,症例対照研究のいずれにおいても,冠動脈疾患のリスクを高めることが明らかになっている.これら疫学調査のデータに加えて動物実験,in vitro実験の結果から,歯周病原細菌感染と動脈硬化症のリスクは単なる相関ではなく,両者の間に因果関係の存在することが明らかになってきた. -
歯周病と骨粗鬆症に関する潮流から
232巻3号(2010);View Description Hide Description閉経後骨粗鬆症において,歯周炎の進行過程におけるエストロゲン分泌の低下による影響が明らかになりつつある.また,骨粗鬆症治療による全身の骨代謝への影響と同時に,局所の歯周炎の進行を抑制できる可能性がホルモン補充療法,ビスホスホネートやサプリメント投与において報告されてきている.一方で,ビスホスホネート服用患者における抜歯などの処置による難治性の顎骨壊死の可能性も示唆されている.他方,閉経後骨粗鬆症患者は骨折を起こすまで自覚症状がないため,医科を受診する機会が少ないが,そうした潜在的骨粗鬆症患者の歯科における骨粗鬆症スクリーニングの有用性は明確であり,医科 歯科連携をはかることがよりいっそう大切である. -
歯周病と腎臓病との関連
232巻3号(2010);View Description Hide Description腎機能が低下するにつれて歯周病が増悪する傾向がある.とくに腎機能不全のため人工透析を行っている患者では,歯垢や歯石の著しい沈着を伴う重度の歯周病がみられる.腎臓病患者に発現する骨代謝異常所見は口腔内にも認められ,歯槽骨吸収への関与が考えられる.重度の糖尿病患者では糖尿病腎症,人工透析,腎移植へと病歴が移行するが,それに呼応して歯周病も悪化する.糖尿病腎症患者では糖尿病と腎機能障害という複数因子の影響を受け,さらに人工透析に至った患者では糖尿病の長期化や骨代謝異常という因子が加わって,それぞれに歯周病が悪化する傾向が強い.また,腎移植患者ではシクロスポリンやニフェジピンによる薬物性歯肉増殖症の発現と歯周病の進行が懸念される.このように,腎臓病と歯周病には深い関連があり,腎機能不全患者(おもに人工透析患者)には専門的な口腔ケアと歯周病治療を行う必要性がある. -
歯周病と誤嚥性肺炎
232巻3号(2010);View Description Hide Description超高齢社会を迎え,誤嚥性肺炎に対する対応を考えることは医療のみならず介護の現場でも重要な課題である.誤嚥性肺炎は,飲食物のみならず分泌物や胃の内容物を誤嚥(吸引)することにより引き起こされるが,一般的に病院や施設に入所する高齢者はきわめて口腔衛生状態が悪く,歯がある場合は多くの場合,歯周病に罹患している.また,義歯がある場合も義歯の衛生管理がなされていないのが実状である.この傾向は世界の先進諸国において共通のものである.しかし近年,口腔衛生状態を改善し,歯周病の改善をはかることによって誤嚥性肺炎予防の可能性を示唆する研究結果がだされた.これは100年前にアメリカの内科医,Osler博士が言った「肺炎は老人の友(老人にとって肺炎は避けられない)」という概念を覆すきっかけとなるかもしれない. -
歯周病とライフスタイル
232巻3号(2010);View Description Hide Description近年,歯周病のリスクファクターに関する研究により,ライフスタイル要因のいくつかが強い歯周病リスクを示すことが明らかにされてきた.とくに,喫煙については多くの疫学研究により因果関係が明らかにされ,歯周病の最大のリスクファクターといわれている.著者らの一連の研究でも,喫煙の歯周病リスクは2以上のオッズ比を示し,また,生涯喫煙量と歯周病リスクの間にも量 反応関係が認められ,喫煙の歯周病に対する集団寄与危険割合も39%と高値を示した.受動喫煙についても歯周病リスクに対するオッズ比は2.9と有意の値を示した.また,過度の飲酒も歯周病のリスクになることが示されており,とくに,ALDH2遺伝子型がヘテロタイプで過度の飲酒をするヒトは歯周病のリスクが高いことを明らかにした.そのほか,栄養・食生活の要因やストレスなども歯周病のリスクになるといわれている.したがって,歯周病予防には感染症対策だけではなく,生活習慣病対策としてライフスタイルの改善に努めることが有効である.
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フォーラム
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- 感染症法と保険診療4
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- 宗教と医学6
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TOPICS
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- 消化器内科学
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- 循環器内科学
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- 臨床検査医学
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連載
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- がん診療連携拠点病院にみる工夫− レベルアップをめざして19
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大阪赤十字病院における化学療法の標準化への取組み─複雑化する大腸癌化学療法への当院での対応
232巻3号(2010);View Description Hide Description再発進行大腸癌に対する化学療法は,この十年間でめざましい進歩を遂げて患者にとってきわめて有効な治療となっているが,一方でポート管理の必要性や分子標的薬などの登場により治療内容や副作用が多様化したため,医師だけでの対応は困難な状況となっており,チーム医療の必要性が重要視されている.大阪赤十字病院では外来通院治療センターを中心とした化学療法の均てん化と安全な施行に取り組んでおり,患者治療に貢献することが可能な状況となっている.また補助化学療法においても,地域連携パスの導入により隙間のない外来治療をめざしている.地域の中核としての総合病院という側面と,地域がん診療連携拠点病院という側面の両面を生かした形でのがん治療の均てん化をめざした過程を本稿で述べた.