Volume 233,
Issue 1,
2010
-
【4月第1土曜特集】気管支喘息Update
-
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 1-1 (2010);
View Description
Hide Description
-
喘息の疫学
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 5-12 (2010);
View Description
Hide Description
わが国の喘息の累積有症率は年々増加し,とくに小児の有病率の増加は社会問題となっている.この傾向は世界的なものであり,その原因の解明が望まれる.喘息治療ガイドラインや吸入ステロイドの普及など治療の進歩により,近年入院患者や喘息死は減少傾向が続いている.わが国の喘息死の数も順調に減少し,2008年は2,348人と2,500人を切った.しかし,60歳以上の高齢者が喘息死の90%を占め,今後高齢者の喘息死を減少させる対策の実行が望まれる.
-
最新の喘息ガイドラインのポイント
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 15-18 (2010);
View Description
Hide Description
新しく改訂された2009年のガイドラインJGL2009について概説する.改訂のポイントは以下のとおりである. 1.成人喘息は治癒しないことを前提に,喘息のコントロール良好の維持を目標としている. 2. JGL2009の段階的薬物療法は,治療の強弱をもとにした治療ステップによる. 3.長期管理薬の中心は吸入ステロイドで,全治療ステップで使用が推奨される. 4.無治療で受診している患者では重症度を判定し,該当する治療ステップを選択する. 5.治療中の患者では,コントロール良好かどうかを判定して治療を調整する. さらに新薬として新しい吸入ステロイド(ICS),ICSと長時間作用性吸入β2刺激薬の配合剤,アレルギー性の最重症持続型に適応となる抗IgE抗体などが加わっている.喘息死ゼロ達成の鍵となる高齢者喘息についても慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療が提示された.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 19-24 (2010);
View Description
Hide Description
日本小児アレルギー学会は2000年以来,小児気管支喘息治療・管理ガイドラインを刊行して,ほぼ3年ごとに改訂を重ね,小児気管支喘息の標準的な治療を推奨してきた.この間に小児喘息のコントロールの向上はめざましく,喘息死はひとけたになり,発作入院も激減した.いまだ課題は残るが,つぎの改訂2011年版でさらなる発展が望まれる.本稿では小児喘息に特異的な部分に焦点を当てて,いくつかのポイントを概説した.診断においては,乳幼児期に頻度の多い反復喘鳴症候群のなかから,いかに治療すべき喘息を同定するかがまず重要になる.急性発作の治療では,わが国の小児喘息で特徴的である重症発作に対するイソプロテレノール持続吸入療法に触れた.長期管理の基本は抗炎症療法である.吸入ステロイド薬を中心とするが,軽症の乳幼児ではロイコトリエン受容体拮抗薬なども第一選択とできる.アレルゲン回避の環境整備,受動喫煙防止など増悪因子への対応も重要である.
-
喘息の発症・進展に関する最近の知見
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 27-31 (2010);
View Description
Hide Description
ヒトゲノムプロジェクトの完成,超高速遺伝子解析手法・網羅的遺伝子発現解析手法の開発,Hap-Mapプロジェクトの完成を背景に,SNPs全ゲノム相関解析研究(GWAS)なども可能となり,喘息および関連表現型に関する感受性遺伝子検索が進展し,日々あらたな成果が報告されている.同時に,多因子性疾患かつcommondiseaseである喘息感受性遺伝子探索の難しさも明らかになり,遺伝子-環境相互作用(gene-environmentinteraction),遺伝子-遺伝子相互作用(gene-gene interaction),表現型の多様性などを考慮する必要性が理解されるようになってきた.本稿では最近の喘息関連遺伝子検索の現況を概観するとともに,その研究成果ならびに今後の課題について考察したい.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 32-36 (2010);
View Description
Hide Description
気管支喘息の治療の第一選択は吸入ステロイドであり,これまで,発症早期に導入することによって(earlyintervention:早期介入),その臨床効果が異なるとされてきていた.しかし今回,成人中等症気管支喘息患者に対する高容量吸入ステロイドによる早期介入は,診断から2年以上経過してから吸入ステロイドを開始した群と10年後の呼吸機能,気道過敏性,ピークフロー,10年間の入院歴,最近7年間の医療費,最近1年間の気管支拡張剤の使用および気管支喘息の重症度などのいずれにおいても有意差を認めなかった.このことは,診断早期から高容量吸入ステロイド治療を開始しても効果の少ない要素が気管支喘息の病態にあり,それが長期的な呼吸機能低下を誘導することを示唆している.一方,アレルギー疾患発症予防に向けた取組みが進んできている.舌下免疫療法による吸入抗原特異的なトレランスの誘導の治験がはじまっており,経過がおおいに期待される.
-
喘息の病態メカニズムに関するトピックス
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 39-45 (2010);
View Description
Hide Description
気道上皮細胞は,生体防御機能とともに気管支喘息をはじめとする気道炎症発生にも関与する.Gene-environmentalinteractionは気管支喘息の発生機序として重要であり,さまざまな外的因子に対する反応性と,反応性を規定する因子,疾患感受性を解析することは病態の理解と治療戦略上,重要である.本稿ではこの点を踏まえて,最近の話題を中心に解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 46-49 (2010);
View Description
Hide Description
好酸球性気道炎症は気管支喘息の病態の特徴であり,好酸球はこの疾患の重要なエフェクター細胞と考えられてきた.しかし近年,抗IL-5抗体が喘息患者の血液中および喀痰中の好酸球数を減少させるのに,肺機能,気道過敏性,遅発反応のいずれも抑制しなかったことから,その重要性に疑問を呈する意見もあった.その後,抗IL-5抗体使用後も組織中には長期に好酸球が残存していることが示され,現在では気道の好酸球増加が上皮下基底膜層の肥厚(気道リモデリング)や喘息の増悪に寄与すると考えられている.一方,好中球性気道炎症は,健常人においてオゾン誘発の気道過敏性獲得時に気道への好中球浸潤を認めることから,気道の生理学的変異,喘息の発症に寄与している可能性がある.また,気道への好中球増加は,夜間喘息,near-fatal発作症例や気流障害の強い重症喘息患者で認められる.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 50-55 (2010);
View Description
Hide Description
喘息気道リモデリングとは,炎症などによって起こる組織反応の結果,本来の気道組織とは異なる形態変化,つまり,1.気道上皮細胞の杯細胞化,2.上皮粘膜下および基底膜網状層への細胞基質の沈着,3.気道平滑筋の肥大と増生,4.気管支粘膜下腺の増大,5.血管新生,が起こり,気道壁の肥厚と内腔の狭窄・拡張が起こることである.CT像では気道壁の肥厚像として見える.中等症喘息より重症のほうが気道平滑筋の量は多く,喘息発症年齢が若いほど,罹患年数が長いほど,その程度が強くなる.吸入ステロイド薬やロイコトリエン受容体拮抗薬によってリモデリングを短期的に抑制することができるが,臨床的に満足できる水準にはならない.その原因とのひとつとして,喘息発作を起こす原因抗原や刺激がわずかでも存在すると,たとえば筋線維芽細胞が短時間中に遊走してリモデリングが進行する.抗原を含め環境整備を十分行ったうえでの治療薬による喘息コントロールが治療に必要な条件である.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 56-60 (2010);
View Description
Hide Description
気道粘液過分泌は喘息の特徴的病態のひとつであり,咳,喘鳴,呼吸困難などの誘因となる.さらに,重症発作では過粘稠な粘液栓を形成し,その気流閉塞が喘息重積状態,ひいては喘息死の原因となりうる.この過分泌病態には過形成化した杯細胞でのムチンMUC5ACの発現増強と分泌亢進が関与する.MUC5AC遺伝子発現はIL-13経路を中心に調節されており,近年,同経路と協調してムチン発現に関与するさまざまな分子や受容体(EGFR,FOXA2,CLCA,HIF-1)の存在が明らかになってきた.一方,杯細胞からのムチン分泌は,MARCKS蛋白を介した細胞内情報伝達系により制御されている.また,杯細胞の抗アポトーシスが気道リモデリングからの回復を困難にし,過分泌病態の病的維持に関与することがわかってきた.粘液過分泌機序の解明は重症難治性喘息の新しい治療ターゲットの発見につながるものとして期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 61-65 (2010);
View Description
Hide Description
好塩基球はマスト細胞と機能的に類似した細胞であり,アレルギー性炎症のエフェクター細胞と考えられてきた.しかし,近年のマウスを用いた研究から,ある種の慢性アレルギー性炎症においては好塩基球が炎症の誘導や持続に中心的な役割を果たしていることが明らかにされた.また,著者らはヒト培養好塩基球がIL-16やM-CSFの産生細胞であり,IgE依存性刺激によってこれらのサイトカインを遊離することを証明し,好塩基球がTh2を介した免疫アレルギー反応を増強したり,またマクロファージを介して血管新生やリモデリングを促進する可能性を報告した.好塩基球はアレルギー性炎症の場において,免疫アレルギー反応を誘導あるいは調節する重要な細胞として機能しているかもしれない.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 66-72 (2010);
View Description
Hide Description
樹状細胞(DCs)は,樹状突起を有する抗原提示細胞(APCs)であり,通常型樹状細胞(cDCs)と形質細胞様樹状細胞(pDCs)に大別される複数のサブセットから構成される.樹状細胞は定常状態では制御性T(Treg)細胞が関与する免疫寛容を誘導する制御細胞として免疫学的恒常性の維持に重要である.一方,炎症状態では樹状細胞は自然免疫と獲得免疫をつなぐもっとも強力な抗原提示細胞として,さまざまなエフェクターT細胞を誘導して免疫系を賦活する.本稿では樹状細胞と制御性T細胞について概説するとともに,著者らの樹状細胞による制御性T細胞を介したアレルギー性喘息の制御に関する知見を紹介する.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 73-78 (2010);
View Description
Hide Description
気管支喘息の病態には,IL-4,IL-5,IL-9,IL-13などのサイトカインが重要な役割を担っている.これらのサイトカインは細胞膜上の受容体に結合し,受容体が活性化すると,JAK/STATやRas/ERKなどのシグナルが働くことにより応答遺伝子発現を変化させ,サイトカインの作用が発現する.この正のシグナルに加え,生体には複雑なシグナルの抑制機構が存在する.JAK/STAT系の抑制因子のひとつにSOCS分子がある.生体では正のシグナルと負の抑制機構とのバランスが巧妙に制御されており,バランスの破綻がアレルギー反応の病態や持続に関与している.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 79-81 (2010);
View Description
Hide Description
1980年代に免疫応答の質の制御機構としてTh1/Th2バランスが提唱された.2000年になって,Th1やTh2とは異なるThサブセットとして,IL-17をもっぱら産生するTh17がはじめて報告された.それぞれ,T-bet,GATA-3,RORγ(tヒトではRORC)をマスターレギュレーターとしてナイーブT細胞から分化し,特定のケモカインやケモカイン受容体を発現している.Th17の分化誘導には樹状細胞(dendritic cells:DC)との相互作用とともに,TGF-βならびにIL-6の存在が必須である.IL-23は誘導後の増殖や寿命延長に関与している.生理的には自己免疫性炎症ならびに細胞外微生物に対する生体防御に関与するとされる.ヒトにおいては多発性硬化症,関節リウマチのみならず,好中球性気管支喘息との関連が指摘されている.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 83-89 (2010);
View Description
Hide Description
内因性あるいは外因性に生じる活性酸素種(ROS)や活性窒素種(RNS)を十分に処理できず,生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ,前者に傾いた状態を酸化ストレス状態とよぶ.ROSやRNS,あるいはそれらの代謝物は生体防御に重要な役割を果たしているが,その一方で過剰な状態が生じると細胞や遺伝子を傷害する有害な作用も有する.気道はタバコ燃焼煙やディーゼル排気粒子などの大気汚染物質やウイルスに曝されており,それらの刺激で炎症細胞が活性化し,ROSやRNSが産生されている.気管支喘息では呼気ガスや呼気凝縮液中の酸化ストレスが増加しており,その程度は喘息症状の増悪や気道炎症マーカーと相関している.酸化ストレスは気道上皮細胞の傷害や慢性気道炎症,気道過敏性の増悪,気道リモデリングに広く関与することにより喘息の重症化や難治化を誘導すると考えられ,喘息治療のあらたな標的になる可能性がある.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 90-95 (2010);
View Description
Hide Description
喘息発作時には気道ウイルス感染症を合併していることが少なくない.とくにライノウイルス,RSウイルスは喘息の主要関連ウイルスと考えられ,幅広く関与している.喘息の発症・増悪に関与するメカニズムは種々想定されているが,直接結びつける機序は不明であり,今後の展開が期待される.さらに,報道などを通して明らかとなってきたように,いわゆる新型インフルエンザ(2009H1N1)と喘息との関連が示唆されており,従来の季節性インフルエンザとは異なる注意・対応が必要といえる.非定型菌の喘息への関与も重要であり,マイコプラズマを取り上げ解説した.
-
最新の治療:現状と将来への期待
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 99-105 (2010);
View Description
Hide Description
気管支喘息のearly interventionには,アレルゲン感作前に喘息の発症を予防する(一次予防),アレルゲン感作成立後に喘息の発症を予防する(二次予防),喘息発症後の重症化防止と早期寛解を目的とする治療(三次予防)がある.すなわち乳幼児期のearly interventionは,喘息の発症および気道炎症および気道リモデリングの進展を抑制するのに重要な時期である.Early interventionとして,アレルゲン曝露,受動喫煙,気道ウイルス感染などの対策として環境整備がある.同時に薬物を用いる早期介入として,抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体“パリビズマブ(製品名:シナジス)”による一次予防,Th2サイトカイン阻害薬による二次予防,さらに喘息を発症してしまった喘息児に対する発症後早期からの重症化・難治化予防として吸入ステロイド薬,ロイコトリエン受容体,DSCGによる三次予防がある.また,この時期特有の喘息Phenotypeを考慮したearly interventionが重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 106-110 (2010);
View Description
Hide Description
気管支喘息の治療でもっとも大切なことは日常的な気道炎症の治療である.すなわち,日常的には吸入ステロイド(ICS)を中心とした抗炎症療法を行う(長期管理薬).しかし,ICS単独でコントロールできないときは他の長期管理薬を併用する.このようなadd on薬としては,長時間作用性β2刺激薬(LABA),ロイコトリエン拮抗薬,テオフィリンなどがあるが,そのなかでもっとも有効なものはLABAである.ICS/LABA合剤は炎症と気管支拡張作用の両方を合わせもつほか,両者による相乗作用も効果を高めていると考えられている.その結果,近年ではICS/LABA合剤が多用されている.合剤によるメリットとしては,吸入回数が少ない,相乗効果が期待できる点などにある.将来的にはICS/LABA単剤による治療の可能性も考えられる.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 111-115 (2010);
View Description
Hide Description
近年,喘息の長期管理は,吸入ステロイドを中心とする抗炎症療法の普及に伴い著明に改善した.しかし,なかには従来の薬剤が効きにくい,いわゆる難治性喘息が存在し,これらは症状コントロールに難渋し,多くの医療資源が費やされているのが現状である.したがって難治性喘息の管理・克服は今後の重要な課題であり,そのための新しい治療手段のひとつとしてさまざまな生物学的製剤が開発されている.これらは,IgE抗体やIL-5抗体,あるいはTNF-αを標的とした抗体や可溶性受容体などであり,いずれも好酸球性あるいは好中球性気道炎症を分子レベルで治療しようというコンセプトの薬剤である.最近の臨床試験によれば,これらの薬剤は難治性喘息の呼吸機能に対する影響は乏しいものの,喘息の増悪頻度の減少やQOLの改善といった効果が確認されている.引き続き,薬剤使用症例を集積し,臨床効果および安全性のさらなる検討が必要である.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 116-122 (2010);
View Description
Hide Description
アレルゲン特異的免疫療法はアレルゲンを低濃度から効果発現量まで漸増投与し,アレルギー性鼻炎,気管支喘息などのアレルギー疾患における生体の免疫反応性を修飾させ,病状の改善,ひいてはアレルギー自然史を修飾する治療法である.その機序は,アレルゲン特異的なTh2の抑制や,制御性T細胞が関与し,抑制系サイトカインであるIL-10やTGF-βの作用によって,マスト細胞や好酸球の作用を抑制することがわかってきている.より効率のよい治療や副作用軽減を目的とした新規ワクチンも開発検討されている.気管支喘息に対しては,アメリカではガイドラインが推奨する標準的治療となっている.経皮投与法と舌下投与法があり,両治療法とも喘息の病状改善に貢献していることがメタ解析などから明確にされている.本稿では,これらに関する最近の知見を述べていく.
-
Source:
医学のあゆみ 233巻1号, 123-126 (2010);
View Description
Hide Description
薬物治療に抵抗する重度気管支喘息の気道リモデリングにおける平滑筋のablationは安全で効果的であり,新しい将来性のある内視鏡治療として今後,欧米だけでなくわが国にも普及すると思われ,期待される.