医学のあゆみ
Volume 234, Issue 5, 2010
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【7月第5土曜特集】サイトカインと疾患―あらたな病態モデルから治療へ
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- 概論
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OVERVIEW―サイトカイン機能の人為的制御をめざして
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionサイトカインは,体内に微量に存在する免疫反応などの生体反応を制御する可溶性分子の総称である.狭義のサイトカインとしては各種インターロイキンやインターフェロンがあり,一方,広義のサイトカインには TGF ファミリー,TNF ファミリーやケモカインも含まれる.今日までに 30 種類以上のインターロイキン,10 種類ほどのインターフェロンが同定されており,広義のサイトカインを含めると 100 種類を超える可溶性分子が免疫反応などの生体反応に関与している.もちろん,これらの可溶性分子群の多くのものは,進化学的には外来微生物からの感染防御に寄与する形で発達してきたと考えて間違いではないであろう.しかし,今日ではこれらサイトカインの信号が自己免疫疾患,アレルギー反応,慢性炎症反応といった,われわれにとって不都合な形質をもたらすことが多々ある.それぞれのサイトカインは多機能性であり,機能の重複性があるので,生体内でのそのコントロールは難しいが,もし可能となれば,TNF-α,IL-1,IL-6 などのように疾患治療と直結する13) - サイトカインシグナル伝達機構
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JAK-STATの標準経路と非標準経路モデル
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionサイトカイン受容体からのシグナルのうち,JAK-STAT シグナル伝達系について,STAT による転写制御に重点をおきつつ,この経路発見の歴史から現状までを述べる.核内 JAK が STAT とヒストン H3 をチロシンリン酸化することで,直接クロマチンに作用し,遺伝子発現を制御する非標準経路モデルも紹介する. -
Smad経路を介したTGF-βファミリー分子のシグナル伝達機構
234巻5号(2010);View Description Hide DescriptionTGF-βファミリー分子のシグナルは進化の過程で高度に保存されており,さまざまな生物現象で重要な役割を果たしている.これまでの研究で TGF-βファミリー分子の主要なシグナル関連因子が同定され,細胞表面の受容体から核内までのシグナル伝達経路や細胞のコンテクスト依存的な転写調節機構が明らかになってきた.また,癌を含むさまざまな疾患で TGF-βファミリー分子の発現やシグナル調節機構の異常が報告されてきた.TGF-βファミリー分子のシグナルを標的とした治療法も開発され,阻害法や投与法を工夫することで,病態の中心となっている TGF-βファミリー分子のシグナルのみを特異的に阻害することが可能になりつつあり,臨床試験で有効性を認めるものが報告されている. -
直鎖状ポリユビキチン鎖によるNF-κB選択的活性化機構
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionユビキチン修飾系は基質蛋白質にユビキチンを付加することで蛋白質の機能を制御する翻訳後修飾系であり,蛋白質分解やシグナル伝達などの多彩な細胞機能を制御している.それぞれの機能の発現には異なったユビキチン結合様式が関与することが知られており,著者らは直鎖状ポリユビキチン鎖という新規の結合様式のポリユビキチン鎖が古典的 NF-κB 経路を活性化することを見出した.直鎖状ポリユビキチン鎖は HOIL-1 Lおよび HOIP からなる LUBAC ユビキチンリガーゼにより生成され,TNF-α刺激依存的に IKK 複合体の構成分子である NEMO に付加されることで NF-κB を活性化へと導く.本稿では,LUBAC ユビキチンリガーゼによる直鎖状ポリユビキチン鎖を介した NF-κB 活性化の詳細な機構について,最近の知見を交えて紹介する. - サイトカインの分泌刺激および産生調節機構
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mRNAの安定性制御を介した免疫応答の調節
234巻5号(2010);View Description Hide Description免疫応答は体内に侵入した病原体を排除するために必須の生体反応である.われわれの身体内では侵入してきた病原体に対して,さまざまな遺伝子の発現を迅速に誘導することにより免疫応答を惹起し,その排除へと導く機構が備わっている.これらの遺伝子発現は適切な場所において適切な時間および強度で誘導される必要がある.しばしばその破綻によって自己免疫疾患を誘発することはよく知られている.近年,この免疫応答の調節機構のひとつとして,mRNA の安定性制御が重要な役割を果たしていることが明らかにされてきている.とくに遺伝子欠損マウスを用いた検討から,それら調節因子の欠損が重篤な自己免疫症状を引き起こすことが示されている.本稿では,とくに CCCH 型のジンクフィンガー分子に着目し,mRNA の安定性制御を介した免疫応答の調節機構について議論したい. -
C型レクチンMincleによる結核菌の認識およびサイトカイン産生
234巻5号(2010);View Description Hide Description結核菌は非常に強い免疫賦活化作用を有するため,古くから complete freund adjuvan(t CFA)などのアジュバントとして広く利用されてきた.結核菌細胞壁の構成成分には多くの免疫賦活化物質が含まれるが,そのなかでもっとも有名なのが,コードファクターとして古くから知られている trehalose-6,6′-dimycolate(TDM)である.TDM の受容体は長年不明であったが,近年著者らの研究室において,活性化したマクロファージに発現している C 型レクチン Mincle が,TDM を認識して炎症性サイトカインの産生を誘導することを明らかにした. -
核酸認識Toll様受容体刺激による樹状細胞からのⅠ型インターフェロン産生誘導機構
234巻5号(2010);View Description Hide Description核酸系免疫アジュバントは樹状細胞を活性化し,炎症性サイトカインやⅠ型インターフェロン産生を誘導する.Ⅰ型インターフェロン産生の誘導は核酸系免疫アジュバントの特性であり,ウイルスに対する防御免疫として必須であるばかりでなく,自己免疫疾患の病態形成にも非常に重要である.著者らは,核酸を認識する病原体センサー Toll-like recepto(r TLR)7,TLR9 によるⅠ型インターフェロン産生誘導にセリンスレオニンキナーゼ IKKαが必須であることを明らかにした.樹状細胞は不均一な細胞集団であり,TLR7,TLR9 シグナルに対する応答機構もサブセットによって異なる.本稿では,TLR7/9 によるⅠ型インターフェロン産生誘導の機能的意義とそれを制御する IKKαの役割を中心に述べる. -
cAMPによる炎症性サイトカイン産生抑制機構
234巻5号(2010);View Description Hide Description免疫・炎症反応の過剰な活性化は,さまざまな疾患の原因となる.そのため,正常な生体内では免疫反応は厳密に制御されている.その制御のために TLR シグナル・炎症性サイトカイン産生経路においてもさまざまな抑制メカニズムが存在する.そのひとつとして,PGE2などの細胞内 cAMP 濃度を上昇させる生理的な刺激が免疫反応を抑制することが想定されていた.しかし,その分子メカニズムは不明のままであった.著者らはcAMP によって発現誘導される c -fos がその抑制効果を担う因子であること,さらに c-Fos 蛋白質が TLRシグナルの下流で活性化される IKKβによって直接リン酸化され安定化し,蓄積することを明らかにした. -
核内IκB蛋白質IκB-ζを介したサイトカイン産生制御
234巻5号(2010);View Description Hide Description活性化した免疫担当細胞は,さまざまなサイトカインを産生し,周囲の細胞の活性や分化の方向を決定する.転写因子 nuclear facto(r NF)-κB は,サイトカインを含めた多くの炎症関連遺伝子発現の原動力として機能するが,炎症応答のみならず,多彩な生物機能を担う多機能転写因子である NF-κB を介した選択的遺伝子発現機構については,不明な点が多く残されている.IκB-ζは刺激に応じて発現誘導され,核内で NF-κB と結合する核内 IκB 蛋白質である.最近の解析により,この蛋白質が NF-κB の標的を制御し,特異的なサイトカイン産生に必須の役割を果たすことが明らかになった.すなわち,炎症応答ではすばやく NF-κB を活性化し,迅速な遺伝子発現を可能にするとともに,刺激に応じて特異的に発現する IκB-ζのような転写制御因子を介して的確な選択的遺伝子発現を誘導する多段階転写制御機構の実態が明らかになりつつある. -
インフラマソームを介した炎症性サイトカインIL-1βの産生
234巻5号(2010);View Description Hide Description病原体の感染や刺激性粒子などによるストレスを感知したマクロファージ・樹状細胞は,炎症性サイトカイン IL-1β・IL-18 の産生を介して,炎症反応を惹起する.Caspase-1 はサイトカイン IL-1β・IL-18 前駆体の切断や細胞死の誘導に深くかかわっており,その活性化はインフラマソームとよばれる複合体により制御されている.インフラマソームは病原体感染に際して宿主を守る役割を果たす一方で,アスベストや尿酸結晶などの刺激性粒子を認識して過剰な炎症反応を惹起し,組織障害を起こす.そのため,インフラマソームを介した炎症反応の誘導と抑制は厳密に制御されている.インフラマソームは IPAF インフラマソーム,NALP3 インフラマソーム,AIM2 インフラマソームに大別されており,それぞれの複合体がさまざまな因子・ストレスを感知して自然免役応答を誘導する.本稿では,これらのインフラマソームの生理・病理的な役割と,その活性制御のメカニズムについて解説する. -
Th2サイトカイン産生制御機構
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionアレルギー性気道炎症の発症には,炎症局所においてさまざまな細胞が関与していることが知られている.著者らはそのなかでも,Th2 サイトカイン(IL-4,IL-5,IL-13)を産生し,中心的な役割を担う Th2 細胞に着目し,Th2 細胞分化制御を明らかにしてきた.本稿では,Th2 サイトカイン遺伝子座におけるクロマチンリモデリング誘導機構および分化や活性化に伴うクロマチン構造変化などこれまでの基礎研究の成果を紹介するとともに,IL -5 遺伝子座や Th2 細胞依存性アレルギー性気道炎症においてあらたに明らかとなった制御機構を報告する. -
IL-4の産生制御
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionインターロイキン 4(IL-4)は,花粉症などを代表とする 1 型アレルギーを制御する IgE 抗体の産生を制御するサイトカインである.IL-4 はおもに特定のヘルパー T 細胞,Th2 細胞から産生される.この Th2 細胞はナイーブ T 細胞がより分化する機能型 T 細胞であり,分化の方向性はナイーブ T 細胞が抗原刺激を受ける際のサイトカイン環境によって規定されている.そこで本稿では,IL-4 産生制御の分子メカニズムについて,転写因子による制御,遺伝子レベルでの制御,とくにエピジェネティクスな制御について,Th2 分化の方向性を制御するメカニズムも含めて,これまでの知見をもとに紹介する. -
IL-6/STAT3シグナル制御蛋白質―Daxx,KAP1,STAP-2によるSTAT3活性化制御
234巻5号(2010);View Description Hide Description免疫系,造血系,神経系などの生体システムの恒常性を維持するためには液性の調節因子であるサイトカインの存在が不可欠であり,そのサイトカインはおもに Jak/STAT シグナル伝達系とよばれる特異なシグナル系を利用し,機能を発現する.この系を担う Jak キナーゼと STAT は,種々の生体システムの維持・制御に重要な役割を果たす.なかでも免疫系細胞の増殖・分化に関与する IL-6 ファミリーサイトカインの作用は,おもにシグナル伝達分子である STAT3 によるものであることが知られている.STAT3 の活性化は種々の細胞の癌化にも非常に重要とされている.実際,多発性骨髄腫や乳癌などの癌細胞において恒常的な STAT3 の活性化が報告されており,STAT3 自体がオンコプロテインとしても注目されている.また近年,自然免疫,炎症応答を担う TLR シグナルや NF-κB の活性化を STAT3 が調節することが明らかにされ,自然免疫の制御因子としても注目されている. - 免疫細胞の分化/維持とサイトカイン
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Th2細胞分化と好塩基球御
234巻5号(2010);View Description Hide Description花粉などのアレルゲンに曝露されると,樹状細胞を介して抗原の情報を受けた CD4+T 細胞は IL-4 の作用で Th2 細胞に分化する.しかし,樹状細胞はアレルゲンに反応してけっして IL-4 を産生できない.そのため,Th2 細胞分化に必要な“early IL-4”の産生細胞の存在は長年の謎であった.最近,著者らを含む 3 つのグループによって,好塩基球は“early IL-4”の産生細胞だけにとどまらず細胞表面に MHC classⅡ分子を発現し,アレルゲンをプロセッシングして CD4+T 細胞に抗原の情報を提供する抗原提示細胞として作用し,特異的にTh2 細胞を誘導するとともに,アレルギーを増強するユニークな細胞であることが明らかにされた. -
Th17分化
234巻5号(2010);View Description Hide DescriptionTh17 細胞は,最近になってその存在が明らかになったヘルパー T 細胞(Th 細胞)サブセットである.細胞外微生物に対する免疫応答に必須の役割を果たすことが知られるが,同時に自己免疫疾患の原因となるリンパ球であることもわかり,注目されている.Th17 細胞の分化は,周囲に存在するサイトカインとそれによる複数の転写因子の発現によって制御されている.一方,生体において Th17 細胞は消化管に限定して存在している.それは消化管常在細菌によって恒常的に分化誘導されているためである.なかでも常在菌の一種であるsegmented filamentous bacteria(SFB)によって小腸において強力に誘導される.本稿では,つぎつぎと明らかになってきている Th17 分化メカニズムを解説する. -
肝由来のIL-7によるT細胞応答の制御
234巻5号(2010);View Description Hide Description肝は生体内最大の臓器で,“体の中の化学工場”とよばれることからもその機能(代謝,排出,解毒,体液の恒常性の維持など)は非常に多岐にわたっている.感染などによって誘導される局所のサイトカイン産生は,それらサイトカインが肝に作用することで多くの“急性期蛋白”の産生を引き起こす.この急性期反応は,全身に危険を知らせて免疫反応,なかでも自然免疫を強化すると考えられてきた.つまり,感染時の肝の役割は全身に病原体に備えるように警告を発するとともに自然免疫系の細胞が働きやすい環境を提供することと考察されてきた.しかし今回,外来抗原の侵入時に活性化される TLR(Toll-like receptor)依存性に誘導される 1型インターフェロン(IFN-Ⅰ)が肝に直接作用することで,T 細胞の恒常性に大きな影響を及ぼすサイトカイン,インターロイキン-7(IL-7)を発現すること,さらに,その IL-7 が CD4+T 細胞および CD8+T 細胞の生存を誘導してこれら T 細胞の反応性を増強することが明らかになった.これらの知見は,肝の急性期反応の役割が自然免疫の強化ばかりではなく,獲得免疫系の中心的な細胞である T 細胞に直接作用してそれらの機能を増強することを示したものである.今後さらに,多くの獲得免疫系に関与する分子が肝の急性期蛋白のなかに存在することが証明されることが期待される. -
制御性T細胞の分化および機能発現―外来性刺激およびサイトカインを介した制御性 T 細胞の分化
234巻5号(2010);View Description Hide Description制御性 T 細胞(Treg)は免疫抑制に特化した機能を有し,過剰・異常な免疫反応を抑制することで免疫自己寛容および免疫恒常性を維持している.Treg の大部分は胸腺で分化し,Treg のマスター制御遺伝子であるFoxp3 の発現誘導が Treg の分化・発生に必須である.Foxp3 の発現は,interleukin-2(IL-2)レセプターからの刺激や T cell recepto(r TCR)からの刺激による制御に加え,さまざまなサイトカインによる正負の制御機構の支配下にある.また Treg の機能発現や末梢における Treg の安定性には,TCR 刺激やサイトカイン刺激など恒常的な外来性シグナルが必要である.すなわち,Treg の発生・分化・維持・機能発現には,さまざまな外来性刺激およびサイトカインを介したシグナルが関与しており,これらさまざまな刺激による多重な制御の総和として Treg が分化し,抑制機能が発現すると考えられる. -
新しいリンパ球:ナチュラルヘルパー細胞―寄生虫感染における役割
234巻5号(2010);View Description Hide Description現代においても発展途上国では寄生虫感染は広く蔓延しており,WHO が 1997 年に行った統計によると回虫,鉤虫,鞭虫などに代表される土壌媒介寄生虫感染者は 35 億人にのぼり,現在でも 10 億人を超える感染者がいるとされている.著者らは最近,脂肪組織に存在する新しいリンパ球を発見し,ナチュラルヘルパー(natural helper:NH)細胞と名づけた.NH 細胞は IL-5 や IL-6 を恒常的に産生することで,B 細胞の IgA 産生促進や腹腔内 B1 細胞の自己複製を支持する.また,IL-25 や IL-33 刺激を受けることで,IL-5 や IL-13などの Th2 サイトカインを多量に産生することから,寄生虫感染制御やアレルギー治療への貢献が期待されている.本稿では,NH 細胞の紹介とともに寄生虫感染機構における役割について概説する. -
ナチュラルキラーT(NKT)細胞の発生と分化
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionナチュラルキラー T(NKT)細胞は T 細胞,B 細胞,NK 細胞に続く第 4 のリンパ球系列として免疫機能のみならず,その分化および抗原認識の点から最近注目を集めている.NKT 細胞の抗原受容体は多様性がなく,マウスにおいては均一な Vα14 Jα18 受容体(ヒトでは Vα24 Jα18 受容体)で,種属に 1 種類しか存在しない MHC 様の CD1d 分子に提示される糖脂質を抗原として認識する,きわめて強く保存された免疫系である.本稿では ES 細胞からの NKT 細胞初期分化と胸腺での発生メカニズムについて紹介する. -
TNF/iNOS産生DCとIgA分泌
234巻5号(2010);View Description Hide Description健常人の体内でもっとも多い抗体は IgA である.その産生量は 1 日 3~5 g にも及び,多くが腸粘膜関連リンパ組織でつくられる(図 1).抗体を産生する形質細胞の約 80%が粘膜固有層に存在し,形質細胞の 80%以上が IgA を産生する.分泌型 IgA は粘膜から侵入してくる病原菌の上皮への付着を阻止あるいは病原菌の産生する毒素を中和するなどの機能を介して,粘膜面における恒常性を維持している.腸における IgA 産生機構を理解することは,粘膜ワクチンの開発にとっても重要である. -
IL-5による自然免疫制御―B-1細胞と好酸球
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionインターロイキン 5(IL-5)は T 細胞から分泌されて B 細胞の分化を促進するサイトカインとして見出されたが,その産生細胞や標的細胞に関し興味ある知見があいついで報告されている.IL-5 は T 細胞やマスト細胞,好酸球のみならず,非造血系の細胞や腹腔内脂肪組織リンパクラスターに局在する細胞により産生され,B細胞のみならず好酸球や好塩基球の増殖や活性化も促進する.IL-5 受容体(IL-5R)は IL-5 に特異的に結合するα鎖と,シグナル伝達に必須の分子で IL-3,GM-CSF 受容体に共用されるβ鎖のヘテロダイマーから構成され,好酸球,好塩基球や B-1 細胞に恒常的に発現している.一方,B-2 細胞はマイトゲンや T 細胞により活性化されると IL-5R を発現する.B-1 細胞は IgM や IgA などの自然抗体を産生する B 細胞亜集団であり,寄生虫排除や喘息の病態に関与する好酸球や好塩基球などとともに自然免疫の制御に関与する.IL-5R は B-1細胞や好酸球前駆細胞に発現しているので,IL-5 と IL-5R の制御を利用した免疫疾患のあらたな治療法や予防法が開発されることが期待できる. - サイトカインと感染症
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感染防御におけるIL-17AとIL-17Fの役割
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionこれまで,細胞性免疫には IFN-γを産生する 1 型ヘルパー T(Th1)細胞が,液性免疫には IL-4 を産生するTh2 細胞が中心的な役割を果たしていることがわかっていた.最近あらたにインターロイキン 17 A(IL-17A),IL-17 F,IL-21 や IL-22 を産生する Th17 細胞の存在が明らかとなり,この Th17 細胞が炎症応答や感染防御に重要な役割を果たしていることがわかってきた.IL-17 F は IL-17 サイトカインファミリーのなかでもっとも IL-17 A と相同性が高いことから,IL-17 A と同様な作用を有すると考えられてきた.IL-17 A と IL-17 F は共通の受容体を介して,さまざまな細胞から炎症性メディエーターを誘導する.しかし,この 2 つの類似したサイトカインが生体内において異なる役割を果たしていることがわかり,これら Th17 細胞関連サイトカインの機能の相違点や,他の T 細胞サブセットとの関係が注目されている. -
感染防御におけるIL-15,IL-17の役割
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionインターロイキン 15(IL-15)はマクロファージや樹状細胞,上皮細胞から産生され,NK 細胞と,NKT 細胞や上皮系γδ型 T リンパ球など自然免疫 T リンパ球の増殖維持因子として,またエフェクター CD8T 細胞のアポトーシスの阻止や,メモリー型 CD8+ T 細胞の増殖維持に重要な役割を担う.ウイルスに代表される細胞内寄生性病原体の感染防御や病態形成に関与している.一方,IL-17 は自然免疫 T リンパ球や CD4+ T 細胞(Th17)から産生されて,顆粒球形成を促進することで好中球浸潤誘導に働き,細胞外寄生性病原体の感染防御や病態形成に関与する. -
細胞内寄生性原虫によるサイトカイン産生抑制機構―トキソプラズマ原虫キナーゼROP16による宿主Stat3活性化機構
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionウイルス,細菌や寄生虫などの病原微生物がわれわれに侵入し増殖しようとするのに対し,宿主はそれらを排除するための免疫系を有している.免疫系は病原体侵入直後から応答しはじめる自然免疫系と,その成立まで一定の時間がかかるがきわめて特異性の高い獲得免疫系の 2 つの大きなシステムから成り立っている.そのきわめて精緻な宿主免疫応答の成立に対して病原微生物も単純に破壊・排除されるだけでなく,宿主免疫系から逃れるためにいろいろなステップで宿主免疫応答を抑制することも,近年の各病原微生物の精力的な研究から判明しつつある.本稿では病原微生物のなかで寄生虫として取り上げられることが多いヒトの病原体であるトキソプラズマ原虫を例に取り上げ,そのエフェクター分子による宿主免疫系,とくに自然免疫系の抑制機構についての最近の著者らの研究を紹介する. -
細胞障害性CD8+T細胞応答におけるCD4ヘルプの役割―ウイルス感染に対する腟粘膜面での生体防御機構
234巻5号(2010);View Description Hide Description粘膜面(消化器,呼吸器,泌尿生殖器など)はつねに種々の抗原や病原微生物の侵入と戦っている免疫応答の最前線の場である.消化器や呼吸器における免疫システムの理解が進むなかで,生殖器の免疫システムに関してはいまだに理解が遅れており,それに伴い,昨今問題となっている性感染症に対しても有効なワクチンの開発が滞っている現状がある.著者らの研究室では,マウスに性感染症ウイルスである単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV-2)を腟粘膜面に感染させるモデルを用いて生殖器における免疫システムの解析を行い,重要な知見を得たのでここに紹介する. -
C型肝炎とIL-28B(IFN-λ3)
234巻5号(2010);View Description Hide DescriptionC 型慢性肝炎に対するペグインターフェロン+リバビリン併用療法の有効性に関与する IL-28B の SNPsを発見した.この発見は日本からだけでなく,アメリカ,オーストラリアからも同時に同様の論文が報告され,その影響の大きさがうかがわれる.ゲノム上の IL-28B 遺伝子の近辺には類似した構造をもつ IL-28 A とIL-29 遺伝子が存在し,IL-29,IL-28 A および IL-28B はそれぞれ IFN-λ1,-λ2,-λ3 ともよばれ,これらのサイトカインは IFN-αとは別の受容体を介して ISRE を刺激して抗ウイルス効果を発揮する.IL-28B のSNPs の発見により,C 型慢性肝炎に対するテーラーメイド医療の可能性が大きく進歩するとともに,HCVに対する新規治療薬の開発にも大きく貢献するものである. - サイトカインと疾患
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IL-6誘導性の“炎症アンプ”と自己免疫疾患
234巻5号(2010);View Description Hide Description著者らは近年,自己免疫疾患モデルの解析から,線維芽細胞を含む非造血系組織において,“IL-6 誘導性の炎症アンプ”の形成が自己免疫の発症に重要であることを明らかにした.炎症アンプはどのようなメカニズムで形成されるのか,その制御は可能か,本稿ではその概要を紹介する. -
BMP/TGF-βシグナル伝達制御と結合組織疾患に関与する亜鉛トランスポーターZip13
234巻5号(2010);View Description Hide DescriptionBone morphogenetic protein(BMP)/Transforming growth factor-β(TGF-β)ファミリーは,骨・歯・皮膚などの結合組織の発生と維持に重要な役割を演じている.それら結合組織には亜鉛が比較的多く含まれており,亜鉛の恒常性の破綻はさまざまな結合組織疾患の病態形成に関連すると考えられている.亜鉛恒常性の制御には亜鉛トランスポーターが役割の一端を担っており,初期発生,皮膚代謝,骨格形成,生体防御機能における亜鉛トランスポーターの役割と,これらを統御する細胞内シグナル伝達経路との関係が明らかになりつつある.本稿では,細胞内シグナル伝達と結合組織形成における亜鉛恒常性の制御機構の重要な役割について論述し,さらに亜鉛トランスポーター Zip13 が BMP/TGF-βシグナル伝達を制御して結合組織の発生に関与することを,マウスとヒトの研究結果から解説する. -
IL-33とアレルギー性疾患
234巻5号(2010);View Description Hide DescriptionIL-33 は 2005 年に IL-1βや IL-18 と同様,IL-1 ファミリーに属する新規サイトカインとしてクローニングされた.その受容体は長い間そのリガンドが不明であった ST2 である.IL-1β/IL-18 が細胞質内で前駆体の形で産生され,caspase-1 によって活性化型となって産生されるのに対し,IL-33 は細胞核内に存在し,細胞壊死によって受動的に活性化型 IL-33 となって産生される.ST2 は Th2 細胞,好塩基球,マスト細胞そして好酸球上に発現することから,IL-33 はアレルギー性炎症に重要な役割を演じている.実際,ST2 遺伝子領域にアトピー性皮膚炎や喘息患者と相関のある遺伝子多型が,IL -33 遺伝子領域に花粉症患者と相関のある新規の遺伝子多型が発見され,IL-33 はアレルギー性疾患の増悪因子と考えられている. -
サイトカインのシグナル伝達異常により発症する免疫不全症―高IgE症候群
234巻5号(2010);View Description Hide Description高 IgE 症候群は,黄色ブドウ球菌感染による皮膚膿瘍・肺炎にアトピー性皮膚炎と血清 IgE の著しい高値を合併する免疫不全症である.その多くは家族歴のない散発例であるが,遺伝性が明らかなものもある.原因遺伝子を同定する多くの試みがなされてきたが,疾患が発見された 40 年後においてもその原因遺伝子は不明であった.著者らは,本症の患児の免疫能を詳細に検討することにより,サイトカインのシグナル伝達障害を発見し,これを手がかりにして高 IgE 症候群の原因遺伝子の同定に成功した.その結果,ほとんどの高 IgE症候群は STAT3 と TYK2 の遺伝子変異により発症していることが明らかとなった.この知見により,本症候群の早期確定診断・早期治療開始が可能となり,その予後を改善できる可能性が出てきた. -
メタボリックシンドローム
234巻5号(2010);View Description Hide Description脂肪組織は活発な内分泌臓器である.メタボリックシンドロームは内臓脂肪の肥満が病態の基盤にあり,代謝異常や動脈硬化などの合併症に,肥満内臓脂肪からのアディポカイン分泌異常と過剰な遊離脂肪酸の放出が重要と考えられている.脂肪組織は脂肪細胞と間質に存在する血管やさまざまな細胞から構築された複雑な組織であり,肥満に際しては脂肪細胞だけでなく多様な細胞の相互作用によるダイナミックな変化が生じる.その変化は慢性炎症ととらえることができる.サイトカインは慢性炎症プロセスにおける細胞間相互作用を仲介する.脂肪組織における慢性炎症プロセスの活性化は,糖尿病や心血管疾患の発症・進展を考えるうえで重要なだけでなく,今後その制御機構の詳細を明らかにすることによって新しい治療法へと展開する可能性がある. -
サイトカインネットワークと動脈硬化の病態
234巻5号(2010);View Description Hide Description多くの疫学的研究や動物実験によって,炎症と免疫機構が動脈硬化の発症や進展に重要であることが示されている.動脈硬化巣において,抗炎症あるいは炎症促進作用をもった多彩なサイトカインが発現しネットワークを形成する.IFN-γ,TNF-α,IL-1 や IL-12 は動脈硬化を促進し,一方,IL-10 や TGF-βは動脈硬化の抑制に重要である.サイトカインは T 細胞の分化・増殖や活性化においてきわめて重要な役割を担っている.動脈硬化の病態において古典的なヘルパー細胞である Th1/Th2 細胞に加えてインターロイキン 17 産生ヘルパー T 細胞(Th17)や制御性 T 細胞(Treg)の関与が注目されている.T 細胞の機能分化を制御するサイトカインは血球細胞と血管壁細胞との相互作用を制御し動脈硬化の病態に深くかかわっている.本稿では,動脈硬化の病態における主要なサイトカインと T 細胞の役割について概説する. -
腸炎とサイトカイン
234巻5号(2010);View Description Hide Description炎症性疾患(IBD)におけるサイトカインの病態関与を考えるうえで,CD4 T 細胞における“Th1/Th2 バランス”仮説が有名である.すなわち,これまで Crohn 病は Th1 型サイトカイン(IFN-γなど),潰瘍性大腸炎はTh2 型サイトカイン(IL-4 や IL-13 など)がそれぞれ主体の免疫反応であると考えられてきた.しかし近年,Th1,Th2 細胞集団に加え,IL-17 分子を産生する独立した Th17 細胞集団が登場した.驚くべきことに,ヒト自己免疫疾患およびその動物モデルにおいては,これまでの Th1 細胞,Th2 細胞ではなく,Th17 細胞こそが真の病因細胞ではないかと注目を集めている.一方,Th1,Th2,Th17 細胞型サイトカインとは一線を画した炎症性サイトカイン TNF-αや IL-6 などは,その活性を阻害する治療戦略がいち早く実際の IBD 臨床に応用されている.そこで,IBD の免疫病態,さらには臨床応用を視野に入れた場合,サイトカインを, ①Th1 サイトカイン:IFN-γなど, ②Th2 サイトカイン:IL-4,IL-13 など, ③Th17 サイトカイン:IL-17 A,IL-17F,IL-22 など, ④炎症性サイトカイン:TNF-α,IL-1,IL-6 など,と大別すると理解しやすい.本稿では誌面の関係で,全体の IBD サイトカインネットワークの概略と近年注目されている Th17 サイトカインについて概説し,さらに,サイトカイン阻害系を応用した実際の IBD 臨床で使われている生物学的製剤の正しい理解のための解説を行いたい. -
癌とmilk fat globule growth factor-8(MFG-E8)―既存抗癌治療法と抗MFG-E8阻害抗体との併用による新しい戦略
234巻5号(2010);View Description Hide Description組織のホメオスタシスを維持するためには,アポトーシスに陥った正常細胞が適切に処理され,それにとって代わる新しい同種の細胞の生着や機能が保全される必要がある.そのためには,アポトーシスに陥った細胞が効率よく排除され,かつ,その際に無用な免疫反応を誘導しない仕組みが必要となる.癌細胞が免疫からの有効な攻撃を受けずに患者の体内で生存し増殖する原因のひとつとして,このような本来は正常細胞に対して処理されるべき機序により,癌細胞が処理されていることが考えられる.そこで著者らは,アポトーシス細胞の排除機構のうち初期の重要な一過程であると考えられている“eat-me signals”,とりわけ,それにかかわる代表的分子である Phosphatidylserine(PS)に結合する分子である milk-fat-globule-EGF-factor 8(MFGE8)に着目した.この機序を利用した,癌細胞に対する有効な免疫反応を惹起する新しい試みについて紹介する. -
血管新生病とM-CSF阻害
234巻5号(2010);View Description Hide Description糖尿病性網膜症,悪性腫瘍などにおける病的な血管の増生に血管内皮増殖因子(VEGF)が中心的役割を果たすことが知られている.これを標的とした,いわゆる“抗血管新生療法”として,VEGF の中和抗体(bevacizumab)が 2004 年にアメリカ FDA に認可されて以降,臨床の場で広く用いられ,その有効性が確認されている.しかし,VEGF 阻害は病的血管のみならず健常血管も非特異的に傷害するため,ときに致命的な副作用が生じやすいことが近年報告されつつある.マクロファージは白血球の一種で,免疫,組織リモデリングに寄与する.このマクロファージの分化・生存に必須であるマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の阻害は病的血管特異的に血管新生を抑制し,また腫瘍転移に重要なリンパ管の形成も抑制する.ヒトへの M-CSF 阻害剤投与は最近臨床試験がはじまったばかりではあるが,VEGF 阻害に代わる次世代の抗血管新生療法として世界的に注目されている. -
虚血性疾患とサイトカイン―おもに脳虚血の視点から
234巻5号(2010);View Description Hide Description臓器への栄養血管の途絶により血流が枯渇すると,酸素や糖などの供給が途絶えることにより組織の傷害・炎症を引き起こす.最近,虚血による組織傷害に T 細胞が関連することが注目されている.本稿では脳虚血における急性炎症の病態を中心に,T 細胞とサイトカインの機能を概説する.虚血により脳組織が壊死に陥ると TNF-αや IL-1βなどの炎症性因子が産生され,炎症細胞が脳内に浸潤して炎症が惹起される.脳内に浸潤したマクロファージは IL-23 を産生して,遅れて浸潤するγδT 細胞から IL-17 産生を誘導して炎症を悪化させることにより,脳組織の傷害をさらに進行させる.一方で IL-10 や制御性 T 細胞(Treg)は神経保護的に作用する.また,炎症性サイトカインである IL-1βの産生に inflamasome や TLR の関与も報告されており,これらの最新知見を交えて虚血性疾患における T 細胞やサイトカインの機能を解説する. -
p53依存性脂肪老化シグナルと糖尿病
234巻5号(2010);View Description Hide Description生活習慣病は加齢に伴い発症頻度が増加するが,その分子機序は未だ明らかではない.ほとんどの細胞には分裂寿命があり,一定の分裂後,細胞老化と呼ばれる細胞周期停止状態となる.これまでわれわれはこのような細胞レベルの老化が加齢とともに進行し,血管老化や心不全など加齢関連疾患の病態生理にかかわっていることを報告した.さらに最近,過剰なカロリー摂取に伴って,脂肪組織において p53 依存性の脂肪老化が進行し,脂肪組織で炎症が惹起されることによって全身のインスリン抵抗性が増悪することを明らかにした.これらの結果は脂肪組織における老化シグナルを標的とした新たな糖尿病治療の開発に繋がるものと考えられる. -
SOCS3と皮膚恒常性維持
234巻5号(2010);View Description Hide Description乾癬は世界人口の 2~3%が罹患しているといわれる自己免疫性の皮膚疾患であり,皮膚上皮細胞でのSTAT3 活性化や好中球の浸潤などを特徴とし,赤い発疹と皮屑を伴う皮膚角化疾患である.発症メカニズムについては,これら角化細胞での異常に加え,炎症部位への T 細胞の浸潤と Th17 細胞から産生される IL-22の関与が考えられており,抗 p40 抗体治療の有効性などから IL-23 の関与が示されている.著者らは,SOCS3をケラチノサイト特異的に欠損したマウス(SOCS3cKO)を作製し,このマウスが乾癬様の皮膚炎を自然発症することを見出した.発症したマウスでは表皮での STAT3 の恒常的な活性化,および患者皮膚で発現上昇が報告されている複数の遺伝子の発現増加が認められた.SOCS3cKO の皮膚炎発症には IL-6 が必須であり,IL-23 や T 細胞は皮膚炎の悪化に関与していることを示す結果が得られた.表皮の SOCS3 が STAT3 の活性化を抑制することで乾癬など皮膚疾患の発症を抑制し,皮膚の恒常性維持の役割を担っていると推察される. -
サイトカインによる中枢を介した摂食・エネルギー代謝調節作用
234巻5号(2010);View Description Hide Description生体のエネルギーバランスは脳内,とくに視床下部おいて精巧に調節されている.しかし,悪性腫瘍や炎症状態においては,摂食量が低下し cachexia が生じる.このメカニズムとして数々の炎症性サイトカインの関与が明らかにされてきた.さらに,さまざまなサイトカインが脳内で産生されること,また末梢から血液-脳関門を通過して脳内に移行しうること,さらに脳内にさまざまなサイトカインの受容体が存在することが報告され,脳内サイトカインの摂食・エネルギー代謝調節作用についての解析が進んだ.いくつかの炎症性サイトカインは脳室内投与により摂食が低下し,またノックアウトマウスは肥満を呈することから,摂食抑制,エネルギー代謝亢進作用があると考えられる. -
慢性骨髄性白血病とTGF-β
234巻5号(2010);View Description Hide Description慢性骨髄性白血病(CML)は造血幹細胞を発症起源とする骨髄増殖性疾患であり,恒常活性化型チロシンキナーゼ BCR-ABL の発現によって発症する.CML の治療薬としてチロシンキナーゼ阻害剤イマチニブが開発され,CML 患者の治療を劇的に改善した.しかし,イマチニブ治療後の CML 患者において CML 細胞の増殖源となる白血病幹細胞が残存しており,CML の再発の原因となることが明らかとなった.したがって,白血病幹細胞は CML を根治するための重要なターゲット細胞であると考えられている.近年,CML 様骨髄増殖性疾患のマウスモデルの研究において,正常造血幹細胞と CML の白血病幹細胞の間にはさまざまな共通の制御メカニズムが存在することが報告されている.最近著者らは,フォークヘッド転写因子 FOXO がイマチニブ抵抗性の白血病幹細胞の維持に必須な役割を担っており,この FOXO は TGF-βシグナルによって活性化されていることを見出した.さらに,TGF-β阻害剤を投与することにより,in vivo でイマチニブ抵抗性の白血病幹細胞を排除できることを報告した. -
表皮とStat3―両刃の剣としてのマスターシグナル
234巻5号(2010);View Description Hide Description表皮角化細胞は表皮を構成する全細胞の約 95%を占める.表皮は紫外線などさまざまな物理的・化学的刺激,微生物の影響をつねに受けている.このために,角化細胞には表皮ホメオスタシスを保つためのダイナミックな生物活性が賦与されている.著者らは,表皮角化細胞の Stat3 シグナルが皮膚創傷治癒,紫外線照射後の抗アポトーシス作用に重要な働きをすることを報告した.さらに,Stat3 シグナルの過剰・遷延化が乾癬や皮膚癌の発症に関与することが明らかになった.これらの疾患に対して Stat3 を標的としたあらたな治療法の可能性が示唆される. - 治療への応用
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抗サイトカイン療法の現状
234巻5号(2010);View Description Hide Description関節リウマチをはじめとする原因不明の炎症性疾患の治療として抗サイトカイン療法が導入され,劇的な治療効果をあげている.標的となるサイトカインとしては TNF-α,IL-6,IL-1 などがあるが,最近では IL-17,IL-22/23 などがあらたな標的分子として注目を集めている.これらのサイトカインは病変局所で過剰に産生されることにより,当該の疾患の病態形成に深く関与している.抗サイトカイン療法はこれらの分子の作用を特異的に阻害することにより,臨床症状の改善を図るものである.しかし一方で,サイトカインは pluripotent(多機能性)であり,生体防御をはじめとする生体の恒常性維持にも必須の分子であるため,抗サイトカイン療法は感染症をはじめとする重篤な副作用を引き起こす危険性も孕んでいる.抗サイトカイン療法の有効性はきわめて高い一方で,その適応の選択においては慎重であらねばならない. -
抗TNF-α抗体とBehçet病
234巻5号(2010);View Description Hide DescriptionBehçet 病は, ①再発性口腔内アフタ性潰瘍, ②皮膚症状, ③外陰部潰瘍, ④眼病変を 4 主症状とする原因不明の炎症疾患である.特殊病型として腸管 Behçet,血管 Behçet,神経 Behçet があり,これらは患者の生命予後を左右することから,眼病変とともにきわめて重要なウェイトを占める.本症の基本病態は T リンパ球の過剰反応性に基づくサイトカインの産生による好中球の機能(活性酸素産生能,遊走能)の亢進である.近年,難治性眼病変に対する抗 TNF-α抗体(インフリキシマブ)の有用性が証明された.また,難治性の慢性進行型神経 Behçet では髄液の IL-6 が持続的に上昇するが,これはインフリキシマブで制御できることが明らかになった.しかし髄液の TNF-αの上昇はなく,インフリキシマブの作用は細胞に対する直接作用と考えられる.腸管 Behçet に対するインフリキシマブの効果についての評価は定まっていない. -
抗IL-6療法
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionインターロイキン 6(IL-6)は,免疫応答のみならず炎症反応や造血をはじめ,多彩な生物活性をもつサイトカインである.IL-6 は生体にとって重要な生理的役割をもつが,過剰産生が生じるとさまざまな症状や検査値異常を引き起こす.IL-6 の過剰産生が関節リウマチや若年性特発性関節炎,Castleman 病をはじめとする炎症性免疫疾患や多発性骨髄腫,悪性中皮腫などの悪性腫瘍の病態形成に関与することが示されており,IL-6 のシグナル伝達を阻害する薬は,これらの IL-6 が関与する疾患群に対して治療効果が期待される.本稿では,サイトカイン研究の疾患への応用の例として,炎症性免疫疾患や腫瘍性疾患に対する抗 IL-6 療法を紹介する. -
サイトカインシグナル伝達抑制分子(SOCS)の新規抗癌剤としての応用
234巻5号(2010);View Description Hide Descriptionサイトカインは,細胞の増殖・分化や細胞死など生体の恒常性を保つうえで非常に重要な役割を果たしている.一方で,サイトカインによる過剰な刺激,あるいはサイトカインシグナル伝達制御の破綻が発癌や癌細胞の増殖亢進などの病態と関係することが明らかにされており,サイトカインシグナル伝達は抗癌剤の創薬標的として注目を集めている.Suppressor of cytokine signaling(SOCS)ファミリーは,おもに JAK/STAT 系のサイトカインシグナル伝達のネガティブフィードバック作用をもつ遺伝子として,著者らの研究室で単離された分子である.SOCS 分子は細胞内に強制発現させることで JAK 以外にも FAK シグナルやインスリンシグナルなどさまざまなシグナル伝達経路を抑制する.したがって,SOCS 分子を癌細胞に導入することで癌の増殖や転移を抑制することにより,優れた抗癌剤として臨床応用できると期待される.本稿では,著者らの研究室で開発している SOCS 分子を用いた新規癌治療法を解説する. -
自然免疫とワクチン開発
234巻5号(2010);View Description Hide Description感染症や癌,アレルギーなど,ワクチンによる予防,あるいは治療方法の開発研究が昨今とくに盛んになってきている.とくに近年の自然免疫研究成果によって,以前は免疫学者の“Little dirty secret”と揶揄されていたアジュバントは,その作用機序が分子レベルでつぎつぎと明らかになってきている.アジュバントによる多様な自然免疫認識機構,シグナル伝達,サイトカインなどによる細胞間クロストークなどが,ワクチンの有効性すなわち防御抗原に対する獲得免疫応答を誘導するために重要な役割を担っていることが明らかとなってきた.ワクチンの作用機序を細胞レベル,分子レベルで解析することは,その有効性のみならず,ワクチン開発の特徴でもある非常に高い安全性の担保においても重要である.また,より効果的なワクチンを開発し医療現場へと還元していくためには,個々の研究室だけではなく,多様な研究領域がコンソーシアムを築き連携しあうことが必須であり,かつ産学官による合理的な開発,認可体制の構築が望まれる.
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