医学のあゆみ
Volume 234, Issue 12, 2010
Volumes & issues:
-
あゆみ CKD-MBD(慢性腎臓病にともなう骨ミネラル代謝異常)
-
-
-
腎臓が悪くなるとどうして骨ミネラル代謝の異常が生ずるか?―病態解明の最前線
234巻12号(2010);View Description Hide Description慢性腎臓病にともなう骨ミネラル代謝異常(chronic kidney disease-mineral and bone disorder:CKDMBD)は,全身疾患として生命予後に寄与する重大な問題として認識されるようになった.ミネラル代謝障害と二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)や血管石灰化進展のメカニズムにおいては,いまだ疑問が残されている.この病態による生命予後への関与を明らかにするため,早期腎症からのビタミン D 障害やミネラル代謝異常,SHPT 腫瘍化メカニズムにかかわる調節因子の発見や受容体異常,そしてミネラル代謝障害と血管石灰化メカニズム解明への多くの研究がなされてきた.近年になり,FGF23 を中心とした代謝調節機構や石灰化メカニズムに関与するビタミン D とミネラル代謝異常の重要性が明らかとなってきている.この知見の集積がCKD-MBD 治療戦略の完成を加速させることが期待される. -
CKD-MBDの概念と生命予後
234巻12号(2010);View Description Hide Description2006 年に骨の異常,検査値異常,血管石灰化の 3 つからなる CKD-MBD なる全身的な疾患概念が登場し,さらにこれが骨折,心血管イベント,それらの結果としての死亡につながるという概念モデルが提案された.この概念モデルに基づいて各検査値の目標値は疫学研究の結果死亡リスクが一番低い範囲に設定され,ガイドラインが各国でつくられた.しかし,では目標範囲から外れた患者を目標範囲へ治療介入することで本当に生命予後が改善するのか,ということに関してはかならずしも明らかではない.つまりガイドラインの本当の意味での正当性はまだ担保されたとはいいがたい.近年になって遅ればせながら,それぞれの介入手段の生命予後への影響が緩徐にではあるが,つまびらかになりつつあるが,おもに観察研究からである.なぜなら,かならずしもすべての介入について無作為ランダム化試験をすることがいまさら倫理的でもなく,実際上不可能なことも多いからである.そこで本稿では,観察,介入研究にかかわらず,生命予後への影響という観点からできるだけ多くの臨床研究を紹介したい. -
CKD-MBD診療ガイドラインのポリシーとその根拠
234巻12号(2010);View Description Hide Description慢性腎臓病(CKD)における骨ミネラル代謝の異常は,生命予後にも影響を及ぼす病態としてとらえられるようになった.2006 年,わが国の二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン〔日本透析医学会(JSDT)ガイドライン:JSDT/2HPT ガイドライン〕では,血清 P の管理目標値は 3.5~6.0 mg/dl,血清 Ca の管理目標値を8.4~10.0 mg/dl,血清 iPTH 値の管理目標値は 60~180 pg/ml と設定されている.その根拠は,管理目標値内の患者の生命予後が良好であったという横断研究によるものである.その後,塩酸シナカルセトなどの新規薬剤が上市され,ガイドラインの見直しがされている.生命予後をアウトカムとした場合,その結果を評価するまでの間に CKD-MBD の治療法が変化しているというジレンマが存在する.しかし,その矛盾を内包しながら,目の前の患者にどの治療が最善であるかを考えるヒントの多くをガイドラインが与えてくれることも事実である. -
保存期CKD-MBDにおける病態とコントロール―遅すぎる透析期での治療介入
234巻12号(2010);View Description Hide Descriptionさまざまな臨床研究の結果から透析期からの治療介入では遅すぎることが明らかとなり,CKD-MBD のフォーカスは保存期に移ろうとしている.保存期 CKD-MBD の治療介入を考えるうえで,まずその病態を明らかにすることは重要なことである.しかし,こと CKD-MBD に関しては世界的に見ても臨床知見が不足しており,ガイドラインというジグソーパズルを構成するには十分なピースがそろっていないのが現状である.本稿では今後のさらなる臨床研究に期待をよせつつ,これまでにわかっている知見をもとに,現時点で考えうる治療戦略についても簡単に触れた. -
リンの役割とそのコントロール
234巻12号(2010);View Description Hide Description慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)は CKD 患者の生命予後を規定する疾患概念であり,なかでもリン(P)代謝異常はもっとも重要な役割を担っている.高 P 血症自体が心血管系疾患の罹患率や生命予後に独立して関連するのみならず,CKD-MBD の主要病態である血管石灰化や二次性副甲状腺機能亢進症に深く関与していることが示されているからである.Fibroblast growth factor-23(FGF23)の同定から,CKD 領域においてもあらたな P 代謝調節機構の解明が進んでいる.高 P 血症治療薬である P 吸着薬は,血管石灰化や生命予後への影響に薬剤間での優劣が認められるのかどうかは一定の見解が得られていない.P 代謝異常がもたらす CKD-MBD の各種病態への関連性の解明とともに,生命予後改善に貢献する P 吸着薬を中心としたP 代謝改善薬開発の進歩が期待される. -
副甲状腺機能をどうコントロールするか―CKD-MBD:あらたな治療戦略をめざして
234巻12号(2010);View Description Hide Description“腎性骨異栄養症とよばれていた病態”は全身性疾患としてとらえられるようになり,“慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常 CKD-MBD)”という新しい概念が提唱された.これを踏まえて日本透析医学会(JSDT)から,日本人の生命予後に基づいた二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)ガイドラインも策定された.その後,日本の臨床現場においても炭酸ランタン,カルシミメティックス(シナカルセト)といった新薬が使用可能となった.一方,2009 年に国際腎臓病診療ガイドライン機構(KDIGO)から,グローバルスタンダードガイドラインが示された.これによると「CKD 5D 患者において,PTH 濃度をそのアッセイ法の正常上限値の 2~9 倍に維持するのが望ましい」とされ,副甲状腺インターベンションの適応は,リン吸着剤,活性型ビタミン D3,そのアナログ,カルシミメティックス,あるいはその併用でコントロールできないとされている.具体的な適応値は示されていない.今後,生命予後に最適な PTH 濃度,骨折予防に最適な PTH 濃度,骨回転・血管石灰化に最適な PTH 濃度を考慮しながら,患者の病態の変化方向と過去の治療の経緯を総合的に把握し,副甲状腺機能を考えなければならない.本稿では各種ガイドラインの動向と使用可能な薬剤,副甲状腺インターベンションを通して,副甲状腺機能亢進症の治療戦略を再考する. -
CKD-MBDの骨代謝
234巻12号(2010);View Description Hide Description末期腎不全患者には,骨折をはじめとするさまざまな骨・関節トラブルが頻繁に起こる.近年,慢性腎臓病(CKD)患者に併発する多様なミネラル代謝異常の各症候は,不可分であるひとつの全身性疾患をなすとしてCKD-MBD と総称されるようになった.しかし,CKD 患者には全身性のミネラル代謝異常を原因としない骨独自の代謝障害も認められる可能性が高い.したがって,CKD 患者の骨障害をすべて CKD-MBD の部分症状といってよいかどうかにはコンセンサスがない.すくなくとも CKD-MBD の組織分類は CKD 患者の骨を障害する多様な因子のうちのほんの一部しか考慮に入れていない.そもそも生検所見を日常臨床のナビゲーターに用いることは戦略として無理なのであり,組織分類に依存しない骨診療の方針をあらたに確立することは喫緊の課題であろう. -
CKDにおける血管石灰化の管理
234巻12号(2010);View Description Hide Description動脈硬化性心血管病変が透析患者の予後を決定的に左右することは周知の事実である.血管石灰化も,この“動脈硬化”という言葉の定義のなかに含まれる血管障害である.同じ動脈硬化でも,いわゆる血管が狭窄する粥状硬化と血管が硬くなる血管石灰化とでは,もたらされる心血管系への修飾の現れ方や,予後への影響も大きく異なってくる.一般的に粥状硬化合併患者ほど予後は悪くないものの,血管石灰化の合併は予後を左右する重要な因子である.何の検査を用いて石灰化を評価するのか,また CKD 患者における血管石灰化の臨床病態およびその管理について概説する.
-
-
フォーラム
-
- 逆システム学の窓34(特別編)
-
身体の“公共性”と“商品性”─生体肝移植のドナーとして脳死移植を考える
234巻12号(2010);View Description Hide Description現在,筆者は生体肝移植のドナーとなり,東大病院に入院中である(8 月 17 日現在).今回と次回の 2 回で,肝移植の手術までと,手術の体験をもとに,移植医療のもたらす健康観および医療技術の変化について,検討してみたい. 筆者は従来,臓器移植は,健康な人に傷をつけて臓器を提供してもらうため,医療としては限界があると考えていた.しかし,20 年来,原発性胆汁性肝硬変である家内の症状が,黄疸,静脈瘤,腹水など悪化していくなかで,生体肝移植のドナーとなれることが嬉しいことであり,筆者にとってむしろ心配は,もはや若くない自分の肝臓がドナーとして役に立たない可能性があることであった.ドナーとして役に立たてることが健康の目的となるという価値観の転換がおきたのである. こうした 2 つの相反する感情はどこからくるのであろうか.“健康”を,従来は特定の個人のみの“健康”としてみていた.しかし,実際には,妻の健康が害されれば,夫である私の人生の意味も失われる,という意味で,家族の健康というものが存在する.妻が死ねば自分の半分は死んだようなものである.同じことは子どもの健康,親の健康でも存在する.人間の定義として,その人のもつ“社会関係の総体”という定義の仕方がある.同様な意味で,その人が関係をもつ人々の“健康の総体”という概念が必要となるであろう.そうするとドナーとなることが“喜び”か“害”かは,ドナーとレシピエントの関係に依存する. しかし,筆者の入院と軌を一にして,ドナーカードなしの脳死移植が,堰を切ったように一気に開始された.この現状には,まだ大きな課題がある.実際にドナーとなって周囲の患者や家族を見てみると,ドナー側に大きな変化が起こっているのだ.たとえば従来は,衆議院前議長の河野氏のように子から親へあるいは兄弟間での移植が多かった.しかし,移植コーディネーターによる説明制度が徹底されてくる中で,子から親へ(いわば未来から過去へ)の移植と,兄弟間の移植が減る一方で,夫婦間が増えている,という現実がある.この背景にあるのは家族間でさえ,“喜び”か“害”かは,紙一重であるということである. - 患者アドボカシーの実践④
-
-
連載
-
- 動物の感染症から学ぶ 5
-
E型肝炎ウイルス―食品媒介性の人獣共通感染症
234巻12号(2010);View Description Hide DescriptionE 型肝炎は,小型球形の E 型肝炎ウイルス(HEV)の感染による急性ウイルス性肝炎である.途上国ではおもに水系感染であるが,わが国では汚染された食品や動物の臓器・肉の生食による経口感染事例が報告されている食品媒介性ウイルス感染症である.わが国の養豚を対象とした疫学調査から HEV に対する抗体陽性率は高く,全国的に本ウイルスが分布している.日本で分離されているウイルスの遺伝子型は,3 型と 4 型である.ブタ以外の動物ではニワトリ,ウシ,ヒツジ,ヤギ,イヌ,ラットおよびニホンザルで HEV 抗体検出が報告されている.わが国で HEV 遺伝子が検出された例は,ブタ,ラット,イノシシおよびシカである.HEV は,ブタでは臨床症状を伴わないが,多くのブタに蔓延している人獣共通感染症として公衆衛生上重要な感染症である.
-
速報
-
-
日本語版不適応行動尺度の信頼性と妥当性の検討
234巻12号(2010);View Description Hide Description社会生活能力は適応行動と不適応行動により規定される1,2)が,わが国には適応行動の程度を測定する質問票として新版 S-M 社会生活能力検査3)があるものの,不適応行動を測定する質問票はみあたらない.不適応行動は幼少期から連続してみられる行動2)であり,不適応行動の有無や程度の測定は発達障害の早期発見に役立つものと期待される.そこで,Vineland AdaptiveBehavior Scales(VABS)4)の Maladaptive BehaviorDomain を基盤とし,日本語版不適応行動尺度(以下,不適応行動尺度)を作成した2).本報告ではその信頼性と妥当性について検討した.
-
-
TOPICS
-
- 遺伝・ゲノム学
-
- 循環器内科学
-
- 免疫学
-