医学のあゆみ
Volume 235, Issue 1, 2010
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【10月第1土曜特集】 輸血医療・細胞療法─現状と課題
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- 輸血医療の今後の展望
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輸血医療と各臨床領域との連携
235巻1号(2010);View Description Hide Description総合医学である輸血医療は,関連する研究領域で得られた英知を年間 80~100 万人の患者に応用実践している.500 万人の献血者と安全な血液を製造供給している赤十字社をなくして輸血医療は成立しない.加えて,輸血療法の実施に関する指針(厚生労働省)は適正で安全な輸血治療の普及におおいに貢献した.近年は宗教的輸血拒否,危機的出血,産科危機的出血,末梢血幹細胞アフェレーシス,院内血液製剤の製造基準など,関連する臨床学会との連携のもとに,医学の進歩を安全に院内に導入できるガイドライン類を作成・公表している.さらに,輸血と細胞治療にかかわる医療スタッフ教育研修には関係団体と学会の協力を得て,認定輸血検査技師(1998)を皮切りに,自己血輸血看護師,(臨床)輸血看護師,アフェレーシスナース制度が 2010 年からスタートする. - 献血供給体制の変革と輸血副作用の現状と対策
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日本赤十字社血液センターの集約化の意義と課題
235巻1号(2010);View Description Hide Description血液センターでは“安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律”に基づき,血液製剤を安定的に供給するために需給管理を行っている.しかし,需給管理は都道府県単位で行われているため,規模が小さい血液センターでは,輸血に使用する血液量と,献血により確保される血液量のバランスが崩れることにより,血液の在庫を安定的に維持することが困難になっている.施設規模による格差は少子高齢化の進行に伴いさらに拡大すると予想される.格差の拡大は経営にも影響を及ぼすことになり,都道府県単位での事業運営が維持できないおそれもある.全国の血液センターが適正に在庫を維持し安定的に血液を供給するためには,施設間の連携を強化しスケールメリットを最大限にいかした運営体制の構築が必要である.そこで,全国を 7 つのブロックに分け,ブロック内施設の需給に関する管理機能を集約し広域的に運営することで施設間格差を是正する試みが進められている. -
血液センターへの輸血副作用報告―非溶血性輸血副作用と輸血感染症の情報の実態
235巻1号(2010);View Description Hide Description日本赤十字社血液センターのヘモビジランスシステムでは,臨床医より輸血による副作用と輸血感染症の報告を受け,患者検体や献血者の保管検体を用いてその原因を分析している.溶血性副作用の報告数は少ないが,発熱,アナフィラキシーを含めたアレルギー性副作用,輸血関連急性肺障害,血圧低下,移植片対宿主病などの中等症または重症例の報告が蓄積されており,現在の日本での輸血医療の実態を概観できる.輸血感染症には B 型肝炎,C 型肝炎,E 型肝炎,HIV 感染,ヒトパルボウイルス B19 感染などがある.輸血後 B 型肝炎を根絶することはなかなか困難である.C 型肝炎と HIV 感染は非常にまれである.E 型肝炎やヒトパルボウイルス B19 感染症は,症例が見逃されている可能性がある.いずれにしても,輸血前後の患者検体の保管が原因究明のために必須である.また,輸血による細菌感染症の特定のためには,輸血された製剤の適切な保管が必須である. -
受血者を輸血感染症から守る医療機関の体制―輸血前検体保存と輸血前後感染症検査
235巻1号(2010);View Description Hide Description輸血はヒトの血液を原料とするため,その使用によりさまざまな副作用が発生する.なかでも輸血後肝炎に代表されるウイルス感染症伝播は社会問題になった.受血者の輸血前検体保存や輸血前・輸血後のウイルス感染症マーカー検査の実施が推奨され,各医療機関における取組みが進みつつある.しかし,これらの対策の有効性や費用対効果はまだ明らかにされていない.“輸血業務に関する総合的アンケート調査”の結果から,約9 割の施設では輸血前検体保存を行っていること,“輸血療法の実施に関する指針”に示されている輸血前検査項目の採用率が 4 割強にすぎないこと,受血者へのウイルス感染をみつけるためにもっとも重要な輸血後検査の実施率は非常に低いことが判明した.今後,アンケート調査結果を考慮に入れた効率的な輸血感染症対策がとられていくことが望まれる. -
輸血療法の有害事象の検索:ヘモビジランス―その現状と将来
235巻1号(2010);View Description Hide Descriptionヘモビジランス(輸血の安全監視体制)とは,「献血者の選択から患者の追跡調査に至るまでの輸血の全過程を前向きに監視することによって,有害および未知の事象を検出し,その原因を分析・評価し,必要な対応策を示しあるいは事前に警告を発する等によって有害事象の再発および被害の拡大を防ぐこと」である.2008年より“日本における輸血副作用のサーベイランスシステムの構築”研究班で,Web を介した施設格差のない信頼性のある輸血副作用の全数管理システムの整備を開始した.2010 年から大学輸血部 34 施設があらたにサーベイランスに加わった.今後,サーベイランス参加の医療機関が全国へと拡大することで,これまで自発報告に基づくサーベイランスを行ってきた日本赤十字社の事業を補完することができる.こうした基盤整備は世界の標準にもマッチしており,日本の輸血副作用の完全な把握につながり,輸血医療に対する行政と血液の安全性確保に貢献するものである. -
輸血関連急性肺障害(TRALI)の病態解明と対策
235巻1号(2010);View Description Hide Description輸血関連急性肺障害(TRALI)は輸血に伴う重篤な副作用のひとつである.輸血に伴う副作用で死亡する患者のなかで TRALI によるものが多くを占めていることが判明してきており,対策が喫緊の課題となってきている.製剤中に含まれる白血球抗体(HLA 抗体,HNA 抗体など),活性脂質(Lyso PC)などの生理活性物質と患者側の素因が TRALI の発症に関与していることが徐々に明らかになってきている.原因のひとつである白血球抗体は経産婦の血液に含まれることが多いため,血漿成分を多く含む製剤やその一部(新鮮凍結血漿,プール血小板製剤の浮遊血漿)をできるだけ男性由来の血液から製造するという対策が,血液の供給にそれほど支障なく簡便であることから,イギリスをはじめとして欧米各国で導入され,TRALI の予防に一定の効果をあげている.日本でも血漿製剤については同様の取組みが行われつつある.しかし,血小板製剤をすべて成分献血から製造している日本では,女性由来の血小板製剤を製造しないことは血小板製剤の供給不足に陥る可能性が高く,あらたな対策が必要となってきている. - 各領域・病態における輸血療法
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輸血関連急性肺障害(TRALI)の病態解明と対策
235巻1号(2010);View Description Hide Description貧血は癌患者の 40~50%に存在する.その原因はさまざまであり,腫瘍からの出血に伴う鉄欠乏性貧血をはじめ溶血性貧血,および鉄利用障害や栄養障害,腫瘍細胞の骨髄浸潤による赤血球産生抑制のほか,癌化学療法による造血幹細胞障害や内因性エリスロポエチン(EPO)産生低下などが考えられる.貧血は患者の QOLを悪化させ予後にも悪影響を与える.癌化学療法時の貧血や血小板減少に対して輸血療法が唯一の治療法であり,その場合は血液製剤の使用指針に準じ,不必要な輸血を避け適正輸血を行う.貧血の改善を図ることで癌患者の QOL 向上が期待されることから,貧血の治療を積極的に行う必要がある.わが国では現在保険適応がないが,癌化学療法時の貧血に対して EPO 製剤の投与は有効であり,治療ガイドラインに準じて使用することで,血栓症などの合併症のリスクを高めることなく,同種血の回避が可能となる.近い将来,EPO 製剤が使用可能になることを期待する. -
肝切除時の輸血療法の要点―安全な肝切除と輸血の適正使用の両立をめざして
235巻1号(2010);View Description Hide Description肝切除では術後の肝不全をいかに抑制するかが最重要ポイントである.周術期の新鮮凍結血漿(fresh frozenplasma:FFP)の投与は肝不全予防に有効とされ,習慣的に使用されがちだったが,当科では臨床研究を 2 つ行い,その結果をもとに,FFP の使用基準を厳格化し,自己血漿貯血法を開発した.肝切除の安全性を最優先に確保しつつ,輸血の適正使用をめざしていくべきである. -
心臓血管外科手術における輸血療法
235巻1号(2010);View Description Hide Description心臓血管外科手術では人工心肺の使用などにより,希釈性・消費性凝固障害,血小板数や機能の低下をきたしやすく,止血困難となりやすい.したがって,リスク因子や出血に伴う病態を把握し,的確に対処する必要がある.しかし,赤血球製剤,新鮮凍結血漿,血小板製剤それぞれに対する輸血トリガー値に関して明確なエビデンスはいまだ確立されていない.よって,ガイドラインなどで推奨される輸血トリガー値を参考としながら患者の臨床症状,リスク因子を勘案しながら輸血を判断することが現時点では最善であると考えられる.また,わが国では保険適応がないものの,出血による急性低フィブリノゲン血症に対してクリオプレシピテートや濃縮フィブリノゲン製剤が有効である可能性がある.最近あらたな試みとして,大量出血症例において早期から全血組成と同様の割合で,赤血球輸血に加え,新鮮凍結血漿,血小板製剤などの投与を行う試みがなされ,一定の成果が報告されている. -
大量出血時の病態と輸血療法―フィブリノゲン濃縮製剤投与の有用性
235巻1号(2010);View Description Hide Description生体で認められる出血には,主として血管の破綻による物理的出血(局所出血)と,止血に関する血液成分の異常のために起こる全身性出血傾向による.したがってそれに対する対応としては,物理的出血では局所処置(局所止血)が第一義的であり,いくら血小板や血漿製剤に投与を行っても止血はできない.一方,その出血の原因が止血に関する血小板,凝固因子およびその制御因子などの欠乏または機能異常による場合には,適切な検査を参考にして欠乏あるいは機能異常を呈している成分(ときには複数)の十分な補充が必要である.とくに術中の大量出血時では凝固因子,血小板の漏出,消費,枯渇が惹起され,さらに大量出血という悪循環に陥る.なかでもフィブリノゲンは凝固系の最終的な基質でありながら,もっとも早期に止血レベル以下に減少することから,もっとも早期でかつ十分な補充療法が求められる. - 輸血医療の現状―適応基準と適正化方策
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輸血実施管理体制―輸血療法に関する全国アンケート調査
235巻1号(2010);View Description Hide Description日本輸血・細胞治療学会などが毎年行っている輸血医療の総合アンケート調査について,輸血管理体制や輸血療法実績に関する項目を中心に分析した.輸血療法委員会,輸血業務の一元管理体制,輸血副作用の報告体制などは,大・中規模の病院での高い整備率に対して小規模病院では相対的に低かった.また,輸血検査の24 時間体制や輸血用血液のコンピュータ管理システムは小規模病院での導入率が顕著に低かった.アルブミン製剤の使用状況を把握している施設は 2006 年以降急速に増加し,2009 年に輸血管理料は全体の約 35%の医療機関で算定されていた.病床数当りの濃厚赤血球(RCC),新鮮凍結血漿(FFP)や濃厚血小板(PC)使用量はいずれも病床規模が大きい医療機関が多い傾向を示し,2008~2009 年にかけてはそれぞれの製剤使用量が増加した.一方,赤血球製剤の廃棄率は輸血担当技師が認定輸血検査技師の資格を有している施設において低く,管理体制の質も適正使用に影響することが示唆された.以上の状況を踏まえて輸血管理体制のさらなる向上に努めることが重要である. -
新鮮凍結血漿の適応基準
235巻1号(2010);View Description Hide Description新鮮凍結血漿(FFP)はかつては栄養補給や赤血球製剤との“抱き合わせ輸血”などの不適切な使用法のために,海外に比べて日本での使用量が非常に多く問題視されてきたが,血液製剤の使用指針などの普及により大幅に使用量が少なくなった.しかし,FFP-LR の導入によって 1 単位に含まれる容量が変更となり再度使用量が増加している.また,輸血管理料の算定基準に FFP の使用量が含まれていることから,FFP 使用に対して使用指針に基づいた厳しい監視がなされている.現在の FFP の使用指針では,凝固因子を補充することによる出血の予防や止血を図ることに重点がおかれ,それ以外に関する適応はきわめて限られている.とくに,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などに対する血漿交換療法はその効果のエビデンスが明らかであるにもかかわらず,FFP を大量に使用するため,輸血管理料の取得の障害となる可能性があり,その実施が制限されていることがある.不適切な使用は厳に慎むべきであるが,本当に必要な FFP の使用を制限するような輸血管理料の基準の再検討を希望している. -
予防的血小板輸血の適応基準―最新のエビデンス
235巻1号(2010);View Description Hide Description血小板輸血は血小板の減少や機能異常による出血の予防(予防的投与)や治療(治療的投与)に用いられ,その多くが予防的投与を目的としている.血小板は保存期間も短く適正使用を行うべきもっとも重要な血液製剤であり,その適応基準に関する科学的根拠の集積が欧米で精力的に行われている.1 回に使用する血小板の用量は,ある一定の範囲内では出血の予防効果に影響しないが,用量の増加で輸血間隔は延長し,したがって輸血回数を減じることができる.一方,用量を減じることで,血小板の使用量(単位数)を減らすことができる.急性白血病などの定型的な疾患に対する予防的投与の輸血トリガー値は血小板数 1 万/μl であり,十分な科学的根拠の集積により標準的な数値と考えられる.血小板数 0.5 万/μl を切ると出血のリスクは大きく増加する.適正使用の観点から血小板の予防的投与の意義を,治療的投与と比較して検証する複数のランダム化比較試験が欧米で行われている. -
輸血療法委員会による適正な輸血療法の推進―患者に質の高い輸血医療を提供するために
235巻1号(2010);View Description Hide Description輸血療法の実施体制を安全なものとし,献血由来の貴重な輸血用血液製剤を有効利用するために,院内輸血療法委員会の活動には大きな期待が寄せられる.とくに平成 18 年(2006)4 月より輸血管理料があらたに設けられ,これを機会に輸血療法委員会を立ち上げた施設も多い.しかし,具体的な活動方針や活動内容について手探り状態の施設も見受けられる.本稿では委員会活動が真に有効となるために必要な点について述べる. -
合同輸血療法委員会の意義と課題―相互比較による輸血療法適正化をめざして
235巻1号(2010);View Description Hide Description国によって輸血療法適正化が提言されて久しい.徐々にではあるが,輸血管理部門の体制整備は進んできている.輸血管理料の設定は大きな力になった.残された課題は,ひとつの医療機関内で力のある医師による不適正輸血療法の是正である.この問題の解決には個別の輸血療法委員会では限界がある.地方行政単位で合同の輸血療法委員会を開催し,地域の同規模の医療機関と相互比較を行い,大きく異なる輸血療法の実態を明らかにすることが解決の近道である.県レベルのサイズは,大学病院の輸血専任教官を中心に行政,血液センターが協力すれば容易にこのような会議を開催することができる.もうひとつの課題であるアルブミン適正使用は,輸血管理部門に取扱いを一元化することが望ましい.しかし,病院薬局との関係で,現時点では解決が容易ではなく今後に課題を残している -
輸血用血液の廃棄削減―社会の財産としての血液
235巻1号(2010);View Description Hide Description日々の医療において輸血用血液はつねにある程度の余裕をもって準備されている.そのため,一定の廃棄が発生することはやむをえない.そのようななか,血液センターの事業目標は過不足のない供給であり,最近の血液センター内の赤血球製剤,血小板製剤の廃棄率は 1~2%となっている.また,医療機関でも廃棄削減の努力がなされており,赤血球製剤の平均廃棄率は 5~6%と低下傾向にある.しかし,院内の血液管理体制が整備されつつある大病院においても血液の廃棄率には格差があり,今後も改善の余地がある.また,中小病院では血液管理体制の整備だけでは廃棄削減に限界があり,病院間転用を行うことが解決策となる.そのためには院内だけでなく病院間での取り決めづくりや連携が重要な問題となることから,輸血医療に携わる人びとがたがいに協議していくことが必要である. - 貯血式自己血輸血の要点
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クリニカルパスに基づいた安全で適正な自己血輸血の実践
235巻1号(2010);View Description Hide Description現在,日本の多くの病院で,輸血を必要とする外科的手術を受ける患者に,自己血輸血が実施されている.日本の赤血球製剤の輸血の約 8%が自己血輸血であり,日本は世界でもっとも積極的に自己血輸血を推進している国である.自己血輸血が医学的に優れている点は,同種血輸血では一定の割合で発生する同種免疫副作用が回避できること,そして既知および未知の病原体の感染を回避できることである.さらに,社会的な意味で優れている点は,本来,輸血のレシピエントである患者が輸血のドナーにもなっていることである.しかし,自己血輸血のドナーは外科的手術を受ける予定の患者であり,健康面では弱者である.したがって,この患者に対して不利益や有害事象をできるかぎり発生させないように,安全で適正な自己血輸血を実施することが肝要である.そのためのツールとしてクリニカルパスの技法は,臨床的にきわめて有用である. -
自己血外来
235巻1号(2010);View Description Hide Description現在,もっとも安全とされる自己血輸血の安全性が真に確保されているかについて,慎重に考える必要がある.採血(献血),検査,処理,供給のすべての工程が赤十字血液センターで実施されており,高い安全性が確保されている同種血輸血に対して,自己血輸血は中小規模から大規模病院までさまざまな施設において実施されている.そこで重要なことは,自己血輸血のためのシステムが導入され,自己血輸血の計画,採血,処理,管理,供給のすべての工程が専門性の高い輸血部スタッフによって実施されているかである.東大病院では,安全かつ適切な自己血輸血の実施をめざして“自己血外来”を設置し,すべての工程をシステム化し,スタッフの教育,役割分担によって自己血輸血の普及に努めている.しかし,自己血輸血を確実なものにするためにはまだ残された課題も多々あり,これらの対策を検討していく必要がある. -
学会認定・自己血輸血看護師制度
235巻1号(2010);View Description Hide Descriptionわが国の同種血輸血は安全性が劇的に向上したが,少子高齢化に伴う献血血液供給量不足の問題がある.輸血感染症や輸血後 GVHD および同種免疫抗体発生などを防止するもっとも良質な輸血療法である自己血輸血の推進が望まれている.ところが,わが国では輸血部のない施設が多く,看護師あるいは研修医が自己血採血を行うことが多いため,採血時の細菌汚染率が高いことや返血時の血液の取り違えの危険性が指摘されている.そこで,適正で安全な自己血輸血を推進する看護師の育成を目的として,学会認定・自己血輸血看護師制度を設立した.輸血療法への看護師の積極的な関与が少ないわが国において,自己血輸血看護師が自己血輸血のみならず臨床の輸血においても指導的な役割を果たし,輸血療法に対して看護師が積極的に関与するための“糸口”になることが望まれる. - 細胞治療のためのcell processingの要点
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末梢血幹細胞採取の現状と課題―学会指針の改訂と非血縁者間末梢血幹細胞移植の開始に際して
235巻1号(2010);View Description Hide Description造血幹細胞移植は,おもに造血器腫瘍や骨髄不全患者に対して治癒を期待しうる治療法としてすでに確立している.自家移植では簡便性などの理由から,現在は大半の症例で末梢血幹細胞移植が行われているが,同種移植ではわが国では,非血縁者間では骨髄しか利用できなかった.ようやく 2010 年 10 月から骨髄バンクにおいても末梢血幹細胞移植が可能になった.これを機に,日本造血細胞移植学会と日本輸血・細胞治療学会は末梢血幹細胞採取のガイドラインを改訂し,さらに採取した細胞の処理・保存管理のためのガイドラインをあらたに策定した.これらのガイドラインは同種移植に限らず,自家移植を含めた造血幹細胞移植を行うわが国のすべての施設が遵守すべき指針であり,欧米に遅れている移植医療における基盤整備が進むことが期待される.本稿では,これらに関して末梢血幹細胞採取に絞って解説する. -
院内における血液細胞処理のための指針の概要
235巻1号(2010);View Description Hide Description日常診療として行われる造血幹細胞移植にかかわる細胞の処理(赤血球除去,血漿除去,凍結,解凍など)に対するガイドライン(“院内における血液細胞処理のための指針”,以下“指針”)が,わが国ではじめて作成された.この“指針”は,欧米の細胞プロセシングのガイドラインである“FACT-JACIE Standards, 3rd edition”をもとに,わが国の実情に合わせて簡素化され,作成された.この“指針”を順守することによって,細胞製剤への汚染を防ぎ,高い品質の細胞製剤を製造することができる.また,製造された細胞製剤に不備が生じた場合には原因を調査することも可能である.“指針”には細胞処理の一般的事項,赤血球除去,血漿除去,細胞の凍結などに対する作業手順書が添付され,どの施設でも利用できるように便宜が図られている.
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