医学のあゆみ
Volume 235, Issue 11, 2010
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あゆみ 動き出した“エコチル調査”─環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査」
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あゆみ 動き出した“エコチル調査”─環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査」
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“エコチル調査”前史
235巻11号(2010);View Description Hide Description環境(とくに化学的環境)が子どもの発達・発育に及ぼす影響についての関心が高まっているが,子どもは環境からの影響に対する感受性が高く脆弱でもある.胎児性水俣病の経験などから胎盤関門は完璧ではなく,胎児期には成人より化学物質に対する感受性が高い時期(time window)があると認識されるようになった.動物実験で,胎仔期曝露は出生後の仔の発達・発育に作用し,生涯にわたって種々の影響があらわれてくる,とする行動奇形学の枠組みが形成された.出生後の環境曝露も小児独自の行動特性などによって,成人よりリスクが高い.このような背景から“子どもの健康と環境に関する疫学調査”が必要と考えられた.そして出生コホート調査として,母体血や臍帯血中の化学物質汚染を中心に,さまざまな環境の発達・発育への影響を調べる研究が計画されることになった.
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あゆみ 動き出した“エコチル調査”─環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査」
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“エコチル調査”に至るまで
235巻11号(2010);View Description Hide Description本稿では,“子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)”が発足するまでの経緯を紹介する.エコチル調査は 2008~2009 年にかけて 2 カ年間のパイロット調査が行われ,2010 年から 10 万人を対象とする本格調査がスタートした.環境省のような小さな役所で,調査期間 16 年,予算総額 900 億の巨大プロジェクトが発足したことは“奇跡”としか言いようがない.エコチル調査は,シラクサで行われた G8 環境大臣会合,2009 年夏の政権交代,国民がみつめるなかでの事業仕分け,総合学術会議での評価など,いくつもの節目を乗り越えて,ようやくスタートに漕ぎ着けた.本稿はその間の経緯を記録した唯一の文章である.
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あゆみ 動き出した“エコチル調査”─環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査」
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“エコチル調査”の概要とコアセンターの役割
235巻11号(2010);View Description Hide Description平成 23 年(2011)1 月から,“子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)”のリクルートが全国ではじまる.調査地区に居住する妊婦をリクルートし,10 万人の子どもを 13 歳に達するまでフォローアップするコホート調査である.本調査により環境要因,とくに化学物質の曝露や生活環境が,胎児期から小児期にわたる子どもの健康にどのような影響を与えているのかについて明らかにされ,化学物質などの適切なリスク管理体制の構築につながることが期待されている. -
“エコチル調査”とメディカルサポートセンターの役割
235巻11号(2010);View Description Hide Descriptionエコチル調査は,環境中の有害物がどのように小児の発達・健康に影響を与えるのかを調査する大規模な前向きコホート調査である.コホート調査においてはエンドポイントあるいはアウトカムといわれる疾患や症状を呈しているかどうかの評価をきちんと行うことが重要である.メディカルサポートセンターは,臨床医学の専門的立場からコアセンターを支援し,詳細調査を中心としたアウトカム,つまり疾患の罹患や発達の程度についての測定方法の選択と統一した方法の策定,各種マニュアルの作成,アウトカム測定に関するユニットセンターへの指導,アウトカム測定者のトレーニングなどに関して指導的役割を担う. -
“エコチル調査”に望むもの: 公衆衛生・疫学の立場から
235巻11号(2010);View Description Hide Descriptionエコチル調査は公衆衛生・疫学にとって研究の発展,人材の育成,社会への貢献で意義がある.すなわち,胎児期からの大規模コホート研究(追跡調査)により,胎児期の環境曝露の影響について比較的まれな健康課題も明らかにできること,経年的データの解析や環境と個人の健康課題をマルチレベル解析などの新しい統計解析モデルを構築して解析する実践の場となること,さらに領域架橋によるあらたな研究成果が期待できることが研究面での意義である.本調査は 21 年にわたる研究であり,それを継続するための基盤のひとつとして若手の育成は欠かせない.化学物質を中心とする環境要因と健康の関係は動物実験や細胞レベルでは明らかになってきているが,エコチル調査のような大規模な人を対象とする研究によってはじめて社会実装できる成果が生まれ,予防や安全で子どもが健やかに育つ環境づくりの科学的根拠を提供できる.これにより疫学研究の重要性が国民に理解され,人を対象とした研究に協力が得られるような社会的コンセンサスが得られることを期待する. -
“エコチル調査”に望むもの:産科の立場から
235巻11号(2010);View Description Hide Description母体のなかで子宮胎盤循環により育まれ発達していく胎児は,環境化学物質も含めて実に多種多様の“環境”の要因から影響を受けている.生殖・周産期医療の領域では近年,先天異常の増加や出生時体重の低下傾向が問題視されており,環境因子の影響が懸念されている.また,最近注目を集めている学説のひとつに,成人期以降の健康と疾患発症の素因の起源は胎児期から乳幼児期に至る発達期の環境にあるという DOHaD(DevelopmentalOrigins of Health and Disease)理論があり,その epigenetic なメカニズムも解明されつつある.胎児にとっての環境の問題は子どもの健康を守るためのみならず,国民的疾患予防の観点からも重要なテーマであり,胎児に影響を与える環境因子をさまざまな側面から解析するエコチル調査のなかで有用な知見が得られることが期待されている. -
“エコチル調査”に望むもの:小児科の立場から
235巻11号(2010);View Description Hide Description全国約 10 万人の妊婦と出生児の 13 年間にわたる疾病調査を,環境ホルモン・化学物質の胎児への曝露調査に重ねて行うことで,因果関係を明らかにしようとする研究がはじまった.疫学・統計部門,産科部門,小児科部門のかかわる学際的調査研究となる.調査対象のほとんどは“健康小児”となり,一部が検証対象とされた“5 群の疾病を抱える小児”ということになるが,調査の性質上すべての小児の健診が基本となる.小児科医にとってはむしろ“健康小児”の調査が量的には膨大なものとなり,また過去にも今後もこのような大規模の調査を行うことは不可能であると思われることから,調査家族との密な連携を図りながら“子どもの健康に与える環境要因の調査”を加えていきたい.このために調査ユニット内に“健やか親子健診センター”を設け,子どもの健康・発育・発達に関する家族の意識の向上を図りながら,子育てや医療相談にあずかりつつ環境要因の調査を進めていきたい.そして調査結果が次世代の子どもの健康に役立つものとして利用されていくことを望んでいる. -
環境化学物質の次世代影響に関する わが国における研究事例―北海道スタディの概要とこれまでの成果
235巻11号(2010);View Description Hide DescriptionBirth cohort“環境と子どもの健康に関する北海道研究”を立ち上げ,約 10 年間調査を行ってきた.全道20,000 人規模と札幌市内 514 人の 2 つのコホートの特徴は, ①低濃度の環境要因に焦点を当て,②器官形成期の母体血および臍帯血の保存により胎児期の曝露測定を行い,③先天異常,体格,甲状腺機能,神経行動発達,アレルギー感染症などのアウトカムを対象に,リスク解析を行ったことであり,さらに,④個人の感受性素因に着目し,化学物質代謝酵素・Ah レセプターなどの遺伝子多型も考慮したハイリスク群の解明を行っている.その結果,ダイオキシン類濃度が高いほど児の出生時体重は有意に小さく,IgE 濃度は低く,生後の感染症罹患のリスクを上げた.影響は男児に,より顕著であった.喫煙では,母親の AhR 遺伝子と CYP1A1 遺伝子の特定の組合せで出生体重への影響がもっとも大きく,-315 g であった.ニトロソアミン類代謝活性化に関与する NQO1 遺伝子の多型でも,体重低下が-199 g で身長と頭囲にも有意の影響がみられた. -
わが国における研究事例:東北スタディ
235巻11号(2010);View Description Hide DescriptionTohoku Study of Child Development(TSCD)は,難分解性有機汚染物質(POPs)およびメチル水銀による周産期曝露の健康影響を検証するために立案された出生コホート調査である.東北地方の 2 地域で 2001 年から実施され,およそ 1,300 組の母児の協力を得て追跡調査が進められており,現在は 7 歳での調査が行われている.これまでに PCB やメチル水銀の曝露と出生児のいくつかの指標との間に関連性が示されており,わが国の現在の曝露レベルでも健康影響が懸念されることが示唆された.本稿では,TSCD の枠組みとその知見について紹介する. -
世界における先行出生コホート研究の教訓
235巻11号(2010);View Description Hide Description出生コホート研究は,妊娠中や授乳中に曝露する有害環境因子による健康障害を子どもが成長する過程で検証するために,世界各地で行われている.本稿では,有害環境因子としてメチル水銀,PCB とダイオキシン類,鉛を,また健康影響として神経系を扱った出生コホート研究を中心に概説する.そのなかで,環境省“子どもの健康と環境に関する全国調査”(エコチル調査)を遂行するにあたって重要と考えられる教訓を抽出する.
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フォーラム
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注目の領域
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カナダにおける医薬品安全対策と医療データベース(1)―保健省の取り組みと州のデータベース
235巻11号(2010);View Description Hide Descriptionカナダ保健省は,独自の医薬品安全性監視プログラムである Canada Vigilance を通じて医薬品の有害反応報告の収集を強化すると共に,医薬品の安全性情報をオンラインサイト MedEffect から積極的に発信している.また,カナダの各州には,国民皆保険制度を支える大規模な医療行政管理用データベース(DB)が整備されており,これらの DB は大規模な観察研究に活用されて重要な安全性情報が得られている.これらの情報はわが国の医薬品安全性確保にとっても有用な情報となっている.
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速報
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特発性正常圧水頭症における上肢運動機能―機能MRIによる評価
235巻11号(2010);View Description Hide Description特発性正常圧水頭症(iNPH)ではさまざまな非侵襲的検査が試みられてきたが,より精度の高い診断法が求められている.今回著者らは腰椎腹腔短絡術(LPシャント)を施行して症状が改善した正常圧水頭症の患者に対して,機能 MRI を施行し,臨床症状との相関を検討した.
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TOPICS
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- 生理学
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- 膠原病・リウマチ学
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- 腎臓内科学
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