医学のあゆみ
Volume 236, Issue 4, 2011
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あゆみ 慢性炎症と生活習慣病・癌―病態メカニズムのあらたな理解
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脂肪組織における慢性炎症・自然炎症と生活習慣病
236巻4号(2011);View Description Hide Description内臓脂肪型肥満を背景として発症するメタボリックシンドロームは,高血糖や脂質代謝異常,高血圧を重複して有する病態である.近年,その基盤病態として全身の軽度の慢性炎症反応が注目されている.肥満は体脂肪が過剰に蓄積した状態であると定義され,脂肪組織では脂肪細胞の肥大化(中性脂肪蓄積量の増大)と脂肪細胞数の増加が認められる.一方,肥満の脂肪組織では脂肪細胞自身の変化のみならず,血管新生や細胞外基質の増加,マクロファージや好中球,T リンパ球などの免疫担当細胞の浸潤が増加することが知られている(図 1).そのような“脂肪組織リモデリング”とでもいうべきダイナミックな組織学的変化により引き起こされる炎症性変化は,局所において脂肪細胞から分泌される生理活性物質“アディポサイトカイン”の産生調節の破綻を引き起こし,メタボリックシンドロームの病態形成に関与する1).また,“脂肪組織リモデリング”における炎症性変化のすくなくとも一部は病原体センサーを介することも明らかになってきた.非病原体(内在性)リガンドによって病原体センサー刺激を介して誘導される炎症を理解するために,“自然炎症”という概念が提唱されており,メタボリックシンドロームとの関係が注目されている.本稿では,“脂肪組織リモデリング”の原因となる脂肪組織のさまざまな変化,とくに脂肪細胞・免疫担当細胞の変化と脂肪組織における慢性炎症・自然炎症について概説する. -
小胞体ストレスと慢性炎症性疾患
236巻4号(2011);View Description Hide Description小胞体は蛋白質の品質管理をするオルガネラとして重要な役割を果たしている.さまざまなストレスで小胞体の機能に破綻が生じると,高次構造の異常な蛋白質が蓄積し,細胞は恒常性を維持するためにさまざまな小胞体ストレス応答を呈するようになる.その一連の応答は,慢性炎症性疾患を含む多くの病態と関連することが示唆されている.最近,小胞体ストレスが糖尿病や動脈硬化と関連することが示された.小胞体ストレス応答により惹起された炎症がインスリンシグナルを抑制し,インスリン抵抗性・糖尿病の発症の一因になっている.著者らは,小胞体のケミカルシャペロンが 2 型糖尿病の治療薬になる可能性を示した.また,動脈硬化の成因に炎症が深くかかわることが示されているが,プラークの形成に小胞体ストレスがかかわることが報告されている.本稿では最近の研究成果を交えながら,とくに小胞体ストレスとインスリン抵抗性・糖尿病および動脈硬化との関連について概説する. -
アンジオポエチン様因子2(Angptl2)と 循環・代謝性疾患
236巻4号(2011);View Description Hide Description近年,動脈硬化症,肥満・メタボリックシンドローム,糖尿病,慢性腎臓病などの循環・代謝疾患,Alzheimer病などの神経変性疾患,癌の発症・浸潤・転移に共通する基盤病態として“慢性炎症”が注目されている.このことはこれらの疾患に対して,あらたな観点から病態形成メカニズムをとらえ直し,鍵となる分子を同定することが新規治療戦略を考えるうえで重要であることを示唆している.最近,著者らはアンジオポエチン様因子 2(Angptl2)が慢性炎症に関与する重要な鍵因子のひとつであることを明らかにし,Angptl2 シグナル制御による肥満および随伴する糖代謝異常の新しい治療戦略の可能性を報告した.本稿では,慢性炎症関連因子Angptl2 の動脈硬化性疾患およびメタボリックシンドロームにおける意義と治療標的としての可能性について,著者らの最新の知見をもとに紹介したい. -
老化と慢性炎症
236巻4号(2011);View Description Hide Description慢性炎症により病態が進行する現代の難治性疾患に共通する危険因子は加齢である.個体の老化とともに炎症が誘導されることが明らかになりつつある.100 歳を超える長寿者において炎症を抑制する遺伝型をもつことが報告されている.老化促進マウスでも炎症が促進され,寿命が延長される老化抑制モデルマウスでは炎症が抑制される.抗炎症薬により個体の老化,老化関連疾患が抑制できる.老化により炎症が誘導される分子機構の研究はまだ端緒についたばかりであるが,個体の老化に伴い増加する細胞老化が原因の候補のひとつと考えられる.細胞老化は種々の動脈硬化性疾患や癌の危険因子により誘導され,炎症性サイトカインを持続的に発現する.老化による慢性炎症誘導機構の解明は広く現代の難治性疾患の予防と治療につながり,人類の健康寿命を延ばす治療戦略につながる知見となる可能性を秘める. -
2型糖尿病と慢性炎症
236巻4号(2011);View Description Hide Descriptionここ十数年で,炎症の 2 型糖尿病との関連について臨床的側面・基礎的側面両方から多くの知見が供給され,2 型糖尿病の病態において慢性炎症が大きな役割を果たしていることが広く受け入れられるようになった.また慢性炎症は,動脈硬化・Alzheimer 病・骨粗鬆症・悪性腫瘍など,メタボリックシンドロームに関連する疾患に広く役割を果たしていることから,そのメカニズムの解明が病態の本質をついた治療の開発につながることが期待される.本稿では,2 型糖尿病を構成する 2 つの病態であるインスリン抵抗性と膵β細胞機能障害のうち,インスリン抵抗性については多くの優れたレビューが存在するため簡単に触れるにとどめ,とくにβ細胞機能障害における慢性炎症の役割について述べた後,慢性炎症をターゲットとした 2 型糖尿病治療の可能性について検討する. -
消化器がん発生における慢性炎症の役割
236巻4号(2011);View Description Hide Descriptionがんの発生には,がん遺伝子またはがん抑制遺伝子の変異による腫瘍化と腫瘍細胞の増殖を促進する生体反応が重要である.それぞれのステップをイニシエーション,プロモーションとよぶ.マウスモデルを用いた遺伝学的研究から,炎症反応で中心的役割を果たすメディエーターPGE2,NF-κB,および Stat3 が発がんのプロモーションに重要な役割を果たすことが明らかにされた.さらに最近の研究により,炎症反応がイニシエーションのステップにも関与することも示されている.ここではイニシエーション,プロモーションそれぞれの発がん過程での炎症反応の役割について解説する. -
大動脈瘤―慢性炎症のモデル疾患
236巻4号(2011);View Description Hide Description大動脈瘤は大動脈壁の局所的な慢性炎症による脆弱化と径の拡大が無症状のうちに進行し,ついには破裂をきたす致死的疾患である.病態には不明な点が多く治療法は外科的手法に限られるが,低侵襲治療のためには病態に基づく内科的治療法の確立が急務である.一般に慢性炎症性疾患は,持続するストレスにより炎症細胞浸潤を伴う機能的・器質的組織リモデリングが起こり,ホメオスタシスの維持が困難になる病態ととらえられる.大動脈瘤の場合,血圧負荷は数ある発症要因のひとつにすぎないが,いったん形成された瘤では血圧負荷が主要なストレスとして炎症を持続させ,壁組織のホメオスタシス機能(壁強度を維持する能力)を進行性に低下させると考えられる.近年の研究から,炎症病態の制御による大動脈瘤治癒療法の可能性が示された.大動脈瘤をモデル疾患とした研究からは,ヒト病態における慢性炎症の意義解明とあらたな治療法開発につながる知見が期待される. -
CKDと慢性炎症,心血管系疾患
236巻4号(2011);View Description Hide Description従来は透析などの末期腎不全患者において心血管系疾患が多いことが示されていたが,近年になり比較的軽度の腎機能低下から心血管系疾患が多くなることが示され,心腎関連症候群とよばれている.腎機能低下とともに,何らかの循環血液中の因子の変化が心血管系に作用すると考えられ,尿毒症物質や,それらによる直接的・間接的影響が研究されている.とりわけ,慢性腎臓病(CKD)における炎症マーカーと心血管系疾患との関連が強く示唆されており,CKD による慢性炎症とその原因について概説する.
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連載
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- 動物の感染症から学ぶ 15
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マダニから学ぶバベシア症制御の手がかり―感染症研究のあらたなパラダイム形成をめざして
236巻4号(2011);View Description Hide Description吸血性節足動物が媒介する動物・ヒトの原虫感染症の多くはその制御技術の確立が困難を極めるなか,バベシア症についても,いまだにワクチンなどの予防・治療技術は未開発の状況が続いている.著者らはバベシア症の媒介者(ベクター)であるマダニに注目し,マダニの吸血生理とバベシア原虫伝播の仕組み解明から,バベシア症制御法の開発に向けたあらたな方策を見出した.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち 109
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- 新“事故調”のあり方―診療関連死調査モデル事業から 9
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TOPICS
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- 循環器内科学
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- 膠原病・リウマチ学
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- 腎臓内科学
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