医学のあゆみ
Volume 236, Issue 5, 2011
Volumes & issues:
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【1月第5土曜特集】 ロコモティブシンドローム−運動器科学の新時代
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- 運動器疾患の疫学
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大規模住民調査からみえてきた運動器疾患の実態−ROAD study
236巻5号(2011);View Description Hide Description一般住民 3,040 人の X 線調査から推定したわが国の変形性膝関節症(膝 OA)の有病率(40 歳以上)は,男性42.6%,女性 62.4%,変形性腰椎関節症(腰椎 OA)の有病率は,男性 81.5%,女性 65.5%であった.骨粗鬆症(OP)の有病率は,腰椎 L2-4 で男性 3.4%,女性 19.2%,大腿骨頸部で男性 12.4%,女性 26.5%であった.70 歳以上になると男女とも 95%以上が OA か OP のいずれかの X 線所見をもっていることがわかった.一方,OA と OP いずれもありと診断されるものの頻度も 70 歳以上の女性に多かった. -
運動器疾患の長期縦断疫学研究
236巻5号(2011);View Description Hide Description運動器症候群の予防方法を解明するためには,その危険因子を明らかにすることが必要である.一般住民を対象とした長期縦断疫学研究により,運動器疾患罹患の実態を明らかにするとともに,栄養や運動,疾病罹患,飲酒や喫煙などの生活習慣,遺伝的素因などと加齢にかかわる運動器疾患の発症との関連を解明することができる.国立長寿医療研究センターでは無作為抽出された一般地域住民を対象に,老化・老年病に関する基礎データの収集のための長期にわたる集団の大規模な縦断研究「老化に関する長期縦断疫学研究(NILSLSA)」を平成 9 年度(1997)より行っている.NILS-LSA での調査から,日本人全体で骨粗鬆症は 1,000 万人,変形性膝関節症は 3,000 万人を超える患者がいると推計された.現在,遺伝子や生活習慣,体力,栄養などさまざまな要因についての縦断的な解析から高齢者の運動器疾患のリスク要因を明らかにし,予防方法を開発するための研究を行っている. -
転倒の疫学と予防対策−ロコモティブシンドロームの視点から
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionわが国では地域在宅高齢者において 1 年間に一度以上転倒を経験する者の割合はおよそ 15~20%と報告されている.しかし転倒の発生には,性(男/女),年齢(前期高齢者/後期高齢者),居住形態,認知機能など,さまざまな要因により大きな差異が存在する.老年症候群の代表的事象である転倒には,下肢筋力の減退を中心とするロコモティブシンドロームが関与している.本稿では転倒の疫学を概説するとともに,リスク評価や関連因子あるいは転倒により発生するもっとも重篤なイベントとなる大腿骨頸部骨折を含めた予防対策ついても述べる. -
DPCデータベースからみた日本整形外科の現状−超高齢社会を迎えて
236巻5号(2011);View Description Hide DescriptionDPC データベースを用いた統計解析を行った.延べ 1 年間の整形外科入院患者は 226,644 人であり,約33%が緊急入院であった.患者年代別の割合は 50 歳代(13.1%),60 歳代(16.4%),70 歳代(22.0%)と年齢とともに増加していた.専門分野別では脊椎,膝関節,股関節では 70 歳代にピークを迎え,外傷では 80 歳代が最高であった.高血圧,糖尿病,高脂血症など生活習慣病の合併が多くの患者でみられた.術後合併症では在院死亡が 0.41%,創部感染が 0.63%,肺塞栓症が 0.22%にみられ,2 %の患者ですくなくともひとつの合併症を生じていた.年代別にみると合併症の頻度は 60 歳代(2.0%),70 歳代(2.6%),80 歳代(3.7%)と年齢とともに上昇していた.在院死亡をみると 80 歳代以上では 1.4%に達しており,疾患別では大腿骨頸部・転子部骨折で 1.38%と高かった. -
地域在住高齢者の歩行能力に関する横断的・縦断的分析
236巻5号(2011);View Description Hide Description高齢者が自立した生活を送るうえで移動・歩行は,QOL の充実や社会活動を考慮した場合,もっとも重要で基本的な身体活動のひとつであることから,高齢者の歩行形態変化を予測し,歩行変化の予防対策を立てることは重要である.地域在住高齢者の歩行形態と歩行時間について横断的・縦断的調査を行い,歩行形態に影響を及ぼす体力因子として歩行の直接評価を除いた因子では,男女とも左右開眼片脚起立時間,大腿四頭筋筋力(下肢筋力),重心動揺があげられた.高齢者が日常単独歩行を維持していくには,右開眼片脚起立時間として 65~69 歳 40 秒,70~74 歳 30 秒,75~79 歳 20 秒,80~84 歳 5~10 秒程度の開眼片脚起立時間が可能な体力の維持が,高齢者の歩行・移動を確保するうえでの目標値としてあげられた.高齢者における歩行には筋力・バランス能力の維持がもっとも重要で,とくに年齢階層別開眼片脚起立時間の 50%程度の低下は,2~3 年後の歩行形態の変化の予測となりえた. - ロコモティブシンドローム
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ロコモティブシンドロームの概念
236巻5号(2011);View Description Hide Description超高齢社会を迎え,要介護や寝たきりになる人が増加し,その約 5 人に 1 人は“運動器”の障害が原因である.整形外科で手術を受ける人は,50 歳以降急増している.疾患としては骨折,脊椎障害,膝関節障害が多い.また,最近の研究では,変形性膝関節症,変形性腰椎症,骨粗鬆症のどれかが画像検査などで認められる人は,日本では 4,700 万人に達すると推定されている.これらのことは多くの人にとって,骨や関節など運動器の健康を保つことが困難になってきていることを意味している.運動器の新しい時代がはじまっている.このあらたな問題を人びとが気づくには新しい言葉が必要であると考え,“ロコモティブシンドローム(運動器症候群)”を提案した.人びとが運動器の機能の衰えに気づくことが大切で,自己チェック 7 項目を設定した.対策として,膝や腰への負担の少ないトレーニングとして(ハーフ)スクワットと片脚起立訓練を推奨している. -
ロコチェックの運動機能低下の予見性と, ロコトレの運動機能改善効果
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionロコモティブシンドローム(ロコモ)に関しては,ロコモーションチェック(ロコチェック)で運動機能の低下を察知して,開眼片脚起立(以下,片脚起立)とスクワットを中心としたロコモーショントレーニング(ロコトレ)で運動機能の改善を図る.実際に高齢者を対象とした調査で,ロコチェックは歩行速度,片脚起立時間,下肢筋力の低下を予見し,スクワットと片脚起立を 2 カ月間継続することで,これらの運動機能が改善された実証データを得たので紹介する. -
病院における転倒予防教室−その運営・効果・課題
236巻5号(2011);View Description Hide Description1997 年,東京厚生年金病院にわが国初の“転倒予防教室”が誕生した.教室の内容はていねいな健診(内科・整形外科健診,健脚度測定などの運動器の機能評価)および個別的な運動・生活指導で,これまでにおよそ 570 名が教室を修了した.教室参加により運動機能の有意な改善がみられ,また転倒・骨折数を有意に減らすことができた.現在は全国に“転倒予防教室”が広まり,病院における“教室”の役割も変遷している.病院ではより虚弱でリスクの高い高齢者も受け入れ,医師の監視のもとで,安全で楽しく,かつ効果的な運動指導ができるようにさらに追究していきたい. -
臨床現場におけるロコモティブシンドローム
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionロコモティブシンドロームは臨床現場から生まれた言葉・概念でもある.救急医療の現場では重大な運動器疾患の年齢構成が急速に高齢化していて,それに伴い構成する疾患も急速に変化している.一人の高齢者がさまざまな運動器疾患を抱えて繰り返し救急車で搬入される.複数の運動器疾患を有する人の多くが要介護状態となってしまう.運動器の複数の病態や疾病が複合・連鎖して移動能力を低下させている例は枚挙に暇がない.著者が経験した実例をあげ,脊柱管狭窄症,変形性関節症,骨粗鬆症などの運動器の疾病と筋力やバランス能力の低下などの病態が移動能力を障害していく経過を解説する.臨床現場で起こっていることこそ,ロコモティブシンドロームの核心をなす事実である. -
運動器障害診断ツール(足腰指数25)の開発
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionロコモティブシンドローム(ロコモ)の診断にはロコチェックという簡易チェックリストがすでに公表されているが,これは国民がロコモかどうかを自己チェックするためのものであり,ロコモの重症度や介入効果を計測する機能は企図されていない.高齢者の運動機能を評価する自記式質問票(足腰指数 25:無症状 0 点~最重症 100 点)を作成し,その妥当性・再現性を検証し,ロコモ診断 cut-off 値を求めた.全国の整形外科関連施設において,65 歳以上の高齢者 731 名(男性:217 名,女性:514 名,65~96 歳,平均 77.3 歳)を対象に調査を行った.足腰指数 25 の妥当性・再現性は良好であり,ロコモを特定高齢者相当の者と設定すると,その cut-off 値は 16 点であった.足腰指数 25 により,ロコモかどうかのみでなくその重症度を診断でき,さらには介入などによるロコモ重症度の変化を測定することができると考えられる. - 運動器の保存治療
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中高年者の背筋力維持・向上のための運動
236巻5号(2011);View Description Hide Description加齢とともに姿勢の保持に必要な背筋力は低下し,脊柱の後彎(脊柱の後方への彎曲)は徐々に進行していく.背筋力の低下に骨粗鬆症性の脊椎椎体骨折などが合併すると,さらに後彎が進行することにより慢性の腰背部痛を引き起こし,脊柱の可動性が低下し,さまざまな日常生活動作の障害が生じ,生活の質(QOL)が低下する.中高年者において,このような脊柱後彎による障害を予防し改善するためには,できるだけ早期から背筋力の維持・向上のための運動を行う必要がある.腹臥位で行う等尺性背筋運動には,背筋力の増強効果とともに骨粗鬆症患者の QOL を改善させ,椎体骨折を予防する効果がある.また,すでに強い後彎変形が生じてしまったなどの理由により腹臥位をとることができない人であっても,座位や立位で行う簡易な脊柱可動域運動は可能である.簡易な脊柱可動域運動を行うだけでも,十分に背筋力や QOL の維持・向上を期待できる. -
変形性膝関節症に対する運動療法・体操−ロコモ予防への取組み
236巻5号(2011);View Description Hide Description超高齢化社会を迎えたわが国では,運動器の障害のため中高年の多くが膝痛を訴えている.しかし,病院を未受診のため膝関節痛が増悪し,ロコモティブシンドローム,変形性膝関節症へと進行し要介護になる危険性の高い人が増えており,変形性膝関節症の予防,早期発見,早期治療が重要な問題となっている.膝痛を訴える人や変形性膝関節症患者に対しては,運動療法・体操の指導のみならず生活環境までを包括したアプローチが重要で,疼痛の軽減,機能の維持・改善が目標となる.運動療法として,筋力訓練や関節可動域訓練などによる疼痛緩和が実施される.体操は,有酸素運動のひとつとして柔軟性,バランス能や筋力の獲得などを目標として実施される. -
腰痛管理のためのエクササイズ(体操)
236巻5号(2011);View Description Hide Description腰痛の多くは原因疾患が特定しきれず(非特異的腰痛),画像所見は痛みの起源も予後も語りえないことが多い.誰もが経験しうるもっともポピュラーな愁訴で,再発・慢性化しやすい性質をもつにもかかわらず,いまだその対策は確立されていない.このような現状のなか,体操は予防にも治療にも有効な手段である可能性が指摘されているが,その方法論については不十分なエビデンスでしかない.そこで本稿では,著者が提案する伸展(腰を反らせる)エクササイズを主としたシンプルなメニューを,一次~三次予防をめざした包括的な腰痛対策(管理)案のなかから紹介する.加えて,高齢者社会を迎えその患者が急増すると見込まれている症候性の腰部脊柱管狭窄症に対する治療的な体操(椅子での腰を屈めるエクササイズ)についても紹介する. - 介護保険制度と在宅医療
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高齢者医療での運動器疾患−老年症候群と総合機能評価でとらえる
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionロコモティブシンドローム対応は高齢者疾患を老年症候群として包括的にとらえ,総合機能評価により包括的に治療・ケアをするといった 20 世紀にはじまった高齢者医療の概念と一致する.この視点で地域居住高齢女性の 47%にみられたロコモティブシンドローム該当者を調査すると,生活機能の低下が視覚探索機能など高次な右大脳半球皮質機能の低下を反映していた.一方,52 名の運動器不安定症患者では血液中ビタミン D濃度と片足起立時間とが相関するなど,栄養面での低下が身体機能低下に関係していた.これらを総合すると,運動器の加齢変化に伴う日常生活機能の低下に対しては,運動器リハビリテーションに加えて,栄養・心理・精神的アプローチが必要となる.人口の高齢化の進捗した昨今,運動器の加齢変化に伴う要介護者が増加していることから,高齢者医療の予防学的視点でロコモティブシンドロームをとらえることは時宜を得た対応であり,学際的な課題となるであろう. -
介護保険制度からみた運動器障害
236巻5号(2011);View Description Hide Description介護保険制度は高齢者のための保険で,認知症と脳血管障害による麻痺の保険とみなされる傾向が強いが,移動に介護を要する原因となる疾患には骨・関節・脊椎の疾病や障害が多い.いわゆる運動器の障害は主治医の意見書を記載する内科系のかかりつけ医にとって意識の薄い領域でもあり,また,運動器障害だけが介護を要する原因の場合は要支援 1・2 と介護区分が低いことも手伝って,運動器障害の程度が詳しく記載されていない主治医意見書も散見される.しかし,要介護認定手続きにおける訪問調査員による調査の内容を知ると,運動器障害に関心を深めないわけにはいかないことに気づくことと思う.運動器障害は,療養環境の整備や車椅子のフィッティングなどへの知識があれば,ADL を高めることは容易である.運動器障害に関して造詣を深めることは介護保険制度において重要といえる. -
在宅医療からみた運動器障害−訪問リハビリテーションは寝たきり予防に有用である
236巻5号(2011);View Description Hide Description日本は諸外国に比べて寝たきり者が多いとされるが,その原因は廃用症候群により生じた運動器障害であることが多く,これらは適切に対処できれば予後は比較的良好である.廃用症候群の改善や予防には通院リハビリとともに訪問リハビリが非常に有用である.訪問リハビリは,退院直後から活用することによりスムーズに在宅生活へ移行できるだけでなく,大腿骨頸部骨折患者の入院期間を短縮させることも可能である.また,廃用症候群に対しては週 1~2 回の頻度で訪問リハビリを行うことで,患者の ADL をある程度維持することができるとされており,在宅医療にかかわる医師は患者の運動器障害に最大限の注意を払い,ADL が低下する兆候があれば迅速に訪問リハビリを導入して ADL の維持に努める必要がある. -
ロコモティブシンドロームと大腿骨頸部骨折地域連携パス−浜松方式を中心に
236巻5号(2011);View Description Hide Description大腿骨頸部骨折は高齢者に頻発する骨折であるが,多くは骨折後要介護状態となり,日常生活機能の著しい低下を招く.そのため骨折後早期に手術を行い,適切なリハビリテーションを継続する必要がある.そこで手術を担当する急性期病院,回復期のリハビリテーションを担当する二次病院,さらに維持期を担当する診療所と,切れ目なく質の高い医療を継続する目的で大腿骨頸部骨折地域連携パスという制度が設定された.さらに,骨折の治療のみでなく,転倒・骨折の防止,再骨折の予防という観点からも連携パスは重要な役割を担っている.ロコモティブシンドロームを早期に発見し,ロコトレを継続することにより転倒・骨折のリスクを減らし,また骨折を起こした者でもロコトレを継続することにより再骨折の危険性を減少させることができる. - 運動器障害の診断と評価
- 【骨】
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骨粗鬆症の診断と薬物治療開始基準
236巻5号(2011);View Description Hide Description骨粗鬆症の定義には 2001 年以降,“骨量”に加え“骨質”の概念が入れられた.骨粗鬆症診断基準は現在も,骨密度に主眼をおいた WHO あるいは日本骨代謝学会の基準が使われているが,診断基準とは独立して,薬物治療開始基準が考えられるようになってきた.その背景には,骨密度は骨折リスクの重要な因子であるが,唯一の骨折規定因子ではないことがわかってきたことがあげられる.WHO は 2008 年に,骨密度と臨床的危険因子,あるいは臨床的危険因子のみで個人の骨折絶対リスクを判定するツール〔WHO 骨折リスク評価ツール(FRAX)〕を公開し,このツールで求められた骨折絶対リスクを治療開始 cut-off 値として使うよう勧奨している.日本では,『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006 年版』の治療開始基準に,「男性,女性 75 歳未満で,骨量減少症(若年骨密度平均値の 70~80%)かつ FRAXによる骨粗鬆症性骨折確率 15%以上」を治療開始基準として加えた. -
骨粗鬆症における骨折リスク評価法の進歩−骨密度評価から骨強度評価へ
236巻5号(2011);View Description Hide Description骨密度の低下によって椎体や大腿骨近位部骨折のリスクが増加する.しかし,骨密度測定は骨折発生率とかならずしも相関しないことから,骨密度とは関連しない骨の強度にかかわる因子が注目を集めるようになり,2000 年に骨粗鬆症は,骨強度の低下によって骨折のリスクが高くなる骨の障害と改訂された.骨強度は,骨密度と骨密度以外の骨強度にかかわる骨質によって規定される.骨の内部構造は複雑であり,観察する解像度のスケールによって階層的構造をもっている.そのスケールごとに異なる骨質の関連因子が存在する.“骨の強度”とは,骨折に至る,すなわち骨の破壊をきたす力の大きさと定義される.したがって,強度は力学的には力の単位をもつ指標である.骨折が発生するかどうかは生体力学的には factor of risk というパラメータで評価される.これは骨に作用する外力と骨強度との比で表される.近年,定量的 CT を用いた有限要素法による骨強度評価法が骨粗鬆症の診断に用いられている.本法は骨密度のほかに,骨密度分布や骨の幾何学的形状・ジオメトリーまた CT で認識できる骨構造を考慮した三次元構造解析法である.骨強度を定量的にニュートンという力の単位で定量化できる.また,荷重条件に対応した強度を条件ごとに定量することができる.骨折部位の予測も行うことができる.また,臨床用の CT を使用するために臨床応用が可能である.本法による骨粗鬆症診断の普及が望まれる. -
骨の代謝マーカー
236巻5号(2011);View Description Hide Description骨代謝マーカーは骨粗鬆症の診断,病態の判別とそれに基づく治療方針の立案,治療効果の評価に有用である.また,骨の動態や骨折リスクの評価,治療薬物の選択などを判断する上でも有用な指標であり,さらに新規骨折リスクを評価できる.骨粗鬆症以外にも応用が進んでおり,ますますの発展と応用が期待される.今後,運動器の障害の病態,評価の指標として有用であり,診療の場で活用されるものと思われる. - 【軟骨】
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変形性膝関節症X線画像自動読影システム (KOACAD)の開発
236巻5号(2011);View Description Hide Description変形性関節症(OA)の診断には関節軟骨に対する画像評価が不可欠であるが,画像モダリティーのうち X 線撮影装置は広く普及し,検査が安価かつ簡易であることから,その情報を有効利用することができれば使用範囲はきわめて大きい.しかし現在汎用されるカテゴリカルな X 線画像評価法では慢性疾患である OA の進行の評価は困難であるとともに,評価者内および評価者間評価にばらつきが大きいことが問題になる.本稿ではこれらを解決すべく著者が開発した“変形性膝関節症 X 線画像自動読影システム(KOACAD)”に関して,その精度,推奨される X 線撮像法,臨床における使用について概説する. -
関節軟骨,椎間板のMRI評価−最新の形態的・質的評価法
236巻5号(2011);View Description Hide Description磁気共鳴撮像(MRI)は組織分解能に優れ,関節軟骨や椎間板の有用な非侵襲的評価法である.近年,高磁場強度 MRI の普及や,RF コイル,パルスシーケンスの改良などに伴い,より高い空間分解能,信号雑音比での撮像が可能となった.新しい関節軟骨の形態評価法としては 3D isotropic MRI など,質的評価法として T2マッピングや T1rho マッピングなど,また椎間板の形態評価としては 3D MR myelography など,質的評価法として T2 マッピングなどが有用と考えられる.今後,軟骨再生や椎間板再生などの新しい外科的治療法,あるいは薬剤などを用いた関節軟骨・椎間板の変性予防法に関する研究の有効な客観的評価法として,MRI はより重要性を増すと考えられる. -
Kinematic MRIによる関節の評価
236巻5号(2011);View Description Hide Description関節は荷重や運動を担う組織として解剖学的三次元構造とその機能が密接に関連し,運動器障害の診断と評価では動的な機能評価が重要である.従来の CT や MRI では動態評価は不可能であったが,著者らは異なる肢位での MRI 撮像で得られた画像を三次元表現し骨や軟骨を重ね合わせたり,関節の荷重下での MR 撮像を行い,関節の動態評価法を開発している.これにより関節動態での骨変位,軟部組織の変位変形の評価,荷重による信号変化による軟骨の質的評価が可能になった.一方で,撮像肢位や撮像時間の制限もあり,今後 MRIのハード・ソフト両面の進歩により,さらに機能的な動態 MRI を進める方向に研究開発を発展させる必要がある. -
変形性関節症の診断・評価における軟骨代謝マーカー
236巻5号(2011);View Description Hide Description関節機能を維持するうえでもっとも重要な組織である関節軟骨の病態を少ない侵襲で評価することを目標に,関節液,血液,尿中における各種の軟骨マーカー測定が実用化されつつある.II型コラーゲンやアグリカンなどの主要軟骨マトリックスが破壊されて低分子化したフラグメントや軟骨のマイナー蛋白である cartilageoligomeric matrix protein(COMP)などがその候補である.変形性関節症では X 線上での関節裂隙を含めた病期とこれらのマーカーがよく相関し,短期的ではあるが将来の裂隙狭小化の進行を予知できることが示されている.いったん破壊された関節軟骨の修復はきわめて困難である現状や関節疾患の高い有病率を考慮すると,これらのマーカーを用いて,将来軟骨破壊を起こす危険性の高いグループを同定し,集学的な治療を行うことが望まれる.また開発途上にある抗関節症薬の薬効評価にも応用が期待されている.軟骨マーカーの有用性と現状について概説する. - 【筋肉】
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筋力と筋量の評価
236巻5号(2011);View Description Hide Description筋力や筋量を正しく評価することは,運動器疾患や神経疾患などの診断,筋力低下・筋萎縮の判定に不可欠である.また,治療法の選択,効果判定,予後予測にも重要である.筋力測定には,器具を使用せず 6 段階で評価する徒手筋力検査が一般診療で施行されることが多い.客観的な評価法として,ハンドヘルドダイナモメータ,握力計,等速性筋力測定機器などが存在する.筋量測定には四肢周径測定法,超音波エコー法もあるが,CT,MRI を用いた方法が精度や信頼性は高い.最近では DEXA 法や生体電気インピーダンス法による筋量の測定(推定)も行われている. -
筋力と筋量の経年的変化および運動器疾患との関連
236巻5号(2011);View Description Hide Description高齢者における筋力および筋量の低下は非常に重大な問題であり,その予防対策は喫緊の課題である.著者らの研究(ROAD Study)の結果,握力,下肢伸展筋力とも 60 歳代を境に急激に低下してくることが明らかになった.さらに,下肢筋量の低下は 50 歳代よりすでにはじまっており,筋力の低下よりも早期に起こっていた.しかし,上肢筋量については,とくに女性では年齢による低下はみられず,上下肢で筋量の経年的変化に違いがみられた.一方,下肢筋力は,とくに女性において変形性膝関節症(膝 OA)の有病率と有意な相関を認めたが,下肢筋量には有意な相関はなく,筋力と筋量で違う結果が得られ,膝 OA には筋力がより強く関連していることが明らかになった.さらに,握力には QOL や転倒との強い相関がみられ,全身の筋力との相関もいわれていることより,筋力の簡便な指標として有効であると考えられた.今後さらにエビデンスを蓄積し,高齢者にとって安全かつ有効な筋力低下の予防対策を確立することが必要である. - 歩行と姿勢の評価
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歩行分析の手法と中高年者の歩行
236巻5号(2011);View Description Hide Description中高年者の歩行を知ることは,ロコモティブシンドロームの評価や治療介入に役立つ.歩行分析の手法として,近年は圧センサーを用いた機器や,三次元動作解析システムが用いられている.これらにより,歩行速度やストライド長などの時間・空間因子,歩行時の関節角度の変化や,関節モーメントなどの運動学的・運動力学的パラメータを算出することができる.中高年者は歩行速度が遅い,両脚支持期の比率が大きい,歩行中の一歩一歩のばらつきが大きい,股関節伸展角度が小さい,などの特徴をもつ.これらはたがいに影響を及ぼしあい,また転倒リスクにも関係している. -
高齢者の姿勢
236巻5号(2011);View Description Hide Description高齢者の姿勢を 4 型(伸展型,S 字型,屈曲型,手膝上型)に分けた.S 字型は脊椎圧迫骨折が主因である.伸展型,屈曲型,手膝上型は椎間板変性が主因である.高齢者は脊柱の屈曲を,下肢関節による骨盤の後傾によって代償する.膝関節屈曲による代償は 25~30 度が限界であり,これを超えると高齢者は手を膝におくようになる.脊柱変形が膝の膝蓋大腿関節の変形を起こす可能性がある. - 主な疾患
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原発性骨粗鬆症の治療
236巻5号(2011);View Description Hide Description骨粗鬆症は,骨強度が低下して骨折しやすい状態にある全身的な骨疾患で,骨脆弱化の進行には,主として骨吸収の亢進が関与する.骨粗鬆症の治療の目的は骨折の予防であり,すでに骨折を有する例ではあらたな骨折を防ぐことにある.骨粗鬆症の治療の三大柱には,運動療法,食事療法,薬物療法があげられる.食事療法はそれのみで骨量の増加や骨折予防が期待されるわけではなく,骨粗鬆症の基本治療に位置づけられる.運動療法によって骨折発生率が低減したとする報告はこれまでほとんどないが,骨密度を改善し,転倒を予防することから,骨折予防効果があると考えられている.薬物療法は高いエビデンスレベルの臨床研究により骨折抑制効果が確認されている.治療に用いられる薬剤は,その作用機序から骨吸収抑制薬と骨形成促進薬とに分類され,治療では骨吸収抑制薬が中心に使用される.骨折の予防には,さらに転倒予防,転倒時の衝撃緩衝材の使用が試みられる. -
変形性膝関節症の診断と治療
236巻5号(2011);View Description Hide Description変形性膝関節症の診断は,除外診断を適切に行えば,X 線診断により困難はない.ただし屈曲荷重位 X 線像をルーチンに加えたい.治療上大切なのは,軟骨摩耗の程度,摩耗の存在部位(膝蓋大腿,内側大腿脛骨,外側大腿脛骨の 3 つのコンパートのうちどこにあるか),関節炎の程度,発痛部位の解剖学的把握を行うことである.治療は,基本的な運動療法として最大伸展・屈曲位の獲得・維持,大腿四頭筋セッティング,膝蓋骨周囲の柔軟性の再獲得を勧める.肥満の改善は有効である.疼痛炎症症状に対して NSIDs やヒアルロン酸注射を予防的に用いる.炎症のコントロールには Cox II 阻害薬を第一選択に用いる.内反の悪化する内側型関節症で軟骨消失が認められ長年疼痛がつらい症例では,人工膝関節置換術を勧める. -
変形性股関節症の診断と治療
236巻5号(2011);View Description Hide Description人間の生活活動において,股関節はもっとも重要な部位であり,近年寿命が延伸することにより加齢による股関節の変性が高齢社会に影を落としている.本稿では,変形性股関節症の発生,進行の経緯,そして治療法を保存療法と手術療法に分けて紹介する.また,今後の変形性股関節症の診断は,単一部位に留まらず,ロコモティブシンドロームの発症まで見据えた診断と治療が必要である.それと同時に,その予防対策の啓発,ロコモーショントレーニングの指導までを治療の一環として整形外科医が提供できるようにしたい. -
腰部椎間板ヘルニアの診断と治療
236巻5号(2011);View Description Hide Description腰椎椎間板ヘルニアは 20~40 歳代の青壮年期に好発する疾患で,椎間板の髄核という内層の組織が外層の線維輪を穿破して突出し,馬尾神経や神経根を圧迫することで種々の下肢症状を主体とした臨床所見を呈する病態である.治療の原則は保存治療であるが,近年椎間板ヘルニアは自然退縮することが明らかにされてきており,そのメカニズムも解明されつつある.また手術方法も従来からの Love 法(部分椎弓切除による後方ヘルニア摘出術)に加え,内視鏡下にヘルニアを摘出する内視鏡下ヘルニア摘出術(MED)や,さらに低侵襲で日帰り手術も可能な経皮的内視鏡椎間板ヘルニア摘出術(PELD)も行われている. -
腰部脊柱管狭窄症の診断と治療
236巻5号(2011);View Description Hide Description腰部脊柱管狭窄症とは,おもに加齢に伴う退行性変化(椎間関節の変形,椎間板の膨隆,黄色靱帯の肥厚)によって馬尾や神経根が圧迫されることにより,下肢痛,しびれ,脱力などを呈する(神経性間欠跛行)ものであり,高齢社会の到来により今後ますます患者の増加が見込まれる.症状が軽度であれば保存治療でも良好な結果が得られることが多いが,症状が重症化する場合には手術治療も適応となる.腰部脊柱管狭窄症以外にも,慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症や閉塞性血栓性血管炎)による血管性間欠跛行や脊髄疾患(胸髄症,神経梅毒,脊髄血管奇形)による脊髄性間欠跛行があり,これらとの鑑別が重要となる.本稿では腰部脊柱管狭窄症の診断と治療について概説する. -
サルコペニア−そのメカニズムと防止策としての運動
236巻5号(2011);View Description Hide Description加齢に伴う筋量低下(サルコペニア)には,加齢そのものに起因する要素と,加齢や疾患に伴う筋活動の低下に起因する要素が含まれる.いずれの場合にも,筋線維周囲の液性環境と,筋の幹細胞である筋サテライト細胞の増殖活性が関与すると考えられる.筋力トレーニングに代表される高負荷強度運動は,これらの両者に対してプラスの効果をもつことから,サルコペニアの予防・改善にも有用と考えられる.しかし,こうした高負荷強度運動は,運動器や循環器へのストレスが大きいという欠点があり,低負荷強度で筋肥大と筋力増強をもたらすトレーニング法の開発が望まれる.エビデンスを伴う低負荷強度トレーニング法として,血流制限下でのトレーニングや筋発揮張力維持スロー法(LST 法)があげられるが,安全性や取り組みやすさを考慮すると,LST 法がサルコペニア予防のためのトレーニング法として適していると思われる. - 運動器疾患の基礎
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骨の代謝と骨粗鬆症のバイオロジー
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionわれわれの骨格系を構成する組織である骨は,成長を終えた後も一生を通じて新陳代謝を続けている.破骨細胞が担う骨吸収と骨芽細胞などが担う骨形成は,細胞レベルでたがいに連携してバランスをとっており,これにより骨組織の形態と機能が維持されている.骨粗鬆症とは,加齢やステロイドなどの薬剤使用によりそのバランスが崩壊し,骨吸収が骨形成を凌駕した状態である.破骨細胞の分化は,骨芽細胞から産生される MCSFや RANKL などのサイトカインにより,NF-κB や c-Fos,NFATc1 などの転写因子が誘導されることで制御されており,骨芽細胞の分化は BMP により誘導される Runx2 や Osterix といった転写因子により制御されている.破骨細胞と骨芽細胞の連携(カップリング)のメカニズムにはまだ不明な点が多いが,その精緻な機構が解明されつつある. -
変形性関節症の分子メカニズム−治療標的分子の同定をめざして
236巻5号(2011);View Description Hide Description変形性関節症(OA)の分子メカニズムはほとんど解明されておらず,根本的治療法は存在しない.近年,メカニカルストレス負荷モデルによるマウスジェネティクスを用いてその分子背景に迫る研究が多くなされており,成長板軟骨にみられる軟骨内骨化過程が永久軟骨であるはずの関節軟骨において誘導されることが,OA の発症に関与していることが示されている.滑膜や靱帯に接して血管の侵入が可能な関節辺縁では軟骨内骨化が起こって骨棘ができるが,関節の内部では血管侵入ができないために骨化することなく,軟骨の破壊だけで終わってしまうと推察される.軟骨内骨化シグナル関連分子が OA の根本的治療の標的分子となることが期待される. -
サルコペニアの発症メカニズム−廃用性筋萎縮との類似点と相違点から
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionサルコペニアとは,加齢に伴い骨格筋量および筋力が徐々に減少していく現象である.このサルコペニアは高齢者の骨折,寝たきりの大きな原因となっている.一方,若者でもギプス固定や寝たきりになると筋肉量が減少してしまう.また,屈強な宇宙飛行士も宇宙空間に長期間滞在すると,帰還後すぐには起き上がることができないくらいにまで筋力が低下する.このような筋肉量の減少は廃用性筋萎縮とよばれる.サルコペニアと廃用性筋萎縮は筋量・筋力の減少という特徴はよく似ているが,発症メカニズムはまったく同一というわけではない.本稿では,2 つに共通するメカニズムと,サルコペニアに特徴的なメカニズムについて概説したい. -
椎間板の代謝とバイオロジー−椎間板再生への細胞移植法も含めて
236巻5号(2011);View Description Hide Description椎間板は人体最大の無血管組織であり,上下の椎体からの拡散機構により栄養の補充と老廃物の除去という代謝を行っている.中心部の髄核組織はとくに酸素分圧が低いが,この過酷な環境で生きる髄核細胞が 20 歳前後までは椎間板全体の代謝を制御し,変性を抑制する働きを担っている.髄核細胞の起源はいまだに不明な点が多いが,未分化で多分化能をもつ細胞集団が同定されつつあり,椎間板変性進行の抑制や再生研究を進めるうえで重要な知見である.変性椎間板の進行抑制のための活性化椎間板髄核細胞移植術が,厚生労働省“ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針”に準拠して,著者らによりすでに開始されている. -
姿勢・歩行能力と脊髄機能−ロコモティブシンドロームと脊髄機能
236巻5号(2011);View Description Hide Descriptionロコモティブシンドロームは総合的なバランス機能・移動歩行能力の低下であり,その原因にはさまざまな身体機能障害が関与している.神経系による四肢・体幹の制御機能もまた,加齢あるいは疾患によって影響を受け,ロコモティブシンドロームの発症にかかわっていると考えられる.脊髄は神経回路のなかで大脳といった高位中枢と末梢とをつなぐ役割を果たしており,そこでの障害は求心性・遠心性それぞれの神経信号の伝搬障害を引き起こす.また,脊髄自体のなかでも多くの姿勢・歩行関連情報が処理されており,なかでも姿勢制御における反射経路や,歩行におけるパターン発生器としての機能はロコモティブシンドロームをとらえる際に重要な視点となる. -
転倒による大腿骨近位部骨折に及ぼす軟組織や体重の影響
236巻5号(2011);View Description Hide Description日本人高齢女性に頻発する転倒による大腿骨近位部骨折の特性を調べるため,人体各部を集中質量で近似し剛体で結合した全身モデルと,大腿骨とその周辺組織からなる大腿部有限要素モデルとを組み合わせた簡易全身モデルを構築し,地面に衝突させるシミュレーションを実施した.大腿部軟組織の厚さが異なる 4 種類のモデルを作成し,大腿部と地面との接触力や,大腿骨近位部に発生する応力を比較検討した.その結果,軟組織厚さが異なっても接触力の大きさはそれほど変わらないこと,これに対し近位部に発生する応力は,軟組織による荷重分散効果によって軟組織厚さが厚いほど低くなることがわかった.以上に加えて,前述の 4 種類のモデルに,軟組織厚さから推定される体重増加分を考慮したところ,大腿部と地面との接触力は質量が大きいほど大きくなり,軟組織の荷重分散効果はほぼ相殺されるという結果を得た.
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