医学のあゆみ
Volume 236, Issue 8, 2011
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あゆみ ANCA関連血管炎―臓器別にみた最近の話題
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わが国のANCA関連血管炎における臓器障害の頻度
236巻8号(2011);View Description Hide DescriptionANCA 関連血管炎には顕微鏡的多発血管炎(MPA),Wegener 肉芽腫症(WG),Churg-Strauss 症候群(CSS)が含まれ,それぞれの病態に対応して障害臓器がすこしずつ異なる.MPA および WG の臨床個人調査票から得られたデータ,および 2009 年に厚労省難治性血管炎班で行った CSS 疫学調査の結果から,わが国のANCA 関連血管炎における臓器障害の出現頻度を検討した.MPA では腎障害がもっとも高頻度であり,肺・神経病変が続く.肺病変では間質性肺炎・肺線維症が多いのがわが国の MPA 患者の特徴である.WG では耳鼻咽喉症状に呼吸器症状が続く.WG では MPA・CSS と比較すると粘膜・眼症状が多いのが特徴である.CSS では末梢神経障害を 90%以上の症例で認めており,皮膚症状が比較的多くみられるのが特徴である.CSS のうち ANCA 陰性例では心筋障害の出現頻度が高く,ANCA 陽性例では腎障害の出現頻度が高い. -
ANCA関連血管炎の肺病変―MPAの肺病変を中心に
236巻8号(2011);View Description Hide Description抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎は,anti-neutrophil cytoplasmic antibody が発症に関与するとされる,全身の細小血管・毛細血管を侵す血管炎の総称である.ANCA 関連血管炎群で代表的なものは顕微鏡的多発血管炎(MPA),Wegener 肉芽腫(WG)や Churg-Strauss 症候群(CSS)であり,これらは高率に ANCA 陽性を呈し,肺と腎に病変を呈しやすい.わが国には MPA が多く,肺病変としては血管炎によるびまん性肺胞出血,間質性肺炎が多く認められる.WG は欧米に多く,肺病変は多彩であり,気道狭窄などの気道病変を呈することが特徴的である.CSS は多くは喘息が基本にあり,好酸球性肺炎やびまん性肺胞出血などを呈することもある.ANCA 関連血管炎の肺病変は多彩であり,本稿ではその病態について,最近の知見も含め概説する. -
Wegener肉芽腫症における上気道病変―上気道限局型症例をどう扱うか
236巻8号(2011);View Description Hide DescriptionWegener 肉芽腫症(WG)は進行すれば全身型となるが,初診時は限局型がほとんどであり,なかでも鼻,耳,喉頭などの上気道病変で初発することが 80%以上を占める.上気道病変に限局した症例では,ほぼ 70%の症例は典型的病理組織像が得られず,また,40%の症例が PR3-ANCA 陰性である.その結果,現在の診断基準では診断が困難な症例も 25%にみられる.診断基準を満たさないために未治療で経過観察している症例も多いことを考慮すると,潜在的には診断基準を満たさない症例数はもっと多いと思われる.したがって今後,診断基準の見直しが必要と思われるが,現状においてはこのような症例に対しては診断的治療を行うことも考慮すべきである.さらに将来的には,より感受性の高い診断パラメータの開発が必要である. -
ANCA関連血管炎による腎病変
236巻8号(2011);View Description Hide DescriptionANCA 関連血管炎による腎病変は ANCA 関連腎炎ともよばれ,臨床診療のうえで主要な臓器病変である.腎病変の主要臨床症候は急速進行性腎炎を呈し,しばしば肺病変を合併し肺腎症候群を呈する.病理組織学的には pauci-immune 型半月体形成性糸球体腎炎が典型像である.本稿では,全国アンケート調査をもとに作成された『急速進行性腎炎症候群の診療指針 第 2 版』から診断指針,重症度分類,診療指針,予後を中心に抜粋し,概説する. -
ANCA関連血管炎による皮膚病変
236巻8号(2011);View Description Hide DescriptionANCA 関連血管炎の皮膚病変は,Churg-Strauss 症候群の 60%から Wegener 肉芽腫症の約 15%までと発症頻度が高い.全身性血管炎の一症状として現れたり他の内臓病変よりさきに出現したりするので,病勢を反映し,診断価値が高い.真皮から皮下組織までの血管炎病変と,血管炎のない肉芽腫性炎症病変にまでみられるので,紫斑,紅斑,潰瘍,結節,壊疽性膿皮症様皮疹,網状皮斑などの多彩な皮疹がみられる.皮膚病変は肉眼で容易に確認でき,皮膚生検により迅速な組織診断を下せるので,その臨床と病理所見を理解し習得することが ANCA 関連血管炎の早期診断と治療につながる. -
ANCA関連血管炎による神経障害
236巻8号(2011);View Description Hide DescriptionANCA 関連血管炎においては,神経障害を高頻度にきたすことが知られている.神経障害のなかでは末梢神経障害の頻度がもっとも高く,とくに顕微鏡的多発血管炎と Churg-Strauss 症候群で多くみられる.末梢神経障害は血管炎の局所性を反映して多発単神経炎を呈し,下肢優位,遠位優位で痛みを伴うことが多い.中枢神経系に関しては,血管炎に関連した脳梗塞,脳出血のほか,Wegener 肉芽腫でみられる肥厚性硬膜炎や肉芽腫の中枢神経への進展など,多彩な障害を呈する.末梢神経障害が前景に立つ症例では,末梢神経生検が血管炎の証明に有用な場合がある.血管炎による末梢神経障害では,神経線維は軸索変性をきたす.神経束ごとの神経線維の脱落の程度の差異や楔状の神経線維の脱落も血管炎を示唆する所見である. -
血管炎についての最近の話題―基礎研究の立場から
236巻8号(2011);View Description Hide DescriptionANCA(好中球細胞質自己抗体)は活性化好中球から MPO や PR-3 を細胞表面に表出し,細胞傷害性に関与する.MPA 患者血清中に多い MPO-ANCA は腎糸球体血管内皮細胞にも直接作用し,好中球の誘導・接着に関わる.その標的分子ととして明らかになった moesin は,MPO の H 鎖の N 末端近くのアミノ酸配列と相同性を示す.その自己抗体が MPO-ANCA 関連血管炎患者の血中に存在することから,あらたな ANCA 抗体としての可能性が示唆され,臓器特異的な発症機構の解明につながるものと期待されている.また,SCG/Kj などモデルマウスは,発症機構の解析や病態解明および治療法の開発に必須である. -
血管炎についての最近の話題―臨床研究の立場から
236巻8号(2011);View Description Hide Description難治性血管炎の代表ともいえる ANCA 関連血管炎の治療体系は,ヨーロッパを主体に多施設共同前向き臨床試験が行われるようになってはじめて根拠に基づいたものとして確立されてきた.シクロホスファミドとステロイドの併用療法を標準的治療として,より副作用の少ない治療法を検証するための比較対照試験が行われ成果が得られてきた.さらに最近は,非特異的免疫抑制薬から特定分子を標的とした生物学的製剤を用いた臨床研究が盛んに行われ,治療体系の新展開が期待されている.
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連載
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- 動物の感染症から学ぶ 17
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動物のプリオン病―わが国の現状と防疫対策
236巻8号(2011);View Description Hide Description伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy:TSE)またはプリオン病はヒトおよび動物にみられる疾病で,感染性蛋白質“プリオン”が原因の致死性の中枢神経系の退行変性疾患である.ヒトではクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD),クールー(Kuru)などが知られている.動物のプリオン病としてはヒツジ・ヤギのスクレイピー(scrapie),牛海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy:BSE),シカ慢性消耗病(chronic wasting disease:CWD)などが知られている.プリオン病の治療法はいまだに確立されておらず,感染したヒト,動物は長い潜伏期の後に発症し,死に至る.本病はその発生様式により, 1 感染性, 2 遺伝性, 3 原因不明の孤発性,に分類される.ヒトでは遺伝性,感染性,孤発性のすべてが認められているが,動物のプリオン病はすべて感染性である.本稿では動物のプリオン病として国内で発生が確認された BSE,スクレイピー,ならびに北アメリカで感染が拡大している CWD について紹介する.なお,伝達性海綿状脳症は,家畜伝染病予防法で法定伝染病に指定されている.
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フォーラム
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- 新“事故調”のあり方―診療関連死調査モデル事業から 10
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TOPICS
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- 免疫学
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- 糖尿病・内分泌代謝学
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- 形成外科学
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