Volume 236,
Issue 10,
2011
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【3月第第1土曜特集】 向精神薬―最新の動向
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医学のあゆみ 236巻10号, 893-893 (2011);
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うつ病・双極性障害
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医学のあゆみ 236巻10号, 897-902 (2011);
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わが国でも 1990 年代末より,選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)をはじめとする新規抗うつ薬が広く普及し,欧米と同様にうつ病医療の拡大に貢献した.しかし,海外の状況に目を移すと,すでに抗うつ薬の時代には陰りがみえている.ランダム化比較試験においてプラセボ反応が高率に生じやすく,新規抗うつ薬開発が著しく停滞しているために,数年後に現在のほとんどの抗うつ薬の特許が切れると,安価な後発医薬品への置換によってグローバル市場は著しく縮小すると予測される.抗うつ薬の有効性に対する疑義も提起され,とくに軽症~中等症のうつ病に対する適応をめぐって議論されている.そもそも背景にはアメリカ精神医学会の診断基準 DSM-Ⅲ(1980)以降の拡大したうつ病の概念と,その医療をめぐる社会情勢の変化が深くかかわっており,つぎの DSM 改訂(DSM-5)の動向が注目されている.
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医学のあゆみ 236巻10号, 903-909 (2011);
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近年わが国では,うつ病の患者数が飛躍的に増加している.それと相前後して新規抗うつ薬がつぎつぎと上市されるなかで,適切な治療法をめぐる混乱が現場で生じている.わが国独自の治療ガイドライン・アルゴリズムには新規抗うつ薬導入当初のものがあるが,その後多くの新規薬剤が導入されていることや,うつ病治療そのものに対する考え方に変化もみられることから,あらたなガイドラインを求める声が強い.諸外国のうつ病治療ガイドライン・アルゴリズムを概観すると,軽症の場合は非薬物療法を,中等症・重症の場合は薬物療法を奨める立場が多いが,最近は重症度のみならず,一人ひとりの患者背景を重視するようなガイドラインも策定されている.ガイドラインには策定するメンバーや機関・団体の意向が反映されるほか,対象が一般医向けのものと専門医向けのものがあり,それらを注意深く読みとりつつ活用する必要がある.
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医学のあゆみ 236巻10号, 911-915 (2011);
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エビデンスに基づいた児童・青年期の精神障害の治療ガイドラインはこれまでほとんどなく,大人の治療ガイドラインをそのまま引用することが少なくなかった.最近になって,児童・青年期の大うつ病性障害に対するいくつかの選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)の有効性が二重盲検比較試験によって実証されるようになり,精神療法としても認知行動療法や対人関係療法の有効性が実証されるようになってきた.また,児童・青年期のうつ病において SSRI による自殺関連事象の増加の問題が生じたため,むしろ厳密な治療ガイドラインがつくられつつある.本稿では,1.児童・青年期の大うつ病性障害に対する薬物療法に関する最近の知見を述べながら,2.SSRI による自殺関連事象の問題を整理し,3.代表的な児童・青年期のうつ病性障害の治療ガイドラインを紹介し,最後に,4.双極性障害の治療について,その概念の混乱の問題も含めて述べた.
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医学のあゆみ 236巻10号, 916-922 (2011);
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近年のうつ病領域における新薬開発は活発であり,わが国でもあらたな抗うつ薬が続いて承認され,海外で標準治療薬に位置づけられている抗うつ薬の多くが使用可能となった.現在の薬物療法の主体は選択的セロトニン再取込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(serotonin and norepinephrine reuptake inhibitors:SNRI)などであるが,世界的には SSRI の開発はすでに終了している.欧米では,神経ペプチド類やグルタミン酸関連などの既存治療薬にない作用機序を有する化合物が臨床開発の段階に突入している.治療環境のさらなる向上のためには,現在の治療自体の課題を十分に評価し,既存治療薬による治療ストラテジーを開発するとともに,新薬の導入も必要である.本稿では,既存の抗うつ薬の課題を概説し,将来のわが国への導入を予測するために,臨床開発が行われている抗うつ薬の候補化合物について説明する.
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医学のあゆみ 236巻10号, 923-928 (2011);
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選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)の使用頻度の増大により,セロトニン症候群,賦活症候群,断薬症候群が臨床場面で問題となっている.セロトニン症候群はセロトニン作動性の抗うつ薬によって発現する,まれではあるがときに死亡に至る重篤な副作用である.賦活症候群は抗うつ薬の投与初期や増量後に出現する不安,焦燥,不眠,衝動性,躁状態などの中枢刺激症状を総称するが,本症候群は自殺関連事象と結びつくことがある.断薬症候群は,抗うつ薬を減量あるいは中断後,多くは 7 日以内に嘔吐,頭痛,平衡感覚の障害,不安,焦燥などの身体症状や精神症状が出現する.ときに,攻撃的・衝動的行動などが認められる.また,身体疾患や精神症状の増悪と誤診されることもある.SSRI や SNRI は三環系抗うつ薬に比較して副作用が少ないことから,一般身体科でも処方される機会が多いが,これらの症候群を十分に認識しつつ臨床にのぞむ必要がある.
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医学のあゆみ 236巻10号, 929-934 (2011);
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双極性障害の薬物療法の中心は炭酸リチウム,バルプロ酸,カルバマゼピンなどの気分安定薬である.近年はそれに加え,オランザピン,クエチアピン,アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬が有効であるとされている.しかし,双極性障害には,躁病エピソード,うつ病エピソード,混合状態,急速交代型などの状態像の違いと,急性期,維持期という治療期の違いがあり,単純ではない.そのような理由もあり,日常診療においては単剤療法より 2 剤以上の併用療法が多くなる傾向にあることも問題である.とくに,双極性障害のなかでもっとも長期間患者を苦しめるのはうつ病エピソードであるが,双極性うつ病の薬物療法はまだ確立していない.近年,双極性うつ病にはラモトリジンや一部の非定型抗精神病薬の有効性が認められているが,まだ満足できるものではなく,さらに,双極性うつ病に対する抗うつ薬使用の是非に関してもコンセンサスが得られていない状況である.双極性障害の薬物療法は現在発展途上にあり,今後のさらなる研究とエビデンスの蓄積が待たれる.
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医学のあゆみ 236巻10号, 935-939 (2011);
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近年,双極スペクトラム概念が注目を集めているが,混乱もみられる.双極スペクトラム障害は,「診断基準を満たす明確な躁病/軽躁病エピソードは認めないが,双極性 bipolarity を有する気分障害」に限定してとらえるのが妥当である.Bipolarity の指標としては,1.抗うつ薬誘発性の(軽)躁病エピソードの既往,2.双極性障害の家族歴,3.頻回のうつ病エピソード,4.高揚気質,うつ病エピソードにおける過眠・過食症状,5.うつ病エピソードの遷延化,6.季節連関性,7.不安障害の併発,8.“混合性の特徴の特定用語”(DSM-5 草案),などがあげられる.現時点での病像に躁症状が混入する混合性うつ病において抗うつ薬は,躁転や activation症候群や自殺企図などの有害事象をきたし,病態を複雑化し経過を不安定化する可能性が高いため,投与禁忌と考えたほうがよい.現時点で躁症状の混入のない双極スペクトラム障害のうつ状態に対しては,bipolarityの程度の強いものほど,双極うつ病に準じた治療を行う.Bipolarity が明瞭でない症例には,大うつ病性障害に準じた治療を行う.Bipolarity を見逃さず,双極性障害や双極スペクトラム障害の過剰診断もしないバランス感覚をもった診断・治療姿勢がなによりも重要である.
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医学のあゆみ 236巻10号, 941-946 (2011);
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女性は男性に比べて,あらゆる年代でうつ病になる割合が高く,更年期ではその割合がより高まると報告されている.実際,臨床の中で,更年期女性のうつ病に遭遇する機会はとりわけ多い.本稿では,更年期と更年期障害について概説した後に,更年期とうつ病との関係について述べ,更年期うつ病の治療として注目すべき3 つの治療法(抗うつ薬,ホルモン補充療法,選択的エストロゲン受容体調整薬)について検討する.更年期障害の症状は,1.ホットフラッシュとよばれるほてり・のぼせなどの身体症状と,2.不安,不眠,うつなどの精神症状とに大別されるが,ホットフラッシュに対する治療効果については盛んに研究されているのに対して,更年期のうつ病を正しく診断し,治療効果を検討した研究は少ない.更年期うつ病の治療について今後のさらなる研究が望まれるところである.
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統合失調症
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医学のあゆみ 236巻10号, 949-954 (2011);
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統合失調症など精神病の発症早期や前駆期(ハイリスク者)を対象とした薬物治療法が注目されている.たとえば,各種新規抗精神病薬や抗うつ薬の予防的投与が,統合失調症の発病前にみられる微弱な精神病症状の軽減や社会機能の向上に有効であることが明らかになってきた.また,細胞膜リン脂質異常の矯正など,統合失調症の神経発達障害仮説に基づく新しい発症予防法の開発も試みられている.生物学的・神経心理学的マーカーを用いた発症予測法の精緻化,および早期介入活動の啓発・促進が,薬物療法を含む地域の精神科医療,福祉水準の向上につながると期待される.
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医学のあゆみ 236巻10号, 956-959 (2011);
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統合失調症の治療において,急性期のみならず,再発防止のためには抗精神病薬の継続した服用が必要である.しかし一方で,抗精神病薬の副作用は多岐にわたり,運動系にとどまらず,代謝系や心血管系に対する長期的な有害作用も近年注目を集めている.ゆえに維持期にある患者に対する抗精神病薬への曝露の最小化を十分に考慮しなくてはならない.それを実現する方策として抗精神病薬の用量の削減,投与間隔の延長などが候補にあげられる.今後,抗精神病薬の減量を安全に行える患者群の選別,安全な減量方法に関する臨床試験のみならず,抗精神病薬がドパミン受容体を遮断することによって引き起こす現象の基礎的メカニズムに関するさらなる知見の集積も望まれる.
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重要疾患・薬物療法トピックス
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医学のあゆみ 236巻10号, 963-967 (2011);
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強迫性障害(OCD)はかつては精神力動的精神療法により治療を試みられてきたが,三環系抗うつ薬であるclomipramine(CLM)が症状を改善することが明らかとなり,セロトニン再取込み作用(SRI)をもつ薬剤によって治療可能な疾患であることがわかった.今日では,CLM とほぼ同等の効果と,より高い忍容性をもつ選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬である.しかし一方で,上記治療に反応しない症例も 40~60%程度存在しており,これらの難治例に対しては SSRI に非定型抗精神病薬を付加するなどの増強療法が推奨されている.本稿では OCD の薬物療法として,SSRI と SSRI+非定型抗精神病薬を中心に述べる.
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医学のあゆみ 236巻10号, 968-974 (2011);
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欧米諸国と同様に,日本国内でも向精神薬(睡眠薬,抗うつ薬,抗不安薬および抗精神病薬)の処方頻度は増加傾向にある.各向精神薬の処方率や処方力価には,性別や年齢によって差異がみられる.睡眠薬や抗不安薬の主剤であるベンゾジアゼピン系薬物の処方率は男女ともに加齢に伴って増加するのに対して,抗うつ薬の処方率は男性では働き盛りの 40 代前後,女性では 65 歳以上にピークを示す.また,睡眠薬および抗不安薬は半数以上が一般身体科で処方され,高齢者や身体合併症を有する患者など,有害事象の生じやすいハイリスク群に対しても高頻度に処方されている.向精神薬のリスク・ベネフィットや薬物相互作用に関する臨床薬理情報は不足しており,安全性に優れた治療ストラテジーや長期処方を回避するための減薬方法を含め,適正使用に関するガイドラインを整備する必要がある.
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医学のあゆみ 236巻10号, 975-979 (2011);
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2010 年までに新しい抗てんかん薬(AED),ガバペンチン(GBP),トピラマート(TPM),ラモトリジン(LTG),レベチラセタム(LEV)の 4 剤が導入され,てんかんの薬物治療の変化が注目される.LTG 以外の新規 AED は部分発作の治療にのみ使用が認められている.これらの薬剤は難治てんかんへの併用療法のためのAED として認可された.新薬が既存の AED より有効性が高いとする確かなエビデンスはないが,薬物相互作用,認知機能への影響がより少なく,幅広いスペクトラムを有するなどの長所がある.各 AED の特性を考慮し,発作抑制だけでなく,認知機能,精神症状などへも配慮することで患者の QOL 向上が望まれる.
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医学のあゆみ 236巻10号, 980-985 (2011);
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認知症のなかでもっとも多数を占めるアルツハイマー病(AD)の薬物療法は早期診断と早期治療が重要であり,バイオマーカーを導入した診断基準の改正案が提起されている.わが国では中核症状に対して,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬であるドネペジルのみが対症治療薬として,軽度から高度までの全ステージにおいて使用されている.現在,AChE 阻害薬のガランタミンとリバスチグミン,NMDA 受容体阻害薬であるメマンチンが承認申請されており,今後治療選択肢が増えることは福音である.認知症の行動・心理症状(BPSD)に対しては非薬物的介入が第一選択であるが,薬物療法が必要な場合も少なくない.ドネペジルのほか,漢方薬,抗うつ薬,抗不安薬・睡眠薬,気分安定薬とともに,FDA から死亡リスクに対する警告はあるものの,定型・非定型抗精神病薬が慎重に使用されている.近い将来,AD の早期診断法が確立され,アミロイドカスケード仮説に基づく根治薬の開発が成功することを期待したい.
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医学のあゆみ 236巻10号, 987-991 (2011);
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レビー小体型認知症(DLB)は,認知機能障害のほかに,“認知症に伴う行動・心理症状”(BPSD)やパーキンソニズムを呈する変性性認知症である.これらの標的となる臨床症状に対して薬物療法が行われるが,認知機能障害に対しては,donepezil などのアセチルコリン・エステラーゼ阻害薬(AChEIs)の有効性が報告され,幻視などの BPSD に対しても,AChEIs が第一選択薬とされている.AChEIs では効果が不十分な BPSD に対しては quetiapine など少量の非定型抗精神病薬や漢方薬である抑肝散が用いられる.DLB では抗精神病薬に対する感受性の亢進がみられ,錐体外路症状の増悪を生じやすく,BPSD の薬物療法には注意が必要である.パーキンソニズムに対しては levodopa の投与が行われる.実際には,たがいの症状を悪化させないように注意しながら,これらの薬物を併用して用いることが多い.
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医学のあゆみ 236巻10号, 992-998 (2011);
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不眠症の薬物療法の主体がベンゾジアゼピン受容体作動薬となり,バルビツール酸などを用いていた時代と比べて安全性は格段に向上した.しかし,致死的な副作用や依存性など睡眠薬の功罪に関する論議は,それ以前の時代の考えが引き継がれていた.1990 年代後半から疫学研究により不眠が心身の機能や疾病,とくに生活習慣病に与える悪影響が明らかになった.アメリカを中心に,不眠のもたらす精神的あるいは身体的弊害を防ぐためには,睡眠薬の積極的な使用が不可欠と考えられるようになっている.本稿では,現在もっとも多く使われているベンゾジアゼピン受容体作動薬を中心に,不眠症治療における睡眠薬の有用性,長期投与や多剤併用の問題について述べ,睡眠薬治療を補うものとして非薬物療法について述べる.さらに,あらたに開発されたメラトニン受容体作動薬,現在開発中のオレキシン受容体拮抗薬やセロトニン 2 受容体拮抗薬について紹介した.
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医学のあゆみ 236巻10号, 999-1006 (2011);
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SDAs を含む非定型抗精神病薬,SSRIs,SNRIs からを“新規”とした.副作用が軽減され,選択性が増した薬物である.神経伝達物質と受容体を想定すると,作用機序の理解が比較的容易なものである.しかし,簡単に理解できない薬物の使用法が出現しはじめるのも,これら導入以降である.難しいと思う例をあげる.1.強迫神経症に SSRI を使用し,難治の場合セロトニン受容体を阻害する SDA を併用する,2.非定型抗精神病薬が双極性障害,難治性うつ病の治療に使用される,3.ドパミン受容体パーシャルアゴニストの統合失調症治療への登場,さらには双極性障害への使用拡大,4.うつ病治療時に,セロトニン放出を抑制するはずの 5-HT1A 作動薬を併用する,5.ノルエピネフリン,セロトニン受容体阻害作用を有するミルタザピンをうつ病に使用する,などである.さらに,約 50 年前に登場したクロザピンがそれ以降に開発された非定型抗精神病薬と比較して現在どのような意義を有するのか,についても即答は難しい.本稿は以上を含め,知っておくべき作用機序を概説する.臨床場面と継続的にかかわる一方,実験動物を用いる研究に携わる著者が特徴を有するものを提示できることを願う.
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医学のあゆみ 236巻10号, 1007-1011 (2011);
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向精神薬を発売年によって“従来型”と“新規型”に分けてとらえる考え方があるが,不適切な臨床につながる可能性がある.統合失調症,うつ病ともに,いわゆる新規型薬剤が有効でないとき,従来型を用いることは一般的であるが,日本での治験結果などをみると第一段階での従来型の有用性もさらに検討する必要がある.不安障害ではベンゾジアゼピン系薬剤の身体依存が問題になるが,最近頻用されている選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)でも退薬症状を認めるため,優劣は慎重に評価すべきである.従来型薬剤の意義に関連して薬価,添付文書記載,治験における用量設定や従来薬との比較などがさらに考慮されねばならない.