Volume 237,
Issue 1,
2011
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【4月第1土曜特集】 創傷治療の最前線
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医学のあゆみ 237巻1号, 1-1 (2011);
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基礎から臨床応用まで
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医学のあゆみ 237巻1号, 5-8 (2011);
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創傷治癒過程は,障害を受けた組織(多くは皮膚・皮下組織)が再度バリアーとして再構築される一連の修復過程を指す.炎症期,増殖期,成熟期に分類されるが,これらが数段の滝のように連なる精巧なネットワークを形成する.創傷治癒は障害を受けた部位だけで起こるわけではなく,近年の分子生物学的研究により骨髄から創傷部への細胞の動員が注目されている.難治性創傷は 3~4 週間以内に治癒しない創傷という曖昧な定義であり,褥瘡や糖尿病性足潰瘍,静脈うっ滞性潰瘍などに加え,熱傷創に感染を伴った場合や創感染による ƒ開創が難治化したものも含まれる.難治性創傷は創傷治癒阻害因子と促進因子のバランスが阻害因子側に傾いている場合であると考えられており,細菌の臨界的定着(critical colonization)も関係しているとされている.
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医学のあゆみ 237巻1号, 9-13 (2011);
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創傷管理における湿潤療法の利点と問題点,適応について述べた.湿潤療法では,創部から湧出する細胞成分やサイトカイン・細胞増殖因子などを含んだ液性成分の温存が可能,痂皮による表皮細胞の伸展障害の回避,自己融解デブリードマン作用,疼痛の軽減,保温効果と物理的損傷からの保護効果,などの利点を有する.創傷が早く治れば,傷跡もめだたずきれいになる.一方で,画一的な創傷管理を行うと感染増悪などの危険性もある.新鮮創傷では初期治療における汚染の排除,慢性創傷では滲出液のドレナージと細菌制御が,湿潤療法を行う場合,重要になる.湿潤環境を提供する創傷被覆材には,1.創部の湿潤環境をコントロールする目的で使用する passive dressings,2.慢性創傷の生物環境を積極的に改善するための active dressings,3.陰圧閉鎖療法がある.本稿ではそれぞれの特徴と適応について述べた.
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医学のあゆみ 237巻1号, 14-16 (2011);
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ヒト遺伝子組換型塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は,局所投与することにより急性・慢性創傷治癒促進効果のみならず,治癒後の瘢痕の質的改善を認める.熱傷潰瘍や下肢再建における深部組織露出例において,bFGF 製剤の連日使用により,治癒後の臨床的評価,瘢痕硬度,角質バリア・機能の改善が得られている.bFGF 製剤の創傷治癒における役割として,創閉鎖促進のみならず,組織再生・再構築を含めた優れた創傷治療効果が期待され,比較的安価で手軽・安全な創傷外用剤として今後ますます臨床応用範囲が拡大するものと考えられる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 17-20 (2011);
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重症虚血肢や糖尿病など,慢性創傷発生の原因によっては植皮術や皮弁移植術のみでは治療困難なことが多い.一方,近年の再生医学の著しい進歩とこれらを支える幹細胞生物学や各種増殖因子の生体に及ぼす影響が明らかになるにつれて,皮膚皮下組織の再生医学においては生体自身が元来保有する自己再生能を用いて,幹細胞や増殖因子によって治癒が誘導されることが証明され,現行の治療法では治療不能とされてきた慢性創傷治療への応用が可能となりつつある.現時点で臨床に用いられる幹細胞は自己由来の幹細胞集団(骨髄由来,脂肪組織由来など)であるが,これらは細胞自身の有する多分化能に起因する血管内皮細胞への分化ならびに細胞自身から放出される創傷治癒を促進する各種増殖因子によって,直接的・間接的に再生と修復を促進する.また,細胞を用いず種々の増殖因子のみによってもドラッグデリバリーシステムを応用するなど,適切な投与法によって皮膚の再生誘導治療を達成できることが明らかとなった.
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医学のあゆみ 237巻1号, 21-25 (2011);
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人工真皮は,コラーゲンスポンジとシリコーンシートの二層構造をもち,皮膚欠損部分に使用され,真皮再生の足場として機能する.最近,シリコーン膜のない単層タイプ,メッシュ状にしたドレーン孔タイプも発売され,さまざまな疾患・部位に使用しやすくなった.全身熱傷患者では,人工真皮で形成した真皮様組織に培養表皮(日本初の細胞使用再生医療製品)を移植し皮膚を再生させる治療法が行われており,今後も広く行われると予想される.人工真皮と培養表皮以外のさまざまな細胞との組合せも有望な使用法である.著者らは,患者自己血清を用いて培養した自家線維芽細胞を人工真皮に播種培養した自家培養真皮を,糖尿病性潰瘍に用いる臨床試験を行っている.また,細胞成長因子を吸着し,生体内で分解されるときに放出するあらたな人工真皮の開発も行っている.今後,再生医療の発展とともに,皮膚以外の組織再生にも人工真皮は使用されていくと思われる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 27-32 (2011);
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培養表皮移植は広範囲皮膚欠損の治療に実用化された最初の再生医療であり,1975 年 Green らによる表皮細胞の培養法確立がその原点である.この技術により,わずかな量の皮膚から大量の培養表皮シートを作製することが可能になった.1980 年代にはアメリカでこの方法で作製された培養表皮が臨床応用され,わが国では 1985 年に著者らが培養表皮移植による広範囲熱傷の治療を開始した.1986 年には Cuono らにより同種皮膚移植後の再構築真皮に培養表皮を移植する方法が報告され,広範囲熱傷の治療に大きな変革をもたらした.また,培養表皮を凍結保存することにより,細胞培養する期間を待つことなく即時に培養表皮を創傷に移植することも可能になった.さらに,培養表皮は母斑や刺青切除後創面への移植,白斑など色素失調症への移植にも応用され,良好な成績をおさめるようになった.2009 年には広範囲重症熱傷患者に対して,企業により製品化された培養表皮の使用が保険適応され,再生医療が一般的な医療として普及しつつある.
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医学のあゆみ 237巻1号, 33-38 (2011);
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「痛みの治療を受けることは患者の権利であり,痛みを治療することは医療者の義務である」という理念のもと,創治癒にのみ焦点が当てられ疼痛軽減に関して論じられることが少なかった,これまでの創傷治療が省みられている.疼痛への配慮に欠いた治療を続けると,末梢神経と中枢神経は可塑的に変化するため,痛覚過敏とアロディニアを生じ,複雑な痛みと QOL の低下に悩まされる.慢性創傷の局所治療では被覆材の選択が重要である.以前は滲出液の吸収量に応じて被覆材を選ぶことが多かったが,最近では一次性痛覚過敏やアロディニアの視点から,創面に触れるパッドの材質が選ばれる傾向にある.被覆材のテープが貼られる部位では二次性痛覚過敏を生じるため,パッドだけでなくテープの材質にも配慮すべきである.疼痛を管理するには漠然と“痛い”か“痛くない”かの 2 段階評価ではなく,疼痛評価尺度を用いて“痛みの強さ”をとらえ,その推移を把握することが不可欠である.そのうえで創傷被覆材を選択することが,疼痛管理に基づいた局所治療につながる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 39-44 (2011);
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創傷治療において看護学が果たしてきた役割を振り返ってみると,創傷,とくに褥瘡研究の領域は,サイエンスとしても,わが国全体の医療体制上の点からしても“看護学の成功事例”であるとみなしうるであろう.これには皮膚・排泄ケア認定看護師に代表される創傷を専門とする看護師の人数・力量が充実してきたこと,エビデンスに基づく創傷のアセスメント・予防やガイドライン作成などがとくに看護学研究者に先導される形で一般化してきたこと,そうした背景のもと医師をはじめ薬剤師,栄養士,理学療法士などの多職種の方々の協力が得られてチーム医療の体制を国レベルで構築できたこと,といった種々の要因があげられる.本稿では,これら創傷をめぐる看護学がこれまでもたらしてきた成果について俯瞰するとともに,今後この分野の看護学がめざす方向性について,とくにトランスレーショナルリサーチの概念に重点をおいて述べていきたい.
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褥瘡
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医学のあゆみ 237巻1号, 47-51 (2011);
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褥瘡の発症と診断をめぐる最新のトピックスについて簡潔にまとめた.Deep tissue injury という新しい深部組織損傷のコンセプト,“消退する発赤”の解釈,急性期病院における周術期以外の発症リスク,座位による発症,浸軟とスキンケアなどを褥瘡発症の新しいトピックスにあげた.殿部にある発疹は安易に褥瘡と即断されがちであるが,周術期でも電気メスによる電撃傷や消毒薬による化学熱傷など褥瘡と紛らわしい皮膚損傷もあること,多彩な皮膚悪性腫瘍や皮膚感染症も鑑別診断にあげられること,コレステリン塞栓症や糖尿病など褥瘡以外にも多様な足の皮膚潰瘍があることを指摘し,鑑別診断の重要性を強調した.
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医学のあゆみ 237巻1号, 53-57 (2011);
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褥瘡治療の予防・管理ガイドラインについて,EBM 手法に基づくガイドラインの歴史的変遷を踏まえ,その作成工程を述べた.どのような手順を経てガイドラインが作成され,どのような評価を経て公開されるのか,日本褥瘡学会が作成したガイドラインを例に説明した.さらに,褥瘡治療に関する予防・局所治療に関するガイドラインの全容を紹介し,推奨度の高い項目をピックアップし,実際のガイドラインとして紹介した.さらに,深化するガイドラインの例示として,国際ガイドラインや,ずれや微小循環に対するワーキンググループの成果などを取り上げ,褥瘡治療ガイドラインの今後を示唆した.
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医学のあゆみ 237巻1号, 58-62 (2011);
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褥瘡治療において,今日まで進歩した wound bed preparation や治癒促進の技術に皮弁形成・植皮などの外科的治療も加味することにより,治療期間の短縮や優れた機能・形態の回復を達成できる.本稿では,安全に手術治療を行うための適応と実際について述べる.手術の適応は,全身状態や社会的背景などを総合的に判断して決定する.日本褥瘡学会のガイドラインでは,1.深さが皮下組織以上に及ぶとき,2.感染が沈静化している時期,に観血的創閉鎖を考慮して行うことを推奨している.再建術は,創部の状態によって一期的に行うか二期的に行うか判断する.周囲に壊死組織を有する褥瘡では壊死組織の取り残しによる創感染が問題となるため,二期的再建を適応する.二期的再建は,1.外科的デブリードマン,2.wound bed preparation,3.植皮・皮弁による再建手術,の 3 段階で行う.おもな再建方法としては,植皮,皮弁形成の 2 つがある.手術を成功させるためには,除圧を中心とした術後管理も重要である.
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医学のあゆみ 237巻1号, 63-68 (2011);
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褥瘡発生のリスク因子に脆弱な皮膚があげられる.加齢に伴う皮膚の老化に加え,免疫・代謝機能の低下や低栄養,疾患や治療の影響など,皮膚の生理機能や組織耐久性の低下が原因である.よって皮膚の生理機能を維持することを目的とするスキンケアは,褥瘡の発生を予防するためにも重要である.予防的スキンケアの柱となる考えは「もっとも重要なバリア機能をもつ表皮をいかに維持するか」である.脆弱な皮膚として多く見受けられる症候に“ドライスキン”と“浸軟”があり,いずれも表皮のバリア機能の破綻を認める.ドライスキンは角質水分量が減少し,皮膚の表面を覆う皮脂膜のバリア機能が破綻した状態であり,浸軟は外からの水分を吸収して角質細胞内の水分量が増加し,角質細胞と細胞の間を接着させている構造が緩んでいる状態である.こうした皮膚の生理機能が低下した状態を考慮したスキンケア法として,皮膚の保護は重要な位置づけとなる.また,便失禁に伴う皮膚障害や皮膚の湿潤は褥瘡発生や治癒遅延の原因となるために予防するケアも必要となる.
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下肢難治性潰瘍:糖尿病性病変,重症下肢虚血・静脈うっ滞性潰瘍
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医学のあゆみ 237巻1号, 71-78 (2011);
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糖尿病性足潰瘍と重症下肢虚血の創傷概念を述べる.前者ではその病因として,1.末梢神経障害,2.末梢血行障害(PAD),3.感染症,があげられる.これらの複雑な混合病変が糖尿病性足潰瘍である.その病態を 4つに分類した(神戸分類). TypeI:主たる病因は末梢神経障害である. TypeII:主たる病因は末梢血管障害である. TypeIII:主たる病因は感染症である. TypeIV:3 つの病因が混在し,PAD に加えて趾間白癬からの二次感染となり重症下肢虚血に陥った病態である. 一方,重症下肢虚血は上記の TypeIIおよびⅣと同じであるが,糖尿病を合併していれば血管障害がより末梢に及ぶため,より重症化する.さらに,このような疾患群における救肢の意義について述べた.
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医学のあゆみ 237巻1号, 79-83 (2011);
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近年,わが国において生活様式・食生活の欧米化,高年齢化に伴い末梢動脈疾患(PAD)の増加が著しい.末梢動脈閉塞病変が悪化し潰瘍や壊疽を生じた場合を重症下肢虚血(CLI)といい,その予後は 1 年後生存率 75%で,そのうち 30%が肢切断に至っている.CLI に伴う創傷は,下肢動脈血流の著明な低下による安静時疼痛や潰瘍形成を臨床症状とし,治療が不適切であると下肢切断に至る.心筋梗塞,脳血管障害といった血管イベントの発生もきわめて高く,年間の死亡率は 20%にものぼる.CLI の治療には速やかな血行再建が必要であり,その後も全身管理,創傷のケア,潰瘍の治療,感染コントロールといった多面的な集学的アプローチが求められ,チーム医療が不可欠である.共通の治療アルゴリズムを用いることで円滑にチーム医療が進み,下肢救済治療を行うことができる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 84-89 (2011);
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近年のわが国における糖尿病の増加により,閉塞性動脈硬化症の様相が変化してきている.第 1 に病変の主体が,従来の腸骨大腿動脈から下腿動脈に移ってきた.第 2 に腎不全症例が増加してきている.第 3 に全身的なアテローム変性疾患の合併が増え,リスクが高い症例が増えてきた.これらに対し,著者らは脛骨腓骨動脈や足部動脈へのバイパスを積極的に行うとともに,可能なかぎり低侵襲化に努め,さらには側副路へのバイパスを行うなどの工夫を行っているが,いまだに末梢血行再建を行う施設数が十分ではないのが現況である.
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医学のあゆみ 237巻1号, 90-94 (2011);
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重症虚血肢(CLI)を救肢するには,血行再建が必須である.血行再建術は従来,外科的バイパス術が第一選択とされてきたが,CLI 患者は生命にリスクを及ぼす心血管疾患を高率に合併するため,より低侵襲の血管内治療(EVT)が注目されている.CLI はマルチセグメントに閉塞性病変を有し,とくに重症の膝下動脈病変を高率に合併する.救肢のためには潰瘍を生じた足部まで十分に再灌流する必要があり,膝下動脈病変に対する血行再建が重要となる.膝下動脈は血管径が細く,長区域の完全閉塞病変が多いため,EVT には挑戦的な領域であるが,近年,ガイドワイヤーやバルーンの細径化によりその初期成功率は著しく向上し,救肢に関しても EVT はバイパス術に劣らないと報告されている.膝下動脈 EVT は一次開存率が低いことが問題であるが,最近,薬剤溶出バルーンやステントの導入により長期開存率も向上することが期待されている.
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医学のあゆみ 237巻1号, 95-100 (2011);
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虚血性下肢壊疽のもっとも有効な治療は血行再建である.血行再建が成功すれば,速やかに疼痛の除去と創傷治癒が得られ,救肢につながる.マイクロサージャリーの手技を用いた外科的血行再建を 13 例(遠位バイパス手術 10 例,静脈移植による末梢動脈の置換術 2 例,足背静脈弓の動脈化手術 1 例)に行った.遠位バイパス術 10 例の一次開存率は平均 28.5 カ月の follow-up において 100%で,他疾患で死亡した 2 例を除いて下肢は温存されている.静脈移植による末梢動脈の置換 2 例と足背静脈弓の動脈化 1 例の一次開存率も100%であった.外科的血行再建術にマイクロサージャリーの手技を導入すると,0.7~1 mm の病的血管においても確実な血管吻合が行え,開存率の向上と手術適応の拡大に寄与すると考えられる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 101-105 (2011);
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和温療法の血管に対するおもな効果をまとめると,1.温熱効果による血管拡張作用,2.血管内皮機能の改善,3.一酸化窒素(NO)による血管新生作用,である.すなわち,和温療法は総合的に血管の機能を改善させる可能性があるといえる.間欠性跛行をはじめ難治性の虚血性潰瘍を有する末梢動脈疾患(PAD)患者に対して和温療法を施行し,下肢疼痛の有意な改善,歩行距離,ABPI,レーザードプラ血流計による下肢血流量の改善や,虚血性潰瘍の治癒など,良好な効果を得ている.また,下肢虚血モデルマウスにおいて,和温療法により血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現が亢進すること,虚血肢での血管密度が増加すること,血流量が増加することが明らかになっている.PAD は重症になればなるほど,血管内科医と血管外科医の協力はもとより,さまざまな領域と連携して治療にあたる必要性がある.そのなかで和温療法は安全で,患者にとって心地のよい,しかも医療経済的にも優れた治療法であり,PAD 治療の大きなツールとして期待できる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 106-110 (2011);
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慢性静脈不全症(CVI)はもっとも頻度が高い病態のひとつであり,下肢静脈瘤を含めると一般人口の 40~50%が罹患し,5%が病態の終末像である静脈性潰瘍に進行するといわれている.本稿では,CVI が原因となる下腿潰瘍の分類と診断および治療について述べる.
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急性創傷ほか
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医学のあゆみ 237巻1号, 113-117 (2011);
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近年,広範囲重症熱傷患者の救命率は著しく向上してきた.その要因として,種々の救急医学・集中治療の進歩に加え,スキンバンクの設立による凍結保存同種皮膚移植と(超)早期手術の導入があげられる.また最近では,再生医療の進歩により人工真皮や自家培養表皮の臨床使用ができるようになり,広範囲重症熱傷の治療成績の向上が期待される.広範囲重症熱傷に対する超早期手術は,短時間で効率的なデブリードマンと,限られた自家植皮片を有効に使用するための創閉鎖方法が重要となる.デブリードマンの方法としては,連続分層切除術(sequential excision)と筋膜上切除術(fascial excision)を熱傷部位によって使い分け,創閉鎖方法は少量の自家植皮片の上にスキンバンクからの凍結保存同種皮膚を重ねる混合植皮術を行うのが有効である.また今後,新しい人工真皮(インテグラ)と自家培養表皮(ジェイス)が,超早期手術時の創閉鎖法として有効な一助となることが期待される.
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医学のあゆみ 237巻1号, 118-122 (2011);
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手術創は一次閉鎖創として最小の瘢痕で治癒するのが通常であるが,いったん表層の手術部位感染(SSI)が生じると創を開放しなければならない.SSI により開放された創はそのまま瘢痕肉芽で治癒させる二次治癒ではなく,できるだけ創を再閉鎖する三次治癒(遷延一次治癒)が望ましい.これを実現するためには,まず創感染の兆候を早期に察知し,できるだけ早期に創を開放すること,そして開放した創の感染を確実にコントロールすることが重要である.そのためには徹底的に創のデブリードマンを行い,創を洗浄することが基本である.必要に応じ,ヨードや銀などの抗菌薬の使用も考慮する.感染のコントロールがある程度できたら,つぎに肉芽形成を促進させるために創傷被覆材を使用する.しかし,創縁および創床の炎症が治まり肉芽形成が開始されれば,なるべく二次治癒を待たずに創を閉鎖する.感染創であっても創傷治癒過程を意識して創を注意深く観察し,慢性創にしないことが重要である.
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医学のあゆみ 237巻1号, 123-128 (2011);
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ケロイドと肥厚性瘢痕の治療では,患者の 1.体質,2.年齢,3.生活環境,とケロイド・肥厚性瘢痕の 4.部位,5.原因と経過,6.現在の炎症の強さを診断し,個々の症例に合った種々の治療法を選択することが大切である.1.手術,2.物理療法(圧迫・固定・安静),3.副腎皮質ホルモン薬,4.凍結療法,5.レーザー照射,6.内服薬,7.放射線治療,8.抗腫瘍薬/免疫抑制薬などを適宜用いることによって,完治させたり症状を軽減させることが可能である.そのほかヘパリン類似物質,オニオン抽出液,ヨモギローション,塩化メチルロザリニン,光線力学療法などの単独療法・併用療法が有用であるとの報告があり,今後の研究が期待される.
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新しい治療法
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医学のあゆみ 237巻1号, 131-135 (2011);
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寿命延長や食生活の欧米化など,さまざまな要因により,閉塞性動脈硬化症や糖尿病に伴う慢性足潰瘍患者は増加の一途にある.ときに大切断を迫られることがあるが,デブリードマンや局所感染のコントロールを行うことで大切断を回避できることがある.当院では無菌ウジによるデブリードマン“マゴットセラピー”を慢性潰瘍治療に取り入れ,血行再建や厳格な血糖コントロールなど他の治療と組み合わせて施行することにより救肢できた症例を多数経験している.多剤耐性菌の増加,抗菌薬が創部に届きにくい虚血肢の感染巣治療にマゴットセラピーはとくに有用であり,著者らはさらなる普及をめざしているところである.ここでは“世界最小の外科医”とよばれるマゴットセラピーの歴史を紹介した後,マゴットセラピーの有効性の機序や実際の運用手順を紹介するとともに現在の問題点,今後の展望を掲げる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 137-140 (2011);
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局所陰圧閉鎖療法(NPWT)は新規に保険収載された,陰圧を負荷して創傷治癒を促進させる治療法である.保険算定においては Vacuum Assisted Closure(V. A. C.)ATS治療システムを使用する必要がある.その臨床的効果には滲出液除去,肉芽形成促進,感染の制御,ポケット癒着促進,創周囲浮腫軽減,創縁の引き寄せなどがある.適応は,真皮よりも深い創傷である.壊死組織を認める場合には壊死組織除去術を行い,血流のよい活性の高い組織を露出させる.感染が疑われる創傷では,NPWT を開始する前に抗菌薬などによって感染を制御しておく.露出した血管・臓器に直接 NPWT を使用することは,大出血や臓器破裂などの事故につながるおそれがあるため禁忌とされる.V. A. C.の登場によって創傷治療期間の短縮,医療コストの削減,患者 QOL の向上が期待されている.
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医学のあゆみ 237巻1号, 141-145 (2011);
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多血小板血漿(PRP)は採血した全血を遠心分離により血小板を濃縮したものである.PRP 療法は濃縮された PRP を強制的に活性化,つまり血小板内のα顆粒が内包する多種のサイトカインを多量に放出させ,難治性潰瘍や褥瘡などの慢性創傷に適用し治癒を促進する療法である.換言すると“局所サイトカイン療法”といえる.PRP 療法は,患者に採血のみの負担で自己血由来のサイトカインを局所に適用し,良好な治療効果を導いている.また,異物や薬剤の混入もなく安全で,白血球が混ざっていることから感染の可能性も少ない.何度も繰り返し適用でき,手術を伴わない治療では外来通院で PRP 療法を進めることができる.このため,患者の負担が少なく良好な治療効果を導くだけでなく,手術や入院を減じることができるなど医療経済的にも理想的である.PRP 療法の適応は本稿の慢性創傷の治療のみならず,嚢腫やシワの治療,腱損傷,筋断裂(肉離れ),骨治癒促進,手術創の治癒補助など広範な発展が期待できる.
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医学のあゆみ 237巻1号, 146-150 (2011);
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糖尿病性潰瘍の原因のひとつである血行障害が血行再建術や薬物療法などの既存の治療を施行しても改善を認めない場合は,最終的に下肢切断となるケースは少なくない.1997 年に血管内皮前駆細胞(EPC)が発見されてから,多くの研究者は虚血と EPC の関係を研究し,2002 年に Tepper らは糖尿病患者の血行障害はEPC 数と EPC 機能低下が原因である可能性を報告した.著者らは糖尿病患者に EPC を補うことで潰瘍を治療できないかと考え,難治性糖尿病性潰瘍に対して末梢血血管内皮前駆細胞移植治療による臨床研究を開始した.本稿では,血管再生と創傷治癒に対する EPC 移植治療の現状と可能性について解説する.
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医学のあゆみ 237巻1号, 151-154 (2011);
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壊死組織の残存する創面,細菌が定着した組織の存在は,その創面の治癒を阻害する.このような創面では,デブリードマンがその治癒のファーストステップとなる.デブリードマンの方法には,軟膏やドレッシング剤などを使用する各種の保存的な方法や,外科的な切除がある.保存的方法は時間がかかり,効率的ではない.一方,従来のメス,剪刀,電気メスなどを用いる外科的なデブリードマンは除去すべき組織のみを切除することは難しく,少なからず健常組織も切除されるのが通常である.今回紹介する Versajet HydrosurgerySystem は高速の水流で創面を洗浄しつつ,壊死・感染組織を切除吸引するデブリードマン機器である.ハンドピースのよい操作性,創面に対して接線方向に組織を除去できる点,洗浄も同時に行われるため非常によい視野が確保される点などにより,切除すべき組織と健常組織の選択性が非常によく,効率的で質の高いデブリードマンが行える.このため健常組織をより多く残せるため,術後の瘢痕拘縮の回避などにもつながる.
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学会紹介
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医学のあゆみ 237巻1号, 157-158 (2011);
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