Volume 237,
Issue 5,
2011
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【4月第5土曜特集】 臓器移植の新時代
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医学のあゆみ 237巻5号, 349-349 (2011);
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新しい社会基盤の整備に向けて
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医学のあゆみ 237巻5号, 353-361 (2011);
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改正臓器移植法は立法技術的に非常に問題の多い立法である.ドナーとレシピエントの相互匿名性を奪った親族優先提供条項は,大きな危険をもたらす“パンドラの箱”をあけた.たとえば,主治医は患者の心臓死まで治療に専念していると,患者がドナーであった場合にレシピエントから脳死臓器提供の機会を奪った賠償請求をされるリスクや,遺族の拒絶権不行使などが対価性をもつリスクである.また,改正法は小児臓器移植に道を開いたといわれるが,被虐待児童からの臓器提供を否定する不合理な条項は,提供を申し出た親の虐待の可能性を疑うという残酷な方法で事実上,小児臓器移植を禁止するに等しい.脳死概念をめぐる対立が激しかったため,立法技術的な議論が不足し,対立が感情的に立法に持ち込まれて論理的に未整理な妥協がはかられたことが,このような改正法の欠陥をもたらしたと思われる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 363-367 (2011);
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2010 年夏の改正臓器移植法施行によって,いくつかの影響が表出してきた.脳死下臓器提供数の増加,提供施設における被虐待児対応に対する混乱などが直接的なものである.また,間接的な影響としてドナー側,レシピエント側双方の移植コーディネーターの疲弊,提供施設の負担感の増加がある.本稿では臓器移植の社会的基盤として,こうした影響にどう対処すべきかを考察した.そして国民,提供施設およびその医療従事者,移植コーディネーター,それぞれについて,さらなる移植医療の発展に必要な社会的基盤を考察した.
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医学のあゆみ 237巻5号, 368-372 (2011);
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脳死下での臓器提供の推進と非倫理的な臓器移植の防止そして生体ドナーの安全確保を目的として,国際移植学会(TTS),世界保健機関(WHO)が中心となって 2008 年にイスタンブール宣言が採択された.2010 年には WHO 新 guiding principle が公布された.臓器提供数の慢性的な不足は世界共通の問題であるが,わが国では極端に少ない.自給できる体制を相当な速度で実施する義務が WHO メンバー各国に課せられたのであり,その意味でわが国では今後,相当な自助努力が必要である.
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医学のあゆみ 237巻5号, 373-379 (2011);
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2010 年 7 月施行の改正臓器移植法では,臓器摘出の要件が変更され,本人の意思表示が不明な場合においても家族が承諾すれば臓器摘出が可能となった.それに伴い,提供の意思決定が家族に委ねられる機会が増え,家族の意思を尊重し,家族が満足できる意思決定を円滑に進める必要性が高まっている.臓器摘出要件を変更した諸外国の先行研究レビュー,および定性調査を実施した結果,家族の意思決定を円滑に進めるためには,各臓器提供病院において臓器提供プロセスを円滑に進める役割を担う人材を配置すること,院長がリードして臓器提供についての院内協力体制を強化すること,適切な態度で家族に接するプロフェッショナルを養成することが重要であり,これらを国の強いコミットメントで実施する必要性が示唆された.
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医学のあゆみ 237巻5号, 381-388 (2011);
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移植用臓器の増加を図るための標準的手法として,ドナーアクションプログラム(donor action program:DAP)は代表的なものである.DAP は臓器提供に着目した品質管理手法であり,総合的質経営(total qualitymanagement:TQM)と共通点を多く有する.DAP を用いることにより,病院は現状診断,アクションプランの作成,その効果の検証を行うことができる.すでに導入が進められた県では,臓器提供数の増加,献腎情報の増加,および心停止前の情報提供など情報の質の向上が認められた.DAP は国際的に共通の方式を用いているため,国際比較が可能である.日本とヨーロッパ各国との比較からは,医療スタッフに対する脳死・臓器提供についての教育研修による正確な情報の提供,日本のデータを用いての臓器提供が家族の悲嘆を軽減することの検証,グリーフケアについての体系的なプログラムの開発を早急に実施する必要が示唆された.DAPのさらなる拡大には,長期的な視点に立った恒久的組織によるプログラムの管理,スタッフの教育,データ管理の体制整備が検討されることが望ましい.
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医学のあゆみ 237巻5号, 389-394 (2011);
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臓器移植先進地であるヨーロッパ諸国と日本の臓器提供状況を実地調査により検討し,わが国における臓器提供推進に必要な啓蒙上の施策を探索した.ヨーロッパ諸国では,国民の合意のもと opting-out システムを採用して臓器提供を進める方向で努力しており,国が主体となって種々の施策を講じている.システムづくりほか,若年層に対する教育や啓発にも国家的力を注いでいる.長期的視点に立つとき,わが国でもそのような国の主体的取組みの導入を考慮すべきと考えられた.この結果を受け,全国自治体へのアンケートを実施したところ,約半数の自治体で中高校生を中心に移植や脳死,臓器提供についての教育が実際に行われていた.しかし地域的な差も大きく,この点でやはり国主導の提供推進を進める必要があると考えられた.
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わが国における脳死移植の現状と今後
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医学のあゆみ 237巻5号, 397-403 (2011);
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わが国の心臓移植は,これまでに日本臓器移植ネットワークに 473 人が登録され,96 例に行われ,154 例が待機中に死亡した.臓器移植法下での心臓移植は 1999 年に開始され,その後徐々に施行数が増加し,2006年以降は年間 10 例前後となった.臓器移植法改正後,実施数は著明に増加し,2010 年末までに 20 例施行され,本年(2011)になってからもすでに 7 例が実施された.これまでに感染症で 3 例,悪性腫瘍で 1 例が死亡したが,現在 6 例が 10 年以上生存し,QOL の高い日常生活を送っている.10 年生存率は 95.1%と国際レジストリーより良好な成績である.これまでの 79 例の報告では,年齢は平均 37.2 歳で,原疾患は非虚血性心筋症が大部分を占めている.また,待機状態は全例 Status 1 で,LVAS 装着例が 88%あり,待機日数は Status1 として平均 798 日,LVAS 装着期間は平均 811 日であった.今後,小児への対応が課題である.
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医学のあゆみ 237巻5号, 404-407 (2011);
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世界では 30,000 例以上の脳死肺移植がすでに報告され,末期呼吸不全に対する有効な治療法として根づいている.日本では,2010 年 12 月までに 471 例の患者が日本臓器移植ネットワークに登録されたが,脳死肺移植実施数は 87 例にすぎない.そして,196 例の患者が待機中に死亡した.これは,脳死ドナー数がきわめて限られていたためであり,同期間に 100 例の生体肺移植が行われた.適応疾患では,肺リンパ脈管筋腫症,特発性肺動脈性肺高血圧症,間質性肺炎が多い.国際心肺移植学会の報告では,脳死肺移植後の 5 年生存率は約 50%であるが,日本では 71.8%と良好である.2010 年 7 月の臓器移植法改正は,臓器提供数の急増につながり,半年で 21 例の脳死肺移植が行われた.2011 年は,さらなる脳死肺移植の増加が期待されている.
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医学のあゆみ 237巻5号, 408-412 (2011);
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1963 年,Starzl が世界で第 1 例目の脳死肝移植を施行して以来,アメリカでは年間 6,000 例を超える脳死肝移植が行われている.欧米諸国では脳死肝移植が日常診療となっているのに対し,日本では 1999 年に 1 例目の脳死肝移植を経験してから 2011 年 1 月までに 99 例の脳死肝移植しか行われていない.本稿では,日本における臓器移植法や法改正後の変化,肝移植の現状,移植数の推移について概略する.
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医学のあゆみ 237巻5号, 413-417 (2011);
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現在日本では約 28 万人が慢性腎不全のため透析治療を行っており,このうち 12,000 人が献腎移植を希望している.免疫抑制剤の開発により,従来行われてきた腎移植の成績は飛躍的に向上し,慢性腎不全の医療として認められるようになった.しかし,献腎数は諸外国に比べきわめて少なく,1 年間に行われる献腎移植数は献腎移植希望登録者の約 1.6%(2009 年,日本臓器移植ネットワークより)にすぎない.そのためわが国では生体腎移植がつねに献腎移植を上まわる状況が続いている.またドナーも心停止ドナーからの献腎に頼ってきた.脳死に比べ心停止後のドナーでは移植腎機能が悪いとされ,欧米ではマージナルドナーと称される.しかし,わが国の献腎移植における移植腎予後は,アメリカにおける脳死ドナーからの献腎移植予後と遜色ないことが証明されている.今後も慢性腎不全患者は増加すると思われ,献腎移植が慢性腎不全の最良の医療となるためには,やはりドナー数を増やし,移植までの待機期間をすこしでも短くする必要がある.そのため心停止・脳死からの臓器提供の必要性を広く啓蒙し続けなければ,わが国の移植医療に進歩はない.
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医学のあゆみ 237巻5号, 418-424 (2011);
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わが国では 1997 年 10 月に「臓器の移植に関する法律」が施行され,2000 年 4 月に第 1 例目の膵腎同時移植(SPK)が行われて以降,2009 年末までの脳死下での臓器提供は 83 例あり,そのうち膵が提供に至ったのは 59 例(71.1%)であった.その内訳は SPK が 47 例,腎移植後膵移植(PAK)が 9 例,および膵単独移植(PTA)が 3 例であった.また,同期間中に心停止下ドナーからの SPK が 2 例行われた.さらに,生体ドナーからの膵移植も 20 例行われた.わが国での膵移植(脳死下,心停止下)は,いわゆるマージナルドナーが 73.8%と高率であることが特徴である.ドナー条件はよくないが,移植成績は欧米に比べて遜色のない結果であり,移植膵の生着率は 1 年,3 年,5 年でそれぞれ,88.4%,83.6%,73.3%であった.
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医学のあゆみ 237巻5号, 425-429 (2011);
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小腸移植は腸管不全に対する究極的な根治的治療法であるが,かつてその成績は不良であった.近年,免疫抑制療法の発達により,格段の成績向上がみられており,欧米では脳死ドナーからの小腸移植が重症腸管不全に対する標準的治療となりつつある.わが国ではいまだごく限られた施設で少数例が行われているのが現状であるが,徐々に脳死小腸移植が増加する兆しがみられており,その成績は欧米のそれと遜色ない.ただし,わが国における脳死小腸移植の普及には解決しなければならない問題も数多く残されている.
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脳死臓器提供に関する課題
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医学のあゆみ 237巻5号, 433-439 (2011);
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改正臓器移植法施行により,家族忖度による脳死下臓器提供が可能となった.改正法施行から 2011 年 1 月までの脳死下臓器提供で,本人の書面意思表示があったのは 2 例,その他 30 例は書面意思がなく,家族の承諾によるものであった.本稿では,改正法施行後の臓器あっせんの状況,臓器提供者家族支援(ケア),子どもの脳死下臓器提供,臓器移植コーディネーターの教育研修の問題点と今後の課題について述べる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 441-445 (2011);
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臓器を提供したい,したくないといったそれぞれの意思を尊重できる社会の形成こそ,移植コーディネーターの最大の役割といえる.そのなかで都道府県コーディネーターは,(社)日本臓器移植ネットワークより臓器の斡旋に関する業務の委嘱を受け,各都道府県にすくなくとも 1 名ずつ設置され,該当県内を中心に活動している.一般への啓発や協力病院の開拓などをおもな業務としており,各地域における移植医療普及の担い手といえよう.しかし,その担い手となる都道府県コーディネーターの雇用条件や労働環境は地域によって大きく異なり,移植医療推進のための活動の質や幅に地域格差が生じている.今後,わが国における移植医療の推進を図るうえで,都道府県コーディネーターの設置環境の整備は大きな課題であると思われる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 447-452 (2011);
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2010 年に改正移植法が施行されてから脳死臓器提供数が増えたことにより,以前に増して脳死移植手術件数が増えた.このことは,臓器の末期状態に苦しむ多くの患者に希望を与え,脳死移植を選択する脳死移植登録者も増えている.移植コーディネーターにはドナーをケアするドナー移植コーディネーターとレシピエントをケアするレシピエント移植コーディネーター(RTC)の 2 種類があり,脳死臓器提供時には協働し移植医療を支えている.移植施設でレシピエントのケアにあたるのが後者の RTC であり,その役割もますます重要なものになった.脳死臓器移植としては,心臓移植,肺移植,肝移植,腎移植などがあるが,本稿でそれぞれの臓器移植に共通した RTC の役割を初回診察から移植後まで時系列に紹介する.
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医学のあゆみ 237巻5号, 453-458 (2011);
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移植医療は“臓器提供”なくして成立しない医療であり,その“臓器提供”を担っているのは人の命を救うために日々努力している救急医療スタッフである.“人の命を救う救急医療”,“人の死を前提とする臓器提供”,一見相反する医療がどうして成り立つのか? 救急医療スタッフがジレンマを抱えている最中,2010 年 7 月に改正臓器移植法が施行され,提供側医療機関はその対応策に追われている.しかし,忘れてはならないのはひとりの患者が亡くなり逝き,それを見守っていく“看取りの医療”である.今後,臓器移植が健全に発展していくためには,“看取りの医療”の充実が急務である.
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医学のあゆみ 237巻5号, 459-465 (2011);
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脳死状態が身体に及ぼす生理学的変化は多彩である.循環動態は脳幹の機能消失による血管拡張,循環血液量の減少,autonomic storm により発生した心機能低下により,著明な低血圧が惹起される.肺においてはガス交換能が低下する.また,視床下部-下垂体機能障害として尿崩症が出現し,循環血液量の減少と血液浸透圧の上昇をもたらし電解質異常を引き起こす.さらには低体温,凝固能障害などがみられる.これらの生理学的変化に対し観血的動脈圧測定,中心静脈圧測定,心電図モニター,Swan-Ganz カテーテルなどによるモニタリング下に,適切な循環血液量・血圧・呼吸・電解質管理を行うとともに,カテコールアミン,バゾプレシンなどの薬物治療,さらにはホルモン補充療法などを行い,各臓器に至適な生理的環境を維持することが重要である.脳死ドナーとその家族の尊い意思に報いるためにも,われわれはこの脳死ドナーの特殊な病態とその管理に精通し,結果として臓器移植を成功に導くべく努力すべきである.
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医学のあゆみ 237巻5号, 466-470 (2011);
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平成 9 年(1997)10 月,いわゆる臓器移植法が施行され,平成 22 年(2010)7 月,本人の書面による意思表示の義務付けをやめ,本人の拒否がないかぎり家族の同意で提供できるようにする改正法の施行により,脳死下臓器提供は大きく増加,そして前進することが予想される.しかし,提供施設制限による,いわゆる 5 類型施設以外での意思表示による提供不能例が多く存在するために,その意思を尊重することができない.また,提供施設において脳死下臓器提供が日常的な業務とはいえない現況においては,スタッフの負担軽減,日常診療への影響の減少,および地域救急医療体制の維持のために脳死判定およびドナー管理に関するシステム化した支援体制確立が必要である.さらに,オプション呈示を受けた家族に対しては,提供の如何によらない院内ドナーコーディネーターを中心とした精神的サポートを含む施設内体制の確立・整備が求められる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 471-475 (2011);
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2010 年の改正臓器移植法施行後,脳死下臓器提供症例は増えつつある.増加の大きな理由としてあげられているのは,提供臓器の摘出が家族の意思でも可能となったことである.これまでも心停止下臓器提供(腎,角膜,膵)は家族の意思があれば可能であったが,今後は本人や家族の意思によっては,より多くの脳死下臓器提供対応が求められる.つまり改正臓器移植法は個々のさまざまな価値観を通じ,各医療機関の対応を迫ることになったともいえる.そして価値観や意思が多様化していくなかで,提供病院における体制整備についての取り組むべき課題も増加した.つまり重要なことは,医療現場を支える院内体制の整備である.そこで,今回は臓器提供に対する医療機関のあり方を中心に検討する.
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医学のあゆみ 237巻5号, 476-480 (2011);
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わが国でも 1999 年 2 月に脳死臓器移植が再開されたが,12 年近くたった現在でも,脳死下臓器提供はきわめて少ない.そのため,ドナーならびにそのご家族の意思を反映するには,可能なかぎり多くのドナー臓器が利用できるように考慮し,欧米に比較して多くのマージナルドナーからの臓器移植を行わなければならない.そのためわが国では,移植実施施設から評価チームを提供病院に派遣してドナーを評価し,必要に応じてドナー管理を行うことにより,可能なかぎり多くのドナー臓器が利用できるように努力している.とくに2002 年 11 月以降は,メディカルコンサルタント(MC)が導入され,第 1 回目脳死判定以降に提供病院に派遣され,ドナーの評価を行い,第 2 回目脳死判定以降からドナー管理を行うようになっている.その結果,1 人のドナー当りの提供臓器数が増加し,移植後の成績も向上している.しかし,現状では複数名の MC がボランティア的に活動しているので,今後の臓器提供の増加に対応できるような国レベルの体制整備が急務である.
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生体ドナー移植の新しい展開
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医学のあゆみ 237巻5号, 483-488 (2011);
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日本移植学会倫理指針,WHO 移植ガイドライン,国際移植学会イスタンブール宣言などをもとに,生体ドナーの保護と補償のあり方について述べる. 1 生体ドナーにおいては,自発的な提供意思と提供の無償性がもっとも重要な事項である. 2 日本移植学会では提供者の範囲を「親族(6 親等までの血族と 3 親等までの姻族)と配偶者」とし,原則として未成年者や精神障害者などの法的無能力者からの提供を禁止している. 3 ドナーの自由意思と提供の無償性を「第三者(移植に関与していない者で,提供者本人の権利保護の立場にある複数の者)」が確認することが求められる. 4 生体ドナーの保護のためには,“生体ドナー安全管理料”あるいは“生体ドナーコーディネート管理料”など,診療報酬上の点数化が必要である. 5 移植医療機関においては院内コーディネーターとして,レシピエント側のコーディネートの担当者とドナー側のコーディネート担当者を独立して配置することが望ましい.
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医学のあゆみ 237巻5号, 489-493 (2011);
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臓器移植の多くを生体ドナーに依存しているわが国にとって,2006 年に宇和島で発覚した臓器売買事件が投げかけた社会的なインパクトは大きい.日本移植学会は倫理指針を改変し,臓器の提供が自発的意思に基づくものであることを精神科医などの第三者が確認すること,意思決定を支援できる医療体制を整備することを求めた.しかし,臓器提供の“自発性”をどのように評価し,確認するかについてのコンセンサスはいまだ存在しない.また,意思決定のプロセスに対する望ましい支援のあり方についても同様である.移植医療に携わる各職種が柔軟に活用し,共有しうるような生体ドナーの意思確認のための指針,意思決定支援システムの構築が求められている.
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医学のあゆみ 237巻5号, 495-499 (2011);
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生体肝移植手術手技は脳死移植と比べ,ドナーおよびレシピエントともに複雑・多様である.小児から成人へと適応が広がり,手術手技の工夫や改善でこれに伴う合併症も少なくなってきたが,手術時間の短縮,手術の効率と簡素化,個々の症例への術式の最適化が求められている.これらの術式のうち,当初から現時点まで論文や学会発表で論議されてきたのが肝静脈再建法である.
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医学のあゆみ 237巻5号, 500-504 (2011);
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1998 年にスタートした日本の肺移植は過去 13 年間に 187 例を経験したが,そのうち脳死肺移植数は 87例(2010 年 12 月現在)にとどまっており,その多くを生体肺移植に頼ってきた.2010 年 7 月,改正臓器移植法が施行され,日本における移植医療は再スタートを切ったが,いぜん課題も残されている.改正法施行後も15 歳未満の小児からの臓器提供はいまだなく,今後どれくらいの臓器提供が見込まれるかはまったくの未知数である.また間質性肺炎の急性増悪や肺高血圧の代償不全(右心不全)など,緊急な移植を必要とする場合も実際少なくないが,そのような患者を救命するシステムはいまだ確立されていない.小児患者および緊急の肺移植に対応するためには,現時点では生体肺移植に頼らざるをえない状況であり,今後も限られた症例に対して生体肺移植の果たす役割は大きいと考えられる.本稿では生体肺移植における最近の技術進歩について,自験例を中心に述べる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 505-510 (2011);
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最初の生体腎移植は 1954 年に Merrill らが行った一卵性双生児間の腎移植であり,これをきっかけとして腎移植手技が確立した.その後,血管縫合には大きな変更は認められなかったが,尿管膀胱新吻合においては従来の Paquin 変法に代わって Lich-Gregoir 法が導入され,より迅速で簡便になった.さらに一番大きな変化はドナー腎摘における内視鏡の導入であり,Ratner らの報告以来,完全内視鏡下腎摘出,用手補助下ドナー腎摘出,後腹膜鏡下腎摘出が施行され,さまざまな術式により内視鏡ドナー腎摘出が行われるようになってきた.わが国でも 1996 年に鈴木らが報告して以来急速に普及し,2007 年では 74%のドナー腎摘出術が内視鏡下に行われている.
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臓器移植の感染症克服
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医学のあゆみ 237巻5号, 513-519 (2011);
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サイトメガロウイルス(CMV)感染症の診断法として,日本ではアンチゲネミア法が一般的である.CMV 感染症は腎移植後 3 カ月以内に生じることが多い.そのため移植後 3 カ月間は 1~2 週間に 1 回のアンチゲネミア法の測定が勧められる.アンチゲネミアの基準値は施設によって異なるが,たとえ無症状であっても陽性であればハイリスクの患者ではすぐに治療をはじめなければならない.とくに CMV 抗体陰性レシピエント(R-)が CMV 抗体陽性ドナー(D+)から移植される場合は初感染で重症化するため,海外では約 3 カ月バルガンシクロビル(VGCV)が予防的投与される.しかし,日本では予防的投与には保険適応がなく,早期(preemptive)治療を行う施設が多い.アンチゲネミアが陽性で臨床症状があり,重症化している場合は,最初にガンシクロビル(GCV)が静注で用いられる.VGCV および GCV は腎機能によって投与量および回数を変える必要がある.
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医学のあゆみ 237巻5号, 520-523 (2011);
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臓器移植後の真菌症治療戦略に関して概説した.免疫抑制療法を要する臓器移植後の真菌症は日和見感染症として発症することが多く,ときに致死的である.予防法・治療の適応・治療法に関して確立されたものがなく,施設ごとに異なる対応をされているのが現状である.以前は根治困難であったアスペルギルス症やクリプトコックス症に対しても有効な薬剤が開発されているが,副作用や免疫抑制剤との相互作用の面から臓器移植後には十分な量を投与することが難しい場合も多く,臓器移植特有のプロトコール確立が望まれる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 524-528 (2011);
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固形臓器移植患者の術後感染は,発症の時期ごとにどのような微生物が問題となるのかが異なる.病院内感染症が問題となるのは術後 6 カ月以内の比較的早期である.移植患者の病院内感染症であっても,一般的な外科手術後の感染症と対策は大きく変わらないが,移植患者の予後に大きくかかわってくることになり,まずは予防が大切である.施設ごとに感染症のサーベイランスを行うことで問題点が把握でき,より有効な対策を講じることができる.また,抗菌薬の適正使用ならびに標準予防策,手指衛生などが耐性菌の伝播を防ぐことにつながり,結果的に医療関連感染を防ぐことができる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 529-533 (2011);
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成人生体肝移植は年間約 400 症例行われており,最近ではその約半数がウイルス性肝炎肝硬変あるいはそれを背景とした肝癌を適応としている.B 型肝炎症例は移植前に核酸アナログ製剤投与で,移植後は抗 B 型肝炎ウイルス免疫グロブリンや核酸アナログ製剤を用いることで,ほとんどの症例で再感染を予防できる.一方,インターフェロンの副作用・奏効率の問題から,C 型肝炎症例は移植前治療が難しいうえに,移植後に駆除できる可能性は 30%程度である.C 型肝炎の移植後の治療適応,適切な時期に関しては定説がない.
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研究の新しい展開
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医学のあゆみ 237巻5号, 537-543 (2011);
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2004 年 6 月 8 日「生体肝移植~日常医療に」という見出しの新聞記事が出た.しかし 40 年前には臓器移植医療の試練の時代・暗黒の時代といわれた時代があった.Pittsburgh 大学の T. Startzl,Stanford 大学の N.Shumway らが,まっしぐらに移植医療の実現をめざし,突き進んでいた時代である.現在,日本は高度な医療技術を得,移植医療も確立された医療となった.その結果,イノベーションが起こりにくい,世代間・施設間であらたなる技術伝達を行いにくい時代になったともいえる.臓器移植の新時代を迎え,10 年,20 年という患者長期生存を踏まえたデータ解析や,施設間の病診連携が必要となり,いまこそ個々の医師がもっている技術・臨床の知を結集し,医療の進化に貢献するシステム構築が必要である.本稿では技術伝達および医学の進化を目的とした現在稼働中のシステムと,その機能について述べる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 544-548 (2011);
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現在の腎移植免疫抑制療法はカルシニューリン阻害剤(CNI),代謝拮抗薬,副腎皮質ステロイド,抗インターロイキン 2 受容体(IL-2R)抗体の 4 剤を基本とし,血液型不適合移植,抗ドナー特異的抗体陽性症例では術前血漿交換,抗 B 細胞療法(脾摘,リツキシマブ投与)といった減感作療法を組み合わせるプロトコールで行われている.拒絶反応のエフェクターとして働く T 細胞の活性化について 3-シグナルモデルが提唱されており,とくにシグナル-2,シグナル-3 に作用する新規免疫抑制剤や,抗体産生に関与する形質細胞を抑制するボルテゾミブが登場し,それらの新規薬剤の臨床応用がすこしずつ報告されるようになってきている.本稿では,それらの新規免疫抑制剤と最近の免疫抑制剤の動向について概説する.
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医学のあゆみ 237巻5号, 549-553 (2011);
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検査法の進歩から臨床における抗 HLA 抗体の解明が進み,抗体関連型拒絶反応に関して克服すべき課題が明らかになってきた.従来の直接法クロスマッチではわからなかった既存抗体が検出されるようになり,この存在下での移植が問題となっている.これを解決すべく術前減感作療法が模索されており,徐々に良好な成績を示しつつある.また,移植後の de novo 抗体の出現が明らかになり,慢性抗体関連型拒絶反応が大きな問題となっている.抗 HLA 抗体のみならず血管内皮細胞の MICA(MHC class Ⅰ related chain A)に対する抗体のように,non HLA 抗体の存在も移植腎長期生着を著しく妨げることがわかってきている.確定した慢性抗体関連型拒絶反応の治療は困難とされるが,ミコフェノール酸モフェチルを中心とした適正な免疫抑制が抗体発現を予防し,長期生着につながる可能性も示されている.抗体関連型拒絶反応に対する検査法にしても治療法にしても,わが国では保険認可がなされていないものが多いが,これらも含めて最近の知見を紹介する.
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医学のあゆみ 237巻5号, 555-558 (2011);
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臓器移植後の慢性拒絶反応に対する有効な予防法や治療法は,基本的には確立されていない.慢性拒絶反応と抗体関連拒絶反応とは同意義ではないが,抗ドナー抗体の制御法が確立されれば,治療戦略となりうるであろう.慢性拒絶反応を回避する手段としては,ドナー抗原に特異的な免疫寛容の誘導が理想である.しかし,安定して免疫寛容を誘導する方法はいまだ確立していない.現状では,移植直後から適切な免疫抑制療法を行うことが慢性拒絶反応の唯一の予防策であり,そのためには信頼性の高い免疫モニタリングにより調整を行うことが肝要と思われる.本稿では,慢性拒絶反応の機序,抗体産生の制御法,寛容誘導法,免疫モニタリング法の現状と展望を概説する.
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医学のあゆみ 237巻5号, 559-566 (2011);
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2010 年 7 月の改正臓器法施行後の 6 カ月間で,脳死ドナーからの臓器提供は 28 例に至り,日本の移植医療はあらたな展開をみている.しかし,脳死ドナーからの移植が日常的に行われ,年間 20,000 例近い移植が行われるアメリカにおいてもドナー不足は深刻な問題であり,臓器不足を解消する先端戦略の確立は重要かつ迅速に対応するべき研究テーマである.動物をドナーとする異種移植は,すでにドナー内で正常に働いている三次元構造をもつ実質臓器を用いて患者の障害臓器を置換するという,実践的な解決策である.しかし強い免疫反応というバリアおよび異種移植研究への関心の低さから,国内では異種移植に対する理解が乏しい.著者らの研究室では,臨床異種移植のドナー候補であるブタをドナーとし,ヒヒをレシピエントとした前臨床異種腎移植で,独自の免疫寛容誘導戦略を用い,80 日以上にわたり正常腎機能を維持しうるという成果を報告している.欧米だけでなく,韓国,中国でも異種移植に対する期待は大きく,精力的な研究が進められている.本稿では,これまで異種移植に際し大きな障害とされてきた問題とその解決策に加え,著者らの独自の治療戦略を示し,異種移植の臨床応用への道筋を解説する.
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医学のあゆみ 237巻5号, 567-571 (2011);
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移植医療と再生医療は,医療として特殊であるといえる.移植医療と再生医療にあっては,ヒトから提供を受けた,あるいは採取した臓器や組織・細胞を利用するという,共通した特殊性がある.そのため,基礎的研究成果の保険診療化に向けたトラックに共通点が多く,また将来的に学際的融合分野を形成しうる領域でもある.移植医療・再生医療の保険医療化に向けては 2 つのトラックがある.すなわち,“物”の流通としてとらえる薬事法トラックと,医師・歯科医師が施す“技術”としてとらえる医療法・医師法トラックであり,それらの連結に向けたあらたな枠組みとして高度医療評価制度がある.10 年後には再生医学(医療)の知見をベースにした移植医療が登場するかもしれない.移植医療から再生医療,そして再度移植医療へと,医療として融合領域が形成されていく未来予想図について語りたい.
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医学のあゆみ 237巻5号, 572-576 (2011);
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幹細胞研究のめざましい進歩に牽引され,再生医療の現実化が期待されている.なかでも骨髄や脂肪から樹立できる間葉系幹細胞(MSC)は遺伝子操作なく作成が可能で,in vivo では癌や奇形腫にならないことから,急速に種々の疾患へ臨床応用されはじめた.臓器移植においても MSC の免疫調整能に注目し,種々の臓器移植における免疫抑制薬軽減の試みがなされている.著者らは,MSC のもつ免疫調整能に加え,抗炎症作用や肝細胞増殖作用に注目して生体肝移植での臨床応用を検討している.すなわち,ドナーの負担軽減を目的に切除する肝を可能なかぎり少量とし,レシピエント体内で MSC を併用することで虚血・再灌流障害を防ぎ,速やかに適正サイズまで移植肝細胞を増殖させるものである.そのために MSC を血管内に安全に注入する必要があるが,MSC の懸濁法の開発に成功した.そして前臨床モデルでの検討としてミニブタモデルを用いて虚血再灌流障害防止効果を検証した.本稿では,生体肝移植医療の弱点を MSC を使用することで補う,移植医療と再生医療の融合型治療の可能性を紹介した.
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医学のあゆみ 237巻5号, 577-582 (2011);
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臓器移植は機能廃絶に陥った臓器障害に対する究極の治療法であり,1970 年代後期に T 細胞の機能を特異的に抑制するカルシニューリン阻害剤が登場した後,その成績は飛躍的に改善した.免疫寛容という状態をつくり出すことが移植医療の理想であり,多大な労力が注ぎ込まれているが,その一方で,移植した臓器が長期間生着する割合はかならずしも増えていないともいわれている.本稿では,ヒトや大型動物を対象にして免疫寛容を誘導する臨床研究の最前線を紹介する.それらの研究の共通点は,レシピエントの免疫状態を一過性に抑制し,その後にドナーの骨髄,血液幹細胞,あるいは免疫抑制性細胞を移入し,臓器移植を行うことである.移植後は一定の期間,既存の免疫抑制剤の投与は必要であるが,高い割合で免疫抑制剤を中止することが可能である.ただ慢性拒絶反応をも完全に制御できるかどうかについては今後の検討を待たなければならない.
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医学のあゆみ 237巻5号, 583-591 (2011);
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臓器保存による障害は,冷保存中に起こるミトコンドリア障害,細胞質の Na+や Ca2+の蓄積,浸透圧・容積・pH の変化,酸化ストレス,細胞死や炎症のシグナル,細胞骨格破壊が再灌流後に増悪する病態である.移植待機中の患者死亡を減らし,移植後の成績を向上させるためには,冷保存再灌流障害の軽減が必要である.冷保存法は代謝抑制によって低酸素や低温による恒常性の破綻を先送りすることをめざした.一方,灌流保存は正常代謝をめざす方法であり,腎移植で臨床応用が進んでいる.しかし,酸素分圧,灌流圧・量,温度,灌流液のゴールドスタンダードはなく,他臓器への応用も含め,さらなる研究が必要である.コストや簡便性に勝る浸漬冷保存と,グラフトに対する種々の治療,臓器の修復,術前評価が可能な灌流保存を併用し,より多くのグラフトを活用できる方法論として,一日も早く確立されることが望まれる.
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医学のあゆみ 237巻5号, 592-596 (2011);
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ハイブリッド型人工肝臓とは,培養肝細胞をモジュール(バイオリアクター)に固定化し,体外循環ラインに組み込むことによって,患者の体外から強力なサポートを行う体外設置型の治療システムである.肝臓が果たすべき機能を肝機能をつかさどる肝細胞に補ってもらうことにより,従来の肝補助療法では困難であった代謝的なサポートを実現することが期待されている.そのためには,肝細胞培養法を基盤技術としたモジュールの開発が重要な位置を占めている.本稿ではこれまでに開発された人工肝臓について紹介するとともに,今後の展望について概説したい.
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巻末資料
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医学のあゆみ 237巻5号, 599-604 (2011);
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医学のあゆみ 237巻5号, 605-611 (2011);
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