医学のあゆみ
Volume 237, Issue 9, 2011
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あゆみ 腎炎・ネフローゼの免疫抑制療法―さらなる有効性と安全性を求めて
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エネルギー代謝を標的としたプリン代謝拮抗薬
237巻9号(2011);View Description Hide Description糖質ステロイド薬に対して抵抗性あるいは依存性の糸球体腎炎やネフローゼ症候群においては,その感受性変換を期待する免疫抑制薬が併用される.プリン代謝拮抗薬は当初臓器移植後の拒絶反応阻止の目的で開発されたが,その後さらに膠原病や難治性糸球体疾患にも臨床使用されてきた.難治性糸球体疾患における臨床的効果のエビデンスについては,あくまで糖質ステロイド薬との併用療法とした補助的使用に限っていることもあり,さらなる大規模臨床研究が必要である.また,同拮抗薬の薬理作用標的細胞が活性化リンパ球のみなのか,あるいは糸球体構成細胞自身でもあるのかが,作用機序の解明における重要なポイントである.糸球体疾患に対して臨床使用されてきたミゾリビン,ミコフェノール酸モフェチルの抗蛋白尿作用は,エネルギー代謝インバランスをきたしたポドサイトのプリン代謝阻害を介した救済効果による可能性がある. -
カルシニューリン阻害薬―シクロスポリン,タクロリムスの抗蛋白尿効果
237巻9号(2011);View Description Hide Descriptionカルシニューリンを阻害するシクロスポリン(CsA)とタクロリムス(FK-506)は, 1 免疫学的機序として,IL-2,4 などの T 細胞関連サイトカイン,リンフォカイン産生を抑えて微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)や巣状糸球体硬化症(FSGS)に抗蛋白尿効果を示すと考えられる. 2 糸球体細胞への直接作用として,CsA が糸球体上皮細胞のアクチン細胞骨格である synaptopodocin に作用し,脱リン酸化を阻害して抗蛋白尿効果を示す.FK-506 は,糸球体上皮細胞の膜関連 TRPC-6 によるカルシウム混入を阻害し抗蛋白尿効果を示す.腎炎,ネフローゼ症候群へのカルシニューリン阻害剤の使用は上述の抗蛋白尿効果の作用機序を理解したうえで,血中濃度をモニターしながら腎障害をできるかぎり軽減するように,必要最少量で最大の効果を上げるような配慮が大切である. -
生物学的製剤―リツキシマブ
237巻9号(2011);View Description Hide Descriptionリツキシマブは B 細胞表面に発現する分化抗原 CD20 に対するモノクローナル抗体であり,ヒト免疫グロブリンの定常部領域(IgG1κ)とマウス抗 CD20 抗体の可変部領域からなるキメラ型の抗 CD20 モノクローナル抗体である.リツキシマブの作用機序としては不明な点が多いが,B 細胞表面の CD20 抗原に結合して,補体依存性細胞傷害作用あるいは抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用により,B 細胞を特異的に傷害する.ステロイド依存性の難治性ネフローゼ症候群に対するリツキシマブの有効性が検討されている.共刺激分子を発現するメモリー B 細胞を優先的に除去して,B-T 細胞間相互作用を制御し,蛋白尿を減らす可能性がある.その有効性および安全性に関して大規模臨床試験が必要である. -
小児ネフローゼ症候群におけるあらたな治療戦略
237巻9号(2011);View Description Hide Description小児期発症ネフローゼ症候群の予後はシクロスポリンをはじめとする免疫抑制薬の導入により飛躍的に改善されたが,これらの薬物療法にもかかわらず,頻回に再発を繰り返す難治性の症例が存在することが明らかとなり,このような症例に対するあらたな治療法の開発が望まれている.リツキシマブは B 細胞表面に発現する分化抗原 CD20 に対するモノクローナル抗体であるが,最近,小児期発症難治性ネフローゼ症候群患者に対するあらたな治療薬として注目を浴びている.本稿では,リツキシマブが小児期発症難治性ネフローゼ症候群の治療薬として応用された経緯やこれまでの報告を紹介するとともに,治療開発研究の現状やリツキシマブ療法の問題点について述べる. -
膜性腎症
237巻9号(2011);View Description Hide Description膜性腎症は,腎糸球体係蹄基底膜上皮下の免疫複合体沈着と補体の活性化により惹起される疾患である.これまで二次性が約 10~20%と考えられていたが,糸球体係蹄上皮細胞の内因性抗原である中性エンドペプチダーゼあるいは膜型ホスホリパーゼ A2受容体に対する抗体が注目されている.臨床的にみると,本症の約30%の症例は発症より 2 年以内に自然寛解するが,残りの症例は持続する蛋白尿を呈し,わが国においても約1/3 が末期腎不全へと進行する.この腎不全へ進行するハイリスク例が免疫抑制療法の対象となる.その治療薬として副腎皮質ステロイドを基礎にシクロスポリン,ミゾリビン,シクロホスファミドが使用されている.あらたな治療薬としてタクロリムス,ミコフェノール酸モフェチルやヒト型化抗 CD20 抗体(rituximab)の有効性が報告されている. -
IgA腎症に対する免疫抑制療法
237巻9号(2011);View Description Hide DescriptionIgA 腎症の発症機序がしだいに解明され,本症に対する免疫抑制療法の治療の標的として粘膜免疫を担うIgA1 産生系(B 細胞系)の抑制,抗 IgA1 抗体の産生抑制,腎糸球体での免疫複合体形成の抑制,補体活性化,およびその後の炎症性サイトカンの抑制などがあげられる.最近,積極的治療により尿異常が消失する臨床的寛解例が認められることから,早期診断と臨床的寛解をめざす治療が行われるようになった.わが国では小児IgA 腎症治療研究会から治療指針がだされているが,成人の場合は各施設が独自のプロトコールを作成している.とくに, @桃摘出術とステロイドパルス療法の併用療法を推進するグループもあり,標準的な治療指針が作成されていない.本症には軽度な尿異常が持続するものの長期間進行しない軽症例が存在することから,過剰治療を防ぐ意味でも成人 IgA 腎症に関する治療指針を作成する必要がある. -
急速進行性糸球体腎炎
237巻9号(2011);View Description Hide Description急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)はいぜんとして予後不良な腎炎症候群であり,積極的な免疫抑制療法が必要なことが多い.わが国では 2010 年度に“RPGN の診療指針 第二版”が発表され,そのなかに ANCA 陽性 RPGN の診療アルゴリズムなどの各種 RPGN の治療指針が提示されている.ANCA 陽性 RPGN や抗 GBM 抗体型 RPGN では副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドを中心に初期治療を行い,毒性の少ない免疫抑制薬使用の工夫で寛解維持療法を行うことが世界共通の治療法となっている. -
ループス腎炎の免疫抑制療法―この10年の進歩
237巻9号(2011);View Description Hide Description増殖性ループス腎炎の治療においては,寛解の達成ならびに寛解の長期維持のために免疫抑制薬を必要とすることが多い.これまではシクロホスファミド間欠静脈療法(IVCY)が免疫抑制療法の主役であったが,性腺毒性,二次発癌などの副作用がしばしば問題となっていた.この 10 年間に,海外ではミコフェノール酸モフェチル(MMF)の有効性がいくつかのランダム化比較試験(RCT)で明らかにされ,わが国ではタクロリムスの有用性が二重盲検による RCT で示されるなど,ループス腎炎治療の選択肢が増えてきた.また,一方で人種や薬物代謝酵素の遺伝子多型により免疫抑制薬の治療効果に差異があることも明らかになりつつある.本稿では,増殖性ループス腎炎における免疫抑制療法の最近の進歩を紹介する.
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連載
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- 本当は子どもに“使えない”薬の話―実際と,これをどう打開するか 5
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高血圧の子どもの治療
237巻9号(2011);View Description Hide Description小児の高血圧は乳幼児期にはまれで,その頻度は加齢とともに増加する.無症状に経過することが多く,薬物療法の適応となることは少ない.乳幼児期,学童期に多い二次性高血圧は原疾患のコントロールが重要で,これがうまくいかないか,高血圧が持続する場合に薬物療法が行われる.思春期に増加する本態性高血圧は,生活習慣の修正(非薬物療法)を試みた後も高血圧が持続している場合にのみ薬物療法の適応となる.小児の高血圧の治療薬として用いられるものは,利尿薬のフロセミドやβ遮断薬のプロプラノロール塩酸塩,Ca 拮抗薬のアムロジピンベシル酸塩,アンジオテンシン変換酵素阻害薬のカプトプリルやエナラプリルマレイン酸塩などで,最近はバルサルタンなどのアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬も用いられる.しかし現在のところ,これらの降圧薬はいずれも小児の高血圧に対する適応がなく,適応拡大に向けた取組みが行われている.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち 113
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TOPICS
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- 生理学
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- 循環器内科学
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- 糖尿病・内分泌代謝学
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