医学のあゆみ
Volume 237, Issue 11, 2011
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あゆみ 長期ニコチン受容体刺激により誘発される生体機構変化
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神経保護性ニコチン受容体長期刺激による受容体機能変化の解析
237巻11号(2011);View Description Hide DescriptionAlzheimer 病(AD)などの神経変性疾患に対して,ニューロン死を標的として疾患の進行を遅延あるいは阻止するための確実な薬理作用をもつ薬物の開発が強く望まれている.そこで本稿では,長期間の神経保護性ニコチン受容体刺激によりもたらされる受容体機能変化の解析,およびニコチン受容体が関与するニューロン生存促進機構の解明を目的とし,ニコチン受容体アップレギュレーションおよび神経保護作用の感受性の増強に関与するシグナルについて検討を行い,ニコチン受容体,PI3K-Akt 経路の活性化が重要な役割を果たすことを明らかにした.中枢神経系のニコチン受容体長期刺激はニューロン生存シグナルを増強することが推定されるため,ニューロン死を標的とした神経変性疾患の予防・治療薬の開発にブレークスルーをもたらすことが期待される. -
Na+/Ca2+交換輸送体の発現量の変化
237巻11号(2011);View Description Hide Descriptionニコチンの長期刺激は,神経や筋の Ca2+流入路である Ca2+チャネルの発現量を増やす.しかし,Ca2+流出路である Na+/Ca2+交換輸送体(NCX)についての効果は不明であった.そこで,ラットにニコチン水を 4週間飲ませたところ,脳の NCX の mRNA 量は変化せずに蛋白量が増加した.この機序を調べるため,ラット由来の培養細胞や脳スライス標本にニコチンを直接作用させたが,NCX 蛋白量は変化しなかった.脳でニコチンはドパミン放出を増加させる.そこで神経成長因子(NGF)で分化させた PC12 細胞にドパミンを作用させると,NCX1 の mRNA は変化しなかったが,蛋白量が増加した.この結果からニコチンはドパミンなどの他の神経伝達物質を介して間接的に NCX1 蛋白を増加させる可能性がある. -
ニコチン性受容体を介するミクログリアのAβ貪食―ガランタミンのAPL作用による促進
237巻11号(2011);View Description Hide Description高齢者人口の伸びに伴い,認知症が増え続けている.Alzheimer 病(AD)は認知症の基礎疾患としてもっとも多く,50~60%を占めている.AD 脳の老人斑のミクログリアにはα7 ニコチン性受容体が発現していた.初代培養ミクログリアは Aβを貪食するが,その作用はニコチンにより促進された.アセチルコリンエステラーゼ阻害作用とともにニコチン性受容体の allosteric potentiating ligand(APL)作用を有するガランタミンは,初代培養ミクログリアの Aβ貪食能を促進した.さらに,脳内に Aβが蓄積するよう遺伝子操作されたマウスに対しガランタミンを長期間投与すると Aβ沈着が減少し,認知・記憶機能が改善した.ミクログリアに発現するニコチン性受容体があらたな AD 治療薬の標的となりうる可能性がある. -
ニコチン受容体の内因性モジュレーターによる生体機能調節と病態
237巻11号(2011);View Description Hide Description近年,ヘビ毒α-ブンガロトキシンと立体構造のうえで高い相同性をもつ哺乳類の内因性蛋白質が複数同定されている.これらのプロトトキシンのうちでいくつかは,実際にニコチン性アセチルコリン受容体に結合してアロステリックリガンドとして作用することが報告された.さらに,遺伝性疾患や神経可塑性への関与が示されるなど,アセチルコリンやニコチンを介する情報伝達のあらたな調節機構が解明されつつある. -
中枢ニコチン受容体in vivo イメージングプローブの開発
237巻11号(2011);View Description Hide Description各種脳神経疾患に関与することが知られている中枢性アセチルコリンニコチン性受容体には,おもなものとしてα4β2 およびα7 の 2 種類のサブタイプが存在する.これら受容体の脳内での働きを知るためには,RI 技術を用いた非侵襲的 in vivo イメージング手法が有効である.そこで著者らはそれぞれのサブタイプを特異的に画像化することを目的として,PET あるいは SPECT イメージングプローブ開発を行ってきた.その結果,これまでにα4β2 サブタイプイメージングプローブとして C-11-5MA や I-123-5IA を開発してきた.また,α7 イメージングプローブとして C-11-MeQAA を開発してきた.現在一部は臨床応用にまで発展している.本稿ではそれぞれの開発経緯や特徴,得られた画像について概説する. -
長期ニコチン受容体刺激がMeynert基底核コリン作動性脳血管拡張系に及ぼす影響
237巻11号(2011);View Description Hide Description前脳基底部 Meynert 核(NBM)から大脳皮質に投射するコリン作動性神経は,Alzheimer 病患者の脳で著しく変性・脱落することが見出されて以来,認知機能とのかかわりが明らかにされてきた.著者の研究室では,NBM コリン作動性神経が投射先の大脳皮質で血管拡張性に働き,局所血流を増加させる働きを有することをラットで見出してきた.このコリン作動性の血流増加反応には脳内のニコチン受容体とムスカリン受容体が関与する.最近著者らは,ラットにニコチンを長期間持続皮下投与すると NBM の刺激で誘発される大脳皮質のアセチルコリン放出と血流の増加反応が亢進することを明らかにした.長期ニコチン投与による NBM コリン作動脳血管拡張系の亢進は,大脳皮質に十分な血液を供給することで大脳皮質ニューロンの保護や認知機能の亢進に寄与する可能性が示唆される. -
グリア細胞による脳内免疫炎症反応とニコチン受容体刺激
237巻11号(2011);View Description Hide Description脳虚血や頭部外傷,神経変性疾患患者の脳内ではグリア細胞は著しく活性化し,神経細胞障害あるいは障害からの回復に関与すると考えられている.近年,ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)がグリア細胞にも発現していることが明らかになり,その機能的役割への関心が高まっている.本稿では,グリア細胞でのサイトカイン/ケモカイン産生およびミクログリアによる貪食作用に着目し,グリア細胞の nAChR 刺激がこれら脳内免疫炎症反応に及ぼす影響に関して概説し,グリア細胞に発現する nAChR の創薬標的としての可能性について考察する.また,長期 nAChR 刺激がグリア細胞による免疫炎症反応に及ぼす影響に関しても,現在までに明らかになっていることを紹介したい.
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連載
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- 本当は 子どもに“使えない”薬 の話―実際と,これをどう打開するか 6
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未承認薬を減らす医師主導治験―治験調整事務局での業務
237巻11号(2011);View Description Hide Description海外では承認されている薬が国内では未承認となっている.また,成人では適応があるが小児では適応外となっている薬や,製薬企業が採算性の問題などで小児科領域での承認取得をめざさない薬物について,医師自らが承認取得や適応拡大を目的として実施する治験が医師主導治験である.製薬企業が実施する治験では医師は治験の臨床面のみを担当するが,医師主導治験では各種申請から治験の品質管理,規制当局への各種提出資料作成など,多岐にわたる業務を医師が実際に実施することになる.ここでは医師主導治験の治験責任医師が担当する業務を報告する.
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フォーラム
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- 逆システム学の窓 40
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30代で乳癌になる
237巻11号(2011);View Description Hide Descriptionキャンディーズの田中好子さんが,36 歳の結婚翌年から乳癌を患い 19 年間の経過を経て,55 歳で亡くなったという訃報は,多くの人に深い悲しみと感慨を与えた.乳癌患者の多くは,最初の手術で治癒するが,約 3 分の 1 に再発,転移例が生じ,長い治療の道をたどることになる.発症の早い例では 20 代,30代も稀ではなく,仕事,家庭,子どもをもつといった患者の人生の価値判断を踏まえた,見通しをもった治療計画が大事になる. 乳癌に対しては従来からの手術,古典的抗癌剤による化学療法,放射線治療に加えて,新たな治療法が登場してきた.ウィークリータキソールや,イリノテカンなどの化学療法剤,タモキシフェンやリュープリンなどの抗ホルモン製剤に加え,分子標的薬として,ハーセプチンなどの抗体薬や,ラパニチブ(タイケルブ)のような経口の受容体キナーゼ阻害薬も登場してきた. そこで,患者や家族と,“癌”とは何か,“癌治療”の見通しはどうなるか,を一緒に考えて治療方針を決めていくことが鍵となる.肺結核や AIDS の薬,慢性骨髄性白血病のグリベックのように治療法の進歩が,多くの患者を救えるようになる時代が近づいている希望を持ちながら,長い治療過程を支援していく社会的仕組みが必須となる.
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TOPICS
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- 免疫学
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- 神経内科学
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- 呼吸器内科学
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