医学のあゆみ
Volume 237, Issue 12, 2011
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あゆみ ALKとその阻害―肺癌のあらたな診断・治療を拓く
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EML4-ALK融合型癌遺伝子の発見―肺癌におけるあらたな癌原因遺伝子
237巻12号(2011);View Description Hide Description肺癌の発癌メカニズムについてはいまだに不明な点が多く,有効な治療法も限られている.2007 年に著者らは,非小細胞肺癌の約 5%前後の症例において,微小管会合蛋白 EML4 と受容体型チロシンキナーゼ ALKの細胞内領域とが融合した新しい活性型チロシンキナーゼ EML4-ALK が産生されていることを発見した.EML4-ALK は非常に強い癌化能を有しており,EML4-ALK を導入したトランスジェニックマウスは生後数週で肺癌を形成した.さらに,同マウスに ALK 阻害剤を投与したところ,肺癌は速やかに消失した.このことから,EML4-ALK は肺癌のあらたな分子診断法および分子標的療法の標的分子になると考えられる.すでにEML4-ALK 陽性肺癌患者を対象とした ALK 阻害剤である crizotinib による臨床試験も行われ,その著しい効果が報告されており,今後ますます ALK 融合型肺癌とその治療薬が注目される. -
融合バリアントとPCR診断―マルチプレックスRT-PCR法の必要性
237巻12号(2011);View Description Hide Description著者らが発見した EML4-ALK 融合型チロシンキナーゼを有する肺癌症例に対して ALK 特異的阻害剤が著明な臨床効果を有することが明らかになり,同キナーゼ陽性肺癌の正確かつ高感度な診断法に注目が集まっている.EML4 -ALK が生じる際の ALK 側の切断・融合点がほぼ一定であるのに比べ,EML4 側の切断・融合点は多岐にわたる.EML4 蛋白のアミノ末端に存在する二量体化領域が EML4-ALK の恒常的活性化に必須であるが,逆にいうと,その二量体化領域より下流のどの箇所で ALK に融合しても,in-frame で蛋白が産生するかぎりいずれも強力な癌化キナーゼとなる.EML4 内には ALK のエクソン 20 と in-frame で融合しうるエクソンが 6 種類存在するため,EML4 -ALK の正確な分子診断のためには,これらどのエクソンで ALK に融合しても検出可能なマルチプレックス RT-PCR 法を用いる必要がある. -
ALK肺癌―ホルマリン固定パラフィン包埋検体による診断と病理組織像
237巻12号(2011);View Description Hide Description通常の病理保存検体,すなわちホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体を癌の診断や研究に用いることには,質のよい核酸や蛋白を用いる解析などにおいて限界があるものの,一般的な施設で行える比較的簡便な解析を,さまざまな施設のさまざまな年代の検体を用いて施行できるという利点がある.ALK 肺癌の診断法としては,RT-PCR,ISH,および免疫染色があげられるが,それぞれに長所と短所がみられる.ALK 阻害剤の適用にあたっては,これらを正しく理解し,もっとも効率よく確度の高い方法で患者選択を行うことが肝要である.本稿ではとくに FFPE 検体を用いた ALK 肺癌診断法の開発という観点から,これらについて論じた.さらに,開発した診断法を統合的に用いて抽出された症例群から得られた臨床病理学的治験についても簡単に触れた. -
EBUS-TBNAとALK診断―肺癌におけるコンベックス走査式超音波気管支鏡ガイド下針生検検体を用いたALK融合遺伝子・蛋白の検出
237巻12号(2011);View Description Hide Description近年,多くの悪性腫瘍において特定の遺伝子異常を標的とする治療法が確立されつつあり,治療前の組織検体による分子診断の重要性が高まっている.肺癌などの深部臓器に発症する悪性腫瘍の場合,生検などの非侵襲的方法で遺伝子・蛋白などの分子診断を目的とした十分な組織を得ることは容易ではない.コンベックス走査式超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)は超音波リアルタイムガイド下に,経気管支的な縦隔・肺門リンパ節の針生検が可能であり,複数回の穿刺により遺伝子解析に十分量の検体を得ることができる.また,本法は局所麻酔下に外来ベースでの検査が可能であるため,患者の負担も少ない.EBUS-TBNA 検体を用いた遺伝子解析は,分子診断および分子標的治療時代の肺癌診療においてきわめて重要な検査手技である.最近,ALK 融合遺伝子が肺癌の約 5%に認められることが見出され,あらたなる治療標的として期待されている.この転座により生じた融合遺伝子は,複数の融合パートナーが存在すること,また蛋白産物が微量であることから,その臨床診断には multimodal なベンチワークが必要であり,生検検体の質・量が非常に重要となる.本稿では,EBUS-TBNA 検体による肺癌の ALK 遺伝子異常の検出について述べる. -
ALK阻害剤の臨床経験―アジアでの治験登録1例目
237巻12号(2011);View Description Hide Description従来の治療法がまったく効かない状態に陥っていた 27 歳男性の肺腺癌患者が,EML4-ALK 癌遺伝子の発見者である間野博行博士の協力の下に,ALK 肺癌と診断され,まだ認可されていない治験薬のチロシンキナーゼ阻害剤を求めて韓国での国際共同治験に参加した.ソウル大学をはじめとした多くの関係者の全面的な支援により劇的な効果を得て 1 カ月後に帰国を果たした.しかし,アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)で治験薬クリゾチニブの華々しい治療効果が報告される一方,彼は治療開始後約半年後,耐性化した腫瘍により短い一生を終えた.その耐性メカニズムが彼の検体 DNA より明らかになってきた. -
ALK阻害剤耐性メカニズム―阻害剤耐性を誘導するEML4-ALK内二次変異の発見
237巻12号(2011);View Description Hide Description著者らが発見した EML4-ALK 融合型チロシンキナーゼが,同キナーゼ陽性肺癌のおもな発癌原因であることが確認された.それを受けて現在数多くの特異的 ALK 阻害剤が開発され,すでに実際の臨床試験に入った化合物も多い.著者らは ALK 阻害剤である crizotinib による治療中に耐性になった症例を経験し,その治療前と再発後の癌細胞を次世代シークエンサーで比較することで,後者にのみ EML4-ALK に 2 種類の付加変異(C1156→Y および L1196→M)が生じていることを明らかにした.両変異は癌組織中の異なった細胞クローン上に生じており,しかもどちらも ALK 阻害剤耐性を付与することが確認された.興味深いことに,L1196 部位は BCR-ABL が imatinib に対して,また EGFR が gefitinib に対して,それぞれ耐性を獲得するアミノ酸部位と高次構造上まったく同じ位置に存在していた.すなわち,キナーゼを超えて,ATP 競合型阻害剤に対する耐性獲得部位は共通であることが明らかになった.
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連載
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- 本当は子どもに“使えない”薬の話―実際と,これをどう打開するか 7
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頭部外傷の子どもの治療
237巻12号(2011);View Description Hide Description子ども,とくに乳児の重症頭部外傷は圧倒的に急性硬膜下血腫の割合が高く,開頭手術により血腫除去が行われても術後の痙攣発作が低酸素脳症を招き,転帰に大きな影響を及ぼすことがある.このため,痙攣のコントロールなどの周術期の管理が転帰の改善に結びつく.また小児では,脳損傷後に低ナトリウム(Na)血症を併発することが多く報告されている.低 Na 血症は痙攣発作の原因となるだけでなく,制御不能な脳腫脹を引き起こし,頭蓋内圧コントロールを困難にしてしまう.Na の過剰な排泄により低張性脱水となる塩類喪失症候群が,その主因と考えられている.この病態に対して,単純な Na の補充療法ではさらなる Na の排泄が起こり,Na の保持は困難となるばかりか尿量が増加し,体液バランスの崩壊につながるリスクを合わせもつ.本稿では小児頭部外傷の特徴をまとめ,重症頭部外傷における周術期の管理と小児薬剤投与の環境について述べる.
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