Volume 238,
Issue 1,
2011
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【7月第1土曜特集】 DIC―診断・治療の最前線
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医学のあゆみ 238巻1号, 1-2 (2011);
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DICの病態生理:最近のトピックス
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医学のあゆみ 238巻1号, 5-9 (2011);
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凝固の活性化は組織因子依存性にはじまり,ⅨやⅩの活性化に続いてトロンビンが形成される.このトロンビンの生成がフィブリン魂形成,凝固反応のさらなる増幅,血小板の活性化につながる.組織因子依存性の凝固を外因系凝固反応とよび,陰電荷の異物(ガラスなど)で惹起される内因性凝固反応と区別される.敗血症などの感染症に合併した播種性血管内凝固症候群(DIC)の発症では,炎症性サイトカインにより単球・マクロファージや血管内皮細胞に組織因子の発現誘導がみられ,これらの細胞上に発現した組織因子が凝固反応を作動させる.本稿では DIC 発症の基盤を理解することを目的として,組織因子で開始される外因系凝固反応と,最近注目されている組織因子含有マイクロパーティクルの血栓形成への関与を紹介する.
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医学のあゆみ 238巻1号, 10-12 (2011);
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この数年,臨床における血液凝固系の学問領域に炎症とのかかわりにおいて,いくつかの新しい概念が導入されてきた.炎症の環境のなかで,核をもたない血小板が凝固系のイニシエーターである組織因子を翻訳発現できるとする報告や,血小板が単球と複合体を形成することにより単球の炎症活性を増幅する機構が報告されている.そして活性化された好中球による NETs(neutrophil extracellular traps)の放出は,病原体に対する新しい生体反応と,好中球の壊死でもアポトーシスでもない新しい細胞死の概念(NETosis)をもたらした.
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医学のあゆみ 238巻1号, 13-17 (2011);
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侵襲(外傷や感染)に際しては,血管破綻に伴う出血と組織破壊,バリアー障害などが起こってくる.これらの侵襲部位には病原微生物とその関連因子(PAMPs)や組織破壊に伴う因子(DAMPs)も存在し,これらのPAMPs,DAMPs は止血や感染防御(自然免疫)そして修復などの生体反応を促進することが判明してきた.しかし,これが過剰に作用すると,全身の炎症や凝固反応が増幅されて DIC/SIRS の促進因子として働く.本稿では,このうちもっともよく解明されている HMGB1 とヒストンと DIC の関連について紹介する.
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医学のあゆみ 238巻1号, 18-22 (2011);
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炎症は,細菌の侵入や組織損傷など有害な刺激に対する生体の適応反応である.外来微生物や壊死細胞はそれぞれ PAMPs および DAMPs として免疫担当細胞に発現している TLRs などの特異的受容体によって認識され,おもに NF-κB を介する細胞内シグナル伝達系により,炎症性サイトカインやⅠ型インターフェロンなどの産生を亢進させる.炎症応答による生体防御システムの誘導が過剰となる場合には,SIRS や DIC へと進展し生体に危機的状況をもたらす.血管内皮プロテイン C 受容体-活性型プロテイン C-PAR1 を介するシグナル伝達が血管の維持に重要な役割を有しており,凝固反応と炎症反応を結びつける分子機策のひとつとして注目される.また,トロンビン-PAR1 を介する凝固シグナルが樹状細胞上のスフィンゴシン 1 リン酸受容体 3(S1P3)に作用し,リンパ組織への樹状細胞の遊走を制御することが報告され,凝固系と自然免疫系との緻密なクロストークの存在も明らかにされている.
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医学のあゆみ 238巻1号, 23-29 (2011);
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播種性血管内凝固症候群(DIC)は種々の疾患を基礎に引き起こされる全身の血液凝固系亢進状態であり,全身の毛細血管などに微小血栓が形成される.その結果,血小板・凝固因子が消費され,また,線溶系も複雑に絡み合って臓器の循環障害・機能障害を生じ,高率に多臓器不全・死に至らしめる.さまざまな診断・治療が進んだ現代医療のなかでは,病理解剖において典型的な DIC の所見をみることはなく,それらが治療により修飾された像をみることになる.剖検例における病理診断・病態の解析は,死亡時という一時点の所見をみるのではなく,症状や検査値の動きを鑑み,患者が原病から死に至るまでのプロセスを類推し,肉眼的・組織学的に証明していくものであり,それこそが剖検症例解析の醍醐味である.
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DIC基礎疾患と病態:最近の進歩
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医学のあゆみ 238巻1号, 33-39 (2011);
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造血器悪性腫瘍に合併した播種性血管内凝固症候群(DIC)においては,腫瘍細胞中の組織因子による凝固活性化が発症機序である.線溶阻止因子である PAI の上昇がないために十分な線溶活性化がみられ,線溶亢進型~線溶均衡型 DIC の病型となる.凝固一般検査のみならず,TAT,PIC,α2PI,FDP/DD 比などにより DICの病態(線溶活性化の評価を含む)を詳細に把握できる.臨床的には出血症状が前面に出る一方で,臓器症状はみられにくい.急性前骨髄球性白血病(APL)においては,アネキシンⅡの作用によりとくに線溶活性化が高度であるが,ATRA を投与することで凝固線溶活性化を阻止することが可能である(この際,トラネキサム酸は禁忌である).造血器悪性腫瘍に合併した DIC では,厚生労働省診断基準で診断して基礎疾患の治療とともに適切な抗凝固療法を行う.
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医学のあゆみ 238巻1号, 40-45 (2011);
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重症感染症は,感染によって発生した炎症反応が全身に波及した状態である.炎症と凝固は密接な関係をもつ.活性化型血液凝固第Ⅹ因子(Ⅹa)やトロンビン,tissue facto(r TF)-Ⅶa 複合体は向炎症作用をもたらし,フィブリノゲンやフィブリンは宿主防御反応の役割を果たす.さらには重症感染症性 DIC の病態には,白血球エラスターゼのような非特異性蛋白分解酵素の関与が以前より指摘されてきた.また,白血球エラスターゼにより分解される可能性を指摘されている血中の von Willebrand facto(r vWF)切断酵素である ADAMTS13は,血管内皮上で vWF を至適なサイズに切断することにより血小板凝集活性を制御している.ADAMTS13が敗血症性 DIC 症例で低下していることが証明され,このような症例では腎機能障害も合併していると報告されている.HMGB1 は多彩な機能をもち,エンドトキシン血症時の後期かつ致死的メディエータであり,これらが DIC や臓器障害を引き起こす.HMGB1 は TM により制御することが可能であり,動物モデルからリコンビナント TM(rTM)は敗血症のよい治療薬となる可能性のあることが示唆された.重症感染症では密接に連関している炎症と凝固の双方を同時に治療することが,よい効果を生むと考えられる.
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医学のあゆみ 238巻1号, 46-55 (2011);
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外傷後の凝固線溶系反応は,受傷直後からの線溶亢進,引き続く線溶遮断,さらに損傷内皮修復後の線溶再活性化と,生理的にもダイナミックな変動を示す.急性期の出血傾向が前面に認められる凝固異常は,従来,“dilution coagulopathy”と考えられてきた.しかし,この凝固異常の病態概念に大きな変革があり,あらたなアプローチが必要であることが認識されている.急性期には希釈によらない出血傾向を主徴候とする凝固異常をきたすが,本病態は fibrynolytic phenotype の DIC としてとらえることができる.とくに受傷後早期に組織損傷をイニシエーターとして循環不全によって引き起こされる hyperfibrynolytic state が,その病態定義は曖昧ではあるが,“acute coagulopathy of trauma-shock”として提唱された.急性期 DIC 診断基準は多様な基礎疾患から発症する DIC を診断可能とすることを念頭においたものであるが,外傷急性期に適応する場合,敗血症とは凝血学的指標,臓器機能とその推移が異なり,非重症例も治療対象とする可能性がある.とくに,受傷当日では FDP と SIRS スコアのみで DIC と診断されうるため注意を要する.
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医学のあゆみ 238巻1号, 56-60 (2011);
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固形癌患者は凝固亢進状態にあり,血栓塞栓症や播種性血管内凝固(DIC)を発症しやすい.凝固促進物質として腫瘍細胞が産生する組織因子がもっとも重要である.ほかに腫瘍細胞が産生する cancer procoagulant やサイトカインなどの刺激を受けた単球が産生する組織因子も関与する.組織因子は凝固亢進状態をもたらすだけでなく,癌の増殖,転移,血管新生にも関与する.固形癌の DIC では出血症状とともに血栓症状も出現しやすい.前立腺癌による DIC など,著明な線溶亢進により出血傾向が前面にでる癌もある.慢性に経過する例,比較的程度の軽い low-grade DIC 例も多い.感染症の合併や抗癌剤投与を契機として DIC が顕性化することも多い.固形癌の DIC では原疾患に対する治療が難しい場合が多く,患者の予後,年齢,出血症状および血栓症状の重症度を考慮して治療方針を立てる必要がある.
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DICの診断基準:最近の進歩
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医学のあゆみ 238巻1号, 63-68 (2011);
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プロスペクティブスタディの解析結果からは,播種性血管内凝固(DIC)の頻度は感染症,固形癌,造血器腫瘍に多く,DIC の合併がもっとも予後に影響するのは外傷・熱傷で,続いて感染症であった.DIC からの離脱率が高いのは産科疾患,造血器腫瘍であった.厚生労働省基準を修正した国際血栓止血学会基準は特異度がよく,急性期基準は感度が優れていた.一般的止血系マーカーは DIC 診断能が高く,とくにフィブリノゲン値,フィブリンならびにフィブリノゲン分解産物(FDP)値ならびに血小板値は,除外診断に有用である可能性が示唆された.止血液分子マーカーの検討では,造血器腫瘍では凝固線溶系マーカーが高値であり,感染症では血管内皮細胞障害マーカーが有意な変動を示した.
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医学のあゆみ 238巻1号, 69-72 (2011);
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救急領域の DIC 診断基準として“急性期 DIC 診断基準”が 2005 年に確定されている.急性期 DIC 診断基準の特徴は以下のとおりである.①診断基準のなかに,全身性炎症反応症候群(SIRS)スコアが組み込まれていること,②常時検査可能な一般的な検査項目のみで構成されていること,③DIC の早期診断が可能であること,④DIC の重症度の定量化ができること,⑤科学的根拠に基づいて作成されたこと.
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医学のあゆみ 238巻1号, 73-76 (2011);
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外科手術は待機手術と緊急手術に分かれる.緊急手術は実臨床では救急部門と重複するが,外科領域を待機手術に限定すれば,DIC 診断基準に対する取組みは内科や救急領域に比較するとみるべきものがない.その理由は,待機手術での DIC は術後合併症としての感染症に起因することがほとんどで,その頻度は減少していると思われるからである.それには術後感染症に対する診断と治療,とくに最近の著しい画像診断とそれに基づくインターベンションの進歩が大きい.結果として DIC や MOF を呈する以前に原因となる合併症が軽快するためである.また,外科医は DIC の原因や診断を探るより先に必然的に術後合併症とその解決方法に目を向けるからである.
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医学のあゆみ 238巻1号, 77-82 (2011);
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産科 DIC は急性かつ突発的に生じ,消費性凝固障害のためフィブリノゲン値の低下を伴い,低フィブリノゲン血症となることが多く,線溶優位で出血症状主体となる.また,母児ともに予後不良のことが多いので,不可逆的になる前に早期に診断し,適切な治療をしなければならない.そのためには早期に DIC 治療に踏み切るための産科 DIC スコアが有用である.このスコアは基礎疾患と臨床症状を重視したスコアで,8 点以上のときは DIC として治療を開始する.また,産科 DIC では大量出血に際し,輸液や赤血球濃厚液輸血だけを行うと希釈性凝固障害に陥り,循環血液中の凝固因子が希釈され著しく減少する結果,止血困難となる.したがって,急性 DIC では早めに十分な新鮮凍結血漿を投与し,凝固因子(フィブリノゲン)を補充することが治療の決め手となる.産科 DIC の予後改善のためには,その特徴をよく理解したうえで,早期診断・早期治療を行うことが肝要である.
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医学のあゆみ 238巻1号, 83-88 (2011);
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血液の凝固線溶機能と凝固線溶制御機能は巧妙に制御されているが,新生児はアンチトロンビンなどの凝固制御因子が生理的に低下しているため,凝固亢進を是正する力が弱く DIC に発展しやすい.胎児仮死や新生児仮死,胎児循環から新生児循環への変化,感染に対する防御能の未熟性や出生後の侵襲的処置などが DICの発症に密接にかかわっている.さらに,凝固因子の産生予備能も劣っているため,消費亢進によって凝固因子と血小板が著減し,多彩な出血症状を呈しやすい.わが国の新生児領域では血小板数とフィブリノゲンのほかに,D-dimer を重視した新生児 DIC 診断基準と,プロトロンビン時間を重視した早期新生児期の DIC などの重度出血傾向の診断基準がそれぞれ提唱されている.新生児における凝固線溶系の特徴,および凝固学的検査の基準値が日齢により異なることなどを念頭におき DIC の診断を行う必要がある.
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DICの診断:最近の進歩
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医学のあゆみ 238巻1号, 91-96 (2011);
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凝固系マーカーを考えるとき,われわれの生体は凝固単独ではなく,凝固と線溶の両者の巧みなバランスのうえに生命の恒常性を保っていることを忘れてはならない.健常成人では通常微量にしか存在しないが,凝固線溶系の活性化により血漿中に出現してくる物質の検出は,早期診断や病態の把握に臨床上きわめて有用である.とくに DIC では血中にトロンビンとプラスミンが共存しさまざまな凝固線溶異常をきたすので,DIC を早期に診断しその治療を開始するためには,DIC による凝固線溶亢進の結果消費される物質を検査するのではなく,生成される物質を測定するほうがよい.DIC の早期診断のために,多くの分子マーカーが開発されている.凝固とは,生成されたトロンビンがフィブリノゲンに作用し,強固なフィブリン血栓をつくることであり,凝固系マーカーとはこの過程で増加したり減少したり生成されるマーカーの総称である.ここでは可溶性フィブリンモノマー複合体を中心に凝固系マーカーを概説する.
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医学のあゆみ 238巻1号, 97-103 (2011);
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DIC 診断基準に占める分子マーカーの役割は大きく,各分子マーカーの正しい理解が必要である.DIC 診断における線溶分子マーカーでもっとも重要なのは血清 FDP,D-dimer,血漿 FDP などのフィブリン分解産物である.フィブリン分解産物の上昇は血栓形成とその溶解を示唆し,DIC の病態そのものを反映する.しかし,D-dimer と血漿 FDP は問題点を抱えたまま標準化されておらず,診断基準への採用が遅れている.敗血症に合併する DIC ではフィブリン分解産物レベルの上昇が抑えられることがあり,DIC 診断のうえで留意すべきである.その意味で,PAI-1 レベルを迅速に知ることは早期に治療を開始するうえで重要である.DIC の適切な治療薬を選択するためには,凝固分子マーカーに加え線溶分子マーカーであるプラスミノゲンやα2 プラスミンインヒビターを測定することが推奨される.血管内皮細胞の細胞傷害マーカー(可溶性 TM)と細胞活性化マーカー(可溶性接着分子)は,病態把握に重要であると考えられている.
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DICの治療:最近のトピックス
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医学のあゆみ 238巻1号, 107-113 (2011);
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リコンビナントトロンボモデュリン(rTM)製剤は,活性化プロテイン C(APC)を介して抗凝固作用のみでなく,抗炎症作用も発揮し,さらに,high mobility group box-1 protein 1(HMGB1)の吸着・中和,分解することによる抗炎症作用も兼ね備えた多面的な DIC 治療薬である.また,第Ⅲ相臨床試験にて未分画ヘパリンと比較して,DIC 離脱率ならびに出血症状に関連する有害事象において有効性が検証された,はじめての DIC治療薬である.現時点では造血器悪性腫瘍に合併した DIC に対して使用しても,出血の助長も認めず DIC 離脱率も良好である.今後,造血幹細胞移植の合併症に rTM が有効であるかどうかの検討がなされることを期待したい.
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医学のあゆみ 238巻1号, 114-119 (2011);
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2008 年 8 月より 2009 年 10 月までに,重症敗血症で急性期 DIC 診断基準で診断されてアンチトロンビン(AT)製剤を中心とする治療に難治性であった 14 例(平均年齢 64±19 歳,男性 6 例,女性 8 例,APACHEⅡスコア 26.8±6.8,予測死亡率 64.1±21.2%)に,遺伝子組換えトロンボモデュリン(rTM)の追加投与を行った.rTM 投与前と投与 4 日後の血小板数(×103/μl)とトロンビン産生を表すフラグメント 1+2(pmol/l)はそれぞれ 49.6±23.0(mean±SD)から 86.6±60.6,521±203 から 273±154 に有意(p <0.01)に改善した.とくにフラグメント 1+2 は,rTM 投与により全例が低下した.DIC スコアは急性期と厚生省 DIC 診断基準でそれぞれ 5.9±1.3 から 4.6±2.2,7.2±1.4 から 5.6±2.4 へと有意(p <0.05)に低下した.rTM 投与開始後 28 日目の死亡は 4 例(死亡率 28.6%)と良好で,生存の 10 例では rTM 投与前から投与 4 日後の SOFA スコアは13.0±4.1 から 10.9±4.0 へと有意(p <0.05)に低下した.以上より rTM は強力なトロンビン産生抑制作用を有しており,AT 製剤投与に反応しない uncontrolled DIC に対し AT 製剤と rTM 併用療法が有効であると考えられる.
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医学のあゆみ 238巻1号, 121-125 (2011);
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ヘパリンの抗凝固能は,血漿プロテアーゼインヒビターであるアンチトロンビン(AT)の活性促進能であり,AT はもっとも重要なトロンビンインヒビターである.DIC では,トロンビンやその他の凝固因子の生成亢進に伴い血中 AT 活性は低下し,AT 活性の低下の程度が大きいほど予後が不良であることが示されている.近年行われた重症敗血症に対する RCT では,DIC 合併例については死亡率の改善が得られた.ただしヘパリンを併用すると有意に死亡率が上昇することから,一般に推奨されているヘパリンとの併用は出血有害事象の増加が懸念される点に注意を払うべきである.
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DIC類似疾患:最近のトピックス
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医学のあゆみ 238巻1号, 129-135 (2011);
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抗凝固薬ヘパリンが皮肉にも凝固薬として作用し,出血ではなく血栓塞栓症を引き起こす病態がヘパリン起因性血小板減少症(HIT)として近年急速に解明されてきた.ヘパリン投与が血小板第 4 因子の構造変化を引き起こし,抗 PF4/ヘパリン抗体の産生を誘導する.その一部に強い血小板,単球,血管内皮細胞の活性化能をもつもの(HIT 抗体)があり,トロンビン産生を誘導する.その結果,血小板減少,動静脈血栓症を高い頻度で誘発することとなる.DIC の治療としてヘパリンが投与されることも少なくなく,逆に 10~20%の HIT 患者が overt-DIC に移行するとされており,その鑑別は容易ではない.HIT の臨床的特徴を適確に把握し,臨床的 HIT らしさを判定し,強く疑われる場合にはすべてのヘパリンを中止し,抗トロンビン薬投与を行うことが重要である.また,同時に HIT 抗体の測定を依頼し,この結果と臨床的 HIT らしさを総合的に判断し,HITを clinicopathologic syndrome としてとらえ最終診断することが HIT の過剰診断を防ぐうえで重要である.
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医学のあゆみ 238巻1号, 136-140 (2011);
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血栓性微小血管障害症(TMA)とは,血小板減少と溶血性貧血に腎障害などの臓器障害を認める病態である.TMA のなかで血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と溶血性尿毒症症候群(HUS)が主要な疾患であるが,臨床的に TTP や HUS のどちらとも分類できない疾患がある.その代表が移植後 TMA である.最近,TMA の病態解析が急速に進められている.まず,TTP のひとつの病因として,von Willebrand 因子(VWF)切断酵素である ADAMTS13 の活性著減が明らかになった.また,HUS の 90%が病原性大腸菌 O157 などによる下痢関連HUS であるが,それ以外の HUS で factor H などの補体活性化制御因子の遺伝子異常が報告されている.一方で,移植後 TMA の病態は明らかではなく,治療法も確立されていないが,一定の診断基準がないことが問題であった.最近,北アメリカとヨーロッパから 2 つの診断基準が報告され,活用されるようになった.
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医学のあゆみ 238巻1号, 141-147 (2011);
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血球貪食症候群(HPS)・血球貪食性リンパ組織球症(HLH)は,免疫学的生体防御反応として natural killer 細胞や細胞傷害性 T 細胞が活性化したものの,何らかの原因で制御不能状態のため活性が持続しマクロファージ・組織球を異常に活性化させることとなり,組織臓器浸潤と過剰に産生される炎症性サイトカインにより症状を呈する疾患群である.基礎疾患は原発性(遺伝性)と二次性(後天性)に大きく分類されるが,その多くは二次性である.遺伝性疾患により病態が明らかにされつつあるが,詳細な発症病態はいぜん不明である.対症療法や基礎疾患に対する治療だけでは改善しないことが多く,活性化したリンパ球やマクロファージに対しての治療が必要となる.また,遺伝性や難治性の場合は造血幹細胞移植による治療が必要となる.