医学のあゆみ
Volume 238, Issue 6, 2011
Volumes & issues:
-
【8月第1土曜特集】 抗体医療Update―開発コンセプトから最新治療実績まで
-
-
- 特別寄稿
-
IL-6の基礎研究から抗体療法の開発へ
238巻6号(2011);View Description Hide Description北里柴三郎とベーリングが抗体を発見し血清療法を開発してから 120 年,その間免疫学の進歩は抗体の 4本鎖構造の解明からモノクローナル抗体の作製,抗体のヒト型化法の確立へと進み,21 世紀創薬の中心となるであろう抗体医薬の開発へと進んできた.抗体の特異性という点を考えれば,抗体医薬が癌治療に大きな役割を果たすことは当然予想される.現在抗体医薬は,癌とともに関節リウマチをはじめとする免疫難病に画期的な治療効果を発揮している.ここではわれわれの IL-6 の研究から抗体医薬の開発へと進み,そしてそれがなぜ治療効果を発揮するかという最近のわれわれの研究を紹介する. - 抗体治療の基礎
-
抗体療法の基礎−概論:抗体療法の種類と特徴
238巻6号(2011);View Description Hide Description抗体療法の特徴のひとつは,抗体製剤がモノクローナル抗体であるために標的分子をピンポイントに絞ることができる点である.標的分子は,細胞上にある分子,可溶性サイトカイン,細胞膜上および可溶性分子として存在する受容体など多様である.もうひとつの特徴は,可溶性分子を中和してその機能を阻害するだけでなく,細胞上の分子に作用し,細胞除去が可能な点である.多くの疾患において抗体療法の有用性が立証されている.一方で,アナフィラキシー反応,抗体産生による効果減弱,免疫抑制による感染症などの副作用が問題となっている.抗体製剤の安全な臨床使用のためのガイドラインを遵守し,安全に使用されることを望む. -
抗体医薬品の現状と開発の動向−第二世代の抗体創薬の成功に向けて
238巻6号(2011);View Description Hide Description1988 年に最初のヒト化抗体が発表されてから 22 年の歳月が経過し1,2),現在までに 31 品目の抗体医薬品が認可された.キメラからヒト化へ,そしてファージディスプレイやヒト抗体産生トランスジェニックマウス技術によるヒト抗体へ,また,T 細胞エピトープの排除など抗原性の低減化の工夫,可変領域のみならず定常領域にも工夫した効力の増強,さらに,バイオ医薬品プロセスでもっとも重要な蛋白製剤としての安定性や薬物動態に影響する物性の最適化プロセスの充実,そしてコストを下げるための大量生産技術など,抗体医薬品は,これまでに蓄積されてきた実に多くの技術開発に支えられて今日の分子標的薬としてのプレゼンスを築き上げた3).すでに多くの基盤技術は普遍化されており,激しい競合のなかでいかに製品ポジションを獲得するのか,すなわちイノベーティブな First in class を追求するのか,差別化ポイントが勝負の Best in class で展開するのか,開発戦略に大きく影響する.いずれにせよ今後の抗体創薬では,標的の選択と多面的な最適化プロセスのスピードアップがますます重要となる.本稿では,現在の抗体医薬品の開発状況と動向について概説する. -
抗体療法の改良−抗体の機能改変技術
238巻6号(2011);View Description Hide Description抗体医薬はその高い抗原特異性に基づく理想的な分子標的治療薬として注目されており,癌や免疫分野を中心に数多くの薬剤が登場している.加えて近年の抗体工学技術の発展は抗体の機能改変を可能とし,抗体療法の効果を質的に向上させるための新しい抗体改良技術の開発が盛んに行われている.本稿では,抗体の Fc 領域の改変に着目した ADCC や CDC などのエフェクター活性増強技術や抗体の血中半減期の延長技術などの現状について紹介するとともに,抗体にあらたな薬効を付与することを目的とした薬剤融合抗体や多重特異性抗体などについて概説する. -
抗体療法の副作用対策
238巻6号(2011);View Description Hide Description抗体療法は高い有効性が期待できる反面,特有の副作用が存在することが明らかになってきた.本稿では関節リウマチ(RA)に対する生物学的製剤治療を中心に抗体療法の副作用を解説した.RA に用いる生物学的製剤は免疫系を標的とするため,感染症リスクを高める可能性があり,とくに頻度および重症度の点から細菌性肺炎,ニューモシスチス肺炎(PCP),結核が重要である.スクリーニング時にはこれまでに同定されたリスク因子の確認を行い,インフルエンザや肺炎球菌に対するワクチン接種および PCP や結核に対する化学予防を必要に応じて実施し,副作用の発生防止を心がける.投与時反応や投与部位反応は無治療または投薬で対処可能な軽症例が多いが,投与時反応では低頻度ながらアナフィラキシー様反応も出現するため,点滴静注製剤の投与時には十分な準備が必要である.その他,間質性肺炎(薬剤性肺障害),心機能障害,肝機能障害,腸管穿孔,自己免疫疾患(脱髄疾患,全身性エリテマトーデス,血管炎など)などにも注意する.生物学的製剤に対する副作用対策をきめ細かく行うことで,優れた有効性と安全性を両立させ,高い治療継続率を達成できる. - 臨床:リウマチ性疾患に対する抗体治療
-
関節リウマチに対するTNF-α標的治療
238巻6号(2011);View Description Hide DescriptionTNF 阻害は RA に対する生物学的製剤による分子標的治療の最初であったが,10 年を経過したいまでも第一選択薬としての地位を守っている.メトトレキサート(MTX)との併用で関節破壊の進行も止め,早期 RA ほど好ましい結果を得ている.問題は感染の増加であり,高額な薬剤費,かならずしも大多数の患者が十分な効果を得ているとはいえないこと,二次的な効果減弱などが指摘されている.Infliximab,etanercept,adalimumabの 3 剤においては,あらたな知見がつぎつぎに出る段階は過ぎ,有用性,とくに安全性の面からの評価が行われる段階である.第 4,第 5 の抗 TNF 製剤である golimumab,certolizumab に関しては,先行 3 剤との同等性や差別化を中心とした研究が行われている. -
関節リウマチに対するトシリズマブ療法−IL-6受容体標的治療の開発コンセプトから最新治療実績まで
238巻6号(2011);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)の病態形成に IL-6 の過剰産生がかかわっており,IL-6 受容体を標的とする抗体医薬,トシリズマブ(TCZ)が開発された.TCZ は一連の臨床試験のなかで,RA の臨床症状の改善と関節破壊の抑制効果に優れていることが証明された.TCZ はメトトレキサート(MTX)を含めた抗リウマチ薬(DMARDs)の併用の有無にかかわらず優れた効果を発揮し,さらには DMARDs 抵抗例のみならず,TNF 阻害剤抵抗例に対しても有効である.重篤な有害事象として肺炎をはじめとする感染症がみられたが,臨床試験のメタアナリシスから,それらの頻度は TNF 阻害剤と比べて差はないことがわかった.このような有効性や安全性は,市販後に行われた実臨床に即した研究のなかでも確認された.TCZ は臨床的寛解に加えて構造的寛解を高頻度に達成するが,真に TCZ を必要とする患者を治療前に予測できれば,患者の QOL のさらなる改善とともに医療費の削減に役立つ.そのような効果予測も可能になりつつある.本稿では,TCZ の開発のコンセプトから最新治療実績まで解説したい. -
抗体を中心としたT細胞を標的とする生物学的製剤
238巻6号(2011);View Description Hide Descriptionいくつかの事実が,T 細胞の抗原認識が関節リウマチ(RA)に重要であることを示している.マウスモデルにおける抗 CD4 抗体での成果などを受け,1990 年代に RA に対する抗 CD4 抗体療法が行われたが,明確な治療効果を得ることはできなかった.しかし,T 細胞上の CD28 と抗原提示細胞上の CD80/86 との結合を阻害することで T 細胞の活性化を抑制することを目的でつくられた CTLA-4-Ig(アバタセプト)が RA に対する明らかな効果を見せることから,T 細胞を標的とする治療法は今後とも重要な方向性と考えられている. -
関節リウマチに対するB細胞標的治療
238巻6号(2011);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)の治療目標は,メトトレキサート(MTX)を中心とした抗リウマチ薬と TNF を標的とした生物学的製剤の導入により臨床的寛解,構造的寛解,機能的寛解へと進化した.しかし,TNF 阻害療法でも臨床的寛解達成率は約 3 割にすぎず,これを補完する治療が必要である.B 細胞は自己抗体を産生し,病態形成過程で重要な役割を担い,また,疾患制御のための標的としても重要である.リツキシマブを用いた B 細胞表面抗原である CD20 を標的とした B 細胞除去療法は,欧米では RA に対して承認されている.しかし,CD20 抗体を用いた臨床試験はその後は芳しい結果が得られず,わが国では B 細胞標的治療は未承認である.一方,CD20 抗体以外の B 細胞標的治療,および他の免疫担当細胞との共刺激分子を標的とした治療の臨床展開が進行中である.本稿では,RA におけるこれらの B 細胞標的治療の特徴とその問題点などを概説する. -
関節リウマチに対する生物学的製剤の有効性はどこまで予測可能か−課題と今後の可能性
238巻6号(2011);View Description Hide Description科学の実用性とは未来予測であり,その予測は確率的であっても高い精度が求められる.生物学的製剤は関節リウマチ(RA)の現実的な治療目標を寛解にするというパラダイムシフトをもたらしたが,高価であることが最大の難点であり,低分子化合物以上に対費用効果が重視される.個々の生物学的製剤の有効性予測において臨床所見に基づく判断には,限界があるものの,それを明らかに上まわる検査法も確立されていない.再現性のある結果が得られにくい理由として,RA 患者の多様性に加えて“効果不十分”などの転帰の成因の多様性があげられる.しかし,有効性を予測するマーカーの探索研究が予期せぬ RA の病態解明につながる可能性も秘められている.そして遺伝子マイクロアレイによるインフリキシマブの有効性予測は実用化されている. -
全身性エリテマトーデスに対する抗体治療−分子標的治療開発の道のりと現状
238巻6号(2011);View Description Hide Description全身性エリテマトーデス(SLE)の病態が分子レベルで徐々に解明されつつあり,これらの知見に基づいた多くの分子標的治療が開発段階にある.とくにモノクローナル抗体を用いた新規治療が盛んであるが,多くの薬剤では二重盲検試験において明らかな有効性を示せていない.原因として疾患自体の多様性や動物モデルと患者との差異,治験デザインの問題などがあげられるが,現時点では B cell activating factor belonging to thetumor necrosis facto(r BAFF)とターゲットとした抗体製剤である belimumab のみが SR(I SLE responderindex)反応性というあらたな指標に関して SLE に対する有用性を示し,アメリカで SLE 治療薬として承認された.ほかにもインターフェロンα(IFN-α)や CD22 をターゲットとした抗体治療など複数の臨床治験が進行中であり,将来的に SLE 治療の選択肢が増えることが期待される. -
血管炎症候群に対する抗体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description血管炎症候群は原因不明の難治性疾患で,従来の治療抵抗性の症例が存在し,サイトカインや細胞表面分子を標的とした抗体療法が報告されている.CD20 を標的としたリツキシマブ,TNF-α阻害療法,IL-6 レセプターに対するトシリズマブ療法などがあるが,症例数が少なく,検討は不十分である.血管炎症候群に対する寛解導入療法や寛解維持療法における抗体療法は,難治症例に対する治療の選択肢のひとつとして有用と考えられるが,症例を蓄積し,作用機序の解明,治療有効例と無効例の差異の解析,長期にわたる有用性や安全性などをさらに検討していく必要がある. -
高安動脈炎に対する抗体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description高安動脈炎は若年女性に多い原因不明の慢性肉芽腫性大血管炎である.めまいや頭痛,失神,視野異常,呼吸困難,跛行など,大動脈およびその分枝の狭窄・閉塞に伴う症状を示す.また,身体所見として脈拍欠損や血管雑音,血圧の左右差を認める.治療はステロイドが有効であり,ほぼ全例がいったん寛解に至るが,しばしば再燃する.再燃例にはメトトレキサートやアザチオプリン,シクロホスファミドなどの免疫抑制剤が使用される.しかし,これらに治療抵抗性を示す症例も少なからず存在する.近年,これら難治例に対する生物学的製剤の有効性が報告されている.すなわち,2004 年抗腫瘍壊死因子(TNF)阻害療法,2008 年抗インターロイキン 6(IL-6)受容体抗体療法である.これらはあらたな治療法として期待されている.わが国では生物学的製剤の保険適応はいまだ認められてはいないが,本稿ではおもに近年の抗体療法に関する文献を紹介する. -
難治性若年性特発性関節炎(JIA)に対する新規治療−抗体療法と受容体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description従来の治療に抵抗性の難治性若年性特発性関節炎(JIA)に対し,抗体製剤や受容体製剤が従来にない画期的な治療成績をあげている.関節炎病態が主体の関節型 JIA に対しては抗 TNF 製剤と抗 IL-6 製剤が,全身性炎症病態が主体の全身型 JIA に対しては抗 IL-6 製剤が有用であり,安全性も許容範囲であることから,難治例に対する導入が進んでいる.また,欧米においては JIA の難治性関節炎病態に対しては T 細胞標的製剤が,また全身性炎症病態に対しては抗 IL-1 製剤が検討され,その有効性と安全性から 2011 年に ACR が策定した JIA 治療ガイドラインに組み込まれた.難治性 JIA に対する治療において,これらの最新治療の選択はより多様になり,病態を考慮したものへと進化している. - 臨床:その他の疾患に対する抗体治療
-
気管支喘息に対する抗体治療
238巻6号(2011);View Description Hide Description気管支喘息は人口の約 4%が罹患するアレルギー疾患であり,その 5~10%を占める難治性喘息に対する治療戦略の確立が急務である.近年の喘息モデルマウスを用いた研究により,病態の根幹であるアレルギー性気道炎症の制御機構の解明が進み,その惹起には IgE-肥満細胞/好塩基球が関与する経路と T 細胞が直接炎症を誘導する経路が存在することが明らかとなった.気道上皮細胞が産生するサイトカインの重要性も明らかとなりつつある.そして,それぞれの経路を標的にした抗体医薬の開発が進んでおり,すでにわが国においても抗IgE 抗体(omalizumab;商品名ゾレア)が臨床応用されている.さらに,欧米を中心に IL-5 をはじめとするサイトカインを標的とした抗体医薬の臨床試験が行われており,その臨床応用が期待されている. -
皮膚疾患に対する抗体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description皮膚科領域における抗体療法について,乾癬に対する治療を中心に述べた.乾癬は,樹状細胞,リンパ球,表皮細胞の三者が中心となる慢性炎症性皮膚疾患である.現在の病態理論では plasmacytoid dendritic cell,TNF- and iNOS-producing dendritic cell,Th1,Th17 などの免疫担当細胞に病態の中心があると考えられているが,樹状細胞に刺激を与えうる表皮細胞も無視できない.抗体療法は乾癬の病態に関与するサイトカインをターゲットとしている.現在保険適用となっているのは,抗 TNF 抗体製剤であるインフリキシマブ,アダリムマブ,および抗 IL-12/IL-23 に共通する p40 に対する抗体製剤であるウステキヌマブの 3 剤である.易感染性などの副作用もあるが,従来の治療に比べて治療効果は高い.病態に関与する他のサイトカインに対する抗体製剤も開発中であり,今後さらに抗体療法の選択肢が増える可能性がある. -
血液疾患に対する抗体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description標的分子が細胞表面にあって抗体医薬が作用しやすい血液疾患は,B 細胞性リンパ腫に対する rituximab の成果から,標的を広げて開発が進行している.また,キメラ型抗体から,改善されたヒト化,完全ヒト化された抗体へと進められている.また,抗体として抗がん剤に結合させた ADC(anibody-drug conjugate)やこれまでになかった T 細胞への抗体医薬も開発が進行中である.本稿では,今後有望な抗体医薬に焦点をおいて解説する. -
炎症性腸疾患に対する抗体療法の発展と課題
238巻6号(2011);View Description Hide Description炎症性腸疾患(Crohn 病,潰瘍性大腸炎)は根治的治療法がなく,現時点では寛解導入・維持が治療目標である.これまでの炎症を非特異的に抑える治療に加えて近年では生物製剤が盛んに用いられており,成果を上げている.わが国では 2002 年に抗 TNF-α抗体製剤・インフリキシマブが Crohn 病に対して上市され,2010年には同剤が潰瘍性大腸炎にも保険適応となり,さらに完全ヒト型抗 TNF-α抗体製剤であるアダリムマブがCrohn 病に対して認可された.今後もさまざまな抗体製剤の開発・臨床応用が見込まれており,炎症性腸疾患の治療はまさに抗体療法の時代に入ったといえる.一方で,臨床現場では抗体療法によっても十分な治療効果を得られない症例が存在し,また既存の抗体製剤の最適な使用法についても結論が出ていない.多様な選択肢が存在するいま,個々の症例にもっとも適した抗体療法を選択し,その治療効果を最大限に引き出すことが求められている. -
自己炎症性疾患に対する抗体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description疾患メカニズムの解明や分子標的医療の発達により,周期的に発熱をきたす自己炎症症候群に対する抗 IL-1 製剤を中心とした生物製剤の有効性が明らかとなり,近年注目を集めている.クライオピリン関連周期性症候群(CAPS)は痒みを伴わない蕁麻疹様紅斑を呈する 3 つの自己炎症症候群の総称で,細胞内でパターン認識にかかわる NLRP3 の変異により inflammasome が恒常的に活性化され,IL-1βが過剰産生されることで疾患が引き起こされる.今日,抗 IL-1 療法は CAPS 治療の中心を占めているが,他の自己炎症性疾患においてもしだいに抗 IL-1 療法の有効性が報告されるようになった.抗リウマチ薬としては抗 TNF 製剤に活躍の場を譲った抗 IL-1 製剤であるが,自己炎症性疾患全般のみならず,さらには痛風やⅡ型糖尿病などの生活習慣病治療薬として,ふたたびスポットライトを浴びつつある. -
骨粗鬆症に対する抗体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description骨組織は,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返して適切な量と質を維持している(骨リモデリング).骨吸収と骨形成は,ホルモンや外界からの物理的な力によって巧妙に制御されている.加齢や生活習慣,種々の疾患は骨の恒常性を左右し,骨代謝バランスの崩壊を招く.骨粗鬆症はその代表的疾患であり,骨吸収が骨形成に上まわることで,骨量・骨質が低下し,容易に骨折する脆弱な骨になる.骨粗鬆症の治療には大別して,骨吸収抑制と骨形成促進の 2 つの方法がある.現在国内で,骨吸収を促進する receptor activatorof NF-κB ligand(RANKL)と骨形成を抑制する Sclerostin に対する抗体治療法の開発が進行中であり,骨粗鬆症における骨折の予防や骨密度の回復といった好成績を上げ,実用化に向けて大きな期待が寄せられている. -
神経疾患に対する抗体療法−アルツハイマー病における免疫療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description関節リウマチに対する抗 TNF-α抗体やリンパ腫に対する抗 CD20 抗体など,疾患の病態に重要な位置を占める分子を標的とする抗体医薬が続々と登場してきた.神経内科分野においても多発性硬化症における抗α4インテグリン抗体など,各種の免疫性神経・筋疾患に対する抗体療法の有効性が示されてきている.一方,“蛋白蓄積疾患”の側面を有する神経変性疾患に対しても,抗体療法を含めた免疫療法が開発されつつある.本稿では代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病(AD)に対する抗アミロイドβ蛋白抗体療法について,その開発コンセプトから最新治療実績までを概説する.AD における抗体療法の成果は他の神経変性疾患克服のための治療戦略として応用できる可能性があり,今後の動向が注目されるところである. -
固形癌に対する抗体療法
238巻6号(2011);View Description Hide Description近年発売される新規抗がん薬の多くは分子標的治療薬である.分子標的治療薬の登場により,がん薬物療法の治療成績向上や生存期間の延長が得られたり,いままで有効な治療薬のなかったがんへの標準治療が確立されたりと,がん薬物療法の臨床は大きく進歩している.本稿ではわが国で固形癌に承認された抗体薬 4 種類について,主要な第Ⅲ相臨床試験を解説するとともに,抗体治療薬の副作用,がん薬物療法や抗体治療薬を取り巻く今後の課題について紹介する.
-