Volume 238,
Issue 10,
2011
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【9月第1土曜特集】 神経消化器病学の進歩
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医学のあゆみ 238巻10号, 887-888 (2011);
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消化管神経系の構造と機能
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医学のあゆみ 238巻10号, 891-896 (2011);
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消化管の痛みは消化管の疾患に伴って頻繁にみられるが,体性痛とは異なった特徴をもつ.消化管は副交感神経と交感神経に伴行する外来性の知覚神経によって二重に支配され,また,内在性の腸管神経系も存在し,両者による消化管の侵害受容やその調節機構には不明な点が多い.消化管に代表される内臓の知覚神経は脊髄内に広く投射し,局在性が乏しく関連痛を伴う内臓痛の特徴にかかわっていると思われる.消化管への機械刺激を受容する一次知覚神経には低閾値強度依存性機械受容器,高閾値機械受容器,そしてサイレント受容器があり,いずれも消化管への侵害刺激の受容や病態時の痛みに関与している.消化管の一次知覚神経には機械受容チャネルや ASICs,TRP チャネル,P2X 受容体などのイオンチャネルが発現し,これらの機能や発現の変化を介した一次知覚神経の興奮性の変化が消化管の痛みの発現に重要な働きをしており,この分野の研究のいっそうの進展が期待される.
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医学のあゆみ 238巻10号, 897-903 (2011);
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中枢からの消化管生理機能に対する制御機構については,脳腸相関という言葉が存在するように,消化管を含めた発生学の観点からも双方向的な関連性を有することが知られている.その間に自律神経系が介在していることもまた周知の事実である.口腔から直腸に至るまでの,全消化管における生理機能に対して自律神経系の役割は計り知れないものがある.近年,機能性消化管障害なる概念がわが国においても注目されるように,この分野つまり神経消化器病学も改めて脚光を浴びるようにもなってきた.そこで本稿では,自律神経系と消化管との関係について,消化管生理機能からその障害がもたらす疾患に至るまでを概説していきたい.
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医学のあゆみ 238巻10号, 904-908 (2011);
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腸管などの消化管の運動は中枢より交感神経,副交感神経の二重支配を受けると同時に,消化管壁内に存在する神経叢によっても調節されている.この神経叢には数々の神経伝達物質ならびにその受容体が存在する.消化管運動機能改善薬は,腸管をはじめとして消化管神経叢に発現している受容体機能を修飾することで作用を発揮するものが多い.そのなかでもセロトニン受容体に作用するもの,ドパミン受容体に作用するもの,オピオイド受容体に作用するものがよく知られている.これらの受容体は,壁内コリン作動性神経の神経終末より分泌されるアセチルコリン(ACh)の遊離を増加あるいは減少させることで消化管機能を調節している.近年著者らは,消化管神経叢に GABAB受容体が存在し,GABAB受容体作動薬も腸管運動機能調節にあずかる可能性を示した.腸管神経叢の解剖学的構造ならびに薬理学的性質を理解したうえで薬物の働きを考えると,その作用を理解しやすい.
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医学のあゆみ 238巻10号, 909-913 (2011);
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細胞膜に組み込まれ,細胞の内と外で水を通過させる膜蛋白,アクアポリンの発見は,腎をはじめとする臓器での水の移動に関する仕組みの解明に大きな貢献をした.この独特な働きをするアクアポリンは神経性組織では一般的にグリア細胞などの非神経性細胞群に多く発現することが確認され,神経細胞での発現は疑問視されたが,アクアポリンが限られた系統の神経細胞にも発現することが近年の研究で徐々に明らかになってきた.しかし,その働きの十分な解明までには至っていない現状である.本稿では,アクアポリンが発現する少数の神経細胞のなかでも消化管神経組織でのアクアポリン蛋白発現についてどこまでわかってきたのか,近年の報告を紹介しつつ,解決すべき課題は何なのか概説したい.
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消化管知覚と病態への関与
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医学のあゆみ 238巻10号, 917-922 (2011);
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過敏性腸症候群(IBS)は,慢性的な腹痛を伴う代表的な機能性消化管障害である.IBS の推定患者数は人口の 10~15%ときわめて多く,日本でも大きな社会問題となっているが,満足のいく治療方法はまだ確立されていない.この機能性消化管障害の特徴である内臓痛覚過敏は, 1 健常人では痛みの生じない大腸への伸展圧刺激でも内臓痛を感じるアロデニア(allodynia)と, 2 健常人では軽度の痛みしか誘導しない伸展圧刺激でも強い内臓痛を認識する知覚過敏(hyperalgesia),の 2 種類に分類することができる.これらの内臓痛覚過敏はヒトおよび小動物において,バルーンを用いた腸内壁伸展刺激法により定量的に評価することができる.IBS に伴う痛覚過敏の発症機序についてはいまだ不明の部分が多いが,消化管神経叢(ENS)とよばれる精密な神経ネットワークの失調と,消化管炎症後の粘膜感作(sensitization)の重要性が指摘されている.本稿では IBS の病態を概説するとともに,内臓痛覚過敏の新しい病態モデルについて紹介する.
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消化管運動機能制御と機能異常
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医学のあゆみ 238巻10号, 925-929 (2011);
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カハールの介在細胞(ICC)が c-KIT を発現することがわかり,この細胞に注目が集まってからおよそ 20 年が経過した.この間,生理学的・形態学的・病理学的研究がめざましく進展した.しかし,まだ本細胞の重要な機能であるリズム発生機構,神経伝達調節機構の詳細は解明されていない.本稿では発生学的な視点で平滑筋層と比較しながら,最近研究の進んだことを中心に紹介する.細胞の起源を調べていくと,ICC と消化管平滑筋は非常に近い系統の細胞であり,進化の過程で消化管の運動を微妙にコントロールすべくあらたに出現してきた細胞ではないかと思われる.また,2 層に分かれている平滑筋層も,内輪走筋層と外縦走筋層がたがいに分化誘導しあって相互作用により形成されることが明らかになった.今後さらに病態についても,発生学的視点から明らかにされることがあるだろう.本稿がすこしでも ICC や消化管平滑筋層の理解に役立つことを願っている.
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医学のあゆみ 238巻10号, 930-934 (2011);
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消化管運動は神経性因子,液性因子によって制御されている.液性因子には促進性ホルモンとしてガストリン,コレシストキニン,パンクレオザイミン,モチリンなどがあり,抑制性ホルモンとしてセクレチン,エンテロガストロン,グルカゴン,VIP などがある.そのなかでとくに重要な促進性消化管ホルモンがモチリンである.消化管運動収縮は空腹期と食後期でその様相が大きく異なる.空腹期には胃から小腸へ伝播する強収縮波形がみられ,IMC(interdigestive migrating contractions)とよばれる.この IMC をモチリンが引き起こすと考えられている.食後期には伝播する波形は消失し,小さな振幅の律動的な運動に変化する.消化管運動は測定された運動の解釈がなにより重要であり,これを理解するためには正常な消化管収縮の知識と,神経や液性の消化管運動調節系の知識が必要と考えられる.消化管運動の基礎と制御機構について概説したい.
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医学のあゆみ 238巻10号, 935-938 (2011);
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上部消化管運動機能は空腹期の胃・十二指腸運動機能と食後の弛緩機能と胃から十二指腸への排出機能に分けられる.その評価方法は一般臨床医にはなじみのないものも多い.前庭部を中心とした蠕動運動の評価のための消化管内圧検査法,食後の弛緩運動の評価のためのバロスタット法とよばれる胃内にバルーンを留置しバルーンを膨らませることによって胃のコンプライアンスや胃内圧の上昇,内容量の増加に対する内臓知覚の閾値を調べる方法,胃排出の評価のための直接法である RI 法,超音波法,放射線非透過マーカー法と間接法であるアセトアミノフェン法,呼気試験法がある.その他の消化管運動機能検査として,ドリンクテストとよばれる水または液体栄養剤の負荷による消化器症状の出現,および最大に飲用することでのできる最大飲用量を検討する方法で内臓知覚過敏や前述の適応性弛緩の病態への関与を調べる方法などがある.
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医学のあゆみ 238巻10号, 939-944 (2011);
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ヒトは自らの細胞数を上まわる数の腸内細菌と共生関係にある.健常な消化管運動は一定の速度で適宜腸内容物を排泄することで腸内細菌の異常増殖を抑えており,良好な腸内細菌叢の維持には不可欠である.しかし,さまざまな原因によりひとたび消化管炎症が生じると,この良好な腸内細菌叢と消化管運動の好循環は一変する.粘膜バリアの破綻は腸内細菌の粘膜内への侵入を容易にし,菌体成分による粘膜炎症を生じる.粘膜の炎症はやがて消化管運動をつかさどる消化管筋層部へと伝播し,常在するマクロファージを中心に筋層にも炎症が生じる.筋層炎症はさまざまな機構により消化管運動亢進あるいは抑制を引き起こし,これが正常な腸内細菌叢の生育に悪影響を与える.こうして異常な構成となった腸内細菌はさらに粘膜炎症を悪化させる原因となり,腸内細菌叢・消化管炎症・消化管運動の関係は悪循環に陥る.消化管炎症の治療にあたってはこの悪循環を考慮した処置が必要であろう.
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消化管粘膜免疫系と神経制御
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医学のあゆみ 238巻10号, 947-952 (2011);
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Helicobacter pylori(H. pylori )は,ヒトなど哺乳類の胃粘膜表層に慢性感染し,胃酸分泌異常,胃潰瘍,胃癌や胃 MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫など種々の病態の発症に深く関与している.これらの病態は,感染した H. pylori による慢性胃炎が契機となって誘導されると考えられ,そのため胃炎発症メカニズムの解明に向けた研究が動物モデルを用いて精力的に行われている.これまでの研究により,宿主の免疫機構は感染した H. pylori に対して IFN-γ産生性の特異的 CD4 陽性 T 細胞による Th1 型免疫応答を誘導し,これが胃感染局所の慢性胃炎惹起に関与することが明らかにされている.さらに,この Th1 型免疫応答の誘導に,小腸 Peyer 板からの H. pylori 抗原取込みがかかわるなど,H. pylori 感染性胃炎発症メカニズムの詳細が明らかにされつつある.本稿では H. pylori 感染による免疫応答機構と病態形成のメカニズムについて,最近の研究成果をもとに概説する.
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医学のあゆみ 238巻10号, 953-958 (2011);
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生命維持のために外界から栄養素を吸収するという生命原則の根幹となる消化管は,生体三大機能制御系である神経系,免疫系および内分泌系が高度に発達した組織である.腸管におけるこれらの制御系は相互に密接な連関により“腸管イントラネット”を形成し,消化吸収機能を制御していると考えられている.生体と外界とのインターフェイスである消化管の粘膜免疫系には全末梢リンパ球の 60~70%が集積し,脊髄に匹敵する神経細胞をもつ腸管神経系と相互にクロストークをしながらそれぞれの機能を発揮している.ストレスが消化管の炎症・免疫性疾患に及ぼす影響は,経験的事実から分子メカニズムの解明へと進んでいる.さらに,多くの免疫細胞が散在的に分布している腸管粘膜には密な神経線維網が構築されており,免疫細胞と神経線維が近接している形態学的事実は“腸管イントラネット”が腸管機能を統合的に制御しているという仮説を支持している.
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ストレスと神経消化器病
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医学のあゆみ 238巻10号, 961-967 (2011);
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ミクログリアは脳内の前駆細胞から供給されるレジデントミクログリアと考えられてきたが,炎症や変性疾患では骨髄由来細胞が脳実質内に移行し,骨髄由来ミクログリアとして中枢神経に影響を与えることがわかってきた.著者らの研究において,コミュニケーションボックス装置による慢性身体的ストレスおよび慢性心理ストレスが骨髄由来ミクログリアを,それぞれ異なる脳部位,海馬と視床下部に集積させることを見出した.慢性ストレス誘発の生体反応と脳内に集積する骨髄由来ミクログリアの関連について論じる.
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医学のあゆみ 238巻10号, 968-971 (2011);
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視床下部のオキシトシンは,その古典的な作用(子宮筋収縮,乳汁分泌促進)に加え,信頼関係や社交性の維持に関与している.室傍核のオキシトシンはストレスによって誘発される corticotropine releasing factor(CRF)の産生を抑制し,ストレス反応を軽減させる.単独飼育されたラットでは,慢性多種性ストレスの負荷により室傍核の CRF 産生増加と胃排出能の低下がみられる.ところが,共同飼育をされたラットではストレスによる CRF 産生増加はみられず,胃排出能の低下もみられない.共同飼育により室傍核でのオキシトシン産生増加が促進され,CRF 産生を抑制した結果,ストレス下でも胃排出能は正常に保たれる.
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医学のあゆみ 238巻10号, 972-976 (2011);
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Corticotropin-releasing facto(r CRF)は脳内では視床下部および @桃核を中心に分布しており,ストレス反応の中心的役割をなしている.現在,哺乳類では CRF,urocortin(Ucn)1,Ucn2 および Ucn3 といった 4 つの CRF ファミリーペプチドの同定に至っている.これら CRF ファミリーペプチドは脳,肺や生殖器官のほか,消化器系などにも存在している.CRF ファミリーペプチドはストレス時の胃腸管運動の調節機能に関係することが示唆されている.CRF および Ucn1~3 の脳室内投与は,胃では排泄運動を抑制する.一方,同投与は腸の蠕動運動を促進させるため,ストレス反応や過敏性腸症候群に関与している可能性がある.CRF および Ucn の働きは,2 種類の受容体を介することで機能的に役割が分担されていると考えられる.中枢の食欲抑制の効果では Ucn は CRF よりも強く,持続的作用を有すると報告されている.CRF は潰瘍性大腸炎の患者における大腸粘膜炎症細胞,とくにマクロファージでの強い発現を認める.一方,Ucn1 は粘膜固有層の炎症細胞,とくに形質細胞で強い発現を認める.ステロイド治療によって,Ucn1 陽性細胞は有意に減少する.CRF,Ucn やその拮抗薬などが,炎症,ストレスや食欲,消化管機能の調節などで今後役立つことが期待される.
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内分泌ペプチドと消化器の生理
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医学のあゆみ 238巻10号, 979-985 (2011);
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食欲・摂取行動は中枢,末梢間の巧緻な連携により調節されており,視床下部の摂食亢進系である NPY/AgRP,摂食抑制系の POMC/CART,胃から分泌されるグレリンや脂肪細胞から分泌されるレプチンなど,多くのペプチドが複雑なカスケードを形成している.このような代謝性調節だけでなく高次脳の発達したヒトでは,報酬・嗜好,経験,価値観,感覚刺激に伴う認知情動性の調節機構の関与も近年着目されている.摂食調節機構の病態解明により,近年社会問題となっている糖尿病や肥満などのメタボリックシンドローム,悪液質,摂食障害などの予防や治療の発展が期待される.
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医学のあゆみ 238巻10号, 986-992 (2011);
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近年の肥満人口の増加に伴い,肥満をベースに生じるメタボリックシンドロームは世界的に大きな問題となっており,その病態解明をめざした研究が進められている.肥満は摂食エネルギーが消費エネルギーを上まわることにより過剰なエネルギーが中性脂肪として脂肪細胞に蓄えられ生じるが,個体のエネルギーバランスのホメオスタシスは本来厳密にコントロールされている.末梢臓器からの代謝シグナルには血液脳関門を介した液性情報と迷走神経系を介した神経性情報があり,これらの情報は視床下部や脳幹部へ伝達され,統合して処理される(図 1).本稿では,そのネットワーク内で液性因子として中心的役割を果たしているレプチンによる摂食・代謝制御機構について述べる.
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医学のあゆみ 238巻10号, 993-996 (2011);
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グレリンはおもに胃より産生・分泌され,多彩な生理作用をもつペプチドホルモンである.とくに消化管機能に関する研究は精力的に研究が進められており,臨床応用に向けて知見が蓄積されている状況である.生理的にグレリンは迷走神経を介した消化管運動や胃酸分泌を亢進させる.また,グレリンは消化管粘膜の保護作用ももちあわせている.実際に,機能性ディスペプシア,神経性食思不振症,閉塞性肺疾患による低栄養などへの臨床応用が行われ,一定の効果が得られている.また,最近では胃全摘術後の低栄養・低体重をグレリンで予防できることが報告された.本稿では,グレリンと消化管機能に関する生理と臨床応用について,最近の知見をまとめた.
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医学のあゆみ 238巻10号, 997-1001 (2011);
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癌化学療法剤による嘔吐は,消化管粘膜で増加したセロトニン(5-HT)が迷走神経求心性線維末端の 5-HT3受容体を刺激することによって引き起されることが明らかにされ,現在ではシスプラチンによる即時性嘔吐を抑えるために 5-HT3拮抗薬が汎用されている.シスプラチンによる遅延性嘔吐ならびに予測性嘔吐に対しては,中枢に存在するニューロキニン 1(NK1)受容体の役割が明らかにされ,NK1受容体拮抗薬がわが国でも使用可能となっている.内分泌系では以前よりアルギニンバゾプレシンの役割が注目されてきたが,最近ではグレリンの応用に期待が寄せられている.
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医学のあゆみ 238巻10号, 1002-1007 (2011);
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消化管由来のインスリン分泌促進因子インクレチンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は,生理的血中濃度レベルの末梢投与により胃排泄抑制を引き起こす.これには胃容積増大,胃底部弛緩,前庭部蠕動運動低下,幽門括約筋収縮亢進が関与するが,これらの効果が内因性 GLP-1 の生理作用であるかについて結論は得られていない.作用機序として,中枢を介した神経性機序が考えられている.胃への出力に関しては,迷走神経コリン作動性遠心路の活動性低下を介することを示す多くの成績があるが,これとは独立した局所神経叢での一酸化窒素放出の関与も報告されている.一方,末梢 GLP-1 の中枢神経への作用点に関しては著者らのグループにより,迷走神経求心線維による感受機構の存在が報告されている.近年,急速に使用が広まったインクレチン関連糖尿病薬の効果や副作用にも GLP-1 の胃排泄抑制作用が強く関係しており,これら基礎的研究の理解が重要と思われる.
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消化器症状の評価と発生メカニズムの解明
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医学のあゆみ 238巻10号, 1011-1015 (2011);
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機能性消化管障害の病態には脳腸相関が大きく関与しており,脳の機能をみることがその解明には有用である.脳の機能をみる手法に PET や fMRI などがあり,brain imaging と称されている.これらは低侵襲であり,機能性消化管障害の病態解明に積極的に用いられるようになってきた.いずれの手法も微小循環血流量の増加部位を脳の賦活化部位として検出している.腸管に拡張などの内臓刺激を与えた場合に,前帯状皮質,島皮質,前頭前皮質,視床などの活動のほか,多くの部位の活動がみられる.機能性消化管障害の患者と健常人の間には脳の賦活化部位の違いや脳の全体の活動量の違いなどが存在すると報告されているが,相反する報告もある.そこには解析方法の違いなどが存在しており,brain imaging の有効利用にはさらなる研究開発が必要である.
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機能性消化管疾患の病態と治療
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医学のあゆみ 238巻10号, 1019-1024 (2011);
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非びらん性胃食道逆流症(NERD)患者は,食道粘膜に潰瘍やびらんを認めないにもかかわらず,逆流性食道炎(RE)患者と類似した胸やけや呑酸症状を強く訴える.そこで,NERD 例の症状出現の原因に興味がもたれ,種々の検討が行われてきた.病因は個々の患者でかならずしも同一ではないようであるが,酸性胃内容物の食道内への逆流,食道内のより口側への逆流胃液の上昇,食道粘膜の酸感受性の亢進,食道壁の伸展感受性の亢進,中枢での食道の知覚処理機能の障害などが原因として重要であろうと考えられている.NERD 患者の治療には,強力な胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択薬として用いられているが,約50%の患者でしか有効ではない.PPI 抵抗例に対しては,その病因を明らかとする生理学的な検査が行われるとともに,消化管運動機能改善薬,抗不安薬,抗うつ薬などが試みられる.また,新しい逆流防止薬の開発も進んでいる.
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医学のあゆみ 238巻10号, 1025-1032 (2011);
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機能性ディスペプシア(FD)は,上部消化管の検査によっても明らかな器質的疾患がみられないのに胃が痛い,胃がもたれるなどのディスペプシア症状を訴えるもっともありふれた疾患のひとつである.しかし,QOLに与える影響が大きいため,この疾患を正しく理解し治療することは重要である.病因として胃運動機能異常,内臓知覚過敏,胃酸分泌異常,ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori )感染,精神心理因子,生活習慣や食事,遺伝子など,複数が想定されている.このうち直接的に症状と結びつく機能異常は運動機能異常と内臓知覚過敏と考えられているが,実際にはこれらの多くの因子が複雑にたがいに影響しあって生理機能を変化させ,症状を引き起こしていると考えられる.治療は主として薬物療法が行われるが,有効性が確立されている薬剤は多くない.一般的には酸分泌抑制薬と運動機能改善薬が第一選択薬とされ,H. pylori の除菌も有力な薬物法である.このほか,抗うつ・抗不安薬,漢方薬などの有効性の報告もあるが,これらに関してはさらなるエビデンスの集積が必要である.