Volume 238,
Issue 12,
2011
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あゆみ 心房細動の新展開―抗凝固療法をめぐって
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医学のあゆみ 238巻12号, 1095-1095 (2011);
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医学のあゆみ 238巻12号, 1097-1101 (2011);
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さまざまな疫学調査により心房細動発症に寄与する背景因子が明らかとなり,さらに脳卒中の発生における心房細動の関与の深さが周知されるようになった.心原性脳卒中発症の病態解明とともに,その予防治療のあり方が大規模臨床試験によって研究され,ワルファリンによる抗凝固療法が心原性脳卒中を大幅に減少させることが証明された.この臨床効果は抗血小板薬で代替可能なものではないことも明らかとなり,現在では抗血小板薬は次善の選択ともいいがたいものになった.一方,ワルファリンは過不足のない用量を用いることでのみ,その有用性を活かせるものであることに留意したい.あらたな抗凝固薬が開発され,今後の薬剤選択は大きく変化することが予想されるが,抗凝固療法そのものの価値は揺るがないものと思われる.
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医学のあゆみ 238巻12号, 1102-1106 (2011);
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心房細動の多くは無症候性であるが,放置すると年当り全症例の約 5%が脳梗塞を併発するといわれているので,その予防対策と日常の管理はきわめて重要である.これに関して最近大きな進展がみられつつある.ひとつにはいくつかの大規模スタディの結果,心房細動からの脳梗塞予防には抗血小板より抗凝固剤が有効であることが検証されてきたこと,つぎに抗凝固剤に関しても従来から治療法の中核であったワーファリンに加えて合成抗トロンビン剤や合成の抗Ⅹa 剤が開発され,それぞれその有効性が検証されてきたことなどである.これらをめぐって,臨床の現場では新薬の適応と使い方,選別などが緊急の問題となってきている.血栓の成因は,血小板の凝集を主因とした血小板血栓(白色血栓)と凝固系の活性化に伴うフィブリン血栓(赤色血栓)に 2 大別されるが,心房細動からの塞栓の予防に抗凝固剤が有効なことからもわかるとおり,心房細動の際の心房内血栓は凝固系活性化によるフィブリンを主体とする血栓である.心房細動において心房内にフィブリン血栓ができやすい原因としては,①全身的要因として加齢に加え,心不全に伴う肝うっ血により肝でのアンチトロンビンやプロテイン C など凝固制御因子類の合成が低下し,生体全体が凝固制御不全状態になっていること,つぎに局所要因として,②心内膜の抗血栓活性が低下していること,③心房細動における心臓内の血流の乱れにより凝固系が活性化されやすいこと,④そのうえ,心房内で生成されたトロンビンをはじめとする活性化凝固因子が流出・希釈されずに一定時間心房内にとどまること,などが考えられる.結果として心房内でフィブリンを主体とする血栓が生成され,これが遊離して栓子となり脳塞栓となるものと考えられる.これが心房細動に併発する脳梗塞の予防に抗凝固剤が有効性を示すおもな理由である.逆の面からみると,心房細動に伴った脳梗塞はフィブリンを主体として脳の血管に繋留されたものであるので,粥腫の上に発生した血小板を主体とする動脈血栓より,プラスミンによって溶解されやすいという特徴もある.
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医学のあゆみ 238巻12号, 1107-1110 (2011);
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2009 年 1 月から登録が開始された J-RHYTHM Registry では,全国 158 施設から外来通院中の心房細動症例 7,937 例が登録され,2011 年夏には 2 年間の経過観察が終了する.登録時のデータからワルファリン使用率は全体で 87.3%であり,CHADS2スコア 0 でも 75%以上で処方されていた.登録時のプロトロンビン時間(INR)は平均では 1.9 であったが,INR 1.6~2.6 であったものが年齢にかかわらず約 65%と多数を占め,また,INR 1.6 未満であったものが約 25%であった.わが国の抗凝固療法の現状はワルファリンを積極的に用いる傾向にあるが,INR は低値に管理する傾向がうかがわれた.
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医学のあゆみ 238巻12号, 1111-1115 (2011);
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心房細動の管理に欠かせない抗凝固薬として,これまで問題の多かったワルファリンに代わり,凝固系カスケードの最終部分に近いⅩa 因子あるいはⅡa 因子に直接的かつ可逆的に結合して抗凝固作用を発揮する複数の薬剤が開発された.その代表ともいえるトロンビン阻害薬のダビガトランは,RE-LY 試験においてワルファリンよりはるかに少ない頭蓋内出血頻度を示しながら,同等かそれ以上の脳卒中・全身性塞栓症予防効果を発揮した.続くリバロキサバン,アピキサバン,エドキサバンなどのⅩa 因子阻害薬にも同様の効果が示唆されている.いずれの薬剤も即効性があり,迅速かつ濃度依存性に抗凝固作用を発揮するが,1 日のなかでピークとトラフを形成するため,血液指標をもとに効果を判定したり服薬状況を把握することが困難となる.脳梗塞と脳出血の発生比率を改善する新しい薬剤群の登場によって,心房細動管理のあり方が変わろうとしている.
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医学のあゆみ 238巻12号, 1116-1120 (2011);
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心原性脳塞栓症はおもに心房細動を基礎疾患として発症する脳梗塞で,重症脳梗塞になりやすい特徴をもつ.心原性脳塞栓症の二次予防にはワルファリン療法が有効な治療法であるが,薬物相互作用や定期的な血液凝固モニタリングが必要など煩わしい点も多い.また,出血性合併症にも注意が必要である.2011 年 3 月,直接トロンビン阻害薬ダビガトランがわが国でも認可された.ダビガトランは固定量での投与が可能で,臨床試験でもワルファリンと同等以上の効果と出血性合併症の低さが示され,今後,心原性脳塞栓症の有用な抗凝固療法として期待される.
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医学のあゆみ 238巻12号, 1121-1125 (2011);
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カテーテルアブレーション(以下,アブレーション)は単に心房細動の症状を消失させるだけではなく,抗不整脈薬や抗凝固療法から解放されることも大きなメリットといえる.しかし,アブレーションにより左房内血栓形成の危険性を高める可能性があるため,術前後には慎重な抗凝固療法を行う必要がある.アブレーションによって長期間洞調律が維持されれば,抗凝固療法の中止が考慮される.事実,塞栓症のリスク因子を有する症例においても,洞調律が維持できていれば抗凝固療法を中止することは可能であるとの報告がある.もちろん無症候性心房細動の再発のリスクは考慮されるが,アブレーション成功例ではその持続時間は短いことが多い.しかし,いままでの報告は非ランダム化試験の結果であり,明確なエビデンスとはいいがたい.現状では塞栓症発症のリスクが高い症例,とくに CHADS2スコア 2 点以上の例では,洞調律が維持されていると思われても抗凝固療法は継続しておいたほうが安全かもしれない.
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医学のあゆみ 238巻12号, 1126-1130 (2011);
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抗凝固療法の効果を最大限に発揮するためには,各抗凝固薬の特性を熟知し,適正な使用を心がけ,出血性合併症を避ける必要がある.ワルファリン療法ではプロトロンビン時間(PT-INR)測定によるモニタリングが必須であるが,ダビガトランは内服用量で抗凝固作用を予測することが可能であることから,モニタリングが不要である.ダビガトランは半減期が短いので,飲み忘れに注意する.抗凝固療法を緊急に効かせたい場合,ワルファリン療法はヘパリンの併用が必須であるが,ダビガトランは効果発現が早いので,単独の開始も考慮する.脳内出血や頭蓋内出血はダビガトラン 150mg 1 日 2 回内服も,110mg 1 日 2 回内服も,ワルファリンより 6~7 割少ないが,ダビガトランでは 75 歳以上での出血,通常用量群での消化管出血,および両用量群で dyspepsia が多く,用量設定における適正指針の遵守が求められる.抗凝固療法に抗血小板薬を併用すると出血性合併症が倍に増える.頭蓋内出血を減らすには十分な降圧が有効である.
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医学のあゆみ 238巻12号, 1131-1137 (2011);
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心房細動(AF)の診療では,血栓塞栓症のリスク評価と適応例に対する予防的抗凝固療法がきわめて重要である.わが国および欧米のガイドラインは,CHADS2スコア 2 点以上の AF 例には抗凝固療法を推奨し,1 点は考慮可としている.これまでワルファリンのみに依存してきた抗凝固療法は,経口直接トロンビン阻害薬ダビガトランの登場で大きく変わりつつある.ガイドラインも部分的に update され,アメリカではダビガトランが非弁膜症性 AF に対し,ワルファリンの代替えとしてクラスⅠ適応に位置づけられた.わが国でも日本循環器学会が緊急ステートメントを発表し,CHADS2スコア 1 点以上の非弁膜症性 AF 例にダビガトランを推奨した.今後,経口活性化第Ⅹ因子阻害薬も登場予定で,ガイドラインの全体的見直しも必要となるであろう.AFは高齢者に多く,高齢者ほど心原性脳梗塞のリスクは高く,一方で抗凝固薬による脳出血のリスクも高くなる.高齢社会のわが国では,より確実でより安全な抗凝固療法の実践が求められる.
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注目の領域
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医学のあゆみ 238巻12号, 1143-1149 (2011);
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近年,重症熱傷患者に対する治療法が劇的に変化した結果,従来では救命することが困難であった広範囲熱傷患者の救命も可能になってきた.救急・集中治療の進歩に伴い,急性期における熱傷ショック期の死亡率は著しく改善したが,その後の感染期での感染症を起因とする死亡率は依然として高率であるのが大きな問題であった.これに対して,受傷後可及的早期に感染源となる焼痂組織(熱壊死組織)を切除する(超)早期手術の導入と,焼痂切除を行った部位への創閉鎖に凍結保存された同種皮膚の移植が可能となったことにより,重症熱傷患者の救命率が著しく向上してきた.この死体皮膚を保存・供給する組織として,2009 年に一般社団法人日本スキンバンクネットワーク(JSBN)が設立され,全国の熱傷施設で適宜必要に応じて同種皮膚移植が可能となり,重症熱傷患者の治療成績の向上に多大な貢献をなしている.
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フォーラム
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第 75 回日本循環器学会総会・学術集会レポート 1
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医学のあゆみ 238巻12号, 1151-1153 (2011);
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カテーテルアブレーション(焼灼術)は薬物抵抗性心房細動に対するあらたな治療戦略として近年,わが国においても急速に普及しつつある.発作性心房細動に対しては拡大肺静脈隔離術により高い成功率が得られるようになった.しかし,持続性心房細動に対するカテーテル焼灼術は術後の心房細動の再発率がいぜんとして高く,焼灼術の適応とする患者選択や治療戦略がいまだ明確ではなく,各施設によりそれらが異なっているのが現状である.拡大肺静脈隔離術による画一的な治療が有効である発作性心房細動と異なり,持続性心房細動ではそれぞれの症例に合わせたオーダーメード・アプローチの必要性が指摘されており,治療成績の向上には,①非肺静脈起源の心房細動のトリガーの同定とその焼灼,②心房細動の持続に重要な役割を果たしていると考えられている心房連続分裂(continuous fragmented atrialelectrogram:CFAE)電位の特定とその記録部位への焼灼,③術後に長期にわたり良好な成績が期待される患者の同定,あるいは④焼灼術前後の使用薬剤の選択と使用方法の工夫,などが重要と考えられる.本シンポジウムでは,持続性心房細動に対してさまざまな工夫を行いながら焼灼術の治療成績の向上に努められている 6 人の先生方に参加いただいた.
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逆システム学の窓 42
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医学のあゆみ 238巻12号, 1154-1158 (2011);
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放射線の内部被曝がどのような病気を引き起こすかをめぐって,様々な論争が行われてきた.だが,その多くは何ミリシーベルト以下なら安全か安全でないかといった神学論争のような議論で,部外者からみると実り多いものとは思われなかった.それはメカニズムに基づく本質的な議論が少なかったことによる. 本連載の前回,(vol. 41),細胞内情報学として,今回の福島原発事故で当初から問題となっている放射性セシウムによる慢性炎症を介する膀胱癌の増加の機序について,日本バイオアッセイ研究センター所長の福島昭治先生の研究を紹介した. 今回はゲノム科学の立場から,チェルノブイリ甲状腺乳頭癌で放射線障害に関連して増加する染色体 7q11 領域をゲノムワイドの探索から証明したミュンヘンの Hess 博士と,ロンドンのハマースミス病院の Unger 博士らの「アメリカ学士院会報」での成果を紹介する. これまでヨウ素 131 の被曝にともなう子どもの甲状腺癌では RET 遺伝子の活性化が報告されているが,これは放射線被曝のない散発例の子どもの甲状腺癌でも検出されており,放射線障害関連とはいえなかった.今回,放射線汚染地区と非汚染地区の子どもの甲状腺乳頭癌細胞のゲノム全体の比較検討から,汚染地区にのみ 4 割の例で 7q11 の領域が 3 コピーに増幅されていることが発見された.増幅された領域では CLIP2 が過剰発現していることも報告され,放射線障害関連活性化の初のマーカー発見ではないかと注目されている. 放射線障害は DNA の切断を引き起こすが,切断がパリンドローム配列の増幅をきたす機序については,HisashiTanaka 博士が 2007 年に初めてヒトの細胞で,IR(inverted repeat)配列の重要性を報告している.甲状腺細胞の癌化の機序にはまだ検討が必要だが,甲状腺細胞の 7q11 変異はこのパリンドローム増幅の典型例と思われ,特異的な放射線障害のもっとも頻度の多い“足跡”が検出できたことは大きい.ゲノム科学から子どもの甲状腺の癌化のメカニズムを一刻も早く解き明かし,福島の子どもに役立つ診断と治療につながる成果をあげたい.Unger 博士らは日本の事態も注目してみておられ,筆者宛に,“I wish you and your country all the best!”という励ましのメールも頂いている.多くの心ある医学者の協力で子どもと妊婦を守る対応を進めよう.
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書評
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医学のあゆみ 238巻12号, 1159-1159 (2011);
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TOPICS
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呼吸器内科学
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医学のあゆみ 238巻12号, 1139-1140 (2011);
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癌・腫瘍学
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医学のあゆみ 238巻12号, 1140-1140 (2011);
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臨床検査医学
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医学のあゆみ 238巻12号, 1141-1142 (2011);
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