医学のあゆみ
Volume 239, Issue 3, 2011
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あゆみ 重症心不全の新展開―植込型補助人工心臓の時代を迎えて
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人工心臓開発の歴史と現状,植込型補助人工心臓治療の社会基盤
239巻3号(2011);View Description Hide Description人工心臓プロジェクトは,1960 年代に心臓移植代替治療(DT)の開発を目的としてスタートした.自然の心臓と同等の機能をもつ完全埋込み完全置換型人工心臓(TAH)の完成をめざし,1980 年のJarvik 7 を経て2001 年のAbioCor の完成まで30 年以上を要した.一方,障害を受けた心機能を一時的に補助し自己心機能の回復を目的とする補助人工心臓(VAD)の開発も1960 年代にはじまるが,初期の適応は主として開心術後心不全(体外循環離脱困難および術後早期の心不全)であり,おもに体外設置型VAD が用いられた.1980 年代になって心臓移植が普及するなかで,心臓移植ブリッジ使用(BTT)がはじまり,1990 年代に臨床導入されたVAD が第一世代拍動流型植込型LVAD(Novacor LVAD,HeartMate LVAD)である.2000 年前後に長期耐久性が優れたEVAHEART やDuraHeart,Jarvik2000,HeartMateⅡなどの小型の第二世代・第三世代植込型定常流LVAD が臨床導入され,2010 年に至り第一世代植込型LVAD はほぼ姿を消した.日本でも2011 年4 月にEVAHEART とDuraHeart がBTT 適応で保険償還され,急速な普及をみている.また,欧米では心臓移植を受け皿としない植込型LVAD による長期在宅治療を目的としたDT 使用が急速に普及している.DT 臨床導入と小児BTT デバイス臨床導入が日本における現時点での可及的課題である. -
植込型補助人工心臓のメカニズム―工学的立場より
239巻3号(2011);View Description Hide Description人工心臓は心機能補助に必要なパワーを有する空気拍動型からはじまり,植込み可能な第一世代の電磁拍動型となった.連続流回転型が導入されたことにより超小型化した第二世代と,さらに,非接触軸受による超高耐久性を獲得した第三世代が実現した.その回転型ポンプの形式選択,軸受の選択について比較し,評価にあたって参照すべき評価項目についてガイドラインを紹介する.人工心臓におけるメカニズムの進歩が患者のQOL を急速に改善させ,夢を現実のものにした. -
いつステージD心不全に補助人工心臓(VAD)を植え込むべきか?―植込型時代のVADの適応のあり方
239巻3号(2011);View Description Hide Description2011 年は重症心不全治療におけるエポックメイキングな年として後世に残ることは間違いない.臓器移植法の改正後,ドナーが飛躍的に増加したこともあるが,長らく待たれてきた体内植込型補助人工心臓(VAD)の2 機種が保険償還され,つぎつぎと植込みが施行されつつある.この2 機種ともに日本企業による製品であり,show the flag という意義も大きい.それはともかく,これまでの体外式VAD とは大きく異なった,QOLを達成しうる植込型VAD であるため,その適応も必然的に大きく変化を求められている.この小論では植込型VAD 適応について循環器内科医がどう考えるべきかを中心に述べたいと思う.基本は,植込み後の予後を想定しつつ,ベストなタイミングで適応を決定するというスタンスである. -
補助人工心臓の術後管理と合併症対策
239巻3号(2011);View Description Hide Description補助人工心臓治療は急速に進歩しつつあるが,その成績向上のためには術後管理と合併症対策が重要である.術後急性期の右心不全管理や補助流量の適正化,慢性期におけるドライブライン皮膚貫通部管理や脳出血合併症対策など,補助人工心臓治療に特有のものも多く,多くのノウハウを要する.本稿では補助人工心臓治療中の特異な病態と照らし合わせながら,術後管理法と合併症発症時の対策について概説する. -
植込型補助人工心臓 EVAHEART
239巻3号(2011);View Description Hide DescriptionEVAHEART LVAS は連続流型の体内植込型遠心ポンプである.EVAHEART は自己心と同期した拍動流による強力な高流量循環補助が可能である.わが国での治験+市販後植込みの30 例では,余命6 カ月未満の末期重症心不全患者に植え込まれ,生命予後を3 年生存率78%へと著明に改善した.平均補助期間は630 日(5~2,267 日),最長補助日数は6.3 年,累積補助年数は52.5 年と長期間使用されたが,重大な装置故障やポンプ交換事例はなく,優れた長期耐久性が示された.また,退院,在宅治療,就労復帰など,高いqualityof life を実現しており,末期重症心不全治療のあらたな治療手段として期待される. -
体外設置型から植込型VADへ“bridge to bridge”―DuraHeart を中心に
239巻3号(2011);View Description Hide Description今春よりわが国においても,ようやく2 種類の定常流式植込型左室補助人工心臓(LVAD)の保険使用が可能となった.移植臓器ドナーの不足により平均移植待機期間が2 年を超えているわが国において,これらの優れたデバイスはとくに必要性・有用性が高いものと思われる.当院では,これまで8 例の体外設置型Nipro VAD症例において定常流式植込型のDuraHeart® への入れ替え手術を行った.Nipro VAD とDuraHeart は流入管・流出管ともに同サイズであるため,入れ替え手術時には心尖カフと送血グラフトがNipro VAD のものをそのまま使用でき,比較的低侵襲での手術が可能であった.Nipro VAD 刺入部に局所的感染を認めていた3 例において後にDuraHeart のポケット感染を発症し,うち1 例を敗血症で失った.Nipro VAD の感染を認める症例では,適応を慎重に検討すべきであると考えられた.入れ替え手術後,全例が自宅への退院が可能となり(1例は退院準備中),うち1 例は心移植に到達した. -
軸流ポンプ型植込型LVADの治療成績―HeartMateⅡとJarvik2000
239巻3号(2011);View Description Hide Description第一世代補助人工心臓(VAD)の欠点を克服するために開発されたのが第二世代の連続流VAD である.連続流VAD には軸流ポンプと遠心ポンプがある.連続流ポンプは,動く部品が回転するimpeller だけであるために小型化が容易で,故障も少なく,長期の安定した補助を可能とした.欧米を中心に植込み成績が著しく向上して爆発的に症例数が増加している.軸流ポンプ型VAD のなかでもっとも広く使用されているのが,Heart-MateⅡ(HMⅡ)である.HMⅡはヨーロッパでは2005 年11 月に心臓移植への橋渡し(BTT)および永久植込み(DT)として認可され,アメリカにおいては2008 年4 月にBTT 目的で,2010 年1 月にはDT 目的で認可された.わが国においては6 例の植込み治験が行われ,大きな合併症なく,早ければ2011 年度内に保険償還される見込みである.Jarvik2000 は成人用VAD としては世界最小サイズである.2005 年にBTT およびDT目的でヨーロッパで承認された.2005 年にアメリカでBTT 目的の治験が開始され,現在継続中である.わが国においては6 例の植込み治験が行われ,1 例が感染症のために死亡したが,4 例はすでに心臓移植に到達し,早ければ2011 年度内に保険償還される可能性がある.
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注目の領域
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わが国における腎代替医療の現況―末期慢性腎不全(CKDステージ5D&5T)の実態
239巻3号(2011);View Description Hide Description2010 年末のわが国の維持透析患者数は297,126 人で前年より6,465 人増加したものの,新規透析導入患者数は37,532 人で過去2 年間,前年より減少を認めている.一方,腎移植はわが国で2007 年12 月31 日までに21,110 症例に実施され,2009 年時点で8,901 人の患者が機能腎をもち,生存していることが確認された.2009 年にはあらたに1,312 件の腎移植術が実施され,このうちの179 件が透析未経験あるいは術前のみの一時透析で腎移植術を受けていた.以上から,2009 年1 年間に新規に末期慢性腎不全(ESRD)に到達し腎代替療法を要した患者数は,維持透析導入37,566 人と維持透析を経ないまま腎移植を受けた者179 人の合計37,745 人が確認できた.さらに,わが国は30 万人以上の腎代替療法施行中の患者が確実に存在し,毎年増加を続けているのが現状である.正確なわが国のESRD 患者数の捕捉には日本透析医学会だけでなく,臨床腎移植学会,日本移植学会,日本腎臓学会,その他の関連諸学会との密接な連携,情報交換による調査が不可欠である.
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TOPICS
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- 糖尿病・内分泌代謝学
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