医学のあゆみ
Volume 239, Issue 5, 2011
Volumes & issues:
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【10月第 5 土曜特集】 老年医学・高齢者医療の最先端
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- 老化の哲学
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- 老化,高齢者医療の最先端
- 【老化のメカニズムはどこまで解明されたか】
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老化と癌化の接点―古くて新しい課題,ストレス老化シグナル
239巻5号(2011);View Description Hide Description近年,テロメアとは無関係にさまざまなストレスにより若い細胞でも老化することが判明し,“ストレス老化”という概念が普及した.“ストレス老化”は,多彩な生命現象(臓器傷害,幹細胞多能性維持,個体老化,癌化防御など)に関与することが続々と最近報告されている.特筆すべきは,「ストレス老化は細胞癌化に対する生体防御システムである」という新概念の誕生である.さまざまな“ストレス老化シグナル”と総称できる刺激である発癌性化学物質(変異原など)や環境ストレス(紫外線など)により,細胞や遺伝情報に障害が生じた場合,細胞は“チェックポイント(癌抑制遺伝子p53 など)”という防衛システム(生体バリアー)を働かせて細胞老化を誘導することにより,異常な細胞の蓄積や癌化(悪性化)を防いでいるという概念である.“ストレス老化”という新しい概念の提起とともに,「癌化とはストレス老化という生体バリアーの破壊・回避の結果である」という仮説が生まれつつある.本稿ではストレス老化を中心に,老化研究と癌研究の接点を概説する. -
高齢化社会にかかわる新しいヒト恒常性監視機関:脳腸相関―セロトニンを介した脳と腸の連関
239巻5号(2011);View Description Hide Description消化管には脳と共通する多くの神経伝達物質,ホルモンなどが存在し,共有するメカニズムが脳・精神の生物学的状態を体現化すると考えられる.本稿では,消化管に内在する神経系や,新しくみつかったペースメーカー細胞を介した脳腸の機能的相関について,セロトニンシグナルを中心に概説する.さらに,高齢化・高ストレス社会状況がかかわりをもつ病態の診断・治療に対する高速MRI を用いた消化管運動計測応用の可能性について述べる. -
核内受容体と老化
239巻5号(2011);View Description Hide Description核内受容体はリガンド依存性の転写因子であるが,転写を介さず即時型の作用をもたらす核外作用(nongenomicaction)も報告されている.老化に関与する核内受容体のシグナルとして,加齢に伴う性腺ホルモンの低下によるエストロゲン受容体,アンドロゲン受容体のシグナルの減弱が顕著であり,動脈硬化,骨粗鬆症などの老化形質に影響している.ほかにも骨代謝や糖代謝,脂質代謝に関与する複数の核内受容体が老化に関与している.これらの核内受容体は多臓器にわたり多彩な作用を有しており,そのうち老化形質の予防や治療に望ましい作用のみ活性化するために,選択的に受容体に作用するリガンドの開発が進んでいる. -
バイオマーカーから老化度を判定する―カロリー制限を中心に
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionわが国の高齢化は世界でも類をみない速度で進行しており,2005 年に5 人に1 人が65 歳以上の高齢者になったが,さらに今世紀半ばには3 人に1 人が高齢者になると予測されている.このような状況は先進他国でも同様であり,老化関連疾患(動脈硬化,糖尿病,認知症,悪性腫瘍など)の予防や健康寿命を予測することが急務の課題となっている.70 年以上も前から報告され,寿命の延長が証明されている唯一の方法は,カロリー制限である.カロリー制限により各種老化関連疾患の予防や改善が可能になると考えられており,カロリー制限による各種マーカーの変動は,新規老化度測定マーカーとしても使える可能性がある.本稿では,老化度を判定するバイオマーカーとして使える可能性のある項目について触れてみたい. - 【老年病,老年症候群のとらえ方】
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Co‒morbidityとgeriatric conditionをどのように評価するか―総合機能評価の視点から
239巻5号(2011);View Description Hide DescriptionGeriatric condition は正常な加齢現象と疾病の境界領域を含む広い概念であり,geriatric syndrome よりもさらに広く,加齢に伴った感覚器の機能低下をも含めて高齢者特有の徴候や症状をひろいあげようとするものである.すなわち視力低下,聴力低下,転倒,尿失禁,低栄養,認知機能低下,手指巧緻機能低下,歩行時間の延長,バランス能力低下,口腔機能低下,抑うつなどをいう.Co‒morbidity とは疾患の併存状態をいい,加齢とともにその頻度は増加する.老年病をとらえるなかでは,geriatric condition やco‒morbidity を意識しながら評価することが重要である. -
中枢性老年症候群と介入の可能性―白質病変と老年症候群
239巻5号(2011);View Description Hide Description老年症候群のなかで中枢性の要因がかかわるものとして,頭痛,意識障害,不眠,転倒,睡眠時呼吸障害,認知障害,視力低下,言語障害,麻痺,しびれ,せん妄,うつ,意欲低下,嚥下困難があげられる.これらは中枢性の疾患が原因または誘因となり,複数の老年症候群を発症していると考えられる.中枢疾患のなかでとくに老年症候群と密接な関係を示すものは,大脳白質病変である.白質病変のリスクファクターには加齢,高血圧,糖尿病,喫煙などがあげられる.白質病変の診断にはMRI,CT が役立つが,発症を予測するための検査法はほとんどない.臨床的には一般的動脈硬化診断に頼らざるをえないため,頸動脈エコーがもっとも簡便かつ有用である.予防・治療のためには高血圧の管理と抗血小板薬の投与が一般的には行われる.いくつかの臨床試験では,降圧療法が認知症の発症に抑制的に作用することが示されている.白質病変をもつ高齢者は疾患,老年症候群以外の部分でも問題を抱えていることが多いため,総合的機能評価を行い,これらの情報を医療,看護,介護,福祉のプランに反映させることが望ましい. -
エイジングドミノとホルモン補充療法
239巻5号(2011);View Description Hide Description細胞内分子から臓器までさまざまなレベルで認められる老化現象には,エイジングドミノとでもよぶべき階層構造が存在し,適応と破綻によって老年病・老年症候群に至るかどうかが決定されると考えられる.そのなかでホルモン老化は重要な位置を占め,とくに男女における各性ホルモン分泌の低下は,更年期障害や性交障害のようなQOL に影響する病態,脳卒中や虚血性心疾患のような死に直結する疾患,骨粗鬆症や認知症のような介護の原因となる疾患に関連する.一方,低下したホルモンを補う治療により,これらの疾患や障害に対する予防・治療効果が期待されるかという点には議論がある.閉経後早期の女性に対するエストロゲン補充療法は,ガイドラインでも適応が明記された.一方,中高年男性に対するアンドロゲン補充療法についても探索的研究が集積しつつあり,理論的裏づけと大規模試験の開始が待たれる. - 【認知症】
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アルツハイマー病のアミロイド仮説は揺らいだか
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)の発症を誘導する物質的基盤は,アミロイドβ蛋白質(Aβ)の重合体であるとする考え方(アミロイド仮説)が広く受け入れられている.しかし,剖検脳やモデルマウス脳においてAβが高度に蓄積しているにもかかわらず,認知機能障害がなく,また病理学的にも神経細胞脱落が認められない場合があることなどから,この仮説を疑問視する研究者も少なくない.加えて,Aβを標的とするAD 治療薬開発の臨床試験における不成功があいつぎ,Aβの病因論的意義への疑問が膨らんでいる.その一方で,magneticresonance imaging(MRI)やpositron emission computed tomography(PET)などの脳画像診断の技術革新によって,Aβ重合体の蓄積による神経細胞傷害が臨床症状の出現に先行して早期に生じていることが明らかにされ,アミロイド仮説にあらたな支持を与えている.本稿においては,アミロイド仮説をめぐる昨今の議論を紹介しながら,Aβ重合体の役割について考察を加えたい. -
早期発見の手がかりは心理検査か画像診断か
239巻5号(2011);View Description Hide Description認知症の早期診断に画像診断が有用か心理検査が有用かは,これらのツールをどのような状況で用いるかによって異なる.通常の臨床現場ではこれらを併用することにより,より軽度の認知症を診断できる.今後の治療薬開発を踏まえた発症前診断においては画像診断の有用性が高く,地域での検診では心理検査の有用性が高いと考えられるが,いずれもまだ有用性の検討ははじまったばかりであり,今後さらなる検証が必要である. -
感覚器の機能低下と認知症
239巻5号(2011);View Description Hide Description加齢に伴い,感覚器機能低下はかならず生じる.感覚器機能低下はコミュニケーションの障害をもたらすのみでなく,認知症や精神症状のリスクファクターにもなる.一方,中枢神経系の変性は認知症症状を呈するのみならず感覚野も障害されることから,感覚器の機能障害が出やすい.とくにアルツハイマー病(AD)やLewy小体型認知症では,嗅覚の一次中枢である嗅球にアミロイドβやLewy 小体が沈着することが報告されており,認知症との関連に関心がもたれている. -
認知症予防:運動療法
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionわが国は著しい高齢社会を迎え,今後ますますその高齢化は進行する.そのような背景にあって,後期高齢者に頻出する虚弱高齢者(要介護高齢者)あるいは認知症高齢者の急増が推測され,その予防対策がきわめて重要な時代を迎えようとしている.平成18 年度(2006)より改正介護保険法において介護予防が導入され,そのひとつとして“認知症予防”が重点化された.しかし現時点で認知症,とくにアルツハイマー病(AD)の予防は(その確実な原因が不明であることからしても)不可能である.最近,AD の前段階として“軽度認知機能障害(MCI)”が重視され,MCI における認知機能低下抑制を目的としたランダム化試験(RCT)が実施され,着実な成果がみられるようになってきた.本稿では,最近MCI 高齢者を対象にわが国で実施された,認知機能低下抑制を目的としたRCT についてその実際を紹介する. -
認知症予防:栄養・嗜好品
239巻5号(2011);View Description Hide Description生活習慣は血管性認知症だけでなく,アルツハイマー病(AD)の発症と関連している可能性がある.とくに食事は毎日の生活のなかで繰り返されるものであるだけに,影響が大きい.認知症の予防にはビタミンE,ビタミンC,カロテノイドのような抗酸化ビタミンが有用であり,なかでも抗酸化作用をもつビタミンE が期待されている.葉酸やビタミンD の認知症予防作用も明らかにされてきている.しかし,こうしたビタミン類を食事からではなくサプリメントとして摂ることが,死亡リスクを上げてしまう可能性についても報告がある.多価不飽和脂肪酸,とくにn-3 系のドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)は認知症の予防に有用であり,またアラキドン酸についても有用性の研究が進んでいる.食事のパターンとしては野菜や魚類をバランスよく摂ることが重要である.適度な飲酒,とくにワインが認知症の予防に有用であり,喫煙は多くの研究で認知症の危険因子となることが報告されている. -
アルツハイマー病新薬の使い分け方
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionわが国では,アルツハイマー病(AD)治療薬としてアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬であるドネペジルが広く使用されてきた.2011 年,AChE 阻害薬であるガランタミン,リバスチグミン,N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬であるメマンチンが正式に使用可能になった.それらはいずれも症状改善効果を示すものの,AD の病変の進行そのものを阻止することはできない.患者の重症度,薬剤の作用機序,剤型などを考慮して治療薬を選択していく必要がある. -
降圧薬には認知症に良いものと悪いものがあるか
239巻5号(2011);View Description Hide Description加齢とともに高血圧は認知症発症の重要な危険因子であるといわれており,降圧薬による血圧の厳格な管理が認知症発症の有用な予防策として期待されている.一方,近年の研究により,降圧薬それ自体が認知症発症および進展を制御できる可能性が示唆されている.そのなかで,脳移行性ACE 阻害薬は降圧効果に依存せずに高齢高血圧患者におけるアルツハイマー病(AD)の新規発症を抑制し,さらに高血圧合併AD 患者において経時的な認知機能の低下を抑制することが明らかにされた.一方,選択的AT1 受容体遮断薬のバルサルタンは,AD モデルマウスにおいて脳でのアミロイドβ蛋白の重合阻止ならびに沈着抑制効果を有し,空間学習能力を改善させた.以上のことから,降圧薬のなかでも脳内レニン-アンジオテンシン系制御薬がAD 進展予防の一戦略になりうる可能性が示唆される. -
認知症疾患センターのモデルとは
239巻5号(2011);View Description Hide Description2011 年はあらたな抗認知症薬が使用可能となり,認知症医療もあらたな時代に入った.社会の認知症に対する認識も大きく変化し,介護保険制度も認知症高齢者を支えるシステムとして定着した.これまで“もの忘れ外来”では認知症の鑑別診断を行い,薬物療法をはじめることで完結することが多かった.しかし,認知症高齢者の療養はそこからはじまるのであり,多くの身体合併症や行動心理症状に苦しみながら療養を続けている.生活の現場で認知症高齢者を支える“かかりつけ医”にも,なお認知症診療に対する温度差は大きい.わが国における認知症高齢者数はすでに14%とも推計され1),認知症は“ありふれた病気”である.厚生労働省は認知症医療における地域の拠点として,認知症疾患医療センターを全国に整備することを提言した.そこで国立長寿医療研究センターでは,認知症疾患医療センターのモデルとなる“もの忘れセンター”を開設した.患者・家族のあらゆる要望に応えられる“もの忘れセンター”である.本稿では著者らの試みを概説する. -
認知症を支える地域連携の最前線
239巻5号(2011);View Description Hide Description認知症の人や家族が住み慣れた地域で安心して生活していくためには,専門医療機関やかかりつけ医,介護保険サービス事業所,地域包括支援センター,市町村などが連携して支援を行う必要がある.まだまだ解決が必要な課題は多いが,認知症疾患医療センターの指定や認知症サポート医養成研修,かかりつけ医認知症対応力向上研修,認知症地域支援推進員の配置といった国の認知症施策や,認知症支援における市町村の役割を強化した介護保険法改正などにより,地域における認知症支援体制が徐々に整備されようとしている. - 【虚弱と転倒】
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ロコモティブシンドローム―超高齢社会の運動器科学を構造化するもの
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionロコモティブシンドローム(ロコモ)とは,運動器の障害によって移動能力の低下をきたして介護が必要となっていたり,その危険の高まっている状態を指す.本稿では,著者と中村耕三東大前教授とでロコモという新しい言葉をつくった経緯について説明する.またロコモ提唱の5 つの意義,すなわち,①気づく手段,②障害の複合と連鎖,③知の構造化,④三大要因,疾患への集約,⑤運動器への理解,についても解説する.さらにロコモかどうかに気づくための自己点検法である7 項目からなるロコモーションチェック(ロコチェック)と,ロコモであった場合に自分でできる対処法としての2 種類のロコモーショントレーニング(ロコトレ)を紹介する.超高齢社会となった日本で高齢者の運動器障害に対処するためには,新しい概念,新しい学問が必要であり,ロコモティブシンドロームはそのための合言葉である. -
虚弱
239巻5号(2011);View Description Hide DescriptionFrailty の概念は,「相互に関連する複数の生理システムを支える恒常性維持機能の低下により,ストレスから障害を被りやすい状態」と定義されている.しかし,その具体的な評価基準は研究者により異なっており,かならずしも一定していない.それにもかかわらず,“frailty”として分類された高齢者の一群は年齢に伴ってその割合が増加し,健康障害や生活機能障害などの不利益を被りやすいことが明らかになっている.Frailty は疾患や臓器とは独立した非特異的な高齢者の状態を示すものであるが,予防を視野に入れた包括的・総合的な医療を行ううえでは重要な視点を与える概念である.高齢社会において健康長寿に軸足をおくとき,その概念はいっそう重要性を増している. -
転倒スコアからみた虚弱―地域在住高齢者の検討から
239巻5号(2011);View Description Hide Description地域在住高齢者の虚弱と転倒スコアの関連を評価した.まず,易転倒性の関連リスク因子として,高齢,ADL の障害,抑うつが示唆され,転倒を評価するために厚生労働省研究班作成による「転倒リスクスコア」が有用であることを示した.「転倒リスクスコア」は高齢者の転倒リスクを評価するために開発されたものであるが,転倒のみならず加齢,ADL,高次の活動能力指標,うつ状態,主観的QOL など,高齢者の虚弱を反映している可能性があることを示した.また,長期にわたる運動が将来の転倒や虚弱に対して予防的効果を有する縦断的検討の結果を紹介した.21 項目転倒リスクスコア(FRI-21)は,介護予防の観点からも簡易で重要な指標と考えられる. -
サルコペニアと慢性全身性炎症性疾患としてのCOPD
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionサルコペニア(sarcopenia)とは,加齢に伴う骨格筋量と筋力・身体機能の低下を指し,全身性に進行し,要介護さらには死に至る危険が高まる症候群である.2010 年にEuropean Working Grope on Sarcopenia inOlder People は,筋量低下を必須とし,筋力と歩行速度の低下をみるサルコペニアの臨床的診断アルゴリズムを発表した.サルコペニアには加齢に伴う原発性,廃用性,低栄養性,疾患随伴性のものがあり,虚弱(frailty)や転倒・骨折などの老年症候群と関連が深い.高齢者総合的機能評価におけるサルコペニアの検討に基づく,最適な栄養・運動・ホルモン療法プログラムの確立が期待される.二次性サルコペニアをきたす代表的疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)は進行性の慢性全身性炎症性疾患であり,サルコペニアがADL,QOL や死亡と関連することから,多職種が原疾患と全身併存症を合わせてケアする包括的呼吸リハビリテーションが有用である. -
糖尿病患者における転倒―糖尿病合併症,身体能力低下,血糖コントロールとの関連
239巻5号(2011);View Description Hide Description高齢糖尿病患者は糖尿病でない人と比較して転倒しやすく,転倒のリスク要因を多くもっている.糖尿病患者は非糖尿病者と比べて下肢の筋量,筋力,筋肉の質が低下しやすく,サルコペニアになりやすい.糖尿病患者,とくに末梢神経障害合併患者では身体能力,とくに歩行,歩行速度の低下やバランス障害をきたしやすく,それらが転倒につながりやすい.Up and Go 時間,開眼片足立ち時間,椅子からの立ち上り時間などは,転倒を予測する身体能力の検査として有用である.手段的日常生活動作(IADL)低下,うつ状態,認知機能低下も転倒の要因である.血糖コントロールの指標のHbA1c が高すぎても低くなりすぎても転倒しやすい.また,低血糖頻度の増加は転倒と関連する.バランストレーニング,下肢のレジスタンストレーニングを含めた運動療法は,糖尿病患者のバランス能力,歩行速度,下肢筋力の改善につながり,転倒の防止に有効である可能性がある. -
高齢者高血圧の治療と転倒
239巻5号(2011);View Description Hide Description人口の高齢化が進む現在,高齢高血圧患者の数は著しく増加しており,また転倒も高齢者に高頻度に起こる.近年の大規模研究で,80 歳を超える高齢者においても降圧療法は脳心血管疾患の発症を抑制することが明らかになり,より積極的に行われるようになってきた.しかし,降圧療法は起立性低血圧をきたし,転倒を引き起こすことがある.そこで,転倒のハイリスク患者を起立テストなどで抽出し,処方内容の吟味,とくに降圧利尿薬の使用の制限や中止の手順をはっきり示すこと,併用薬剤の処方数が増えすぎないように吟味すること,さらに個々の症例によって慎重に降圧目標値を設定することが,高齢高血圧患者の治療に重要である. - 【歯科疾患と誤嚥性肺炎】
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歯髄の再生治療と高齢者歯科への展望
239巻5号(2011);View Description Hide Description超高齢社会においては,医療・福祉経済の破綻の可能性が示唆され,健康長寿者を増加させる政策は急務と考えられる.歯の健康維持・延命化,咀嚼機能の改善は全身の健康維持・長寿に重要である.歯喪失の原因は,破折を含めたう蝕が約半分を占める.う蝕が深くなり歯髄を除去すると,歯の機能維持に重要な感染防御作用,力学的緩和作用,知覚などの機能が失われ,予後不良による根尖性歯周炎,歯の破折などが生じ,歯喪失の可能性が増大することが知られている.よって,本稿では,近年著者らが開発を進めてきた,安易な歯髄喪失は避け,象牙質形成を含めた歯髄の自然治癒能力を最大限活用する新しい象牙質・歯髄再生治療法を紹介する.また,中高齢者の歯科再生療法の可能性と,象牙質・歯髄再生治療法が将来の高齢者の歯および全身の健康に及ぼす影響についても概説する. -
歯科用OCT画像診断機器の開発と歯科臨床応用
239巻5号(2011);View Description Hide Description光干渉断層画像診断法(OCT)は,非侵襲下に生体組織の精密断層像を得ることができる最先端の医療撮影技術である.OCT の最大の長所は,生体に無害である近赤外光を用いているので従来のX 線法と異なり非侵襲な検査であることである.さらに,CT やMRI など現在用いられている画像診断機器よりも数十倍の解像度の断層画像を撮影することができ,生体の微細構造や病変の検出の可能性が高い.国立長寿医療研究センターが産官共同であらたに開発した歯科用OCT 画像診断機器を,①歯牙う蝕診断,②レジン充填の診断,③歯周病診断,④口腔癌・粘膜疾患診断,⑤口腔内光学印象などに応用し,その有効性を確認した.歯科用OCT 画像診断機器はパノラマX 線装置以来のあらたな口腔用画像診断機器になる可能性が高く,国立長寿医療研究センターでは日本発・世界初の製品化をめざして研究開発を進めている. -
原始感覚賦活による誤嚥性肺炎予防―嗅覚刺激を利用した嚥下困難・誤嚥対策
239巻5号(2011);View Description Hide Description原始感覚は,その感覚情報そのものが無条件に個体の生存にとっての価値をもつ根源的な感覚である.原始感覚の刺激は嚥下に必要な脳活動部位のうち,知覚に関する領域を活性化する.黒胡椒の匂いによる嗅覚刺激は,大脳島皮質と前帯状回を活性化して,高齢者の衰えた嚥下機能を回復することができることがわかった.この方法はどのような状態の高齢者にも有用であるが,介護者の手間がかかるので,新規ドラッグガスデリバリーシステムを利用し,簡便に高齢者を24 時間刺激し続ける方法を開発した.その他の温度感覚刺激,口腔内痛覚刺激といった原始感覚刺激を組み合わせることにより,効率的に誤嚥性肺炎患者の再誤嚥を防ぐことができる.さまざまな原始感覚を賦活させることが健康長寿達成に肝要と思われる. - 【救急医療】
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災害後における高齢者医療
239巻5号(2011);View Description Hide Description災害は発生時に多くの生命を奪うのみでなく,震災発生日以降の数カ月間にわたり心血管イベントが明確に増加するとされている.慢性期にイベントが上昇する理由のひとつとして,ストレスや脱水,活動量の低下などによる交感神経の活性化により食塩感受性が低下することでナトリウム排泄が低下し,さらに長期の避難所生活で食塩含有量の多い加工食品の摂取が増えることが加わることで,高血圧の発症や増悪がみられるためと考えられる.したがって,震災後の血圧管理として,血圧上昇の危険信号をいかに迅速に把握するかが求められる.2011 年3 月11 日に発生した東日本大震災は未曽有の災害をもたらした.震災後,自治医科大学では避難所の被災者の血圧管理を目的に遠隔血圧管理システムを導入し,実際に血圧上昇の危険信号を速やかに把握し,治療に反映させることができた. -
災害時の生活不活発病の重要性―その多発と予防
239巻5号(2011);View Description Hide Description災害時における高齢者への支援において,医療面では疾病・外傷面だけでなく,生活機能低下予防,とくに生活不活発病(廃用症候群)の予防に向けた支援が重要である.生活不活発病は予防でき,早期発見・早期対応すれば回復が可能である.そのためには原因を知ることが必要である.災害時には“動きたいのに動けない”理由が多数生じるが,おもな理由は環境の影響,“することがない”“遠慮”である.早期発見・早期対応のためには『生活不活発病チェックリスト』の活用が効果的である.生活不活発病をよりよく理解するにはICF の生活機能の概念枠組が効果的であり,それで整理すると,生活不活発病の予防・改善でもっとも重要なのは,生活機能の3 つのレベルのうち“参加”向上である.なお,これらは“災害”という特殊な事態だけでなく,平常時においても高齢者への支援のあらゆる場面で日常的に行われていなければならないはずのものである. - 【リハビリテーションとロボット工学】
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三次元動作解析装置を用いた臨床的動作評価
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionリハビリテーション医学・医療のおもな対象は活動障害であり,動作の評価はきわめて重要である.しかしこれまで,動作は視診や触診によって評価され,客観的な評価は実際の臨床場面においてほとんど行われることがなかった.著者らは,三次元動作解析装置を用いて,各種動作の運動学的解析を行っている.歩行についてはトレッドミル上の歩行をリサージュ図形で表現することに成功し,異常歩行を一目で理解することが可能になった.痙縮に対するA 型ボツリヌス毒素製剤投与の効果も,三次元動作解析を用いて評価可能であった.上下肢の麻痺は椅子座位姿勢で上肢挙上,指折り動作,股関節屈曲,膝関節伸展,足関節底背屈の5 つの動作で評価した.結果は決められた評価用紙にプロットされるので,動作解析の専門家以外でも視覚的に上下肢の麻痺の程度を理解できる.失調も上肢を指鼻試験,体幹を立位試験,下肢をトレッドミル歩行試験で評価することが可能であった. -
320列面検出器型CTによる嚥下の形態・動態評価
239巻5号(2011);View Description Hide Description摂食・嚥下リハビリテーションの臨床場面では,嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査がゴールドスタンダードとして広く用いられている.CT は技術革新の産物である320 列面検出器型CT の登場により,嚥下動態を三次元で観察できるようになったことで,嚥下研究・臨床に多大なる可能性を広げ,あらたな評価法として認識されはじめている.嚥下運動評価における三次元表示の優位性は,嚥下中に生じる種々の事象を同時に観察・計測できることにある.これにより,嚥下の臨床に有用な情報となる諸器官の形態の計測や,嚥下中の食道入口部の観察,喉頭閉鎖を中心とした嚥下運動の発現順序の計測ができ,嚥下運動の生理・動態の正確な理解やメカニズム解明が進んでいる.さらに臨床的には,嚥下障害の症状の定量化や病態の解明が可能となっている. -
リハビリテーション医学を支援するロボット開発
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionリハビリテーション分野において,ロボット技術の臨床応用に向けた開発が進んでいる.著者らも,脊髄損傷患者に対する歩行補助ロボットWearable Power-Assist Locomoto(r WPAL)とバランス能力向上を目的としたロボットについて開発を進めている.WPAL は従来の歩行補助装具を発展させたロボットであり,患者に自立した快適な歩行を提供することを目的としている.またバランス能力向上には,立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを応用する手法を検討している.本装置の本来の用途は平地での移動であるが,著者らは搭乗者の重心移動に応じて装置が移動する機能を利用して,さまざまなバランス練習が可能になると考えている.これら2 種類のロボットについて,その背景と現在までの進展を概説する. - 【在宅医療】
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在宅医療普及推進と診療所の役割―在宅療養支援診療所の現状
239巻5号(2011);View Description Hide Description超高齢社会を迎え,今後も増加の一途をたどる高齢者への医療のあり方は国家的な課題となっている.とくに看取りまで支える在宅医療の推進は重要で,医療制度によっても牽引されている.2006 年には,24 時間往診に対応でき在宅療養を支える機能をもつ診療所が“在宅療養支援診療所”として制度化され,往診などの在宅医療の提供に対する診療報酬が高額に設定された.これにより,在宅医療に参入することが診療所経営の足を引くものではなくなった.また,独立行政法人国立長寿医療研究センターが在宅医療推進会議を発足させ,日本医師会も在宅医療連絡協議会を開催するなどして,在宅医療推進に向けた社会全体の機運が高まりつつある.しかし,在宅医療を推進させるには,介護力が不足するなどの問題があり,実際に看取りまで支える医療体制が十分に整備されたわけではない.今後は医療者の意識改革だけでなく,国民に向けた在宅医療普及推進の啓発などにも積極的に取り組まなければならない.在宅医療はさまざまな問題が山積している領域といえる. -
看護力が在宅医療の鍵―THPの視点が日本を救う
239巻5号(2011);View Description Hide Description在宅医療において大切なことは,必要な医療を行いながら患者と家族の生活を支えることである.そこでは看護師の力が鍵となる.とくに在宅緩和ケアでは“ケアの哲学”を共有した多職種チームによるかかわりが大切となる.患者・家族に起こる問題を予測し,チームアプローチの必要性を理解したマネジメントができる人物をトータルヘルスプランナー(THP)としてキーパーソンにすることで,“希望死・満足死・納得死”の在宅看取りが可能となる.その役割には,医療と生活を支える視点をもち,患者・家族の一番身近な存在である“看護師”が適任である.さらに,当院が実践している教育的在宅緩和ケア,在宅医療連携拠点診療所,医師1 人でも在宅医療を容易にする岐阜在宅ホスピス安心ネット,将来の医療モデルである携帯テレビ電話を使った遠隔診療の取組みのなかでもTHP の視点をもった看護師の存在が鍵である.そのシステムが広がれば地域の在宅看取り率が上がり,今後の日本の医療を変え,日本を救う. -
歯科臨床の進化―診療室から地域へそして生活支援へ
239巻5号(2011);View Description Hide Description21 世紀に向けた歯科の臨床は,歯を治す臨床から口の機能,そして障害を抱え生活する要介護高齢者の生活の安心・安全のために,生涯を通して生活の質を維持する臨床として進化していく方向へと舵を切っている.歯科界は多職種と連携し,診療室から地域に広がる歯科臨床を医療連携のなかにしっかり位置づけていこうとしている.病院の医療の場では,運び込まれた患者に必要な検査を行い,処置が進められる.しかし,口の問題までチェックがなされることは皆無である.そこに,高齢者医療の落とし穴があるように思われる.食べる機能障害の確認が限りなく遅れていくからである.したがって,歯科機能を支持療法として定着させ,地域のなかですべての患者に対応できる仕組みとして制度などを更新する必要があろう.この課題を解決していくことが,高齢社会のなかで住民の安心・安全を支えるあらたな生活の医療を仕組む社会の責任である. -
在宅医療支援病棟の試み
239巻5号(2011);View Description Hide Description地域在宅医療の活性化のモデル事業として,在宅医と病院とのシームレスな連携をめざす病棟“在宅医療支援病棟”が2009 年4 月に国立長寿医療研究センターに開設された.在宅医,在宅患者とも登録制で,在宅医の判断で入院が決定されるシステムを導入するなど,急変時などのシームレスな連携を実践している.当病棟は開棟後2 年経たばかりではあるが,病棟利用患者の在宅復帰率や在宅死亡率は高く,できるだけ自宅で長くすごしたい患者へのニーズにかなり応えていると考えられた.今後,このような病診連携システムが,地域の在宅医療活性化の中心的な役割を果たしていく可能性があると考えられる. -
慢性期医療と在宅診療のあらたな連携
239巻5号(2011);View Description Hide Description2025 年の医療・介護提供体制予想は,医療・介護が必要な患者が現在より300 万人増加し,年間死亡者数は2008 年度の1.5 倍の約160 万人,患者数としては3 倍以上になるとしている.病院病床を増やさなければ,患者1 人当りの入院期間を現在の1/3 以下にしなければならない.そして病院から溢れ出た患者は在宅療養を余儀なくされる.本年(2011)6 月に国が示した資料では,高度急性期病床の平均在院日数を15~16日,一般急性期病床を9 日としているが,急性期治療後の患者全員がかならずしも回復するわけではない.気管切開や人工呼吸器などの慢性期ICU 患者には,長期急性期病床が必要である.2025 年には全患者の約90%が慢性期医療対象患者となり,500 万人以上が在宅療養患者となる.現在,在宅療養支援機能の指標を“在宅看取り死”としているが,在宅療養を継続するには,急変時は在宅療養支援病院に入院するほうが短期間で在宅復帰できる.地域に密着した在宅支援を行い,慢性期急変患者に対する緊急対応ができる慢性期病院の存在が必要不可欠である. -
災害時における在宅医療の課題
239巻5号(2011);View Description Hide Description東日本大震災は大規模複合災害の典型として,今後の震災対応における重要な問題を数多く残した.当該震災は,(1)地震,(2)津波,(3)放射線を原因とする大規模複合災害である.この震災における災害分布には,ある特徴が見出された.それは,Ⅰ:震災一次被災地域(地震・津波・放射線によって身体・家屋が破壊された地域),Ⅱ:震災二次被災地域(身体・家屋の損傷は軽微であるが,ライフラインの途絶による弊害を受けた地域),Ⅲ:安全地域,の三地域の分布である.災害時の対応は,①自助,②共助(互助),③公助に分けられ,それぞれに変化のある対応が求められる.ICF(国際生活機能分類)は,被災者個人の“生きることの全体”への評価と支援のみならず,個々の被災地域の“生きることの全体”,そして県や国レベルの“生きることの全体”へと拡張される重要な考え方であった.被災地の経済が疲弊しないためには,行われた援助活動が被災地の収入として還元されるシステムが必要である. - 【終末期医療】
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高齢者終末期医療にかかわる医師が直面する課題
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionわが国では,高齢化の進展とともに死亡率の上昇と死亡数の増加が続いている.かつては65 歳未満の死亡が多くを占めていたが,現在では80 歳以上の高齢者の死亡が全体の過半数を占め,同時に死亡場所は自宅から病院へと劇的に変化した.高齢者は複数の疾患やさまざまな機能障害を有していることが多く,その終末期はきわめて多様であることが終末期医療のあり方を複雑にしている.高齢者にとっての最善の医療の具体化のためには,緩和ケアの積極的な導入が求められる.高齢者の終末期医療においてもインフォームドコンセントをはじめとする倫理的手続きが不可欠であるが,合わせて,わが国特有の家族観や倫理観,患者個々の死生観・価値観および思想・信条・信仰を十分に尊重する必要がある.高齢者の終末期医療に対して,命を救うための医療に対するのと同等の関心と支援が,広く国民から寄せられることが期待される. -
終末期における人工的水分・栄養補給法に関する医師の意識変化―3つの国内調査の結果から
239巻5号(2011);View Description Hide Description終末期医療において対応が難しい医療行為のなかでも,人工的水分・栄養補給法(AHN)に関する意思決定には,その他の医療行為以上の困難が伴っており,AHN に関する医療者の意識変化をとらえることは,終末期医療の諸課題に対応するために有用であると考える.そこで本稿では,著者らが実施した3 つの国内調査の結果から,高齢者医療にかかわっている日本人臨床医が,高齢の終末期患者におけるAHN についてどのような意識を有しているかを探った.その結果,経年的にAHN の差し控えを“餓死”として強く反発する医師は少なくなる傾向がみられた.しかしAHN を行わずに看取ることには家族やスタッフ側の心理的負担が伴うため,看取る側の心理的負担軽減のために点滴を行うことを是とする医師が大多数であることが示された. -
認知症患者への胃瘻の適応
239巻5号(2011);View Description Hide Descriptionいま,日本で問題となっているのは,認知症患者に胃瘻が適応か否かの議論ではなく,積極的な延命治療が認知症患者に必要か否かということである.認知症患者は,食べられなくなったら生を全うしたと考えるべきなのか.それとも,すこしでも長く生きることを追い求めるべきなのか.日本の認知症患者への胃瘻に関するデータは欧米と異なり,生命予後も生活自立度も改善することが示唆された.これによって,欧米の生存期間に胃瘻が寄与しないから胃瘻の適応を否定する論点は根底から崩れる.しかし,生存期間やQOL がすこし改善したから胃瘻が認知症患者によい適応と断定することも問題がある.認知症患者への日本の対応は,おそらく21 世紀最大の問題のひとつで,医学者のみならず国民的な議論が必要である. - 【自立と社会とのかかわり】
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独居高齢者の特徴―縦断研究から認めるライフスタイルの脆弱性
239巻5号(2011);View Description Hide Description大規模都市在住(人口140 万人)の独居高齢者に対して健康指標調査を2 カ年の縦断的観察目的で3 回調査実施した結果,有意差(5%)を認めた生活・健康項目は3 項目(“意欲の指標”得点,保持している老年症候群の数,ソーシャルネットワーク得点)で,血液検査項目は16 項目(α1 グロブリン,γグロブリン,単核球数,リンパ球数,赤血球数・他)であったが,基本的な栄養指標である総蛋白(TP)や総コレステロール(T-Cho)においても有意な低下を認めた.独居前生活様式,ソーシャルネットワークの2 つの要因と調査開始時の自覚的健康状態を多変量分散分析した結果では,独居前生活様式が配偶者と2 人暮らし,子供との2 人暮らしの場合,自覚的健康感が高い人はさらに地域社会に積極的にかかわり,健康状態の自己評価が低い人はソーシャルネットワークには無関心の傾向を示した.また,独居前生活様式が2 世代・3 世代,独身であった群では自己評価の高い人はソーシャルネットワークにあまり関心を示さず,自己評価が低い人はソーシャルネットワークに対して積極的な姿勢を示した(p=0.037).独居高齢者は社会的に孤立した均質な高齢者群ではなく,機能的には独居期間や独居となる前のライフスタイルにも規定される高齢者群である. -
介護保険改正の焦点は
239巻5号(2011);View Description Hide Description介護保険法は2011 年に2 度目の介護保険の改正が行われた.今回の改正の焦点は“地域包括ケア”である.すなわち地域での医療と福祉の連携が重要視されている.ほかには市町村の主体的取組みの推進,重度化した利用者の在宅療養のニーズの担保などが焦点となっている.地域包括ケアの中身としては,医療,介護,予防,住宅,生活支援の5 つである.医療と福祉の連携強化を基本として,地域密着型サービスに追加される24 時間定期巡回・随時対応型訪問介護看護と複合型サービスの充実,すなわち定期巡回の他にオンコールによる随時訪問を行うサービスである.報酬体系については包括払いになる可能性が高い.複合型サービスとは訪問介護や訪問看護,訪問リハ,通所介護,小規模多機能型居宅介護などの居宅系と地域密着型系サービスから2 種類のサービスを組み合わせて,一体的な提供を可能とするものである.今回の改正を踏まえて,今後の介護サービスの動向に注目したい. -
高齢者の運転
239巻5号(2011);View Description Hide Description高齢化率の上昇とともに高齢運転者数も急増しており,事故も増えている.運転能力が低下してもマイカーが唯一の移動手段という地域もあり,運転断念ができない面もある.本稿では,高齢運転者の特性評価や教育,それから能力低下に対応する取組みなど,著者が関係したものを中心に紹介する. -
超高齢社会のまちづくり
239巻5号(2011);View Description Hide Description日本においては,あと20 年程度で75 歳以上の高齢者が倍増するという未曽有の経験をすることになる.これまでは病院医療中心の時代であったといえる.一方,近年は大部分の人が高齢期を経て死に至る.そしてその過程で,多くの場合は虚弱な期間を経る.高齢者がその人らしく地域のなかで生活を享受できるように,予防政策や医療介護政策などを地域でネットワーク化していく必要がある.このためには,地域の生活圏域ごとに,さまざまなシステムが連携して機能するよう地域を変える必要がある.具体的には,地域での就労など人と人のふれあいを通した生活習慣病予防や介護予防のできるまちづくり,在宅医療,看護,介護などのシステムと住宅との連携を通したまちづくりなど,地域におけるまちづくりを展開していく必要がある.この場合,在宅医療の普及が重要となる. - 特別寄稿
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