医学のあゆみ
Volume 239, Issue 6, 2011
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【11月第1土曜特集】 精神発達遅滞・自閉症の分子医学
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- 発達障害・自閉症の臨床病理
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発達障害における認知機能障害と神経生理学的所見
239巻6号(2011);View Description Hide Descriptionはじめに発達障害の概念・定義の変遷について概説した.わが国では従来,発達障害の中心的な病態は精神遅滞(知的障害)であり,さらに脳性麻痺など発達期の中枢神経系に生じるさまざまな病態を幅広く含んだ概念であった.2005 年の発達障害者支援法の施行後は,自閉症を代表とする広汎性発達障害,学習障害,注意欠如/多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:AD/HD)が中心となり,法律上の定義が医学の定義をしのぐ状態になっている.各発達障害では認知機能の特性について理解し,対応することが診断治療上重要であるため,本稿では精神遅滞,自閉症,AD/HD,学習障害において注目すべき認知機能のうち,知能,注意,視覚認知,聴覚認知とその生理学的基礎について記載した.自閉症でとくに重要なコミュニケーションにかかわる認知機能のうち,顔認知や音声認知にかかわる脳機能についても,これまでの生理学研究の成果と話題について述べた. -
発達障害の機能画像―自閉症をPETでみる
239巻6号(2011);View Description Hide Description自閉症のpositron emission tomography(PET)研究の成果について述べる.その内容は,概略つぎのようである.①自閉症では脳の広範な部位でセロトニントランスポーターが低下していた.自閉症の症状との関連性を解析したところ,帯状回のセロトニントランスポーターが低下すればするほど,こころの理論の障害が強かった.また,視床のセロトニントランスポーターが低下すればするほど,こだわり(強迫症状)が強かった.②自閉症の眼窩前頭皮質では,ドパミントランスポーターが選択的に上昇していた.この上昇はセロトニントランスポーターの低下を代償するために起こった現象と考えられた.③自閉症の紡錘状回(ヒトの表情を認知する脳部位)でアセチルコリンエステラーゼの活性が選択的に低下していた.アセチルコリンエステラーゼ活性の低下は社会性の障害と関係していた.④表情認知の障害を簡便に計測できる装置(Eye tracker)の開発状況を紹介する. -
脳の微小形成不全と発達障害
239巻6号(2011);View Description Hide Description脳形成の比較的初期の障害による粗大な形成異常のほか,顕微鏡で観察してはじめて異常であると認識される形成異常を微小形成不全と総称することがある.この場合,観察している“病変”が真の形成異常であるのか,正常範囲内であるのか,客観的な指標はないといっても過言ではない.一方では自閉症,統合失調症,てんかんなどの脳においては,このような微細な形成不全が存在している,という一種の“コンセンサス”があることも事実である.自閉症や類縁疾患の遺伝子異常や環境要因がつぎつぎと明らかになって動物モデルの検証が多岐にわたり“新知見”がつぎつぎと生まれ,ヒトの脳で生じていることの検証とのギャップが顕著である.いま一度,ヒトの脳病理でなにが指摘されてきたのか,おさらいしておく意味もあろう. -
発達障害の脳組織バンクの重要性と課題
239巻6号(2011);View Description Hide Description発達障害の剖検例は少なく,集積して研究することは困難であるが,ヒトの疾患病態をヒト脳の分子・細胞レベルで知るにはヒト脳組織の蓄積はきわめて重要である.発達障害の成因には遺伝的素因と環境的外因があり,脳病変や異常は特定の年齢においてのみにしか診断できないことがあり,発達期の脳病変の発生病態を知るにはいろいろな年齢の脳の集積が必要である.遺伝子診断や画像診断の進歩もめざましく,それらの臨床情報を蓄積した脳組織バンクが重要である.また,脳機能障害を病巣とそのネットワークで追求するには,大脳の両半球からの切片を広範に保存しておくほうが疾病解明に役立つ.小児の剖検例は少ないために,多施設が協力して倫理規定に準じて小児組織バンクネットワークを進めることが大切であろう. - 既知の遺伝子異常による発達障害・精神遅滞の分子医学
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脆弱X症候群の分子機構と治療
239巻6号(2011);View Description Hide Description脆弱X 症候群(FXS)はX 染色体上に位置するFMR1 遺伝子の異常によって発症し,知的障害,巨大睾丸,細長い顔などを主症状とする.日本人での頻度は欧米よりやや低く,男性で10,000 人に1 人と考えられる.本疾患では代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)のシグナルが異常に亢進し,そのためにシナプスの可塑性が変化し,シナプス樹状突起棘の形態に異常をもたらすことが明らかにされてきている.この異常の機構が詳細に研究され,mGluR 理論が確立され,それに基づいた治療法が開発されてきている.動物実験のみならず,ヒトでの臨床治験も行われており,近い将来治療法が確立されることが期待されている.さらに,これらの治療法は他の知的障害や自閉症にも応用できる可能性があり,注目される.日本でも,この治療研究を推進する体制を充実させていくことが重要である. -
レット症候群の分子医学
239巻6号(2011);View Description Hide Descriptionレット(Rett)症候群は自閉症やてんかんを主徴とする進行性の神経疾患である.本症の責任遺伝子産物であるMeCP2 は,メチル化DNA に結合し遺伝子発現を調節するエピジェネティクス機構の中核をなす蛋白であり,本症の病態はMeCP2 機能異常による遺伝子発現調節の破綻が関係していると想定されている.これまでMeCP2 は脳内では神経細胞でのみ発現していると考えられてきたが,近年,他の脳細胞(グリア細胞)でも発現し,Rett 症候群の病態にも関与している可能性が示唆された.また,Rett 症候群患者の皮膚細胞から作製されたiPS 細胞の神経分化細胞の解析が行われ,患者の死後脳やモデルマウス脳に基づく従来の報告と同様のシナプスの減少や神経細胞体の縮小が確認された.このような近年の研究の進歩を踏まえ,現在,本症の病態メカニズムの解明とともに,治療法(薬)の開発研究も精力的に進められている. -
ATR-X(X連鎖αサラセミア・精神遅滞)症候群の分子遺伝学―エピジェネティクスの破綻により発症するクロマチン病
239巻6号(2011);View Description Hide DescriptionATR-X 症候群は,その責任遺伝子ATRX がX 染色体上に局在するX 連鎖精神遅滞症候群のひとつである.男性に発症し,重度の精神遅滞,HbH 病(αサラセミア),外性器異常,骨格異常,行動異常など多彩な症状を特徴とする.ATRX 蛋白は,メチル基転移酵素と共通のADD ドメインと,クロマチンリモデリングドメインの2 つの機能的に重要な部位をもち,その構造からSNF2 ファミリーに属するクロマチンリモデリング蛋白と考えられている.ATR-X 症候群はATRX 遺伝子変異によるATRX 蛋白の機能低下がクロマチン構造が破綻を引き起こし,複数の遺伝子発現が異常をきたし発症すると考えられ,エピジェネティクスのメカニズム破綻により発症するクロマチン病と位置づけられる.ATRX 蛋白はヘテロクロマチンの維持とともに,染色体内あるいは染色体間の相互作用を調節し,細胞機能維持に重要かつ多様な機能を有していると考えられる. -
PQBP1遺伝子異常による発達障害の分子医学
239巻6号(2011);View Description Hide DescriptionPQBP1 は神経変性疾患研究でポリグルタミン配列に結合する分子として発見された.後にPQBP1 遺伝子は精神発達遅滞原因遺伝子でもあることが報告された.著者らはPQBP1 ノックダウンマウスおよびPQBP1遺伝子異常ショウジョウバエを作成し,PQBP1 病態解析と治療法の探索を行った.PQBP1 ノックダウンマウスには不安に関連した認知機能低下・学習障害が観察された.また,PQBP1 遺伝子異常ショウジョウバエも学習障害を起こした.PQBP1 分子は転写およびスプライシングに関与することが示唆されており,モデル動物の行動異常は広範な遺伝子発現の低下が原因である可能性が考えられた.シナプス関連分子としては,NMDA 受容体構成分子NR1 の発現が低下していた.遺伝子発現を上昇させるHDAC 阻害剤の投与によりモデル動物の行動異常が改善できた.このことから,遺伝子発現低下が病態にある精神発達遅滞に対してHDAC阻害剤が治療薬になる可能性がある. - 発達障害・自閉症の分子病態モデル
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Pax6変異ラット―発達障害モデルとしての可能性
239巻6号(2011);View Description Hide Description発達障害は遺伝的な影響が大きく,大規模なゲノムワイド相関解析から相関性のある遺伝子座が多数明らかになりつつある.発達障害にかかわる遺伝子のなかには神経発生にかかわる因子が非常に多く,とくにシナプス形成にかかわる因子が注目に値する.転写制御因子をコードするPax6 遺伝子は神経発生の鍵因子であり,種々の局面において異なる下流因子を制御する.著者らは,自閉症患者の遺伝子解析および自然発症Pax6 変異ラットの解析から,Pax6 が種々の発達障害関連因子の発現を制御しており,Pax6 の変異がrarevariant として自閉症などの発症にかかわる可能性を見出している. -
小脳発達の分子機構と小脳無形成モデルマウス“セレベレス”
239巻6号(2011);View Description Hide Description著者らはあるトランスジェニックマウス作製の過程において,偶然にも行動異常を示す突然変異マウス“セレベレス”を得た.セレベレスは,小脳皮質を完全に失いながらも成体まで成長する世界で唯一の突然変異マウスである.この変異マウスの解析,原因遺伝子の同定などによって,いくつかの生物学上の未解明な問題が明らかとなった.さらに,この原因遺伝子の異常によって引き起こされるヒト小脳無形成・低形成症も報告されてきており,セレベレスは小脳発達障害,小脳無形成・低形成症のモデルマウスとしても今後活用されていくことが期待されている.本稿ではこの変異マウスの得られた経緯,その解析によって明らかにされた神経発生学上の知見,そしてヒト疾患との関連性などについて述べたい. -
子の脳発達に影響を及ぼす母体環境―母子間バイオコミュニケーションの提唱
239巻6号(2011);View Description Hide Description母体の栄養状態や生活などの環境変化が,胎児や新生児の代謝などの生理機能の発達や神経ネットワークの形成に影響を及ぼすことが近年報告されてきた.著者らは母子間バイオコミュニケーションという概念を提唱し,栄養状態や生活環境などの母体環境が子の脳発達に及ぼす影響について親子2 世代にわたる実験動物を用いて検証し解析を進めてきた.栄養状態については母マウスの高脂肪食摂取により仔海馬神経新生の低下や学習獲得過程の異常を,一方,授乳期の母マウスの摂餌制限により仔の自発運動の低下や不安様行動の異常を認めた.生活環境ではエンリッチメント飼育や運動が仔海馬の細胞増殖や神経新生に,哺乳行動やストレスが仔の視床下部-下垂体-副腎軸の発達に影響を及ぼすことが他のグループからも報告されている.さらに著者らは,アシルグレリンや脳由来神経栄養因子が胎盤を介して母マウスから仔に移行することを見出した. -
ミトコンドリア機能異常と発達障害
239巻6号(2011);View Description Hide Descriptionミトコンドリアの機能障害によるミトコンドリア病において,知的発達障害をきたす臨床病型が知られている.その代表的な臨床病型であるLeigh 脳症を取り上げ,その分子遺伝学的な知見を紹介する.ミトコンドリア病の病因は核DNA 上の遺伝子変異とともに,ミトコンドリア内に存在するミトコンドリアDNA の異常に起因するものがある.ミトコンドリア機能異常に起因する知的発達障害の発生機序の解明はいまだ不十分であり,今後の研究に期待したい. -
ゲノムワイドな転写,miRNA-標的RNAネットワーク,そしてCNV―脳神経疾患との関連
239巻6号(2011);View Description Hide Description近年,22 塩基長程度の小分子非コードRNA(ncRNA)であるmicro RNA(miRNA)が,ほぼすべての蛋白質をコードする遺伝子を制御していることが明らかになりつつある.このことは,ほぼすべての生体内の生化学反応はmiRNA により何らかの制御を受けていることを示唆する.実際,脳神経科学の分野においても,多くのmiRNA が脳神経系の機能制御に関与していることを示唆する結果が出てきている.これらmiRNA の異常が,脳神経疾患に関連することが明らかになりはじめた.ヒトの場合,すでに1,000 種以上のmiRNA が同定されている.1 種類のmiRNA は数百の標的mRNA をもち,一方,1 種類のmRNA は複数のmiRNA により制御されていることも明らかになりつつある.このことは単にmiRNA が標的mRNA を制御するのみならず,標的mRNA 間での競合の結果,個々の標的mRNA の発現量の変動は,共通のmiRNA の利用可能な量を変化させ,その結果はmiRNA-標的RNA ネットワーク全体の変動につながる.つまり,標的mRNA がmiRNA を制御する結果,ネットワーク内の他のmRNA の発現量が変化する.これはDNA コピー数多型(CNV)が原因である疾患の発症機序を考えるうえで,今後,重要な問題となると予想される. -
ウイルス感染症と自閉症
239巻6号(2011);View Description Hide Description自閉症は多因子遺伝疾患であり,その発症には遺伝要因が中心的役割を演じる.しかし,環境要因も関与し,ウイルス感染症はその主要なものである.胎児期の風疹・サイトメガロウイルス感染はしばしば自閉症を合併し,小児期の単純ヘルペスウイルス脳炎もときに自閉症類似の病像を呈する.さらに,インフルエンザのように脳への親和性の低いウイルスであっても,妊婦が感染した場合,児の自閉症発症リスクを高めるという報告がある.ウイルス感染から自閉症発症に至る機序として,ウイルスによる脳の破壊や免疫反応(自然免疫または自己免疫,母体または小児)など複数の病態が推測または証明されているが,分子機序の解明は緒についたばかりである. - 発達障害・自閉症のあらたなモデルマウスと分子病態
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自閉症感受性候補遺伝子CAPS2/CADPS2における遺伝的多型とノックアウトマウスの行動障害
239巻6号(2011);View Description Hide DescriptionCa2+-dependent activator protein for secretion(CAPS またはCADPS と略す)は,有芯小胞(DCV)によるカテコールアミンや神経ペプチドの分泌に関係する因子である.脊椎動物では2 つの遺伝子CAPS/Cadps(あるいはCAPS1/Cadps1)とCAPS2/Cadps2 がある.著者らはマウス脳の生後発達関連遺伝子としてCAPS2を同定し,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の分泌を促進することを示した.また,ノックアウトマウスがニューロンの発達異常や社会的行動などの障害を示すこと,自閉症患者のなかにはBDNF の細胞局所的分泌に異常をもつ,まれな選択的スプライシング亜型(エクソン3 スキップ型)の発現増加を示す患者がいることなどを明らかにし,CAPS2 が自閉症感受性に関連することを示唆した.本稿ではCAPS2 によるDCV の輸送と分泌調節,ノックアウトマウスの脳発達と行動形質における異常,自閉症患者でみつかったエクソン3 スキップ型の特徴と既知のCAPS2 遺伝子変異について概説し,CAPS2 と自閉症との関連について考察する. -
ヒト型自閉症マウスモデル
239巻6号(2011);View Description Hide Description自閉症は,①社会的相互作用の障害,②社会的コミュニケーションの障害,および③イマジネーションの障害を示す発達障害である.ヒトゲノム計画を含む昨今の急速な医学生物学の進歩とともに,これまで生物学的研究とはかけ離れた存在にあった自閉症研究は,いまや神経科学のなかでも脳の発達障害として多くの研究者が興味をもつ領域になっている.自閉症にみられる染色体異常をマウスにおいて人工的に作製し,解析を行った.本モデルは自閉症様行動を示すだけでなく,自閉症の原因となる染色体異常を患者と同じ型で有するというヒト型モデルマウスである. -
CD38分子機能低下とオキシトシン分泌低下―オキシトシン分泌障害による自閉症サブクラス
239巻6号(2011);View Description Hide Descriptionオキシトシンとバゾプレシンは視床下部神経細胞でつくられ,その部位のオキシトシン産生神経から脳内に放出される.中枢では側座核や扁桃体をはじめとする“社会脳”領域を介して社会性行動,とくに“信頼を基礎とするあらゆる人間相互間活動”や不安を感じないでいられることに影響を与えることがわかってきた.オキシトシンの脳内分泌を制御するCD38 はそれらの機能に関係する.CD38 の遺伝子多型や分子の異常がオキシトシンの分泌低下を引き起こし,その結果,広汎性発達障害や自閉症など,よい対人関係を構築できない社会性障害の原因ではないかと考えられるようになってきた.実際,オキシトシンを鼻腔より投与した自閉症男子では,暴力などの衝動性の低下とコニュニケーションの成立がみられた. - 発達障害・自閉症のゲノム研究
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自閉性障害・注意欠陥/多動性障害のゲノムワイド関連研究(GWAS)
239巻6号(2011);View Description Hide Description自閉性障害(ASD)や注意欠陥/多動性障害(AD/HD)などを含む発達障害は遺伝的要因の関与が強く示唆されるものの,発症には非常に多くの疾患感受性遺伝子に遺伝子発現の個人差や環境因子などが複雑に絡み合って関与している.近年の遺伝子タイピング技術の進歩により,一度に数十~百万個の一塩基多型(SNPs)をゲノムワイドに解析するゲノムワイド関連研究(GWAS)やゲノムワイドコピー数多型(CNV)研究,さらには全エクソンシークエンス(エクソーム)解析も可能となり,現在までいくつかの遺伝子多型やCNV との関連が報告されている.ゲノムワイドCNV 研究については本誌別稿を参照していただくことにして,本稿ではASD,AD/HD のGWAS の現状に触れ,その問題点と今後の展望について述べる. -
自閉症におけるコピー数異常研究
239巻6号(2011);View Description Hide Description自閉症および自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因は多彩である.現状では約10~20%のASD 患者で遺伝学的原因が同定されている.5%以下の症例に顕微鏡レベルの染色体構造異常が,10%に新規(de novo)のコピー数異常が同定されると報告されている.これらの染色体コピー数異常を引き起こすメカニズムとして,non-allelic homologous recombination(NAHR),non-homologous end-joining(NHEJ),fork stalling andtemplate switching(FoSTeS)などが提唱されている.コピー数解析の解像度が上がり,いままでに同定できなかった微細で複雑なコピー数異常が検出されはじめた.コピー数異常に関連した自閉症関連遺伝子が同定され,その発症メカニズムの解明が期待される. -
自閉症のイメージングジェネティクス
239巻6号(2011);View Description Hide Description自閉症は精神や行動の非定型発達を主徴とする代表的な発達障害で,脳の非定型発達がその基盤をなすと考えられている.近年の調査によって,100 人に1 人程度という高い頻度で認められることが明らかになっている.自閉症や統合失調症などの精神障害は疫学研究から遺伝要因の高い関与が明らかにされているものの,複雑で高次の精神機能や行動の障害で多因子からなる複雑な遺伝形式をとるためか,また,臨床症状から定義されたこうした症候群では生物学的異種性が高いためか,その遺伝要因が特定されていない.そのため,遺伝要因の寄与が高くそして精神機能や行動といった表現型と遺伝要因の中間をなす脳形態や機能などの表現型を明らかにすることで,異種性を整理し複雑な遺伝様式を解明しようとするイメージングジェネティクスとよばれる研究が増加している.本稿では自閉症のイメージングジェネティクスについて,オキシトシン受容体遺伝子を例にとって概説した.
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