医学のあゆみ
Volume 239, Issue 8, 2011
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あゆみ 幹細胞由来成長因子を用いたあらたな再生医療
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幹細胞は必要か?
239巻8号(2011);View Description Hide Description1993 年Vacanti らは,組織の再生には“幹細胞”“足場材料”“信号分子”が必要であると唱えた1).この三要素が協調的に働きながら組織を再生させるという考えである.だが,いまその基本ドグマが変わろうとしている.本特集ではその先駆けとなる研究成果を紹介する. -
骨形成蛋白質(BMP)を用いた骨組織の再生医療
239巻8号(2011);View Description Hide Description骨形成蛋白質(BMP)はTGF-βスーパーファミリーに属し,現在まで20 種類以上のBMP/GDF サブファミリーのメンバーが同定されている.BMP はさまざまな作用を有するが,とくに発生期において組織形成,臓器発生に重要な役割を果たしている.その機能のひとつに,骨形成誘導作用があるが,BMP を齧歯目動物の皮下に移植すると異所性骨形成を誘導する.この機能を使って骨組織再生医療に応用しようという試みがなされ,中~大型の実験動物を用いた多くの前臨床研究によって,骨組織再生に応用可能であることが確認された.これらの結果を踏まえた臨床研究を経て,現在,rhBMP-2 とrhBMP-7 の2 種類が製品化され,脊椎固定や難治性の骨折に対して臨床応用されており,自家骨移植と同等あるいはそれ以上の治療効果が確認されている.一方,大量の使用で副反応として重大な腫脹や骨吸収を引き起こすことが明らかとなった.今後,さらに優れた担体の開発や他因子との併用などによって,副反応を抑えながら適応の拡大がなされることが期待される. -
細胞増殖因子と唾液腺の再生―FGFと唾液腺の再生
239巻8号(2011);View Description Hide Description口腔癌に対する外科手術や放射線療法,増齢による退行性変化,Sjögren 症候群,薬物の副作用などによって,唾液腺機能が低下し口腔乾燥症が発症する.口渇は,口腔内の不快感のほか,齲蝕,歯周病,咀嚼・嚥下障害など生活の質(quality of life)を左右する機能障害の原因となる.口腔乾燥症の治療には,唾液分泌促進薬や漢方薬の投与,加湿や含嗽による口腔粘膜の保護,唾液腺マッサージなどが行われているが,根本的治療には至っていない.1993 年にLanger とVacanti1)が再生医療における細胞(stem cell),増殖因子(growth factor),細胞の足場(scaffold)の必要性について報告して以来,唾液腺の再生に関する研究が進みつつある.唾液腺の発生における器官形成の鍵を握る増殖因子として線維芽細胞増殖因子(FGF)などが注目されている. -
歯周組織再生療法の現状と展望―FGF-2を用いたサイトカイン療法,そして細胞治療への展開の可能性
239巻8号(2011);View Description Hide Description歯周病は,歯と歯肉の境界部に付着した細菌バイオフィルムが原因となって発症・進行する慢性炎症性疾患であり,結果として歯の支持組織である歯周組織の不可逆的な破壊をきたす.細菌バイオフィルムを機械的に除去することにより歯周病の進行は制御できるが,そのような従来型の治療法のみでは,失われた歯周組織の再生は困難である.そこで,ヒト型リコンビナントサイトカインを歯周外科時に投与することにより,歯根周囲の靱帯組織(歯根膜)に存在する幹細胞を活性化し,歯周組織再生を誘導する試みに注目が集まっている.ここでは塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を用いた新規歯周組織再生療法の開発の現状を紹介するとともに,骨髄あるいは脂肪組織から得られた間葉系幹細胞移植による歯周組織再生誘導の可能性に言及する. -
幹細胞由来成長因子を用いた骨再生医療―内在性幹細胞に働きかける新しいコンセプトの骨再生医療
239巻8号(2011);View Description Hide Description近年,骨再生医療の分野においても幹細胞移植が行われるようになり,あらたな治療法として認識されるようになってきた.しかし,幹細胞移植には厳しい法規制や細胞培養にまつわる品質安全管理,設備投資などコスト面の足かせがあり,一般化した治療法となってはいない.一方で,移植した幹細胞の生存率が低いという報告や,幹細胞の分泌する成長因子などが組織再生に重要であるという報告もみられる.著者らは幹細胞培養上清に含まれる幹細胞由来成長因子(MSC-CM)に着目し,細胞移植を行わないMSC-CM を利用した骨再生について検討した.その結果,MSC-CM は骨再生にかかわる成長因子を複数含有し,in vitro において幹細胞を遊走させ,血管新生を促し,骨芽細胞へ分化誘導する能力をもつことが明らかになった.In vivo においても,ラット頭蓋骨に作製した骨欠損モデルでは幹細胞を骨欠損部へ集積させ,細胞移植以上の骨再生能を有することが明らかになった. -
歯髄幹細胞由来成長因子を用いた脳梗塞の再生医療
239巻8号(2011);View Description Hide Description脳梗塞による機能障害回復の新規医療のひとつに脳梗塞への細胞移植療法があり,骨髄幹細胞移植が臨床治験として実施され,一定の効果をあげている.しかし,脳梗塞の細胞移植医療においては,現段階で法規制の問題,設備投資,費用,長期間の培養時間など問題点が多く,幅広い医療機関への普及には困難を伴う.著者らは,骨髄幹細胞より増殖能・分化能が高く,免疫原性も低い乳歯歯髄幹細胞由来成長因子を鼻腔内投与することで,脳梗塞機能障害回復効果を認め,その可能性について検討した. -
歯髄幹細胞を用いた脊髄損傷の再生医療
239巻8号(2011);View Description Hide Description損傷した脊髄神経組織は自己再生能力に乏しく,永久的に重篤な機能不全が残るケースが多い.受傷後の時間経過とともに複雑に変化するその病態は,決定的な治療法の開発の大きな障壁となっている.本稿では,歯髄幹細胞の多面的神経再生効果が脊髄損傷治療に有用であることを紹介する.完全切断したラット脊髄に歯髄幹細胞を移植すると,下肢運動機能が回復する.歯髄幹細胞は脊髄損傷環境下でオリゴデンドロサイトに特異的に分化し,失われた細胞を補給する.さらに,歯髄幹細胞由来のパラクライン因子は,①損傷による神経細胞やグリア細胞のアポトーシスを強力に抑制し,②損傷部周囲のグリア瘢痕に由来するさまざまな神経軸索伸長抑制因子を抑制し,切断された脊髄神経軸索を再生する.歯髄幹細胞の細胞自律的および非自律的神経再生効果が,完全に切断した脊髄の再生に与えるインパクトについて概説する. -
幹細胞由来成長因子を用いた皮膚の再生医療
239巻8号(2011);View Description Hide Description培養細胞を患者に移植する細胞療法はあらたな治療法となりうることが,さまざまな領域で報告されてきた.著者らも再生医療の研究を行ってきたなかで,従来医療廃棄物とされてきた細胞培養上清が細胞由来成長因子を多量に含むことに着目し,これを応用した新しい治療法の可能性を模索している.細胞培養上清は培養細胞自体と比較し,培養細胞のクオリティーコントロールや,培養コストの面において優れており,また臨床応用の観点からもより実用化に近く,次世代の医療にあらたな選択肢を与える可能性があると考えている.そこで本稿ではその一例として,細胞由来成長因子を応用した皮膚の再生医療について述べる.
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特別鼎談 1
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TOPICS
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- 癌・腫瘍学
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- 循環器内科学
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