Volume 239,
Issue 14,
2011
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【12月第5土曜特集】 次世代iPS医療
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医学のあゆみ 239巻14号, 1237-1237 (2011);
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iPS細胞の基礎生物学
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医学のあゆみ 239巻14号, 1241-1246 (2011);
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胚性幹細胞(ES 細胞)や人工多能性幹細胞(iPS 細胞)などの多能性幹細胞は細胞治療の細胞供給源となりうることから,臨床応用への期待が高まっている.しかし分化の多能性から,特定の細胞を得るためには効率のよい誘導方法の確立が求められる.本稿では,多能性幹細胞から中胚葉系細胞とその子孫細胞である間葉系細胞に分化させるための誘導方法や,表面マーカーを用いた分化経路の知見について説明する.さらに,最近の臨床応用研究の知見や,多能性幹細胞を臨床応用する際の安全性での問題点についても議論したい.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1247-1252 (2011);
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ヒトiPS 細胞の扁平なコロニーは,マウスiPS・ES 細胞よりもマウスエピブラスト幹(EpiS)細胞のコロニーに形態が酷似している.マウスiPS・ES 細胞はキメラ形成能をもつが,EpiS 細胞にはない.ヒトiPS 細胞は,倫理的観点からキメラ実験は不可能である.そこでキメラ実験の代りに,マウスiPS 細胞,EpiS 細胞で生殖キメラ形成能細胞を選択可能な規定培地,N2B27+2(i GSK3 およMEK 経路阻害低分子化合物)+LIF(2i+LIF 培地)でのヒトiPS 細胞の選択培養を試みた.予想外にも,①ヒトiPS 細胞からはマウスiPS 細胞のみならずマウスEpiS 細胞から樹立されたキメラ形成多能性幹細胞とは異なる種類の細胞が選択され,両者の生理的特性の違いが浮き彫りにされた,②ヒトiPS 細胞から2i+LIF 培地で誘導された細胞は,遺伝子発現やロゼッタ形成能などからヒト初期神経幹細胞であることが明らかになった.ヒトiPS 細胞から初期神経幹細胞への誘導は,7 日以内の短期間に完了し,長期維持および凍結保存が可能なうえ,テラトーマ形成能がないことから,神経疾患の病因の解析や神経損傷患者の治療に貢献すると期待される.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1253-1258 (2011);
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「なぜウサギなのですか?」これは,もう数えきれないほど何度も受けた質問である.ウサギは実験動物として歴史が古く,繁殖が容易で発生工学技術が発達しているが,マウスやラットに比べると実験動物としての需要はけっして多くない.しかし,ひとたび“ウサギ”と“多能性幹細胞研究”の相性のよさに気がつくと,それはとても魅力的な解析ツールになりうる.ウサギembryonic stem(ES)細胞やウサギinduced pluripotentstem(iPS)細胞は,マウスやラットから樹立されるマウス型ではなく,ヒトやサルなどから樹立されるヒト型であり,かつヒトで知られているES 細胞とiPS 細胞における類似点だけでなく相違点などももちあわせていた.実験動物としてマウスとほぼ同様の扱いやすさを誇りながら,ヒト型多能性幹細胞を生じるウサギを用いれば,ヒトでは不可能なキメラ作製実験や移植実験などもヒト型幹細胞モデルとして容易に展開できる.「なぜウサギなの?」から「なるほど! だからウサギなのか!」と思っていただければ幸いに思う.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1259-1264 (2011);
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DNA のメチル化を含むエピジェネティック変化は,人工多能性幹細胞(iPS 細胞)誘導におけるリプログラミングの重要なイベントである.しかし,リプログラミングの実態は十分に解明されていない.再生医療におけるiPS 細胞利用には,iPS 細胞の特性を正確に理解し制御することがiPS 細胞の医療応用における安全性や細胞評価の担保となることから,リプログラミング機構の解明は重要である.著者らは5 種類のヒト組織(子宮内膜,胎盤動脈,羊膜,胎児肺線維芽細胞,および月経血)からそれぞれヒトiPS 細胞を多数樹立し,それらのDNA メチル化プロファイル比較からリプログラミング機構の一端を解明した.樹立初期に多数検出されるiPS 細胞の異常メチル化領域は,波のように繰り返す一過性の高メチル化異常を経て長期培養とともに正常化し,胚性幹細胞(ES 細胞)のメチル化プロファイルに近づいていくことが明らかとなった.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1265-1269 (2011);
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ゲノムインプリンティングは,雌雄の配偶子形成過程で特定のゲノム領域にエピジェネティックな修飾(インプリント)を刷り込む現象であり,このインプリントの影響を受ける遺伝子は母由来または父由来のアリルに著しく偏った発現を示す.インプリンティングは哺乳類の正常な発生や胎児の成長,代謝,母性行動に深くかかわる.各世代において,インプリントは生殖細胞系列でのみリプログラムされ,体細胞では受精後の発生過程を通して維持される.iPS 細胞を作製し活用する過程では,このインプリントを損なわない操作が必要となる.本稿ではインプリンティングの機構について概説し,多能性細胞とのかかわりについての最近の話題を紹介する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1270-1276 (2011);
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ペプチジルプロリルシス・トランスイソメラーゼ(プロリン異性化酵素) Pin1 は,リン酸化された蛋白質をアロステリックに構造変化させることで,その機能を速やかに調節する新しいタイプのレギュレーターである.近年,Pin1 によるリン酸化蛋白質の機能調節が多能性幹細胞の増殖や維持に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.本稿ではPin1 の構造および機能について概説するとともに,Pin1 による多能性幹細胞の維持や増殖における役割について解説する.また,応用編としてPin1 を用いたリン酸化プロテオーム解析による,ヒトiPS 細胞における機能的リン酸化蛋白質の抽出法を紹介する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1277-1282 (2011);
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胚性多能性幹細胞であるES(embryonic stem)細胞や近年樹立されたiPS(induced pluripotent stem)細胞は,再生医療への応用が期待されている.しかし,実際に臨床応用するためには,安全な培養法・分化法,そして安全な細胞の選別が必要である.SSEA-1 など一部の糖鎖は多能性幹細胞の未分化状態を証明するマーカーとして広く利用されている.細胞表面にはさまざまな構造の糖鎖が発現しており,細胞表面マーカーとしてだけでなく,さまざまな重要な機能を担っている.多能性幹細胞においても未分化・分化状態で多様に糖鎖構造が変化し,それぞれの状態で発現している糖鎖の機能が明らかになりつつある.多様な糖鎖構造の発現意義について理解することは,臨床応用のための培養法,分化法,選別法の開発に役立つと考えられる.これまでに明らかにされた多能性幹細胞における糖鎖機能について概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1283-1288 (2011);
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生殖細胞は生体内では精子と卵にのみ分化する細胞であるが,遺伝子操作を施さなくても培養条件下で分化多能性幹細胞へと“脱分化”させることができる.たとえば,胎仔期に存在する始原生殖細胞からは,増殖因子を添加し培養するだけでわずか数日のうちに胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES 細胞)と同等の分化能をもつ幹細胞を樹立することができる.同様の多能性幹細胞は生後の精子の幹細胞からも樹立できる.マウスを用いた研究から,始原生殖細胞の脱分化はPI3K(phosphoinositide-3 kinase)/Akt シグナルにより促進され,その作用は下流の癌抑制遺伝子p53 の機能抑制を介していることが明らかになった.p53 の機能抑制は,精子の幹細胞の脱分化や,iPS 細胞(induced pluripotent stem cell)の誘導も促進することから,生殖細胞の脱分化と体細胞核の初期化には共通の分子基盤があることが明らかになりつつある.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1289-1294 (2011);
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体細胞リプログラミング技術,つまり人工多能性幹細胞(iPS 細胞)の誘導方法の確立によって,革新的な再生医療の実現が現実味をおびてきた.一方,この発見のインパクトの影で,それ以前に再生医療材料として有力視されてきた胚性幹細胞(ES 細胞)の学究的価値は,表面的には薄まったようにみえるかもしれない.しかし,iPS 細胞の出現によってその重要性はより重みを増している.多能性の実体にはいまだ不明な点が多く,多能性を規定するメカニズムの解明においては,多能性幹細胞のプロトタイプとしてのES 細胞がもっとも適しているからである.本稿ではマウスES 細胞に主眼をおいて,現在までにわかってきた多能性維持のメカニズムについて概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1295-1300 (2011);
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幹細胞生物学分野に大きな衝撃を与えた人工多能性幹(iPS)細胞は,遺伝子導入による体細胞の初期化によって誘導される新しいタイプの多能性幹細胞株である.iPS 細胞がさまざまな細胞系譜に分化しうることは,細胞培養および生体内移植の系によって確認され,マウスにおいては生殖系列への寄与も証明されている.このことは,iPS 細胞が単に内部細胞塊由来の胚性幹(ES)細胞と同等の分化多能性を有することを示した以上に,“成体の体細胞から配偶子を作製しうる”というあらたな可能性を提示することとなった.本稿では,ES/iPS 細胞の生殖細胞分化誘導研究の経緯と進展を俯瞰するとともに,iPS 細胞を用いた著者ら自身の研究内容についても概説する.
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作製・移植に関わるイノベーション
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医学のあゆみ 239巻14号, 1303-1308 (2011);
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ヒトiPS(induced pluripotent stem)細胞の樹立が報告されてから4 年が経過した.当初は初期化過程そのもの,あるいはiPS 細胞そのものが研究対象となっていた.最近になり,それぞれの研究者が自身の研究のツールとしてiPS 細胞を使いはじめてきている.iPS 細胞の利用法として細胞移植治療への応用が期待されているが,実際多くの研究室では疾患特異的iPS 細胞を用いて病態解明,創薬や毒性検査などの基礎研究を行うのではなかろうか.iPS 細胞の樹立には,はじめはレトロウイルスベクターが使用されていたが,つぎつぎとあらたな手法が考案され,現在では合成RNA によるiPS 細胞の作製も可能となった.それぞれの樹立方法には一長一短があり,研究目的に応じた適切な使い分けが必要になっている.本稿ではとくに基礎研究に用いる際のiPS 細胞の樹立方法について概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1309-1314 (2011);
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2006 年にマウスの線維芽細胞に対してウイルスベクターを用いて4 種類の転写因子(Oct3/4,Sox2,c-Myc,Klf4)を導入することにより,胚性幹細胞(embryonic stem 細胞:ES 細胞)によく似たinduced pluripotentstem cel(l iPS 細胞)が樹立できることが報告された1).その後,iPS 細胞の研究は進み,マウスだけでなくラット,ブタといった大動物からもiPS 細胞が樹立され,2007 年にはヒトの体細胞よりiPS 細胞が樹立できることが報告された2).その後さまざまな誘導因子や誘導方法に関する研究が進められるなか,2011 年に当教室よりmicroRNA(miRNA)を用いてiPS 細胞と類似した多能性をもつ細胞が誘導できるということを報告した3).miRNA とは内在性に発現する22 塩基程度の短い一本鎖RNA のことであり,1993 年にはじめて報告された4).複数の蛋白質と複合体を形成し,mRNA の3′末端非翻訳領域と結合して遺伝子発現を抑制する(図1).著者らがiPS を作製するのに利用したmiRNA はmir-200c,mir-302s,mir-369s であり,マウス脂肪幹細胞(mouse adipose stromal cells:mASCs)にこれら3 種のmiRNA をtransfect することにより,リプログラミングを行った.この方法ではウイルスベクターも用いず,さらにゲノムへの遺伝子組込みもなく安全である.さらに,アメリカではC 型慢性肝炎に対する治療としてmir-122 のアンタゴニストを用いた,大動物に対する前臨床研究がすでに報告され5),また国内でも前立腺癌の骨転移モデルにmir-16 をデリバリーすると転移を消失させるといった研究も進められている6).著者らはmiRNA を含む蛋白情報ももたない小分子RNA を用いた核酸創薬に着目しており,これには癌遺伝子の発現抑制のみならず,リプログラミングや分化誘導療法を介した新しい癌治療にも期待できる.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1315-1319 (2011);
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ヒト人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,短期間のうちに世界中の研究現場で広く使われるようになった.しかし,iPS 細胞にはES 細胞ではみられない遺伝子変異やエピジェネティック異常・分化傾向の偏りが存在することも明らかになり,安全性と多分化能に優れた臨床グレードのiPS 細胞を作製するために,細胞初期化技術におけるブレークスルーが求められている.持続発現型欠損センダイウイルスベクター(SeVdp)は,もともとは遺伝子治療の分野での使用を念頭に開発が続けられてきた遺伝子導入・発現系であるが,近年,iPS 細胞作製用のツールとして大きな注目を集めている.とくに,複数の遺伝子を同時に細胞に導入して染色体に挿入することなく持続的に一定の強さで発現し,初期化が完了したら簡単に除去できるという特徴は,安全性と品質を兼ね備えたヒトiPS 細胞を作製するために理想的である.本稿では,SeVdp の開発の現状と将来展望について解説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1320-1325 (2011);
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iPS 細胞は患者の体細胞から作製可能な多能性幹細胞であり,あらたな細胞移植療法への応用や遺伝性疾患の病態研究,治療開発への応用が期待されている.iPS 細胞の樹立法も多様な方法が報告されており,ヒト血液細胞からの樹立法はiPS 細胞の臨床応用を加速することが期待されている.患者からiPS 細胞を樹立するということにおいて,末梢血からの樹立は細胞採取の簡便性・低侵襲性の点から非常に魅力的である.T 細胞はヒト末梢血のなかでも培養・増殖が容易であり,iPS 細胞樹立において細胞採取が微量の血液ですむという利点がある.このためにT 細胞からのiPS 細胞樹立法は患者の細胞提供に対する抵抗を軽減し,細胞提供者を増加させる可能性をもつ.さらに,T 細胞から樹立されたiPS 細胞は自身のゲノムにTCR 再構成をもつため,移植の際のマーカーとなる可能性をもっている.本稿では,T 細胞を用いたiPS 細胞樹立とその将来性について概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1326-1331 (2011);
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iPS(induced pluripotent stem)細胞は,マウスやヒトの線維芽細胞などにOct3/4,Sox2,Klf4,c-Mycなどの転写因子を導入することにより作製される,多能性と自己複製能を有する人工多能性幹細胞である.一方,当研究室において見出されたMuse(multilineage-differentiating stress-enduring)細胞は,ヒト成体の骨髄や皮膚などの間葉系組織,あるいは培養ヒト皮膚由来線維芽細胞,骨髄間葉系細胞において存在する多能性を有する幹細胞である.本稿では,Muse 細胞の特性,ならびにヒト皮膚由来線維芽細胞から誘導されるiPS細胞とMuse 細胞との関連性について概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1332-1337 (2011);
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大きな関節軟骨欠損を硝子軟骨で修復するのは困難である.再生医療において高品質な軟骨細胞を供給する方法の開発が期待されている.著者らは,マウス皮膚線維芽細胞培養にc-Myc とKlf4 の2 つのリプログラミング因子と,1 つの軟骨因子SOX9 を導入することで,多角形の軟骨細胞様細胞を誘導できることを発見した.誘導した細胞は軟骨マーカーを発現し,線維芽細胞のマーカーを発現しなかった.誘導した軟骨細胞様細胞は,マウスの皮下に移植すると均一な硝子軟骨組織をつくった.軟骨細胞様細胞は,皮膚線維芽細胞培養からの誘導過程においてNanog を発現せず,多能性の状態を経ていなかった.直接誘導細胞には,iPS 細胞を経る場合に比べて誘導が早い,奇形腫の危険性がない,などの長所がある.今後は軟骨疾患の再生医療への応用をめざして,ヒト皮膚細胞から誘導すること,さらにはインテグレーションフリーベクターを用いて安全な軟骨細胞様細胞を誘導することが望まれる.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1338-1344 (2011);
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ヒトES/iPS 細胞の樹立・維持培養では,一般的にマウス線維芽細胞などの生フィーダー細胞との共培養法がもっとも安定的であると認識されてきた.一方,臨床応用を考慮した場合,未知の感染性微生物や有害物質による汚染の原因になりうる動物由来成分の除去が望まれており,近年,あらたな培養支援技術として,ヒト由来生フィーダー細胞を用いる培養技術に加えて,フィーダー細胞を用いない種々の無フィーダー細胞培養技術が開発されてきた.とくに,無フィーダー細胞培養技術は生細胞を扱わないため,品質管理や再現性に利点があり,これまでに細胞外マトリックス,合成ペプチド,合成ポリマーなど,各種基質材料を用いたヒトES/iPS 細胞の樹立維持培養の有用性が報告されている.これら無フィーダー細胞培養技術は,ヒトES/iPS細胞の臨床応用を強力に支援する技術として,今後その重要性がさらに増すものと考えられる.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1345-1351 (2011);
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人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,一般にマウス胎児性線維芽細胞(MEF 細胞,feeder layer)上で培養を行っており,マウス由来のウイルスなどの感染の可能性を否定できない.これらの幹細胞を臨床応用するためには,MEF 細胞を用いないヒトiPS 細胞の調製法ならびに培養法の確立が必須である.本稿は,フィーダーフリー培養(feeder layer-free culture)用バイオマテリアル,とくに細胞外マトリックス固定化基板を用いたヒトiPS 細胞培養の現状と各問題点を概説するとともに,無動物由来(Xeno-free)状態においてiPS 細胞を調製し,細胞培養を行った一例を記述する
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医学のあゆみ 239巻14号, 1352-1356 (2011);
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心筋組織工学は,再生医療のみならず心臓研究のモデルとして世界中で盛んに研究が進んでおり,iPS 細胞の発見により,自家心筋組織の作製も現実味をおびてきた.細胞シート工学は組織化した細胞の非侵襲的な回収を可能にし,種々の臓器における再生医療に応用されている一方,心筋細胞シートを血管網の構築と合わせて積層化することで心筋組織をつくるというあらたなコンセプトの構築も可能にした.現在著者らは胚性幹細胞やiPS 細胞由来心筋細胞の大量培養系の開発も行っており,幹細胞由来の心筋シートの作製,積層化心筋組織の構築も可能となっている.iPS 細胞技術と細胞シート工学との融合により,あらたな科学・医学が創生されることが期待される.
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iPS細胞によるヒト疾患モデル
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医学のあゆみ 239巻14号, 1359-1363 (2011);
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iPS 細胞の手法を用いて先天性代謝異常症の病態解析ならびに治療研究に応用することが可能である.とくに脳,あるいは肝その他の組織での各遺伝子変異別の病態,とくに中枢神経系での病態解析への応用にはきわめて有用である.現在まで,マウスFabry 病,Pompe 病,Krabbe 病,ムコ多糖症Ⅶ型,またヒトムコ多糖症Ⅰ型,Pompe 病,Gaucher 病などのリソソーム病のiPS 細胞の作製により,心筋細胞,骨核筋細胞,神経細胞などの分化に成功している.Pompe 病iPS 細胞から分化した骨核筋細胞では電顕上骨核筋に特有なH,I,Z バンドが認められ,さらに明らかなグリコーゲンの顆粒が1 層の限界膜に取り囲まれて大量に蓄積している.Fabry 病マウスからの心筋への分化により,細胞の機能異常の解析にも応用されている.また,尿素サイクルの代謝異常症では肝の細胞への分化に成功しており,今後病態解析にきわめて重要な手法である.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1365-1370 (2011);
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毛・皮膚の着色には色素細胞(メラノサイト)が関与しており,皮膚表皮基底層や毛包細胞でメラニン色素を産生することにより,紫外線などのダメージから皮膚を守る機能を有することが知られている.近年,その幹細胞(色素幹細胞)の枯渇が白髪化と関連することや,色素幹細胞の腫瘍化が悪性黒色腫(メラノーマ)形成に関連することが示唆されている.現在のところ,ヒト色素細胞および色素幹細胞に関する知見は十分に集積されてはいない.そこで著者らは,ヒト皮膚由来人工多能性幹細胞(iPS 細胞)からの色素細胞の誘導を試み,それに成功した.この成果は,iPS 細胞由来色素細胞の臨床応用への可能性を示している.一例をあげると,iPS細胞から作製した色素細胞は自家移植可能な尋常性白斑治療の細胞製剤として利用できると考えられる.また,試験管内でヒト生体における色素細胞形成を模倣できる点から,本モデルがヒト色素細胞生物学や各種色素性疾患の病態解明に貢献するとともに,メラノーマの発生機序解明にも応用できることが期待できる.本稿ではiPS 細胞テクノロジーの,当該分野における有用性を紹介したい.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1371-1376 (2011);
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iPS 細胞(induced pluripotent stem cell)は,線維芽細胞など体細胞を初期化(リプログラミング)することにより樹立できる多能性幹細胞である.初期胚から樹立されるES 細胞(embryonic stem cell)と同等の性質を有し,体内のあらゆる細胞に分化する能力をもつことから,ヒトでは採取が困難な神経や心筋などの細胞をiPS 細胞からin vitro で作製することができる.この技術の応用のひとつとして,さまざまな疾患の患者からiPS 細胞を樹立し,さらには疾患関連細胞へと分化することで,個々の患者の病態を細胞レベルで再現することができるようになってきた.本稿では,iPS 細胞を利用した新しい疾患モデル作製の現状と今後の展望について概説する.
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iPS細胞を用いた再生医療
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医学のあゆみ 239巻14号, 1379-1384 (2011);
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医学的および医療経済的な問題となっている末期慢性腎不全と慢性腎臓病の解決策のひとつとして,人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を用いた腎再生医療の開発が期待されている.実験動物を用いた腎発生や腎構成細胞の運命決定機構を解明する研究も進展し,それらの知見に基づいたマウス胚性幹細胞(ES 細胞)から腎系譜の細胞を分化誘導する多くの試みもなされてきた.今後,マウスES 細胞で蓄積された経験と腎発生機構のさらなる解明に基づく,ヒトiPS 細胞から腎構成細胞への高効率の分化誘導法の開発により細胞療法(cell therapy),疾患モデル作製(disease modeling),治療薬探索(drug discovery),薬剤毒性評価系開発(toxicology)などの臨床応用をめざした研究の発展が期待される.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1385-1389 (2011);
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HLA(human leukocyte antigen)の一致しない血小板製剤の繰返し輸血により一定の頻度で患者体内に抗血小板抗体が産生され,血小板輸血不応症になってしまうことが問題となっている.著者らはHLA の一致したドナーの体細胞から作製したiPS 細胞を利用した,拒絶を受けないテーラーメイドの血小板製剤作製に注目した.著者らはこれまでにフィーダー細胞との共培養系(ES/iPS-sac 法)により,多能性造血前駆細胞および血小板の誘導系を確立している.この方法を用いて複数のヒトiPS 細胞株を検証した結果,ヒト巨核球/血小板造血におけるc-MYC の重要な役割を明らかにすることができた.さらに,これら試験管内で作製された血小板は,免疫不全マウス成体内の血管障害部位で血栓を形成する能力を保持していることも示された.本稿では疾患研究,再生医療研究の両面において,ヒト多能性幹(iPS)細胞を用いた血小板誘導系の有用性について概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1390-1396 (2011);
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ヒトiPS 細胞は,再生医療における細胞療法および疾患モデル作製のツールとして期待されている.すでにヒトES 細胞で確立された分化誘導法の多くがヒトiPS 細胞に適用されているが,iPS 細胞とES 細胞の相同性に関してはいまも議論が続いており,ヒトiPS 細胞由来分化細胞の品質管理の問題を複雑にしている.ここで留意すべきは,分化誘導産物の品質評価に際しては,iPS 細胞の樹立法や株間差に加えて“分化誘導技術の良否”が大きく影響することである.著者らはこれまでにヒトES 細胞から血球および血管内皮細胞の分化誘導法を確立してきたが,いずれも培養条件を適切に修正すればヒトiPS 細胞に適用できることを確認している.ヒトiPS 細胞から作製された血球や血管内皮細胞の早期老化がクローズアップされたことがあったが,著者らの方法ではそのようなことはなく,ヒトES 細胞では得られなかった高い品質をヒトiPS 細胞が達成する例も少なからず経験している.このように,ヒトiPS 細胞の臨床応用に向けては,株ごとに最適化された条件下での分化誘導の実践が鍵となる.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1397-1401 (2011);
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人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を用いた再生医療の実現には,分化系譜指向的な試験管内分化誘導システムを開発することが必要である.著者らは血球系細胞分化をモデルとして,マウス胚性幹細胞(ES 細胞)・iPS 細胞からの分化誘導システムの研究開発を行っている.マウスiPS・ES 細胞から血球系細胞への分化誘導には,いくつかの手法が知られている.しかし,すべての血球系細胞を産み出すことができる造血幹細胞へと分化誘導する方法は,唯一ホメオボックス転写因子HoxB4 の強制発現のみであった.著者らはあらたに転写因子Lhx2 を用いて,マウスiPS・ES 細胞から造血幹細胞への分化誘導に成功した.本稿では,iPS・ES 細胞から血球系細胞への分化誘導,およびHoxB4,Lhx2 による造血幹細胞誘導に関する研究について紹介する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1402-1407 (2011);
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赤血球輸血は歴史的にもっとも早期に確立された移植医療である.1900 年にKarl Landsteiner 博士(1930年にノーベル賞受賞)がABO 式血液型を発見したことで大きな進展を遂げ,現代では標準的かつ必須の移植医療となっている.これまでの移植医療の原則は,健常人から提供を受けた細胞・組織・臓器などをそのまま患者に移植するというものであり,輸血も例外ではなかった.しかし,本特集で取り上げているiPS 細胞の応用も含めて,昨今では何らかのリソース(幹細胞など)から培養操作などによって人工的に生産した細胞・組織・臓器などを移植しようという研究が盛んになってきている.輸血医療の分野では,iPS 細胞などの幹細胞材料から赤血球,血小板,好中球などを人工的に生産し,これを移植するという研究が進められている.とくに,赤血球および血小板は核を保有しない細胞であり,人工的な培養操作を加えた有核細胞の移植に比較して腫瘍形成の危険性がきわめて低いため,早期の応用が期待されている.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1408-1410 (2011);
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体細胞から樹立される人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,再生心筋の細胞ソースとして大きな期待がもたれている.iPS 細胞は形態や機能の多くの点で胚性幹細胞(ES 細胞)と共通する特性を有するため,これまでES細胞において得られた多くの知見はiPS 細胞に応用可能と考えられる.今後,効率的な心筋細胞への分化誘導分離方法を用いることによって,より理想的な再生心筋組織の構築が可能となることが期待される.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1411-1415 (2011);
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著者らは温度感応性培養皿を用い,骨格筋筋芽細胞シート移植による心筋再生治療の臨床研究を同センターにて開始した.一方,2007 年11 月,日本の山中らのグループがヒトiPS 細胞の樹立に成功し,再生医療実現化に対する期待はおおいに高まっている.iPS 細胞を用いた心血管再生治療の実現には超えなくてはならないハードルがたくさん存在するが,iPS 細胞の樹立をきっかけとして世界中で幹細胞研究が活性化されることで,近い将来,iPS 細胞を用いた心血管再生医療が現実的なものとなることを確信している.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1416-1421 (2011);
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マウスES 細胞とマウスiPS 細胞,ヒトES 細胞とヒトiPS 細胞はそれぞれほぼ同等の特性を有しており,ES 細胞分化法の応用によりiPS 細胞から心血管系細胞を分化誘導できる.現在までに心筋,血管内皮細胞・壁細胞などの心血管系細胞はヒトiPS 細胞から誘導可能となっており,その効率化および純化法の開発が進んでいる.これらの細胞では細胞移植や患者特異的モデル細胞構築などにより,新規治療法の開発や病態解明,創薬治療応用などの臨床応用が期待される.また最近,iPS 細胞技術をいかした分化細胞からの直接的な心筋細胞誘導など,iPS 細胞研究はさまざまな新しい広がりをみせている.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1422-1426 (2011);
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iPS(induced pluripotent stem)細胞樹立の報告以降,多能性幹細胞を用いた研究と臨床応用への動きがさまざまな分野で加速しており,眼科分野でも角膜と網膜を中心に臨床応用への研究が進んでいる.これまで著者らは,網膜の再生として“移植による再生”と“内在性幹細胞による再生”をテーマに研究を続けてきた.これは現在,障害された網膜を臨床的に治療する方法がないためである.これまで移植細胞源として有力であったES(embryonic stem)細胞は,倫理や指針の問題で日本ではまだ臨床応用されていないが,ES 細胞の問題点を解決し同等の能力をもつiPS 細胞の出現は,日本における再生医療の臨床応用を急速に現実のものにしている.そこで,臨床試験がみえてきたiPS 細胞由来RPE 移植を中心に,これまでの著者らの網膜再生の研究について慨説したい.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1428-1433 (2011);
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中枢神経系の再生医療の戦略として神経幹/前駆細胞や胚性幹(ES)細胞などを用いた細胞移植療法に世界的な注目が集まっている.これらの細胞移植療法により,損傷された神経組織を再生し機能を回復させることができれば,現在治療法が確立していない脊髄損傷治療にもあらたな可能性が開けてくる.近年,体細胞に数種の遺伝子を導入することにより,ES 細胞様の多分化能と増殖能をもつ人工多能性幹(iPS)細胞が作製され,その臨床応用に大きな期待が集まっている.iPS 細胞を用いた細胞移植療法の研究は現在急速に進んでおり,iPS 細胞から種々の体細胞への分化誘導法の開発や,疾患モデル動物への移植療法があいついで報告されている.本稿では,現在再生医療の細胞源として注目されているiPS 細胞を中心に,脊髄損傷に対する細胞移植療法について概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1434-1439 (2011);
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Parkinson 病に対する細胞移植治療では,胎児中脳組織の移植治療で有効性が確認されている.多能性幹細胞を用いることでドナーの供給量など胎児組織移植の問題点を解決できる可能性があり,多能性幹細胞は細胞移植治療の細胞源として研究が進んできた.基礎研究では,ヒトES/iPS 細胞から種々の方法で分化誘導したドパミン神経細胞は疾患モデル動物に生着し,機能的な改善が確認されている.現在,霊長類モデルを用いて長期の安全性・有効性の評価を行っているところである.またiPS 細胞の登場により,自家移植や細胞バンクが実現する可能性が高まり,臨床応用に向けた準備が整いつつある.臨床応用に際しては治療適応の選択,ドナー細胞の分化誘導法,動物由来因子の排除,細胞死の抑制,腫瘍化の制御,免疫・炎症反応の制御などが課題となる.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1440-1444 (2011);
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筋ジストロフィーとは,筋線維の破壊・再生を繰り返しながら進行性の筋力低下・筋萎縮を引き起こす遺伝性筋疾患である.もっとも発生頻度が高く,重篤なものはX 連鎖性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)で,発症頻度は,新生男児3,500 人に1 人である.DMD は2~5 歳ごろから歩行障害により発症して筋力低下が進行し,多くが30 歳以前に心不全,呼吸障害などにより死亡する.DMD では骨格筋や心筋細胞の細胞膜の直下に発現する細胞骨格蛋白質であるジストロフィン(dystrophin)が欠損するため,膜が脆弱となり,筋変性・壊死が進行する.有効な治療法がないなか,induced pluripotentstem(iPS)細胞のDMD 再生医療への応用が期待されている.しかし,iPS 細胞をDMD の再生医療に応用するためには,骨格筋幹・前駆細胞誘導法と純化法の確立が大きな課題である.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1445-1450 (2011);
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ステロイドホルモンはおもに生殖腺(精巣と卵巣)と副腎においてコレステロールから合成され,生体の恒常性の維持にたいへん重要な役割を果たしている.このため,ステロイドホルモンを欠損する疾患は重篤な症状となり,死に至る可能性がある.現在,このような疾患においてはステロイドホルモンを補充する治療(補充療法)が行われている.しかし,頻繁な投与を必要とするうえに,副作用もあることから,他臓器と同様に再生医療がこれに代わる新しい治療法として注目されている.幹細胞からのステロイドホルモン産生細胞の分化誘導法を確立することは,副腎や生殖腺の再生を実現するために必要不可欠である.本稿では,著者らのステロイドホルモン産生細胞の分化誘導に関する研究成果について,とくに万能細胞からの分化誘導法に焦点を当てて概説する.
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安全性と品質管理
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医学のあゆみ 239巻14号, 1453-1459 (2011);
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iPS 細胞をはじめとする細胞を利用した再生医療を臨床応用する際,安全性を担保するための基本は適切な原材料の選定である.しかし,生物由来原料の遵守すべき関連法令や通知を探し出すことは容易ではない.本稿では,これら関連するガイドラインをまとめ,その内容を紹介するとともに,再生医療に応用する際の問題点を示す.具体的には,ウシ由来原料使用の適切性,ヒト由来原料で代替する場合の配慮すべき事項,iPS 細胞バンクを作製する場合にドナースクリーニングのウイルス試験よりもセルバンクのウイルス試験のほうが高額になることなどを概説する.ガイドラインの目的は再生医療によって患者が救われる機会を提供することであり,ガイドラインの遵守が主目的となってはならない.細胞を利用した再生医療に適したガイドラインの整備に向けた議論のきっかけを提示したい.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1460-1465 (2011);
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ヒト胚性幹細胞(ES 細胞)やヒト人工多能性幹細胞(iPS 細胞)などの,いわゆるヒト多能性幹細胞を原材料として細胞・組織加工製品を製造し,再生医療・細胞治療へ応用しようとする試みが,現在,国内外で非常に活発に進んでいる.ヒト多能性幹細胞は動物体内に移植された際に腫瘍を形成する能力,いわゆる“造腫瘍性”を元来の特性として保持しており,ヒト多能性幹細胞を原材料とした医薬品・医療機器においては,未分化細胞の混入・残留による異所性組織形成や,腫瘍形成や癌化を防止すること,すなわち最終製品の造腫瘍性の評価と管理が重要な課題となる.しかし,患者に投与する動物またはヒト由来の生細胞を対象にした造腫瘍性試験のガイドラインはいまのところ存在しない.本稿ではヒト多能性幹細胞加工製品の開発が精力的に進むなかで,その造腫瘍性の評価法の現状と課題について概説する.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1466-1473 (2011);
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わが国発の技術開発であるiPS 細胞を素材とした製品の再生医療における実用化が待望されている.わが国では業としての実用化・普遍化へのゴールゲートは薬事承認である.ゴールに向けての必要な要件を開発早期から示すことは,医学研究者や企業が研究・開発を合理的,効率的,効果的に進め,より迅速に実用化するために必須である.また,規制側としても,近い将来に予想される製品の評価を円滑に進めるための準備を早期に行う必要がある.さらに,国際競争面でも研究・技術開発のみならずガイドライン策定において先行することは,国際的優位性を保持するうえでも不可欠な要素である.最近,厚生労働科学研究班により,自己および同種由来のヒトiPS(様)細胞加工医薬品等の品質および安全性の確保に関する2 つの指針案が作成された.指針案作成の背景および内容について概説する.めざすは患者益・国民益に資し,実用化の水先案内,牽引力・推進力としての役割である.
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医学のあゆみ 239巻14号, 1474-1479 (2011);
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iPS 細胞は胚性幹(ES)細胞と並んで今後の再生医療の細胞ソースとして注目され,期待も高まっている.体細胞から作製するiPS 細胞は,その細胞の取得から作製,細胞の選択,目的細胞への分化誘導と,移植するまでに多くの過程を経る.その各過程で細胞の状態を把握し,移植に適切な分化段階を判断し,有効性・安全性をどのように担保していくかが重要となる.現段階では,そのための指標が十分提示されているとはいえない.細胞表面を覆う糖鎖は細胞の“今”を反映しており,多くの幹細胞のマーカーともなっている.したがって,iPS 細胞の糖鎖情報もマーカーとしての役割を果たすことが期待でき,移植に用いる細胞の品質管理指標となりうる.iPS 細胞を用いた再生医療の加速化に向けて,糖鎖情報を得るための新しい技術開発も進み,機能分子としてのあらたな展開をみせつつある糖鎖とのかかわりについて概説する.
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行政・社会環境
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医学のあゆみ 239巻14号, 1483-1490 (2011);
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2006 年にわが国から報告された人工多能性幹(iPS)細胞は,体細胞核の状態制御により多能性幹細胞を自在に提供しうる画期的技術との評価を受けている.この成果は幹細胞の医療応用の可能性を大きく拡大すると同時に,ヒトにおける細胞運命の可塑性をも実証した.iPS 細胞は世界に大きなインパクトを与え,この分野を基礎医学として深化させ,また臨床応用をはかっていくためのあらたな政策が日米欧でつぎつぎと生まれた.本稿では,ELS(I 倫理的・法的・社会的課題群)の観点から,iPS 細胞と政策について,日本とアメリカ,イギリスを巨視的に比較分析した.また,政策群のパッケージ化を踏まえた今後の幹細胞政策のあり方を考察する.