Volume 240,
Issue 1,
2012
-
【1月第1土曜特集】 肺高血圧症診療の進歩
-
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 1-1 (2012);
View Description
Hide Description
-
総論
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 5-12 (2012);
View Description
Hide Description
2009 年に『European Heart Journal』誌に掲載されたヨーロッパ心臓病学会,呼吸器病学会の肺高血圧症ガイドラインの総論の部を概説した.重要事項と思われる事項を記載し,重要な図および表のうち,こみいったものは日本語に翻訳してみた.各疾患に関する各論は本文を参照いただきたい.今回の内容は2008 年にアメリカのダナポイントで開催された肺高血圧症の世界会議で行われた議論がまとめられている.現在までに集積された肺高血圧症に関して有用な知見がほぼ網羅されており,肺高血圧症を診療テリトリーに入れているすべての医師のバイブルといってよいであろう.
-
病因・病態
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 15-23 (2012);
View Description
Hide Description
肺動脈性肺高血圧症は,異なる疾患にともなって起こる多様な肺高血圧症を含んでいる.末梢肺動脈病変の程度や組合せ,分布の違いがそれらの臨床像の差異を説明し,機序解明へとつながることが期待されることから,系統だった包括的な病理組織学的評価の蓄積が重要である.肺動脈性肺高血圧症の病変の首座は外径500μm以下の筋性動脈から細動脈であり,内腔を閉塞している収縮性病変(中膜肥厚,内膜肥厚)と複合病変(叢状病変,拡張性病変,血管炎)が組み合わさって出現する.血管拡張薬への反応が肺動脈性肺高血圧症と異なる肺静脈閉塞性疾患では,肺細静脈と隔壁内肺静脈が閉塞するため,周囲の毛細血管の著明なうっ血,間質の浮腫,リンパ管拡張,ヘモジデリン貪食マクロファージを伴う.慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症は肺葉動脈から亜区域動脈までの閉塞が多く,閉塞部位では血栓塞栓の器質化および再疎通像がみられる.まれに1,000μm 以下の末梢枝のみに病変が限局した臨床的に,特発性肺動脈性肺高血圧症と鑑別困難な症例がある.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 24-30 (2012);
View Description
Hide Description
肺動脈性肺高血圧症は,過収縮と炎症・増殖・アポトーシスといった血管リモデリングにより肺小動脈が高度に狭窄し,肺動脈圧が上昇する疾患群である.上昇した肺動脈圧と肺血管抵抗は右心系に対する後負荷を増大させ,右心不全を引き起こし,やがて患者は死に至る.肺高血圧症に対してこれまで数多くの治療薬の開発が行われたが,いまだその予後は不良である.したがって,その分子病態の解明に基づいた治療法の開発が急務である.これまでモノクロタリン誘発性肺高血圧症動物モデルを中心とした数多くのモデルを用い,肺高血圧症の病態解明の研究がなされてきた.しかし,これら従来の動物モデルには,末期のヒト肺動脈性肺高血圧症に特徴的な新生内膜やplexiform lesion といった病理組織学的所見を認めない.著者は南アラバマ大学在学中に,ヒト肺動脈性肺高血圧症に類似した血行動態と組織像をもつ,世界ではじめての動物モデルを報告した.今後,このモデルを用いた研究成果が,肺動脈性肺高血圧症の病態解明とあらたな治療の開発につながることを期待したい.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 31-35 (2012);
View Description
Hide Description
遺伝性肺高血圧症の原因遺伝子としてBMPR2,ACVRL1(ALK1),Endoglin などが知られている.これらの遺伝子変異は,明らかな家族歴のない特発性肺高血圧症患者においても10~40%に認められる.遺伝子変異が陽性の肺高血圧症患者は,その遺伝子の種類により発症年齢や予後が異なることが近年報告されるようになった.現状では遺伝子変異に特異的な治療薬は存在しないが,今後は遺伝子変異に応じた分子標的薬の開発が期待される.また,原因遺伝子の多くは細胞増殖抑制に関与する分子であり,進行した肺高血圧症をquasi-neoplastic(疑似腫瘍)ととらえる見方もある.本稿では,肺高血圧症と遺伝子異常に関して解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 36-40 (2012);
View Description
Hide Description
肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態の主体である肺動脈内腔の狭窄には3 つの要因がある.1 つは血管拡張因子と血管収縮因子のアンバランスなどによる血管収縮で,内皮細胞の機能障害により生じる.平滑筋細胞のNO に対する反応も減弱している.2 つ目は血管リモデリングで,血管内皮細胞および平滑筋細胞などの過剰増殖とアポトーシス抵抗性による.3 つ目は病変部での血栓形成である.以上の結果,肺血管抵抗が上昇し,肺動脈圧の上昇や右心不全を引き起こす.
-
肺高血圧症の診断法
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 43-47 (2012);
View Description
Hide Description
心カテーテル法を用いなくても,非侵襲的に肺血行動態および右心機能をある程度正確に評価することは可能である.かつては肺高血圧の程度をドプラ法で推定するだけでも臨床には有意義であったが,肺動脈性肺高血圧に対してエンドセリン拮抗薬,PDE5 阻害薬が使用可能となり,慢性血栓塞栓症性肺高血圧症に対して経皮的血管拡張術が行われる時代においては,心エコー法においても定量的な評価が求められている.右室や右房の大きさ以外にも,三尖弁輪収縮期移動距離(tricuspid annular plane systolic excursion:TAPSE)や肺血管抵抗,右室ストレインなどのパラメータの理解が肺血行動態の把握に有用である.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 48-52 (2012);
View Description
Hide Description
肺高血圧症の画像診断として,CT,MRI,核医学検査が重要な位置を占めている.日本においてはマルチスライスCT が広く普及し,非侵襲的な精密検査として,これらのなかで第1 に実施されることが多い.CT により肺実質の状態を詳細に知ることができる.また,造影を行うことで心内腔や血管内の状態を知ることができ,血栓塞栓症に対して非常に高い診断能を有する.近年のCT 技術の進歩によりヨード量を画像化できるようになってきている.この方法を用いれば,核医学の独壇場であった肺の灌流状態をCT で診断することができる.CT のデメリットのひとつとして放射線被曝があげられる.あらたな画像再構成法は被曝の低減が期待されている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 53-58 (2012);
View Description
Hide Description
肺高血圧診療において,右心カテーテル検査は不可欠なものである.おもに血行動態の評価,肺動脈造影による解剖学的評価,肺血管反応性試験による血管反応性の評価を行い,診断,病態把握,治療効果の判定などに用いる.近年,心臓カテーテル検査に代わる非侵襲的肺高血圧診断法が模索されているが,いまだに心臓カテーテル検査を凌駕するものにはなっていない.侵襲的ではあるが,その結果が診療に大きな影響を与える右心カテーテル検査は,安全性に留意して行わなければならず,データの取得や解釈は慎重に行わなければならない.肺血管反応性試験は肺動脈性肺高血圧症患者の初回カテーテル検査時に行うことが推奨されている負荷試験であり,初期治療法選択の判断材料となる.陽性例ではカルシウム拮抗薬の大量療法が考慮される.肺動脈造影は肺血管病変の解剖学的把握に有用である.目的に応じて標準的肺動脈造影,選択的肺動脈造影,肺動脈ウェッジ造影が行われるが,とくに標準的肺動脈造影は,慢性血栓塞栓性肺高血圧症の根治的治療である肺動脈血栓内膜除去術の適応決定や手技の検討のために重要な検査である.
-
肺高血圧症各論(疾患の解説と内科治療)
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 61-68 (2012);
View Description
Hide Description
肺高血圧症は予後不良なまれな疾患とされてきたが,病態解明と治療薬の開発が進み,今世紀に入って,もっともめざましく治療が進歩しつつある疾患のひとつとして全世界的に注目されている.同時に他の疾患や病態に二次的に肺高血圧症が合併することもよく知られるようになり,循環器領域のみならず多くの分野の医師や研究者が関心をよせている分野である.特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)は欧米のregistry を中心に予後の追跡が行われているが,PAH 治療薬の臨床使用がはじまって以降,多くの臨床研究で長期予後の改善が報告されている.内服薬を中心に治療薬の選択が増えた現在,これまで単剤では十分に改善効果を得られなかった重症例に対しても,薬剤を併用することで肺移植を回避し,内科的治療で病勢を安定した状態に保てることが期待される.とくに内服薬のみの併用療法はいまだエビデンスの蓄積途上であるが,病勢がコントロールできれば患者にとっても大きなメリットがあると考えられ,今後の発展が期待される治療法である.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 69-75 (2012);
View Description
Hide Description
先天性心疾患のうち体循環と肺循環との間の短絡性疾患に起因して発症する肺高血圧症は,適切な時期の心・大血管系の修復術により根治あるいは予防可能な肺高血圧症である.しかし,未治療あるいは根治不能な状態で肺高血圧が残存している場合は,体循環から肺循環の方向への短絡(左右短絡)に伴う肺血流が増加している状態から,進行した肺血管閉塞性病変により肺血管抵抗が体血管抵抗を凌駕し,両方向性あるいは右左短絡を呈するEisenmenger 症候群まで,幅広い血行動態の疾患群を内包している.肺血管閉塞性病変の進行の程度と肺血管抵抗が,心疾患の根治が可能かどうかを判断する際に重要である.根治が困難で内科的治療が主体となる場合は,他の肺高血圧症と同様に肺血管拡張薬が治療の中心となる.近年の肺血管拡張薬の著しい発展は,本疾患群に対しても治療法の選択の幅を広げ全身状態の改善に寄与しているが,短絡病変のない肺高血圧症に比べると大規模な検討は少なく,患者一人ひとりの病態に合わせた治療法の選択が求められる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 77-82 (2012);
View Description
Hide Description
肺高血圧症は結合組織病(CTD)に残された難治性病態のひとつで,1990 年代には3 年生存率20%以下ときわめて予後不良であった.近年,CTD 関連肺高血圧症の70%近くを占める肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対して肺血管拡張作用を有する分子標的薬が臨床に導入され,診療体系が変貌しつつある.PAH 治療薬の使用により3 年までの生命予後は改善したが,5 年以降の長期予後はいまだ不良である.そのため,CTD 関連PAHの特殊性を念頭におき,診療体系の最適化が必要である.まずCTD,とくに強皮症と混合性結合組織病(MCTD)はPAH 高リスク集団であることから,定期的なスクリーニングにより早期発見に努める.また,進行が早く,反応性不良な例も多いことから,早期から積極的にPAH 治療薬を併用していく必要がある.さらにMCTD,全身性エリテマトーデス(SLE)で疾患活動性を有し進行性の場合には,ステロイドを含めた免疫抑制療法がすくなくとも短期的効果を示す場合が多いことから,免疫抑制療法をPAH 治療薬に組み合わせる.これらの取組みによりCTD 関連PAH のさらなる生命予後の改善が望まれる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 84-89 (2012);
View Description
Hide Description
左心系疾患に伴う肺高血圧症はダナポイント分類2008 年によればグループ2(PH due to left heart disease)に分類される.グループ2 は後毛細管性肺高血圧(Post-capillary PH)ともよばれ,平均肺動脈圧≧25mmHg,かつ肺動脈楔入圧>15 mmHg,かつ心拍出量正常または減少と定義される.グループ2 はその成因より,収縮不全(左室収縮機能の低下に基づく心不全),拡張不全(左室拡張機能の低下に基づく心不全),弁膜症の3 種のカテゴリーに分類されている1).左心系疾患に肺高血圧を合併する頻度は高く,左心不全の60~70%近くに肺高血圧を合併するとの報告もある2).左心疾患に伴う肺高血圧の機序については,上昇した肺静脈圧が肺毛細血管を介して肺動脈系へ伝播されることによって引き起こされるとされている(passive).ただし,この状態が持続すると肺動脈の反射性の収縮が起こり,肺動脈圧は上昇し,さらには細動脈レベルでの解剖学的変化(リモデリング)も生じ,肺高血圧は進行する(reactive).この状態はout of proportion とよばれている3).慢性心不全に肺高血圧を合併した場合の予後は不良であり4),肺高血圧を合併しない場合の28 カ月死亡率は17%であるのに対して,合併した場合は57%と高率であるとする報告もある
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 90-94 (2012);
View Description
Hide Description
これまで呼吸器疾患に伴う肺高血圧症として,COPD を代表とする閉塞性肺疾患,肺線維症や結核後遺症などの拘束性肺疾患があげられていたが,2008 年2 月にアメリカ・ダナポイントで開催された第4 回肺高血圧症ワールドシンポジウムでの討議を経て,あらたに拘束性および閉塞性の混合型パターンをとる呼吸器疾患が追加された.この新しいサブグループには気管支拡張症,嚢胞性肺線維症に加えて,上肺野優位の肺気腫に下肺野優位の肺線維症を合併した症例(CPFE)が含まれる.CPFE は予後が悪く,予後不良因子として約半数に肺高血圧症(PH)が関与していると報告されている.また,COPD 患者において肺の機能的障害が軽度~中等度であるにもかかわらず顕著な呼吸困難と肺動脈圧の上昇を示す“out of proportion”な予後不良である一群の存在が認識されつつある.従来,呼吸器疾患に合併するPH は比較的軽度であることより,酸素療法以外の特異的治療法は行われてこなかった.しかし,肺動脈性肺高血圧症で用いられる肺血管拡張薬が適応となる可能性も考えられ,前向きに検討すべきである.シルデナフィルの有用性を示唆する報告もあり,さらなるデータの集積は今後の重要な課題である.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 95-101 (2012);
View Description
Hide Description
小児期に発症する肺動脈性肺高血圧症(PAH)は成人とは大きく分布が異なり,特発性/遺伝性(IPAH/HPAH)および先天性心疾患(CHD)に合併するPAH が大半を占める.PAH の病態解明や治療の進歩により,従来著しく不良であったPAH の予後は改善されつつある.とくにエポプロステノール持続静注療法が臨床使用された1990 年後半以降は劇的に改善されている.最近は,薬物治療の目標は急性反応に加えて,肺血管病変の進展や異常な肺血管リモデリングを抑制,血管内皮機能を回復させることに主眼がおかれ,プロスタサクリン(PGI2)やエンドセリン(ET),一酸化窒素(NO)を標的とした3 系統の薬剤が主流となった.小児PAH におけるエビデンスはかならずしも十分ではないが,成人を対象とした治療アルゴリズムを改変して小児へ応用可能である.特殊な病態であるが,新生児遷延性肺高血圧症(PPTN)は新生児診療において重要な疾患である.ダナポイント分類では第1 グループ(PAH)に分類されるが,横隔膜ヘルニアや気管支肺異形成を合併した症例では,病態が第3 グループ(呼吸器疾患に伴うPH)とオーバーラップする.PPHN は出生後の肺血管抵抗低下が障害され,肺高血圧が持続し,動脈管や卵円孔を介して右左短絡が生じて低酸素血症をきたす病態で,NO 吸入療法がわが国でも2010 年から保険適応となった.いまだ死亡率は10~20%と高いが,急性期を過ぎれば肺高血圧は劇的に改善し肺動脈圧は正常化する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 102-107 (2012);
View Description
Hide Description
肺高血圧症は心疾患や呼吸器疾患,結合組織病などのきわめて多彩な疾患に併発することが知られている.最新の臨床分類(Dana Point 分類)では病因・病態が類似していると考えられる症例を5 つの群に分類しているが,第5 群にはいまだ因果関係が明確でない多様な疾患も数多く含まれている.肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態は肺動脈構成細胞の異常増殖を伴う血管リモデリングにより形成され,その発症・進展には“multiplehitstheory”といった概念が提唱されている.さまざまな遺伝的・環境的因子とのかかわりでPAH が発症・進展することが知られているが,近年,その過程に“炎症”というプロセスも大きくかかわっていることが指摘されている.第1 群にはHIV 感染に関連するPAH が含まれているが,他にもウイルス感染により引き起こされた“炎症”が,PAH 発症に関与している可能性を示唆する症例があいついで報告されている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 108-114 (2012);
View Description
Hide Description
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし,肺高血圧症を合併するものであり,厚生労働省の治療給付対象疾患に認定されている.従来,肺高血圧症の重症例では内科的治療には限界があり,予後不良とされてきたが,手術(肺血栓内膜摘除術)によりQOL や生命予後の改善が得られる症例が存在するため,その正確な診断が重要である.労作時の息切れを呈する患者をみた場合,本症を疑うことが重要であり,COPD や喘息として加療されている患者のなかに本症が隠れている可能性を考慮する必要がある.心エコーで肺高血圧症のスクリーニングを行う.肺動脈性肺高血圧症との鑑別には肺換気・血流スキャンが有用で,本症では換気に異常を認めない区域性の血流欠損を呈する.確定診断は造影CTあるいは肺動脈造影で,慢性血栓に特徴的とされる所見を呈すること,右心カテーテル検査で肺動脈楔入圧正常な肺高血圧症(平均肺動脈圧25 mmHg 以上)を確認することによる.治療としては厳密な抗凝固療法が必要である.また,手術的にアプローチ可能な区域枝までの血栓を有し,中枢血栓にみあった肺血管抵抗値を示す例では肺血栓内膜摘除術が第一選択となる.末梢血栓例,高齢,合併症などで非手術適応となる患者では在宅酸素療法,右心不全対策に加えて肺血管拡張療法が用いられる.有効性の報告はみられるが,その意義は確立しておらず,現在臨床試験が進行中である.カテーテル治療の有効例の報告もみられ,治療の選択肢が広がってきている.
-
PH疾患における非内科的治療
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 117-122 (2012);
View Description
Hide Description
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,器質化血栓により肺動脈が慢性的に狭窄・閉塞して肺血管のリモデリングが進行した結果,肺高血圧を発症し右心不全に至る疾患である.予後は1 年生存率82%,3 年生存率70%と不良であるが,発症機序や疫学などに不明な点も多い.治療は,区域枝より近位部に病変の首座がある中枢型の症例は肺動脈血栓内膜摘除術により根治が望める.一方で末梢優位の病変を有する例では手術のリスクが高く,効果も乏しい.CTEPH に対する内科的治療の効果は限定的であることから,当院(国立病院機構岡山医療センター)では,手術非適応とされたCTEPH の症例に対して2004 年から経皮的肺動脈バルーン拡張術(BPA)を行い,血行動態,運動耐用能の有意な改善を得るに至る.本稿ではCTEPH に対するBPA の現状と今後の展望について,文献的考察を交えて報告する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻1号, 123-128 (2012);
View Description
Hide Description
慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は他の原因の肺高血圧(PH)と異なり,最近のPH 治療薬の効果が顕著ではなく,いまだに外科的内膜摘除術(PEA)が唯一根本的治療であることに変わりはない.しかし,肺動脈の主病変が末梢側に存在する“末梢型”の場合にはPEA にも限界があり,積極的な対象とならない.また,病因がひとつとは限らず,“中枢型”といえども背景に末梢側病変が隠されていることがあり,注意を要する.したがって,PEA の技術的な問題もさることながら,その適応の判断がきわめて重要となる.最近では手技の習熟,経験や知識の蓄積などによるPEA 自体の手技的な改善に加え,術前・術中・術後管理の工夫・進歩により,末梢病変主体例,重症PH 例,心機能低下例などの重症例あるいはPEA 困難例においても,安定した成績が得られるようになってきている.今後は前稿の“血管内治療”との棲み分けあるいは併施により,さらなる治療成績の向上が期待できるものと考える.