医学のあゆみ
Volume 240, Issue 2, 2012
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あゆみ 褐色細胞腫の診断と治療―最近の進歩と今後の展開
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褐色細胞腫の診断基準
240巻2号(2012);View Description Hide Description褐色細胞腫には副腎性と副腎外腫瘍(パラガングリオーマ)がある.褐色細胞腫は良性であることの確実な診断方法がないことから,その診断基準は良性と悪性ではなく,“褐色細胞腫の診断基準”と“悪性褐色細胞腫の診断基準”から構成されている.褐色細胞腫は“副腎髄質または傍神経節組織由来を示唆する腫瘍の存在”に加えて“褐色細胞腫を示唆する病理所見”,“カテコールアミン過剰を示唆する所見”,“褐色細胞腫を示唆する画像所見”により診断する.悪性褐色細胞腫の診断は褐色細胞腫の診断基準を満たしたうえで,“副腎外腫瘍(非クローム親和性組織由来)の存在”と,その腫瘍が“褐色細胞腫を示唆する病理所見”または“褐色細胞腫を示唆する画像所見”を示すことにより診断する.発作性の高血圧を認める“偽性褐色細胞腫”の除外診断に配慮する必要がある. -
褐色細胞腫の診療指針
240巻2号(2012);View Description Hide Description褐色細胞腫は原発性アルドステロン症,Cushing 症候群とともに治癒可能な内分泌性高血圧の代表的疾患である.その機能・画像診断法,内科的・外科的治療はほぼ確立されているが,他と比較して大きく異なる点は悪性例が多いことである.平成21 年度の褐色細胞腫全国疫学調査では褐色細胞腫の推計患者数は2,920 例で,その11%の320 例が悪性であった.しかも初回診断時に良性か悪性かを鑑別するのはきわめて困難であり,しかも“悪性”と診断されてもその治療法は未確立である.このような背景から,①診断・治療法の現状の総括,②現時点での標準的診療の普及による水準向上,③診断・治療法確立の必要性の啓発を目的として“褐色細胞腫診療指針2010”1)が作成された.本稿では,“褐色細胞腫診療指針2010”の診療アルゴリズムをもとに概説を行う. -
褐色細胞腫の機能診断
240巻2号(2012);View Description Hide Description褐色細胞腫は,副腎髄質または副腎外傍神経節腫瘍のクロム親和性細胞に由来するカテコールアミンを産生する神経内分泌腫瘍である.病型は副腎褐色細胞腫と副腎外褐色細胞腫(パラガングリオーマ)に分けられ,局所浸潤や遠隔転移によりクロム親和性細胞以外に発生した時点で悪性褐色細胞腫と診断される.臨床症状では頭痛,発汗,動悸,高血圧などが多いが,これらを認めずに副腎偶発腫瘍として発見される例も増えている.生化学的診断としては,尿中メタネフリン,ノルメタネフリン排泄が診断に有用であり,カテコールアミン分泌誘発または抑制試験などの必要性は少ない.血中遊離メタネフリン,ノルメタネフリン濃度は高感度であり,欧米では広く用いられているが,日本では保険適応はなく,今後普及することが期待される.褐色細胞腫は手術を行っても再発例があり,一生涯経過観察が必要である. -
褐色細胞腫の核医学画像診断
240巻2号(2012);View Description Hide Description神経内分泌腫瘍の範疇に入る褐色細胞腫・傍神経節腫は,neuronal uptake-1 によるノルエピネフリンの細胞内摂取を有する.体内でノルエピネフリンと類似挙動を示すmeta-iodobenzylguanidine(MIBG)はおもにuptake-1 で腫瘍細胞内に取り込まれるため,褐色細胞腫診断における特異性が高い.しかし,検出感度においては限界を有する.MIBG シンチグラフィを利用するにあたっては留意すべき事柄が多々あるものの,臨床医には十分知られていないようである.たとえば,131I-MIBG と123I-MIBG の選択,投与量,撮像時間,撮像方法などである.本稿ではMIBG シンチグラフィと,悪性褐色細胞腫にも保険適用となっている18F-FDGPET にフォーカスを絞って,臨床の方々が疑問に感じておられると考えられる点に関して記述する. -
褐色細胞腫クリーゼ
240巻2号(2012);View Description Hide Description褐色細胞腫はまれな疾患であり,症状も非特異的で多彩であるため,疑わなければ診断が困難な疾患である.褐色細胞腫クリーゼは腹部圧迫,妊娠,各種薬剤(ドパミンD2受容体拮抗薬やβ遮断薬単独使用など),手術などにより,腫瘍から高濃度のカテコールアミンが放出され,全身のアドレナリン受容体に作用することで生じる.褐色細胞腫クリーゼはショックや肺水腫を呈して死に至ることもある病態であり,速やかにα遮断薬などによる治療を行う必要がある.また,臨床的に褐色細胞腫が疑われる患者に対してクリーゼを誘発しうる処置を行う際は,αおよびβ遮断薬による適切な前処置およびクリーゼ対策を行うことが重要である -
悪性褐色細胞腫の診断
240巻2号(2012);View Description Hide Description現在でも悪性褐色細胞腫の病理診断は困難で,非クロマフィン組織への遠隔転移の証明が悪性診断の唯一の要件となる.この事実は2009 年に実施された厚労省難治性疾患研究班による実態調査で,悪性褐色細胞腫患者中,当初良性と診断された例が約40%存在することから再確認された.また,悪性褐色細胞腫に対する有効な化学療法,内照射療法は確立されておらず,手術が唯一の根治治療となることから,悪性の早期診断法や将来の再発・転移を予知する優れたマーカーの同定が期待されている.本稿では,悪性褐色細胞腫の診断の現状と,あらたな取組みについて概説する. -
悪性褐色細胞腫の病理組織診断―SDHB免疫染色の意義
240巻2号(2012);View Description Hide Description褐色細胞腫は副腎髄質や副腎外の傍神経節から生じるカテコールアミン産生腫瘍であり,広義にはパラガングリオーマとよばれる.褐色細胞腫の10~20%は転移して予後が悪く,予後を予測させる病理診断が求められている.最近10 年間ほどで,新しい家族性褐色細胞腫である遺伝性褐色細胞腫-パラガングリオーマ症候群(HPPS)の全貌が明らかになりつつある.HPPS の原因遺伝子はコハク酸脱水素酵素(SDH)複合体サブユニットB,C,D であり,なかでもSDHB が関与するHPPS は副腎外の腹部パラガングリオーマの患者に多く発見されており,腫瘍の増殖が激しく,高率に転移すると報告されている.SDHB の免疫染色はSDHB変異例だけでなく,SDHC,SDHD の変異例の腫瘍も認識する.したがって,SDHB 免疫染色はHPPS 患者のスクリーニングとして有効であり,また,悪性褐色細胞腫のマーカーのひとつとしても有用である. -
悪性褐色細胞腫の治療―化学療法,放射線療法,対症療法など
240巻2号(2012);View Description Hide Description悪性褐色細胞腫を“根治させる”治療はいまだ存在しない.再発・転移を有する症例の治療目標は,カテコールアミン過剰症状を抑えて循環動態を安定させ,通常の社会生活をすごす期間を延ばすこと,死因となる心不全発症を遅らせることである.多発転移を有する悪性例でも,手術による腫瘍容積の減少は高カテコールアミン血症改善に一定期間有効で,ADL の改善がはかれる.手術困難例では,直接的治療である化学療法(CVD 治療),131I-MIBG 治療を考慮する.近年,海外ではチロシンキナーゼ阻害薬などの分子標的薬による治療が試行されているが,効果は未確定である.対症療法として骨転移には骨折予防,疼痛緩和のため放射線外照射を併用する.重症の慢性便秘には非選択的α受容体遮断薬を用いるが,わが国で使用できる非選択的α受容体遮断薬は静脈投与製剤であるフェントラミンのみである. -
褐色細胞腫の遺伝子診断
240巻2号(2012);View Description Hide Description褐色細胞腫は,内分泌疾患のなかでもその進歩がもっとも著しく,今世紀になってまったく概念が変わってしまった疾患といってもよい.そのおもな理由は遺伝的なバックグランドが急速に明らかにされた点に尽きる.すなわち,以下の3 点に集約される.①新しい原因遺伝子SDHB およびSDHD の発見,②臨床的に散発性でも潜在的に遺伝性である可能性があること,③悪性化と関係する遺伝子(SDHB)が判明したこと.さらに最近,2~3 年間でもSDHA,SDHAF2,TMEM127,MAX と4 つの原因遺伝子が同定されており,おもなものでも計10 種類の多数の遺伝子が同定されている.褐色細胞腫は10%病ともよばれるが,ことに“遺伝性の頻度”に関しては,この有名な法則はすでに実情に即してないことは明らかである.今後,遺伝子診断が褐色細胞腫の診断のみならず治療方針決定にも重要になる時代が遠からずやってくるはずである(個別化医療).ところで,遺伝的な原因で引き起こされる褐色細胞腫・パラガングリオーマを,遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオーマ症候群(hereditary pheochromocytoma/paraganglioma syndrome:HPPS)とよぶことがある.本稿では,その臨床的な重要性に鑑みて,SDHB,SDHD 変異による“HPPS”に重点をおいて紹介する.
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注目の領域
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WHIホルモン療法試験― エストロゲン/プロゲスチン併用療法介入中止後の長期追跡調査から得られた乳癌リスクに関するエビデンス
240巻2号(2012);View Description Hide DescriptionWomen’s Health Initiative(WHI)エストロゲン/プロゲスチン併用ホルモン療法(EPT)試験は,閉経後の女性での心疾患リスクと骨折リスクの低減(有効性),および乳癌への影響(安全性)を評価するためにプラセボを対照として実施された最大規模の二重盲検無作為化長期試験であった.乳癌および心血管系のリスクにより2002 年に試験介入が中止されたが,これらのリスクが介入中止後は低下するのか,あるいは高いまま持続して重大な転帰を伴うのかは未解決の問題であった.今回,EPT の乳癌リスクについて,WHI EPT 試験での約11 年間(介入中止後の追跡を含む)にわたる長期追跡調査の結果が報告された.その概要はEPT 介入中にみられた乳癌発生のリスクが介入中止後も高いまま持続し,さらに乳癌死のリスクも上昇するというEPT の安全性にふたたび問題を提起するものであった.
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フォーラム
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TOPICS
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- 腎臓内科学
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- 免疫学
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- 神経精神医学
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