医学のあゆみ
Volume 240, Issue 12, 2012
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あゆみ 高血圧診療のNew Technology―腎交感神経アブレーションを中心に
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交感神経が高血圧をもたらすしくみ
240巻12号(2012);View Description Hide Description本態性高血圧の病態の本質は,中枢神経系による末梢交感神経活動の亢進にあると考えている.本態性高血圧のうち食塩感受性のタイプでは,高Na 血症・高血漿浸透圧という情報を脳弓下器官や視床下部の終末板というニューロン(神経細胞)が感知して,室傍核を興奮させ,延髄の交感神経中枢(RVLM)の神経細胞を興奮させる.これにより心臓,血管,腎など末梢への遠心性交感神経活動が亢進して血圧が上昇する.一方,レニン-アンジオテンシン系が亢進するタイプでは,アンジオテンシンⅡ(AngⅡ)血漿濃度の上昇を脳弓下器官のニューロンが感知し,室傍核が興奮して血圧が上昇する.また,AngⅡがRVLM ニューロンを刺激して血圧を亢進させている可能性もある.腎神経をアブレーションすることにより本態性高血圧患者の血圧を低下させたという報告から,腎からの求心性神経とともに,交感神経調節における中枢神経系の重要性が再認識される. -
腎に入る信号と腎から出る信号
240巻12号(2012);View Description Hide Description高血圧や心不全,慢性腎臓病には交感神経活性の亢進を伴うことが多いことから,これら疾患の発症・進展に交感神経が重要な役割を果たしているとして注目されている.一方で最近,治療抵抗性高血圧患者への腎交感神経のアブレーションの有効性が示された.アブレーション術は腎動脈内に挿入した高周波カテーテルによって腎動脈外膜を取り囲んでいる腎神経を焼灼することであるが,腎神経には遠心性線維と求心性線維が含まれており,アブレーション術は両神経線維の機能を喪失することを意味する.興味深いことは腎交感神経のアブレーションによって,降圧効果とともに全身の交感神経活性の亢進が減弱されることである.しかし,腎交感神経が全身の交感神経活性の亢進にどのようにかかわっているのか,また交感神経活性の亢進が高血圧や心不全,慢性腎臓病にどのようにかかわっているのか,すべて解明されているとはいえない.そこで本稿では,腎に入る信号(遠心路)がどのように腎を支配しているか,またどのように腎から信号(求心路)が出ていくのかについて概説する. -
腎交感神経アブレーションの降圧効果
240巻12号(2012);View Description Hide Description最近,腎動脈を介するカテーテルによって腎交感神経系を焼灼除神経する新しい治療法が開発され,治療抵抗性高血圧を対象とする臨床治験において2 年後も血圧が著明に低下しつづけることが報告された.今後,腎交感神経系の役割が基礎的にもさらに明らかにされ,カテーテル治療の臨床応用が軽症の本態性高血圧症にも適応拡大されれば,高血圧を根治しうる時代が到来すると期待される.安全性が確認されれば,心不全や腎不全に対する臓器保護効果など降圧以外への適応にも期待が膨らむ. -
腎交感神経アブレーションに期待される降圧以外の有益作用
240巻12号(2012);View Description Hide Description腎交感神経アブレーション法の開発によって,難治性高血圧症に対するあらたな降圧手段が確立された.腎交感神経は中枢に情報を送り,これに応じて中枢は全身の交感神経を興奮させることから,腎交感神経の過剰な興奮は,血圧上昇のみならずインスリン感受性の低下や心肥大,心不全の悪化,不整脈悪化など,さまざまな代謝内分泌学的障害や心血管障害を引き起こす.すなわち,腎交感神経アブレーションは降圧以外にもさまざまな病態を改善させる作用を有しており,今後の適用疾患の拡大も期待されている. -
デバイスに基づく高血圧治療―デバイス治療がもたらす交感神経系・血圧の変化
240巻12号(2012);View Description Hide Description高血圧症は,成人の約半数が発症する人類最大の疾患である1).高血圧症の原因は多岐にわたるが,降圧を得ることで心血管イベントの発症を抑制できる2).過去,数十年にわたって降圧薬の開発が進められ,高血圧治療は充足したかのように思えた.しかし,服薬コンプライアンスの問題,薬剤抵抗性高血圧などによって,実際には治療を受けている高血圧患者の20~30%が降圧不十分であることが明らかになっている3,4).これに対し近年,交感神経系をターゲットとした動脈圧受容体刺激装置,腎神経アブレーションが登場し,臨床治験の結果が報告されつつある.本稿ではそれらの降圧メカニズムについて,動脈圧反射の中枢弓・末梢弓を用いた開ループ解析によって考察する. -
高血圧のワクチン療法
240巻12号(2012);View Description Hide Description高血圧ワクチンを用いた臨床検討は1950 年代から行われている.最初にレニンに対するワクチンの開発が試みられたが,動物実験では腎障害が出現することが報告され,ワクチン療法開発の対象はアンジオテンシンが中心となった.最近の第Ⅱa 相臨床試験で,アンジオテンシンⅡワクチンが高血圧患者で有意な血圧低下をもたらすことが報告され,広く注目された.当教室ではアンジオテンシン1 型(AT1)受容体に対するワクチンが動物モデルにおいて有意な降圧効果を有するとともに,腎障害の発症予防にも有効であることを示唆する実験成績を得た.将来,ワクチン療法が高血圧やその他の生活習慣病の治療選択肢のひとつとなる可能性が注目される.
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連載
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- 漢方医学の進歩と最新エビデンス
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2.上部消化管疾患の漢方治療:最新のエビデンス
240巻12号(2012);View Description Hide Description六君子湯は上腹部不定愁訴に広く使われてきた漢方方剤であるが,内分泌などにも作用があり,急速に研究が進んでいる.動物実験による基礎的データから胃粘膜障害からの保護作用,胃の適応性弛緩と排出能への作用,グレリン分泌増加作用,胃食道逆流による食道粘膜細胞間隙拡大の抑制作用などが示されている.ヒトでもグレリン分泌増加作用がみられるとともに,機能性ディスペプシアや胃食道逆流症の治療への有効性も示されている.六君子湯は大建中湯とともに消化管運動に対して確実な有効性がみられる方剤であるが,その臨床的有用性を明らかにするために西洋医学的エビデンスの集積が急務と考えられる.
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フォーラム
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- 放射線被曝と遺伝学 2
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TOPICS
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- 遺伝・ゲノム学
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- 麻酔科学
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- 生化学・分子生物学
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