Volume 240,
Issue 13,
2012
-
【3月第5土曜特集】 肺癌UPDATE
-
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1015-1015 (2012);
View Description
Hide Description
-
疫学
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1019-1023 (2012);
View Description
Hide Description
肺がんの年齢調整罹患率〔人口10 万対,基準人口は昭和60 年(1985)モデル人口〕の年次推移は,男性では1975~1990 年まで急速に増加した後,増加傾向は緩やかになっているが,女性では増加傾向が続いている.年齢調整死亡率は,男性では1975 年以降1990 年代後半までは増加しているが,1990 年代後半以降は減少に転じている.一方,女性では2000 年まで増加傾向であったのが,以降は増加・減少なく安定している.生存率の年次推移については,1993~1996 年に診断された患者の5 年相対生存率が男性20.8%,女性27.1%であったのが,2000~2002 年では男性24.7%,女性39.0%と,男女ともに増加している.肺がんの予防対策としては,喫煙対策を中心とすることでの罹患率の減少と,死亡率減少効果が確認されている,肺がん検診を広く行うことが必要である.
-
予防と検診
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1027-1033 (2012);
View Description
Hide Description
肺がんはわが国のがん死亡の第1 位を占める予後不良な疾患であり,発見時に根治可能な症例は半数を下まわる.肺がん死亡率を減少させるためには,新しい肺がんの治療法の開発と同時に発がんの適切な予防を行うことがきわめて重要である.多くの疫学研究により肺がんは食道がんや口腔・頭頸部がんと並ぶ喫煙関連がんであることが明らかになっている.禁煙を10 年続けることで,継続喫煙者に比較し肺がんリスクは約30~50%低下し,以後非喫煙者のリスクとほぼ平行して推移する.実際に大規模な禁煙キャンペーンを行ったアメリカやイギリスでは近年肺がん死亡者数の減少傾向を認めている.一方,喫煙者が禁煙を行っても,永遠に非喫煙者と同等まで肺がんリスクの軽減に至らないことから,何らかの予防治療介入が必要と考えられ,ビタミンや抗炎症剤などの化学予防薬が検討された.現時点で科学的に証明された標準的化学予防薬は存在しないが,今後分子疫学解析の結果や分子標的薬剤の開発に伴い,新しい化学予防薬の開発・研究が進むと予想される.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1034-1038 (2012);
View Description
Hide Description
肺癌は全がん腫のなかで世界的にもっとも高い死因となっている.肺癌を根治するためには早期発見・早期治療を行うことが不可欠であり,肺がん検診の研究が多くなされてきた.胸部X 線と喀痰細胞診による肺がん検診は日本では普及しているが,世界的に有効性が認められた報告はない.一方で1990 年代後半から低線量CT による肺がん検診が注目され,X 線検診よりも早期肺癌の検出能が有意に高いことが示された.検診に応用するためには肺癌死亡率の低下につながる必要があるが,先行研究では有効性が示されなかった.肺がん検診に対する否定的な雰囲気が高まるなか,2010 年11 月に大規模無作為化比較試験であるNational LungScreening Tria(l NLST)trialが早期有効中止となったことが公表された.以降,肺がん検診への取組みが再活性化しており,大きな変革期を迎えようとしている.本稿では肺がん検診の経緯を振り返るとともに,今後の展望を概説したい.
-
病理
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1041-1044 (2012);
View Description
Hide Description
肺癌のWHO 分類の改訂に向けて,2011 年にIASLC/ATS/ERS 合同により肺腺癌の新分類が提案された.そのなかでは現行のWHO 分類の問題点の改善が図られて,新提案されている.具体的には,細気管支肺胞上皮癌(bronchioloalveolar carcinoma:BAC)の用語が廃止され,lepidic という表現が採用されたほか,上皮内腺癌(adenocarcinoma in situ:AIS)や微少浸潤性腺癌(minimally invasive adenocarcinoma:MIA)という予後の良好な腫瘍を規定する分類が追加された.また腺癌の組織亜型に微小乳頭状増殖(micropapillary growth)があらたに加えられている.腺癌以外でも,予後の不良な大細胞神経内分泌癌および小細胞癌を一括した神経内分泌癌という分類が提案され,現在検討されている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1045-1050 (2012);
View Description
Hide Description
がんの分子標的治療において,その治療から利益を得る患者を正確に選択すること,すなわち腫瘍組織中の標的分子を正確に同定することはきわめて重要である.肺癌におけるEML4-ALK の同定に関していえば,RT-PCR,FISH,および免疫染色などの方法があげられるが,そのそれぞれにEML4-ALK 自体の特性に起因する困難さがみられる.EML4-ALK は多くの融合点を有しており,したがってRT-PCR プライマーの設定には工夫が必要である.著者は理論的に起こりうるすべての融合バリアントを同定可能なmultiplex RT-PCR を考案した.それにより既知および5 つの未知のバリアントを同定した.従来の抗ALK 免疫染色ではEML4-ALK は同定しがたい.これを克服するため,著者は高感度抗ALK 免疫染色法(iAEP 法)を考案した.これによりEML4-ALK の簡便な検出が可能となり,さらに肺癌およびそれ以外の癌腫,肉腫,リンパ腫におけるALK融合遺伝子(KIF5B-ALK,PPFIBP1-ALK,SQSTM1-ALK)の新規同定へとつながっている.また著者らは最近,ホルマリン固定組織用に最適化された5′-RACE システムを開発し,肺癌組織でKLC1-ALK を新規同定した.ALK 阻害剤の本格的普及を目前に控えたいま,これらの検出法の特性を理解し正しく運用することが求められている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1051-1055 (2012);
View Description
Hide Description
肺の神経内分泌癌,とくに小細胞癌は,これまでは化学療法が奏効することから,肺癌化学療法の中心であった.しかし,EGFR 変異肺癌(ほとんどすべて腺癌)に対する分子標的薬の劇的な成功により,やや影が薄くなっている.しかし,あらたな知見も着実に蓄積されている.肺ではカルチノイドと神経内分泌癌とは大きなカテゴリーをつくっており,消化器の神経内分泌性腫瘍とはやや異なる分類が必要である.肺の小細胞癌は予後不良で知られているが,手術例では予後良好群もあり,遺伝子発現解析,とくにマイクロRNA の発現により予後良好群を抽出できる可能性がある.肺の小細胞癌ではKIT 蛋白が強発現しているものが少なくない.しかし,c-kit 遺伝子変異のある癌に著効するimatinib は小細胞癌には有効ではなかった.非小細胞肺癌でもASCL-1 の発現と相関する100 遺伝子が高発現する一群の腫瘍があり,それらは予後不良であったり,化学療法感受性が高い可能性があり,今後のさらなる研究が必要である.
-
肺癌の分子生物学
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1059-1065 (2012);
View Description
Hide Description
2004 年にEGFR 遺伝子変異が発見されて以降,肺癌の分子異常に関する研究は飛躍的に進んだ.さらに複数の臨床試験により,EGFR 変異肺癌に対してはEGFR キナーゼ阻害薬がもっとも効果をもたらしうる薬剤であることが明らかとなった.また,EGFR キナーゼ阻害薬開発の歴史を通して,分子標的薬で最大限の効果を得るためには対象患者を分子生物学的に限定しなければならないことも明らかとなった.肺癌の分野においては,この分子生物学的分類こそがoncogenic driver mutations に基づいた分類である.この考えに基づき臨床試験が計画されたALK 阻害薬は,分子標的の発見からわずか4 年でFDA の承認を得た.現在までに,わが国の肺腺癌の~75%においてoncogenic driver mutations が明らかとなったと推定されており,扁平上皮癌においてもあらたな報告があいついでいる.分子標的薬の飛躍的な進歩とも相まって,oncogenic drivermutations に関する研究はさらに重要性を増している.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1066-1071 (2012);
View Description
Hide Description
上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるゲフィチニブおよびエルロチニブは,EGFR 遺伝子変異を有する非小細胞肺がん(non-small-cell lung cancer:NSCLC)に奏効性が高い.しかし,奏効例もほぼ例外なく1~数年で耐性を獲得し再燃することが問題となっている.近年,EGFR-TKI に対する獲得耐性のメカニズムとして,EGFR のT790M 変異やMet の遺伝子増幅,Met のリガンドである肝細胞増殖因子HGF などが明らかにされた.また,EGFR-TKI のリチャレンジが有効な症例をしばしば経験するが,可逆的な耐性の分子機構も徐々に明らかにされるなど,本領域の研究は急速に展開されている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1072-1077 (2012);
View Description
Hide Description
がんにおける分子標的薬治療の臨床応用の進歩はめざましく,実臨床においてもバイオマーカーとリンクした分子標的薬使用の機会が増加している.非小細胞肺癌の分野ではEGFR 遺伝子変異陽性肺癌に対するEGFR-TKI による治療はすでに確立されており,さらにはEML4-ALK 融合遺伝子を有する肺癌に対して行われるALK 阻害剤による治療も非小細胞肺癌のあらたな治療戦略として注目されている.血管新生阻害薬に関するバイオマーカーではいまだ確立されたものはないものの,さまざまな候補が研究されている.将来的にはバイオマーカーを利用した個別化医療を進めるためにもバイオバンクの確立は必要である.今後はがん医療においてバイオマーカーはますます重要性が高まることが予想される.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1078-1084 (2012);
View Description
Hide Description
2007 年に著者らは,非小細胞肺癌の約3~5%の症例において2 番染色体短腕内に微小な逆位が生じた結果,微小管会合蛋白EML4 と受容体型チロシンキナーゼALK の細胞内領域とが融合した新しい活性型チロシンキナーゼEML4-ALK が産生されていることを発見した.EML4-ALK は非常に強い癌化能を有しており,EML4-ALK cDNA を導入したトランスジェニックマウスは生後数週で肺癌を形成した.さらに,同マウスにALK 阻害剤を投与したところ,肺癌は速やかに消失した.実際にEML4-ALK 陽性肺癌患者に対するALK 阻害剤(crizotinib)の臨床試験が行われ,そのめざましい治療効果が確認され,すでにアメリカでは2011 年に同阻害剤が薬剤認証を受けている.しかし,同阻害剤に対するEML4-ALK キナーゼの耐性変異も発見されており,第二世代のALK 阻害剤にも期待したい.
-
診断
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1087-1091 (2012);
View Description
Hide Description
高分解能CT 上,すりガラス状影が主体の結節影はすりガラス状結節(GGN)としてよぶのがよい.これらの病変を診断するときには,さらに結節全体がすりガラス状影のみの陰影(pure GGN)からなるか,すりガラス状影主体で一部に充実部を有する結節(mixed GGN)であるかを分けて考える.Pure GGN の場合はまず経過観察で対応できる場合が多く,一方,mixed GGN の場合は切除を含めた侵襲的なアプローチが考慮されるべきである.いずれも肺胞上皮置換型の腺癌の可能性があるが,一方で緩徐な発育を示す特徴があり,これらの特徴を考慮した取扱いが重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1092-1096 (2012);
View Description
Hide Description
MDCT の普及により肺癌の診断はきわめて進歩した.肺癌検診やスクリーニング検査でも全肺の薄いスライス厚の画像が連続的に得られるため,PACS によるモニター診断と組み合わせることで精密な画像診断が可能となっている.ルーティン検査の画像でも質の高い三次元画像が作成できるため,三次元画像の本格的な臨床応用が可能となった.とくに気管支鏡や手術におけるMPR と三次元画像による術前評価は有用性が高い.一方で検査における画像枚数の増加は読影の負担を増している.MDCT の検出器列や撮影速度短縮の進歩は一段落し,あらたな方向性としてCT の被曝低減が大きな目標となっている.各社のさまざまな工夫がみられるが,とくに逐次近似画像再構成への期待は大きく,システムモデルに基づく画像再構成には大幅な被曝低減の可能性がある.胸部画像診断の主力はCT であるが,今後は被曝低減がいままで以上に重要となり,単純には画質優先主義が通用しない時代がやってくるであろう.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1097-1101 (2012);
View Description
Hide Description
ブドウ糖の類似体のF-18 fluoro deoxy glucose(FDG)を用いるpositron emission tomography(PET)は,同時にCT 画像を撮り解剖画像(CT)と機能画像(FDG-PET)を重ね合わせることにより癌診療では必須の非侵襲的手段となっている.肺がん診療においても肺結節の良悪の診断,病期診断,治療効果判定や再発診断,予後因子などに非常に有用であり,必須の検査になっている.ただし,その限界も知っておくべきである.また,放射線治療計画にPET 画像を使う試みもなされている.さらには,FDG 以外のPET 製剤の開発も進行中である.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1102-1106 (2012);
View Description
Hide Description
近年,医用工学の発展に伴い内視鏡の診断技術はめざましく進歩し,気管支鏡分野においても数多くの新規装置が開発・実用化されてきた.画像処理技術の向上や超音波装置の導入により,従来の気管支鏡では観察不能であった気管支上皮の微細な変化や気管支壁外のリンパ節転移などもとらえられるようになった.また,レーザーや電気焼灼機器の改良により内視鏡治療の適応範囲も大きく広がった.しかしその一方で,いぜんとして肺癌患者の予後はけっして満足のいくものではなく,現在も肺癌はわが国における癌死第1 位となっている.本稿では,肺癌に対する各種内視鏡診断法の進歩と現況について概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1107-1113 (2012);
View Description
Hide Description
肺癌のTNM 病期分類は世界肺癌学会(IASLC)で改訂案が作成され,TNM 病期分類の維持改訂を行っているUICC とAJCC にそれらが送られ,承認が得られた.それぞれの団体から2009 年に新しい第7 版が刊行された.IASLC はこの改訂案をまとめるために,staging project として世界各国から10 万件以上のデータを集積してデータベースを構築し,これをもとにsimulation,validation を行って予後的にバランスのとれたT,N,M カテゴリーの策定とstage grouping を行ったのである.今回の改訂内容の特徴として,T 分類の細分化,副病変の取扱法の変更,新しいリンパ節マップの作成,stage grouping の見直しなどがあげられる.2010 年1 月より運用が開始された.
-
治療
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1117-1121 (2012);
View Description
Hide Description
肺癌の外科的切除に際しては,根治性と安全性を担保したアプローチの選択が必要である.胸腔鏡手術(thoracoscopic surgery:TS)は低侵襲なアプローチのひとつであるが,呼吸器外科領域では定義が曖昧で,さまざまなアプローチが存在している.モニター視のみで手術操作を行う手術は,complete VATS(videoassistedthoracic surgery),pure VATS,TS などとよばれ,当科では2008 年4 月からⅠ期肺癌の治療にTSを導入している.TS で行う術式は,標準治療であるリンパ節廓清を伴う肺葉切除術や,肺機能を温存できる縮小手術(部分切除,区域切除)である.術式の選択は術前の病期,薄切りCT 所見,腫瘍の局在部位で決定する.TS の長所と短所を理解することで各術式は安全に行える.当科で行っているTS の成績と問題点,また今後の展望について概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1122-1125 (2012);
View Description
Hide Description
肺癌に対する外科切除は肺全摘からはじまった.肺葉切除に移行するまでおよそ30 年かかっている.その後,同じく30 年ほどたって,肺葉切除は区域切除または楔状切除を代表とする,いわゆる縮小切除に移行できるかどうかの研究が行われた.しかし,この研究では肺葉切除の縮小切除に対する優位性が示された.この結果,縮小切除への道が閉ざされるかと思われたが,わが国を中心とした呼吸器外科医が粘り強く検討を重ねた結果,対象の選択によっては縮小切除のなかでも区域切除で肺葉切除と同等の予後が得られる可能性が示唆された.その結果,現在わが国とアメリカでほぼ同時に縮小切除,おもに区域切除の妥当性を問う第Ⅲ相試験が行われている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1126-1130 (2012);
View Description
Hide Description
臨床病期Ⅰ期の非小細胞肺癌に対する標準治療は外科治療である.しかし,日本人の平均寿命が延長した結果,高齢者肺癌が増加し,さらに低肺機能やその他の合併疾患による手術不能の肺癌も増加している.1990年代後半からこれらの手術不能または手術拒否のcT1N0M0 早期非小細胞肺癌を中心に体幹部定位放射線治療が行われ,各施設から90%を超える良好な局所制御率が報告された.一方,3 cm を超える原発性肺癌や転移性肺癌については治療法に一定の基準はなく,施設ごとに線量や分割回数が異なっている.近年,非小細胞肺癌に対する定位照射は海外でも広く行われるようになり,2012 年のNCCN ガイドラインでも5 cm までのリンパ節転移のない非小細胞肺癌に対し,定位照射も治療法のひとつとして記載されるようになっている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1131-1134 (2012);
View Description
Hide Description
肺癌の手術成績は近年向上してきている.しかし,切除可能ではあるがリンパ節転移などにより病期が進んだ症例の切除後の予後は,あまり変わっていない.そのために,手術前後の補助化学療法の開発は避けて通ることはできない.近年,新規抗がん剤の開発により,術後病期Ⅱ~Ⅲ期においてはcisplatin+vinorelbine による術後化学療法が標準治療として確立された.今後は個別化治療を通じて分子標的薬などを絡めた新しい治療法を検討することで,予後の改善を求めていく必要がある.抗がん剤の開発による術後化学療法の過去を振り返りつつ,今後の展望について述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1135-1141 (2012);
View Description
Hide Description
局所進行非小細胞肺癌の治療で中心的役割をもつのは,化学放射線治療である.化学療法との併用時期については同時併用が,併用化学療法としては第三世代抗がん剤とプラチナ併用療法である,①カルボプラチン+パクリタキセル(weekly)併用療法,②シスプラチン+ドセタキセル併用療法,③シスプラチン+ビノレルビン併用療法が推奨されている.これらの併用療法での無増悪生存期間中央値は10~14 カ月,生存期間中央値は20~28 カ月,5 年生存率は20~25%であり,向上してきてはいるが十分とはいえない.今後は,新規抗がん剤・分子標的薬との併用や照射方法の向上,それらによる照射野・照射量の検討などによりさらなる進展が期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1142-1147 (2012);
View Description
Hide Description
未治療進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対する一次化学療法は,従来のプラチナ併用療法一辺倒から分子標的薬を取り入れた個別化治療の時代へと移り変わった.まずは肺癌診断時の腫瘍サンプルを用いて,EGFR チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)のバイオマーカーであるEGFR 遺伝子変異の有無を確認する.同変異陽性例に対してはもっとも高い治療効果が期待でき,安全性やQOL 面でも勝るEGFR-TKI を一次化学療法として選択するのが国際標準となっている.同変異陰性例では血管新生阻害剤ベバシズマブの適応を確認し,全身状態良好で比較的若年の非扁平上皮癌患者では,プラチナ併用療法に本剤を上乗せする治療により高い効果が期待できる.それ以外の進行NSCLC に対しては,扁平上皮癌かどうかでペメトレキセドの適応を判断したうえで,全身状態や臓器機能の面から可能であればより効果の高いシスプラチンを用いたプラチナ併用療法が勧められる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1148-1152 (2012);
View Description
Hide Description
がん領域における分子生物学の進歩にはめざましいものがあり,進行肺癌においてもすでにバイオマーカーの検索なくして治療は成り立たなくなってきている.『肺癌診療ガイドライン』では上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異の有無により治療方針が異なっており,本稿においてもEGFR 遺伝子変異別に治療方針の記述を行う.また今後,EGFR だけでなくALK 融合遺伝子を含めた種々のバイオマーカーにより疾患のさらなる細分化が予想され,今後の肺癌診療における展望について私見を交え解説を行っていく.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1153-1158 (2012);
View Description
Hide Description
非小細胞肺癌における化学療法は,とくに手術適応のない進行期において主要な役割を占めている.振り返れば,原発性肺癌における化学療法の発展は有効性が証明された抗癌剤のあらゆる組合せを試行錯誤してきた歴史のうえに成り立っているといっても過言ではない.日進月歩の研究の結果,相加的効果を与える維持治療においてエビデンスが蓄積されつつある.近年,盛んに研究開発されている分子標的薬ではベバシズマブで,また殺細胞性抗癌剤のなかでは従来の標準的治療と比較して毒性が少ないとされるペメトレキセドで,維持治療において有効性が報告されている.主要な治療目標である全生存期間(OS)の延長が証明されているものは分子標的薬を含めたcontinuation maintenance であり,臨床応用ができるほどのコンセンサスが得られつつある.今後はこのような維持治療において,より利益が得られる患者の選択,バイオマーカーの研究が待たれる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1159-1164 (2012);
View Description
Hide Description
上皮成長因子受容体(EGFR)は,癌の増殖・進展を制御するシグナル伝達を行う膜貫通型受容体チロシンキナーゼである.EGFR チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)はEGFR の細胞内ドメインにあるチロシンキナーゼ部位においてATP の結合を競合阻害する分子標的治療薬であり,EGFR を選択的に阻害するgefitinib,erlotinib が肺癌診療において臨床導入されている.これらの薬剤はEGFR 遺伝子エクソン19 の欠失変異,エクソン21 のL858R 点突然変異などのEGFR 遺伝子変異を有する非小細胞肺癌に対して劇的な効果を示すことが報告され,EGFR-TKI はEGFR 遺伝子変異陽性患者に対するキードラッグとなっている.しかし,これらの治療を行っても10 カ月前後で治療抵抗性となることが問題となっており,T790M 変異など耐性克服に関する検討が精力的に行われている.本稿では,次世代EGFR-TKI のうち肺癌において開発が進んでいるafatinib(BIBW2992),dacomitinib(PF-299804)について概説したい.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1165-1170 (2012);
View Description
Hide Description
2007 年Soda らにより,肺癌におけるechinoderm microtubule-associated proteinlike 4(EML4)-ALK 融合遺伝子が発見され,この融合遺伝子は非常に強力な癌遺伝子であること,この遺伝子を標的としたALK 阻害薬が治療に有効である可能性が高いことが報告された.この発見からわずか数年でALK 阻害薬の開発が進み,ALK 阻害薬はEGFR 阻害薬に次ぐ,肺癌に対するあらたな個別化治療としてもっとも注目されている.アメリカではすでにALK 阻害薬であるcrizotinib が承認されており,わが国でも早期の承認が期待されている.そこで本稿では,ALK 融合遺伝子陽性肺癌の特徴や,crizotinib をはじめとした現在開発されているALK陽性肺癌に対する治療法,および今後課題となるALK 阻害薬の耐性化とその治療開発について述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1171-1178 (2012);
View Description
Hide Description
血管新生阻害剤はおもに腫瘍環境(血管新生)に対する薬剤で,EGFR 阻害剤,ALK 阻害剤など肺がんのdriver mutation に対する薬剤とはコンセプトが異なっている.しかし,この血管新生に対する薬剤開発も重要であり,臨床導入ずみのbevacizumab は標準的治療法に組み入れられている.このほか,チロシンキナーゼ阻害剤については多くの薬剤が開発中であるが,第Ⅲ相試験結果はかんばしくない.本稿では,血管新生阻害剤開発の現状と今後の開発戦略について概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1179-1184 (2012);
View Description
Hide Description
近年,がん治療のあらたな分子標的としてレセプター型チロシンキナーゼであるMET とそのリガンドである肝細胞増殖因子(HGF)が注目されるようになった.MET の活性化は下流シグナルの活性化をもたらし,細胞増殖・生存・浸潤などに関与する.MET 遺伝子増幅を有する肺癌細胞株にMET 阻害剤処理を行うと,下流シグナルの抑制と著明なアポトーシスの誘導が起こる.臨床においては肺癌の約10%前後にMET 遺伝子増幅がみられることが近年報告されており,これらのMET 遺伝子増幅を有する肺癌患者にMET 阻害剤であるクリゾチニブを使用した際,著明な抗腫瘍効果を認めたと報告されており,MET 遺伝子増幅肺癌患者へのMET阻害剤の効果が期待される.一方で,MET 遺伝子増幅やMET のリガンドであるHGF はEGFR 遺伝子変異を有する肺癌のEGFR 阻害剤の獲得耐性のメカニズムのひとつとされ,薬剤耐性の一因としてもMET シグナル経路は注目されている.本稿では肺癌におけるMET シグナル経路と現在の薬剤開発状況を概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1185-1189 (2012);
View Description
Hide Description
ここ数年,非小細胞肺がんに対する多くの新規薬剤が無作為化比較第Ⅲ相試験において有効性を示すことができず,開発を中止している.これまで通り,分子標的治療薬を中心とした新規薬剤が開発される一方で,EGFR 遺伝子変異やEML4-ALK 融合遺伝子といった腫瘍増殖の新規責任(ドライバー)変異が見出され,個別化治療が進みつつある.さらに最近,ROS1 融合遺伝子やKIF5B-RET 融合遺伝子といった肺がんにおけるドライバー変異が見出されている.今後,さらなる融合遺伝子や遺伝子変異が見出され,それらを検出する検査法が確立し,それらの遺伝子異常に対する薬剤開発が進めば,肺がんの個別化治療の拡大が期待される.本稿では現在開発中の薬剤の現状と,今後の非小細胞肺がんに対する治療開発の展望について述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1190-1195 (2012);
View Description
Hide Description
急速な高齢化社会の到来とともに肺がん患者の大半が高齢者となり,高齢者の治療法の開発が重要となっている.高齢者のサブセット解析では若年者と比較して高齢者においても治療効果は同等であるが,毒性の面で頻度と重症度が高くなる傾向がある.しかし,対象とした臨床試験に登録される高齢者と若年者とにはバイアスがあり,サブセット解析の結果が実地臨床に一般化できるかどうかは疑問である.日本やヨーロッパでは高齢者に限定した比較試験が実施され,高齢者の治療戦略が検討されている.わが国で実施したドセタキセル単剤療法に対するシスプラチン+ドセタキセル併用の毎週投与の比較ではプラチナ併用療法の優越性を示すことができず,いぜんドセタキセル単剤投与が高齢者進行非小細胞肺がんの標準治療と考えられる.高齢者は若年者と比較して個体間差が大きく,治療効果や毒性を事前に予測することが困難である.治療前評価法の確立が高齢者の治療戦略にとって急務である.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1196-1204 (2012);
View Description
Hide Description
がん治療において悪心・嘔吐は頻度が高く,患者をおおいに苦しめる症状であり,QOL(quality of life)を低下させる.適切な悪心・嘔吐のコントロールがなされないと,有効かつ安全ながん治療に影響し,予後を悪化させる可能性がある.とくにがん薬物療法に伴う悪心・嘔吐(chemotherapy-induced nausea and vomiting:CINV)の管理は最近20 年間に大きな進歩を遂げた.抗がん薬の催吐性リスクによる分類および管理法の樹立や,より安全かつ効果の高い薬剤の開発が与えた影響は大きい.わが国でも近年海外と同様の薬剤が使用可能となり,独自の適正使用ガイドラインも発表された.現在使用可能な薬剤のなかで5-HT3受容体拮抗薬,ニューロキニン-1(NK-1)受容体拮抗薬,コルチコステロイドはもっとも効果が高く,その投与法についても研究が進んでいる.一方で,悪心・嘔吐をコントロールするのが困難な患者も少数であるが存在し,今後の課題である.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1205-1209 (2012);
View Description
Hide Description
骨関連事象(skeletal related event:SRE)とは,病的骨折・骨転移巣に対する放射線照射や外科手術・脊髄圧迫に伴う症状や高Ca 血症など骨転移に起因するすべての事象を指す.肺癌患者の治療期間中のQOL 維持のため骨転移の進展を抑え,SRE を抑制することは重要な課題であり,骨転移管理の必要性が再認識されている.骨転移の分子メカニズムが解明されつつあるなか,従来のビスホスフォネート(BP)製剤に加え,抗RANKL 抗体も臨床導入され,骨転移に対する薬物療法の重要性は高まっている.本稿では骨転移に対する薬物療法についてゾレドロン酸,デノスマブを中心に概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1210-1216 (2012);
View Description
Hide Description
がん疼痛の治療には,世界保健機関(World Health Organization:WHO)が啓蒙しているように積極的にオピオイドを使用していくことが望ましい.その一方で副作用によってADL が損なわれたり,オピオイドや鎮痛補助薬でもコントロールできないがん疼痛患者がいるのも事実である.がん疼痛の治療方法の選択は癌腫によって左右されず,その病態によって選択される.鎮痛薬の全身投与だけでなく,脊髄へのオピオイド投与や神経ブロックなどで痛みを軽減できるかどうかを検討することも怠ってはならない.肺癌では呼吸苦,骨転移,胸膜浸潤,脊髄浸潤,そして腕神経叢浸潤がよくみられる.呼吸苦にはモルヒネ注射薬を使用し,痛みには他の癌と同様にあらゆるオピオイドを使用する.しかし,オピオイドや鎮痛薬の全身投与だけではコントロールできない痛みには,積極的に神経ブロックや脊髄鎮痛法などを併用してADL・QOL の回復・維持をめざさなくてはならない.本稿では,一般的ながん疼痛コントロールに加えて,ペインクリニック的治療方法について概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1217-1220 (2012);
View Description
Hide Description
小細胞肺癌は肺癌全体の13~15%を占め,そのうち30~40%が限局型(LD)に分類される.LD 小細胞肺癌では治療により約20%に長期生存が得られるため,初期治療では完治をめざすべきである.Ⅰ期小細胞肺癌に対しては外科切除に術後補助化学療法を加えるよう勧められ,それ以上の臨床病期に対しては化学放射線療法が標準である.放射線照射では早期同時併用,加速多分割照射が最良な成績であり,化学療法のレジメンとしてはこれまでにシスプラチン+エトポシド(EP)療法を超えるものはなく,有効な分子標的薬の報告もない.したがって,現在のLD 小細胞肺癌に対する標準治療は,EP 療法と早期同時併用胸部加速多分割照射(45 Gy/30 分割/1 日2 回/3 週)であると考えられている.また,初期治療により完全寛解(CR)が得られた症例に対しては,化学療法終了後できるだけ早期に25 Gy/10 回相当の予防的全脳照射(PCI)を施行することが推奨される.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1221-1225 (2012);
View Description
Hide Description
進展型小細胞肺癌は(ED-SCLC),「根治照射が不可能な小細胞肺癌」と定義される.初回化学療法に対する反応性がよいことから,全身状態が著しく低下した例を除いて化学療法の適応となることが多い.現在の標準治療は化学療法であり,全身状態や他疾患の合併症がなければ,シスプラチン,イリノテカンによる併用化学療法が行われている.また,全身状態が低下している場合や高齢者では,カルボプラチンを用いた併用療法も標準治療とみなされている.現在進行中の第Ⅲ相比較試験では,分子標的薬の上乗せ効果なども検討されており,今後の結果が待ち望まれる.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1226-1230 (2012);
View Description
Hide Description
初回化学療法後,再発・増悪を認めた小細胞肺癌(small cell lung cancer:SCLC)に対する二次化学療法の治療効果は,初回治療の終了日から再発までの期間(treatment-free interval:TFI)によって異なる.初回治療が奏効しTFI が90 日以上の場合は“sensitive relapse”,初回治療が奏効しない場合,またはTFI が90 日未満の場合は“refractory relapse”と定義される.現時点では再発・増悪SCLC 患者に対する標準化学療法は確立していない.大規模な4 つの第Ⅲ相試験の結果から,sensitive relapse に対して欧米ではノギテカン(nogitecan:NGT)単剤が標準的化学療法として,唯一,再発・増悪SCLC に対して承認された薬剤とみなされている.Refractory relapse に対して標準治療とみなせる薬剤は存在しないが,アムルビシン(amrubicin:AMR)が有望な薬剤として期待されている.
-
Source:
医学のあゆみ 240巻13号, 1231-1236 (2012);
View Description
Hide Description
小細胞肺癌の治療経過において,脳転移の発症率はきわめて高く,脳転移の発症制御と生存期間延長を目的として予防的全脳照射(PCI)が行われる.限局型(LD)および進展型(ED)ともに初回治療で完全寛解(CR)あるいはCR に近い治療効果が得られた症例に対してはPCI が推奨され,照射線量については1 回2.5 Gy×10 回の計25 Gy が標準である.ED については,部分寛解例に対してもPCI による生存期間延長を認めたとする報告がヨーロッパからなされているが,わが国においては適応は慎重に検討されるべきと著者らは考える.