医学のあゆみ
Volume 241, Issue 3, 2012
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あゆみ 消化器疾患と自然免疫―腸管免疫制御機構における自然免疫とIBD
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腸管関連リンパ組織内における共生細菌との免疫学相互作用―腸管リンパ組織内に共生するAlcaligenesの発見
241巻3号(2012);View Description Hide Description常在細菌や病原性細菌,食餌性抗原といった多種多様な異物に曝されている腸管には,粘膜免疫システムとよばれるユニークな免疫システムが存在し,有害異物に対する生体防御と,有益異物に対する寛容を同時に制御している.Peyer 板に代表される腸管関連リンパ組織(GALT)は,腸管における主要な免疫誘導組織として機能している.そこではM 細胞を介し取り込まれた抗原が,樹状細胞により捕捉・提示されることで,IgA 抗体を中心とした各種免疫応答が誘導されている.これら多彩な腸管免疫の発達・制御に腸内細菌が関与することが知られているが,腸管における免疫誘導組織であるPeyer 板での腸内細菌を介した免疫制御についてはほとんど未解明であった.本稿では,Peyer 板組織内部における腸内細菌叢の解析から明らかとなってきた,Peyer 板組織内共生における腸内細菌と宿主の相互作用を介した免疫制御について概説する. -
Paneth細胞の機能と分化制御
241巻3号(2012);View Description Hide DescriptionPaneth 細胞は小腸の陰窩底部に存在し,抗菌物質産生による自然免疫機能を有している.最近,Paneth 細胞が自然免疫機能に加え,腸管上皮幹細胞ニッシェ機能を有していることがわかった.Paneth 細胞はWntligand,Notch ligand,EGF などの腸管上皮幹細胞の自己複製制御因子を産生している,腸管上皮幹細胞の幹細胞維持に重要な細胞である.したがって,Paneth 細胞は腸管陰窩を腸内細菌より防御するとともに,腸管上皮幹細胞の増殖因子を発現することにより小腸陰窩の守護神となっている.Paneth 細胞の機能障害と病態の相関は長い間不明であったが,Crohn 病ではPaneth 細胞の遺伝子異常とともに自然免疫機能が低下していることがわかり,病態への関与が示唆された.本稿では,Paneth 細胞の分化機構とその機能について概説したい. -
NOD2変異からみたCrohn病の発症機序
241巻3号(2012);View Description Hide Description腸管粘膜は腸内細菌にたえず曝露されているが,健常な腸管粘膜は自己の腸内細菌に対して免疫反応を引き起こすことなく,腸管免疫の恒常性を維持している.腸内細菌に対する過剰な免疫反応は,Crohn 病や潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患を惹起することが明らかになっている.近年のゲノムワイド相関関連解析により,炎症性腸疾患の感受性遺伝子が続々と同定されている.興味深いことに,Crohn 病感受性遺伝子のなかには自然免疫関連分子が含まれており,腸内細菌に対する免疫異常がCrohn 病の病態形成に中心的な役割を果たすという考え方が,疾患感受性遺伝子の解析結果からも改めて支持されている.Crohn 病感受性遺伝子として同定されたnucleotide binding oligomerization domain 2(NOD2)は,腸内細菌由来抗原に対する細胞内受容体として機能している.NOD2 変異の存在下におけるCrohn 病の発症機序の解明は,病態の解明のみならず新規治療法の開発につながる可能性がある.NOD2 変異の存在下におけるCrohn 病の発症機序に関して,さまざまな観点から解明が進められている. -
腸管マクロファージ:Crohn病原因説
241巻3号(2012);View Description Hide Descriptionマクロファージ(MΦ),樹状細胞(DC)などの抗原提示細胞は病原細菌の認識,感染防御などに重要な役割を果たす細胞である.消化管はつねに外界と面している特殊な臓器であり,常在細菌や食事抗原に対する免疫寛容誘導による免疫恒常性の維持,病原性細菌に対する炎症性免疫誘導による感染防御という,相反する免疫反応を巧みに制御している.近年,この正と負の免疫応答を制御するシステムとして多様な機能をもつMΦ,DC があいついで同定された.正常腸管粘膜ではおもに腸管MΦが抗炎症性の免疫反応,DC が炎症性免疫誘導に関与していることが示唆され,両者の絶妙なバランスで免疫恒常性を維持している.一方で炎症性腸疾患,とくにCrohn 病ではこのバランスが破綻し,腸内細菌に過剰応答する炎症性の腸管MΦが異常分化・増殖し,インターロイキン23 や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α:TNF-α)などの産生を介してT 細胞,NK 細胞を活性化し,腸管炎症を惹起していることが明らかとなってきた.本稿では近年飛躍的に進歩を遂げている腸管MΦの解析,Crohn 病病態への関与について概説する. -
自然免疫と腸炎関連大腸癌発生メカニズム
241巻3号(2012);View Description Hide Description腸炎の発症には自然免疫系が大きく関与しており,さらに腸炎関連大腸癌にも重要な役割を果たすと報告されている.自然免疫をつかさどる分子のなかで,TLR4 やIKKβが炎症発癌を促進する働きを有する一方,TLR2 やMyD88 は逆に発癌を抑制する働きを有するとされ,自然免疫と炎症発癌の関係は非常に複雑である.著者らはTLR からのシグナルを伝達するMAP3K であるASK1 のノックアウトマウスを用いて大腸炎症発癌モデルの解析を行い,ASK1-p38 経路が自然免疫系の制御を介して炎症発癌を抑制する働きを有することを明らかにした. -
腸管粘膜面における上皮バリア構築メカニズム
241巻3号(2012);View Description Hide Description腸管粘膜の最前線に位置する腸管上皮細胞は,栄養素などの吸収だけでなく,外来異物に対するバリア機能をも担っているが,その制御の仕組みについてはわかっていない.著者らは,adaptor protein 1B(AP-1B 複合体)によるサイトカイン受容体の生体内側細胞膜への輸送が腸上皮バリア機能の形成に必須な役割を果たしていることを明らかにした.AP-1B の欠損は,上皮バリア機能の低下を招くことによって慢性大腸炎を誘発する.ヒトの腸管には無数の腸内細菌が共生しており,消化を免れた食物成分を発酵分解し,短鎖脂肪酸に代表されるさまざまな代謝物を産生するが,そのひとつである酢酸には上皮バリア機能を高める作用があることもわかってきた.このように腸管粘膜における上皮バリア機能は生体内シグナルと外的な環境因子の双方により調節されていることが判明した. -
腸内細菌と自然免疫からヘルパーT細胞の分化
241巻3号(2012);View Description Hide Description腸管内腔には数百種類,100 兆個ほどの常在細菌が生息し,宿主と相互作用しながら共生している.腸内細菌は宿主免疫系の形成・成熟に重要な役割を担っていることが明らかになっている.一方で,腸内細菌叢の異常がさまざまな疾患と関連していることも示唆されている.炎症性腸疾患の患者では腸内細菌叢の多様性の消失,ある種の細菌の増加が報告されている.そのため腸内細菌の全体としての役割とともに,個々の腸内細菌が宿主免疫系に与える影響について解明していく必要がある.近年著者らは,腸内細菌の一種であるセグメント細菌(SFB)が小腸Th17 細胞を誘導し,経口的に侵入してきた病原体の感染防御に寄与していること,Clostridium 属細菌が大腸のIL-10 産生Treg 細胞を誘導し,腸管炎症の制御に貢献していることを明らかにしてきた.本稿では腸管細菌と疾患とのかかわり,腸内細菌によるTh17 細胞とTreg 細胞の誘導機構について,自然免疫細胞を含めながら紹介する.
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連載
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- 漢方医学の進歩と最新エビデンス 4
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慢性肝疾患の漢方治療:最新のエビデンス
241巻3号(2012);View Description Hide Description小柴胡湯による間質性肺炎の死亡例が報告され,その使用量は激減し,わが国の慢性肝疾患における漢方治療のあり方が大きく変化した.一方,ウイルス性慢性肝炎の治療における抗ウイルス薬の開発はめざましく,現在B 型,C 型慢性肝炎では抗ウイルス療法が標準治療となっている.このため,わが国の慢性肝疾患における漢方治療は,抗ウイルス療法の無効例,非適応例など難治性の慢性肝炎に対する肝庇護・抗炎症療法が主流となっている.しかし最近,小柴胡湯などの柴胡剤や十全大補湯などの補剤による肝線維化抑制作用や発癌抑制作用が確認されている.清熱利湿剤である茵蒿湯も抗炎症作用に加え,抗線維化作用が示唆されている.肝硬変に伴う腹水,肝性脳症,こむら返りなどの合併症の改善に対しても漢方治療の有効性が示されている.また,抗ウイルス療法による貧血の軽減など,サポート療法としての効果も報告されている.今後は,随証治療に基づいたエビデンスの蓄積が重要である.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 4
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- 放射線被曝と遺伝学 3
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TOPICS
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- 循環器内科学
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- 腎臓内科学
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- 麻酔科学
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