医学のあゆみ
Volume 241, Issue 9, 2012
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【6月第1土曜特集】 摂食障害Update―研究と診療の最前線
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摂食中枢について
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害は,生命維持の根幹である脳内摂食調節機構に異常をきたした状態である.その障害はホメオスタシス維持のための基本的な生理機能の調節だけでなく,情動調節,認知・行動調節,さらには社会機能に至るさまざまなレベルに影響を及ぼしている.古典的には,視床下部外側野を“摂食中枢”,視床下部腹内側核を“満腹中枢”とよんでいたが,弓状核,室傍核,視交叉上核など他の視床下部亜核も摂食調節に深くかかわっていることが明らかになり,さらにエネルギー代謝に依存しない報酬学習や嗜好性,情動に依存する摂食調節機構も存在する.また,種々の社会的影響も摂食調節に大きく影響を及ぼすことが明らかになっている.ここでは摂食中枢を広義にとらえ,エネルギー代謝を基盤とする視床下部の基本的摂食調節機構とともに,情動性調節を担う大脳辺縁系の扁桃体,報酬学習・嗜好性に依存した制御にかかわる大脳基底核,他者とのかかわりやさまざまな心的機能にかかわる摂食調節を営む前頭前野も含めた中枢性摂食調節ネットワークについて概説し,多彩な症状・背景を示す摂食障害のよりよい理解の一助とする. -
摂食障害の遺伝子研究―現状と課題
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害は大きく分けて神経性食欲不振症(AN)と神経性過食症(BN),ならびに特定不能の摂食障害(EDNOS)に分類されるが,本稿ではAN とBN に関して,現在までに明らかになった遺伝子研究結果ならびに今後の課題を概説する.家族内集積研究や双生児研究により,AN とBN がまったく異なる摂食障害ではなく,遺伝的要因として共通したあるいはオーバーラップした摂食障害のひとつであることが示唆された.欧米では罹患同胞対連鎖解析から1 番,3 番,4 番染色体にAN と,第10 染色体にBN と連鎖する領域が認められ,現在解析が進められている.一方,セロトニンをはじめ,種々の神経伝達物質や摂食・体重調節あるいはエネルギー消費関連ペプチドなどを対象に,候補遺伝子法による解析が数多くなされてきたが,サンプルサイズや検出力の問題から確定にまで至っていない.最近では,ゲノムワイド相関研究(GWAS)が感受性遺伝子同定の有力な手段として取り組まれはじめている.摂食障害は生物-心理-社会的因子の相互作用による多因子疾患であり,各因子が複雑に関与している.遺伝子-環境交互作用(G×E)の観点から,5-HT2A 受容体遺伝子と環境要因との交互作用が明らかにされつつあるように,遺伝子研究にはこうしたあらたな視点が求められている. -
摂食障害の神経内分泌・代謝に関する研究
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害は大きく分類すると,著しいるいそうを呈する神経性食欲不振症(AN)と,体重は標準の範疇にある神経性大食症(BN)に分けられる.神経内分泌・代謝に関する因子の変化の多くは飢餓や食行動異常による二次的変動であるが,その変動は食欲や高次中枢機能に影響する.本稿ではこれらの因子について,大きく3項目に分類して述べる.①気分・不安・報酬系:病前の性格,記憶などに関与する因子としてセロトニン(5-HT)受容体,COMT(catechol-o-methyltransferase)などの遺伝的多型性とAN の発症との関連が報告されている.②食欲の制御:ストレスとの関連で,食欲低下の作用があるCRF(corticotropin-releasing factor)の産生亢進や脳内ヒスタミン神経系の活性化が報告されている.レプチンやグレリンなどの摂食関連ペプチドの変化は,多くは食欲増進に傾いているが,AN のやせを追求する心理機制が神経ペプチドの効果を凌駕している.さらに,AN では飢餓が慢性化しており,これらの因子の影響は複雑である.③代謝:著者らはAN 患者における臨床研究で,BM(I body mass index)が12~13 kg/m2以上では,飢餓時のエネルギーの消費は脂肪分解に,それ以下では生体の維持に必要な蛋白質の異化が中心となっている可能性を報告した.さらに,実際にやせが進行して除脂肪量が減少するほど低血糖や歩行困難など身体的要因による緊急入院のリスクが増加することを報告している. -
摂食障害の脳画像研究
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害は,神経性無食欲症(AN)と神経性大食症(BN)に大別される.古くからAN 患者の全般的な脳萎縮が指摘されていたが,極度のやせによる二次的な所見と考えられていた.近年,機能的magnetic resonanceimaging(MRI)やpositron emission tomography(PET)といった脳神経画像技術の進歩により,さまざまな精神疾患の脳病態解明が進んでいる.摂食障害においてもこれら手法を用いて,微細な脳の構造異常や機能異常,神経伝達物質関連の異常など,特異的な知見が得られつつある.本稿では,MRI を用いた高精度な脳体積分析による局在的構造異常の報告をはじめ,“食”や“体型”など摂食障害に特徴的な症状に関連する脳機能的な処理異常の報告,思考柔軟性の低下と嗜癖行動との共通性に着目した報酬系機能異常に関する脳画像研究,セロトニンやドパミンといった神経伝達物質の関与を検討したPET 研究,摂食障害回復後におけるさまざまな脳機能異常の追跡検討など,最近の知見を概観し,著者らの関連研究も簡潔に紹介する. -
摂食障害と認知機能―病態解明と有効な治療法への第一歩
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害ではボディイメージの歪みや自己の否定的認知など,さまざまな認知の問題が認められている.近年さまざまな刺激課題を設定し,課題遂行中の脳活動をみる賦活脳画像研究が多く行われるようになった.とくに摂食障害の臨床像との関連から,身体認知や食物認知に関連して課題を設定し反応性をみる研究が盛んに行われているので,それを概説する.著者らも摂食障害の身体認知の問題に注目し,ボディイメージに関する言語,視覚刺激により脳の反応性がどう変わるかをfMRI によって測定した.摂食障害の病型によって脳の反応性が異なることが示唆されたので紹介する.また,認知に働きかける治療である認知行動療法(CBT)は,摂食障害治療において唯一有効性が認められている治療である.著者らはそれを取り入れたグループ療法を行っており,その概要を示す. -
摂食障害と自律神経機能
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害,とくに低体重を伴う神経性食欲不振症(AN)では,心拍変動を中心とした自律神経機能の検討が行われてきた.心拍変動の周波数解析を用いたこれまでの研究では,副交感神経機能の亢進および交感神経機能の低下が報告されることが多いが,かならずしも結果が一致していない.また,非線形解析を用いた研究ではフラクタル指数の低下が報告されている.副交感神経機能の亢進は心疾患の予後良好因子であるが,交感神経機能低下やフラクタル指数低下は予後不良因子であり,AN の突然死などによる死亡率の高さと関連している可能性がある.ただし,摂食障害の非均一性とも関連すると思われるが,研究ごとに結果が違うこともあり,今後,さらなる検討が必要である. -
摂食障害の疫学
241巻9号(2012);View Description Hide Description厚生省特定疾患「中枢性摂食異常調査研究班」が1980~1998 年に行ってきた,全国の病院および学生を対象とした摂食障害の疫学調査を教材に,疫学調査実施時の注意事項(①母集団の特性,②サンプルサイズ,③調査方法,④回答率,⑤診断基準,⑥実施時期)を解説した.さらに,著者が京都で行っている最近の知見を紹介した.摂食障害の半数以上は,厚生省研究班の調査対象外の診療所を受診しているため,摂食障害の患者数は現在報告されている倍以上存在すると思われる.20 年間の学生対象の疫学調査の結果,欧米と異なり,日本では患者数はなお増加している.また,欧米に比べ日本をはじめアジアに多い,肥満恐怖や身体イメージ障害のない非典型的神経性食欲不振症(AN)の45 年間の時代的変化を検討した結果,日本では近年,典型的AN が著しく増加しているため,非典型的AN の割合は減少していた.摂食障害は90%以上が10~20 代の女性であるが,若年発症や結婚後の発症も増加している. - 診療
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子どもの摂食障害
241巻9号(2012);View Description Hide Description現代社会のストレスとスリム志向を背景に,子どもの摂食障害が増えている.子どもの摂食障害は偏食から拒食や過食まで幅広いが,深刻な問題となるのは食事量が減り,ガリガリにやせる神経性食欲不振症(AN)である.AN では一家団欒の食卓が親子の戦場に変わる.たかがダイエットとみくびる子も親も,治りやすい病初期には受診しない.やせて難治性のとりかえしのつかない状態になり受診するが,一般病院はお手あげである.子どもの摂食障害の有効な治療は予防・早期発見に尽きる.学校現場と小児科医用に成長曲線と徐脈を組み合わせた早期発見法を開発した.児童期のAN は育ち盛りの脳と心身にダメージを与える.長引くほど若年死,成長障害,不妊症,精神障害,骨粗鬆症のリスクは高まり,家族と次世代にも深刻な影響を与える.治療の基本は,全人的ケアにより子どもを異化作用から健康な同化作用に導き,健康な発達軌道に戻し自己肯定感を育みなおすこと.子どもが主体的に治療に参加し,安静臥床と栄養摂取に取り組むよう促す.冷たい手や徐脈,萎縮した脳の画像などを示し,身体破壊の自覚を促す.喜怒哀楽の感情がよみがえり,自分には見捨てられる不安があることに気づき,母親に甘え直し,治癒する子もいる.父母関係の改善はどの子にも安心と自我機能の促進をもたらす.言葉にならない生きづらさを抱えながら発症する子どもと家族を守るため,多職種の大人の一枚岩の連帯が有効である. -
摂食障害と発達障害
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害にはさまざまな精神疾患が合併するが,近年,発達障害,とくにアスペルガー障害や高機能自閉症の合併が注目されるようになっている.摂食障害患者における発達障害の合併率は10~20%程度といわれているが,両者の類似性・関連性が注目されている.臨床症状として摂食障害と発達障害は食物へのこだわりが共通することが以前から指摘されていたが,近年は神経心理学的な観点から,発達障害に認められる心の理論,実行機能,中枢性統合の問題が摂食障害でも共通して認められることが指摘されている.このような観点から,両者が共通した神経精神発達障害である可能性も論じられている.合併例の治療では,療育的な視点を取り入れるなど発達障害の特性を考慮することが必要である.また,心理的葛藤モデルから生来的な神経生物学的モデルを取り入れた,より包括的な治療姿勢が治療者に求められる. -
摂食障害の身体的治療
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害の身体的治療の目的は救命,合併症や後遺症の予防と治療,精神療法の障害となる飢餓に伴う精神症状の改善である.緊急入院の適応は全身衰弱,重篤な合併症(低血糖性昏睡,腎不全,電解質異常,横紋筋融解症,不整脈など),標準体重の55%以下のやせである.神経性食欲不振症(AN)患者は体重増加を容易には受け入れないので,体重増加による利点を自覚させるような動機づけがもっとも重要である.強引な栄養療法の導入や急激な体重増加は治療関係を悪化させる.摂食障害特有の食のこだわりに配慮した栄養指導がされるべきである.低栄養に伴う消化器症状が強い場合は経静脈性高カロリー栄養法も積極的に導入されるが,Refeeding 症候群など留意すべき点がある.グレリンは,治療意欲のある患者では摂食量の増加作用を有する.低身長,骨粗鬆症,遷延する無月経,歯の喪失は後遺症になりうる.複数回の入院を繰り返さざるをえない慢性遷延化した低体重患者で,在宅中心静脈栄養法を導入してQOL を上げている. -
摂食障害の薬物療法
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害の薬物療法の目的は,①神経性食思不振症(AN)に対しては摂食量を増加させ,体重を正常範囲に回復すること,神経性過食症(BN)に対しては過食のエピソードをなくすこと,②併存する精神障害に対する治療,③不眠,不安,抑うつ気分,胃重感,消化・吸収機能の低下などの随伴症状に対する対症療法,④治療関係を促進して精神療法への導入をはかる,などである.現在のところ薬物療法だけで治癒に至らしめるような薬物は存在せず,薬物は他の治療法を容易にすることや,その効果を高めることにより本症からの回復に有効な手段となりうる補助療法として位置づけられている.したがって,薬物が一時的に症状を改善しても,それだけでは不十分ですぐに再発し,心理社会的治療が必須となる. -
摂食障害の認知行動療法
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害に対する認知行動療法(CBT)は,過食や食事制限,排出行動など食行動の問題が維持される過程を,症状維持に関与する非適応的な考え方,感情,行動,生理機能と環境因子の相互作用を分析し,事例定式化(フォーミュレーション)を用いて,体型や体重に関する特有のとらえ方や考え方を修正し,よりよい方向に変化を促す,期間限定,構造化された心理療法である.過食症に対するCBT は,大規模な無作為割付け比較対照試験に基づく臨床研究により,これまで効果が検証されてきた.イギリスの精神医療に関する治療ガイドライン,NICE のガイドラインでは,治療のエビデンスは過食症に対してはもっとも推奨される心理療法のひとつであり,プライマリケアにおいてはセルフヘルプの低強度CBT が推奨される.本稿では摂食障害,とくに過食症に対するCBT の発展と展望を記した.CBT モデルを,モーズレイモデルを中心に紹介し,エビデンスに基づく過食症に対するガイドを用いたセルフヘルプCBT の実際について具体的に概説した. -
摂食障害の対人関係療法(IPT)
241巻9号(2012);View Description Hide Descriptionエビデンスベイストな精神療法として認知行動療法(CBT)と双璧をなす対人関係療法(IPT)は,期間限定の精神療法である.当初は成人うつ病外来患者を対象として開発され,後にさまざまな対象やさまざまな障害向けに修正され,適用されてきた.グループ療法も開発されている.神経性大食症(BN)およびむちゃ食い障害(BED)に対しては長期的なエビデンスが示されており,治療終結後も効果が伸び続けるところに特徴がある.日本のパイロット研究でも国際的なデータと同様の結果が得られている.実際の治療においては,症状そのものを変えようとすることはなく,症状をストレスマーカーとして位置づけ,症状の維持因子である現在進行中の対人関係問題に焦点を当て,戦略的な治療を進めていく.食症状ではなく対人関係に焦点を当てるため,摂食障害患者に多い併存障害である気分障害や不安障害にも同時に効果を発揮することが示されている.神経性無食欲症(AN)に対しては他の治療法と同じく,大規模研究によるエビデンスはいまだにないが,AN の発症プロセスは対人関係療法の主要問題領域のひとつである“役割の変化”であることが多く,実際の臨床では数多くの例に有効である. -
摂食障害と問題行動
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害は単一症候的とは限らず,過剰服薬,アルコール依存,買物依存,性的逸脱,リストカット,自殺企図など,さまざまな問題行動を伴うことも少なくない.また,万引きの問題も治療上避けて通れない重要なテーマである.摂食障害の患者数の増加とともに,裁判例もめだつようになっている.治療者はこの問題について認識を深める必要がある.万引きは摂食障害による食行動の異常や独特の心性と結びついており,特殊である.万引きの対象は食品が圧倒的に多く,摂食障害との関連が明らかな例がほとんどである.食物だけでなく高価な品物を盗む者もいる.万引きを繰り返す例も少なくなく,万引きの問題は治療者をもっとも悩ませる問題である.治療にあたってはこれらの問題行動についての理解が欠かせない.治療は本人のみでなく家族療法が重要である.問題行動のほうに目が向きがちであるが,問題行動の背景にある本人の心理状態を家族や周囲が正しく理解し,適切な対応の方法を学ぶことが問題行動の軽減に有効であることを強調したい. -
働く女性の摂食障害
241巻9号(2012);View Description Hide Description女性の就業率が年々増加している昨今,働く女性の摂食障害患者が増加している.著者らの行った調査では,医療機関受診中の摂食障害(ED)患者の30.5%が就労していることが示された.医療機関に未受診の患者を含めると職場には多くの患者がいると考えられたが,職場側のED への対応はいまだ十分進んでいないのが現状である.職業性ストレスは,ED 患者の食行動異常や合併する気分障害などの重要なリスク因子である.治療者は患者の仕事環境や就労状況に注意を払い,仕事のストレスが症状にどのように影響しているか見極める必要がある.患者の抱える仕事上のストレスはさまざまであるが,全体として職場の上司や同僚などからのサポートが少ないと感じ,職場内で孤立する傾向がある.職場はED に対する理解を深め,患者の早期発見に努め,就労中の患者については本人の了承のもと主治医と情報を共有するなど連携し,必要な就業環境の調整を行うことで患者の支援を行うことが求められる. -
慢性化した摂食障害のリハビリテーション
241巻9号(2012);View Description Hide Description慢性化した摂食障害患者は異常食行動とそれに伴う身体的精神問題である一次障害のほか,それらが長きにわたって続くことで引き起こされる社会性や生活能力の低下など,二次障害としての問題を抱えている.これらの改善を目標に,地域のリハビリテーション施設を設定して食行動改善や疾患教育などを行い,知識の獲得とスキルの向上をめざすプログラムを実施した.その結果,継続利用する患者に自己誘発嘔吐減少や体重増加がみられ,病状の改善が認められた.したがって,慢性化した摂食障害患者にはリハビリテーションが有効であると思われた. -
摂食障害の治療ネットワーク
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害(ED)には種々の身体・精神合併症がみられ,専門医療施設が確立していない現状では個々の病態(身体的危機状態,精神的危機状態など)によって担当する診療科が変わりうるため,さまざまな科にわたる治療連携の重要性は高い.専門医(ED 診療経験豊富な医師)の間でもその病態によってたがいに紹介しあう可能性があり,非専門医だけでなく,専門医間での連携も必要である.ED 治療の問題点としては,ED 治療者の絶対数の不足,ED の治療にかかる時間や労力のわりには報酬の低いこと,ED 治療者の疲弊,ED の専門的治療施設の必要性などがあげられる.救急医と専門医の連携や,非専門医へのED についての啓発,内科医や精神科医が専門医と相談しながらED 診療ができるための連携など,今後ED のさまざまな治療連携構築が必要である. -
摂食障害が“治る”とは?―摂食障害の経過と予後
241巻9号(2012);View Description Hide Description摂食障害には心身両面に多彩な症状があり,これらが同時に回復するわけではない.神経性無食欲症(AN)の長期予後研究をみると,発症時に入院を要した比較的重症の群では,体重と月経の回復に数年を要することが珍しくない.また,体型や食へのこだわりなどの心理面は,身体の回復の後,徐々に回復する.体重が回復すると治療から離れがちであるが,患者は体重回復後もさまざまな不安を抱え,再発の危険もあるため,完全回復までの間の適切な援助が望まれる.AN は死亡例もあることは知られているが,発症早期には一般人口の10 倍以上,長期的にも数倍の死亡率を示す研究が多い.長期にわたり生命予後にも細心の注意を払う必要がある.過食症(BN)についても長期経過をみると約半数は回復するが,1~2 割は長期化することが示されている.BN による死亡はAN より少ないとする報告が多いが,併存するうつ病やアルコール乱用に関連した死亡例は少なくない.BN についても食行動が回復した後も食や体型へのこだわりは残りがちであり,心理面にも適切な援助が必要である.
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